神話~Future to the desire
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WARRIORS BBS :: 小説投稿フォーラム :: 完全オリジナル猫小説
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19話
ブロームの消滅を見届けると、ラプラスは一度目を閉じ、再び開けた。再度開かれた目はいつもと同じ両方青であった。
「やあ、ラプラス。君の固有魔法は完成したようだね?」
頭上から声がする。ナハトだ。
「”因果を切断する”能力か。確かにケットシーに対してはこれ以上なく強力な力だが、因果を持たない神や天使にはたいした意味はないな。」
ラプラスの完成させた魔法、それは因果を観測する力と、因果を切断する力。
この世のものはみんな因果を背負っている。因果とは他者や世界との繋がりであり、存在の力である。この因果はケットシーの強さにも大きく比例しており、歴史に大きな影響をもたらすような存在は総じて大きな因果を持ち、強いケットシーになる。
さて、このラプラスの得た因果を切断するとはどういうことか?それは繋がりを絶つこと。本来出会うはずだったものは出会わなくなり、起こるべき事は起こらなくなる。そしてもし、全ての因果を失ったら?それは存在の消滅。世界に最初からいなかったことになる。
今回の場合、ブロームの犠牲者達は別の形で死んだ事になるだろう。ジャスミンや鈴蘭の記憶も、殺人鬼マッド・ブロームに襲われ、レヴィと共闘した、ではなく、強力なビーストに襲われレヴィと共闘し、倒した。となっているはずだ。
ブロームを覚えているものがいるとすれば、それは因果に縛られないもの。無数の繋がりから解脱した神や天使か、あるいは因果を超えた存在である悪魔か、そのいずれかであろう。
「きっと世界を破壊しつくしたとき、君のその魔法は真の力を発揮する。新たな因果を紡ぎ、消えかかった君の主を甦らせるだろう。」
ナハトは言う。
「いや、それだけじゃない。君の力が世界を動かす。君が歴史の道しるべとして、影から世界を支配するんだ。」
ナハトは少し興奮した様子だった。対するラプラスは少しさめた印象だった。
「歴史の道しるべか・・・・・・支配など、そんなものはどうでもいい。俺は悪魔。世界を支配するのは神の仕事だ。俺はあの子が帰ってくればそれでいい・・・・・・あの子が帰ってきさえすればな。」
そして話題を変えるようにブロームが走ってきた方角を見やる。
「ゲノム、やっているようだな。」
「アハハ、加勢でもするかい?君は心配性だね。」
「そんな無粋な真似はしないさ。それにあいつ自身の今後にかかわる戦いだ。俺は待つ。あいつは勝つ。」
因果を見なくても分かる。奴の執念はホンモノだ。
「この戦いを彼女が制すること、それが何を意味するか分かっているんだよね?」
いつの間にかこの路地裏にやってきていたのか。レヴィが立っていた。
「・・・・・・儀式、だからな。だがまあ、これが終われば奴も楽になるだろう。」
ラプラスはやや複雑そうな面持ちであった。
その戦いは舞踏のように鮮やかで、嵐のように激しく、竜巻のように破壊的であった。戦場となった公園はすでに二人のマシンピストの弾で木々に遊具に地面にベンチにと流れ弾がおよび、破壊がいびつなアートを乱発している。
しかし今眼中にあるのはお互いだけ。もちろん攻撃や防御に利用するため、破壊された周囲に意識を向けてはいるものの、それはあくまで戦場の地の利を得るためのもので、周囲の被害は気にも留めない。
またお互いのマシンピストルが火を噴く。弾道を目線や銃口の角度、連射時のブレまで計算に入れて予測し、かわす。頭部へ照準、素早くもう片方の腕で弾く、そのまま手に持っているほうの銃で照準、首をそらして回避、足へと照準、させずにグリップで相手の銃身を叩いて照準をさらに下に前に向けさせ潰す。
銃で撃つというより、弾丸の鞭でなぎ払うように放たれる攻撃。周囲に流れ弾で次々に穴をうがちながらも銃声の合唱は終わらない。お互い一瞬の隙も見せない。
だが、
(魔力の残量では悪魔の私のほうがアドバンテージがある・・・!)
連射の言う魔力消費を度外視した攻撃力アップを長く続ければ、当然先に限界が来るのはジーンだ。
(と、あの子は考えているだろう。実際撃ち合いで勝負を決めれる可能性は低い。よって―!)
しかし、悪魔に唯一戦闘経験の豊富さで勝っているジーンとてそれは承知。
「よって、ここは―逃げる!!」
「-なんだとっ!?」
ジーンはすでに弾種を別のものに切り替えていた。ゲノムが回避した弾が時間差で閃光と煙幕、そして高周波を放出する。
「うぉっ!?ゲホッゲホッ!!」
視界と嗅覚、聴覚を同時に攻撃されひるむ悪魔に対し、ジーンは事前に複製魔法で鍵を複製し、盗んでおいたバイクに飛び乗る。
持ち主には悪いが、世界が壊れるかどうかがかかっっているんだ。これくらいは許してもらわねば。発進だ。
「あの場所へ!あそこで幕を下ろすとしよう。」
「逃がさん!!」
6本の触手で翼を形成した悪魔が空中からマシンピストルを撃って来る。ジーンは一気に加速することでこれを振り切る。
「・・・・・・よし!見えてきた!!」
住宅地を抜け、工場地帯へ、途中また追いついた悪魔が発砲してきたが、こちらも牽制射撃の後に速度を上げて振り切る。
ジーンは一軒の廃工場に向かっていた。かつて自分がクローン研究を隠れて行っていた場所だ。あそこに行きさえすれば―!!
バンッ!!
「なっ!?」
突如、後輪がはじけ飛び、ジーンは衝撃で前に吹っ飛ばされた。ゲノムがライフルで狙撃してきたのだ。頭を守りながら地面を転がるも動きをとめようとはしない。第二、第三の狙撃がくる。バイクのガソリンタンクに命中し爆発が起きる。
「うわぁっ!?・・・・・・・ぐ、ぐぐぐ・・・・・・!!」
半ば這うような形で廃工場の中に何とか入る。
(さあ、―来るがいい。ここで終わりにしよう。この始まりの場所で!)
「・・・・・・室内に隠れたところで。」
ゲノムはライフルを下ろさず、探知魔法で位置を割り出す。
「・・・・・・チッ障害物や遮蔽物が多すぎるな。これでは狙い打つのは無理か・・・。」
仕方なくライフルからハンドガンに切り替える。中は罠だらけだろうが・・・・・・。
「いいだろう。まんまとおめおめと罠にかかりにいってやろうじゃないか。だが―!!」
魔力充填のすんだハンドガンを構えながら廃工場に近づく。
「そのときは貴様の眉間を打ち抜く。」
ゲノムはゆっくりと廃工場に近づいていった。
「やあ、ラプラス。君の固有魔法は完成したようだね?」
頭上から声がする。ナハトだ。
「”因果を切断する”能力か。確かにケットシーに対してはこれ以上なく強力な力だが、因果を持たない神や天使にはたいした意味はないな。」
ラプラスの完成させた魔法、それは因果を観測する力と、因果を切断する力。
この世のものはみんな因果を背負っている。因果とは他者や世界との繋がりであり、存在の力である。この因果はケットシーの強さにも大きく比例しており、歴史に大きな影響をもたらすような存在は総じて大きな因果を持ち、強いケットシーになる。
さて、このラプラスの得た因果を切断するとはどういうことか?それは繋がりを絶つこと。本来出会うはずだったものは出会わなくなり、起こるべき事は起こらなくなる。そしてもし、全ての因果を失ったら?それは存在の消滅。世界に最初からいなかったことになる。
今回の場合、ブロームの犠牲者達は別の形で死んだ事になるだろう。ジャスミンや鈴蘭の記憶も、殺人鬼マッド・ブロームに襲われ、レヴィと共闘した、ではなく、強力なビーストに襲われレヴィと共闘し、倒した。となっているはずだ。
ブロームを覚えているものがいるとすれば、それは因果に縛られないもの。無数の繋がりから解脱した神や天使か、あるいは因果を超えた存在である悪魔か、そのいずれかであろう。
「きっと世界を破壊しつくしたとき、君のその魔法は真の力を発揮する。新たな因果を紡ぎ、消えかかった君の主を甦らせるだろう。」
ナハトは言う。
「いや、それだけじゃない。君の力が世界を動かす。君が歴史の道しるべとして、影から世界を支配するんだ。」
ナハトは少し興奮した様子だった。対するラプラスは少しさめた印象だった。
「歴史の道しるべか・・・・・・支配など、そんなものはどうでもいい。俺は悪魔。世界を支配するのは神の仕事だ。俺はあの子が帰ってくればそれでいい・・・・・・あの子が帰ってきさえすればな。」
そして話題を変えるようにブロームが走ってきた方角を見やる。
「ゲノム、やっているようだな。」
「アハハ、加勢でもするかい?君は心配性だね。」
「そんな無粋な真似はしないさ。それにあいつ自身の今後にかかわる戦いだ。俺は待つ。あいつは勝つ。」
因果を見なくても分かる。奴の執念はホンモノだ。
「この戦いを彼女が制すること、それが何を意味するか分かっているんだよね?」
いつの間にかこの路地裏にやってきていたのか。レヴィが立っていた。
「・・・・・・儀式、だからな。だがまあ、これが終われば奴も楽になるだろう。」
ラプラスはやや複雑そうな面持ちであった。
その戦いは舞踏のように鮮やかで、嵐のように激しく、竜巻のように破壊的であった。戦場となった公園はすでに二人のマシンピストの弾で木々に遊具に地面にベンチにと流れ弾がおよび、破壊がいびつなアートを乱発している。
しかし今眼中にあるのはお互いだけ。もちろん攻撃や防御に利用するため、破壊された周囲に意識を向けてはいるものの、それはあくまで戦場の地の利を得るためのもので、周囲の被害は気にも留めない。
またお互いのマシンピストルが火を噴く。弾道を目線や銃口の角度、連射時のブレまで計算に入れて予測し、かわす。頭部へ照準、素早くもう片方の腕で弾く、そのまま手に持っているほうの銃で照準、首をそらして回避、足へと照準、させずにグリップで相手の銃身を叩いて照準をさらに下に前に向けさせ潰す。
銃で撃つというより、弾丸の鞭でなぎ払うように放たれる攻撃。周囲に流れ弾で次々に穴をうがちながらも銃声の合唱は終わらない。お互い一瞬の隙も見せない。
だが、
(魔力の残量では悪魔の私のほうがアドバンテージがある・・・!)
連射の言う魔力消費を度外視した攻撃力アップを長く続ければ、当然先に限界が来るのはジーンだ。
(と、あの子は考えているだろう。実際撃ち合いで勝負を決めれる可能性は低い。よって―!)
しかし、悪魔に唯一戦闘経験の豊富さで勝っているジーンとてそれは承知。
「よって、ここは―逃げる!!」
「-なんだとっ!?」
ジーンはすでに弾種を別のものに切り替えていた。ゲノムが回避した弾が時間差で閃光と煙幕、そして高周波を放出する。
「うぉっ!?ゲホッゲホッ!!」
視界と嗅覚、聴覚を同時に攻撃されひるむ悪魔に対し、ジーンは事前に複製魔法で鍵を複製し、盗んでおいたバイクに飛び乗る。
持ち主には悪いが、世界が壊れるかどうかがかかっっているんだ。これくらいは許してもらわねば。発進だ。
「あの場所へ!あそこで幕を下ろすとしよう。」
「逃がさん!!」
6本の触手で翼を形成した悪魔が空中からマシンピストルを撃って来る。ジーンは一気に加速することでこれを振り切る。
「・・・・・・よし!見えてきた!!」
住宅地を抜け、工場地帯へ、途中また追いついた悪魔が発砲してきたが、こちらも牽制射撃の後に速度を上げて振り切る。
ジーンは一軒の廃工場に向かっていた。かつて自分がクローン研究を隠れて行っていた場所だ。あそこに行きさえすれば―!!
バンッ!!
「なっ!?」
突如、後輪がはじけ飛び、ジーンは衝撃で前に吹っ飛ばされた。ゲノムがライフルで狙撃してきたのだ。頭を守りながら地面を転がるも動きをとめようとはしない。第二、第三の狙撃がくる。バイクのガソリンタンクに命中し爆発が起きる。
「うわぁっ!?・・・・・・・ぐ、ぐぐぐ・・・・・・!!」
半ば這うような形で廃工場の中に何とか入る。
(さあ、―来るがいい。ここで終わりにしよう。この始まりの場所で!)
「・・・・・・室内に隠れたところで。」
ゲノムはライフルを下ろさず、探知魔法で位置を割り出す。
「・・・・・・チッ障害物や遮蔽物が多すぎるな。これでは狙い打つのは無理か・・・。」
仕方なくライフルからハンドガンに切り替える。中は罠だらけだろうが・・・・・・。
「いいだろう。まんまとおめおめと罠にかかりにいってやろうじゃないか。だが―!!」
魔力充填のすんだハンドガンを構えながら廃工場に近づく。
「そのときは貴様の眉間を打ち抜く。」
ゲノムはゆっくりと廃工場に近づいていった。
DCD- 未登録ユーザー
20話
「何故悪魔になったんだい?」
かつてゲノムは同志達に聞いたことがある。世界を己が欲望のためにぶっ壊す。自分が言えたことではないがそんな異常集団とやっていくのに当たって何か共通項がほしかったのだ。
ナハトは言っていた。
「私の子供達の幸せのためさ。」
この答えは正直、わけが分からなかった。
「君は元々天使なんだろう?何故天使のまま世界をよく運用するでなくこちら側につくことになるんだ?」
「・・・・・・私は責任を取らないといけないからさ。この星にケットシーなんて物を持ち込んでしまったことの・・・・・・ね。」
「私は昔、光る猫にこう願ったんだ。私の子供達が、私の種族が、この星の支配者になれますように、とね。」
衝撃だった。彼女は猫達の歴史の大本、彼女からこの星の猫と、ケットシーの歴史は始まったのか。
「光る猫と一緒に別の星に言って魔物退治をしたものさ。そして私の子供達もケットシーになっていった。特に一番上のエヴァは『お母様、私早く大きくなって、お母様を守れる位強くなりますね!!』ってね。」
「エヴァ?おいおいまさかイヴのことじゃないだろうな?」
「それであってるよ。伝説と違って彼女はこの私、本名リリスの娘だけど。」
「エヴァにリリス・・・・・・頭がおかしくなりそうだ。wait(ちょっと待て)、じゃあアダムとイブが夫婦って言うのは?」
「本当だよ。男の子が中々生まれなかったかっらね。まだ猫って言う種族が生まれたてほやほやで数もいなかったんだ、何も不思議なことではないよ?」
「・・・・・・ジーザス。悪魔だけど。」
「アハハ・・・・・・話を戻そうか。」
少々ドン引きしている私にナハトは珍しく困ったような笑いをあげた後言った。
「ある日知ってしまったんだ。魔物の正体を。」
『エヴァ・・・!?なんで―!?』
異形へと変わり果てた娘の姿に当時のナハト―リリスは現実が飲み込めなかった。
『彼女は魔力を使い果たしたのさ。その魂は感情エネルギーを放出し、僕達の搾取され、後は魔物になる。』
淡々と、無感情に、機械的に光る猫が告げる。
『も、戻してよ!』
『無理だね。生まれた雛は卵には戻せない。』
『そ、・・・そんな・・・まさか、私が今まで倒してきたのは・・・・・・!』
『別の星で僕達と契約したケットシー達だね。最も、こうなった時点で彼女達の意識は無い。さあ、いつもどおり倒すといい。このまま行けば彼女は君のほかの家族も襲うだろうね。』
『くっ!!』
リリスはエヴァの魔物を倒した。一瞬だった。
『今みたいな魔力の使いすぎには気をつけて欲しいな。魔力が枯渇すると君もああなるよ。』
『ボクとしては君にはまだ長持ちしてもらえると嬉しいんだけdドスッ!!』
言い終わらないうちにリリスは光る猫をトライデントで刺した。
『ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・・・・!!』
死んでいる。これならこれ以上の被害は―!
『やれやれ、変わりはいくらでもいるけど、困るんだよな。もったいないじゃないか。』
『なっ!?』
ダメだった。潰しても、潰しても、潰しても、奴らは何度でも現れ、仲間の死体を喰って処分し同じようにまた契約をすすめる。
『君達が何故怒るのか理解できないけなぁ・・・・・・最初からケットシーになってくれって言ったじゃないか。』
『魔物になるなんて聞いていない!!』
『聞かれなかったからね。』
『ふざけるな!!』
(ああ、なんてことだ・・・・・・私が、私の所為であの子達が!!)
『止めてやるっ!!全てのケットシーは私が倒す。あの子達を、私の子供達を、魔物なんかにさせない!!』
「それからは一人でずっと戦って、そうして魔力を使いきって、私も魔物になった。それからもいろんなケットシーと戦ったなぁ。ラプラスやその主であるあの子とも・・・ね。」
ナハトがいったん語り終える。いつも狂楽的な彼女からは見たことがないような悲しみをたたえた顔だった。
「・・・・・・だが増して分からない。それならなぜ神の救済の邪魔なんてするんだい?」
「あの子、ラプラスの主が救われないからさ。」
「神の作ったあの世界ではエヴァは魔物になる前に神が救ってくれた。私自身も天国に行って、前の世界の記憶を見たときは震えるとともに安堵したよ。もう誰も呪わない、祟らないんだってね。」
「でも違った。あの子は、私の所為で何度も傷ついたあの子は違った。それだけじゃない。ラプラス、レヴィ、そして君も。」
「・・・!」
「悪魔になる子が生まれてしまった。悪魔にならなきゃいけない子がね。神の救済も完璧ではなかった。」
「それにエヴァの悪魔討伐を止めれなかった。あの子は改変前の出来事がショックで仕方なくて、だからこそ神に感謝し、神聖不可侵の希望だと思い込んでる。仇名すものには容赦なかったから。」
「彼女は存在そのものが消えるかもしれないんだ。ラプラスが今はつなぎとめていてくれてるけど。」
(後悔と悲壮、それに決意。あの燃え盛る瞳にこんなものを隠していたのか)
「私はケットシー・システムを持ち込んだものとしてこの悲劇の幕を下ろさなければならないんだ。」
グルンッと腰掛けていた空中ブランコから逆さづりになる。
「逆様の道化を演じてでもね。」
「我が子の為といいつつ我が子の意思は無視・・・・・・か。」
「正しいか間違っているかなんて関係ないさ。ただ結果だけ得れればいい。手段なんて選ばないよ。」
逆様の道化はぺろりと舌を出した。
「そのために悪魔を名乗っているんだからね。」
レヴィは言っていた。
「復讐。それだけだよ。」
「でも君は、憎んでいながらも愛しているんだろう?彼女達を。だから悪魔になれた。」
「・・・・・・親はいつだって期待はずれだった。ジャスミンは私が人生を楽しもうとするたびに足を引っ張って邪魔をする。」
「でも、そうだね。確かに憎んでるし、妬んでるし、怨んでるけど・・・・・・嫌いになったわけじゃないよ。許せないけど。」
「だからあの子が私の後ろをお姉ちゃん、お姉ちゃんって付いてくるうちは、我慢してたんだ。」
「まっ、鈴蘭ちゃんの登場と、視力回復で私は用済みになっちゃったわけだけど。」
「ゲノちゃん。仮にあなたの言う『ホンモノ』として生まれたからって、幸せとは限らないんだよ?裏切られ続けるだけの人生かもしれないのに。」
こっちを挑発するような表情で話すレヴィだったが、その目には確かに憂いが混じっていた。
「私の人生はいつも裏切られてばっかりだったよ。一度だけね、ジャスミンと大喧嘩して、家を飛び出したことがあったんだ。」
「妹の世話ばっかりで友達なんていなかったから、いくあてもなくて、でも公園で男の子と会ったんだ。」
懐かしそうにレヴィは微笑んでいた。
「楽しかったなぁ・・・。すっごく仲良くなって、一緒に遊んで、特に御伽噺の王子様とお姫様ごっこなんかとっても楽しかったよ。」
このときゲノムはレヴィが自分は悪役だといっていたことを思い出した。自分はずっとシンデレラの意地悪な姉。だが、このときだけは自分がお姫様でいられたことが嬉しかったのだろうか。
「明日もまた一緒に遊ぼうって約束したんだぁ・・・嘘ついたら針千本飲ますってね。」
楽しげだったレヴィの声からトーンが下がっていく。
「でも、来てくれなかった。ひどい雨だったからね。仕方ないんだけどさ・・・・・・。」
「この世はみんなウソツキだらけ。そんな夢中で傷ついて、一人になることが生きるってことだとしてもゲノちゃんはホンモノでいたい?」
「・・・・・・それでも何もないよりはマシさ。」
(私はないものを埋めるために悪魔になったといってもいいんだから。ニセモノのままでいいなんて思わない)
「・・・・・・ふーん。でもま、私は何があってもあの子達を壊すよ。私は悪役、悪魔だもん。」
ラプラスは言っていた。
「俺の親であり、もう一人の俺であり、そして・・・・・・我が子のように愛しむべき存在がいたんだ。それを天使共に殺された。」
無機質な白い壁、床、天井。そこに鮮やかに咲く赤い彼岸花。亡き主人の記憶が映像として表れては消えるを繰り返すラプラスの自室で、彼女が墜ちるまでを聞いた。
「主があの女・・・神のために作った世界は、確かに悪魔という概念によって神が作った世界より呪いの発生率は上がっていた。」
「だが、主の目的はあくまで紙が救済の力の代償に投げ捨てた、当たり前の幸せを取り戻してやること。世界維持に全力を挙げていたんだ。救済だって天国が残っている限り天使達でも何とかやっていけるはずだったのに。・・・・・・それをあいつらは―!!」
あのときのラプラスの悲しみと憎しみに満ちた表情は今でも忘れられない。
「『ケットシーたちの希望を取り戻せ、裏切り者を殺せ、世界を乱す悪魔を許すな。』そんなスローガンを掲げて、あいつらは彼女の世界に押し入ってきた。」
ラプラスの自室に浮かぶ亡き主の記憶。それは天使達の壮絶なリンチによって惨殺されるというものだった。
「あいつらは神としての記憶と、力を奪い返すために襲ってきた。話し合いもせずにな。まあ、・・・・・・話したところで主は譲らなかっただろうが。」
自分以外がプラスチックに見えるようになった私でも目を背けたくなるほど凄惨で一方的な処刑だった。どっちが悪魔か分からなくなるほどに。
「『愛だかなんだか知らないが、たった一人のために、いや自分の欲望を満たすために自分勝手にルールを破るなどあってはならない』奴らはそう言っていたよ。自分達だって、気に入らない現実を覆すために契約という奇跡で世界の条理って言うルールを破っているくせにな。」
「そんな救いようのない自分達に手を差し伸べてくれた神を愛するのは分かる。だが、それで本当に神は幸せなのか?この世界に生まれなかったことになり、神としてみんなを救う喜びの代わりに本来得ていた、当たり前の、猫としての幸せを手放したことに後悔は無いのか?主だけが疑問に思ったんだ。誰よりも猫として、友達として・・・・・・、あの女を愛していたからッ。」
「あの世界で唯一、あの女の存在を覚えていたからッ・・・・・・!」
一言一言に怒りと悲しみが滲み出していた。
「あの地獄のような”繰り返す時”の中で、主はずっと孤独だった。近くにいる他のケットシーは、誰も未来を信じない、受け止められない。自分だけしか持たない記憶の所為で価値観はズレてしまって言葉が通じなくなっていく・・・・・・。俺という魔法で作った自分の見方を生み出しちまうほど、ボロボロでッ、追い詰められてッ!!」
ラプラスは泣いていた。片手で両目を覆いながら、言葉にいくつもの想いが重なり、濁流と化していた。
「でも、それでも進むしかないから、あいつは戦った。俺は、助けたかった。そう作られたからじゃない。本当に守りたかったんだ。結果として俺達は死んだが、だが主は最後にやっと笑ってたんだ。ずっと見たかった笑顔だ。あの女に言ったんだ。『勝ったわ。やっと勝てた。やっと、あなたを救うことができた。』
確かにアイツに生きていてほしかったけど、あの笑顔が見れただけで、俺の心は満たされたんだ。」
同じ魔法の被造物でも、ラプラスは私と違った。創造主を憎むからこそ世界を破壊しようとする私に対し、彼女は創造主を愛していたから、世界を破壊するのか。
「あの女が神になったとき、魂の状態で主と俺は止めようとしたんだ。でも、アイツは俺に約束したんだ。絶対に主の頑張りを無駄にしないと。絶対に彼女がまた笑顔になれる日が来ると・・・・・・!」
後悔に満ちた目で語る。そのときの自分自身を呪っている口調だ。
「拒めなかった・・・・・・ッ!それこそ俺の本当の願いだったから!!」
「だが、結局彼女が笑顔を取り戻すことはなかった。あの女の存在が消え、彼女の戦いもなかったことになったのに・・・・・・。」
「主は、憶えていたんだ。あの女のことも、あの女のために戦ってきた中で見た惨劇や、背負った罪も、全て!!」
「結局、主は、あの子はっ、孤独のままだった・・・・・・それでも神を思っていたのに。」
「そのうえ、見ろよ、あれ。」
ラプラスの指す方向にはほかと同じように記憶が映し出されていたが、ノイズがひどい。砂嵐だらけだ。
「概念の死は存在の消滅だからな。あれはもう俺でさえ思い出せなくなりつつある記憶だ。」
「世界が主がいたか、いないか結論を出せずにいるから今、俺がいる。だがもし、俺が倒れたら彼女はいなかったことになり、この記憶も全てああなり、消える。」
「実際に、できないんだ。あの子の名前を呼ぼうとしても。文字に書いてもずっとモザイクがかかったみたいに意味不明の別の何かになっちまう。」
「ザッー・・・・・・。」
ゲノムにはノイズにしか聞こえなかったが、きっと主の名前を言ったのだろう。そしてゲノムはラプラスの顔の赤い線の意味を理解した。
(ああ、そうか―これは―)
「なあ、ゲノム。教えてくれ。大義のためなら一人にこれほどの苦しみを背負わせていいのか?そんなのが本当に・・・・・・正義なのか?」
「マキャベリズム的にはそうなんだろうね。でも―友人としては、軽蔑するな。」
(ラプラス、君は彼女を失ったその日から、ずっと血の涙を流し続けていたのか・・・・・・)
「・・・・・・そうだよな。だから俺は正義なんて語らない。大義名分なんて持たない。奴らとは真逆でありたい。」
「だから俺は悪魔なのさ。」
そう、悪魔になれるものの共通項、それは、
「悪魔に成れる者とはケットシーの才能を持つまたは魔力を持った存在である。」
「悪魔に成れる者とは孤独である。」
「悪魔に成れる者とは世界を壊したくなるほど大きく、何かを愛したものである。」
私が悪魔になったのは何故か。
廃工場の入り口から、探知魔法と触手で周囲を調べながらゆっくりとゲノムは足を進める。右手のハンドガンはいつでも撃てる状態だ。
オリジナルと戦うため。それもある。
死にたくなかった。それもある。
プラスチックのような世界から抜け出したい。もちろんそうだ。
だが一番はそう、
空っぽの私を埋めてくれるホンモノが欲しかったから。
悪魔になったことを後悔などしていない。この力も、悪魔の仲間も、オリジナルから送られたわけではない私が自分で手にしたホンモノ。私は彼女達といたい・・・。
ジ ー ン
だが、この心の抵抗感、私は悪魔として振り切れなければならない。そう、ジーンとは似て非なる存在、悪魔・ゲノムになるためにまともな私を殺すことで、私はジーンとしての私に別れを告げられるのだ。
かつてゲノムは同志達に聞いたことがある。世界を己が欲望のためにぶっ壊す。自分が言えたことではないがそんな異常集団とやっていくのに当たって何か共通項がほしかったのだ。
ナハトは言っていた。
「私の子供達の幸せのためさ。」
この答えは正直、わけが分からなかった。
「君は元々天使なんだろう?何故天使のまま世界をよく運用するでなくこちら側につくことになるんだ?」
「・・・・・・私は責任を取らないといけないからさ。この星にケットシーなんて物を持ち込んでしまったことの・・・・・・ね。」
「私は昔、光る猫にこう願ったんだ。私の子供達が、私の種族が、この星の支配者になれますように、とね。」
衝撃だった。彼女は猫達の歴史の大本、彼女からこの星の猫と、ケットシーの歴史は始まったのか。
「光る猫と一緒に別の星に言って魔物退治をしたものさ。そして私の子供達もケットシーになっていった。特に一番上のエヴァは『お母様、私早く大きくなって、お母様を守れる位強くなりますね!!』ってね。」
「エヴァ?おいおいまさかイヴのことじゃないだろうな?」
「それであってるよ。伝説と違って彼女はこの私、本名リリスの娘だけど。」
「エヴァにリリス・・・・・・頭がおかしくなりそうだ。wait(ちょっと待て)、じゃあアダムとイブが夫婦って言うのは?」
「本当だよ。男の子が中々生まれなかったかっらね。まだ猫って言う種族が生まれたてほやほやで数もいなかったんだ、何も不思議なことではないよ?」
「・・・・・・ジーザス。悪魔だけど。」
「アハハ・・・・・・話を戻そうか。」
少々ドン引きしている私にナハトは珍しく困ったような笑いをあげた後言った。
「ある日知ってしまったんだ。魔物の正体を。」
『エヴァ・・・!?なんで―!?』
異形へと変わり果てた娘の姿に当時のナハト―リリスは現実が飲み込めなかった。
『彼女は魔力を使い果たしたのさ。その魂は感情エネルギーを放出し、僕達の搾取され、後は魔物になる。』
淡々と、無感情に、機械的に光る猫が告げる。
『も、戻してよ!』
『無理だね。生まれた雛は卵には戻せない。』
『そ、・・・そんな・・・まさか、私が今まで倒してきたのは・・・・・・!』
『別の星で僕達と契約したケットシー達だね。最も、こうなった時点で彼女達の意識は無い。さあ、いつもどおり倒すといい。このまま行けば彼女は君のほかの家族も襲うだろうね。』
『くっ!!』
リリスはエヴァの魔物を倒した。一瞬だった。
『今みたいな魔力の使いすぎには気をつけて欲しいな。魔力が枯渇すると君もああなるよ。』
『ボクとしては君にはまだ長持ちしてもらえると嬉しいんだけdドスッ!!』
言い終わらないうちにリリスは光る猫をトライデントで刺した。
『ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・・・・!!』
死んでいる。これならこれ以上の被害は―!
『やれやれ、変わりはいくらでもいるけど、困るんだよな。もったいないじゃないか。』
『なっ!?』
ダメだった。潰しても、潰しても、潰しても、奴らは何度でも現れ、仲間の死体を喰って処分し同じようにまた契約をすすめる。
『君達が何故怒るのか理解できないけなぁ・・・・・・最初からケットシーになってくれって言ったじゃないか。』
『魔物になるなんて聞いていない!!』
『聞かれなかったからね。』
『ふざけるな!!』
(ああ、なんてことだ・・・・・・私が、私の所為であの子達が!!)
