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空のキオク─ Look up at the blue sky with you ─

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投稿 by ジェイホープ Sun Jul 03, 2016 9:46 am

第29章



一族の猫の中にようやく音が帰ってきた。

ざわめきが静かに猫達の中を掠める中で、行方を見守っているようだった。

「何故知ってるの」

嗚咽が漏れた。大粒の涙が朝日にキラリと照らされて銀色に光った。

「私が全てを見てきたからです」

ブルースターの目には悲しみ以外浮かんでいなかった。

否、ハッとしたような決意の色も。

「ごめんなさい。ずっとずっと謝りたかった。ごめんなさい。」

それに想いが詰まってることはわかっている。

___やっと言うつもりになれましたか?


ずっと、私に言いたかったんでしょう?


私は、今貴方に何を言われても許せないかも知れないよ。




「ごめんなさい」

泣き崩れるブルースターの顔には、彼女らしい色が映っていた。

「許してもらえるなんて思っていない。私は許してもらって逃げることなんてしたくない。

ずっとそれが言いたかった。


私が悪いの。謝りたかったの。
自分の思いを貴方が、知っていてくれればそれだけでいいと。どんなに、怨み憎まれてもしかたがないけれど、私は貴方が大好きだって。もう一度だけチャンスをくれるなら守らせてって。

____言いたかったの


ごめんなさい。一族の前で言い出せなかった。

私はやっぱり弱かった。

貴方はずっと私が本当の気持ちを話してくれるのを待ってたんでしょう?

だから、私がさっきただ平然と言い放った時失望した。


そうでしょう?


貴方は私を___こんな事をした卑怯な私を___許そうとしてくれたのに。信じようとしてくれたのに。」


駄目だな。弱いんだよねこういうの。
本当嫌だよ…そうやってつたえられたら…もう恨めないじゃん


目頭が熱くなるのを抑えられない。






嗚呼やっと…やっと…私は貴女を許せるね。
___ありがとうブルースター。


涙が頬を伝った。

母のように優しいあなたの瞳がいつだって好きだった。
保育部屋に来ては私に優しく笑いかけてくれる姿がずっとずっと好きだった。

私は貴方が大好きよ…

静かに涙を零しながら私は自分の運命を悔いていた。

もうん二つ私には仕事が残っていますね。

「もう1人の犯人の罪を此処で暴きましょう」

一族がざわめいた。

犯人は貴方だけではない。寧ろもう1匹の方が罪は重いんじゃないかしら。

悪魔がにんまりと微笑んだのがわかる。

けれど、私は自分を卑下してそれでは終わらないわ。

私は変わるの。
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投稿 by ジェイホープ Sun Jul 03, 2016 9:48 am

ちくわ猫 wrote:そ、そういうことだったのですね!(驚きのちくわ!
まさかティスルクローがそんな風に登場するなんて、思いもよりませんでした。
ドキドキしながら待っています!

またまたコメありです!!驚きのちくわちゃん可愛い(
てぃするくろー出しましたよw!誰を使うか迷ったのですが結局彼でw
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投稿 by ヘザーストーム Sun Jul 03, 2016 9:50 am

もうひとりの犯人…誰か気になります!
更新頑張ってください!

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投稿 by ジェイホープ Sun Jul 03, 2016 9:54 am

ヘザーストーム wrote:もうひとりの犯人…誰か気になります!
更新頑張ってください!

コメありです!!もう1人の犯人は意外な猫なんですよねこれは(
次の章で明かされます(
更新頑張ります( *˙ω˙*)و グッ!
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投稿 by ティアーミスト Sat Jul 09, 2016 7:24 pm

希望さんっ!おひさしぶりです(*≧∀≦*)  コメ失礼します…

希望さんのどこか切なさを感じる文、そして解けていく謎にもう目がはなせません。スカイフラワーはだんだん自分らしさを取り戻
していっていますね。

主人公の心情がいきいきとしているので、私はもうすっかり彼女のとりこです(*´ω`pq゛

自分の運命を切り開いていくスカイフラワー、結末はどうなるの?!と気になって仕方ありません笑

執筆がんばです!ぎゅーっ!(
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投稿 by ジェイホープ Sun Jul 10, 2016 5:49 am

ティアーミスト wrote:希望さんっ!おひさしぶりです(*≧∀≦*)  コメ失礼します…

希望さんのどこか切なさを感じる文、そして解けていく謎にもう目がはなせません。スカイフラワーはだんだん自分らしさを取り戻
していっていますね。

主人公の心情がいきいきとしているので、私はもうすっかり彼女のとりこです(*´ω`pq゛

自分の運命を切り開いていくスカイフラワー、結末はどうなるの?!と気になって仕方ありません笑

執筆がんばです!ぎゅーっ!(

!!!!!!ティアー姉さん…!ティアー姉さんんん!!!!!
お久しぶりです( *´꒳`*)お元気でしたか?w

それからコメありがとうございます!もう嬉しすぎて天まで吹っ飛んでっちゃいそうなのです(*>`ω´<*)
お褒めの言葉…ありがとうございます。
そら(スカイポー)ちゃんの虜 とは…!良かった…w

余談ですがティアー姉さん今年は受験生ですものね、忙しいでしょうけれど頑張ってください!!
差し入れ片手に飛んでいきます└(└ 'ω')┘!!ギュオオオオオオン!!!!
むっぎゅううううううううう!!!!
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投稿 by ジェイホープ Sun Jul 31, 2016 5:23 pm