『止めてやるっ!!全てのケットシーは私が倒す。あの子達を、私の子供達を、魔物なんかにさせない!!』
「それからは一人でずっと戦って、そうして魔力を使いきって、私も魔物になった。それからもいろんなケットシーと戦ったなぁ。ラプラスやその主であるあの子とも・・・ね。」
ナハトがいったん語り終える。いつも狂楽的な彼女からは見たことがないような悲しみをたたえた顔だった。
「・・・・・・だが増して分からない。それならなぜ神の救済の邪魔なんてするんだい?」
「あの子、ラプラスの主が救われないからさ。」
「神の作ったあの世界ではエヴァは魔物になる前に神が救ってくれた。私自身も天国に行って、前の世界の記憶を見たときは震えるとともに安堵したよ。もう誰も呪わない、祟らないんだってね。」
「でも違った。あの子は、私の所為で何度も傷ついたあの子は違った。それだけじゃない。ラプラス、レヴィ、そして君も。」
「・・・!」
「悪魔になる子が生まれてしまった。悪魔にならなきゃいけない子がね。神の救済も完璧ではなかった。」
「それにエヴァの悪魔討伐を止めれなかった。あの子は改変前の出来事がショックで仕方なくて、だからこそ神に感謝し、神聖不可侵の希望だと思い込んでる。仇名すものには容赦なかったから。」
「彼女は存在そのものが消えるかもしれないんだ。ラプラスが今はつなぎとめていてくれてるけど。」
(後悔と悲壮、それに決意。あの燃え盛る瞳にこんなものを隠していたのか)
「私はケットシー・システムを持ち込んだものとしてこの悲劇の幕を下ろさなければならないんだ。」
グルンッと腰掛けていた空中ブランコから逆さづりになる。
「逆様の道化を演じてでもね。」
「我が子の為といいつつ我が子の意思は無視・・・・・・か。」
「正しいか間違っているかなんて関係ないさ。ただ結果だけ得れればいい。手段なんて選ばないよ。」
逆様の道化はぺろりと舌を出した。
「そのために悪魔を名乗っているんだからね。」
レヴィは言っていた。
「復讐。それだけだよ。」
「でも君は、憎んでいながらも愛しているんだろう?彼女達を。だから悪魔になれた。」
「・・・・・・親はいつだって期待はずれだった。ジャスミンは私が人生を楽しもうとするたびに足を引っ張って邪魔をする。」
「でも、そうだね。確かに憎んでるし、妬んでるし、怨んでるけど・・・・・・嫌いになったわけじゃないよ。許せないけど。」
「だからあの子が私の後ろをお姉ちゃん、お姉ちゃんって付いてくるうちは、我慢してたんだ。」
「まっ、鈴蘭ちゃんの登場と、視力回復で私は用済みになっちゃったわけだけど。」
「ゲノちゃん。仮にあなたの言う『ホンモノ』として生まれたからって、幸せとは限らないんだよ?裏切られ続けるだけの人生かもしれないのに。」
こっちを挑発するような表情で話すレヴィだったが、その目には確かに憂いが混じっていた。
「私の人生はいつも裏切られてばっかりだったよ。一度だけね、ジャスミンと大喧嘩して、家を飛び出したことがあったんだ。」
「妹の世話ばっかりで友達なんていなかったから、いくあてもなくて、でも公園で男の子と会ったんだ。」
懐かしそうにレヴィは微笑んでいた。
「楽しかったなぁ・・・。すっごく仲良くなって、一緒に遊んで、特に御伽噺の王子様とお姫様ごっこなんかとっても楽しかったよ。」
このときゲノムはレヴィが自分は悪役だといっていたことを思い出した。自分はずっとシンデレラの意地悪な姉。だが、このときだけは自分がお姫様でいられたことが嬉しかったのだろうか。
「明日もまた一緒に遊ぼうって約束したんだぁ・・・嘘ついたら針千本飲ますってね。」
楽しげだったレヴィの声からトーンが下がっていく。
「でも、来てくれなかった。ひどい雨だったからね。仕方ないんだけどさ・・・・・・。」
「この世はみんなウソツキだらけ。そんな夢中で傷ついて、一人になることが生きるってことだとしてもゲノちゃんはホンモノでいたい?」
「・・・・・・それでも何もないよりはマシさ。」
(私はないものを埋めるために悪魔になったといってもいいんだから。ニセモノのままでいいなんて思わない)
「・・・・・・ふーん。でもま、私は何があってもあの子達を壊すよ。私は悪役、悪魔だもん。」
ラプラスは言っていた。
「俺の親であり、もう一人の俺であり、そして・・・・・・我が子のように愛しむべき存在がいたんだ。それを天使共に殺された。」
無機質な白い壁、床、天井。そこに鮮やかに咲く赤い彼岸花。亡き主人の記憶が映像として表れては消えるを繰り返すラプラスの自室で、彼女が墜ちるまでを聞いた。
「主があの女・・・神のために作った世界は、確かに悪魔という概念によって神が作った世界より呪いの発生率は上がっていた。」
「だが、主の目的はあくまで紙が救済の力の代償に投げ捨てた、当たり前の幸せを取り戻してやること。世界維持に全力を挙げていたんだ。救済だって天国が残っている限り天使達でも何とかやっていけるはずだったのに。・・・・・・それをあいつらは―!!」
あのときのラプラスの悲しみと憎しみに満ちた表情は今でも忘れられない。
「『ケットシーたちの希望を取り戻せ、裏切り者を殺せ、世界を乱す悪魔を許すな。』そんなスローガンを掲げて、あいつらは彼女の世界に押し入ってきた。」
ラプラスの自室に浮かぶ亡き主の記憶。それは天使達の壮絶なリンチによって惨殺されるというものだった。
「あいつらは神としての記憶と、力を奪い返すために襲ってきた。話し合いもせずにな。まあ、・・・・・・話したところで主は譲らなかっただろうが。」
自分以外がプラスチックに見えるようになった私でも目を背けたくなるほど凄惨で一方的な処刑だった。どっちが悪魔か分からなくなるほどに。
「『愛だかなんだか知らないが、たった一人のために、いや自分の欲望を満たすために自分勝手にルールを破るなどあってはならない』奴らはそう言っていたよ。自分達だって、気に入らない現実を覆すために契約という奇跡で世界の条理って言うルールを破っているくせにな。」
「そんな救いようのない自分達に手を差し伸べてくれた神を愛するのは分かる。だが、それで本当に神は幸せなのか?この世界に生まれなかったことになり、神としてみんなを救う喜びの代わりに本来得ていた、当たり前の、猫としての幸せを手放したことに後悔は無いのか?主だけが疑問に思ったんだ。誰よりも猫として、友達として・・・・・・、あの女を愛していたからッ。」
「あの世界で唯一、あの女の存在を覚えていたからッ・・・・・・!」
一言一言に怒りと悲しみが滲み出していた。
「あの地獄のような”繰り返す時”の中で、主はずっと孤独だった。近くにいる他のケットシーは、誰も未来を信じない、受け止められない。自分だけしか持たない記憶の所為で価値観はズレてしまって言葉が通じなくなっていく・・・・・・。俺という魔法で作った自分の見方を生み出しちまうほど、ボロボロでッ、追い詰められてッ!!」
ラプラスは泣いていた。片手で両目を覆いながら、言葉にいくつもの想いが重なり、濁流と化していた。
「でも、それでも進むしかないから、あいつは戦った。俺は、助けたかった。そう作られたからじゃない。本当に守りたかったんだ。結果として俺達は死んだが、だが主は最後にやっと笑ってたんだ。ずっと見たかった笑顔だ。あの女に言ったんだ。『勝ったわ。やっと勝てた。やっと、あなたを救うことができた。』
確かにアイツに生きていてほしかったけど、あの笑顔が見れただけで、俺の心は満たされたんだ。」
同じ魔法の被造物でも、ラプラスは私と違った。創造主を憎むからこそ世界を破壊しようとする私に対し、彼女は創造主を愛していたから、世界を破壊するのか。
「あの女が神になったとき、魂の状態で主と俺は止めようとしたんだ。でも、アイツは俺に約束したんだ。絶対に主の頑張りを無駄にしないと。絶対に彼女がまた笑顔になれる日が来ると・・・・・・!」
後悔に満ちた目で語る。そのときの自分自身を呪っている口調だ。
「拒めなかった・・・・・・ッ!それこそ俺の本当の願いだったから!!」
「だが、結局彼女が笑顔を取り戻すことはなかった。あの女の存在が消え、彼女の戦いもなかったことになったのに・・・・・・。」
「主は、憶えていたんだ。あの女のことも、あの女のために戦ってきた中で見た惨劇や、背負った罪も、全て!!」
「結局、主は、あの子はっ、孤独のままだった・・・・・・それでも神を思っていたのに。」
「そのうえ、見ろよ、あれ。」
ラプラスの指す方向にはほかと同じように記憶が映し出されていたが、ノイズがひどい。砂嵐だらけだ。
「概念の死は存在の消滅だからな。あれはもう俺でさえ思い出せなくなりつつある記憶だ。」
「世界が主がいたか、いないか結論を出せずにいるから今、俺がいる。だがもし、俺が倒れたら彼女はいなかったことになり、この記憶も全てああなり、消える。」
「実際に、できないんだ。あの子の名前を呼ぼうとしても。文字に書いてもずっとモザイクがかかったみたいに意味不明の別の何かになっちまう。」
「ザッー・・・・・・。」
ゲノムにはノイズにしか聞こえなかったが、きっと主の名前を言ったのだろう。そしてゲノムはラプラスの顔の赤い線の意味を理解した。
(ああ、そうか―これは―)
「なあ、ゲノム。教えてくれ。大義のためなら一人にこれほどの苦しみを背負わせていいのか?そんなのが本当に・・・・・・正義なのか?」
「マキャベリズム的にはそうなんだろうね。でも―友人としては、軽蔑するな。」
(ラプラス、君は彼女を失ったその日から、ずっと血の涙を流し続けていたのか・・・・・・)
「・・・・・・そうだよな。だから俺は正義なんて語らない。大義名分なんて持たない。奴らとは真逆でありたい。」
「だから俺は悪魔なのさ。」
そう、悪魔になれるものの共通項、それは、
「悪魔に成れる者とはケットシーの才能を持つまたは魔力を持った存在である。」
「悪魔に成れる者とは孤独である。」
「悪魔に成れる者とは世界を壊したくなるほど大きく、何かを愛したものである。」
私が悪魔になったのは何故か。
廃工場の入り口から、探知魔法と触手で周囲を調べながらゆっくりとゲノムは足を進める。右手のハンドガンはいつでも撃てる状態だ。
オリジナルと戦うため。それもある。
死にたくなかった。それもある。
プラスチックのような世界から抜け出したい。もちろんそうだ。
だが一番はそう、
空っぽの私を埋めてくれるホンモノが欲しかったから。
悪魔になったことを後悔などしていない。この力も、悪魔の仲間も、オリジナルから送られたわけではない私が自分で手にしたホンモノ。私は彼女達といたい・・・。
ジ ー ン
だが、この心の抵抗感、私は悪魔として振り切れなければならない。そう、ジーンとは似て非なる存在、悪魔・ゲノムになるためにまともな私を殺すことで、私はジーンとしての私に別れを告げられるのだ。
DCD- 未登録ユーザー
21話
ハンドガンの魔力残量を確認し、ゆっくり進む。
「かくれんぼのつもりか?無駄なことを・・・・・・。」
奴の場所は探知魔法で分かっている。と、ここで前方の触手が何かに触れた。
カチッ
「-!うぉ!?」
背後から撃たれた。間一髪かわしたが、弾丸が衣装の表面をすれて行った。奴のいる方角ではない。どこから撃たれた!?
「ぐっ・・・。」
射線から逃れるように横の机の陰に隠れる。
カチッ
「くっ!?」
今度は上からナイフが降ってきた。ゲノムはその場を素早く離れるが、飛びのいた先で足に何かが当たる。
カチッ
(またっ―!)
バァン!
「ふんっ!!」
斜め上からのライフル弾。銃のグリップエンドに装着されたハンドアックスで弾き返す。
(強化魔法・・・・・・探知能力強化!!)
強化魔法で、探知の精度を強化する。鋭敏化された魔法をとおして周囲のカラクリを視覚化する。
「・・・・・・!!これは―!!」
この区画のいたるところに武器とワイヤートラップが張り巡らされていた。足や身体があたってワイヤーが引っ張られると連動して武器が発射される仕組みか。
「チッ!オリジナルめ、複製した私の触手でトラップを―!!」
さらにこのワイヤーは複製したゲノムの触手だった。不可視で強化魔法をかけない限り魔力的なサーチにも引っかからないこれは罠にうってつけであった。
「そういうことさ。」
ハンドガンを構え、ゴーグルのルーペ部分をたおし、装着したジーンが金属むき出しの作業台の上から姿を現す。
「ここは君達を作っていた場所だ。因縁の終わりはここでつけるのがふさわしいだろう?」
ワイヤーを引き、左後ろのマシンガンを操作する―が、発砲より早くゲノムが気づき、銃身を撃たれて照準がずれてしまった。
「自分で作ったくせに―!」
「ふっ・・・だからこそ後始末ぐらいは自分で、・・・ね!」
構えたハンドガンの周囲に複数の魔法陣が現れ、そこから複製された銃口がズラリと並ぶ。
「Fire!」
一斉掃射。複数の弾が一気に襲ってくる。
「舐めるなっ!!」
ゲノムは弾道から当たる弾を割り出し、自身のハンドガンで打ち落とし、迎撃せしめる。
(ならば―!)
今とは反対方向、後方の足元にコンクリートの瓦礫の中に艤装、設置したライフルを撃つ。銃を持ち替え、ハンドアックスで切り払われた。
ジーンがハンドガンを撃って追撃する。
ゲノムは銃を投げ上げて、追撃を回避する。くるりと回転しながら射線から逃れ、投げ上げた銃を左手でキャッチ。
「はっ!!」
銃の三連射。ジーンもこれを右に左にとかわし、ワイヤーを操作、敵の背後のショットガンが火を噴く。
「なんのっ!」
だが相手も散弾を自身の弾でビリアードの様に弾き飛ばした。弾いた弾同士がかち合うように計算して撃ったのだ。
(なんて射撃力だ―!この反応速度、感覚、運動神経!!まさに悪魔的―!!)
敵の反撃がとんで来る。ジーンはこれを側転でかわし、次なる武器を操作した。
「物理攻撃でダメなら!」
火炎放射器が火を噴く。
「あっついな・・・・・・!!」
ゲノムは背中から三本の触手をあわせて立てのように展開し、火炎を直接浴びないように防ぐ。
(効いている!!)
だが、残念ながら敵の弾丸でワイヤーを切断されてしまった。
その後も何個か武器を操作してみるが紙一重でかわされている。大まかな思考パターンが同じだから次、どこから狙ってくるか分かってしまうのだ。
その後もゲノムは銃とハンドアックスを器用に使い分けて各種とラップを破壊していく。
(a-9、d-6、z-5が使用不能か・・・!)
ゴーグルのレンズに表示される監視カメラとリンクした各種武器情報が次々と断たれていく。
「こんな小細工で倒せるとは思っていないさ。ただ少しでも魔力と体力を削げれば・・・!!」
ブツンッ!!
「-!!」
と、ここで監視カメラの映像が途切れた。破壊されたのではない。映らなくなった。
「くらえぇ!!」
「がはっ!?」
その隙にゲノムが飛び蹴りを食らわせてきた。天井のパイプに触手を絡ませ、振り子のように勢いをつけて飛んできたのだ。
一階に叩きつけられる。
「はぁぁぁぁ!!」
ハンドアックスを構えて、そのまま作業台からゲノムが飛び降りてくる。ハンドガンを構えるが、間に合わない。横に転がって回避した。
「ふんっ!」
ひざ立ちの状態から発射。ダメか―!また触手を盾にされた。
ジーンは牽制射撃を続け、立ち上がる。相手の衣装の防弾性能は高い―!狙うのは頭部でないと。
「オリジナル!!」
相手が避けるのも面倒というように触手を盾にしながら突っ込んでくる。ジーンは銃を持ち替え、マガジン下に装備されたハンドアックスで迎え撃つ。
発射された三発をかわし、突き出された腕を掴んで、右側から脳天めがけて振り下ろす。敵が左手で腕を押さえて受け止める。お互い腕が使えないが、大使的には私に分がある!ジーンは斧を持つ手に力を加えるが、
メキッ
「がっ!?」
横からわき腹を殴られ、吹っ飛ばされた。見ると相手の尻尾にジャスミンと同じガントレットが装備されている。それをロケットパンチの要領で撃ち出して来たのだ。
「うおぁぁぁ!!」
吹っ飛ばされたジーンは、部屋のドアにぶつかり、その中に転がり込む。
「ふんっ、骨ごと砕いてやるつもりだったが、やはりお前の衣装も防弾仕様のようだな。」
ガントレットを消し、銃を構えたゲノムがゆっくり近づき背中に銃口を当てる。
「ワイヤートラップ、思ったより早く見切ったね。カメラの位置が分かっていたのかい?」
ジーンは両手を挙げる。
「ふんっ、私の魔法が電子機器にもつなげることは知っているだろう?あれだけの武器を離れた場所からワイヤーだけで操作するとなったら当然、カメラが仕掛けられているはずだ。」
「あとは武器の配置とそこから理想的な回避ポイントを割り出せば次の武器の位置、カメラの向きも、おのずと場所の見当は付く。」
ゲノムが解説してみせる。銃は構えたままだ。
「・・・・・・ブラボー。さすがは私だ。」
対するジーンは苦笑し、右手の銃を離す。
と、同時に―
「はっ!」
素早く反転してゲノムの銃口を右手でそらし、左手で自分の銃をキャッチ。バレルで顔を殴りつける。
しかしゲノムもひるまず、倒れこみながらも敵の頭に照準を合わせ発砲。
「うっ!?」
ジーンも同じように後ろに倒れこむことでこれを回避。
「ふんっ!!」
バンッ!バンッ!
「当たらんッ!」
両者倒れた状態だったが、ジーンが上体を起こして発砲。ゲノムは筋肉のばねを生かし、身体を跳ね上げる。足の間や尻尾の横を弾が掠めていく。
ゲノムが照準を合わせようとするが、それより早く、回し蹴りを浴びせられ、足を払われる。
「うぅんっ!!」
倒れこんだゲノムに照準をあわせようとするジーンだがそうはさせない。右手を掴んで阻止する。
ゲノムが照準を合わせようとするが、こちらも腕を掴まれた。そのまま取っ組み合う形で腕を動かすが、お互い射線を確保できない。
ジーンが体勢を入れ替え、馬乗りになろうとするが両足蹴りで吹っ飛ばされる。
「くっ!」
蹴り飛ばされたジーンだったが、巻き込まれて倒された机を素早く倒し、弾除けとする。敵が撃った数発が机を貫通し、身体を掠めるが、幸い、頭以外は防弾してある。
ジーンは腕だけ机の上に出し、牽制、ゲノムはバク転でこれを回避し、弾の陰に隠れる。
(魔法弾の残量確認・・・。)
ジーンはこの隙に銃をリロードする。本来、この武器にリロードはいらないが、悪魔相手ではそうも言っていられない。魔力量で負けている以上、事前にチャージしておいたマガジンを使って少しでも消費魔力を抑えたいたいからだ。
足音を殺し、相手の隠れている棚のすぐ近くまで言って、空のマガジンを投げる。
カランッ
音に反応し、ゲノムが銃を撃つ。それを待っていた!
物陰から突き出た腕をそのまま掴んで背負い投げの要領で投げる。
「ぐうっ!!」
背中を地面に叩きつけられながらもゲノムは追撃を許さず、腕を掴んで相手の銃口をそらす。弾丸がすぐ横に打ち込まれ、床の破片でほおを切ったがかまわない。
「むんっ!」
「うっ!」
下半身を跳ね上げてジーンの顔面にけりを浴びせる。そのまま戻る勢いをばねに起き上がり、銃をまるでサーバルで突き刺すように突き出し、発射。ジーンも腕で銃口をそらしながら身体後と回り込んでかわす。ゲノムは反転して敵が構えた銃を左手でそらし、右手で発砲。敵が顔を傾けて回避し、そのまま腕を掴んで銃口を下げさせる。
顔面に向けられた銃口をこちらも首をそらしてかわし、そのまま銃身を弾いて反転、銃を向けようとする。対するジーンもこれにあわせて反転、ひじを曲げてゲノムの伸ばされた腕が顔面に構えられないように防ぐ。
「ふんっ!はっ!!」
「おぐっ!?」
左手でフックがくる。かわして背後に回りこむも、読んでいた相手のコンバットキックを喰らい、ゲノムは壁に叩きつけられる。
ドンッドンッ!!
敵が腕を伸ばし、発砲してくる。恐れず飛び込み、敵の腕をひじまで使って抱え込む。
「はっ!!おりゃ!!」
「ぐっ!?」
ガラ空きのボディに蹴りを二発。そのまま毛身体をひねて今度はジーンを壁に叩きつける。照準を定め、発射。相手もかわす。
ジーンは反転して銃を構えようとしたが、それより早く壁をけって飛んだゲノムの蹴りが頭部に当たる。
だが、蹴り飛ばされた勢いそのまま反転しバレルで殴りつけようとする。ゲノムはこれをそってかわし、前蹴り。右手でガードされる。銃を構え、撃つ。
左手ではたかれ、当たらない。今度は相手が銃を構え、撃つ。体勢を下げてかわし、そのまま懐に飛び込む。敵も両腕を跳ね上げて組み付かれるのを回避し、撃つ。素早く横に飛びのき、構える。ジーンも反動で跳ね上がった腕をそのまま振り下ろして銃口をそらす。
さらに左手で腕を掴んで背後に回りこみ、羽交い絞めにする。右手の銃をこめかみに当てようとするが、ゲノムにつかまれ撃てなかった。
仕方なく足を蹴って、片ひざを付かせるが、相手はそれを利用してこちらを投げた。背中を丸めて、前転する。頭は上げない。後頭部に撃ち込まれるからだ。
弾丸が三発、背中に当たる。防弾使用の衣装で致命傷は負わないが、衝撃が伝わり、激痛が走る。
「―っ!!」
歯を食いしばって激痛に耐え、背後の敵に撃つ。ゲノムが射線から飛びのく。ジーンはその隙にリロードを済ませ、空のマガジンをブレードを向けて相手に投げつける。
裏拳で弾いた相手が銃口を構えるが、こちらも腕を突き出して、手の甲同士を打ち合わせる形にし、力づくで射線をそらす。相手も押し返して打つが、弾丸が発射されるより先に押しきり返し当たらない。
ゲノムは下から腕を跳ね上げるようにして膠着を解き、発砲。敵が頭をかしげるようにしてかわし、タックルを喰らわせる。途中何発か発砲するが、かまわずゲノムを壁に押し込む。
「ぐっ!」
壁に押し込み終えると、ワンステップ後ろに下がり発砲。左手でそらし、腕を交差させるように右手の銃を構え、発砲。相手も荒れるを掴んで上に向けさせ、弾丸は照明の一部を破壊した。
再び力比べの格好になったが、ゲノムは尻尾で相手の足の甲を刺した。
「ぐうあっ!?」
「ふぅん・・・!」
ひるんだ隙に体勢を入れ替え、今度はジーンを壁に叩きつける。ジーンは相手の顔を殴りつけ、すぐに銃を構えようとするが、
バシンッ!!
「なっ―!?」
壁に腕が吸い寄せられるように叩きつけられる。いや、そうではない。壁に縛り付けられているのだ!
「フ、・・・フフフ・・・・・・勝負あったな。」
ゲノムが口から血の混じったつばを吐き捨てながら銃を構える。殴られたときに少し口の中をきったようだ。
「ただ無駄にお前とガン=カタしてたわけじゃないさ。この部屋に入ったときからすでに、私は自分の触手を壁や床に張り巡らせていたのさ。お前の仕掛けたトラップのように、ね。」
「・・・・・・なるほど、接続による支配は無理でも捕縛による物理的な拘束は可能ってわけか。考えたね。」
不可視状態だった触手が現れる。がっちり両手を縛り付けていた。
「これで過去の因縁ともオサラバだ。私はお前の代用品でなく、私として生きていく。」
「・・・・・・ああ。好きにすればいいさ。だが、それなら何も世界を壊す必要はないだろう?」
「そうでもないさ。私達悪魔は、みんな神の理に馴染めなかった者。現に私はこの世界に生きていても、何もかもがプラスチックでできているような違和感を感じ続けている。」
「私はニセモノ。ホンモノとは相容れない。私の、私だけのホンモノは悪魔の力と、それをくれた友達だけさ。」
「その友達も世界に絶望していたよ。歪んだ正義と秩序に大事なものを奪われて。ねえ、ジーン。君は満足なのかい?こんな世界で。」
こんな、歪みを歪みと認識できないような世界で。こんな―悪魔を生み出してしまうような世界で。
「・・・・・・少なくとも私は生きていたかったさ。この世界で。」
「・・・・・・ああ、そう。まあ、それもこれで終わる。」
バァンッ!!
銃声。だが、
「んなっ!!」
当たらなかった。ジーンが触手を引きちぎって組み付いてきた。
「君が触手をはりめぐらせてることはわかっていたさ!!」
「くっ!?はっ―!!」
触手の断面を見てゲノムは気づいた。
「まさかおまえ―!!」
はずしたと思った弾丸やマガジンのブレードで触手に傷をつけていたのか・・・!
「そして、これで最後だ!!」
ジーンが何かのボタンを押す。
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ!!
「この部屋の壁、何故防弾してあったと思う?それはこの部屋の壁には爆弾を埋め込んであるからさ!!」
「なんだとっ!?」
(ガッデム!!やられた。領域を展開し、逃れなければ)
「魔法空間に逃れようとしても無駄だよ。スフィアが最後に撃った魔力光線から、どれくらいの力なら外部から破壊できるか分かっている!!」
「クソっ!!離れろ!!」
ゲノムが首にハンドアックスを突き立てる。血管を切断し、盛大に血が噴出すが力を緩めない。
「さあ、死ぬぞ。私!!今日が私の、命日だ!!」
「くっ、うおオォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
「かくれんぼのつもりか?無駄なことを・・・・・・。」
奴の場所は探知魔法で分かっている。と、ここで前方の触手が何かに触れた。
カチッ
「-!うぉ!?」
背後から撃たれた。間一髪かわしたが、弾丸が衣装の表面をすれて行った。奴のいる方角ではない。どこから撃たれた!?
「ぐっ・・・。」
射線から逃れるように横の机の陰に隠れる。
カチッ
「くっ!?」
今度は上からナイフが降ってきた。ゲノムはその場を素早く離れるが、飛びのいた先で足に何かが当たる。
カチッ
(またっ―!)
バァン!
「ふんっ!!」
斜め上からのライフル弾。銃のグリップエンドに装着されたハンドアックスで弾き返す。
(強化魔法・・・・・・探知能力強化!!)
強化魔法で、探知の精度を強化する。鋭敏化された魔法をとおして周囲のカラクリを視覚化する。
「・・・・・・!!これは―!!」
この区画のいたるところに武器とワイヤートラップが張り巡らされていた。足や身体があたってワイヤーが引っ張られると連動して武器が発射される仕組みか。
「チッ!オリジナルめ、複製した私の触手でトラップを―!!」
さらにこのワイヤーは複製したゲノムの触手だった。不可視で強化魔法をかけない限り魔力的なサーチにも引っかからないこれは罠にうってつけであった。
「そういうことさ。」
ハンドガンを構え、ゴーグルのルーペ部分をたおし、装着したジーンが金属むき出しの作業台の上から姿を現す。
「ここは君達を作っていた場所だ。因縁の終わりはここでつけるのがふさわしいだろう?」
ワイヤーを引き、左後ろのマシンガンを操作する―が、発砲より早くゲノムが気づき、銃身を撃たれて照準がずれてしまった。
「自分で作ったくせに―!」
「ふっ・・・だからこそ後始末ぐらいは自分で、・・・ね!」
構えたハンドガンの周囲に複数の魔法陣が現れ、そこから複製された銃口がズラリと並ぶ。
「Fire!」
一斉掃射。複数の弾が一気に襲ってくる。
「舐めるなっ!!」
ゲノムは弾道から当たる弾を割り出し、自身のハンドガンで打ち落とし、迎撃せしめる。
(ならば―!)
今とは反対方向、後方の足元にコンクリートの瓦礫の中に艤装、設置したライフルを撃つ。銃を持ち替え、ハンドアックスで切り払われた。
ジーンがハンドガンを撃って追撃する。
ゲノムは銃を投げ上げて、追撃を回避する。くるりと回転しながら射線から逃れ、投げ上げた銃を左手でキャッチ。
「はっ!!」
銃の三連射。ジーンもこれを右に左にとかわし、ワイヤーを操作、敵の背後のショットガンが火を噴く。
「なんのっ!」
だが相手も散弾を自身の弾でビリアードの様に弾き飛ばした。弾いた弾同士がかち合うように計算して撃ったのだ。
(なんて射撃力だ―!この反応速度、感覚、運動神経!!まさに悪魔的―!!)
敵の反撃がとんで来る。ジーンはこれを側転でかわし、次なる武器を操作した。
「物理攻撃でダメなら!」
火炎放射器が火を噴く。
「あっついな・・・・・・!!」
ゲノムは背中から三本の触手をあわせて立てのように展開し、火炎を直接浴びないように防ぐ。
(効いている!!)
だが、残念ながら敵の弾丸でワイヤーを切断されてしまった。
その後も何個か武器を操作してみるが紙一重でかわされている。大まかな思考パターンが同じだから次、どこから狙ってくるか分かってしまうのだ。
その後もゲノムは銃とハンドアックスを器用に使い分けて各種とラップを破壊していく。
(a-9、d-6、z-5が使用不能か・・・!)
ゴーグルのレンズに表示される監視カメラとリンクした各種武器情報が次々と断たれていく。
「こんな小細工で倒せるとは思っていないさ。ただ少しでも魔力と体力を削げれば・・・!!」
ブツンッ!!
「-!!」
と、ここで監視カメラの映像が途切れた。破壊されたのではない。映らなくなった。
「くらえぇ!!」
「がはっ!?」
その隙にゲノムが飛び蹴りを食らわせてきた。天井のパイプに触手を絡ませ、振り子のように勢いをつけて飛んできたのだ。
一階に叩きつけられる。
「はぁぁぁぁ!!」
ハンドアックスを構えて、そのまま作業台からゲノムが飛び降りてくる。ハンドガンを構えるが、間に合わない。横に転がって回避した。
「ふんっ!」
ひざ立ちの状態から発射。ダメか―!また触手を盾にされた。
ジーンは牽制射撃を続け、立ち上がる。相手の衣装の防弾性能は高い―!狙うのは頭部でないと。
「オリジナル!!」
相手が避けるのも面倒というように触手を盾にしながら突っ込んでくる。ジーンは銃を持ち替え、マガジン下に装備されたハンドアックスで迎え撃つ。
発射された三発をかわし、突き出された腕を掴んで、右側から脳天めがけて振り下ろす。敵が左手で腕を押さえて受け止める。お互い腕が使えないが、大使的には私に分がある!ジーンは斧を持つ手に力を加えるが、
メキッ
「がっ!?」
横からわき腹を殴られ、吹っ飛ばされた。見ると相手の尻尾にジャスミンと同じガントレットが装備されている。それをロケットパンチの要領で撃ち出して来たのだ。
「うおぁぁぁ!!」
吹っ飛ばされたジーンは、部屋のドアにぶつかり、その中に転がり込む。
「ふんっ、骨ごと砕いてやるつもりだったが、やはりお前の衣装も防弾仕様のようだな。」
ガントレットを消し、銃を構えたゲノムがゆっくり近づき背中に銃口を当てる。
「ワイヤートラップ、思ったより早く見切ったね。カメラの位置が分かっていたのかい?」
ジーンは両手を挙げる。
「ふんっ、私の魔法が電子機器にもつなげることは知っているだろう?あれだけの武器を離れた場所からワイヤーだけで操作するとなったら当然、カメラが仕掛けられているはずだ。」
「あとは武器の配置とそこから理想的な回避ポイントを割り出せば次の武器の位置、カメラの向きも、おのずと場所の見当は付く。」
ゲノムが解説してみせる。銃は構えたままだ。
「・・・・・・ブラボー。さすがは私だ。」
対するジーンは苦笑し、右手の銃を離す。
と、同時に―
「はっ!」
素早く反転してゲノムの銃口を右手でそらし、左手で自分の銃をキャッチ。バレルで顔を殴りつける。
しかしゲノムもひるまず、倒れこみながらも敵の頭に照準を合わせ発砲。
「うっ!?」
ジーンも同じように後ろに倒れこむことでこれを回避。
「ふんっ!!」
バンッ!バンッ!
「当たらんッ!」
両者倒れた状態だったが、ジーンが上体を起こして発砲。ゲノムは筋肉のばねを生かし、身体を跳ね上げる。足の間や尻尾の横を弾が掠めていく。
ゲノムが照準を合わせようとするが、それより早く、回し蹴りを浴びせられ、足を払われる。
「うぅんっ!!」
倒れこんだゲノムに照準をあわせようとするジーンだがそうはさせない。右手を掴んで阻止する。
ゲノムが照準を合わせようとするが、こちらも腕を掴まれた。そのまま取っ組み合う形で腕を動かすが、お互い射線を確保できない。
ジーンが体勢を入れ替え、馬乗りになろうとするが両足蹴りで吹っ飛ばされる。
「くっ!」
蹴り飛ばされたジーンだったが、巻き込まれて倒された机を素早く倒し、弾除けとする。敵が撃った数発が机を貫通し、身体を掠めるが、幸い、頭以外は防弾してある。
ジーンは腕だけ机の上に出し、牽制、ゲノムはバク転でこれを回避し、弾の陰に隠れる。
(魔法弾の残量確認・・・。)
ジーンはこの隙に銃をリロードする。本来、この武器にリロードはいらないが、悪魔相手ではそうも言っていられない。魔力量で負けている以上、事前にチャージしておいたマガジンを使って少しでも消費魔力を抑えたいたいからだ。
足音を殺し、相手の隠れている棚のすぐ近くまで言って、空のマガジンを投げる。
カランッ
音に反応し、ゲノムが銃を撃つ。それを待っていた!
物陰から突き出た腕をそのまま掴んで背負い投げの要領で投げる。
「ぐうっ!!」
背中を地面に叩きつけられながらもゲノムは追撃を許さず、腕を掴んで相手の銃口をそらす。弾丸がすぐ横に打ち込まれ、床の破片でほおを切ったがかまわない。
「むんっ!」
「うっ!」
下半身を跳ね上げてジーンの顔面にけりを浴びせる。そのまま戻る勢いをばねに起き上がり、銃をまるでサーバルで突き刺すように突き出し、発射。ジーンも腕で銃口をそらしながら身体後と回り込んでかわす。ゲノムは反転して敵が構えた銃を左手でそらし、右手で発砲。敵が顔を傾けて回避し、そのまま腕を掴んで銃口を下げさせる。
顔面に向けられた銃口をこちらも首をそらしてかわし、そのまま銃身を弾いて反転、銃を向けようとする。対するジーンもこれにあわせて反転、ひじを曲げてゲノムの伸ばされた腕が顔面に構えられないように防ぐ。
「ふんっ!はっ!!」
「おぐっ!?」
左手でフックがくる。かわして背後に回りこむも、読んでいた相手のコンバットキックを喰らい、ゲノムは壁に叩きつけられる。
ドンッドンッ!!
敵が腕を伸ばし、発砲してくる。恐れず飛び込み、敵の腕をひじまで使って抱え込む。
「はっ!!おりゃ!!」
「ぐっ!?」
ガラ空きのボディに蹴りを二発。そのまま毛身体をひねて今度はジーンを壁に叩きつける。照準を定め、発射。相手もかわす。
ジーンは反転して銃を構えようとしたが、それより早く壁をけって飛んだゲノムの蹴りが頭部に当たる。
だが、蹴り飛ばされた勢いそのまま反転しバレルで殴りつけようとする。ゲノムはこれをそってかわし、前蹴り。右手でガードされる。銃を構え、撃つ。
左手ではたかれ、当たらない。今度は相手が銃を構え、撃つ。体勢を下げてかわし、そのまま懐に飛び込む。敵も両腕を跳ね上げて組み付かれるのを回避し、撃つ。素早く横に飛びのき、構える。ジーンも反動で跳ね上がった腕をそのまま振り下ろして銃口をそらす。
さらに左手で腕を掴んで背後に回りこみ、羽交い絞めにする。右手の銃をこめかみに当てようとするが、ゲノムにつかまれ撃てなかった。
仕方なく足を蹴って、片ひざを付かせるが、相手はそれを利用してこちらを投げた。背中を丸めて、前転する。頭は上げない。後頭部に撃ち込まれるからだ。
弾丸が三発、背中に当たる。防弾使用の衣装で致命傷は負わないが、衝撃が伝わり、激痛が走る。
「―っ!!」
歯を食いしばって激痛に耐え、背後の敵に撃つ。ゲノムが射線から飛びのく。ジーンはその隙にリロードを済ませ、空のマガジンをブレードを向けて相手に投げつける。
裏拳で弾いた相手が銃口を構えるが、こちらも腕を突き出して、手の甲同士を打ち合わせる形にし、力づくで射線をそらす。相手も押し返して打つが、弾丸が発射されるより先に押しきり返し当たらない。
ゲノムは下から腕を跳ね上げるようにして膠着を解き、発砲。敵が頭をかしげるようにしてかわし、タックルを喰らわせる。途中何発か発砲するが、かまわずゲノムを壁に押し込む。
「ぐっ!」
壁に押し込み終えると、ワンステップ後ろに下がり発砲。左手でそらし、腕を交差させるように右手の銃を構え、発砲。相手も荒れるを掴んで上に向けさせ、弾丸は照明の一部を破壊した。
再び力比べの格好になったが、ゲノムは尻尾で相手の足の甲を刺した。
「ぐうあっ!?」
「ふぅん・・・!」
ひるんだ隙に体勢を入れ替え、今度はジーンを壁に叩きつける。ジーンは相手の顔を殴りつけ、すぐに銃を構えようとするが、
バシンッ!!
「なっ―!?」
壁に腕が吸い寄せられるように叩きつけられる。いや、そうではない。壁に縛り付けられているのだ!
「フ、・・・フフフ・・・・・・勝負あったな。」
ゲノムが口から血の混じったつばを吐き捨てながら銃を構える。殴られたときに少し口の中をきったようだ。
「ただ無駄にお前とガン=カタしてたわけじゃないさ。この部屋に入ったときからすでに、私は自分の触手を壁や床に張り巡らせていたのさ。お前の仕掛けたトラップのように、ね。」
「・・・・・・なるほど、接続による支配は無理でも捕縛による物理的な拘束は可能ってわけか。考えたね。」
不可視状態だった触手が現れる。がっちり両手を縛り付けていた。
「これで過去の因縁ともオサラバだ。私はお前の代用品でなく、私として生きていく。」
「・・・・・・ああ。好きにすればいいさ。だが、それなら何も世界を壊す必要はないだろう?」
「そうでもないさ。私達悪魔は、みんな神の理に馴染めなかった者。現に私はこの世界に生きていても、何もかもがプラスチックでできているような違和感を感じ続けている。」
「私はニセモノ。ホンモノとは相容れない。私の、私だけのホンモノは悪魔の力と、それをくれた友達だけさ。」
「その友達も世界に絶望していたよ。歪んだ正義と秩序に大事なものを奪われて。ねえ、ジーン。君は満足なのかい?こんな世界で。」
こんな、歪みを歪みと認識できないような世界で。こんな―悪魔を生み出してしまうような世界で。
「・・・・・・少なくとも私は生きていたかったさ。この世界で。」
「・・・・・・ああ、そう。まあ、それもこれで終わる。」
バァンッ!!
銃声。だが、
「んなっ!!」
当たらなかった。ジーンが触手を引きちぎって組み付いてきた。
「君が触手をはりめぐらせてることはわかっていたさ!!」
「くっ!?はっ―!!」
触手の断面を見てゲノムは気づいた。
「まさかおまえ―!!」
はずしたと思った弾丸やマガジンのブレードで触手に傷をつけていたのか・・・!
「そして、これで最後だ!!」
ジーンが何かのボタンを押す。
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ!!
「この部屋の壁、何故防弾してあったと思う?それはこの部屋の壁には爆弾を埋め込んであるからさ!!」
「なんだとっ!?」
(ガッデム!!やられた。領域を展開し、逃れなければ)
「魔法空間に逃れようとしても無駄だよ。スフィアが最後に撃った魔力光線から、どれくらいの力なら外部から破壊できるか分かっている!!」
「クソっ!!離れろ!!」
ゲノムが首にハンドアックスを突き立てる。血管を切断し、盛大に血が噴出すが力を緩めない。
「さあ、死ぬぞ。私!!今日が私の、命日だ!!」
「くっ、うおオォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
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22話
「ゲノムっ!」
工場の大爆発を見たらプラスは飛んで行った。
俺の魔法では目の前の相手のきわめて近い未来しか見えない。あいつは無事なのか!?
(もうあんな思いは勘弁だ!!生きていてくれよゲノム!!)
爆発の火を自身に吸い込んで消す。瓦礫だらけで姿が見えない。
ガラッ・・・・・・
「-!!」
背後の瓦礫の下から何かが出てくる。
「うっ―!?」
焼け焦げた首なし死体だ。そしてその下からは、
「ゲホッ、ゲホッ・・・。」
体のいたるところにやけどを負っているが、黒毛に緑縞の・・・!!
「くっ、うおオォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
爆発の刹那、ゲノムは最後の力でジーンの首を切断し、死体を爆発から身を守るために被ると地面に伏せた。領域と、強化魔法に守護魔法。できる防御手段は全て使った。
(ぐ、グググ・・・・・・あ、危なかった!!オリジナルめ!!)
(予想外だった―!!あれほど生きることに執着し、私を生み出すほどにあがいていたオリジナルが―!自爆するとは・・・!!)
床にまで爆弾が仕掛けられていたら逃げ場をなくし、アウトだった。それに抜きにしても領域の壁を吹き飛ばし、結界も破られ、爆発に身を焼かれ、もだえ苦しんだ。
何とか瓦礫を押しのけ、外の空気を吸い込む。肺が痛い。
だが、-
「ク、ククク・・・・・・クアハハハ・・・・ハッハッハッハッハ!!アーハッハッハッハッハッハ!!」
殺した!!殺したぞ!!オリジナルを、ジーンを、この手で!!
「フフフ、ウフフフフ、アヒャヒャヒャヒャヒャ・・・アヒ、アヒ、アヒ!!」
笑いすぎて腹が痛い。もう私は誰の代替品でもない。私は私だ!ゲノムだ!!
「ひー、ひー、・・・ゲホッ、ゲホッ・・・・・・。」
笑いすぎた。と、誰か近づいてくる。まずいな・・・今はもう魔力も体力も限界・・・・・・?
「お前、-・・・・ゲノムか?それとも・・・・・・!!」
ああ、ラプラス。君だったのか。私がどっちかわからないのか?・・・まあ変身もしてないし魔力もスッカラカンではな。
「・・・・・・。ラプラス、ナハトのくしゃみで負ったやけどはもう良いのかい?」
「-ゲノムっ!!無事だったか!!」
ゲノムは力なく微笑む。
「魔力も体力もスッカラカンさ。最後の最後にやってくれたよ、全く・・・・・・。」
ラプラスに抱きかかえられながらゲノムは首なし死体を見やる。
「だが、勝ったぞ。ふふふ・・・今日が私の命日で、二度目の誕生日というわけだ、あは、あはは・・・・・・。」
「ゲノム・・・・・・。」
狂ったように笑い続けるゲノムをラプラスは複雑な面持ちで見つめていた。
「さて、ラプラス。私の目的はおおむね果たした。次は君の番だ。」
「一緒にこの世を地獄に変えようじゃないか・・・ククク。」
こうしてゲノムは自らの力で二度目の誕生を遂げたのだった。
「ああ、そうだ何か誕生日プレゼントが欲しいね。」
「・・・・・・今のお前にやれるのは治療だけだ。」
工場の大爆発を見たらプラスは飛んで行った。
俺の魔法では目の前の相手のきわめて近い未来しか見えない。あいつは無事なのか!?
(もうあんな思いは勘弁だ!!生きていてくれよゲノム!!)
爆発の火を自身に吸い込んで消す。瓦礫だらけで姿が見えない。
ガラッ・・・・・・
「-!!」
背後の瓦礫の下から何かが出てくる。
「うっ―!?」
焼け焦げた首なし死体だ。そしてその下からは、
「ゲホッ、ゲホッ・・・。」
体のいたるところにやけどを負っているが、黒毛に緑縞の・・・!!
「くっ、うおオォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
爆発の刹那、ゲノムは最後の力でジーンの首を切断し、死体を爆発から身を守るために被ると地面に伏せた。領域と、強化魔法に守護魔法。できる防御手段は全て使った。
(ぐ、グググ・・・・・・あ、危なかった!!オリジナルめ!!)
(予想外だった―!!あれほど生きることに執着し、私を生み出すほどにあがいていたオリジナルが―!自爆するとは・・・!!)
床にまで爆弾が仕掛けられていたら逃げ場をなくし、アウトだった。それに抜きにしても領域の壁を吹き飛ばし、結界も破られ、爆発に身を焼かれ、もだえ苦しんだ。
何とか瓦礫を押しのけ、外の空気を吸い込む。肺が痛い。
だが、-
「ク、ククク・・・・・・クアハハハ・・・・ハッハッハッハッハ!!アーハッハッハッハッハッハ!!」
殺した!!殺したぞ!!オリジナルを、ジーンを、この手で!!
「フフフ、ウフフフフ、アヒャヒャヒャヒャヒャ・・・アヒ、アヒ、アヒ!!」
笑いすぎて腹が痛い。もう私は誰の代替品でもない。私は私だ!ゲノムだ!!
「ひー、ひー、・・・ゲホッ、ゲホッ・・・・・・。」
笑いすぎた。と、誰か近づいてくる。まずいな・・・今はもう魔力も体力も限界・・・・・・?
「お前、-・・・・ゲノムか?それとも・・・・・・!!」
ああ、ラプラス。君だったのか。私がどっちかわからないのか?・・・まあ変身もしてないし魔力もスッカラカンではな。
「・・・・・・。ラプラス、ナハトのくしゃみで負ったやけどはもう良いのかい?」
「-ゲノムっ!!無事だったか!!」
ゲノムは力なく微笑む。
「魔力も体力もスッカラカンさ。最後の最後にやってくれたよ、全く・・・・・・。」
ラプラスに抱きかかえられながらゲノムは首なし死体を見やる。
「だが、勝ったぞ。ふふふ・・・今日が私の命日で、二度目の誕生日というわけだ、あは、あはは・・・・・・。」
「ゲノム・・・・・・。」
狂ったように笑い続けるゲノムをラプラスは複雑な面持ちで見つめていた。
「さて、ラプラス。私の目的はおおむね果たした。次は君の番だ。」
「一緒にこの世を地獄に変えようじゃないか・・・ククク。」
こうしてゲノムは自らの力で二度目の誕生を遂げたのだった。
「ああ、そうだ何か誕生日プレゼントが欲しいね。」
「・・・・・・今のお前にやれるのは治療だけだ。」
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23話
ゲノムとジーンの決戦から一週間が経過した。重症のゲノムはあのあとすぐに眠ってしまった。
「ゲノムはまだ目を覚まさない・・・・・・か。」
共用スペースの中でラプラス達は今後の予定を見直していた。
「傷自体は塞がって来ているし、大丈夫さ。それとひとつ良い知らせがある。」
対面するナハトは逆様のままラプラスに語りかける。
「もうすぐ呪いの量が一定値を超え、世界のバランスは一気に傾く。”邪悪の樹”がもうすぐ完成するわけだ。」
ナハトがゲノムの情報端末を指し示しながら言う。端末に表示された10の殻を持つクリフォトの図式が着々と力を蓄えている。
「ふーん、やっとか。ビースト倒したり感情石撒いたりするのも飽き飽きしてたしちょうどいいかもねー。」
レヴィはソファに寝転んだまま足をバタつかせ喜ぶ。
ラプラスは子供らしいその様子を少しほほえましげに見つめたあと自分達の方針を告げる。
「よし、ゲノムが復帰しだい計画を進めるぞ。もっとも、"邪悪の樹”が完成すれば俺達がかったも同然だがな。」
「了解だ。アハハハ!!楽しくなってきたね。待ち遠しいよ。」
ナハトが空中ブランコを揺らして笑う。目の前を揺られていったりきたりするその姿をやや迷惑そうに、半ばあきらめた表情で眺めるラプラス。
レヴィはそれを尻目にソファから立ち上がる。
(ゲノちゃんは自分の因縁にケリをつけた。私もそうしないとね・・・・・・)
紫の悪魔は因縁の相手を思い浮かべながら人知れず領域を後にした。
無数の花が咲き誇る美しい草原が広がっていた。中央には巨大な神殿。ここは天国。ケットシーたちの行き着く先。神と上位の天使達が暮らすこの神殿で、二匹の天使が言い争っていた。
「お願いです!天使長様!!下界に行かせてください!!」
椿の花の様に赤い毛並みをした天使は、目の前に座る純白の毛を持つ天使エヴァ=ミカに悪魔討伐参加を懇願していた。
「だめだ。何度も言っているが、それはできない。」
エヴァは外見年齢では目の前の天使よりはるかに幼いが、身に纏う覇気がそれを感じさせない。
「いいかい、カメリア。君は悪魔を倒す気はないんだろう?」
「-ッ!」
赤い天使、カメリアは図星を突かれたように言葉に詰まる。
「レヴィがああなったのは、私の所為です。だから―!!」
「君のその優しさは評価に値する。だが、だからだめなんだ。君は彼女に同情している。悪魔に同情などしてはならない。」
「それは―!」
「神の救済に疑問を持つものは誰一人としていてはならない。例外をひとつでも許せば、悪魔は際限なく増え続けるだろう。」
「そんなことになればケットシーたちの運命はまた絶望の中に逆戻りだ。」
「良いかいカメリア。我々ケットシーは身に余る願いを叶えたんだ。世界の条理を覆してね。そして魔物になることでしか払えなかったそのツケを、神は自分の存在を犠牲にしてまで、現世からの消滅という形に変え、軽くしてくれたんだ。」
「願いをかなえた責任として死ぬまで戦うのは当然。救済の恩義に報い、それを手伝うのもまた当然。それを跳ね除け、あまつさえ破壊しようなどと言う自分勝手なやからは許されないだろう?」
「それは・・・・・・。」
どこか納得の行かない様子のカメリアを前にエヴァはため息をつく。
「もう良い。下がりなさい。悪魔は倒さねばならない。これは決定事項だ。それともカメリア、君には悪魔になった彼女を元に戻す力でもあるのかい?」
「・・・・・・。」
正論だ。確かにカメリアにレヴィを元に戻す方法はない。だがそれでも行かずにはいられない。
(こなったら無理にでも行くしかない。鈴蘭、ジャスミン、あなた達を助けなければ。そしてレヴィ、あなたに謝らなければ・・・・・・)
カメリアは暗い顔のまま一礼し、その場を去った。その背中を見送ったエヴァは花瓶に刺さったルドベキアの花を愛でながら呟く。
「”正義”は私達にある。この世界は悪魔がいてはならない世界なのだ・・・・・・。」
かくして運命の糸はまた絡み合う。
「ゲノムはまだ目を覚まさない・・・・・・か。」
共用スペースの中でラプラス達は今後の予定を見直していた。
「傷自体は塞がって来ているし、大丈夫さ。それとひとつ良い知らせがある。」
対面するナハトは逆様のままラプラスに語りかける。
「もうすぐ呪いの量が一定値を超え、世界のバランスは一気に傾く。”邪悪の樹”がもうすぐ完成するわけだ。」
ナハトがゲノムの情報端末を指し示しながら言う。端末に表示された10の殻を持つクリフォトの図式が着々と力を蓄えている。
「ふーん、やっとか。ビースト倒したり感情石撒いたりするのも飽き飽きしてたしちょうどいいかもねー。」
レヴィはソファに寝転んだまま足をバタつかせ喜ぶ。
ラプラスは子供らしいその様子を少しほほえましげに見つめたあと自分達の方針を告げる。
「よし、ゲノムが復帰しだい計画を進めるぞ。もっとも、"邪悪の樹”が完成すれば俺達がかったも同然だがな。」
「了解だ。アハハハ!!楽しくなってきたね。待ち遠しいよ。」
ナハトが空中ブランコを揺らして笑う。目の前を揺られていったりきたりするその姿をやや迷惑そうに、半ばあきらめた表情で眺めるラプラス。
レヴィはそれを尻目にソファから立ち上がる。
(ゲノちゃんは自分の因縁にケリをつけた。私もそうしないとね・・・・・・)
紫の悪魔は因縁の相手を思い浮かべながら人知れず領域を後にした。
無数の花が咲き誇る美しい草原が広がっていた。中央には巨大な神殿。ここは天国。ケットシーたちの行き着く先。神と上位の天使達が暮らすこの神殿で、二匹の天使が言い争っていた。
「お願いです!天使長様!!下界に行かせてください!!」
椿の花の様に赤い毛並みをした天使は、目の前に座る純白の毛を持つ天使エヴァ=ミカに悪魔討伐参加を懇願していた。
「だめだ。何度も言っているが、それはできない。」
エヴァは外見年齢では目の前の天使よりはるかに幼いが、身に纏う覇気がそれを感じさせない。
「いいかい、カメリア。君は悪魔を倒す気はないんだろう?」
「-ッ!」
赤い天使、カメリアは図星を突かれたように言葉に詰まる。
「レヴィがああなったのは、私の所為です。だから―!!」
「君のその優しさは評価に値する。だが、だからだめなんだ。君は彼女に同情している。悪魔に同情などしてはならない。」
「それは―!」
「神の救済に疑問を持つものは誰一人としていてはならない。例外をひとつでも許せば、悪魔は際限なく増え続けるだろう。」
「そんなことになればケットシーたちの運命はまた絶望の中に逆戻りだ。」
「良いかいカメリア。我々ケットシーは身に余る願いを叶えたんだ。世界の条理を覆してね。そして魔物になることでしか払えなかったそのツケを、神は自分の存在を犠牲にしてまで、現世からの消滅という形に変え、軽くしてくれたんだ。」
「願いをかなえた責任として死ぬまで戦うのは当然。救済の恩義に報い、それを手伝うのもまた当然。それを跳ね除け、あまつさえ破壊しようなどと言う自分勝手なやからは許されないだろう?」
「それは・・・・・・。」
どこか納得の行かない様子のカメリアを前にエヴァはため息をつく。
「もう良い。下がりなさい。悪魔は倒さねばならない。これは決定事項だ。それともカメリア、君には悪魔になった彼女を元に戻す力でもあるのかい?」
「・・・・・・。」
正論だ。確かにカメリアにレヴィを元に戻す方法はない。だがそれでも行かずにはいられない。
(こなったら無理にでも行くしかない。鈴蘭、ジャスミン、あなた達を助けなければ。そしてレヴィ、あなたに謝らなければ・・・・・・)
カメリアは暗い顔のまま一礼し、その場を去った。その背中を見送ったエヴァは花瓶に刺さったルドベキアの花を愛でながら呟く。
「”正義”は私達にある。この世界は悪魔がいてはならない世界なのだ・・・・・・。」
かくして運命の糸はまた絡み合う。
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23話
ジャスミンは走っていた。時間は深夜。街頭の明かりしかない夜の町だ。
「ジャスミン!」
「スズちゃん!」
十字路から鈴蘭が合流する。
本来ならこんな時間に年端も行かない少女が出歩くなどあってはならないことだが、彼女達には事情がある。ビーストだ。
反応があったのは同じ町とはいえ、彼女達の地区とだいぶ離れたほうだった。急ぐ二匹だったがここで足を止める。
「反応が!?」
新しい反応が現れたのだ。気づいたときにはすでに敵の攻撃が始まった。
「うっ・・・・・・!」
「っ・・・・・・!!」
ビーストのレーザーを回避しつつ、変身し、相手を見据える。反応は数体。
空にはアノマロカリスのような形態に海老のような足とはさみを有した個体が2体。
目の前には複数の足と触手、細い胴体。ハルキゲニアにも似た姿の個体が一体。戦力としてはたいしたことはなかった。
ハルキゲニアに似た異形の巨体が、リング状に生えた牙を剥く。次のレーザーがチャージされていた。
「ジャスミン!発射と同時に走って!!町外れに出たほうをお願い。すぐ追いつくから!」
「うん!分かった。任せるよスズちゃん!!」
爆発を背にジャスミンが走る。鈴蘭は爆風を利用して飛び上がり、浮遊するアノマロカリスタイプの一体に飛び乗り、剣を突き刺した。
(任せたわよ・・・ジャスミン!!)
「あはっ!そうだよ・・・・・・こっちにおいで。一人で・・・・・・ね。」
妹が来る。レヴィは自身の双角でそれを感じ取り、楽しげにしていた。今回のビーストは彼女が自分の魔法で操っているのだ。
ついにこの日が来たのだ。ジャスミンを・・・・・・殺す。
「さて、そこらへんの住宅地の猫達でもビーストのエサにしちゃおうかな?そうすればあの子だって怒って本気になるもんね。」
「嗚呼、楽しみだなぁ。正義の味方ってどんな顔で死ぬのかな?」
レヴィは考えただけでニヤニヤが留まらなかった。魔法で操ったビーストたちに指令を与えようとする。
しかし―。
「やめなさい。レヴィ。」
突如使役していたビーストたちが燃え上がり、絶叫の後に息絶え、消滅していく。
「―!!」
聞き覚えのある、懐かしい声だった。
目の前に刀を差した和装のケットシーが降り立つ。
ずっと逢いたかった、ずっと憎かった。ずっと待っていた。その相手が目の前に現れたのだ。
嬉しさ、怒り、悲しみ、疑問、後悔、憎悪。あらゆる感情がめまぐるしく彼女の中を駆け巡る。
言いたいこと、聞きたいことなら山ほどあった。
なぜ、私を置いてあっさり死んだ?
なぜ、抜け駆けした妹をしからなかった?
なぜ、鈴蘭ちゃんのほうが優先なんだ?
なぜ、私を一番に見てくれなかった?
何が悪かった?どうすればよかった?
本当は私のことが嫌いだったのか?
なぜ、中途半端な優しさしか注げないくせに私の心に入ってきた?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ、―もっと早くに来てくれなかったのか?
「カメリア―・・・・・・いまさら何しに来たの?」
「ジャスミン!」
「スズちゃん!」
十字路から鈴蘭が合流する。
本来ならこんな時間に年端も行かない少女が出歩くなどあってはならないことだが、彼女達には事情がある。ビーストだ。
反応があったのは同じ町とはいえ、彼女達の地区とだいぶ離れたほうだった。急ぐ二匹だったがここで足を止める。
「反応が!?」
新しい反応が現れたのだ。気づいたときにはすでに敵の攻撃が始まった。
「うっ・・・・・・!」
「っ・・・・・・!!」
ビーストのレーザーを回避しつつ、変身し、相手を見据える。反応は数体。
空にはアノマロカリスのような形態に海老のような足とはさみを有した個体が2体。
目の前には複数の足と触手、細い胴体。ハルキゲニアにも似た姿の個体が一体。戦力としてはたいしたことはなかった。
ハルキゲニアに似た異形の巨体が、リング状に生えた牙を剥く。次のレーザーがチャージされていた。
「ジャスミン!発射と同時に走って!!町外れに出たほうをお願い。すぐ追いつくから!」
「うん!分かった。任せるよスズちゃん!!」
爆発を背にジャスミンが走る。鈴蘭は爆風を利用して飛び上がり、浮遊するアノマロカリスタイプの一体に飛び乗り、剣を突き刺した。
(任せたわよ・・・ジャスミン!!)
「あはっ!そうだよ・・・・・・こっちにおいで。一人で・・・・・・ね。」
妹が来る。レヴィは自身の双角でそれを感じ取り、楽しげにしていた。今回のビーストは彼女が自分の魔法で操っているのだ。
ついにこの日が来たのだ。ジャスミンを・・・・・・殺す。
「さて、そこらへんの住宅地の猫達でもビーストのエサにしちゃおうかな?そうすればあの子だって怒って本気になるもんね。」
「嗚呼、楽しみだなぁ。正義の味方ってどんな顔で死ぬのかな?」
レヴィは考えただけでニヤニヤが留まらなかった。魔法で操ったビーストたちに指令を与えようとする。
しかし―。
「やめなさい。レヴィ。」
突如使役していたビーストたちが燃え上がり、絶叫の後に息絶え、消滅していく。
「―!!」
聞き覚えのある、懐かしい声だった。
目の前に刀を差した和装のケットシーが降り立つ。
ずっと逢いたかった、ずっと憎かった。ずっと待っていた。その相手が目の前に現れたのだ。
嬉しさ、怒り、悲しみ、疑問、後悔、憎悪。あらゆる感情がめまぐるしく彼女の中を駆け巡る。
言いたいこと、聞きたいことなら山ほどあった。
なぜ、私を置いてあっさり死んだ?
なぜ、抜け駆けした妹をしからなかった?
なぜ、鈴蘭ちゃんのほうが優先なんだ?
なぜ、私を一番に見てくれなかった?
何が悪かった?どうすればよかった?
本当は私のことが嫌いだったのか?
なぜ、中途半端な優しさしか注げないくせに私の心に入ってきた?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
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なぜ、―もっと早くに来てくれなかったのか?
「カメリア―・・・・・・いまさら何しに来たの?」
DCD- 見習い
- 投稿数 : 20
Join date : 2016/04/16
24話
―過去、風霧市―
二匹の猫が居間で話している。一匹は大人。一匹は子供。大人のほうの猫、カメリアは居心地悪そうにそっぽを向いて座る子猫、レヴィにしっかりと正面を向いて話しかけていた。
「どうしたら心を開いてくれますか?」
カメリアは問う。家政婦として、この家に着てからしばらくたつが、レヴィは中々自分に心を開こうとはしなかった。
「私に何か悪い所があったなら、わたし、頑張って直しますから。」
「・・・・・・。」
その言葉に顔を上げたレヴィは、しばらく沈黙したあと、口を開いた。
「あなたが私の”家族"をとっちゃうからだよ。」
「盗る?家族を?」
カメリアの疑問に対しレヴィは睨みを効かせながら答えた。
「だってそうじゃん。ジャスミンはあなたといるほうが楽しそうだもん。」
心優しく、カメリアにもすぐ懐いたジャスミンとは対照的に、レヴィは意地の悪い子だった。優しいカメリアに対して不躾な態度で接し、小さなことでポツリ、ポツリと嫌味を言う。家族の中でもういた存在になっているのは明白だった。
これは裏切られ続ける人生の中で彼女が見に付けた他人との距離の測り方だった。
自分はこんなことをする。こんな嫌な事も言う。それでも自分と仲良くなりたいのか?と。
夢中で、無意味に傷つけ、傷つくことでしか生きられない。短い人生の中で彼女が出したか弱い心の守り方でもあった。
「どうしたら、あなたの傍に、居ていいですか?」
「・・・・・・何言ってるか分かってるの?私、嫌な子だよ?そんなのと一緒に居たいなんて、あなた、頭おかしいんじゃない?」
「それでも、あなたをほうっては置けませんから。」
「・・・・・・なら、私の、私達のお母さんになってくれる?どんなときでも私と、ジャスミンの事だけ、見ていてくれる?」
「あなたがそれを望むなら、喜んで!」
「・・・・・・約束だよ。嘘ついたら針千本飲ますよ?」
「はい!約束です!!」
それからのレヴィは別人のようだった。カメリアとの言いつけをよく聞き、妹とも仲良く。明るかった。
(嗚呼、良かった。もう大丈夫ね、この子は)
カメリアは安堵した。もう大丈夫だ。レヴィは賢い子。きっと一人でももう大丈夫だ。
しかしそれは大いなる間違い。
―現在―
「いまさら何しに来たの?」
気が狂いそうな堂々巡りの疑問の嵐が頭を吹き荒れた末、レヴィが出した言葉はそれだった。
いまさら何をしにきた。何故もっと早く来てくれなかったのか。嗚呼、ダメだ。また堂々巡りが始まってしまう。さっさと答えてよ。
「・・・・・・あなたを止めるため、そしてあなたに謝るためですよ・・・・・・レヴィ。」
優しい声だ。ずっと聞きたかった。でもなんでだろう。すごく―ムカつく。
「止める?謝る?あはっ!何のために?」
レヴィは一気に距離をつめ、喉元に刃を突きつける。
「私のことなんて、何もわかってないくせに。」
カメリアは悲しそうな顔でそれを見つめ返し、
「ごめんなさい、レヴィ。私はあなたのことを分かってあげられなかった。あなたを、・・・・・・一人にしてしまった。」
カメリアの言葉にレヴィはギリッっと歯軋りをし、刃を下げる。
一人にしてしまっただと?
「ねぇカメリア。約束って守るべきものだよね?破った奴は罰を受けるんだよね?」
「・・・・・・ええ。その通りです。」
「あはっ!なら約束を破ったジャスミンは罰を受けなきゃいけなかったでしょ?私は約束を守ったのに一人になっちゃった。」
「可笑しいよね?でも本当は可笑しくないんだよ。」
「だって悪役はハッピーエンドにはたどり着けないもんね。」
片手剣を手の中で回しながらレヴィは歩き始める。
「あなたにとっての私ってどんな子だったのカメリア?」
腕を後頭部で組み、ぶらぶらと周囲を歩く。
「賢い子?意地の悪い子?引っ付いてくるウザイガキ?一人でも大丈夫な子?」
彼女が持っていそうな印象を片っ端から挙げ連ねる。そして、ある一転でぴたりと足を止めた。
「答えは全部バーツ!!正解はぁ―!!」
ヒュン!!剣が振り下ろされる。
「悪魔だよ。」
カメリアの炎で半死体となっていたビーストの首がボトリと地面に落ちる。
「違います。レヴィ、あなたは悪魔なんかじゃない。」
「悪魔だよ。だから誰からも選んでもらえない。一番に思って、もらえない。」
後半をかみ殺すようにつぶやく。しかし振り向いたレヴィの顔は笑顔になっていた。
「だ・か・ら、どうせ悪役で居るなら悪魔になってやろうって思ったの。きっと世界中の人を呪い殺したらみんな私を怨んで死んでいく。そしたら寂しく無くなるかなぁーって。」
無邪気で、とてもかわいらしく、おぞましい笑顔だった。
「さて、悪魔になっちゃった以上、あなたに私を止めることなんてはなっから無理なんだよ。」
「悪魔は存在するだけで呪いをばら撒く。例え私がジャスミンや鈴蘭ちゃんをどーでもいいと割り切って、ラプちゃんたちともバイバイ下ってそれは変わらない。」
「許せないでしょ?正義の味方さん。」
剣を構える。
「来なよ、カメリア!文字通り神の世界への引導を渡してあげるからさぁ!!」
そして、突撃する。カメリアが刀に手をかけた。
ガキィンッ!!
「ッ!」
レヴィの剣が弾かれ、地面に刺さる。見事な居合いだ。全く見えなかった。
「あはっ・・・・・・強いじゃん。」
(そうだ―それでいい。正義の味方らしく私を殺してみろ!!)
「・・・・・・・・・・・・え?」
一瞬何が起きたのか分からなかった。私はカメリアに、抱きしめられていた。
「例え悪魔になっても私はあなたを愛しています。例え世界が敵に回っても、あなたを守ります。-母親として。」
強く抱きしめられて、刺さった棘装束。血が掛かる。棘を通して温もりと鼓動を感じる。優しいな。
「あなたの死に顔。ただただ恨めしかったよ。全てに満足してるようで。」
抱きしめられながらレヴィは話す。
「ケットシーの宿命なんてどうでもいい。大事な人といられるなら痛みだって愛おしい。事実、ジャスミンは楽しそうだったもの。」
「でも約束だったから。だから寂しくても我慢したんだよ?そうしたらいつか、私のほうも見てくれるって、期待してたんだよ?」
「でも、あなたは最後まで鈴蘭ちゃんとジャスミンしか見てくれていなかった。私なんて眼中に無かった。」
「ねぇ、どうして私じゃダメだったの?鈴蘭ちゃんが優先なの?」
ポタ、ポタと血が滴る。
「あの子は、私だからです。」
「鈴蘭ちゃんが?」
「私も親をビーストによって失いました。私はあの子に、自分を見ていたんです。そして、あの子が私のようになりたいといって契約したと知ったとき、あの子を守らなければと思ったんです。・・・・・・巻き込んでしまったから。」
「・・・・・・そっか。」
(あの子を助けて、導けば自分も救われると、思ってたんだね。・・・・・・なるほど、私じゃダメな訳だ。)
「あーあ。悔しいな。本当に悔しい。その"役"は私が欲しかったなー。必要として、欲しかったな。」
涙が出てきた。本当に悔しい。本当、大っ嫌いだあの子。
カメリアはレヴィの頬をそっと撫でた。血糊が頬を染める。
「必要ですよ。あなたは私の娘。鈴蘭とも、ジャスミンとも違う。違って、良いんです。」
「皆一緒ではつまらないでしょう?帰りましょう。私達は家族です。」
「-!!」
ブワッっと、涙があふれた。そっか、ちゃんと私を見てくれるんだ。必要として、くれるんだ。
「うれしいよ。カメリア。その言葉、本当にうれしい。」
そう、必要そしてくれる。そして家族か。
ザクッ!!
「ガッ!?」
「うれしいよカメリア。その愛に偽りが無ければ・・・・・・ね。」
右手に再召喚した剣が深々とカメリアの腹部を貫いていた。
「いや、偽りは無いか。確かに"今"は私を一番に見てくれてる。けど―。」
剣を引き抜き、自分の角をツン、ツンと突く。
「やっぱり心のどこかじゃ思ってるよね?赦されたい。私を悪魔にしちゃった罪から救われたいって。」
「ちが・・・・・・・私、は・・・・・・。」
地面に倒れたカメリアを冷酷に見下しながら、レヴィは言い放つ。
「・・・・・・赦される訳無いじゃん。中途半端な善意はね、かえって相手を不幸にするんだよ。また同じことをしようとしたね。」
「ああ、そうそう。約束だったよね?嘘ついたら針千本飲ますって。」
針を突き刺す。
「あ、・・・・・・・ああ・・・・・・。」
カメリアの体が消えていく。神の世界へ帰るのだ。
「バイバイ。悪魔として生んでくれてありがとう。お母さん。」
「-・・・。」
針が体内で炸裂し、血肉片が飛び散る。
カシャンッ!
後ろから音がする。誰かは分かっている。ジャスミンだ。
「レヴィ・・・・・・?いまのって・・・・・・。」
驚愕の表情のままたたずむ妹にレヴィはニタァ・・・っと笑いかける。
「やあ、ジャスミン。あっそびっましょ?」
二匹の猫が居間で話している。一匹は大人。一匹は子供。大人のほうの猫、カメリアは居心地悪そうにそっぽを向いて座る子猫、レヴィにしっかりと正面を向いて話しかけていた。
「どうしたら心を開いてくれますか?」
カメリアは問う。家政婦として、この家に着てからしばらくたつが、レヴィは中々自分に心を開こうとはしなかった。
「私に何か悪い所があったなら、わたし、頑張って直しますから。」
「・・・・・・。」
その言葉に顔を上げたレヴィは、しばらく沈黙したあと、口を開いた。
「あなたが私の”家族"をとっちゃうからだよ。」
「盗る?家族を?」
カメリアの疑問に対しレヴィは睨みを効かせながら答えた。
「だってそうじゃん。ジャスミンはあなたといるほうが楽しそうだもん。」
心優しく、カメリアにもすぐ懐いたジャスミンとは対照的に、レヴィは意地の悪い子だった。優しいカメリアに対して不躾な態度で接し、小さなことでポツリ、ポツリと嫌味を言う。家族の中でもういた存在になっているのは明白だった。
これは裏切られ続ける人生の中で彼女が見に付けた他人との距離の測り方だった。
自分はこんなことをする。こんな嫌な事も言う。それでも自分と仲良くなりたいのか?と。
夢中で、無意味に傷つけ、傷つくことでしか生きられない。短い人生の中で彼女が出したか弱い心の守り方でもあった。
「どうしたら、あなたの傍に、居ていいですか?」
「・・・・・・何言ってるか分かってるの?私、嫌な子だよ?そんなのと一緒に居たいなんて、あなた、頭おかしいんじゃない?」
「それでも、あなたをほうっては置けませんから。」
「・・・・・・なら、私の、私達のお母さんになってくれる?どんなときでも私と、ジャスミンの事だけ、見ていてくれる?」
「あなたがそれを望むなら、喜んで!」
「・・・・・・約束だよ。嘘ついたら針千本飲ますよ?」
「はい!約束です!!」
それからのレヴィは別人のようだった。カメリアとの言いつけをよく聞き、妹とも仲良く。明るかった。
(嗚呼、良かった。もう大丈夫ね、この子は)
カメリアは安堵した。もう大丈夫だ。レヴィは賢い子。きっと一人でももう大丈夫だ。
しかしそれは大いなる間違い。
―現在―
「いまさら何しに来たの?」
気が狂いそうな堂々巡りの疑問の嵐が頭を吹き荒れた末、レヴィが出した言葉はそれだった。
いまさら何をしにきた。何故もっと早く来てくれなかったのか。嗚呼、ダメだ。また堂々巡りが始まってしまう。さっさと答えてよ。
「・・・・・・あなたを止めるため、そしてあなたに謝るためですよ・・・・・・レヴィ。」
優しい声だ。ずっと聞きたかった。でもなんでだろう。すごく―ムカつく。
「止める?謝る?あはっ!何のために?」
レヴィは一気に距離をつめ、喉元に刃を突きつける。
「私のことなんて、何もわかってないくせに。」
カメリアは悲しそうな顔でそれを見つめ返し、
「ごめんなさい、レヴィ。私はあなたのことを分かってあげられなかった。あなたを、・・・・・・一人にしてしまった。」
カメリアの言葉にレヴィはギリッっと歯軋りをし、刃を下げる。
一人にしてしまっただと?
「ねぇカメリア。約束って守るべきものだよね?破った奴は罰を受けるんだよね?」
「・・・・・・ええ。その通りです。」
「あはっ!なら約束を破ったジャスミンは罰を受けなきゃいけなかったでしょ?私は約束を守ったのに一人になっちゃった。」
「可笑しいよね?でも本当は可笑しくないんだよ。」
「だって悪役はハッピーエンドにはたどり着けないもんね。」
片手剣を手の中で回しながらレヴィは歩き始める。
「あなたにとっての私ってどんな子だったのカメリア?」
腕を後頭部で組み、ぶらぶらと周囲を歩く。
「賢い子?意地の悪い子?引っ付いてくるウザイガキ?一人でも大丈夫な子?」
彼女が持っていそうな印象を片っ端から挙げ連ねる。そして、ある一転でぴたりと足を止めた。
「答えは全部バーツ!!正解はぁ―!!」
ヒュン!!剣が振り下ろされる。
「悪魔だよ。」
カメリアの炎で半死体となっていたビーストの首がボトリと地面に落ちる。
「違います。レヴィ、あなたは悪魔なんかじゃない。」
「悪魔だよ。だから誰からも選んでもらえない。一番に思って、もらえない。」
後半をかみ殺すようにつぶやく。しかし振り向いたレヴィの顔は笑顔になっていた。
「だ・か・ら、どうせ悪役で居るなら悪魔になってやろうって思ったの。きっと世界中の人を呪い殺したらみんな私を怨んで死んでいく。そしたら寂しく無くなるかなぁーって。」
無邪気で、とてもかわいらしく、おぞましい笑顔だった。
「さて、悪魔になっちゃった以上、あなたに私を止めることなんてはなっから無理なんだよ。」
「悪魔は存在するだけで呪いをばら撒く。例え私がジャスミンや鈴蘭ちゃんをどーでもいいと割り切って、ラプちゃんたちともバイバイ下ってそれは変わらない。」
「許せないでしょ?正義の味方さん。」
剣を構える。
「来なよ、カメリア!文字通り神の世界への引導を渡してあげるからさぁ!!」
そして、突撃する。カメリアが刀に手をかけた。
ガキィンッ!!