第30章




「ティスルクロー?」

ダストポーが遠慮がちに尋ねた。

「違う。彼はブルースターを脅して私の家族を殺した後、何処かへ消えた」

「もう1匹の犯人は今此処で喋る猫よ」

ブルースターに驚きの表情が広がった。聡い族長はもう気づいている。
首を捻る猫達に私は言った。

____さぁ僕の罪を裁く時がやっと来た…ロンリースカイ?私は私の首を己で絞めるの…嬉しい?

「私よ」

放たれた一言に一瞬首を傾げた一族に動揺の色が浮んだ。さわさわと揺れるシダの葉だけが無表情
舞い踊る。私を見つめる瞳はそれと反対で恐ろしい程に感情があった。

「まさか、お前が」

ギュッと目を瞑り懸命に状況を理解しようとするその姿が可笑しくて私の頬が緩んだ。
ロングテイルは相当動揺している。元々臆病な彼だから恐怖でいっぱいなのだろう。

「そう、私よ

私は家族の暗殺事件の被害者でも、加害者でもあるの。
私は、私が生まれた時から今までに死んだ全ての戦士を殺したも同然なのだから。」


目敏く「同然」と言うのを聞き取り、グレーストライプが問うた。灰色の尾を落ち着かなげに弄りそわそわと振っては体に引き寄せる。
声は冷静でも、何故かバツが悪そうに耳を曲げていた。

「じゃあ君が殺した訳じゃないんだね」

私は頷いた。

もう一族に驚きなんて消え失せていた。
私の話に度肝を抜かれ、ただ事実に呆然とするしかないもの。

「私は《魔ノ目》。もう気づいた方もいるかも知れませんね。私は能力を持って生まれました。言い伝え通り。恐ろしい力を」

伝説を思い出して私は思わず鉤爪に力を込めた。一族はサッと身体をこわばらせて身震いした。恐れているものもいれば、興味津々のものもいるだろう。

「それは、今までに起こった全部の事を見れる能力か?」

ブルースターと話した時、「全てを見てきた」と言ったのをホワイトストームは覚えていたらしい。聡明な彼らしい。私の言葉を一つ一つ受け止めて慎重に情報を整理している。

「違うわ。未来を視る能力よ。全てを見てきた事については今はまだ話せない。
私は全ての未来を覗けた。命の誕生も、消滅も。見えない右目が、断片的に未来を教えてくれた。幼い頃からの事だった。」

ふと吐息をつけば畏怖が私を刺した。私は能力を持っている素振りを見せなかったから、そろそろ皆安心している部分があったのかもしれない。伝説はただの嘘で私ははただの猫だとおもっていたのかも。だから改めて能力が恐ろしいのかな。

そんな事を思って私は少し寂しくなった。私はこの一族を1度だって恨んだことなんて無かったのに。破滅へ導こうなんて思わなかったのにな…


「私は、沢山の戦士が戦いに倒れる事を見ていた。誰が死ぬか、何処で死ぬか、何日死ぬのか。右目にその瞬間が映し出されて、わかった。
死を知っていて、私は死を止めなかった」

ファイヤハートにハッとした表情が浮かんだ。
何時か、ライオンハートの事でそう語ったのを思い出したのだ。
一族にも理解の色が浮かぶ。これで、私が犯人だと言う理由がわかったらしい。

「と、言うより私は死を止められなかった」

だがそう言うと、全員の目の色が変わった。
また謎が増えたと言わんばかりに顔を顰めて、私を責める。

「どういうことよ?」

スペックルテイルがつとめて冷静になって聞いた。

「貴方は、誰が何処で死ぬか知っていてやろうと思えばそいつが死なないようにする事もできたのにやらなかった。助けなかった。つまり、自分が殺した。そう言ってるんじゃないの?」

白黒ハッキリして といいたげな声がぶつぶつと浮かぶ。
「……いいえ、違うの。正確に言えば運命は変えられないの」

私は、戦士を助けようとした時のことを話した。

「___それでも私は私が許せなかった。死んでいくのをただ傍観し、何事も無かったように生きていく。そんな自分が嫌いだった」

その中でファイヤハートが、前に自分に話したことと違うと声をあげようとしていた。
その声を遮って私は話す。

「ファイヤハートには、この事でライオンハートを救わなかったのは私だと嘘をついた。

自分の存在が嫌いだった私は、私は一生誰の温もりにも触れてはいけないと思っていたから。
助けてくれようとしたファイヤハートに、そう嘘をついて私を恨むべき存在だと思わせたの」

ファイヤハートはぽかんと口を開けていた。

一族も同じ顔をしている。

「私は…私が嫌いなの。

スカイポーという名のこの醜い悪魔を

ずっと一族に晒すべきだと思ってきた


私は罪から逃げて生きる愚劣な奴なの。

誰か私を此処で捌いてください」

一族に静寂が広がった。

音のない闇のような暗く重い静寂が。同じように私の心も闇に包んでいく。

そこに落ちた小さな小さな雫が私の想いを乗せて落ちていった。


「スカイポーが自分の事を要らない、存在してはならないと思っていたのは、私達のせいね。私達が、魔ノ目なんかに偏見を抱いてはいけないのよ。」

静まり返ったキャンプに声を響かせたのは意外な猫だった。


遠慮がちに、しかしきっぱりと。青い瞳に強い光が浮かんでいる。

フロストファーだ。

「どの命も、存在するべきだからここに在る。

そうでしょう?

要らない生命などないの。

どれだけスカイポーが自分を憎んでも、嫌っても…生きる意味などないと思っても。
貴方は生きるために生まれてきた。

マリンウィンドは貴方に生きてもらうために産んだ。
どの命だって小さくても大きくても、短くても長くても等しいものなの。

私達はそれをわかっていても尚貴方達を差別した。最低の行いよね。
私は、今日どれだけ卑劣なことをしていたか知った。

だから、それを辞める。

能力なんてなんだって構わない。
貴方が生きる意味なんてないとおもっても__
私はスカイポーがここにいていいと思えるようにする。貴方の、生きる意味を作る」

母猫の声に多くの一族から賛成と、私に対する謝罪の声が上がった。
そして初めて向けられた優しさの目に私は戸惑ってしまった。

今更手のひら返して私を救うの?なんで?ずっとずっとせめてきたのに?
こんなつもりじゃない。救ってもらうためにそんな事を言ったんじゃない。ああ違う。皆私を責めていい。

「貴方の母は貴方が生きることを望んでた…ずっと…健やかに幸せに。私は貴方を殺せない。あなたは悪いことなんてしていない」

ブルースターが優しく言った。

たまり溜まった自己嫌悪が爆発して消滅した。結局勝ったのは愛だった。
どれだけ自分が愛に飢えていたかわかると少しだけおかしくなる。たった少しの愛にここまで心を動かされてしまうなんて。