「ッ!」
レヴィの剣が弾かれ、地面に刺さる。見事な居合いだ。全く見えなかった。
「あはっ・・・・・・強いじゃん。」
(そうだ―それでいい。正義の味方らしく私を殺してみろ!!)
「・・・・・・・・・・・・え?」
一瞬何が起きたのか分からなかった。私はカメリアに、抱きしめられていた。
「例え悪魔になっても私はあなたを愛しています。例え世界が敵に回っても、あなたを守ります。-母親として。」
強く抱きしめられて、刺さった棘装束。血が掛かる。棘を通して温もりと鼓動を感じる。優しいな。
「あなたの死に顔。ただただ恨めしかったよ。全てに満足してるようで。」
抱きしめられながらレヴィは話す。
「ケットシーの宿命なんてどうでもいい。大事な人といられるなら痛みだって愛おしい。事実、ジャスミンは楽しそうだったもの。」
「でも約束だったから。だから寂しくても我慢したんだよ?そうしたらいつか、私のほうも見てくれるって、期待してたんだよ?」
「でも、あなたは最後まで鈴蘭ちゃんとジャスミンしか見てくれていなかった。私なんて眼中に無かった。」
「ねぇ、どうして私じゃダメだったの?鈴蘭ちゃんが優先なの?」
ポタ、ポタと血が滴る。
「あの子は、私だからです。」
「鈴蘭ちゃんが?」
「私も親をビーストによって失いました。私はあの子に、自分を見ていたんです。そして、あの子が私のようになりたいといって契約したと知ったとき、あの子を守らなければと思ったんです。・・・・・・巻き込んでしまったから。」
「・・・・・・そっか。」
(あの子を助けて、導けば自分も救われると、思ってたんだね。・・・・・・なるほど、私じゃダメな訳だ。)
「あーあ。悔しいな。本当に悔しい。その"役"は私が欲しかったなー。必要として、欲しかったな。」
涙が出てきた。本当に悔しい。本当、大っ嫌いだあの子。
カメリアはレヴィの頬をそっと撫でた。血糊が頬を染める。
「必要ですよ。あなたは私の娘。鈴蘭とも、ジャスミンとも違う。違って、良いんです。」
「皆一緒ではつまらないでしょう?帰りましょう。私達は家族です。」
「-!!」
ブワッっと、涙があふれた。そっか、ちゃんと私を見てくれるんだ。必要として、くれるんだ。
「うれしいよ。カメリア。その言葉、本当にうれしい。」
そう、必要そしてくれる。そして家族か。
ザクッ!!
「ガッ!?」
「うれしいよカメリア。その愛に偽りが無ければ・・・・・・ね。」
右手に再召喚した剣が深々とカメリアの腹部を貫いていた。
「いや、偽りは無いか。確かに"今"は私を一番に見てくれてる。けど―。」
剣を引き抜き、自分の角をツン、ツンと突く。
「やっぱり心のどこかじゃ思ってるよね?赦されたい。私を悪魔にしちゃった罪から救われたいって。」
「ちが・・・・・・・私、は・・・・・・。」
地面に倒れたカメリアを冷酷に見下しながら、レヴィは言い放つ。
「・・・・・・赦される訳無いじゃん。中途半端な善意はね、かえって相手を不幸にするんだよ。また同じことをしようとしたね。」
「ああ、そうそう。約束だったよね?嘘ついたら針千本飲ますって。」
針を突き刺す。
「あ、・・・・・・・ああ・・・・・・。」
カメリアの体が消えていく。神の世界へ帰るのだ。
「バイバイ。悪魔として生んでくれてありがとう。お母さん。」
「-・・・。」
針が体内で炸裂し、血肉片が飛び散る。
カシャンッ!
後ろから音がする。誰かは分かっている。ジャスミンだ。
「レヴィ・・・・・・?いまのって・・・・・・。」
驚愕の表情のままたたずむ妹にレヴィはニタァ・・・っと笑いかける。
「やあ、ジャスミン。あっそびっましょ?」
DCD- 見習い
- 投稿数 : 20
Join date : 2016/04/16
25話
ジャスミンという少女は盲目だった。不幸な境遇だったといえる。だが生まれ持った不幸を言い訳にしない芯の強さと、受けた恩を必ず返し、誰かに返そうとする優しい心の持ち主だった。
ジャスミンは姉が大好きだった。いつだって助けてくれる。笑顔を始め、いろんなことを教えてくれる。
ジャスミンは姉を尊敬していた。残念ながら自分には見ることはできないが、姉は絵が上手いらしい。でも一番尊敬しているのは努力家ということだ。私も負けないほうに頑張らなきゃ。
ジャスミンは姉が心配だった。姉は世の中を斜に構えたように言う。もっとみんなと仲良くして欲しい。
ジャスミンは姉に対してもうしわけなかった。たくさんガマンをさせてしまっている。恩返しがしたかった。
ジャスミンは嬉しかった。目が見えるようになるかもしれない。約束は破ってしまうけど・・・・・・今まで助けてくれた皆の役に立ちたい。守りたい。
ジャスミンは幸せだった。母親代わりのカメリアがいる。大親友の鈴蘭が居る。姉が居る。ビーストとの戦いは怖いし、大変だけど、みんなの笑顔のためならなんてことはない。
ジャスミンは世界が好きだった。目が見えるようになってはじめてみたあの感動は忘れない。大好きだった。
ジャスミンは姉に感謝していた。
「今まで助けてくれてありがとう。私はもう大丈夫だよ。」
と。恩返しがしたかった。
レヴィという少女は恵まれていた。頭は良かったし、手先も器用だった。優秀だったといえる。だが彼女は常に劣等感の中に居た。
レヴィは妹が大切だった。目の見えない妹は良く私を頼ってくれた。必要としてくれた。私も目いっぱい支えた。幸せだった。幸せだった、・・・・・・はずだ。
レヴィは妹が妬ましかった。勝っているのは優秀さだけ。だから抜かれぬように努力する。でもどんなに努力してもいつもこう思う。
「妹の目が見えていたら、同じだけ努力したら、きっと私は勝てないだろう。」
コンプレックスって言うのかな?妹に「勝った」と確かな実感を得ない限り消えないんだろうなぁ・・・・・・。
レヴィは妹に誇らしかった。両親の愛を一身に受け、それを鼻にかけることも、盲目を言い訳にすることも無い。本当にいい子だと思っていた。
レヴィは妹を妬んでいた。何故いつもジャスミンなんだ?・・・・・・でも私を必要としてくれるなら、それが対価だ。ガマンできる。
レヴィは悔しかった。自分を必要として欲しい人に、必要としてもらえなかった。でも、それでも傍にいてくれるなら、約束してくれたなら、ガマンしよう。
レヴィは孤独だった。もう自分の傍には誰もいない。母は死んだ。父は自分の事など眼中に無い。妹も、母親代わりになってくれると約束した人も、皆私を置いていってしまった。どうすれば追いつける?わたしも変わらなきゃいけないのか?でも、あの人は変わってはいけないといった。どうすればいい?どうすればよかった?どうしてこうなった?
レヴィは世界を呪った。約束を破ったものが幸せになって、守ったものが孤独になる。そんな不公平な世界が大嫌いだった。
レヴィは妹を憎んでいた。彼女の優しさを見るたびに、彼女が生き生きとビースト退治の話をするたびに、彼女が楽しそうに笑うたびに、
「どうして私を捨てたんだ。いらないなら何故そんな話をする?そんな汚い心なんて全く無い顔を向けてくる?そんなもの見せられたら私は・・・・・・。」
自分が惨めに見えて仕方なかった。変わろうとしなかったわけじゃない。努力しなかったわけじゃない。他の幸せを探そうとしなかったわけじゃない。どれも上手くいかなかっただけだ。
嗚呼、どうしてだろう。こんなに愛しているのに。・・・・・・憎い。妬ましい。怨めしい。でも愛している。一緒に居て確かに幸せだったはずだ。・・・・・・あはっ!、そうだ。幸せだった。なら、"怨"返ししなくちゃね。
振り向いたレヴィの顔は頬に血糊が付き、笑顔をいっそう不気味なものにさせていた。
「レヴィ・・・・・・今のは・・・・・・・カメリア、だったの?」
ジャスミンは震えていた。見間違いだと思いたかった。だって姉はカメリアが大好きだったはずだから。
しかし姉の言葉はそんな願いを無残にも破壊する。
「そーだよ?殺っちゃった♪」
鼻歌でも歌いだしそうな声で姉は笑いかける。
「どうして・・・・・・?レヴィは、カメリアのこと・・・・・・。」
「大好きだったよ?ちゃんと私を愛してくれる人だと思ったから。」
「なら、どうして?どうして悪魔に・・・・・・私のせいなの?私のことを、憎んでるの?」
その言葉にレヴィは苦笑する。何にも分かってないんだなぁ・・・・・・。と言うように。
「そーだね。憎んでるし、怨んでるし、妬んでる。でも、嫌いになったわけじゃないよ?当たり前でしょ?たった一人の妹だもん。今だって、大好きだよ。」
レヴィはジャスミンの頬を愛しげに撫でながら語る。
そして「けど」と、言葉をおき、レヴィは突如切りかかった。ジャスミンはガントレットで何とか受け流したが、頬の毛が少し切れた。
「うっ!?」
「だからこそ、戦う。愛しているからこそ、破壊する。血の宿命って奴ね。」
「血の・・・・・・宿命?」
困惑する妹に対しにやりと口元を歪ませ、襲い掛かる。
「そう、私達は双子。一つだったものが二つに分かれたもの。分かれた二つが惹かれあい、元に戻るために戦い。」
剣を返し、数回きりつける。
「私達は双子である必要なんて無い!どちらか一人が残ればいい・・・生き残ればそれでいいんだあはっ!」
ガントレットのガードをしたから払いあげるように崩し、
「悪魔になって本当に良かったよ。世界を壊すって言ったらあんたも戦わざるをえないよねえぇ!?」
ジャスミンを蹴り飛ばし、地面を転がる彼女に針を構えながらゆっくり近づく。
「そんな、どうして・・・・・・分からないよレヴィ・・・・・・わからないよお姉ちゃん。どうして戦わなきゃいけないの?」
「煮え切らないなぁ・・・・・・。あんただって私のことは嫌いでしょ?必要ないんでしょ?」
あきれたように語るレヴィにジャスミンは立ち上がり、強く否定する。
「そんなこと、あるわけ無いでしょ!?どうしてそんな事言うの!?」
ガントレットの拳を強く握り、珍しく声を荒げるジャスミンだったが、レヴィは肩をすくめた。
「だってあんたこう思ってるじゃない。『今まで助けてくれてありがとう。私はもう大丈夫だよ。』ってね。それはもう私は必要ないってことでしょ?何か違う!?」
「違う!!私はただ、お姉ちゃんに―!!」
「『恩返ししたかった。』?フンッ!その結果がビースト退治の話題をいちいち生き生きとした表情で楽しそうに話すこと?私はケットシーになっちゃいけないのに?ウザイったらないわ。」
「ち、違う!私はただ―。」
うろたえるジャスミンに対しレヴィは針を投げつける。ガントレットで弾かれはしたが目に見えて動揺している。
「嗚呼、ダメだ。押さえられない。あんたを殺すわ。そして鈴蘭ちゃんも私と同じように一人になってもらうとしようか。」
「スズちゃんを・・・・・・!?」
「うん♪あの子の事はずぅーっと嫌いだった。カメリアはさっき殺した。今からあんたを殺す。そしてあの子にも私が感じた孤独をたっぷり味わってから・・・・・・殺しちゃうの。あはっ!考えただけでゾクゾクする!!」
うっとり、恍惚とした表情で手を合わせるレヴィ。台詞さえ違えば、頭の角さえなければ、それは絵本のお姫様のようであったかもしれない。だが、彼女は悪魔である。
「そんなこと・・・・・・!」
「んー?」
対するジャスミンがうつむいていた顔を上げる。強い信念に満ちた目だ。レヴィは嬉しかった。
「そんなこと、絶対させない。全力で止めるよ!!」
ガントレットが発光を始め、頭に付けたパラボナアンテナのような探知機が認識操作魔法による位置改竄に対抗するため作動する。
「『止める』・・・・・・か。ここに来てまでやっぱりいい子ね。来なよ。思いっきり戦おうじゃない!!どっちかが死ぬまでねぇ!!」
レヴィは喜びと狂気に顔を歪ませながら、剣戟を見舞った。
ジャスミンは姉が大好きだった。いつだって助けてくれる。笑顔を始め、いろんなことを教えてくれる。
ジャスミンは姉を尊敬していた。残念ながら自分には見ることはできないが、姉は絵が上手いらしい。でも一番尊敬しているのは努力家ということだ。私も負けないほうに頑張らなきゃ。
ジャスミンは姉が心配だった。姉は世の中を斜に構えたように言う。もっとみんなと仲良くして欲しい。
ジャスミンは姉に対してもうしわけなかった。たくさんガマンをさせてしまっている。恩返しがしたかった。
ジャスミンは嬉しかった。目が見えるようになるかもしれない。約束は破ってしまうけど・・・・・・今まで助けてくれた皆の役に立ちたい。守りたい。
ジャスミンは幸せだった。母親代わりのカメリアがいる。大親友の鈴蘭が居る。姉が居る。ビーストとの戦いは怖いし、大変だけど、みんなの笑顔のためならなんてことはない。
ジャスミンは世界が好きだった。目が見えるようになってはじめてみたあの感動は忘れない。大好きだった。
ジャスミンは姉に感謝していた。
「今まで助けてくれてありがとう。私はもう大丈夫だよ。」
と。恩返しがしたかった。
レヴィという少女は恵まれていた。頭は良かったし、手先も器用だった。優秀だったといえる。だが彼女は常に劣等感の中に居た。
レヴィは妹が大切だった。目の見えない妹は良く私を頼ってくれた。必要としてくれた。私も目いっぱい支えた。幸せだった。幸せだった、・・・・・・はずだ。
レヴィは妹が妬ましかった。勝っているのは優秀さだけ。だから抜かれぬように努力する。でもどんなに努力してもいつもこう思う。
「妹の目が見えていたら、同じだけ努力したら、きっと私は勝てないだろう。」
コンプレックスって言うのかな?妹に「勝った」と確かな実感を得ない限り消えないんだろうなぁ・・・・・・。
レヴィは妹に誇らしかった。両親の愛を一身に受け、それを鼻にかけることも、盲目を言い訳にすることも無い。本当にいい子だと思っていた。
レヴィは妹を妬んでいた。何故いつもジャスミンなんだ?・・・・・・でも私を必要としてくれるなら、それが対価だ。ガマンできる。
レヴィは悔しかった。自分を必要として欲しい人に、必要としてもらえなかった。でも、それでも傍にいてくれるなら、約束してくれたなら、ガマンしよう。
レヴィは孤独だった。もう自分の傍には誰もいない。母は死んだ。父は自分の事など眼中に無い。妹も、母親代わりになってくれると約束した人も、皆私を置いていってしまった。どうすれば追いつける?わたしも変わらなきゃいけないのか?でも、あの人は変わってはいけないといった。どうすればいい?どうすればよかった?どうしてこうなった?
レヴィは世界を呪った。約束を破ったものが幸せになって、守ったものが孤独になる。そんな不公平な世界が大嫌いだった。
レヴィは妹を憎んでいた。彼女の優しさを見るたびに、彼女が生き生きとビースト退治の話をするたびに、彼女が楽しそうに笑うたびに、
「どうして私を捨てたんだ。いらないなら何故そんな話をする?そんな汚い心なんて全く無い顔を向けてくる?そんなもの見せられたら私は・・・・・・。」
自分が惨めに見えて仕方なかった。変わろうとしなかったわけじゃない。努力しなかったわけじゃない。他の幸せを探そうとしなかったわけじゃない。どれも上手くいかなかっただけだ。
嗚呼、どうしてだろう。こんなに愛しているのに。・・・・・・憎い。妬ましい。怨めしい。でも愛している。一緒に居て確かに幸せだったはずだ。・・・・・・あはっ!、そうだ。幸せだった。なら、"怨"返ししなくちゃね。
振り向いたレヴィの顔は頬に血糊が付き、笑顔をいっそう不気味なものにさせていた。
「レヴィ・・・・・・今のは・・・・・・・カメリア、だったの?」
ジャスミンは震えていた。見間違いだと思いたかった。だって姉はカメリアが大好きだったはずだから。
しかし姉の言葉はそんな願いを無残にも破壊する。
「そーだよ?殺っちゃった♪」
鼻歌でも歌いだしそうな声で姉は笑いかける。
「どうして・・・・・・?レヴィは、カメリアのこと・・・・・・。」
「大好きだったよ?ちゃんと私を愛してくれる人だと思ったから。」
「なら、どうして?どうして悪魔に・・・・・・私のせいなの?私のことを、憎んでるの?」
その言葉にレヴィは苦笑する。何にも分かってないんだなぁ・・・・・・。と言うように。
「そーだね。憎んでるし、怨んでるし、妬んでる。でも、嫌いになったわけじゃないよ?当たり前でしょ?たった一人の妹だもん。今だって、大好きだよ。」
レヴィはジャスミンの頬を愛しげに撫でながら語る。
そして「けど」と、言葉をおき、レヴィは突如切りかかった。ジャスミンはガントレットで何とか受け流したが、頬の毛が少し切れた。
「うっ!?」
「だからこそ、戦う。愛しているからこそ、破壊する。血の宿命って奴ね。」
「血の・・・・・・宿命?」
困惑する妹に対しにやりと口元を歪ませ、襲い掛かる。
「そう、私達は双子。一つだったものが二つに分かれたもの。分かれた二つが惹かれあい、元に戻るために戦い。」
剣を返し、数回きりつける。
「私達は双子である必要なんて無い!どちらか一人が残ればいい・・・生き残ればそれでいいんだあはっ!」
ガントレットのガードをしたから払いあげるように崩し、
「悪魔になって本当に良かったよ。世界を壊すって言ったらあんたも戦わざるをえないよねえぇ!?」
ジャスミンを蹴り飛ばし、地面を転がる彼女に針を構えながらゆっくり近づく。
「そんな、どうして・・・・・・分からないよレヴィ・・・・・・わからないよお姉ちゃん。どうして戦わなきゃいけないの?」
「煮え切らないなぁ・・・・・・。あんただって私のことは嫌いでしょ?必要ないんでしょ?」
あきれたように語るレヴィにジャスミンは立ち上がり、強く否定する。
「そんなこと、あるわけ無いでしょ!?どうしてそんな事言うの!?」
ガントレットの拳を強く握り、珍しく声を荒げるジャスミンだったが、レヴィは肩をすくめた。
「だってあんたこう思ってるじゃない。『今まで助けてくれてありがとう。私はもう大丈夫だよ。』ってね。それはもう私は必要ないってことでしょ?何か違う!?」
「違う!!私はただ、お姉ちゃんに―!!」
「『恩返ししたかった。』?フンッ!その結果がビースト退治の話題をいちいち生き生きとした表情で楽しそうに話すこと?私はケットシーになっちゃいけないのに?ウザイったらないわ。」
「ち、違う!私はただ―。」
うろたえるジャスミンに対しレヴィは針を投げつける。ガントレットで弾かれはしたが目に見えて動揺している。
「嗚呼、ダメだ。押さえられない。あんたを殺すわ。そして鈴蘭ちゃんも私と同じように一人になってもらうとしようか。」
「スズちゃんを・・・・・・!?」
「うん♪あの子の事はずぅーっと嫌いだった。カメリアはさっき殺した。今からあんたを殺す。そしてあの子にも私が感じた孤独をたっぷり味わってから・・・・・・殺しちゃうの。あはっ!考えただけでゾクゾクする!!」
うっとり、恍惚とした表情で手を合わせるレヴィ。台詞さえ違えば、頭の角さえなければ、それは絵本のお姫様のようであったかもしれない。だが、彼女は悪魔である。
「そんなこと・・・・・・!」
「んー?」
対するジャスミンがうつむいていた顔を上げる。強い信念に満ちた目だ。レヴィは嬉しかった。
「そんなこと、絶対させない。全力で止めるよ!!」
ガントレットが発光を始め、頭に付けたパラボナアンテナのような探知機が認識操作魔法による位置改竄に対抗するため作動する。
「『止める』・・・・・・か。ここに来てまでやっぱりいい子ね。来なよ。思いっきり戦おうじゃない!!どっちかが死ぬまでねぇ!!」
レヴィは喜びと狂気に顔を歪ませながら、剣戟を見舞った。
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26話
「ほら!ほらぁ!!」
素早く背後に回りこみ、背中を切りつける。
「くぅ・・・!」
ジャスミンが振り向きざまにこぶしを放つが片手で払う。
覚悟は決めたようだがあまりに歯ごたえが無い。レヴィはやれやれと肩をすくめる。
「まだ煮え切らない?ならいいよ。私の魔法で洗脳したビースト、まだまだたくさんいるからさぁ。」
感情石を取り出し、自分の呪いを流し込んでビーストたちを呼び出す。ハルキゲニア型5体、トンボ型一体、アノマロカリス型が二体だ。
「ここからすぐ行けばマンションだよね?本気で戦わないと周りの人がどうなっちゃうかな?」
「!!」
ジャスミンの対応は早かった。ガントレットの指先に備えられた目玉を思わせるレーザー砲を連射し、3体のハルキゲニア型を撃破。立ちはだかるレヴィを指先を手刀の形にし、レーザーを集約したビームソードでなぎ払い、ガードもろともビーム圧で弾き飛ばす。
アノマロカリスに似たビーストが突進してくるが、両手を合わせてダブル・スレッジ・ハンマーの形にし、脳天に振り下ろす。
地面に頭がめり込んだアノマロカリス型を踏み台に飛行しているトンボ型の頭部を殴り潰す。
着地と同時にハルキゲニア型2体のレーザーをガントレットの手のひらにあるエネルギー放出口からバリアを展開して防ぎ、そのまま突進し、バリアのエネルギーをそのまま相手の頭部に押し当て熔解させながら握りつぶす。残り1体!
アノマロカリス型の鋏を胴下に潜り込むように回避し、その腹に指を突き刺す。レーザー砲の砲塔がせり出し、先端部にビームを纏ったドリルを形成し貫く。
一分と掛からなかった。
「あはっ!すごいすごい!!やればできるじゃん!!ブラボー!」
レヴィが大げさに笑いながら拍手をしてくる。
「レヴィ・・・!!」
振り返ったジャスミンの目には明らかに非難の色があった。
「目的は私でしょ!?」
そして怒り。姉は今、何の関係も無い民間人を襲わせる気だったのだ。
「そーだよ?本気で来なって。今みたいにさぁ!!」
レヴィの姿が消える。認識操作だ。落ち着いて探知魔法に集中する。後ろっ!!
振り向きざまに首に入れようとした手刀は剣で阻まれた。
体のひねった軸を組み合ったままゆっくり戻し、剣を跳ね上げるようにして硬直を崩し、
(とった―!)
「-!!」
腕を回した遠心力を生かして両腕を叩き込み、ガントレットそのものをロケットパンチとして打ち出す。
「うぐぅぁ!?」
射出されたガントレットは魔力を推進剤として加速し、夜で従業員の居なくなった会社のビルの壁面に叩きつける。
「かはっ・・・!!」
吹き飛ばされた姉が肺から息を吐きながら倒れる。
「もうやめよう?これ以上おねえちゃんと戦いたくないよ。」
戻ってきたガントレットを装着しながらも姉に駆け寄るジャスミン。鈴蘭にも、レヴィにも、周りの人たちにも、誰にも傷ついてほしくない。心からそう思っているジャスミンは涙を浮かべていた。
そんな妹の姿にレヴィは自傷気味に笑う。
「あはっ・・・・・・!!ジャスミンは本当に、イイコだね。イイコ過ぎて・・・・・・私はいつだって否定され続けなきゃならない。ずーとずーと、・・・・・・あんたのダークサイドだよ。」
「レヴィ・・・・・・?」
レヴィは少しよろけながらも立ち上がる。さっきのパンチは中々痺れた。ならこっちも・・・・・・ね。
「私が悪魔仲間の間でなんて呼ばれてると思う?"呪いの爆弾”って呼ばれてるんだ。」
「"呪いの爆弾”・・・・・・?」
「そっ。そして私の魔法は意識操作。これは自分にもかけれるの。」
自分の角を突きながら説明する。
「ジャスミン。あんたの中の私はどんな子面倒見のいいおねえちゃんらしいけど。」
「本当の私はね、すっごく妬み易いの。嫉妬深いの。この魔法で抑えないとね、気が狂いそうなでまともに会話できない位に、あんた達への想いがあふれかえってくるんだぁ。」
シクラメンの花弁が開くように、張り付いていた薄ら笑いが裂ける。ニタァ・・・・・・。
「私の本当の呪い、たっぷり味合わせてあげる・・・・・・。」
剣に映った自分を介して、押さえ込んでいたソレを解き放つ。
「うっぐっ・・・・・・・・ウぅるルルルっ!グルルル~!!」
うなり声を上げつつ、白目と黒目が逆転し、怪しい眼光を放つ。
「くっ~~~はっぁ~~~~!!」
天を仰ぎ、だらんと剣をおろす。
「あはっ!あはははっ!!うふわははははあ!!」
発条のイカれた人形のように笑い出すレヴィがジャスミンには恐ろしく見えた。さっきまでの姉はかろうじて自分の知っている姉だった。でも、これは違う。今目の前に居るのはまるで―!!
「ジャァ~スミィィィン・・・・・・こぉの―・・・・・・裏切り者ォォォォォォォ!!」
素早い斬撃が襲い掛かる。ジャスミンは両手のガントレットでこれを受け流す。突き刺そうと振り下ろしてきた剣をつかみ、ガードしていない腹に掌底を打ち込もうとするがレヴィの衣装に隠された棘が伸び、ガントレットの手のひらにあるエネルギー放出口に突き刺さる。
「っ!」
ジャスミンはエネルギーが逆流する前に慌てて魔力供給をカットするが、その隙に押さえていた県を引き抜かれ、蹴りを浴びせられた。
「あはっ!どうしたの?その程度者だーれも止められない、守れなーい!ふふふ、それとも何?あんたは目が見えても役立たずだってことかな?」素早く背後に回りこみ、背中を切りつける。
「くぅ・・・!」
ジャスミンが振り向きざまにこぶしを放つが片手で払う。
覚悟は決めたようだがあまりに歯ごたえが無い。レヴィはやれやれと肩をすくめる。
「まだ煮え切らない?ならいいよ。私の魔法で洗脳したビースト、まだまだたくさんいるからさぁ。」
感情石を取り出し、自分の呪いを流し込んでビーストたちを呼び出す。ハルキゲニア型5体、トンボ型一体、アノマロカリス型が二体だ。
「ここからすぐ行けばマンションだよね?本気で戦わないと周りの人がどうなっちゃうかな?」
「!!」
ジャスミンの対応は早かった。ガントレットの指先に備えられた目玉を思わせるレーザー砲を連射し、3体のハルキゲニア型を撃破。立ちはだかるレヴィを指先を手刀の形にし、レーザーを集約したビームソードでなぎ払い、ガードもろともビーム圧で弾き飛ばす。
アノマロカリスに似たビーストが突進してくるが、両手を合わせてダブル・スレッジ・ハンマーの形にし、脳天に振り下ろす。
地面に頭がめり込んだアノマロカリス型を踏み台に飛行しているトンボ型の頭部を殴り潰す。
着地と同時にハルキゲニア型2体のレーザーをガントレットの手のひらにあるエネルギー放出口からバリアを展開して防ぎ、そのまま突進し、バリアのエネルギーをそのまま相手の頭部に押し当て熔解させながら握りつぶす。残り1体!
アノマロカリス型の鋏を胴下に潜り込むように回避し、その腹に指を突き刺す。レーザー砲の砲塔がせり出し、先端部にビームを纏ったドリルを形成し貫く。
一分と掛からなかった。
「あはっ!すごいすごい!!やればできるじゃん!!ブラボー!」
レヴィが大げさに笑いながら拍手をしてくる。
「レヴィ・・・!!」
振り返ったジャスミンの目には明らかに非難の色があった。
「目的は私でしょ!?」
そして怒り。姉は今、何の関係も無い民間人を襲わせる気だったのだ。
「そーだよ?本気で来なって。今みたいにさぁ!!」
レヴィの姿が消える。認識操作だ。落ち着いて探知魔法に集中する。後ろっ!!
振り向きざまに首に入れようとした手刀は剣で阻まれた。
体のひねった軸を組み合ったままゆっくり戻し、剣を跳ね上げるようにして硬直を崩し、
(とった―!)
「-!!」
腕を回した遠心力を生かして両腕を叩き込み、ガントレットそのものをロケットパンチとして打ち出す。
「うぐぅぁ!?」
射出されたガントレットは魔力を推進剤として加速し、夜で従業員の居なくなった会社のビルの壁面に叩きつける。
「かはっ・・・!!」
吹き飛ばされた姉が肺から息を吐きながら倒れる。
「もうやめよう?これ以上おねえちゃんと戦いたくないよ。」
戻ってきたガントレットを装着しながらも姉に駆け寄るジャスミン。鈴蘭にも、レヴィにも、周りの人たちにも、誰にも傷ついてほしくない。心からそう思っているジャスミンは涙を浮かべていた。
そんな妹の姿にレヴィは自傷気味に笑う。
「あはっ・・・・・・!!ジャスミンは本当に、イイコだね。イイコ過ぎて・・・・・・私はいつだって否定され続けなきゃならない。ずーとずーと、・・・・・・あんたのダークサイドだよ。」
「レヴィ・・・・・・?」
レヴィは少しよろけながらも立ち上がる。さっきのパンチは中々痺れた。ならこっちも・・・・・・ね。
「私が悪魔仲間の間でなんて呼ばれてると思う?"呪いの爆弾”って呼ばれてるんだ。」
「"呪いの爆弾”・・・・・・?」
「そっ。そして私の魔法は意識操作。これは自分にもかけれるの。」
自分の角を突きながら説明する。
「ジャスミン。あんたの中の私はどんな子面倒見のいいおねえちゃんらしいけど。」
「本当の私はね、すっごく妬み易いの。嫉妬深いの。この魔法で抑えないとね、気が狂いそうなでまともに会話できない位に、あんた達への想いがあふれかえってくるんだぁ。」
シクラメンの花弁が開くように、張り付いていた薄ら笑いが裂ける。ニタァ・・・・・・。
「私の本当の呪い、たっぷり味合わせてあげる・・・・・・。」
剣に映った自分を介して、押さえ込んでいたソレを解き放つ。
「うっぐっ・・・・・・・・ウぅるルルルっ!グルルル~!!」
うなり声を上げつつ、白目と黒目が逆転し、怪しい眼光を放つ。
「くっ~~~はっぁ~~~~!!」
天を仰ぎ、だらんと剣をおろす。
「あはっ!あはははっ!!うふわははははあ!!」
発条のイカれた人形のように笑い出すレヴィがジャスミンには恐ろしく見えた。さっきまでの姉はかろうじて自分の知っている姉だった。でも、これは違う。今目の前に居るのはまるで―!!
「ジャァ~スミィィィン・・・・・・こぉの―・・・・・・裏切り者ォォォォォォォ!!」
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27話
過去―まだカメリアと会ったばかりのころ
レヴィはその日、機嫌が良かった。自分にはじめて、"友達"ができたのだから。
きっかけは妹とのケンカだった。新しく入った家政婦のカメリアに、レヴィは警戒心を解けずに居た。あまりにもママにそっくりで、でも赤の他人で・・・・・・そんな存在が外からいきなり入ってきたことに警戒心を抱いた。
前から思っていたことだが、自分には妹しか居ない。パパもママも私に偽りの、建前だけの愛情しか見せない。
そして悔しいことに、妹はイイコだ。優しくて、強い。憎みたくても憎めない。それが余計に辛かった。私の人生は、このまま妹を助けるためだけに消費されていくんだろう。幼心に確かな実感を感じていた。
妬ましい妹だが、私には他に誰も親しい相手がいない。なのにあの子はすぐ、他の人のところに行こうとする。このままカメリアに妹を取られてしまうんじゃないか?そう思うと仲良くはできなかった。
「お姉ちゃん。カメリアと仲良くしてあげて。私、皆に仲良くしていてほしいよ。」
ケンカのきっかけはこれだ。「皆仲良く。」確かに素晴らしいことなんだろう。でも、私の居場所を奪うかもしれない人とどう仲良くすればいい?口論になった。
冷静になればどっちが間違っているかなんて明白だった。私はただつまらない意地を張っているだけ。いつもそうだ。あの子はいつも正しい。私が思う正しさや考えは周囲からは間違ったものや幼稚なもので、あの子は"正しさ"という絶対の盾に守られている。
あの子の正しさを見るたびに自尊心が傷つく。そして正しいあの子に間違った私の気持ちは分からない。あれだけ一緒に居て、あれだけ助けてあげたのに―!!苛立つ心で私は家を出た。
歩いていると、頭は冷え代わりに寂しさを覚える。自分には妹以外繋がりが無い。道行く人も風景も、色が無く、皆どこかよそよそしく感じた。
公園のベンチに腰掛ける。世界に切り離されたような気分だった。
でも不意に気づいた。自分と似た雰囲気で周囲を眺める男の子を。
一言で言えば可愛い子だった。銀色のアメショで、赤、いや緋色か?鮮やかな目をしていた。
「ねえ、君。」
私は話しかけた。自分から積極的に他人に話しかけることは初めてだったから少し緊張したが、話してみたい、何故だかそう思えた。
「一緒に、遊ぼう?」
楽しかった。私のかけていた部分を、少しづつ満たしてくれているような気がした。
楽しい時間はあっという間だった。日は傾いて、彼の顔が陰になって見づらいや。
私達はお互いの手をしっかり取る。
「楽しかったよ。本当に。」
「うん。・・・・・・・あの。」
「なぁに?」
「・・・・・・最近こっちに来たばっかりで、友達も居なくて。」
「だからその・・・・・・友達になってくれて、ありがとう。」
「-!!」
友達。そうか、私にも居場所があるんだ。ジャスミンのところ以外にも。
「うん!!私のほうこそ!!あなたと友達になれて、一緒に歩いて、おしゃべりして、一緒に遊んで。本当に楽しかった。」
「また、明日、一緒に遊ぼうね。」
「うん。嘘ついたら針千本飲ませるよ?あはっ!!」
「・・・・・・・・・。」
ひどい雨が降っていた。レヴィは遊具に腰掛けながら友達を待ち続ける。
きっと来ない。分かっている。仕方ないことだ。でも、信じたい。お願い、早く来て・・・・・・。
「レヴィこんなところに・・・・・・風邪を引いてしまいますよ。」
聞きたい声じゃなかった。カメリアだ。ジャスミンも居る。
「レヴィ!良かった・・・。帰ろう?一緒に。」
(嗚呼そうか・・・・・・。)
「ごめん、ジャスミン。」
(やっぱりこの子しか私にはいないんだ。ウソツキじゃないのは、この子だけ・・・・・・)
「帰ったらまた一緒に本を読もうか。」
「うん。ずっと一緒だよ。お姉ちゃん!」
抱きついてくる盲目の妹をレヴィは悲しげに抱きしめる。
「うん。約束よ?私から離れないでね?・・・・・・ジャスミン。」
「ジャァ~スミィィィン・・・・・・こぉの―・・・・・・裏切り者ォォォォォォォ!!」
怒声と共にレヴィが突撃してくる。右手には剣。左手には三本の針。両手から繰り出される斬撃と刺突の猛ラッシュをジャスミンはバリアを展開して絶え凌ぐ。
「何があってもあんただけは裏切らないと思ってたのに―!!」
バリアを表面から削り落とすかのように一切攻め手を休め無い。スパークが乱舞する。
「私がケットシーになったから―?」
「私が何かしようとすると、あんたの存在がいつも立ちふさがって邪魔をした。」
切り上げでついに過負荷の掛かったバリアが砕かれ、そのまま回し蹴りを浴びせて領域内の岩壁に叩きつける。
「かはっ―!」
「パパもママも、皆私より、あんたの明るい性格を愛してたよね?そしてあんたは私の知る限り一番イイコだよ。」
「私がイイコになろうと頑張っても、あんたを見るたびに思ったよ。絶対に勝てない。あんたのように優しくしたり、簡単に誰かを信じたりはできない。だって皆ウソツキだもん。」
「でも悔しいけどあんたは本物のイイコだから、私に嘘はつかない。だから裏切ることも無い。そう思っていた。」
右手の剣を手の中でクルクルと回しながらゆっくり近づくレヴィ。
「でもあんたは約束を破った。」
「ずっと一緒。そう約束したよね?でもケットシーになるってことはそう遠くないうちに消えちゃうってこと。ウソツキには針千本飲ませないとね!!」
溢れ出す呪いが瘴気を生み出し、一歩を踏み出すたびに地面を腐らせていく。
「・・・そうだったんだね。ごめんなさい。レヴィ。」
悪意があった訳では無いでも確かに姉を傷つけていた。それに気づけなかったことをジャスミンは悔やんだ。しかしガントレットの輝きはいっそう増す。
「でも、私は世界が好きだから・・・・・・鈴蘭ちゃんも、レヴィも大好きだから、戦うよ。」
「・・・・・・フンッ!その気になってくれたね?嬉しいよ・・・・・・。」
ビーストの頭部を融解させた高エネルギーを手のひらに纏わせ、瘴気を纏って刀身を伸ばしたレヴィの剣に叩きつける。
魔力と呪いがすさまじい反応を起こして盛大なスパークが走る。
「くぅぅぅぅ!!」
「うぅアァァァ!!」
臨界点に達したエネルギーが爆発し、両者共に吹っ飛ばされる。
ジャスミンは着地と同時にマニピュレーター先端のレーザーを発射する。対するレヴィは槍のように巨大化させた針を投げつけて相殺した。
「フッ!」
剣を逆手に構え、高速で突進してくる。速い!!
ジャスミンはガントレットの計10門のレーザー砲をバルカンのように連射するが、レヴィは残像を残すほどの速さで弾幕をかいくぐり肉薄する。ジャスミンは連射から収束モードに切り替え、10本を束にした極太のレーザーを発射する。勢いの出ていたレヴィは完全回避こそできないものの焼かれる左半身を気にせず組み付き、剣を突き出す。
迎え撃とうとした左手のマニピュレーターを剣で貫き、岩壁の縫い付ける。
右手のマニピュレーターの指先がドリルを形成し、貫手を打って来るが、首をそらして交わす。
「あんたのガントレット、便利だよね。殴るはもちろん、斬るに潰す。撃つ、防ぐに穿つもできる。強度も悪くない。でも―。」
「あっ―!」
伸ばされた腕をつかんで壁に押し付けマニピュレーターの指間接部分に針を突き刺して破壊する。
「これでもう悪さはできない。」
「-まだだよ!」
縫い付けられていた左のガントレットをパージし、レーザー砲機能を失った右のガントレットで殴る。
レヴィの口の中が切れ、鉄の味が広がる。さらに岩壁に刺さったレヴィの剣を奪って斬りかかる。
急所に当てなければ・・・・・・!?
「えっ!?」
今の横なぎでありえないものが見えた。喉元を切られて倒れていく姉だ。
(違うっ!これは!!)
手ごたえは無かった。認識操作魔法の見せた幻覚だった。だが、頭では理解していたし、探知魔法も本物の位置を確かに示していた。だが、―。
「ざーんねん。目が見えないままならこんな手には引っかからなかったのに。」
「あ―。」
相手の動揺を誘い、隙を作るには十分だった。背後からの姉の抱擁。棘装束の針が次々とジャスミンの身体を貫いた。
「終わり・・・・・・なんだね。」
「・・・・・・うん。」
倒れた妹を抱きかかえながらレヴィは話しかける。
「やっとあんたに勝てた。・・・・・・でもなんだか寂しいな。ずっとこうやって、戦っていたかった様な気がする。目標、無くなっちゃったじゃない・・・・・・。」
「・・・お姉ちゃん。ごめんね。私、自分が役立たずなのがいやだった。だからケットシーになれるって分かって嬉しかったの。お姉ちゃんにも、誰にも迷惑をかけずに自分の力で生きていけるんだって。」
「でも無理だった。魔法が使えるからって、目が見えるようになったからって、私は役立たずにまま。カメリアにもスズちゃんにも迷惑かけてて・・・おねえちゃんを一人にした。」
「後悔してる?」
「ううん。後悔はして無いよ。いろんなものが見れて、鈴ちゃんたちと仲良くなれて、皆と一緒に戦えて、嬉しかったから。」
「・・・・・・私も悪魔になったこと、後悔して無いよ。友達ができたし、ならなかったらきっと壊れて、・・・・・・・死んでた。まあ、悪魔にならなくてもあんた達とは戦ってたかもだけど。」
「そっか。」
友達が居ると聞いて少しだけ安心したような顔をする。おかしなジャスミン。世界を壊すって言うのに。
「私がケットシーになったのは間違いだったかもしれないけど・・・・・・けど、それは私が弱かったからだよ。ケットシーが奇跡を起こすことを、レヴィは業だって言ったけど、私は奇跡を願うこと事態は、間違いじゃないと思うんだ。・・・・・・ねえレヴィ。本当にこれからスズちゃんと戦うの?世界を壊すの?」
「うん。あのことは戦う。世界も壊す。決めてるんだ。」
「やめて欲しいんだ。仲良くするのは、難しいかもしれないけど・・・・・・でも。」
「奇跡を願うこと自体は間違いじゃない。それは救われたいからでしょ?復讐が、私にとっての救いなの。」
「そっか・・・・・・。」
体が冷たくなってきた。そろそろ限界だろう。
「ねえレヴィ。私はレヴィのこと、何にも分かってあげられなかったけど・・・・・・私はレヴィのこと大好きだった・・・・・・よ。」
ジャスミンは事切れた。
「・・・・・・もう一度言うわ。妬んでるし、怨んでるし、憎んでる。でも嫌いじゃない。愛してるわ。ジャスミン。・・・・・・バイバイ。」
レヴィはその日、機嫌が良かった。自分にはじめて、"友達"ができたのだから。
きっかけは妹とのケンカだった。新しく入った家政婦のカメリアに、レヴィは警戒心を解けずに居た。あまりにもママにそっくりで、でも赤の他人で・・・・・・そんな存在が外からいきなり入ってきたことに警戒心を抱いた。
前から思っていたことだが、自分には妹しか居ない。パパもママも私に偽りの、建前だけの愛情しか見せない。
そして悔しいことに、妹はイイコだ。優しくて、強い。憎みたくても憎めない。それが余計に辛かった。私の人生は、このまま妹を助けるためだけに消費されていくんだろう。幼心に確かな実感を感じていた。
妬ましい妹だが、私には他に誰も親しい相手がいない。なのにあの子はすぐ、他の人のところに行こうとする。このままカメリアに妹を取られてしまうんじゃないか?そう思うと仲良くはできなかった。
「お姉ちゃん。カメリアと仲良くしてあげて。私、皆に仲良くしていてほしいよ。」
ケンカのきっかけはこれだ。「皆仲良く。」確かに素晴らしいことなんだろう。でも、私の居場所を奪うかもしれない人とどう仲良くすればいい?口論になった。
冷静になればどっちが間違っているかなんて明白だった。私はただつまらない意地を張っているだけ。いつもそうだ。あの子はいつも正しい。私が思う正しさや考えは周囲からは間違ったものや幼稚なもので、あの子は"正しさ"という絶対の盾に守られている。
あの子の正しさを見るたびに自尊心が傷つく。そして正しいあの子に間違った私の気持ちは分からない。あれだけ一緒に居て、あれだけ助けてあげたのに―!!苛立つ心で私は家を出た。
歩いていると、頭は冷え代わりに寂しさを覚える。自分には妹以外繋がりが無い。道行く人も風景も、色が無く、皆どこかよそよそしく感じた。
公園のベンチに腰掛ける。世界に切り離されたような気分だった。
でも不意に気づいた。自分と似た雰囲気で周囲を眺める男の子を。
一言で言えば可愛い子だった。銀色のアメショで、赤、いや緋色か?鮮やかな目をしていた。
「ねえ、君。」
私は話しかけた。自分から積極的に他人に話しかけることは初めてだったから少し緊張したが、話してみたい、何故だかそう思えた。
「一緒に、遊ぼう?」
楽しかった。私のかけていた部分を、少しづつ満たしてくれているような気がした。
楽しい時間はあっという間だった。日は傾いて、彼の顔が陰になって見づらいや。
私達はお互いの手をしっかり取る。
「楽しかったよ。本当に。」
「うん。・・・・・・・あの。」
「なぁに?」
「・・・・・・最近こっちに来たばっかりで、友達も居なくて。」
「だからその・・・・・・友達になってくれて、ありがとう。」
「-!!」
友達。そうか、私にも居場所があるんだ。ジャスミンのところ以外にも。
「うん!!私のほうこそ!!あなたと友達になれて、一緒に歩いて、おしゃべりして、一緒に遊んで。本当に楽しかった。」
「また、明日、一緒に遊ぼうね。」
「うん。嘘ついたら針千本飲ませるよ?あはっ!!」
「・・・・・・・・・。」
ひどい雨が降っていた。レヴィは遊具に腰掛けながら友達を待ち続ける。
きっと来ない。分かっている。仕方ないことだ。でも、信じたい。お願い、早く来て・・・・・・。
「レヴィこんなところに・・・・・・風邪を引いてしまいますよ。」
聞きたい声じゃなかった。カメリアだ。ジャスミンも居る。
「レヴィ!良かった・・・。帰ろう?一緒に。」
(嗚呼そうか・・・・・・。)
「ごめん、ジャスミン。」
(やっぱりこの子しか私にはいないんだ。ウソツキじゃないのは、この子だけ・・・・・・)
「帰ったらまた一緒に本を読もうか。」
「うん。ずっと一緒だよ。お姉ちゃん!」
抱きついてくる盲目の妹をレヴィは悲しげに抱きしめる。
「うん。約束よ?私から離れないでね?・・・・・・ジャスミン。」
「ジャァ~スミィィィン・・・・・・こぉの―・・・・・・裏切り者ォォォォォォォ!!」
怒声と共にレヴィが突撃してくる。右手には剣。左手には三本の針。両手から繰り出される斬撃と刺突の猛ラッシュをジャスミンはバリアを展開して絶え凌ぐ。
「何があってもあんただけは裏切らないと思ってたのに―!!」
バリアを表面から削り落とすかのように一切攻め手を休め無い。スパークが乱舞する。
「私がケットシーになったから―?」
「私が何かしようとすると、あんたの存在がいつも立ちふさがって邪魔をした。」
切り上げでついに過負荷の掛かったバリアが砕かれ、そのまま回し蹴りを浴びせて領域内の岩壁に叩きつける。
「かはっ―!」
「パパもママも、皆私より、あんたの明るい性格を愛してたよね?そしてあんたは私の知る限り一番イイコだよ。」
「私がイイコになろうと頑張っても、あんたを見るたびに思ったよ。絶対に勝てない。あんたのように優しくしたり、簡単に誰かを信じたりはできない。だって皆ウソツキだもん。」
「でも悔しいけどあんたは本物のイイコだから、私に嘘はつかない。だから裏切ることも無い。そう思っていた。」
右手の剣を手の中でクルクルと回しながらゆっくり近づくレヴィ。
「でもあんたは約束を破った。」
「ずっと一緒。そう約束したよね?でもケットシーになるってことはそう遠くないうちに消えちゃうってこと。ウソツキには針千本飲ませないとね!!」
溢れ出す呪いが瘴気を生み出し、一歩を踏み出すたびに地面を腐らせていく。
「・・・そうだったんだね。ごめんなさい。レヴィ。」
悪意があった訳では無いでも確かに姉を傷つけていた。それに気づけなかったことをジャスミンは悔やんだ。しかしガントレットの輝きはいっそう増す。
「でも、私は世界が好きだから・・・・・・鈴蘭ちゃんも、レヴィも大好きだから、戦うよ。」
「・・・・・・フンッ!その気になってくれたね?嬉しいよ・・・・・・。」
ビーストの頭部を融解させた高エネルギーを手のひらに纏わせ、瘴気を纏って刀身を伸ばしたレヴィの剣に叩きつける。
魔力と呪いがすさまじい反応を起こして盛大なスパークが走る。
「くぅぅぅぅ!!」
「うぅアァァァ!!」
臨界点に達したエネルギーが爆発し、両者共に吹っ飛ばされる。
ジャスミンは着地と同時にマニピュレーター先端のレーザーを発射する。対するレヴィは槍のように巨大化させた針を投げつけて相殺した。
「フッ!」
剣を逆手に構え、高速で突進してくる。速い!!
ジャスミンはガントレットの計10門のレーザー砲をバルカンのように連射するが、レヴィは残像を残すほどの速さで弾幕をかいくぐり肉薄する。ジャスミンは連射から収束モードに切り替え、10本を束にした極太のレーザーを発射する。勢いの出ていたレヴィは完全回避こそできないものの焼かれる左半身を気にせず組み付き、剣を突き出す。
迎え撃とうとした左手のマニピュレーターを剣で貫き、岩壁の縫い付ける。
右手のマニピュレーターの指先がドリルを形成し、貫手を打って来るが、首をそらして交わす。
「あんたのガントレット、便利だよね。殴るはもちろん、斬るに潰す。撃つ、防ぐに穿つもできる。強度も悪くない。でも―。」
「あっ―!」
伸ばされた腕をつかんで壁に押し付けマニピュレーターの指間接部分に針を突き刺して破壊する。
「これでもう悪さはできない。」
「-まだだよ!」
縫い付けられていた左のガントレットをパージし、レーザー砲機能を失った右のガントレットで殴る。
レヴィの口の中が切れ、鉄の味が広がる。さらに岩壁に刺さったレヴィの剣を奪って斬りかかる。
急所に当てなければ・・・・・・!?
「えっ!?」
今の横なぎでありえないものが見えた。喉元を切られて倒れていく姉だ。
(違うっ!これは!!)
手ごたえは無かった。認識操作魔法の見せた幻覚だった。だが、頭では理解していたし、探知魔法も本物の位置を確かに示していた。だが、―。
「ざーんねん。目が見えないままならこんな手には引っかからなかったのに。」
「あ―。」
相手の動揺を誘い、隙を作るには十分だった。背後からの姉の抱擁。棘装束の針が次々とジャスミンの身体を貫いた。
「終わり・・・・・・なんだね。」
「・・・・・・うん。」
倒れた妹を抱きかかえながらレヴィは話しかける。
「やっとあんたに勝てた。・・・・・・でもなんだか寂しいな。ずっとこうやって、戦っていたかった様な気がする。目標、無くなっちゃったじゃない・・・・・・。」
「・・・お姉ちゃん。ごめんね。私、自分が役立たずなのがいやだった。だからケットシーになれるって分かって嬉しかったの。お姉ちゃんにも、誰にも迷惑をかけずに自分の力で生きていけるんだって。」
「でも無理だった。魔法が使えるからって、目が見えるようになったからって、私は役立たずにまま。カメリアにもスズちゃんにも迷惑かけてて・・・おねえちゃんを一人にした。」
「後悔してる?」
「ううん。後悔はして無いよ。いろんなものが見れて、鈴ちゃんたちと仲良くなれて、皆と一緒に戦えて、嬉しかったから。」
「・・・・・・私も悪魔になったこと、後悔して無いよ。友達ができたし、ならなかったらきっと壊れて、・・・・・・・死んでた。まあ、悪魔にならなくてもあんた達とは戦ってたかもだけど。」
「そっか。」
友達が居ると聞いて少しだけ安心したような顔をする。おかしなジャスミン。世界を壊すって言うのに。
「私がケットシーになったのは間違いだったかもしれないけど・・・・・・けど、それは私が弱かったからだよ。ケットシーが奇跡を起こすことを、レヴィは業だって言ったけど、私は奇跡を願うこと事態は、間違いじゃないと思うんだ。・・・・・・ねえレヴィ。本当にこれからスズちゃんと戦うの?世界を壊すの?」
「うん。あのことは戦う。世界も壊す。決めてるんだ。」
「やめて欲しいんだ。仲良くするのは、難しいかもしれないけど・・・・・・でも。」
「奇跡を願うこと自体は間違いじゃない。それは救われたいからでしょ?復讐が、私にとっての救いなの。」
「そっか・・・・・・。」
体が冷たくなってきた。そろそろ限界だろう。
「ねえレヴィ。私はレヴィのこと、何にも分かってあげられなかったけど・・・・・・私はレヴィのこと大好きだった・・・・・・よ。」
ジャスミンは事切れた。
「・・・・・・もう一度言うわ。妬んでるし、怨んでるし、憎んでる。でも嫌いじゃない。愛してるわ。ジャスミン。・・・・・・バイバイ。」
DCD- 見習い
- 投稿数 : 20
Join date : 2016/04/16
Re: 神話~Future to the desire
コメ失礼します。
レヴィの複雑な愛にドキドキしました!!
読み始めた時からラプラスちゃん(?)に痺れました.
レヴィの複雑な愛にドキドキしました!!
読み始めた時からラプラスちゃん(?)に痺れました.
ちくわ猫- 年長戦士
- 投稿数 : 152
Join date : 2016/04/23
所在地 : ちくわ星ちくわ町ちくわ番地 ちくわの湧き出る泉の近く。最近ちくわがよく降る。
Re: 神話~Future to the desire
ちくわ猫さんありがとうございます!!
これからも悪魔たちをよろしくお願いしますw
これからも悪魔たちをよろしくお願いしますw
DCD- 見習い
- 投稿数 : 20
Join date : 2016/04/16
28話
「・・・・・・。」
ジャスミンが事切れてどれくらいたっただろう?レヴィはには分からない。領域を解除し、妹との思い出を彼女のなきがらを抱きながら思い出していた。
「・・・・・・。ひとつだけ―。」
事切れた妹の優しく語り掛ける。
「ひとつだけ許せないことがあった。あんたは、私から―。」
その言葉が最後まで紡がれることはなかった。背後から飛んできた火炎弾は紋章を模した結界に阻まれる。
「レヴィ―!!」
「ああ、来たんだ鈴蘭ちゃん。遅かったね。」
口角を歪め、首だけで振り返る。
「あんまり遅いからぁ―。」
さっきまで大事そうに抱えていた遺体をわざと乱暴に落とす。
「-!!」
「殺しちゃった♪」
あはっ!!いいなぁ・・・その顔。怒り、驚き、悲しみ、憎悪、そして孤独。それが見たかった!!
「-どうして!?ジャスミンは最後まであなたのことを―!!」
分かっている。愛していた、よね?でも―。
「あはっ!!そんなの決まってるじゃん。」
認識操作で懐に潜り込んで剣を弾き、両足を切りつける。
「ぐぅっ!?」
倒れこむ鈴蘭ちゃん。ふふ、コワイ目。一周回ってカワイイや。もっとよく見るためにあごを片手でつかんであげさせる。
「んぅ!」
「あはっ!!良いね、その表情。カワイイよ!キレイだよ!最高だよ!」
片手に火炎弾が見える。飛びのいてかわした。鈴蘭ちゃんは剣を支えにしながら起き上がる。
「いい気味だよ鈴蘭ちゃん。私の家族の間に土足で割って入って、全てを奪っていった、憎い、憎い鈴蘭ちゃん。今度はあなたが一人ぼっちになる番だよ。あはっ!!」
「私を、一人に・・・?そのために、そのためだけに、妹を殺したって言うの!?あなたは―!!」
怒り任せに剣を振り下ろしてくる。刀身に纏うのはカメリアの魔法。・・・・・・イラついてきた。彼女が私に残したのは憎しみだけど、鈴蘭ちゃんは魔法をもらっている。私よりも愛されてる。・・・・・・本当に大っ嫌いだよ。鈴蘭ちゃん―!!
レヴィは自分の剣に瘴気を纏わせ、燃え盛る鈴蘭の剣にぶつける。
そのとき、
「-え?」
「・・・・・・なに?」
二人には見えた。
『また、明日、一緒に遊ぼうね。』
『うん。嘘ついたら針千本飲ますからね?あはっ!!』
魔力が交錯した影響下、突然見えたフラッシュバック。
「今のは・・・・・・?」
先ほどまでの怒りもどこかへ消え二人は動揺していた。
「え?なんで?今のって、・・・・・・いや、そんなはず無い。だってあそこに居たのは・・・・・・。でも今のは確かに・・・・・・。あれ?知らない。こんなの知らない!あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?」
だが、一番動揺していたのはレヴィだ。剣を取り落とし、頭を抱えて首を振りながら。どうして?ありえない、知らないと連呼している。
(今なら!!)
底にいち早く同様から立ち直った鈴蘭が切りかかる。
「っ!」
迫る刃に気づいたレヴィが身をかわすが、頬が切れた。
「ああ、もう!!」
苛立った声で紋章型の魔方陣をそのままぶつけ、壁に叩きつける。
「がはっ!!」
「なんなの・・・・・・!本当になんなのさ!!」
「-!待ちなさい・・・・・・!!」
レヴィが認識操作で消える。鈴蘭が火炎弾を放ったがすでに移動したらしく、虚空へ飛んで言った。
「・・・・・・さっきのビジョンは・・・・・・。」
(いや、ありえない。あんな記憶は覚えが無い。だって私にとってこの町で最初の友達は・・・・・・)
「・・・・・・ジャスミン。」
事切れた親友のなきがらに駆け寄る。嗚呼、何てことだ・・・・・・。
「ジャスミン!・・・・・・ごめん。ごめんなさい。」
また、守れなかった。親も、カメリアも、たった一人の友達まで・・・・・・。
「・・・・・・許さない・・・・・・レヴィ!!」
「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ。」
レヴィは部屋に引きこもり、ずっと独り言を言い続けていた。
「なんで・・・・・・?あの日、あそこで出会ったのは男の子だったんだよ?なのになんで・・・・・・?」
「レヴィ、不安定になっているな。一体どうしたっていうんだ・・・・・・。」
部屋に引きこもった彼女を心配するようにラプラスがつぶやく。
「ラプラス、気づいてるでしょ?レヴィちゃんの頭に無数の記憶操作痕があるってこと。」
ナハトが珍しく真剣な声で話す。
「あの子の魔法は自分にもかけられる。あの子は幼い。・・・・・・いままでは単に感情の暴走を抑制して無意味に呪いを撒き散らさないように制御するためだと思っていたけど、どうやらそれだけじゃないようだね。」
逆様の状態で腕組をしながらレヴィ部屋のドアを見つめる。
「心の奥に押し込み、封印していた過去や真実がぶり返したとでもいうのか・・・・・・。」
鈴蘭とレヴィが見たビジョン。それは二人で仲良く遊ぶ約束を交わすかつての二匹の姿だった。
ジャスミンが事切れてどれくらいたっただろう?レヴィはには分からない。領域を解除し、妹との思い出を彼女のなきがらを抱きながら思い出していた。
「・・・・・・。ひとつだけ―。」
事切れた妹の優しく語り掛ける。
「ひとつだけ許せないことがあった。あんたは、私から―。」
その言葉が最後まで紡がれることはなかった。背後から飛んできた火炎弾は紋章を模した結界に阻まれる。
「レヴィ―!!」
「ああ、来たんだ鈴蘭ちゃん。遅かったね。」
口角を歪め、首だけで振り返る。
「あんまり遅いからぁ―。」
さっきまで大事そうに抱えていた遺体をわざと乱暴に落とす。
「-!!」
「殺しちゃった♪」
あはっ!!いいなぁ・・・その顔。怒り、驚き、悲しみ、憎悪、そして孤独。それが見たかった!!
「-どうして!?ジャスミンは最後まであなたのことを―!!」
分かっている。愛していた、よね?でも―。
「あはっ!!そんなの決まってるじゃん。」
認識操作で懐に潜り込んで剣を弾き、両足を切りつける。
「ぐぅっ!?」
倒れこむ鈴蘭ちゃん。ふふ、コワイ目。一周回ってカワイイや。もっとよく見るためにあごを片手でつかんであげさせる。
「んぅ!」
「あはっ!!良いね、その表情。カワイイよ!キレイだよ!最高だよ!」
片手に火炎弾が見える。飛びのいてかわした。鈴蘭ちゃんは剣を支えにしながら起き上がる。
「いい気味だよ鈴蘭ちゃん。私の家族の間に土足で割って入って、全てを奪っていった、憎い、憎い鈴蘭ちゃん。今度はあなたが一人ぼっちになる番だよ。あはっ!!」
「私を、一人に・・・?そのために、そのためだけに、妹を殺したって言うの!?あなたは―!!」
怒り任せに剣を振り下ろしてくる。刀身に纏うのはカメリアの魔法。・・・・・・イラついてきた。彼女が私に残したのは憎しみだけど、鈴蘭ちゃんは魔法をもらっている。私よりも愛されてる。・・・・・・本当に大っ嫌いだよ。鈴蘭ちゃん―!!
レヴィは自分の剣に瘴気を纏わせ、燃え盛る鈴蘭の剣にぶつける。
そのとき、
「-え?」
「・・・・・・なに?」
二人には見えた。
『また、明日、一緒に遊ぼうね。』
『うん。嘘ついたら針千本飲ますからね?あはっ!!』
魔力が交錯した影響下、突然見えたフラッシュバック。
「今のは・・・・・・?」
先ほどまでの怒りもどこかへ消え二人は動揺していた。
「え?なんで?今のって、・・・・・・いや、そんなはず無い。だってあそこに居たのは・・・・・・。でも今のは確かに・・・・・・。あれ?知らない。こんなの知らない!あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?」
だが、一番動揺していたのはレヴィだ。剣を取り落とし、頭を抱えて首を振りながら。どうして?ありえない、知らないと連呼している。
(今なら!!)