初めて自分が少し許された気がした。

死んだ戦士に対する罪悪感や、何故自分が生きているのか。果てしない問答を繰り返して、自分自身に嫌悪して。
全てが無意味に見えた。

でも、今初めて生きていてよかったと思えた。
存在を認められるってこういうことなんだね。お母さん。

「あと1つ。皆さんに言うことがあります」


私はこれをやり遂げなくてはならない。
知らぬ間に隠れた刃が力を奮うその前に。
______________

お久しぶりです!!夏休みに完結予定で頑張ります!
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投稿 by ちくわ猫 Fri Aug 05, 2016 8:48 pm

傷ついたスカイポーには、愛が何よりも必要だったのですね。
心が温かくなりました。
スカイポーの、やり遂げなくてはならないこと、ってなんなんでしょう?
気になります!
執筆がんばってください!!
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投稿 by ジェイホープ Thu Aug 11, 2016 12:01 pm

ちくわ猫 wrote:傷ついたスカイポーには、愛が何よりも必要だったのですね。
心が温かくなりました。
スカイポーの、やり遂げなくてはならないこと、ってなんなんでしょう?
気になります!
執筆がんばってください!!

コメありですー!スカイポーは愛に飢えていたんですね。彼女が失踪した理由、そこで起こったこと。全てがこれからに繋がってきます。謎の多い中で彼女がどのように思考し生きたかを読んでいただきたいと思います。そろそろ本当に完結に近いですね!w 楽しんでいただけると嬉しいです!
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投稿 by ジェイホープ Thu Aug 11, 2016 12:15 pm

第31章



「逃げてください。遠く…遠くへ」

一族は私の口から飛び出た突飛な言葉に驚いた。思わずぞわりと逆だった私の首の毛を見て、母猫は不安そうに鳴き交わし戦士は尾を膨らませている。

「逃げるって何から?」

サンドポーはさほど驚いた様子もなく、ただ不思議そうに聞いた。
しかし彼女も淡いショウガ色の毛がふわりと立って、逃げろという言葉に少し怯えているのがわかる。

「……言えない…言えないけど、とても恐ろしいもの…どんなに強い戦士だって勝てない」

説明すれば時間がかかる。そして真実に一族は心を抉られて恐ろしい罪悪感に囚われる。だからその前に逃げてもらわないといけない…

「言えない言えない」とぎゅっと目をつぶって呟く私にブルースターが指示を出した。

「わかったわ。逃げましょう。それが貴方の話したかった事なのでしょう?スカイポーがどこへ行っていたのかはわからないけれど…いま彼女が本気で逃げろと忠告してる事は分かるわ。

さぁ、サニングロックスに移動よ。戦士達子猫と母猫、長老を守りなさい」

こんなざっくりとした説明なのにブルースターは信じて実行しようとしてくれている。
だが、ブルースターの口調はのんびりとしていて危機なんて感じられない。

やっぱり…信じてくれないよね……お願い…兎に角逃げて欲しい…必ずあいつらは来てしまう…

「信じてください。必ず、災いが来るんです____」

「その災いは少しも待ってくれないのかしら?」

切羽詰った私の声をさえぎって、ブルースターは穏やかに言った。

「貴方の忠告は必ず聞き入れる。ただ一つやりたい事があるのよ」

私は訝しげにブルースターを見つめた。何を考えているのだろうか。
澄んだ青色の瞳に浮かんだ表情は読み取れない。ただ、空の蒼とキャンプを囲む翠を映して神秘的な光を宿していた。

「スカイフラワー」

「え?」

ブルースターの滑らかな声が頭にじんと響いた。

スカイフラワー…?聞き覚えのない名なのに何故こんなにも落ち着く響きなのだろうか。

「空を宿す花の蕾が現れた時、火は孤独を解く鍵となり一族を救うだろう。花は永遠の空となり火は英雄となる」

「貴方に戦士名を授けます」

突然の流れと予言のような言葉。

「え…?」

「聞いた!スカイポーが戦士になるんだぞ!」

ファイヤハートがぽかんとする一族と私の前で叫んだ。場を盛り上げるためだろうか、周りを煽り始める。歓喜の声が響き渡り、私はハイロックから滑り落ちるように降りた。

「ブルースター…」

族長は私と入れ替わりにハイロックに飛び乗ると、儀式の文句を唱えた。青灰色の毛が日に照らされててらてらと光る。

「スカイフラワー」

再びブルースターが私の新しい名を繰り返した。

「誰よりも強い心と信念を持った空の花に。孤独と耐え続けた空の花に」

私を見つめた目は優しくて優しくて。

「ありがとうございます」

その瞬間、私は族長に抱きついた。

私がやるべき事から今は目を背けていたかった。
ただ純粋な喜びと、希望と、夢と、愛を初めて感じて私はそこにいた。
全てを忘れて。
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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 12:40 pm

第32章



「ありがとう…ありがとう」

呟きを繰り返す私。なんて言ったらいいの?
わからないよ。

「貴方という戦士がいる事を誇りに思います。
ほら、家族がきっと見守っているわ。」

ブルースターはそう囁いて天を仰いだ。
いつの間にか、こんなに明るくなっていたなんて。長い話は時を押し流してもう昼過ぎであった。青空がこれまでにないほど目にしみた。
どこまでもどこまでも行けるような気がした。
遥かなる高みへ。
私の空だ。

_____束の間の幸せがこんなにも早く終わってしまうのなら_______

_______私はもっともっと早く____________


_____来る


本能が絶叫した。もう来たの?
耳にチリチリとした鈴のような音が響いて何かが弾け飛んだ。

「逃げて!!!!」

私はブルースターの柔らかな毛から離れた。ほのかに甘く爽やかなその香りが鼻に残った。
おそらくこうしていられたのは最初で最後。私はブルースターのその香りをまた吸い込んでお別れを告げた。

「もう時間が無い!!!皆早く逃げて!!!!」

戸惑う皆の前で私は絶叫した。

「逃げてぇぇ!!!」

「遅かったな。悠長に戦士名をもらってる暇があったら自分の身を守れば良かっただろうに」

黒い深い声だった。

でも違う。違うの。私が感じてる音はこれじゃない____

タイガークローは飛びかかってきた。

「何が逃げてだ。俺はお前を狙っていたんだ」

いつの間にか残忍な視線の猫が私を取り囲んでいた。骨が浮き出るほど痩せているのに逞しい筋肉は衰えずにあるのがそこにわかる。浮浪猫を訓練したのだ。

「恩師が取り逃したこの1匹。俺が仕留めてやる!」

「違う!災いがくる!皆逃げて!」

狂ったように叫ぶ私の口を塞ぎタイガークローは腹を引っかいた。
突然の出来事になす術もなく、血が吹き出す。

それに気づくと、ブルースターは号令をかけた。

「まさか、タイガークロー!!」

いつの間にかキャンプから抜け出していた戦士が自分を狙っていただなんて。不覚だ。
ファイヤハートが数々の猫を飛び越えて私からタイガークローを引き剥がした。

「スカイフラワー!!」

「違うの。ファイヤハート。違う。もうすぐ____」

遂に来た。本当に来てしまった。
タイガークローが私を狙ったことと、これが重なるなんて思いもしなかった。
私は結局皆を不幸にしたんだわ。

「大好きよファイヤハート。愛してる。今までありがとう。友達でいてくれて」

タイガークローを押さえつけるファイヤハートに囁くと私はキャンプの入口に立った。

そこには既にこの世のものではない猫達がずらりと並んでいる。黒い黒い憎悪で包まれた猫達。

「我が一族の末裔よ。よく引き止めておいたな」

そう。こいつよ。災い。私がもたらした。災い。
嗚呼最後まで運命は残酷なんだよね。
こうなってしまうことも決まっていたんだ。

私の中のあれがびくりと反応した。

「お希望の通りです族長」

ロンリースカイ!
彼女はにたりと笑った。

「私の自由にさせれば、このサンダー族を滅ぼせるわよ。復讐できる。」

「あんたの自由にはさせないわ。私はもう、このサンダー族を恨んだりしない。愛してる。傷つけたりなんかしない」

「そういうと思った。
あんたが自分に対する嫌悪をなくしたところで私がいるからそれは消えないの。同じようにあんたがサンダー族に対する恨みを消したって私がいれば__消えないのよ。

ここから先。最終的に貴方がどうなるか以外、私達は何も知らない。何が起こるか知らないのよ。


最後の戦い。どちらが勝っていられるか。

勝負しましょうか」
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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 12:41 pm

第33章



「我が一族の怨念は消えることのない。我らはずっとサンダー族に復讐する事を望んでいた。
お前はその重要な橋となる。そうだろう?」

ブルースターに激しい言葉を投げつけたあの日何もかもに絶望してもう無理だと思った。生まれてはいけなかった存在。私はサンダー族にいてはいけない。この世界にもいては駄目なのだ。
わかっていたのに、今まで堪えていた思いが堰を切って溢れ出して止まらなかった。

何かに取り憑かれたように走り続け、ついたのは縄張りと似たような森だった。

そこにはたくさんの猫の姿があった。___否、私を待っていた。

黒く大きく平たい顔に皺を寄せて族長は私に語り続けた。冷たい暗い感情が彼を満たしていて、みんなが持っている愛は無かった。

____どんなに私がサンダー族を許しても、もう一族の恨みは止められないのだ。


「さぁ部族に戻るのだ。スカイポーよ。
必ずしや迎えに行こうぞ」

《魔ノ目》の猫達は何故かサンダー族に生まれつくことが多かった。または、元の部族に追い出され、サンダー族に匿ってもらったのにも関わらず殺されたものとか。
彼らは、突然変異で現れる。どうしようもないのに。
それぞれ色んな能力を持ったものもいれば、能力を持たずに生まれついたものも。

母と父、そして兄は死後ここにいるという。

「お母さん?お父さん?兄さん」

問いかけても答えは出なかった。

「今はここにおらんだろう。しかし、サンダー族を襲撃には参加する」

生き物というのは感情に振り回されて生きるしかないのだろう。
私は、その時サンダー族を襲撃してもいいんじゃないかと思った。
どれだけ母を父を苦しめたか。分かっていたから。

「わかりました」

私はそういって私の一族から離れた。復讐しよう。
ただ、ファイヤハートやブルースターを想うと胸が疼くように痛んだ。でも、悪いのはサンダー族。母や父を兄を殺した。

深い憎悪で自分をかきたてて、森をまた1人で駆けるうちに、声が脳内に響いてきた。聞き覚えのある懐かしい声だ。

「スカイポー…!!私よ!母さんよ。今は私の能力で話しかけているの
森の端の空き地にいるから…来て」

私は泣きながら走った。唐突に悲しみとわずかな思い出が溢れる。嗚咽が呼吸を邪魔して苦しかった。

嗚呼お母さん…

空き地に確かに母はいた。父と兄とともに。

「お母さん!!!」

亡霊になったお母さん達は、星の光を纏っていた。あの恐ろしい一族とは違う。

「私達はさっきスター族に入れてもらったの。私達は戦いが起こっては駄目だと思う」

「もちろん、お前にその架け橋になってほしくない」

母の優しい声と父の深い声を聞いた途端、夢に見た懐かしい響きだった。

「復讐を望んでいるの?スカイポーは。」

私の目をみて兄は静かに問うた。私の瞳になみなみと海のようにゆらめく憎悪を見たのだ。

しかし、平和主義で優しい兄の信じられないといったその表情を見て、復讐を誓い、望んでいた糸がぷつりと切れた。

私は…本当にサンダー族を襲いたいの?