底にいち早く同様から立ち直った鈴蘭が切りかかる。
「っ!」
迫る刃に気づいたレヴィが身をかわすが、頬が切れた。
「ああ、もう!!」
苛立った声で紋章型の魔方陣をそのままぶつけ、壁に叩きつける。
「がはっ!!」
「なんなの・・・・・・!本当になんなのさ!!」
「-!待ちなさい・・・・・・!!」
レヴィが認識操作で消える。鈴蘭が火炎弾を放ったがすでに移動したらしく、虚空へ飛んで言った。
「・・・・・・さっきのビジョンは・・・・・・。」
(いや、ありえない。あんな記憶は覚えが無い。だって私にとってこの町で最初の友達は・・・・・・)
「・・・・・・ジャスミン。」
事切れた親友のなきがらに駆け寄る。嗚呼、何てことだ・・・・・・。
「ジャスミン!・・・・・・ごめん。ごめんなさい。」
また、守れなかった。親も、カメリアも、たった一人の友達まで・・・・・・。
「・・・・・・許さない・・・・・・レヴィ!!」
「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ。」
レヴィは部屋に引きこもり、ずっと独り言を言い続けていた。
「なんで・・・・・・?あの日、あそこで出会ったのは男の子だったんだよ?なのになんで・・・・・・?」
「レヴィ、不安定になっているな。一体どうしたっていうんだ・・・・・・。」
部屋に引きこもった彼女を心配するようにラプラスがつぶやく。
「ラプラス、気づいてるでしょ?レヴィちゃんの頭に無数の記憶操作痕があるってこと。」
ナハトが珍しく真剣な声で話す。
「あの子の魔法は自分にもかけられる。あの子は幼い。・・・・・・いままでは単に感情の暴走を抑制して無意味に呪いを撒き散らさないように制御するためだと思っていたけど、どうやらそれだけじゃないようだね。」
逆様の状態で腕組をしながらレヴィ部屋のドアを見つめる。
「心の奥に押し込み、封印していた過去や真実がぶり返したとでもいうのか・・・・・・。」
鈴蘭とレヴィが見たビジョン。それは二人で仲良く遊ぶ約束を交わすかつての二匹の姿だった。
DCD- 見習い
- 投稿数 : 20
Join date : 2016/04/16
29話
ジャスミンの死からしばらくがたった。レヴィはあれから三つのことをした。
一つはカメリアの写真を破り捨て、燃やしたこと。
二つ目はジャスミンの絵が入った額縁を外して伏せたこと。
「あの人は良い人だけど、やっぱりウソツキだった。カメリアの心の底にあったのは私や、鈴蘭ちゃんを巻き込んだり、悪魔にしたっていう罪悪感から救われたいって思いだった。私を救いたいんじゃない。自分が救われるための手段が私を救うってことなの。」
「所詮、この世は嘘や欺瞞だらけ。バツの悪い事情にはフタして、表面だけ見て理解したつもりになって、食わせ物の現実で成り立っている。彼女達もその一員に過ぎなかったってことね。」
そして三つ目は・・・・・・自分にかけた記憶改竄を解除しようとしているようだった。
一方ラプラスは―
「・・・・・・。」
夜の町を一人歩く。自分の主が生きたこの町。俺には特に思い入れがあるわけではないが、壊す前に見ておきたかったとのだ。
病院に来た。自分にとっての始まりの場所。ラプラスは思い出し、追体験する。初めて息をし、初めて言葉をはなした日を。
『どうして!?どうして勝てないの!?・・・・・・一体、何度繰り返せば、あの子を・・・・・・!!』
個室の病室の中、目を覚ました一匹の黒猫が涙を流す。ラプラスの主、ザッーだ。
『誰も、信じてくれない。誰も、信じられない。・・・・・・私は誰も頼れない。』
すでに何周も時間をループしていた。その数は体感時間にして80年近くにも及ぶが、彼女は当の昔に数えるのをやめていた。
『でも一人じゃアイツに勝てない―!!』
全ての始まり、それはラプラスにとっては主と共有した記憶を通してみて、追体験しただけだが、憶えている。
主は病弱だった。心臓の血管が生まれつき異様に細かったのだ。外で誰かと遊んだり、友達を作ることはできなかった。ただそれを窓から眺め、羨ましいと思うだけの日々。
中々難しい病気だったらしく、何度も転院を繰り返し、生死をさ迷うことも多かった。
不幸なのは危篤状態になっても親が来なかったことだろう。親は入院費用に手術費用を稼ぐのに手一杯であり、勤務地から離れた場所へと転院を繰り返す娘に会いに行ってやることができない。両親共に身を粉にして働いている。と、いえば聞こえはいいかもしれないが。
誰かに助けて欲しい。でも誰も来てくれない。だから自分一人で頑張らなければいけない。
主の悪い癖は、思えばこのころ出来たのかもしれない。
そして何度目かの退院の末、この町に一人越してきて親から離れて一人暮らしを始めることになった。正直、中学生の子供に退院に付き添うこともしないとは、その愛情に疑念をもたれても仕方ないだろう。事実、主は自分は腫れ物なのでは?と負い目を感じていた。
そして転校当日。彼女に待っていたのは好機の目と嘲笑だった。入退院の繰り返しでろくに勉強する機会もなかったのに教師は順番さえ繰れば普通に当ててくるし、入院生活が長すぎて体力も無いため体育は見学。
そんな中で少しだけ違う反応を見せたものがいた。それがデイジー。後の神である。
自信の無い主にあの女はさりげないフォローを入れていた。だが、極めつけはそのあとだろう。
その日、下校途中で主は魔物に襲われた。精神的に弱っていたのだ。
それを、救ったのがデイジーだった。いや、正確にはその先輩も居たんだが・・・・・・。まあ、主にとって一番鮮明に焼きついたのはデイジーのほうだったのだ。
二人はケットシーについて一通りの説明をした。そしてそれからは・・・・・・まあまあ、穏やかな日常だった。デイジーは主に別段何かするわけでもなく、ただ少しはなれたところから見守り、必要ならフォローする。それだけだった。
そして一ヶ月。あれは夢だったのでは?そう主が感じ始めたころ、悲劇が起こった。
『デイジーたちが危ない。すぐ来てくれ。』
光る猫はそういった。その日、この町に夜がやってきた。全てを破壊し、あざ笑う最強の魔物。領域に隠れることさえしないその強大さ。ケットシー達はソイツを”ナハト”と呼んでいた。
一つはカメリアの写真を破り捨て、燃やしたこと。
二つ目はジャスミンの絵が入った額縁を外して伏せたこと。
「あの人は良い人だけど、やっぱりウソツキだった。カメリアの心の底にあったのは私や、鈴蘭ちゃんを巻き込んだり、悪魔にしたっていう罪悪感から救われたいって思いだった。私を救いたいんじゃない。自分が救われるための手段が私を救うってことなの。」
「所詮、この世は嘘や欺瞞だらけ。バツの悪い事情にはフタして、表面だけ見て理解したつもりになって、食わせ物の現実で成り立っている。彼女達もその一員に過ぎなかったってことね。」
そして三つ目は・・・・・・自分にかけた記憶改竄を解除しようとしているようだった。
一方ラプラスは―
「・・・・・・。」
夜の町を一人歩く。自分の主が生きたこの町。俺には特に思い入れがあるわけではないが、壊す前に見ておきたかったとのだ。
病院に来た。自分にとっての始まりの場所。ラプラスは思い出し、追体験する。初めて息をし、初めて言葉をはなした日を。
『どうして!?どうして勝てないの!?・・・・・・一体、何度繰り返せば、あの子を・・・・・・!!』
個室の病室の中、目を覚ました一匹の黒猫が涙を流す。ラプラスの主、ザッーだ。
『誰も、信じてくれない。誰も、信じられない。・・・・・・私は誰も頼れない。』
すでに何周も時間をループしていた。その数は体感時間にして80年近くにも及ぶが、彼女は当の昔に数えるのをやめていた。
『でも一人じゃアイツに勝てない―!!』
全ての始まり、それはラプラスにとっては主と共有した記憶を通してみて、追体験しただけだが、憶えている。
主は病弱だった。心臓の血管が生まれつき異様に細かったのだ。外で誰かと遊んだり、友達を作ることはできなかった。ただそれを窓から眺め、羨ましいと思うだけの日々。
中々難しい病気だったらしく、何度も転院を繰り返し、生死をさ迷うことも多かった。
不幸なのは危篤状態になっても親が来なかったことだろう。親は入院費用に手術費用を稼ぐのに手一杯であり、勤務地から離れた場所へと転院を繰り返す娘に会いに行ってやることができない。両親共に身を粉にして働いている。と、いえば聞こえはいいかもしれないが。
誰かに助けて欲しい。でも誰も来てくれない。だから自分一人で頑張らなければいけない。
主の悪い癖は、思えばこのころ出来たのかもしれない。
そして何度目かの退院の末、この町に一人越してきて親から離れて一人暮らしを始めることになった。正直、中学生の子供に退院に付き添うこともしないとは、その愛情に疑念をもたれても仕方ないだろう。事実、主は自分は腫れ物なのでは?と負い目を感じていた。
そして転校当日。彼女に待っていたのは好機の目と嘲笑だった。入退院の繰り返しでろくに勉強する機会もなかったのに教師は順番さえ繰れば普通に当ててくるし、入院生活が長すぎて体力も無いため体育は見学。
そんな中で少しだけ違う反応を見せたものがいた。それがデイジー。後の神である。
自信の無い主にあの女はさりげないフォローを入れていた。だが、極めつけはそのあとだろう。
その日、下校途中で主は魔物に襲われた。精神的に弱っていたのだ。
それを、救ったのがデイジーだった。いや、正確にはその先輩も居たんだが・・・・・・。まあ、主にとって一番鮮明に焼きついたのはデイジーのほうだったのだ。
二人はケットシーについて一通りの説明をした。そしてそれからは・・・・・・まあまあ、穏やかな日常だった。デイジーは主に別段何かするわけでもなく、ただ少しはなれたところから見守り、必要ならフォローする。それだけだった。
そして一ヶ月。あれは夢だったのでは?そう主が感じ始めたころ、悲劇が起こった。
『デイジーたちが危ない。すぐ来てくれ。』
光る猫はそういった。その日、この町に夜がやってきた。全てを破壊し、あざ笑う最強の魔物。領域に隠れることさえしないその強大さ。ケットシー達はソイツを”ナハト”と呼んでいた。
DCD- 見習い
- 投稿数 : 20
Join date : 2016/04/16
30話
ーナハト―それはケットシーたちの間で口授されていた伝説の魔物である。一つの文明が黄金期を極めたとき、奴は必ず破滅を引き連れてきた。
文明の繁栄の陰にはケットシーたちの祈りがある。栄えるという事はすなわち、それだけ多くのケットシーが生まれ、最期は魔物に代わっていく悲劇の連鎖。歴史上何匹ものケットシーたちがコイツに挑み、殺されてきた。
最も、魔物は一般人には見えないため、表向きには地震やら、火山噴火やら、竜巻やら、天変地異として処理された。
そしてケットシーたちを失った文明はそう遠くない未来に衰退し、滅んで行ったのだ。
それがこの街にやってきた。
その魔物は、さかさまのピエロとも魔女ともつかない姿をしていた。ビル群の巻き起こす暴風で巻き上げ、口からは火を吐く。最早天災の域である。
そして地面にはただ一人ラプラスの主が自分の無力とともに堕ちていた。
「どうして?死んじゃうって、わかっていたのに・・・・・・。逃げようって、言ったのに―!!」
(私、私はあなたと友達になりたかったのに。ただ朝挨拶をして、一緒に遊んで、勉強して、そんな当たり前の日々を、あなたと過ごしたかったのに。)
今、この町で生きている猫は彼女だけだった。
デイジーと共闘し、町の防衛をしていたケットシーは全員戦死。勝ち目など万に一つも無かった。
主はデイジーに逃げようといった。あんなバケモノに勝てるわけがない。誰も恨んだりなんかしない。一緒に逃げようと。
その誘いは正しかった。ケットシーである以前にデイジーはただの子供で、女の子だ。だから勝ち目のない戦いに行く義務などない。
だがデイジーは拒否した。
「戦えるのはもう私しかいないから。大好きなこの町と、みんなを見捨てたくない。それと―初めて魔物と戦った時、あなたを助けられたこと。それが今も私の誇りなの。」
「待って、デイジー!!行かないで!!」
「さよなら―ちゃん。・・・・・・元気でね。」
彼女の制止を振り切り、デイジーはナハトに特攻を仕掛けた。結果は無傷。進行先にあった避難所は破壊され、奴はそのまま暴風のように過ぎ去っていった。
「私より、あなたに生きていてほしかった―!!」
デイジーの死体に寄り添いながら、主は泣いていた。
そして、あの忌まわしい声がする。光る猫だ。
『君の願い事を言ってごらん。叶えてあげる。だから、ボクと契約して、ケットシーになってよ!』
―嗚呼、主。やめてくれ。あんな女のことなどどうだっていい。あんな女のために君の人生を投げ出さないでくれ―
「デイジーを、生き返らせて!」
『・・・・・・。すまないがそれは君の力では無理だ。だが、生きている彼女に合わせることはできる。』
「できるの?どうすればいいの?」
『君をこれから過去に送ろう。そうすれば生きている彼女に会える。』
「・・・・・・私は彼女を守れなかった。守られるばかりで、何も返せなかった。だから、-今度は私が彼女を守る。やって。」
これが、地獄の始まりだった。
契約した主は、一か月前、退院した直後に戻った。以降、彼女はこれから何度もこの一か月という牢獄にとらわれることになる。
「デイジー、私もケットシーなの。これから一緒に頑張ろう。」
二度目の一か月は、楽しかった。二匹は親友になり、ほぼ毎日を共に過ごしていた。
魔物にとどめを刺したとき、デイジーはすごいとほめてくれた。人に褒められるという経験の少ない主の中で、その存在は今まで以上に大きくなっていった。
だが、それも一か月の話。
「デイジー!?どうしたの!?しっかりして!!」
光る猫が契約時に黙っている真実がある。これがその一つ。
「うっぐっあ、あア阿亜ァ!!」
―バリンッ―
「-え?」
魔物化。平穏は崩れ去っていたのだ。契約したその日から、永遠に。
「伝えなきゃ!!みんな、みんな騙されている!!」
3度目の一か月は、悲惨なものだった。
「信じられないわね。第一、光る猫に何の得があるっていうの?あと、前から思ってたけどあたしあんたと組むのイヤ。」
この時間軸では、デイジーの友人だったサヤがケットシーになっていた。正直このセリフに関しては感情任せにイラついていっただけだ。固有武装を生成できるほど魔力を持っていない主は自作の爆弾を時間操作と合わせて戦っていたが、剣を武器とするサヤとは合わなかったのだ。(ちなみに今後、主は暴力団事務所や闇ルートから銃など武器を時間操作魔法を利用して盗むことになる)
今だから言えることだが、魔物は『猫』を襲う。『ケットシー』はそれを倒す。そのサイクルに光る猫は含まれていない。ならば一体光る猫に何の利益がある?という話になる。
慈善事業?一方にしか利益がない取り決めを普通契約とは言わない。こうして、疑問を一つずつ潰せれば良かったが、その時の主にはあまりに情報が不足していた。
だが、それから一週間と立たずにその言葉が真実であったと、全員が嫌でも知ることになる。
サヤが魔物化したのだ。原因は確か―ああ、そうだ、失恋だったか。
この女は片思いの相手のけがを治すために契約した。加えて正義感は強いほうだったから魔物退治にも粋がっていた。だが、現実は一度の奇跡でどうにかできるほど甘くない。
まず、実力不足が現れた。当然だ、一番新米なのだから。だがチームの足を引っ張っていることを自覚し、かねてから転校生のくせにやたらデイジーと馴れ馴れしく接する主への不信感や前述の相性の悪さもあって八つ当たりしてしまった。そんな自分への自己嫌悪。
次に失恋。片思いの相手はクラシックギターをやっていたが、腕を怪我し、再起不能だった。それを治すことを願いに契約したらしいが、当然そんなことを相手が知るはずもなく、感謝もされない。
そしてブランクをなかなか埋めることができず、やめてしまったのだ。彼の演奏を聴き恋い焦がれていた彼女にとってはとんでもない裏切りだった。
だが、そう―裏切り。自分は契約した直したのだから彼に愛される資格がある、彼は音楽を続けなければならないはずだ、そういった見返りを期待したあさましい感情を、元来の正義感が邪魔をして、彼女は許容できなかった。
そして自分や世界の無慈悲さに絶望し、魔物になったのだ。
俺は思う。人は本来醜いものだ。それでも守りたいのなら、人の醜さまで愛さなければならない。でなければ人を守ることなんてできない、と。彼女はあまりにヒーローをするにはあまりに青かったのだ。
・・・・・・話がそれたが、サヤの魔物をデイジーたちは攻撃できず、やむおえず主が倒した。
「・・・・・・ごめんなさい。」
だが悲劇はここからだ。デイジーの先輩が味方に銃を向けたのだ。
「ごめんなさい、こんなことに巻き込んで。ごめんなさい。あなたは真実を言っていたのに。私たちみんな、最後は魔物になってしまうなら、・・・・・・みんな死ぬしかないじゃない・・・・・・。」
サヤとデイジーは彼女の勧誘もあってケットシーになった。加えてこれまでのチームの衝突の緩衝材を担っていた先輩の精神は一気に崩壊したのだ。なまじ責任感が強いゆえに―。
「やめて!!」
静止の声は届かなかった。殺されると思った。だが、弾丸は放たれなかった。デイジーが先輩を殺したのだ。
「嫌だぁ…もうこんなの嫌だよぉ……!!」
大好きな友達と、憧れの先輩を一度に失って彼女は泣いていた。主も泣きたかった。…泣けなかった。
「頑張ろう。」
「え?」
「頑張ろう。一緒にナハトを倒そう。町を、守るんでしょ?」
「うん・・・・・・。」
そして主は呪いをかけられた。
「私たち、もう、お終いだね・・・。」
「感情石は?」
デイジーはかぶりを振った。
「そう・・・・・・。」
「・・・・・・ねえ、このまま二人で一緒に、魔物になっちゃおうか?」
主は言った。本当につらくて、つらくて、仕方なかったのだ。
「こんな世界、何もかも、全部、メチャクチャにしちゃおうか?嫌なこと全部忘れちゃうくらい、壊して、壊して、潰して潰して、燃やして、燃やして、燃やし尽くしてさ・・・・・・。」
(デイジー、あなたと一緒に魔物になれるなら、それはそれで幸せ、なんじゃないかなって、そう思うから。)
隣に横たわるデイジーは思っていた。何もできなかったと。
(-ちゃん。私、・・・・・・何もできなかったね。)
(ナハトも倒せない。サヤちゃんも先輩も、パパとママ、町のみんな。誰も救えない。)
(-ちゃんまで、絶望に身を任せようとしている。私が弱いから、ダメだから。昔からそう。特異な課目も人に自慢できるような特技もない。運動ができるわけでもない。こんな自分を変えたら、誰かの役に立てることがあったら、・・・・・・そう思ってケットシーになったけど。)
(やっぱり私、ダメな子だ。ケットシーになっちゃいけないんだ。・・・・・・でも、-ちゃんは違う。)
コツンッ
「・・・え?」
「嘘。一個だけ残していたんだ。」
(サヤちゃんの魔物から出てきた感情石。使う気はなかったけど、許してくれるよね?)
「どうして?どうして私に―!!」
「-ちゃん、過去に戻れるんだよね。こんな悲しい結末を、変えられるんだよね?」
「光る猫に騙される前の、バカな私を助けて・・・くれないかな?」
(私よりずっと強いから、あの時、私を励ましてくれた、強いあなたに、お願いします。)
「・・・約束する。絶対にあなたを守って見せる。何度繰り返すことになっても、絶対に、絶対にあなたを守って見せる!!」
(無責任だよね。ひどいよね…なにもかも―ちゃんに押し付けて、私は何もかも忘れてしまう。)
「よかった・・・・・・。」
「……ねえ、もう一つだけ、頼んでいい?私、魔物になりたくない。つらくても、悲しくても、守りたいものが世界にはあったから・・・・・・たくさん。」
「だから、・・・・・・・私を、殺して?」
(自分でもやったからわかる。友達を撃つなんて、きっと―ちゃんは忘れられるはずがないのに・・・・・・。)
「あっ、あ、あぁ・・・・・・・ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
パァン・・・・・・
「いつも、いつも・・・・・・デイジーにばかりつらい思いをさせて・・・・・・ごめんなさい。」
「次は・・・・・・きっと、うまくやるわ。あなたとの約束、果たすから―!!」
・・・・・・この後、時を戻った主は、まず、デイジーを撃ったことを思い出し、吐いた。そして吐しゃ物にまみれながら泣き、そして動いた。約束という呪いに呪縛され・・・・・殺したという事実に呪縛され・・・・・・。そしてそれは、仮に約束を果たしてもデイジーを殺したという事実を忘れられないということは、彼女の憧れ、望んでいた、友達と過ごす平穏だが幸せな日常は永遠に失われたことを、さしていた。
「繰り返す、私は何度でも繰り返す。」
そして繰り返すたびに主は一人になっていく。悲しい思い出を覚えているのは自分だけ。相手から見れば、自分は他人。
そして同時に、繰り返すたびに主は人を信じなくなった。繰り返しの影響で学校生活に不便はなくなったが、そうすると散々影口叩いていたはずのクラスは自分を優秀な相手として好機の目でお近づきになろうとする。手のひら返しに呆れた。
共闘する仲間も、信じていたはずがいつの間にか裏切られたり、魔物になったりを繰り返した。
そしていつしか主の心には、本人も気づかない無意識のうちに、「信じることへの恐怖」が生まれた。裏切られる恐怖。裏切ってしまう恐怖。失う恐怖。こころは摩耗し続け、無限の闇を溺れ彷徨う。
夜は明けそうにない―。
「どうして!?どうして勝てないの!?・・・・・・一体、何度繰り返せば、あの子を・・・・・・!!」
「誰も、信じてくれない。誰も、信じられない。・・・・・・私は誰も頼れない。」
「でも一人じゃアイツに勝てない―!!」
いらだちのままテーブルにウドを振り下ろした衝撃で何かが落ちた。
「-・・・・・・。」
それはドラゴンのぬいぐるみだった。まだ主が小さいころ、最初の手術の時父親がお守りに買ってよこしたもの。彼女の友達だ。最も、女の子にドラゴンのぬいぐるみとはセンスがずれているような気もするが・・・・・・。
「・・・・・・。そうだわ。」
主はぬいぐるみを拾い上げ、魔力を注いでいく。紫の魔力光に包まれ、ぬいぐるみは命を宿していく。
「お願い、・・・・・・お願い、助けて・・・・・・私を、助けて―!!」
嗚咽にまみれながら、命は吹き込まれる。
大きくなったぬいぐるみは、本物のドラゴンへと姿を変えた。
「 な に が あ っ て も 、 あ な た を 守 り ま す 。 」
ドラゴンは―をやさしく抱きしめ、翼でくるんだ。冷え切った彼女の心を、少しでも温めたかったから。
それがこの俺、ラプラスがこの世に生まれて、初めてしたことだった。
文明の繁栄の陰にはケットシーたちの祈りがある。栄えるという事はすなわち、それだけ多くのケットシーが生まれ、最期は魔物に代わっていく悲劇の連鎖。歴史上何匹ものケットシーたちがコイツに挑み、殺されてきた。
最も、魔物は一般人には見えないため、表向きには地震やら、火山噴火やら、竜巻やら、天変地異として処理された。
そしてケットシーたちを失った文明はそう遠くない未来に衰退し、滅んで行ったのだ。
それがこの街にやってきた。
その魔物は、さかさまのピエロとも魔女ともつかない姿をしていた。ビル群の巻き起こす暴風で巻き上げ、口からは火を吐く。最早天災の域である。
そして地面にはただ一人ラプラスの主が自分の無力とともに堕ちていた。
「どうして?死んじゃうって、わかっていたのに・・・・・・。逃げようって、言ったのに―!!」
(私、私はあなたと友達になりたかったのに。ただ朝挨拶をして、一緒に遊んで、勉強して、そんな当たり前の日々を、あなたと過ごしたかったのに。)
今、この町で生きている猫は彼女だけだった。
デイジーと共闘し、町の防衛をしていたケットシーは全員戦死。勝ち目など万に一つも無かった。
主はデイジーに逃げようといった。あんなバケモノに勝てるわけがない。誰も恨んだりなんかしない。一緒に逃げようと。
その誘いは正しかった。ケットシーである以前にデイジーはただの子供で、女の子だ。だから勝ち目のない戦いに行く義務などない。
だがデイジーは拒否した。
「戦えるのはもう私しかいないから。大好きなこの町と、みんなを見捨てたくない。それと―初めて魔物と戦った時、あなたを助けられたこと。それが今も私の誇りなの。」
「待って、デイジー!!行かないで!!」
「さよなら―ちゃん。・・・・・・元気でね。」
彼女の制止を振り切り、デイジーはナハトに特攻を仕掛けた。結果は無傷。進行先にあった避難所は破壊され、奴はそのまま暴風のように過ぎ去っていった。
「私より、あなたに生きていてほしかった―!!」
デイジーの死体に寄り添いながら、主は泣いていた。
そして、あの忌まわしい声がする。光る猫だ。
『君の願い事を言ってごらん。叶えてあげる。だから、ボクと契約して、ケットシーになってよ!』
―嗚呼、主。やめてくれ。あんな女のことなどどうだっていい。あんな女のために君の人生を投げ出さないでくれ―
「デイジーを、生き返らせて!」
『・・・・・・。すまないがそれは君の力では無理だ。だが、生きている彼女に合わせることはできる。』
「できるの?どうすればいいの?」
『君をこれから過去に送ろう。そうすれば生きている彼女に会える。』
「・・・・・・私は彼女を守れなかった。守られるばかりで、何も返せなかった。だから、-今度は私が彼女を守る。やって。」
これが、地獄の始まりだった。
契約した主は、一か月前、退院した直後に戻った。以降、彼女はこれから何度もこの一か月という牢獄にとらわれることになる。
「デイジー、私もケットシーなの。これから一緒に頑張ろう。」
二度目の一か月は、楽しかった。二匹は親友になり、ほぼ毎日を共に過ごしていた。
魔物にとどめを刺したとき、デイジーはすごいとほめてくれた。人に褒められるという経験の少ない主の中で、その存在は今まで以上に大きくなっていった。
だが、それも一か月の話。
「デイジー!?どうしたの!?しっかりして!!」
光る猫が契約時に黙っている真実がある。これがその一つ。
「うっぐっあ、あア阿亜ァ!!」
―バリンッ―
「-え?」
魔物化。平穏は崩れ去っていたのだ。契約したその日から、永遠に。
「伝えなきゃ!!みんな、みんな騙されている!!」
3度目の一か月は、悲惨なものだった。
「信じられないわね。第一、光る猫に何の得があるっていうの?あと、前から思ってたけどあたしあんたと組むのイヤ。」
この時間軸では、デイジーの友人だったサヤがケットシーになっていた。正直このセリフに関しては感情任せにイラついていっただけだ。固有武装を生成できるほど魔力を持っていない主は自作の爆弾を時間操作と合わせて戦っていたが、剣を武器とするサヤとは合わなかったのだ。(ちなみに今後、主は暴力団事務所や闇ルートから銃など武器を時間操作魔法を利用して盗むことになる)
今だから言えることだが、魔物は『猫』を襲う。『ケットシー』はそれを倒す。そのサイクルに光る猫は含まれていない。ならば一体光る猫に何の利益がある?という話になる。
慈善事業?一方にしか利益がない取り決めを普通契約とは言わない。こうして、疑問を一つずつ潰せれば良かったが、その時の主にはあまりに情報が不足していた。
だが、それから一週間と立たずにその言葉が真実であったと、全員が嫌でも知ることになる。
サヤが魔物化したのだ。原因は確か―ああ、そうだ、失恋だったか。
この女は片思いの相手のけがを治すために契約した。加えて正義感は強いほうだったから魔物退治にも粋がっていた。だが、現実は一度の奇跡でどうにかできるほど甘くない。
まず、実力不足が現れた。当然だ、一番新米なのだから。だがチームの足を引っ張っていることを自覚し、かねてから転校生のくせにやたらデイジーと馴れ馴れしく接する主への不信感や前述の相性の悪さもあって八つ当たりしてしまった。そんな自分への自己嫌悪。
次に失恋。片思いの相手はクラシックギターをやっていたが、腕を怪我し、再起不能だった。それを治すことを願いに契約したらしいが、当然そんなことを相手が知るはずもなく、感謝もされない。
そしてブランクをなかなか埋めることができず、やめてしまったのだ。彼の演奏を聴き恋い焦がれていた彼女にとってはとんでもない裏切りだった。
だが、そう―裏切り。自分は契約した直したのだから彼に愛される資格がある、彼は音楽を続けなければならないはずだ、そういった見返りを期待したあさましい感情を、元来の正義感が邪魔をして、彼女は許容できなかった。
そして自分や世界の無慈悲さに絶望し、魔物になったのだ。
俺は思う。人は本来醜いものだ。それでも守りたいのなら、人の醜さまで愛さなければならない。でなければ人を守ることなんてできない、と。彼女はあまりにヒーローをするにはあまりに青かったのだ。
・・・・・・話がそれたが、サヤの魔物をデイジーたちは攻撃できず、やむおえず主が倒した。
「・・・・・・ごめんなさい。」
だが悲劇はここからだ。デイジーの先輩が味方に銃を向けたのだ。
「ごめんなさい、こんなことに巻き込んで。ごめんなさい。あなたは真実を言っていたのに。私たちみんな、最後は魔物になってしまうなら、・・・・・・みんな死ぬしかないじゃない・・・・・・。」
サヤとデイジーは彼女の勧誘もあってケットシーになった。加えてこれまでのチームの衝突の緩衝材を担っていた先輩の精神は一気に崩壊したのだ。なまじ責任感が強いゆえに―。
「やめて!!」
静止の声は届かなかった。殺されると思った。だが、弾丸は放たれなかった。デイジーが先輩を殺したのだ。
「嫌だぁ…もうこんなの嫌だよぉ……!!」
大好きな友達と、憧れの先輩を一度に失って彼女は泣いていた。主も泣きたかった。…泣けなかった。
「頑張ろう。」
「え?」
「頑張ろう。一緒にナハトを倒そう。町を、守るんでしょ?」
「うん・・・・・・。」
そして主は呪いをかけられた。
「私たち、もう、お終いだね・・・。」
「感情石は?」
デイジーはかぶりを振った。
「そう・・・・・・。」
「・・・・・・ねえ、このまま二人で一緒に、魔物になっちゃおうか?」
主は言った。本当につらくて、つらくて、仕方なかったのだ。
「こんな世界、何もかも、全部、メチャクチャにしちゃおうか?嫌なこと全部忘れちゃうくらい、壊して、壊して、潰して潰して、燃やして、燃やして、燃やし尽くしてさ・・・・・・。」
(デイジー、あなたと一緒に魔物になれるなら、それはそれで幸せ、なんじゃないかなって、そう思うから。)
隣に横たわるデイジーは思っていた。何もできなかったと。
(-ちゃん。私、・・・・・・何もできなかったね。)
(ナハトも倒せない。サヤちゃんも先輩も、パパとママ、町のみんな。誰も救えない。)
(-ちゃんまで、絶望に身を任せようとしている。私が弱いから、ダメだから。昔からそう。特異な課目も人に自慢できるような特技もない。運動ができるわけでもない。こんな自分を変えたら、誰かの役に立てることがあったら、・・・・・・そう思ってケットシーになったけど。)
(やっぱり私、ダメな子だ。ケットシーになっちゃいけないんだ。・・・・・・でも、-ちゃんは違う。)
コツンッ
「・・・え?」
「嘘。一個だけ残していたんだ。」
(サヤちゃんの魔物から出てきた感情石。使う気はなかったけど、許してくれるよね?)
「どうして?どうして私に―!!」
「-ちゃん、過去に戻れるんだよね。こんな悲しい結末を、変えられるんだよね?」
「光る猫に騙される前の、バカな私を助けて・・・くれないかな?」
(私よりずっと強いから、あの時、私を励ましてくれた、強いあなたに、お願いします。)
「・・・約束する。絶対にあなたを守って見せる。何度繰り返すことになっても、絶対に、絶対にあなたを守って見せる!!」
(無責任だよね。ひどいよね…なにもかも―ちゃんに押し付けて、私は何もかも忘れてしまう。)
「よかった・・・・・・。」
「……ねえ、もう一つだけ、頼んでいい?私、魔物になりたくない。つらくても、悲しくても、守りたいものが世界にはあったから・・・・・・たくさん。」
「だから、・・・・・・・私を、殺して?」
(自分でもやったからわかる。友達を撃つなんて、きっと―ちゃんは忘れられるはずがないのに・・・・・・。)
「あっ、あ、あぁ・・・・・・・ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
パァン・・・・・・
「いつも、いつも・・・・・・デイジーにばかりつらい思いをさせて・・・・・・ごめんなさい。」
「次は・・・・・・きっと、うまくやるわ。あなたとの約束、果たすから―!!」
・・・・・・この後、時を戻った主は、まず、デイジーを撃ったことを思い出し、吐いた。そして吐しゃ物にまみれながら泣き、そして動いた。約束という呪いに呪縛され・・・・・殺したという事実に呪縛され・・・・・・。そしてそれは、仮に約束を果たしてもデイジーを殺したという事実を忘れられないということは、彼女の憧れ、望んでいた、友達と過ごす平穏だが幸せな日常は永遠に失われたことを、さしていた。
「繰り返す、私は何度でも繰り返す。」
そして繰り返すたびに主は一人になっていく。悲しい思い出を覚えているのは自分だけ。相手から見れば、自分は他人。
そして同時に、繰り返すたびに主は人を信じなくなった。繰り返しの影響で学校生活に不便はなくなったが、そうすると散々影口叩いていたはずのクラスは自分を優秀な相手として好機の目でお近づきになろうとする。手のひら返しに呆れた。
共闘する仲間も、信じていたはずがいつの間にか裏切られたり、魔物になったりを繰り返した。
そしていつしか主の心には、本人も気づかない無意識のうちに、「信じることへの恐怖」が生まれた。裏切られる恐怖。裏切ってしまう恐怖。失う恐怖。こころは摩耗し続け、無限の闇を溺れ彷徨う。
夜は明けそうにない―。
「どうして!?どうして勝てないの!?・・・・・・一体、何度繰り返せば、あの子を・・・・・・!!」
「誰も、信じてくれない。誰も、信じられない。・・・・・・私は誰も頼れない。」
「でも一人じゃアイツに勝てない―!!」
いらだちのままテーブルにウドを振り下ろした衝撃で何かが落ちた。
「-・・・・・・。」
それはドラゴンのぬいぐるみだった。まだ主が小さいころ、最初の手術の時父親がお守りに買ってよこしたもの。彼女の友達だ。最も、女の子にドラゴンのぬいぐるみとはセンスがずれているような気もするが・・・・・・。
「・・・・・・。そうだわ。」
主はぬいぐるみを拾い上げ、魔力を注いでいく。紫の魔力光に包まれ、ぬいぐるみは命を宿していく。
「お願い、・・・・・・お願い、助けて・・・・・・私を、助けて―!!」
嗚咽にまみれながら、命は吹き込まれる。
大きくなったぬいぐるみは、本物のドラゴンへと姿を変えた。
「 な に が あ っ て も 、 あ な た を 守 り ま す 。 」
ドラゴンは―をやさしく抱きしめ、翼でくるんだ。冷え切った彼女の心を、少しでも温めたかったから。
それがこの俺、ラプラスがこの世に生まれて、初めてしたことだった。
DCD- 見習い
- 投稿数 : 20
Join date : 2016/04/16
31話
俺が生まれた世界でも、やはり主とほかのケットシーたちの溝は埋まらなかった。向こうからすれば得体のしれないよそ者のようだが、俺としても主に武器を向けるなら牙をむかざるを得なかった。
最も、俺が威嚇するたびに「やめなさい、ラプラス。」と止められるのが常だったが。
歩き続ける俺は主が入院していたのとは別の、大型病院にやってくる。デイジーとサヤをケットシーの体験ツアーにさそっていたデイジーの先輩は、ここで死んだ。
その魔物は蛇のような長細い胴体をしていた。体はやけにファンシーな、いやクレヨンで塗りつぶしたかのような色合いと質感を持っており、どこかの遊園地のアトラクションでみたネズミのマスコットのような顔がついている。
それに頭を食いちぎられたのだ。
デイジーの先輩は、単発式の武器を使っていた。ええと、確かマスケット銃とか言うんだったか。この手のことはゲノムのほうが詳しい。
後でデイジーに聞いた様子から察するに必殺の一撃で倒したかに見えた相手は、古い皮を脱皮して脱ぎ捨てることで復活し、肉薄した。あまりのことに呆気にとられ、回避も防御も思考が回らなかったらしい。
この魔物は主が繰り返した時間軸の中で先輩が単独で挑んだ場合高確率で返り討ちにし、捕食してきたという。
そしてこの時間軸でも負けた。入れ替わる形で到着した俺は、すぐに戦闘になった。
実戦は初めだったため苦戦した。
『ウシャアアアアアア!!』
咆哮を揚げながら俺は敵の腹を爪で引き裂く。ビニールを切ったような妙な手ごたえだった。
『-!!』
『!!ルグゥ……!!』
引き裂いた腹から敵の頭部が飛び出し、体当たりをくらわしてきた。どうやらマトリョーシカのように何重にも皮を着込んでいるようだ。
ベキッ!!ゴキッ!!
こっちの頭をかみ砕こうとして来た口を手で無理やり開いて顎を砕く。また脱皮し、抜け出した勢いでこちらの胴体に巻き付いてきた。
『ウシャアアアアアア!!』
絡みついた相手を振りほどこうともがくが、外れない。相手が今度こそ頭を食いちぎろうとしてきた。
(ヤバイか……!)
カチッ
『・・・・・・!?』
いつの間にか開かれた敵の口の中に爆弾が設置されていた。口内が爆発し、たまらず魔物が俺を放す。
『・・・-。』
『行きなさい、ラプラス。』
視界の下に主が見えた。主が時間停止で俺を援護したのだ。すかさず魔物を尻尾で弾き飛ばし、倒れたところにブレスを浴びせ、燃やす。
『まだよ!』
まだ脱皮しようとする。
『これらならどうだァァ!!』
敵の口を無理やりこじ開け、口内に直接ブレスを叩き込む。敵の首がのどから溶断され、ついに絶命した。
戦闘終了後、サヤが主に突っ掛かってきた。デイジーともども憧れの先輩が目の前でやられ、自分たちも食われかけたんだ。恐怖を誰かのせいにしたかったんだろう。仮にも命の恩人だというのに。唸り声をあげる俺を主はたしなめ、
「ケットシーになるってこういうことよ。これで分かってでしょ?」
と返した。二人ともはっとした顔の後、また恐怖で泣いてしまった。あの先輩、かなり華やかな戦い方を好む。二人ともいつしかそんな華麗さに目を奪われ、戦いをスリリングなアトラクションとでも思っていたんだろう。現実はアニメのようにかわいくもカッコよくもない。
主もポーカーフェイスを装いつつも見えないところで泣いていた。俺は、泣かなかった。
今回の戦い、主は警告と同時に自分が戦うと言ったが、サヤが相手の領域に引き込まれていたこと、デイジーが光る猫と接触しないように妨害したことで不信感を持たれたこともあって信用されなかった。
それだけならまだいいが、あの女、あろうことか未変身の主を拘束して放置しやがったのだ。魔物が生み出す手下共(分身とか使い魔といったほうがいいか?)がやってきたら食い殺されていただろう。俺にとって最優先で守るべきは主だ。彼女を危険にさらすような相手のために涙は流せなかった。
そしてほどなくしてサヤが契約した。先輩の遺志を継いで町を守るんだと意気込んでいたな。青い奴だった。
そして魔物化した。デイジーは最後まで元に戻ってと呼びかけていたが、主が殺した。彼女の契約を阻止できなかったのは自分のミスでもある。だからせめて自分で倒したかったらしい。
そして町にいるケットシーは主だけになった。光る猫のおぜん立てでもある。すべてはデイジーを契約させ、エネルギーにするために。脱落者や主はそのために使いつぶされる。それがやつらのシナリオだ。
決戦の前、デイジーは主のもとを訪ねた。私も一緒に戦いたいと。主は、『任せて。』といったが、デイジーは譲らず、・・・・・・そして主は自分の過去を明かした。
『わからなくていい、何も伝わらなくていい。ただ、私にあなたを守らせて―!!』
そして種明かし。デイジーの素質増大は主の時間遡行によってさ異次元の因果が蓄積蓄積されたもの=救うどころか逆に首を絞めていたという事実を明かした。
『そんな、そんなことって……!これじゃあ私のせいで、それに仮にナハトを倒して約束を果たしても、今までのデイジーは……!』
主は袋小路に追い込まれ、絶望しかけた。
これじゃあいけない!俺は彼女に告げた。
『あきらめるのですか?あなたは行ったはずです。絶対に約束を守ると。今この時間軸に入るデイジーを見捨てるのですか?』
『そんなこと―!!』
『勝てばいい。それが全てです。今まであなたは奴に勝てなかった。理由を教えましょう。私がいなかったからです!!』
『-!!』
『あなたはもう、一人じゃない。私がいます。一緒だから。一緒だから、寂しくない。一緒だから、哀しくない。一緒にいます。いつまでも。一緒に行きます。どこまでも。だから、-戦いましょう!!』
そして決戦。
今ではこうして肩を並べて戦う仲だが、正直、魔物としてのナハトを見たときは恐怖を感じた。
さかさまのピエロのような外見に、こちらをあざ笑い続ける声。だが俺たちは挑んだ。
対戦車砲、迫撃砲、C4爆弾多数、各種大型重機。用意できる火力をすべて叩き込んだが、奴はびくともしなかった。
主の時間停止は一か月分しか使えない。それをフルに使って火力を圧縮したが駄目だった。俺の爪とブレスは効いたようだが、主に投げつけられたビルを弾き飛ばした隙をつかれ、火炎を食らい、河川に墜落した。
『まだ、いけるでしょ?』
『ああ、!!』
主は最後の手段として、時間操作魔法の発動源である砂時計を破壊した。
『砂時計の砂をせき止めることで、私は時間を止める。つまり―。』
砂時計の砂は地面にすべて落ちる。
『こぼれた砂は戻らない。正真正銘、最後の時間停止よ!!』
『もう、時を戻すことはできない。必要はない。だから、-』
『今という勝利の時間を、私に与えなさい!!』
時の止まった世界で、俺は主に憑依する。魔力のほとんどを時間操作魔法に食われていたため停止時間増大と引き換えに武器を生成できない主に対し、俺自身が武器代わりとして取り付く。
『 ト ド メ を 放 て !! 』
『粒子と化して。』
『次元の果てに!!』
『 『 消 え 失 せ ろ !! 』 』
時間を超えるタキオン粒子をブレスに乗せて、渦と化して放つ。
夜が、ついに開けた。
『デイジー、私、勝ったわ。』
戦いは終わり、主は駆けつけたデイジーに看取られた。嫌だ、死なないで。泣き叫ぶデイジーをなだめながら言った。
『やっと勝てた。やっと、あなたを救うことができた。』
『長い長い旅の中で頑張ってこれたのは、あなたがいたから。』
『そしてあなたを救うことは、私を救うことに他ならなかった。デイジー、私の最期にあなたがいて本当によかった。』
(主、・・・。)
(ラプラス、こんな私に、最後までついてきてくれてありがとう。・・・・・・ごめんなさい。私が死ねばあなたも・・・・・・。)
(いえ、あなたの笑顔が見れた。私はそのために戦ってきたのです。それで、十分。)
(ありがとう。・・・・・・お休み。)
俺たちはそこで死んだ。そして残されたデイジーは主やサヤ、先輩、ほかのケットシーたちの運命を変えるため、契約し、神になった。
『どうして!?あなたは平気なの!?あなたはもう普通の日常は遅れない。私だってあなたのことを忘れて、次の世界に生きているかもしれない。それでも平気なの!?』
魂だけの状態だからか、時間に干渉する力のせいか、主は彼女と最後の会話ができた。
『大丈夫だよ。今日まで私のことを思って、頑張ってきてくれたあなたなら、私のこと、覚えていられるかもしれない。』
(私のいない世界でも、幸せにね、-ちゃん)
しかしそれは、主にとって、新しい地獄の始まりだったのだ。
最も、俺が威嚇するたびに「やめなさい、ラプラス。」と止められるのが常だったが。
歩き続ける俺は主が入院していたのとは別の、大型病院にやってくる。デイジーとサヤをケットシーの体験ツアーにさそっていたデイジーの先輩は、ここで死んだ。
その魔物は蛇のような長細い胴体をしていた。体はやけにファンシーな、いやクレヨンで塗りつぶしたかのような色合いと質感を持っており、どこかの遊園地のアトラクションでみたネズミのマスコットのような顔がついている。
それに頭を食いちぎられたのだ。
デイジーの先輩は、単発式の武器を使っていた。ええと、確かマスケット銃とか言うんだったか。この手のことはゲノムのほうが詳しい。
後でデイジーに聞いた様子から察するに必殺の一撃で倒したかに見えた相手は、古い皮を脱皮して脱ぎ捨てることで復活し、肉薄した。あまりのことに呆気にとられ、回避も防御も思考が回らなかったらしい。
この魔物は主が繰り返した時間軸の中で先輩が単独で挑んだ場合高確率で返り討ちにし、捕食してきたという。
そしてこの時間軸でも負けた。入れ替わる形で到着した俺は、すぐに戦闘になった。
実戦は初めだったため苦戦した。
『ウシャアアアアアア!!』
咆哮を揚げながら俺は敵の腹を爪で引き裂く。ビニールを切ったような妙な手ごたえだった。
『-!!』
『!!ルグゥ……!!』
引き裂いた腹から敵の頭部が飛び出し、体当たりをくらわしてきた。どうやらマトリョーシカのように何重にも皮を着込んでいるようだ。
ベキッ!!ゴキッ!!