喪失していく戦意の中で浮かんだのはファイヤハートの笑顔と、ブルースターの優しい瞳だ。

「違う。私はブルースターやファイヤハートがしてくれた事を忘れない。私はあの部族を襲えない」

瞬きを繰り返す家族の目に強い希望が浮かんだ。

「ブルースター…彼女元気にしてるのかな」

母は静かな声で呟いた。私は母さんに詰め寄ると、同じくらい落ち着いた静かな声で聞いた。

「母さん…教えて。ここに来るまでに私は、母さんが私に大切な大切な話をするのを視た。

母さんが死んだ時の話を教えて」

ハッとした色の違う瞳は、綺麗だった。
可憐さを兼ね備えたその目は驚くほど澄んでいた。

「そうね。言っておかねばならない」

___ブルースターが母を父を兄を殺したこと。

3匹はその事を恨んでいないこと。

ブルースターの秘密は、オークハートの子を身ごもった事。何故か現れたティスルクローに脅されたこと。

_____すべてを知った。


「それだけではない。スカイポーに言わなくては行けない事があるの。貴方が、持っている能力は未来を視ること。
数多くある私達の能力の中でもっとも多い記憶に関する能力よ。



でも貴方はそれだけではない〈記憶の支配者〉なの」

________________


あの時、私は本当に本当にすべてを知った。
私の家族は誰よりも優しかった。
自分が生まれてきたことを、今でも許せない自分もいるけれど…一族は私を受け入れてくれた。

「ファイヤハート。ファイヤハート」

彼等はもう戦士になったはずだ。

速くしなくては。タイムリミットまでの時間はそれほど長くない。

前々から決まっていた事よ。

自分の意味がわからないまま駆けていた時も、ずっとずっと最後に償えるように。



私は命をかける。己の灯火が消えるまで屈しない。

自分が呼んだ災いも終わらせて全部。




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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 12:42 pm

第34章





「一体…何が…」

混沌としたキャンプの中、ファイヤハートは呟いた。
タイガークローがスカイフラワーを暗殺するために作った軍は大きく、戦士達は皆必死の攻防戦を繰り返している。
しかし、この騒ぎはそれだけでは無かった。

「逃げて」
と叫んだスカイフラワーの声は尋常ではなかった。

それまでに話したいくつもの話も、遠くで聞いているようで実感の湧かない話ばかりだった。

キャンプの入口に何かが在ることは誰も言わずとも感じていた。暗い暗い怨念が漂い始めたからである。

愛してると囁いた、彼女の声が脳裏に浮かぶ。
一族が何をしようとも、どれだけ酷いことを言おうとも彼女はそれが全て一族の性とは思わなかった。

寧ろ、己を憎み嫌い、傷つけてすらいた。

そういう優しい少女なのだ。果てしない優しさを心に持っている少女なのだ。

そして、きっとこの事も、彼女は1人で背負おうとするのだろう____

そう思うとどうしようもない哀しさと虚しさがこみ上げて苦しくなった。

「スカイフラワーッ!!」

血と毛の飛び交う狂乱の最中をすり抜けるようにしてスカイフラワーを追った。

「我が一族の末裔よ…」

キャンプの入口には、草木も殺してしまうようなただひたすらに冷たく暗い雰囲気を纏った猫が星の数ほどたくさんいた。

その猫達が一斉に顔を上げたとたん、ファイヤハートは全てを悟った。


「ファイヤハート…これが私の一族よ。ごめんなさい。私の一族は…忘れようとしなかった。

自分等が受けた仕打ちを。

くだらない。この世の中はこうやってできているのね。

怨みが積もり、たった一つの間違いが、たった一つの綻びが全てを変えていく。」

静かな静かな声だった。

族長と思われる猫の左右の瞳が、翠と蒼のその瞳が鈍く光った。

「ごきげんよう。サンダー族の戦士。


悪かったな。もう遅いぞ。


さあ復讐の時だ!!!!!」

異様な雄叫びとともに《魔ノ目》の一族の亡霊が襲いかかり始めた。

スカイフラワーは自分の中の自分。そう、あのロンリースカイと戦いながら、呻き声を上げている。

_____日の影が一瞬で遮られたような暗い戦いだった。

青い空は血に染まり、草木は戦いに呑まれ荒地と化した。

幾多の亡霊が復讐をする中、沢山の浮浪猫がサンダー族に襲いかかる中、一族が戦い続け一夜を超えたのは奇跡だったと言えるかもしれない。

終らない戦いにただひたすらに身を任せ、1匹の少女と己の罪と戦う一族は屈することは無かった。

黙々と我が身を地に塗れさせ、傷は僅かな時間で看護猫に手当してもらった。

スカイフラワーは願っていた。

1匹、自分と戦いながら。

「どうか…どうか…スター族様。


私の性で逝ってしまったたくさんの猫を受け入れてください。


どうか…私の罪の性で死んだたくさんの猫を…


平和が訪れますように…」

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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 12:55 pm

第35章



どれだけ悲惨な戦いが起ころうとも、それは終わることなく、悲痛な叫びが森に響く事もなかった。

それはやはり亡霊達の能力であり、他部族からの助けは来なかった。

スカイフラワー達への恨みを理由に殺害を試みたタイガークローとその取り巻きの襲撃は、敵もわからず無差別に猫を襲う不憫な争いに成り下がった。
そして、亡霊達も浮浪猫であろうとなんであろうと無差別に爪を舞わせた。
時には能力を使って。

敵も、右も左もわからず、ただただ闇雲に戦う。

そんな光景はただ哀れで、生きとし生ける者の性をありありと映し出してもいた。

その先にあるものは____破滅ではなかろうか。

いつの日か日は落ち、驚くほど早く真夜中を迎えた。

___私は私は____


「もう…!!!!やめてええ!!!!戦いを…!やめてええええええええ!!!!!」


____お母さん…?お父さん?どうすればいい?______


絶叫が木霊した。その叫びは星の降る夜に吸い込まれ消えていく。

しかし、その叫びは確かに猫達の心を打っていた。

「もう…もうやめて!やめて!」

その声にサンダー族の猫が動きを止めた。
全員の目から狂ったような光が消えて冷静さが戻ってきた。

サンダー族の猫はもがいて敵から離れると、スカイフラワーの立つハイロックのそばへ駆け寄った。

浮浪猫達はもうほとんどいなくなっていた。
数匹の彼らも、仲間を追って消えていく。

残ったのは死ぬことのない亡霊と、私達だけだ。


「スカイフラワーよどうした?」

ぎらぎらと光る目をして魔ノ目の族長が言った。

彼は1度戦いをやめるよう合図する。

____空き地にようやく、ようやく静寂が帰った。

「やめましょう?こんなくだらない。争いは」

私は一言ひとこと区切るようにして、息を切らしていった。

亡霊達がまさかと言うような目をした。

「ふざけるな!あいつらの罪を忘れたのか!」

「忘れてなんかいない。でも、私は彼らを許した。だから襲う気なんてない。


皆さんが怒るのはわかる。怨嗟の声が貴方達を作り上げたのだから。
私にもその気持があった。

ただ一つ。でも怒りを復讐で終わらせてはならないわ。
もしも、この先ずっとずっと私達の血が続いていく時に。子孫を苦しめるのは私達の穢れた心になってしまう。
満ちた怨みだけに突き動かされ、優しさを忘れれば私達は自分達の血を自らけがすことになる。

そうでしょう?」

「しかし_____」

「勿論、わかっています。

私達が悪いということを。醜くて下卑た最低の行いだと。私達は彼女に気づかせてもらった。

許されることではない。
スカイフラワーは優しい。とてもとても。
私達はこうして殺されても仕方の無いくらい酷いことをしたのだから」

突然ブルースターが口を挟んだ。

スカイフラワーはそれに優しく目を向けて、感謝を伝えた。

「私は罪の気持ちだけで許されると想っている。恨んでも恨み尽くせないこの気持ちを投げやりな暴力と力で復讐した所で私は何も変わらないと思う。
憎しみは復讐となり、復讐は新たな憎しみを生み出すだけなの。

私も怨んでいた。サンダー族を。
寧ろ、惨い扱いを受けて生きてきた私達が恨まない方がおかしいと思う。

けれど、私は彼女達の謝罪を聞いたし、愛をもらった。

だからサンダー族の味方ができる」

「貴方達にはどうやってもサンダー族を許すことはできないと思う。それは、サンダー族の忘れてはならない罪として語り継がれるはず。

許せないのはわかっている。だからお願い。
許さなくていい。許さなくていいから、憎しみをぶつけ合うようなくだらない事はやめて。

ブルースターは私に言った。許しを請おうなんて思っていないと。

サンダー族はわかっている。だから、どうか、今後の私達の為に。平和を紡ぎましょう」

勿論、必死な言い訳だった。
彼らの人生を奪ったサンダー族の猫達に復讐しないなんて事はできないだろう。
ましてや、1度も存在を認められた事などないのだから。

しかし、一つの憎しみを忘れないほど私達は…そんな存在に成り下がったのだろうか。

母や、私は一族に愛をもらった。
母はブルースターから。
母が自分を殺したのにも関わらず、彼女を愛し続けるのは、ブルースターがくれた確かな愛が大きく深いものだったからではないだろうか。

私もくだらない差別をする彼らがずっと嫌いだった。
でも、あんなに憎んでいたのに、あんなに嫌悪していたのに、自分の存在を無いようなものにされたのに。


「ここにいていい」

「存在を無いようなものだと貴方に思わせてしまった事は私達が悪い」

「貴方が生きる意味を見つけられなくても私達が作るから」


罪を知った言葉はとてもとても優しくて。
私の心にしんと響いた。これが愛なんだ。
一族は自分等がしてきた事にちゃんと向き合い、私との空白の時間を埋めようとしてくれた。

だから、許せたのだ。彼等を。


でも、愛を知らずに死んだ哀れな猫達にどうしたら愛を知ってもらえるだろう?

それ以前に、長く永く凝り固まり、捻れた怨念は愛でも解けないかもしれない。


嗚呼どうすればいい?


戦いを終わらせたいのに。
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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 1:02 pm

[h2]第36章[h2]