こっちの頭をかみ砕こうとして来た口を手で無理やり開いて顎を砕く。また脱皮し、抜け出した勢いでこちらの胴体に巻き付いてきた。
『ウシャアアアアアア!!』
絡みついた相手を振りほどこうともがくが、外れない。相手が今度こそ頭を食いちぎろうとしてきた。
(ヤバイか……!)
カチッ
『・・・・・・!?』
いつの間にか開かれた敵の口の中に爆弾が設置されていた。口内が爆発し、たまらず魔物が俺を放す。
『・・・-。』
『行きなさい、ラプラス。』
視界の下に主が見えた。主が時間停止で俺を援護したのだ。すかさず魔物を尻尾で弾き飛ばし、倒れたところにブレスを浴びせ、燃やす。
『まだよ!』
まだ脱皮しようとする。
『これらならどうだァァ!!』
敵の口を無理やりこじ開け、口内に直接ブレスを叩き込む。敵の首がのどから溶断され、ついに絶命した。
戦闘終了後、サヤが主に突っ掛かってきた。デイジーともども憧れの先輩が目の前でやられ、自分たちも食われかけたんだ。恐怖を誰かのせいにしたかったんだろう。仮にも命の恩人だというのに。唸り声をあげる俺を主はたしなめ、
「ケットシーになるってこういうことよ。これで分かってでしょ?」
と返した。二人ともはっとした顔の後、また恐怖で泣いてしまった。あの先輩、かなり華やかな戦い方を好む。二人ともいつしかそんな華麗さに目を奪われ、戦いをスリリングなアトラクションとでも思っていたんだろう。現実はアニメのようにかわいくもカッコよくもない。
主もポーカーフェイスを装いつつも見えないところで泣いていた。俺は、泣かなかった。
今回の戦い、主は警告と同時に自分が戦うと言ったが、サヤが相手の領域に引き込まれていたこと、デイジーが光る猫と接触しないように妨害したことで不信感を持たれたこともあって信用されなかった。
それだけならまだいいが、あの女、あろうことか未変身の主を拘束して放置しやがったのだ。魔物が生み出す手下共(分身とか使い魔といったほうがいいか?)がやってきたら食い殺されていただろう。俺にとって最優先で守るべきは主だ。彼女を危険にさらすような相手のために涙は流せなかった。
そしてほどなくしてサヤが契約した。先輩の遺志を継いで町を守るんだと意気込んでいたな。青い奴だった。
そして魔物化した。デイジーは最後まで元に戻ってと呼びかけていたが、主が殺した。彼女の契約を阻止できなかったのは自分のミスでもある。だからせめて自分で倒したかったらしい。
そして町にいるケットシーは主だけになった。光る猫のおぜん立てでもある。すべてはデイジーを契約させ、エネルギーにするために。脱落者や主はそのために使いつぶされる。それがやつらのシナリオだ。
決戦の前、デイジーは主のもとを訪ねた。私も一緒に戦いたいと。主は、『任せて。』といったが、デイジーは譲らず、・・・・・・そして主は自分の過去を明かした。
『わからなくていい、何も伝わらなくていい。ただ、私にあなたを守らせて―!!』
そして種明かし。デイジーの素質増大は主の時間遡行によってさ異次元の因果が蓄積蓄積されたもの=救うどころか逆に首を絞めていたという事実を明かした。
『そんな、そんなことって……!これじゃあ私のせいで、それに仮にナハトを倒して約束を果たしても、今までのデイジーは……!』
主は袋小路に追い込まれ、絶望しかけた。
これじゃあいけない!俺は彼女に告げた。
『あきらめるのですか?あなたは行ったはずです。絶対に約束を守ると。今この時間軸に入るデイジーを見捨てるのですか?』
『そんなこと―!!』
『勝てばいい。それが全てです。今まであなたは奴に勝てなかった。理由を教えましょう。私がいなかったからです!!』
『-!!』
『あなたはもう、一人じゃない。私がいます。一緒だから。一緒だから、寂しくない。一緒だから、哀しくない。一緒にいます。いつまでも。一緒に行きます。どこまでも。だから、-戦いましょう!!』
そして決戦。
今ではこうして肩を並べて戦う仲だが、正直、魔物としてのナハトを見たときは恐怖を感じた。
さかさまのピエロのような外見に、こちらをあざ笑い続ける声。だが俺たちは挑んだ。
対戦車砲、迫撃砲、C4爆弾多数、各種大型重機。用意できる火力をすべて叩き込んだが、奴はびくともしなかった。
主の時間停止は一か月分しか使えない。それをフルに使って火力を圧縮したが駄目だった。俺の爪とブレスは効いたようだが、主に投げつけられたビルを弾き飛ばした隙をつかれ、火炎を食らい、河川に墜落した。
『まだ、いけるでしょ?』
『ああ、!!』
主は最後の手段として、時間操作魔法の発動源である砂時計を破壊した。
『砂時計の砂をせき止めることで、私は時間を止める。つまり―。』
砂時計の砂は地面にすべて落ちる。
『こぼれた砂は戻らない。正真正銘、最後の時間停止よ!!』
『もう、時を戻すことはできない。必要はない。だから、-』
『今という勝利の時間を、私に与えなさい!!』
時の止まった世界で、俺は主に憑依する。魔力のほとんどを時間操作魔法に食われていたため停止時間増大と引き換えに武器を生成できない主に対し、俺自身が武器代わりとして取り付く。
『 ト ド メ を 放 て !! 』
『粒子と化して。』
『次元の果てに!!』
『 『 消 え 失 せ ろ !! 』 』
時間を超えるタキオン粒子をブレスに乗せて、渦と化して放つ。
夜が、ついに開けた。
『デイジー、私、勝ったわ。』
戦いは終わり、主は駆けつけたデイジーに看取られた。嫌だ、死なないで。泣き叫ぶデイジーをなだめながら言った。
『やっと勝てた。やっと、あなたを救うことができた。』
『長い長い旅の中で頑張ってこれたのは、あなたがいたから。』
『そしてあなたを救うことは、私を救うことに他ならなかった。デイジー、私の最期にあなたがいて本当によかった。』
(主、・・・。)
(ラプラス、こんな私に、最後までついてきてくれてありがとう。・・・・・・ごめんなさい。私が死ねばあなたも・・・・・・。)
(いえ、あなたの笑顔が見れた。私はそのために戦ってきたのです。それで、十分。)
(ありがとう。・・・・・・お休み。)
俺たちはそこで死んだ。そして残されたデイジーは主やサヤ、先輩、ほかのケットシーたちの運命を変えるため、契約し、神になった。
『どうして!?あなたは平気なの!?あなたはもう普通の日常は遅れない。私だってあなたのことを忘れて、次の世界に生きているかもしれない。それでも平気なの!?』
魂だけの状態だからか、時間に干渉する力のせいか、主は彼女と最後の会話ができた。
『大丈夫だよ。今日まで私のことを思って、頑張ってきてくれたあなたなら、私のこと、覚えていられるかもしれない。』
(私のいない世界でも、幸せにね、-ちゃん)
しかしそれは、主にとって、新しい地獄の始まりだったのだ。
DCD- 見習い
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32話
「あなたって、笑えるのね。自然に。」
デイジーが書き換えた世界で、-は仲間のケットシーから言われた。仲良さげに帰宅するデイジーの両親を偶然見かけ、微笑んでいたところを見られたのだ。・・・・・・両親からも、彼女の記憶は消えているようだった。当然だ。最初から生まれてきていないのだから。
「笑う……か。」
笑ったのなんていつ以来だろうか。ずいぶん昔のことのような気がする。
デイジーは全てのケットシーたちの願いと絶望に向き合うため、言ってしまった。今、私にできるのは彼女が愛したこの世界を守り、希望を捨てないことだ。
「・・・・・・。」
私はできるのだろうか。彼女のいない世界と、ちゃんと向き合うことができるんだろうか。
(そういえば、あの子のご両親、大丈夫かしら?魔物、じゃなかった。ビーストの反応は逆方向だったけど万が一ってこともあるし・・・・・・あれ?)
「デイジーの家って・・・・・・どこだったっけ?」
翌日
「思い出せない・・・・・・どうして?」
ほかの場所は全部覚えている。先輩、サヤ、ほかの関係者も全部。
なのに、なのに彼女の家だけが思い出せない。どこをどういけばいいのかさえ・・・・・・!
「なんでなの?」
数日後
ビースト退治の帰りに寄った喫茶店で仲間のケットシーに聞かれた。
「デイジーってやつのこと、聞かせてよ。」
「・・・・・・?」
「なんだよその反応。あんたが前口に出していたんじゃん。」
「デイジー・・・・・・?」
「覚えてないのか?」
「・・・・・・ごめんなさい。」
あの子に関する記憶が消えていく。次は彼女の家族。容姿は思い出せたが名前が思い出せなくなり、さあ以後には彼女の親だったとぼんやり覚えているだけになった。
その次は彼女のいた日々の記憶一緒に遊んだことは覚えていても、何をしたのかは思い出せず、この場所にあの子がいたというだけしかわからなくなった。
次に彼女の趣味、毛の色、体格、顔……彼女自身に関する記憶さえあいまいになっていき、私に残されたのは彼女の名前と、居たという事実だけだった。
「やあ、僕を呼びつけるなんて珍しいね。」
「・・・・・・そうね。」
私に相談できる相手はこいつ等、光る猫くらいだった。こいつらは知識はあるし、嘘はつかないから。・・・・・・ほかの仲間にこのことを伝えて、頭がおかしくなったとか、同情の目を向けられたら耐えられなかったから。
「おしえて、私に・・・・・何が起こっているの?」
「ふむ?」
全てを話した私に関する奴らの見解はこうだった。
「僕たち光る猫にとっても前例がないことだから難しいね。しかし、推測するなら・・・。」
「君は彼女を知らない君に戻ろうとしている。」
「いいかい、君が持っていたという時間操作魔法、そしてその副作用に寄るデイジーの因果律増大。それはいわば彼女が死ぬ世界戦の自分を否定するということ。」
「本来居もしない、起こりもしなかったことの記憶を持ち続けることは世界の法則に反することだ。」
「だが、君はその魔法と世界を否定する無意識の影響でその法則に抵抗力を持っていた。と、考えられる。」
「しかし、君の願いの根底であるデイジーはどこの時間軸、並行世界全てに、存在しなくなった。」
「つまりこの世界を受け入れざるを得ない。よって抵抗力も魔法を共に消滅し、君には別の能力-つまり今使っているデイジーが使っていたとされる弓矢と記憶操作魔法が与えられたというわけだ。」
「あの子の能力は記憶操作じゃないわよ?」
「おそらく数珠つなぎ的に世界が君の記憶保持に対するこじつけを行ったんだろう。だからその魔法だ。」
「そしてもう君にもわかっているだろう?この世界を受け入れるほど君は本来の彼女を知らない―に戻るんだ。」
「・・・・・・!!」
その日から私は弓矢を使うのはやめ、昔と同様盗んだ銃や自作した爆弾で戦い始めた。
仲間とも袂を分かった。・・・・・・・足手まといになって迷惑をかけるわけにはいかない。
「ふふふ、・・・・・・そっちはダメよ。そっちはだめだったら。」
初めて彼女と出会ったこと、魔物に襲われ、助けられたこと。頼れる先輩を殺され、それでも魔物に向かっていく彼女。思い出が走馬灯のようによみがえっては消え去り、もう、思い出せない。
「やめて、ねえ、やめてよ・・・・・・デイジー。」
私の懇願するような声に振り返り、困ったように微笑み、そして輝きとともに魔物に向かっていく彼女。
「待って、・・・・・・待ってよ、デイジー。」
そして、彼女は死んだ。私を守って、ただの肉塊へとなり果てた。
鏡に映る私の姿。強い怒りと恨みに満ちていた。
そうだ、目を背けるな。命と引き換えに守り抜いた?いや違う、あの時何が何でも生き抜くべきだったのだ。
そうだ、目を背けるな。お前は何もできなかったじゃないか。使い魔なんて人形に頼ってそれでもなにも守れなかったじゃないか。
そうだ、目を背けるな。彼女があんな願いを抱いたのは誰のせいだ?誰も救えなかったお前のせいだ。
そうだ、目を背けるな。そんな願いをかなえる力をやったのは誰だ?お前だ。
「ふ、ふふふ・・・・・・あははははは・・・・・・そうよ。そうだった。」
「あの子はいない。ならこの世界の幸せなんてあるはずがない。」
やっとわかった。私は平穏に逃げていただけなのだ。彼女との約束を、真の意味で果たせなかった後悔から。・・・・・・私自身の願いから。
気づいたとき、あの時を操る盾はまた私の腕に現れていた。・・・・・・もう、彼女の記憶は消えなかった。
キィィィィン
耳鳴りのような音がする。ビースト反応だ。
「行かなきゃ。」
どれほど時が去っただろう。
デイジーという名前だけを、憶えている。
それが自分の名前なのか、他の誰かの名前だったのかはもうわからない。
ただやるべきことは分かっている。私はビーストを倒す。なんのために?・・・・・・忘れた。
「・・・・・・疲れた。」
もう、寝よう。そして、起きたら、また・・・・・・。
「-の捕獲完了。これより、リングの観測及び制御計画を開始する。」
光る猫達は集まる。
「よかったじゃないか。これで君が探していたものが実在するのか、それとも絵空事なのかわかる。そして願わくば、宇宙のため、この世界のため、より良きエネルギー源になってくれたまえ。」
(デイジー、・・・・・・いや、神。どこにいるんだ、どこに。主が、泣いている。あの子が、泣いているんだぞ・・・・・・このせかいになってからもうずっとだ)
(私は何もできない、あの子を抱きしめてやることさえ・・・・・・・!早く、早く来てくれ)
「でなきゃ、私は、僕は、・・・・・・俺は!!」
心の奥底、役目を終えたはずの竜は胎動を始める。悪魔の胎動を。
デイジーが書き換えた世界で、-は仲間のケットシーから言われた。仲良さげに帰宅するデイジーの両親を偶然見かけ、微笑んでいたところを見られたのだ。・・・・・・両親からも、彼女の記憶は消えているようだった。当然だ。最初から生まれてきていないのだから。
「笑う……か。」
笑ったのなんていつ以来だろうか。ずいぶん昔のことのような気がする。
デイジーは全てのケットシーたちの願いと絶望に向き合うため、言ってしまった。今、私にできるのは彼女が愛したこの世界を守り、希望を捨てないことだ。
「・・・・・・。」
私はできるのだろうか。彼女のいない世界と、ちゃんと向き合うことができるんだろうか。
(そういえば、あの子のご両親、大丈夫かしら?魔物、じゃなかった。ビーストの反応は逆方向だったけど万が一ってこともあるし・・・・・・あれ?)
「デイジーの家って・・・・・・どこだったっけ?」
翌日
「思い出せない・・・・・・どうして?」
ほかの場所は全部覚えている。先輩、サヤ、ほかの関係者も全部。
なのに、なのに彼女の家だけが思い出せない。どこをどういけばいいのかさえ・・・・・・!
「なんでなの?」
数日後
ビースト退治の帰りに寄った喫茶店で仲間のケットシーに聞かれた。
「デイジーってやつのこと、聞かせてよ。」
「・・・・・・?」
「なんだよその反応。あんたが前口に出していたんじゃん。」
「デイジー・・・・・・?」
「覚えてないのか?」
「・・・・・・ごめんなさい。」
あの子に関する記憶が消えていく。次は彼女の家族。容姿は思い出せたが名前が思い出せなくなり、さあ以後には彼女の親だったとぼんやり覚えているだけになった。
その次は彼女のいた日々の記憶一緒に遊んだことは覚えていても、何をしたのかは思い出せず、この場所にあの子がいたというだけしかわからなくなった。
次に彼女の趣味、毛の色、体格、顔……彼女自身に関する記憶さえあいまいになっていき、私に残されたのは彼女の名前と、居たという事実だけだった。
「やあ、僕を呼びつけるなんて珍しいね。」
「・・・・・・そうね。」
私に相談できる相手はこいつ等、光る猫くらいだった。こいつらは知識はあるし、嘘はつかないから。・・・・・・ほかの仲間にこのことを伝えて、頭がおかしくなったとか、同情の目を向けられたら耐えられなかったから。
「おしえて、私に・・・・・何が起こっているの?」
「ふむ?」
全てを話した私に関する奴らの見解はこうだった。
「僕たち光る猫にとっても前例がないことだから難しいね。しかし、推測するなら・・・。」
「君は彼女を知らない君に戻ろうとしている。」
「いいかい、君が持っていたという時間操作魔法、そしてその副作用に寄るデイジーの因果律増大。それはいわば彼女が死ぬ世界戦の自分を否定するということ。」
「本来居もしない、起こりもしなかったことの記憶を持ち続けることは世界の法則に反することだ。」
「だが、君はその魔法と世界を否定する無意識の影響でその法則に抵抗力を持っていた。と、考えられる。」
「しかし、君の願いの根底であるデイジーはどこの時間軸、並行世界全てに、存在しなくなった。」
「つまりこの世界を受け入れざるを得ない。よって抵抗力も魔法を共に消滅し、君には別の能力-つまり今使っているデイジーが使っていたとされる弓矢と記憶操作魔法が与えられたというわけだ。」
「あの子の能力は記憶操作じゃないわよ?」
「おそらく数珠つなぎ的に世界が君の記憶保持に対するこじつけを行ったんだろう。だからその魔法だ。」
「そしてもう君にもわかっているだろう?この世界を受け入れるほど君は本来の彼女を知らない―に戻るんだ。」
「・・・・・・!!」
その日から私は弓矢を使うのはやめ、昔と同様盗んだ銃や自作した爆弾で戦い始めた。
仲間とも袂を分かった。・・・・・・・足手まといになって迷惑をかけるわけにはいかない。
「ふふふ、・・・・・・そっちはダメよ。そっちはだめだったら。」
初めて彼女と出会ったこと、魔物に襲われ、助けられたこと。頼れる先輩を殺され、それでも魔物に向かっていく彼女。思い出が走馬灯のようによみがえっては消え去り、もう、思い出せない。
「やめて、ねえ、やめてよ・・・・・・デイジー。」
私の懇願するような声に振り返り、困ったように微笑み、そして輝きとともに魔物に向かっていく彼女。
「待って、・・・・・・待ってよ、デイジー。」
そして、彼女は死んだ。私を守って、ただの肉塊へとなり果てた。
鏡に映る私の姿。強い怒りと恨みに満ちていた。
そうだ、目を背けるな。命と引き換えに守り抜いた?いや違う、あの時何が何でも生き抜くべきだったのだ。
そうだ、目を背けるな。お前は何もできなかったじゃないか。使い魔なんて人形に頼ってそれでもなにも守れなかったじゃないか。
そうだ、目を背けるな。彼女があんな願いを抱いたのは誰のせいだ?誰も救えなかったお前のせいだ。
そうだ、目を背けるな。そんな願いをかなえる力をやったのは誰だ?お前だ。
「ふ、ふふふ・・・・・・あははははは・・・・・・そうよ。そうだった。」
「あの子はいない。ならこの世界の幸せなんてあるはずがない。」
やっとわかった。私は平穏に逃げていただけなのだ。彼女との約束を、真の意味で果たせなかった後悔から。・・・・・・私自身の願いから。
気づいたとき、あの時を操る盾はまた私の腕に現れていた。・・・・・・もう、彼女の記憶は消えなかった。
キィィィィン
耳鳴りのような音がする。ビースト反応だ。
「行かなきゃ。」
どれほど時が去っただろう。
デイジーという名前だけを、憶えている。
それが自分の名前なのか、他の誰かの名前だったのかはもうわからない。
ただやるべきことは分かっている。私はビーストを倒す。なんのために?・・・・・・忘れた。
「・・・・・・疲れた。」
もう、寝よう。そして、起きたら、また・・・・・・。
「-の捕獲完了。これより、リングの観測及び制御計画を開始する。」
光る猫達は集まる。
「よかったじゃないか。これで君が探していたものが実在するのか、それとも絵空事なのかわかる。そして願わくば、宇宙のため、この世界のため、より良きエネルギー源になってくれたまえ。」
(デイジー、・・・・・・いや、神。どこにいるんだ、どこに。主が、泣いている。あの子が、泣いているんだぞ・・・・・・このせかいになってからもうずっとだ)
(私は何もできない、あの子を抱きしめてやることさえ・・・・・・・!早く、早く来てくれ)
「でなきゃ、私は、僕は、・・・・・・俺は!!」
心の奥底、役目を終えたはずの竜は胎動を始める。悪魔の胎動を。
DCD- 見習い
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33話
「やあ、ラプラス、ここにいたんだね。」
「・・・・・・ナハトか。」
ラプラスが最後にやってきたのは花畑だった。一面に鮮やかな彼岸花が咲き誇っている。
「知っているかい?彼岸花の花言葉。」
目線だけで空中ブランコに腰掛けるナハトを見ていたラプラスにナハトが話しかける。
「黄色は追走、哀しい思いで、深い思いやりの心。白は思うはあなた一人、また逢う日を楽しみに。」
「そして赤は情熱、あきらめ、独立に再開。」
「……あの子のための花だな。これは。」
ここは主の最期の地。ラプラスが悪魔に生まれ変わった場所である。
戦いの日々に疲れ果て、限界を迎えた主は、光る猫の実験動物にされた。うっかり殺さないように魂を固形化して抜き取り、純粋にリングからの干渉を観測するべく特殊干渉遮断フィールドに入れられた状態を監視され、魂にも実験器具を突き立てられ、のぞかれ続けた。
『なぜだ神・・・・・・?お前は、あの子の幸せの願ったはずだろ・・・・・・?』
夢を見ることさえあきらめ、悲しみさえもそんな暇はないと置き去りにし、冷たい記憶と共に”世界のルール”という理由なき侵略に抗い、また永遠の孤独に迷い込む。
戦う時だけ、すべてを忘れ、戦う時だけを自由とし、命が燃え尽きるその瞬間まで戦い続ける。
『こんな宿命を背負わせることが、幸せだというのか?』
やがて彼女の魂を迎えに神はきた。光る猫たちの観測から逃れるため、遮断フィールドの中で魔物化した彼女に干渉し、内部からこれを破壊。外にいた光る猫を不意打ちによって殲滅した。
光る猫はデイジーに注意を向けていたため、その護衛に一緒に来ていたサヤ達天使の工作を見落としていたのだ。
そして導きの時がやってきた。神々しい衣装に身を包み、降臨した神は主に手を伸ばす。
『待たせちゃって、ごめんね。これからはずっと一緒だよ。』と。
主はその手を取らず、その身をつかんで引き寄せ、
『そうよ、デイジー。あなたこそデイジー……やっと思い出した。私の願い。なすべきこと。』
呪いよりもおぞましく変色した魂でありったけの愛を込め、神を堕とす。
『もう、あなたを放さない。』
神の力と猫としての魂を分け、引き裂き、取り戻した愛するものを抱きしめる。
『どうして?・・・・・・私はあなたを救いたかったのに。一緒に来てさえくれれば、ずっと一緒にいられたのに。』
『なぜかって?あなたが作ったあの理は、あの世なのよ?あなたが生きることを何より望む私が、受け入れるわけないじゃない。』
かくして世界は書き換わった。最初の悪魔の手で。
だが、その理想郷を阻むものもいる。
「なんだお前たち!?何のつもりだい!!」
天国にて、当時のナハト―リリスはエヴァをはじめとした武装したケットシーたちの拘束されていた。
「お母様、いや、天使長リリス。あなたの天使長の任は先ほど解かれました。これより我々は神の奪還と、悪魔の抹殺のため、地上に向かいます。」
「なんだと!?解任!?エヴァ―お前!!」
「あなたには権限はもうない。作戦終了までおとなしくしていただきます。」
当時、天使たちの間では悪魔討伐の声が強まっていた。リリスはリングの理念はケットシーの願いを守ること。一つでもそれをこわしてしまっては、リングがケットシーの希望出る意味がなくなるとして抑えていたが、業を煮やしたエヴァ達タカ派が強引な手段に出たのだ。
「やめるんだエヴァ!!神の願いを、希望を壊す気か!!」
「天国を阻む愚か者に、神の裁きを。」
”正義の狂信者”の娘に母の言葉は届かなかった。
地上でも、
「あんたは悪魔だ。あいつをかえせ!」
改変に巻き込まれて偶然近くにいたサヤは、悪魔の支配下から逃げ出したい光る猫と共謀し、地球そのものを覆っていた主の領域に穴をあけた。
「ケットシーたちの希望、リングを冒した罪は重い。正義の名のもとに、お前を処刑する!!」
結果。エヴァを筆頭に大量に流れ込んだ天使たちによる処刑が始まったのだ。
「悪魔を殺せ!」
「ケットシーたちの希望を奪い返せ!!」
「悪魔を殺せ!」
「ケットシーたちの希望を奪い返せ!!」
「悪魔を殺せ!」
「ケットシーたちの希望を奪い返せ!!」
「悪魔め!!」
「悪魔め!!」
「悪魔め!!」
そう叫びながら一人の少女のいたぶり続ける天使たち。その目に宿るのは正義ではない。
恐怖。
そう、恐怖だ。世界を書き換える力への恐怖。神を奪うほどの執念への恐怖。魔物に戻るかもしれない不安への恐怖。自分たちが命と引き換えに発展させた世界をいともたやすく変えて、ひょっとしたら救ってしまうかもしれない犠牲を否定されることへの恐怖。
恐怖にかられた集団は恐怖の根源を叩き潰し、安心を得るまで決して攻撃をやめない。残酷に残酷に、徹底的に相手を殺すのだ。
斬られ、刺され、殴られ、撃たれ、射られ、打たれ、焼かれ、溶かされ、毟られ、抉られ、潰された。
そして奴らは笑うのだ。「悪魔を殺した!」「円の神万歳!!」と。
正義という免罪符のもと、どこまでも残酷に恐怖を排除する。
「裏切り者の悪魔め。貴様には罰ではなく、滅を送ろう。」
最期に槍をもって降りてきたのがエヴァだった。
このことはラプラスは知る由もないが、彼女はこのとき、表向きは厳格そうなツラをしていたが内心、その正義に存分に酔っていた。
やっと自分の正しさを証明する獲物が現れてくれたのだ、と。内心ほくそえみつつ、悪魔の心臓を抉り出し、掲げ、握りつぶして見せた。
悪魔の死をだれもが喜んだ。・・・・・いや、そうではない。この世界で立った二人、これに異を唱えたものがいた。
「許さねぇ!!お前ら絶対許さねェェェ!!」
一人はラプラス。そして、
「なんてことを―エヴァ・・・・・・!!」
そして、リリス。
悪魔の死、そして復讐のために当てもなく天使と戦い続ける新しい悪魔、ラプラス。戻った神は虚空を睦めるばかりだった。リリスは悪魔の最期の地で泣き続ける。
「すまない・・・すまない!!私が、ケットシーなんてものを持ち込まなければ!!私が、魔物として君たちの前に現れなければ―!!」
悪魔の死によってリリスは思い知った。自分が欲していたのは『救済』ではなく『罰』だったと。
「うっ、・・・ぐっ・・・うっ・・・?」
嗚咽の中で、彼岸花の中からリリスは何かを見つけた。
「これは……あの子の―!」
神が最初の改編の時、悪魔に渡したリボンだった。なぜ消えずに残っている?・・・・・・!?
リボンに触れたとき、まず感じたのは大きな魔力。次に流れ込んできたのは誰かの想い。
「ハッ、・・・・ハハハハハ。アハハハハハハハハハハハ!!」
そのすべてを読み取った時、リリスは狂ったように笑った。
「あんたを手伝って、ケットシーたちをすべて救えば、私の罪は償えると思っていたけど、違ったようだね。」
リボンを強く握りしめ、失意の中リリスは言った。
「贖罪は救済ではない。もっと罪を重ねて、堕ちていく。」
「世界を壊して、壊して、作り直す。悪魔になってでも!!」
「リリスはもう死んだ。私はナハト。救済ごっこは、もうやめだ。」
そしてこのリボンは一本ではない。耳に一本ずつつけていたもう一つのそれは、ラプラスが手にしていた。
「・・・・・・疑問が氷解した。今俺は、とても澄んだ気持ちだ。」
なぜあの子がデイジーのことを覚えていたのか。もし覚えていなかったらあの子はどうなったか。全部分かった。
大体予想はついていた。だが俺は心のどこかでまだデイジーを信じたかったらしい。
最初の世界改編の時、デイジーにはその後の運命が見えていた。両親もサヤ達友人も、主さえも自分のこと覚えていない。そんな世界だった。
自分の生きた証が失われる。それなのにあなたは平気なのかと、主は問うが奴は大丈夫だと言っていた。あなたなら覚えていてくれるかもしれない。本当の奇跡があることを信じようと、そう言ってこのリボンを渡した。
「全部真っ赤なウソってわけか。」
憶えていて当然だったのだ。このリボンには、奴の存在を忘れないように仕掛けがしてある。何が大丈夫だ。結局自分の生きた証すべてを犠牲にしてでも大勢の誰かを救う高尚な精神なんて奴にはなかったのだ。
「あの子は何度お前に忘れ去られても愛し、守り続けた。だがお前は一度でも忘れられることを恐れて、あの子の幸せをつぶしたんだな。」
全ての可能性を見通す神ならば、自分がいない世界の主の人生も見えていた。病弱で平凡だが、約束という呪縛から解き放たれ、戦いとは無縁の幸せな人生だった。
「ふ、ふふふふふ・・・・・・ハハハハハ・・・・・・!!」
「こんな、こんな奴のために戦っていたのか。こんな奴等のために守りたくもないもの守らされていたのか。」
憶えていることのつらさも忘れそうになってあがくつらさもすべて織り込み済みだった。それを高みの見物し、申し訳ないといいつつも、思われていることで悦に浸ってやがったのか。
怒りを通り越し、思考がクリアになっていく。そしてやがて心には雲一つない夜空のように澄み渡る、黒い願いが宿った。「復讐を遂げる」と。
リボンを得た二匹の悪魔は神を否定する。
「そんな程度の覚悟で、すべてのケットシーを―。」
「その程度の愛で彼女をー。」
「「救えるはずがない!!」」
「神、あなたの希望には、失望したよ。」
「本当に澄んだ気持ちだ。こんなに純粋に相手を憎めるものなんだな。」
そして今、歴史は終わり、神話の時代へに変わろうとしている。
「ラプラス、ついに呪いが一定量を超えた。邪悪の樹を根付かせよう。ゲノムももうじき起きる。」
「そうか。ついに天使共を殺せるようになるわけだ。」
ラプラスは翼をはやし飛び立つ。
「行くぞ、ナハト。ついて来い。」
(ラプラス。法ではなく情でなりたち、愛を貫いて地獄の果てまで戦い続ける君は、何よりも力強く、美しい。)
「私はどこまでも君についていく。アハハハ!さあ、It,s show time!!」
闇をかける牙と、笑うピエロが天を舞う。滅亡のカウントダウンだ。
「・・・・・・ナハトか。」
ラプラスが最後にやってきたのは花畑だった。一面に鮮やかな彼岸花が咲き誇っている。
「知っているかい?彼岸花の花言葉。」
目線だけで空中ブランコに腰掛けるナハトを見ていたラプラスにナハトが話しかける。
「黄色は追走、哀しい思いで、深い思いやりの心。白は思うはあなた一人、また逢う日を楽しみに。」
「そして赤は情熱、あきらめ、独立に再開。」
「……あの子のための花だな。これは。」
ここは主の最期の地。ラプラスが悪魔に生まれ変わった場所である。
戦いの日々に疲れ果て、限界を迎えた主は、光る猫の実験動物にされた。うっかり殺さないように魂を固形化して抜き取り、純粋にリングからの干渉を観測するべく特殊干渉遮断フィールドに入れられた状態を監視され、魂にも実験器具を突き立てられ、のぞかれ続けた。
『なぜだ神・・・・・・?お前は、あの子の幸せの願ったはずだろ・・・・・・?』
夢を見ることさえあきらめ、悲しみさえもそんな暇はないと置き去りにし、冷たい記憶と共に”世界のルール”という理由なき侵略に抗い、また永遠の孤独に迷い込む。
戦う時だけ、すべてを忘れ、戦う時だけを自由とし、命が燃え尽きるその瞬間まで戦い続ける。
『こんな宿命を背負わせることが、幸せだというのか?』
やがて彼女の魂を迎えに神はきた。光る猫たちの観測から逃れるため、遮断フィールドの中で魔物化した彼女に干渉し、内部からこれを破壊。外にいた光る猫を不意打ちによって殲滅した。
光る猫はデイジーに注意を向けていたため、その護衛に一緒に来ていたサヤ達天使の工作を見落としていたのだ。
そして導きの時がやってきた。神々しい衣装に身を包み、降臨した神は主に手を伸ばす。
『待たせちゃって、ごめんね。これからはずっと一緒だよ。』と。
主はその手を取らず、その身をつかんで引き寄せ、
『そうよ、デイジー。あなたこそデイジー……やっと思い出した。私の願い。なすべきこと。』
呪いよりもおぞましく変色した魂でありったけの愛を込め、神を堕とす。
『もう、あなたを放さない。』
神の力と猫としての魂を分け、引き裂き、取り戻した愛するものを抱きしめる。
『どうして?・・・・・・私はあなたを救いたかったのに。一緒に来てさえくれれば、ずっと一緒にいられたのに。』
『なぜかって?あなたが作ったあの理は、あの世なのよ?あなたが生きることを何より望む私が、受け入れるわけないじゃない。』
かくして世界は書き換わった。最初の悪魔の手で。
だが、その理想郷を阻むものもいる。
「なんだお前たち!?何のつもりだい!!」
天国にて、当時のナハト―リリスはエヴァをはじめとした武装したケットシーたちの拘束されていた。
「お母様、いや、天使長リリス。あなたの天使長の任は先ほど解かれました。これより我々は神の奪還と、悪魔の抹殺のため、地上に向かいます。」
「なんだと!?解任!?エヴァ―お前!!」
「あなたには権限はもうない。作戦終了までおとなしくしていただきます。」
当時、天使たちの間では悪魔討伐の声が強まっていた。リリスはリングの理念はケットシーの願いを守ること。一つでもそれをこわしてしまっては、リングがケットシーの希望出る意味がなくなるとして抑えていたが、業を煮やしたエヴァ達タカ派が強引な手段に出たのだ。
「やめるんだエヴァ!!神の願いを、希望を壊す気か!!」
「天国を阻む愚か者に、神の裁きを。」
”正義の狂信者”の娘に母の言葉は届かなかった。
地上でも、
「あんたは悪魔だ。あいつをかえせ!」
改変に巻き込まれて偶然近くにいたサヤは、悪魔の支配下から逃げ出したい光る猫と共謀し、地球そのものを覆っていた主の領域に穴をあけた。
「ケットシーたちの希望、リングを冒した罪は重い。正義の名のもとに、お前を処刑する!!」
結果。エヴァを筆頭に大量に流れ込んだ天使たちによる処刑が始まったのだ。
「悪魔を殺せ!」
「ケットシーたちの希望を奪い返せ!!」
「悪魔を殺せ!」
「ケットシーたちの希望を奪い返せ!!」
「悪魔を殺せ!」
「ケットシーたちの希望を奪い返せ!!」
「悪魔め!!」
「悪魔め!!」
「悪魔め!!」
そう叫びながら一人の少女のいたぶり続ける天使たち。その目に宿るのは正義ではない。
恐怖。
そう、恐怖だ。世界を書き換える力への恐怖。神を奪うほどの執念への恐怖。魔物に戻るかもしれない不安への恐怖。自分たちが命と引き換えに発展させた世界をいともたやすく変えて、ひょっとしたら救ってしまうかもしれない犠牲を否定されることへの恐怖。
恐怖にかられた集団は恐怖の根源を叩き潰し、安心を得るまで決して攻撃をやめない。残酷に残酷に、徹底的に相手を殺すのだ。
斬られ、刺され、殴られ、撃たれ、射られ、打たれ、焼かれ、溶かされ、毟られ、抉られ、潰された。
そして奴らは笑うのだ。「悪魔を殺した!」「円の神万歳!!」と。
正義という免罪符のもと、どこまでも残酷に恐怖を排除する。
「裏切り者の悪魔め。貴様には罰ではなく、滅を送ろう。」
最期に槍をもって降りてきたのがエヴァだった。
このことはラプラスは知る由もないが、彼女はこのとき、表向きは厳格そうなツラをしていたが内心、その正義に存分に酔っていた。
やっと自分の正しさを証明する獲物が現れてくれたのだ、と。内心ほくそえみつつ、悪魔の心臓を抉り出し、掲げ、握りつぶして見せた。
悪魔の死をだれもが喜んだ。・・・・・いや、そうではない。この世界で立った二人、これに異を唱えたものがいた。
「許さねぇ!!お前ら絶対許さねェェェ!!」
一人はラプラス。そして、
「なんてことを―エヴァ・・・・・・!!」
そして、リリス。
悪魔の死、そして復讐のために当てもなく天使と戦い続ける新しい悪魔、ラプラス。戻った神は虚空を睦めるばかりだった。リリスは悪魔の最期の地で泣き続ける。
「すまない・・・すまない!!私が、ケットシーなんてものを持ち込まなければ!!私が、魔物として君たちの前に現れなければ―!!」
悪魔の死によってリリスは思い知った。自分が欲していたのは『救済』ではなく『罰』だったと。
「うっ、・・・ぐっ・・・うっ・・・?」
嗚咽の中で、彼岸花の中からリリスは何かを見つけた。
「これは……あの子の―!」
神が最初の改編の時、悪魔に渡したリボンだった。なぜ消えずに残っている?・・・・・・!?