不穏な沈黙が闇を一層深くしたような気がした。


両者は何も言わなかった。



どうしたらいいんだろう。

私は天を仰いで考えを待った。



「記憶の支配者」

脳裏に蘇る母の言葉。私の体が電流が走ったようにびくりと震えた。


そう。こうやって彼等を繋ぎ止められるだろうか。
一つの愛で。


縛られた包を開くように私は私の中の能力を開いた。

何故かその感覚は優しくて、右目がくいと持ち上がるような奇妙な感覚も秘めていた。


力が流れ込んでいく。

私はゆっくり瞬きをした。妙に鮮明な世界が浮かんでいる。

「サーガ」

私は《魔ノ目》の一族の族長の名を呼んだ。

彼は部族猫初の《魔ノ目》だった。
普通の猫から生まれたのに、気味悪がられる日々。兄弟とも違うその瞳。

「できない」猫であった彼は訓練でも仲間外れ、はっきりとした名もつけられず、両親から嫌われていて。

自分が心から尊敬した遠い昔の戦士の名をもらって、独りぼっちの命名式。

その頃はまだ、単語だけの名前が多かった。

ようやく戦士になっても何も変わらない。
空気の様な毎日に嫌気がさして逃げ出せば、途中で野良猫に殺された。

彼の記憶が私にすとんと入ってきた。
記憶を吸い込むってこういうことなんだ。

サーガはぴたりと動きを止めている。

私はハイロックを飛び降りて彼の所へいくと、その手に触れた。

「何をする気だ」

サーガは低い声で言う。しかし、次の瞬間体が強ばって私を見つめる目ががらりと変わった。


___記憶の支配者は、すべての事を知ることが出来る。誰の過去も、未来も。
世界がどのように生まれどのように終わっていくか。それすらもわかるらしい。

私の中にはずっとその能力の片割れしか使えていなかった。

私はサーガの記憶を吸い込みすべてを知った。



____「俺はもう生きる意味なんてないんだ」

若かった戦士はそう野良猫に言い放った。

「嗚呼そうか。そんな綺麗な瞳してそんな事を思っているんだな」

サーガはハッとしたように瞳を揺らしたが、それにはたちまち嫌悪の色が浮かんだ。

「綺麗…綺麗だ」

雄猫のような逞しい雌猫はそう言った。
繰り返される言葉には嘘はなかった。

「俺を…殺してくれないか」

「殺す?」

「俺はもう死ぬべき存在だと思う」

「そうか」

死を恐れない淡々とした口調に惹かれ、気づけば何も知らないはずの雌猫に全てを打ち明けていた。

死ぬのは案外怖くなかった。

「さようなら」

彼女が最後にかけてくれたのはそんな言葉だった。

_____________

その後、あの野良猫はサーガの遺体の傍にそっと花を置いた。

「お前は1人じゃない。私が傍にいる。これから先ずっと」

彼が聞くことの無かった言葉。
たった一つの出会いで、それは少しの時間だったのに、彼女は貴方を愛した。

貴方の事を記憶に置いて、共にいようとしてくれる猫がいたのよ。

私はサーガの目を見ながら囁いた。

サーガの目から涙が零れた。

「そんな…あいつは…」

一瞬でも触れた愛が、彼を変えていく。
そんなほんの少しでも私達を変えていくほど、私達は愛に飢えていた。己の不遇に泣いてきた。
否、愛にそれだけの大きな力があったのかもしれない。

サーガはもうサンダー族を襲おうなんて思わないのではなかろうか。
もう、自分を死まで追い詰めた猫達の事なんてどうでもいいと思ったのではないだろうか。
たった一つ、自分を認めてくれた猫がいる事が例えようもなく嬉しかったのではないだろうか。


私はそうだった。自分の居場所ができただけですべてを許せた。
どんなに不運な生き方でも、その中にひと欠片の愛はあったのだと思う。

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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 1:04 pm

第37章


「そんな…




わけないだろ」


顔を上げたサーガの目はどこか遠くを見るようで、それは私がずっと抱いていた孤独を映していた。

僅かに揺れた私の瞳を目敏く見つけ、サーガは微笑んだ。
その笑みは深く暗い色だった。
怨念のチリチリとした不吉な音がなった。


サーガの鋭い爪が、私の腹を切り裂いていくのをがやけにゆっくり見えた。飛んだ飛沫の一つ一つまで。



「かかれ!」


再びサーガが号令をかけた。
私の願いは届かなかった。

「お前も、母親も、随分と優しい心を持ったようだな。だが、甘い。優しさで恨みを断ち切れなどしない。全ての猫が共通して持つ感情は、「優しさ」などではない。


「怒り」と「恐怖」だ」


サーガは倒れた私に、忌々しげに吐き捨てた。


「サンダー族!!戦っては駄目!!耐えるの!

2度と私達の過ちを忘れぬ様に!!!!!」


ブルースターの叫びが多くの悲鳴を切り裂いて響き渡った。

____ブルースター。やめて。


駄目。それではサンダー族が…


悪いのは私達の一族なのだから。


嗚呼やめて。


皆…みんな私のせい。


戦いを____止められなかった。
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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 1:06 pm

第38章



「いいの…もう十分よ。だから、もう…貴方はよくやった」


___母さん___父さん


銀砂をまいたような光がいくつも幾つも私を取り巻いていく。

「でも…!でもサンダー族は!どうなるの?!」

母は悲しそうな目をした。

「私…死ぬんでしょう?そんなのはわかってるの。だから最後だけ

これが運命で終わりたくないっ!!!!

私は記憶の支配者として、私だけが出来ることで、部族を救ってから死ぬ。

震える足で立ち上がり駆け出したのを、見ることができたのはファイヤハートだけだろう。


___あんた馬鹿じゃないの?

ロンリースカイが囁いた。

___私を制御できるぐらいに強くなっちゃって____


________________


スカイフラワーはサーガと呼んだ猫に近づいて、優しい目で何か言った。

前足に触れて何かをしている。

サンダー族は何をしていいのかわからないままそれを眺めていた。

___不意に真っ赤な鮮血が飛び散った。


サーガはスカイフラワーを振り切って号令を出す。スカイフラワーの血に染まった赤い腕を振りかぶってこちらへ駆けてくる。

「そんな!!!!スカイフラワーっ」

ファイヤハートには、その表情が見えていた。
深い諦めの中にできた彼女の決意を。


「スカイフラワー!!!!!!!」

絶叫したと同時に相手の一族が飛びかかってきた。

反射的に爪を出して殴りかかると同時に、ブルースターの声を聞く。

ブルースターは、サンダー族の罪をこうやって償おうとしている。

「皆…ごめんね」

ブルースターの呟きが、ファイヤハートには聞こえた。

影と陰の合間に見えたその姿は泣いていた。

「こんな結果で終わらせてたまるか」

ファイヤハートはスカイフラワーを求めて猫の間をすり抜けた。

その時。
倒れているスカイフラワーの元に星屑のもやがかかったと思うと、スカイフラワーの命が天へ昇って行こうとした。

「スカイフラワー!!!!」

そんな心の叫びは聞こえなかっただろうが、スカイフラワーは命を手放さなかった。

強い光を纏って、動く力などないはずなのに、スカイフラワーはキャンプを出た。

「スカイフラワー」

幾度なく叫んだその名を僕は口にして、彼女を追った。



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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 1:23 pm

第39章


大好きなんだ。この場所。


空は晴れていた。濃紺の空が、少しずつ姿を変えていく。

流れ出ていく血のが少しずつ体力を奪っていく。

____いつの間に雪が積もっていたんだろう。

キャンプの中は、周りからの影響を受けないように誰かが能力を使っていたから…

ひんやりとした世界に体を横たえた。

朝日が完全に姿を現し白雪を白銀に照らすまでに、時間はかからなかった。
幾度も繰り返してきた夜がまた明ける。

木立から彼の鳴き声が響く。
ファイヤハートだ。

「ロンリースカイ…?」

私は幸福な気持ちでもう1人の私に語りかけた。

「私は貴方が大好きよ」

安らかなその声だけで、ロンリースカイは解き放たれたようだった。

私は、私とやっと和解した。
あと、やり残すことは少しだけだろう。


大きな鳴き声で私の名を呼びながら、炎がやってきた。

「スカイフラワー…!」

私の脇腹からどくどくと流れる血の色に目を見開いている。

「逝かないで!」

懇願するファイヤハートの前で、私は最後にやるべき事を始めた。

丘の上で眩い光が溢れ、流れ、包み込んだ。

____私がいない世界へ

これが私が最後に望んだ事だった。

記憶の支配者は望めばこの世界全ての記憶を吸い込むことだってできるのだ。

記憶を改造することだって可能なのだ。

だから私は、この世界に生きるすべてのものの記憶を一度すべて消した。

一瞬、世界を消した。

そして新しい記憶を放ち、世界を元通りに動かす。

何がなんだかわからなくなるけれど、簡単に言えば世界の歴史を少しずつ塗り替えて新しいものにしたのだ。

新しい世界では、あの忌まわしい伝説はない。

父と母と兄には新しく平和な未来を用意した。

私はいない。

私がいなくても大丈夫だ。

だってファイヤハートがいるもの。

もしも私が世界を作り替えなければ、サンダー族は消滅し部族の住む森は暗い闇に包まれる。
ファイヤハートも死ぬ。

でも、この新しい世界ではそんなことはない。

ファイヤハートは英雄となり永く永く生き続け素晴らしい生涯を送る。


ありがとう。さようなら。
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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 1:25 pm

終章_空のキオク_



ただ一つだけ。あとやり残した事を。


ファイヤハートには、私の生きた記憶をあげたい。

彼だけには、私の生きた印を_____


「ファイヤハート?」

「スカイフラワー!何をしたの…?」

ファイヤハートは不安気な表情で私を見ている。

「世界を変えた。私はもうここにいられない」

「___だから、私が貴方と出会った印を遺していくわ」

ファイヤハートに何かが流れ込んできた。

スカイフラワーの感情、日々、目の感覚。



全てが染み込んできた。

「さようならファイヤスター。私を愛してくれてありがとう」

もう悔いはないから。


また会いましょうね。




「スカイフラワー!!!!!!」


死に方はとても穏やかで。

時が動き始めた途端、彼女の目は光を失ったと同時に星屑に吸い込まれて消えた。


彼女のいなくなった世界は____


驚くほどに美しく見えた。


きっと君の目なんだね。


心の中でスカイフラワーが微笑んだのが見えた気がした。












驚くほど静かな朝だった。

咲いた空の花が、朝露に濡れて輝いているのを、僕はずっとずっと眺めていた。
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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 1:27 pm

あとがきっ!!




閲覧本当に本当にありがとうございました!!!!
随分と長く続きましたがw完結させることができましたw
最後は私の説明力のなさが目立つ展開で…
駆け足になっちゃってすみませんねw

閲覧数が1000超えた時にはもう狂ったように踊りましたよ←

スカイフラワーは、ティアーさんなどが言ってくださったように私の前の名前でした。
特に深い意味もなくつけた名前でしたがw

私はスカイフラワーと自分を重ね合わせてこの物語を書きました。
ある意味スカイフラワーは私の理想です。
暗い暗い闇のそこで、本当は助けて欲しいのに「助けて」のたの字も言えないような…
自分を責めた日々に終わりは見えません。
だから、ファイヤスターのような火が。何と言われても助けてくれるような火が、「孤独」を救う物語を創りたいと思ったんですね…w

それにスカイフラワーを使ったのは私の理想を詰めた物語だからですww

よくわからないですよねwごめんなさいw

取り敢えず、今まで読んで下さりありがとうございました!

それではまた!また小説たてたら読んで下さると嬉しいです(
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投稿 by ヘザーストーム Sun Sep 18, 2016 2:17 pm

完結おめでとうございます!

ジェイホープさんの、綺麗な文書でとても読みやすかったです。
あと、スカイフラワーの気持ちが分かり過ぎて、涙出そうになりました。

そして、こんなに長く小説が続くなんて羨ましいですw←
私は長い物語なんて書けなくて、尊敬します!w

スカイフラワーが、ファイヤスター(ハート)にスカイフラワーの"印"を遺す時、感動しすぎてヤバかったです…←

長くなりましたが、とにかく完結おめでとうございます!

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投稿 by ティアーミスト Sun Sep 18, 2016 5:08 pm


完結、おめでとうございます。

読み返すたびに心が温かくなるような、大好きな小説です!ラストの一文が素敵過ぎて悶えました笑

そらちゃんとファイヤハートの切ない愛に、なんどもうるっと来てしまいました。

ほんとうにおつかれさまでした(*´ω`*)ぎゅーっ!
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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 6:27 pm

ヘザーストーム wrote:完結おめでとうございます!

ジェイホープさんの、綺麗な文書でとても読みやすかったです。
あと、スカイフラワーの気持ちが分かり過ぎて、涙出そうになりました。

そして、こんなに長く小説が続くなんて羨ましいですw←
私は長い物語なんて書けなくて、尊敬します!w

スカイフラワーが、ファイヤスター(ハート)にスカイフラワーの"印"を遺す時、感動しすぎてヤバかったです…←

長くなりましたが、とにかく完結おめでとうございます!

ありがとうございます!!!もともと長編予定だったのをわかりやすく書こうと思ったらさらに長くなって、その上読む人を惹き付けられたらいいなと思って描写をたくさん入れたらこんなことに…wwだらだらと長く続きましたが読んでくださってほんっとありがとうございました!!
感謝です!!!
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投稿 by ジェイホープ Sun Sep 18, 2016 6:30 pm

ティアーミスト@霧涙 wrote:
完結、おめでとうございます。

読み返すたびに心が温かくなるような、大好きな小説です!ラストの一文が素敵過ぎて悶えました笑

そらちゃんとファイヤハートの切ない愛に、なんどもうるっと来てしまいました。

ほんとうにおつかれさまでした(*´ω`*)ぎゅーっ!

だ、大好きな小説(*´ `*)そんな嬉しいこと言われたの初めてですよ…!w
随分と長い小説になりましたが読んでくださって感謝感激です!!!
私からも愛を込めてぎゅうううううううううっ!!!!
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投稿 by ちくわ猫 Sun Sep 18, 2016 8:25 pm

完結、おめでとうございます!!
スカイフラワーの優しさに、胸がキュッとなってしまいました・・・
本当に素敵な物語だったと思います。
文章も、とっても読みやすかったです!
お疲れさまでした!!
ちくわ猫
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