リボンに触れたとき、まず感じたのは大きな魔力。次に流れ込んできたのは誰かの想い。
「ハッ、・・・・ハハハハハ。アハハハハハハハハハハハ!!」
そのすべてを読み取った時、リリスは狂ったように笑った。
「あんたを手伝って、ケットシーたちをすべて救えば、私の罪は償えると思っていたけど、違ったようだね。」
リボンを強く握りしめ、失意の中リリスは言った。
「贖罪は救済ではない。もっと罪を重ねて、堕ちていく。」
「世界を壊して、壊して、作り直す。悪魔になってでも!!」
「リリスはもう死んだ。私はナハト。救済ごっこは、もうやめだ。」
そしてこのリボンは一本ではない。耳に一本ずつつけていたもう一つのそれは、ラプラスが手にしていた。
「・・・・・・疑問が氷解した。今俺は、とても澄んだ気持ちだ。」
なぜあの子がデイジーのことを覚えていたのか。もし覚えていなかったらあの子はどうなったか。全部分かった。
大体予想はついていた。だが俺は心のどこかでまだデイジーを信じたかったらしい。
最初の世界改編の時、デイジーにはその後の運命が見えていた。両親もサヤ達友人も、主さえも自分のこと覚えていない。そんな世界だった。
自分の生きた証が失われる。それなのにあなたは平気なのかと、主は問うが奴は大丈夫だと言っていた。あなたなら覚えていてくれるかもしれない。本当の奇跡があることを信じようと、そう言ってこのリボンを渡した。
「全部真っ赤なウソってわけか。」
憶えていて当然だったのだ。このリボンには、奴の存在を忘れないように仕掛けがしてある。何が大丈夫だ。結局自分の生きた証すべてを犠牲にしてでも大勢の誰かを救う高尚な精神なんて奴にはなかったのだ。
「あの子は何度お前に忘れ去られても愛し、守り続けた。だがお前は一度でも忘れられることを恐れて、あの子の幸せをつぶしたんだな。」
全ての可能性を見通す神ならば、自分がいない世界の主の人生も見えていた。病弱で平凡だが、約束という呪縛から解き放たれ、戦いとは無縁の幸せな人生だった。
「ふ、ふふふふふ・・・・・・ハハハハハ・・・・・・!!」
「こんな、こんな奴のために戦っていたのか。こんな奴等のために守りたくもないもの守らされていたのか。」
憶えていることのつらさも忘れそうになってあがくつらさもすべて織り込み済みだった。それを高みの見物し、申し訳ないといいつつも、思われていることで悦に浸ってやがったのか。
怒りを通り越し、思考がクリアになっていく。そしてやがて心には雲一つない夜空のように澄み渡る、黒い願いが宿った。「復讐を遂げる」と。
リボンを得た二匹の悪魔は神を否定する。
「そんな程度の覚悟で、すべてのケットシーを―。」
「その程度の愛で彼女をー。」
「「救えるはずがない!!」」
「神、あなたの希望には、失望したよ。」
「本当に澄んだ気持ちだ。こんなに純粋に相手を憎めるものなんだな。」
そして今、歴史は終わり、神話の時代へに変わろうとしている。
「ラプラス、ついに呪いが一定量を超えた。邪悪の樹を根付かせよう。ゲノムももうじき起きる。」
「そうか。ついに天使共を殺せるようになるわけだ。」
ラプラスは翼をはやし飛び立つ。
「行くぞ、ナハト。ついて来い。」
(ラプラス。法ではなく情でなりたち、愛を貫いて地獄の果てまで戦い続ける君は、何よりも力強く、美しい。)
「私はどこまでも君についていく。アハハハ!さあ、It,s show time!!」
闇をかける牙と、笑うピエロが天を舞う。滅亡のカウントダウンだ。
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34話
終末論・・・・・・いかな可能性を持った世界であっても遅かれ早かれ最後は滅亡する。歴史の収束点。宗教においては神と悪魔の戦争が始まるともされてる。
「ん、朝……か。」
ラプラスは目覚める。時間の変化が感じにくい無機質な部屋だが、感覚で分かる。しかし今日は気性はすこしいつもと違った。
「やあラプラス。グッド・モーニング。」
ベッドもなく空中に寝そべったまま浮いているラプラスを横から覗き込むように誰かが話しかけてくる。
「ゲノム・・・・・・!-、気が付いたのか。」
少し驚いた表情を見せるラプラスにゲノムはフフッっといたずらっぽく笑う。
「おかげさまで完全復活さ。傷も火傷の跡もない。」
「そうか。良かった……本当によかったよ。元気になって。」
見せるようにクルリと回って見せる。ラプラスはその様子にほっと息をつく。冷めた表情の多い彼女が珍しく暖かな顔をしていた。
だが、その表情は一瞬で冷酷なそれに代わる。
「・・・・・・お客さんのようだね。」
ゲノムも扉のほうを見ている。
「ラプラス?」
「・・・・・・この魔力。・・・アイツか!!」
二匹が領域を出るとすでにナハトとレヴィが臨戦態勢をとっていた。
「ああ、二人とも。おそようさん。」
トライデントを担いだナハトが首だけこちらに向けて軽く挨拶する。
「ラプちゃん。それにゲノちゃんも。全く、朝早くからマナーのなってない奴らね。ほら、来るよ!!」
レヴィは片手剣を魔力で鞭剣に変化させ、今まさに転移降化してくる光の玉たちを指さした。
「アハハ!こんな時でもルール遵守かい?そんな数で私たちに勝てるとでも?終末論は今日、ここから始まる!!」
挑発するナハトに天使たちの対頂角であるエヴァが静かに告げる
「それは無い。今日はお前たちの断罪の日だ。神と正義の名のもとに。」
転移降下してきたのは4匹。フェアな数で正々堂々のつもりか?そんな考えを浮かべるゲノムだったがすぐ隣のラプラスの異常にそんな考えはどこかへ消えてしまった。
「グルルルル・・・・・・!!」
その双眼は血走り、牙がギリギリ音を立てる。
「ら、ラプラス・・・?」
「久しぶりだな……。会いたかったぞ。」
一度うつむいてからギロリと四匹の天使中二匹をにらみつける。
「ウシャァァァァァァァ!!」
突然咆哮をあげるラプラス。と、同時のその体に変化が生じる。
両腕が肘から先がベキベキと変形して黒い鱗に覆われ五本の指を持つ竜の手に変化した。
背中からは翼が生え、尻尾は毛並みの下に鱗がうっすらと生えたと思うと長く、太く伸び、鞭のようにしなやかで強靭なドラゴンテイルと化す。
叫ぶ口は大きく裂け、恐竜は爬虫類を思わせるように大きく開いた。
これまでの幻影を纏うのとは違う、明らかに物理的な変貌だ。
「ずっと、待っていた。お前を―!」
ドスのきいた低い声で、そのナイフのような鋭く巨大なかぎ爪で天使たちのうち、二匹を指し示す。
「ついに会えたな、エヴァ。そしてサヤ!!主の敵・・・・・・・!!」
「ふん・・・・・・。」
「・・・・・・ッ!」
「ブッ殺してやる!!」
半竜化したラプラスが一直線にエヴァに襲い掛かるが、その前にサヤが立ちはだかる。
「ラプラス・・・・・・!」
「サヤァ!」
突き出されたかぎ爪を双剣が止める。怒るラプラスとともに斬りあいにもつれ込む。
「待て、ラプラス!」
ゲノムが銃を向けるが上空からのレーザーで阻まれる。
「あなたの相手は私です。」
目線を向けると占い師風のヴェールを纏い、数個のエネルギー球、ビットを従えた白いケットシーがいた。
「お前は・・・・・スフィアか!」
「敵討ちをさせてもらいます。ネブラとジーンさん。そして私自身のね!」
ナハトはエヴァと槍をぶつけあっていた。
「リリス、いや悪魔!!」
「アハハハ!また腕を上げたらしいね。しかし!」
グルンッ!!
エヴァが後方に弾き飛ばされる。
「反転魔法―斥力。」
ナハトの周囲に斥力場が発生し、空中から打ちかかっていたエヴァを弾き飛ばす。
「くっ!」
後方にはじかれるエヴァを袈裟に数珠を備えた僧侶風のケットシーが受け止める。
「天使長、ご無事で?」
「空蓮、すまない。」
「お?久しぶりだね。あんたも出世したようだ。」
空蓮と呼ばれた群青色のケットシーにナハトは槍を担ぎなおしながら話す。
「リリス。残念です。あなたがこちらにいれば、悪魔が増えることもなかったというのに。」
巨大な筆にメイスの柄頭を装着したような武器を取り出しナハトに打ちかかるが、
ピシィ!!
地中から飛び出してきた蛇のような刃に阻まれる。
「アハッ!それはどうかな?あなたたちのハッピーエンドは万人のハッピーエンドじゃないんだよ?」
ジャララララと音を立てながら鞭剣の刃を回収し、レヴィがナハトの隣に立つ。
ラプラス対サヤ、ゲノム対スフィア、レヴィ対空蓮、ナハト対エヴァ。四対四の戦いが始まった。
「ん、朝……か。」
ラプラスは目覚める。時間の変化が感じにくい無機質な部屋だが、感覚で分かる。しかし今日は気性はすこしいつもと違った。
「やあラプラス。グッド・モーニング。」
ベッドもなく空中に寝そべったまま浮いているラプラスを横から覗き込むように誰かが話しかけてくる。
「ゲノム・・・・・・!-、気が付いたのか。」
少し驚いた表情を見せるラプラスにゲノムはフフッっといたずらっぽく笑う。
「おかげさまで完全復活さ。傷も火傷の跡もない。」
「そうか。良かった……本当によかったよ。元気になって。」
見せるようにクルリと回って見せる。ラプラスはその様子にほっと息をつく。冷めた表情の多い彼女が珍しく暖かな顔をしていた。
だが、その表情は一瞬で冷酷なそれに代わる。
「・・・・・・お客さんのようだね。」
ゲノムも扉のほうを見ている。
「ラプラス?」
「・・・・・・この魔力。・・・アイツか!!」
二匹が領域を出るとすでにナハトとレヴィが臨戦態勢をとっていた。
「ああ、二人とも。おそようさん。」
トライデントを担いだナハトが首だけこちらに向けて軽く挨拶する。
「ラプちゃん。それにゲノちゃんも。全く、朝早くからマナーのなってない奴らね。ほら、来るよ!!」
レヴィは片手剣を魔力で鞭剣に変化させ、今まさに転移降化してくる光の玉たちを指さした。
「アハハ!こんな時でもルール遵守かい?そんな数で私たちに勝てるとでも?終末論は今日、ここから始まる!!」
挑発するナハトに天使たちの対頂角であるエヴァが静かに告げる
「それは無い。今日はお前たちの断罪の日だ。神と正義の名のもとに。」
転移降下してきたのは4匹。フェアな数で正々堂々のつもりか?そんな考えを浮かべるゲノムだったがすぐ隣のラプラスの異常にそんな考えはどこかへ消えてしまった。
「グルルルル・・・・・・!!」
その双眼は血走り、牙がギリギリ音を立てる。
「ら、ラプラス・・・?」
「久しぶりだな……。会いたかったぞ。」
一度うつむいてからギロリと四匹の天使中二匹をにらみつける。
「ウシャァァァァァァァ!!」
突然咆哮をあげるラプラス。と、同時のその体に変化が生じる。
両腕が肘から先がベキベキと変形して黒い鱗に覆われ五本の指を持つ竜の手に変化した。
背中からは翼が生え、尻尾は毛並みの下に鱗がうっすらと生えたと思うと長く、太く伸び、鞭のようにしなやかで強靭なドラゴンテイルと化す。
叫ぶ口は大きく裂け、恐竜は爬虫類を思わせるように大きく開いた。
これまでの幻影を纏うのとは違う、明らかに物理的な変貌だ。
「ずっと、待っていた。お前を―!」
ドスのきいた低い声で、そのナイフのような鋭く巨大なかぎ爪で天使たちのうち、二匹を指し示す。
「ついに会えたな、エヴァ。そしてサヤ!!主の敵・・・・・・・!!」
「ふん・・・・・・。」
「・・・・・・ッ!」
「ブッ殺してやる!!」
半竜化したラプラスが一直線にエヴァに襲い掛かるが、その前にサヤが立ちはだかる。
「ラプラス・・・・・・!」
「サヤァ!」
突き出されたかぎ爪を双剣が止める。怒るラプラスとともに斬りあいにもつれ込む。
「待て、ラプラス!」
ゲノムが銃を向けるが上空からのレーザーで阻まれる。
「あなたの相手は私です。」
目線を向けると占い師風のヴェールを纏い、数個のエネルギー球、ビットを従えた白いケットシーがいた。
「お前は・・・・・スフィアか!」
「敵討ちをさせてもらいます。ネブラとジーンさん。そして私自身のね!」
ナハトはエヴァと槍をぶつけあっていた。
「リリス、いや悪魔!!」
「アハハハ!また腕を上げたらしいね。しかし!」
グルンッ!!
エヴァが後方に弾き飛ばされる。
「反転魔法―斥力。」
ナハトの周囲に斥力場が発生し、空中から打ちかかっていたエヴァを弾き飛ばす。
「くっ!」
後方にはじかれるエヴァを袈裟に数珠を備えた僧侶風のケットシーが受け止める。
「天使長、ご無事で?」
「空蓮、すまない。」
「お?久しぶりだね。あんたも出世したようだ。」
空蓮と呼ばれた群青色のケットシーにナハトは槍を担ぎなおしながら話す。
「リリス。残念です。あなたがこちらにいれば、悪魔が増えることもなかったというのに。」
巨大な筆にメイスの柄頭を装着したような武器を取り出しナハトに打ちかかるが、
ピシィ!!
地中から飛び出してきた蛇のような刃に阻まれる。
「アハッ!それはどうかな?あなたたちのハッピーエンドは万人のハッピーエンドじゃないんだよ?」
ジャララララと音を立てながら鞭剣の刃を回収し、レヴィがナハトの隣に立つ。
ラプラス対サヤ、ゲノム対スフィア、レヴィ対空蓮、ナハト対エヴァ。四対四の戦いが始まった。
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35話
―前日―
「これが邪悪の樹か。」
ラプラスたちの領域の一角。悪魔たちは集まっていた。目の前には10の殻を持つクリフォト図式。注がれた禍々しい呪いをひしひしと感じる。
「ああ、私の天使としての救済の力を反転魔法で逆転させ、ゲノムが調整してくれた。」
「ゲノムはまだ起きないようだな。」
(いや、大丈夫さ。ラプラス)
頭に声が聞こえる。ゲノムの声だった。
「ゲノム!?」
(接続魔法のちょっとした応用だ。起きるのはまだ無理だが、君とこの樹の接続作業は問題ない)
「悪いな。無理をさせて。」
(いやいい。早くしないと天使たちに感づかれるしね、じゃあレヴィ。サポートを頼むよ)
「りょーかい。頭の中少し失礼するよ。」
レヴィは領域に戻ってから顔を合わせたが、依然と少し雰囲気が変わった気がする。言動はあまり変わっていないが、表情や雰囲気に年不相応の怪しい艶を感じる。……あの鈴蘭とかいうケットシーのことで何か思い出したのだろうか。
「・・・・・・うん。そうだよ。でも、わかるよね?」
・・・・・頭の中を覗かれているんだった。いいだろう。今は計画のことだけ考えるとしよう。
(接続……開始)
邪悪の樹―それは世界の秩序の象徴たる生命の樹・・・・・神の力の鏡写し。世界の歪みたる悪魔の力。
ビーストを捕食したことで歪みを取り込み、主の存在をつなぎとめることに成功したラプラスだが、力の大半をそれに取られてしまったため、今のようなボロボロの竜になってしまった。
しかし、この樹を接続し、宿せば話は変わる。一介の強い悪魔から、神にも匹敵する悪魔王へと、その力は伸び続けるだろう。神の一部となった天使たちをも滅ぼせるほどに。そしてそれは世界を安定させようとする力の破壊。イコール世界の滅亡へとつながるのだ。
「精神干渉・・・・・・っ!さすがにすごい量の呪いね。サポート無しじゃ脳焼けちゃうんじゃないラプちゃん?」
(80%・・・・・・・95、・・・・・・99・・・よしっ!!)
竜の姿に戻ったラプラスの体が再生していく。ボロボロに溶け落ちた肉片が戻り、がっしりとした胴体と、身を包めるほど巨大な翼が広がる。幽霊のようにほどけ消えた下半身が再生し、確かな脚が出来上がった。尾の先端はゲノムのように尖った槍状、頭にはレヴィのものに似た角が生えた。そしてその瞳は一瞬、ナハトのように燃え上がって見せた。
(カッコイイじゃないか)
「・・・・・・礼を言う。みんな。」
ラプラスは仲間たちに振り返る。
「いくぞ、・・・・・・覚悟はいいな?」
仲間たちは無言のまま了解した。
―そして時は現在へ―
「ウラァッ!!」
ラプラスのかぎ爪がサヤを弾き飛ばす。相手は空中を後退した後、何とかブレーキを掛けるが、受け止めた双剣の刃は大きく抉り取られていた。
「ラプラス―ッ!!」
すぐさま距離を詰め、猛ラッシュを仕掛けるラプラスの爪を何とか受け流しつつも、サヤの体はどんどん切り取られていく。
「ちっ―!!」
蹴りを入れ、上昇しながら再生魔法で傷を治す。すぐさまラプラスが翼を翻して追いすがってくる。
「ラプラス……もうやめてよ……こんなことは、もう!!」
絞り出すような悲痛な声あったが、対するラプラスの目は雪山にできたクレバスのような、絶望的なまでに黒く、冷え切ったまなざしだった。
「・・・・・・フンッ。」
「いまさら何を言っている?」
ラプラスの銀河の写りこむ翼から流星群のような光弾が発射される。サヤは両腕をクロスさせて防いだがまたっていたマントと武器はすでにボロボロ。回復魔法でしのぐのがやっとな状態だった。
「・・・・・・そう、私のせいだよ。アイツが死んだのは。だって、アイツは!みんなの希望を壊そうとしたんだ!!守りたかったデイジーの願いを!!」
「みんなの希望のためなら何をしてもいいのか?100のために1を殺す。フンッ!正しいだろうな?確かに。」
腕組をしながら目を伏せ、空中をふわりと後ろに漂ってみせる。
「だがッ!!」
しかし、次の瞬間それは激情とともにとびかかる。
「そんな妥協しただけの考えが希望だと?笑わせるなァ!!」
ラプラスの爪が双剣の刃を破砕し、頬の肉に突き刺さる。
「ぐぅ…許せだなんていわないよ。でも、そうやって恨みを関係ない人にまで向けたって―!!」
「関係ないだと!?違うね。」
かぎ爪で胴体を数回抉った後尻尾をたたきつけて弾き飛ばす。
「主は俺の親にして半身!!わが子同然の愛しき存在!!」
体を羽分解して吹っ飛ぶ敵の背後に回り込み、
「主は俺のすべてだ!それを殺したんだ、神が守ろうとした貴様らの願い、即ち!!」
背骨に痛烈な蹴りを見舞う。
「貴様らの紡ぎあげた歴史のすべて。滅ぼし終わらせてくれる。」
「すべてを奪われた復讐は、全てを奪いつくすことによってのみ達成される!!」
「そんなことをアイツが望むと思うの!?」
振り向きざまに振るわれた剣をつかみながらラプラスは答える。
「この復讐は、あの子のためにやっているんじゃない。俺が貴様らを許せないからやるんだ。」
「『復讐したって喜ばない』?フンッ、あの子は存在自体が消えようとしている。喜ぶことも悲しむこともなくなる!!」
「そして『許すのが重要』だなんていう奴もいるかもなァ?だが、俺は愛するものをリンチの末に殺されて黙っていることなんてできない。」
受け止めた刃を握り砕きながら、左手で殴り飛ばす。
「お前らのこねる理屈では、恨みも後悔も消せはしない!!そして、その向こうでどんなロクでもない未来があっても俺はその覚悟をして臨んでいる!!」
「そんなの、そうやって罪を重ねても、なにも救われないし・・・・・・誰も幸せになれないじゃない・・・・・・!!」
サヤの体から魔力が噴出し、人魚のような異形を形成しだした。鎧をまとい、剣を携え、巨大な尾ひれが宙をかいて迫ってくる。
「魔物化したか。」
ラプラスの体をはるかに上回るサーベルが振り下ろされる。しかし、そんな単調な攻撃ではとらえられない。素早く尾ひれに咬みつくと、そのまま暗雲の中に連れ去る。
「ウラァッ!!ウララウラァッ!!」
視界の封じられた相手を高速移動しながら切り付け、抉っていく。
「さっき幸せになれないとかヌかしていたな?貴様はどうなんだ?お前の正義と神はお前を幸せにしてくれたか!?」
「……わからない。でも、私にどうしろっていうのさ!?いまさらそっちにつけって!?どうやったら、・・・・・・どうしたら私は許されるのさ!?」
「・・・・・・許されたいのか?……許されるわけがないだろ。」
敵の兜をつかんで殴りつける。
「ナハトは、・・・・・・アイツはケットシーをこの星に持ち込んだ。」
「アイツは許されないことをした。俺もアイツのしたことは許せない。だが、どんなに許されたくて、辛くても、アイツは許されたいだなんて言わない!!」
「そんなやつだっているのに、お前はこの期に及んでまだ―!!」
「ラプラス―ッ!!」
巨大な左腕がラプラスをつかんで放り投げる。
「・・・・・・私はもう、自分の正義を信じられない。だけど、-私たちの正義のせいで死んだ奴がいる。なら、もう裏切れない・・・!!」
再突撃を行うラプラスの軌道をとらえた相手がサーベルを突き出してくる。
「ウシャァァァァァァァ!!」
咆哮をあげながら、その切っ先に一切速度を緩めず向かっていく。そして―
「ウラァ!ウラァッ!!」
ワンツーパンチの要領でその刀身を砕く。
「ウラウラウラウラウラウラウラウラ!!・・・・・・ウラァッ!!」
そのまま剣を破壊しながら懐に飛び込み、ドロップキックを浴びせながら落下していく。
―轟音。地面にクレーターを残し、魔物化が解けたサヤをラプラスは踏みつけていた。
「さすがの再生も限界のようだな。」
「ゴフッ!!・・・・・・デイジーに救われたのは本当。だから、謝りはしない。でも―・・・・・・いや、いい。」
ラプラスの口に炎があふれ始めていた。
「私は最後まで馬鹿だったけど、少しでもいい世界ができることを願っているよ・・・・・・。」
「・・・・・・死ね。今度こそ。」
ブレスの炎がサヤを焼く。
(ああ、・・・・・・そうか。わたしは許されたかったんじゃない。裁かれたかったのか・・・)
「あ、・・・りが・・・・・・。」
この日、初めて円の神によって導かれた魂が消滅した。
「これが邪悪の樹か。」
ラプラスたちの領域の一角。悪魔たちは集まっていた。目の前には10の殻を持つクリフォト図式。注がれた禍々しい呪いをひしひしと感じる。
「ああ、私の天使としての救済の力を反転魔法で逆転させ、ゲノムが調整してくれた。」
「ゲノムはまだ起きないようだな。」
(いや、大丈夫さ。ラプラス)
頭に声が聞こえる。ゲノムの声だった。
「ゲノム!?」
(接続魔法のちょっとした応用だ。起きるのはまだ無理だが、君とこの樹の接続作業は問題ない)
「悪いな。無理をさせて。」
(いやいい。早くしないと天使たちに感づかれるしね、じゃあレヴィ。サポートを頼むよ)
「りょーかい。頭の中少し失礼するよ。」
レヴィは領域に戻ってから顔を合わせたが、依然と少し雰囲気が変わった気がする。言動はあまり変わっていないが、表情や雰囲気に年不相応の怪しい艶を感じる。……あの鈴蘭とかいうケットシーのことで何か思い出したのだろうか。
「・・・・・・うん。そうだよ。でも、わかるよね?」
・・・・・頭の中を覗かれているんだった。いいだろう。今は計画のことだけ考えるとしよう。
(接続……開始)
邪悪の樹―それは世界の秩序の象徴たる生命の樹・・・・・神の力の鏡写し。世界の歪みたる悪魔の力。
ビーストを捕食したことで歪みを取り込み、主の存在をつなぎとめることに成功したラプラスだが、力の大半をそれに取られてしまったため、今のようなボロボロの竜になってしまった。
しかし、この樹を接続し、宿せば話は変わる。一介の強い悪魔から、神にも匹敵する悪魔王へと、その力は伸び続けるだろう。神の一部となった天使たちをも滅ぼせるほどに。そしてそれは世界を安定させようとする力の破壊。イコール世界の滅亡へとつながるのだ。
「精神干渉・・・・・・っ!さすがにすごい量の呪いね。サポート無しじゃ脳焼けちゃうんじゃないラプちゃん?」
(80%・・・・・・・95、・・・・・・99・・・よしっ!!)
竜の姿に戻ったラプラスの体が再生していく。ボロボロに溶け落ちた肉片が戻り、がっしりとした胴体と、身を包めるほど巨大な翼が広がる。幽霊のようにほどけ消えた下半身が再生し、確かな脚が出来上がった。尾の先端はゲノムのように尖った槍状、頭にはレヴィのものに似た角が生えた。そしてその瞳は一瞬、ナハトのように燃え上がって見せた。
(カッコイイじゃないか)
「・・・・・・礼を言う。みんな。」
ラプラスは仲間たちに振り返る。
「いくぞ、・・・・・・覚悟はいいな?」
仲間たちは無言のまま了解した。
―そして時は現在へ―
「ウラァッ!!」
ラプラスのかぎ爪がサヤを弾き飛ばす。相手は空中を後退した後、何とかブレーキを掛けるが、受け止めた双剣の刃は大きく抉り取られていた。
「ラプラス―ッ!!」
すぐさま距離を詰め、猛ラッシュを仕掛けるラプラスの爪を何とか受け流しつつも、サヤの体はどんどん切り取られていく。
「ちっ―!!」
蹴りを入れ、上昇しながら再生魔法で傷を治す。すぐさまラプラスが翼を翻して追いすがってくる。
「ラプラス……もうやめてよ……こんなことは、もう!!」
絞り出すような悲痛な声あったが、対するラプラスの目は雪山にできたクレバスのような、絶望的なまでに黒く、冷え切ったまなざしだった。
「・・・・・・フンッ。」
「いまさら何を言っている?」
ラプラスの銀河の写りこむ翼から流星群のような光弾が発射される。サヤは両腕をクロスさせて防いだがまたっていたマントと武器はすでにボロボロ。回復魔法でしのぐのがやっとな状態だった。
「・・・・・・そう、私のせいだよ。アイツが死んだのは。だって、アイツは!みんなの希望を壊そうとしたんだ!!守りたかったデイジーの願いを!!」
「みんなの希望のためなら何をしてもいいのか?100のために1を殺す。フンッ!正しいだろうな?確かに。」
腕組をしながら目を伏せ、空中をふわりと後ろに漂ってみせる。
「だがッ!!」
しかし、次の瞬間それは激情とともにとびかかる。
「そんな妥協しただけの考えが希望だと?笑わせるなァ!!」
ラプラスの爪が双剣の刃を破砕し、頬の肉に突き刺さる。
「ぐぅ…許せだなんていわないよ。でも、そうやって恨みを関係ない人にまで向けたって―!!」
「関係ないだと!?違うね。」
かぎ爪で胴体を数回抉った後尻尾をたたきつけて弾き飛ばす。
「主は俺の親にして半身!!わが子同然の愛しき存在!!」
体を羽分解して吹っ飛ぶ敵の背後に回り込み、
「主は俺のすべてだ!それを殺したんだ、神が守ろうとした貴様らの願い、即ち!!」
背骨に痛烈な蹴りを見舞う。
「貴様らの紡ぎあげた歴史のすべて。滅ぼし終わらせてくれる。」
「すべてを奪われた復讐は、全てを奪いつくすことによってのみ達成される!!」
「そんなことをアイツが望むと思うの!?」
振り向きざまに振るわれた剣をつかみながらラプラスは答える。
「この復讐は、あの子のためにやっているんじゃない。俺が貴様らを許せないからやるんだ。」
「『復讐したって喜ばない』?フンッ、あの子は存在自体が消えようとしている。喜ぶことも悲しむこともなくなる!!」
「そして『許すのが重要』だなんていう奴もいるかもなァ?だが、俺は愛するものをリンチの末に殺されて黙っていることなんてできない。」
受け止めた刃を握り砕きながら、左手で殴り飛ばす。
「お前らのこねる理屈では、恨みも後悔も消せはしない!!そして、その向こうでどんなロクでもない未来があっても俺はその覚悟をして臨んでいる!!」
「そんなの、そうやって罪を重ねても、なにも救われないし・・・・・・誰も幸せになれないじゃない・・・・・・!!」
サヤの体から魔力が噴出し、人魚のような異形を形成しだした。鎧をまとい、剣を携え、巨大な尾ひれが宙をかいて迫ってくる。
「魔物化したか。」
ラプラスの体をはるかに上回るサーベルが振り下ろされる。しかし、そんな単調な攻撃ではとらえられない。素早く尾ひれに咬みつくと、そのまま暗雲の中に連れ去る。
「ウラァッ!!ウララウラァッ!!」
視界の封じられた相手を高速移動しながら切り付け、抉っていく。
「さっき幸せになれないとかヌかしていたな?貴様はどうなんだ?お前の正義と神はお前を幸せにしてくれたか!?」
「……わからない。でも、私にどうしろっていうのさ!?いまさらそっちにつけって!?どうやったら、・・・・・・どうしたら私は許されるのさ!?」
「・・・・・・許されたいのか?……許されるわけがないだろ。」
敵の兜をつかんで殴りつける。
「ナハトは、・・・・・・アイツはケットシーをこの星に持ち込んだ。」
「アイツは許されないことをした。俺もアイツのしたことは許せない。だが、どんなに許されたくて、辛くても、アイツは許されたいだなんて言わない!!」
「そんなやつだっているのに、お前はこの期に及んでまだ―!!」
「ラプラス―ッ!!」
巨大な左腕がラプラスをつかんで放り投げる。
「・・・・・・私はもう、自分の正義を信じられない。だけど、-私たちの正義のせいで死んだ奴がいる。なら、もう裏切れない・・・!!」
再突撃を行うラプラスの軌道をとらえた相手がサーベルを突き出してくる。
「ウシャァァァァァァァ!!」
咆哮をあげながら、その切っ先に一切速度を緩めず向かっていく。そして―
「ウラァ!ウラァッ!!」
ワンツーパンチの要領でその刀身を砕く。
「ウラウラウラウラウラウラウラウラ!!・・・・・・ウラァッ!!」
そのまま剣を破壊しながら懐に飛び込み、ドロップキックを浴びせながら落下していく。
―轟音。地面にクレーターを残し、魔物化が解けたサヤをラプラスは踏みつけていた。
「さすがの再生も限界のようだな。」
「ゴフッ!!・・・・・・デイジーに救われたのは本当。だから、謝りはしない。でも―・・・・・・いや、いい。」
ラプラスの口に炎があふれ始めていた。
「私は最後まで馬鹿だったけど、少しでもいい世界ができることを願っているよ・・・・・・。」
「・・・・・・死ね。今度こそ。」
ブレスの炎がサヤを焼く。
(ああ、・・・・・・そうか。わたしは許されたかったんじゃない。裁かれたかったのか・・・)
「あ、・・・りが・・・・・・。」
この日、初めて円の神によって導かれた魂が消滅した。
DCD- 見習い
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Join date : 2016/04/16
36話
ラプラスがサヤと交戦をしているのと時を同じくして、各々戦いを激化させていた。
「読める・・・・・・いけっ!!」
命令を受けたスフィアの水晶玉を思わせるエネルギー攻撃端末―ビットがレーザーの時間差攻撃を開始する。ゲノムはハンドガンを二丁構えてこれを打ち落とそうと狙うが、予知魔法によって軌道が読まれているらしく当たらない。
「チッ・・・・・・!」
レーザーの一本が頬をかすめた。髭が焼き切れる。
(相手を包囲しての波状攻撃。確かに有効な戦術だ)
上空からの三連射をバック転でかわす。
「私の予知とあなたがコピーした予知。お互いの能力が干渉しあって命中しませんか。ですが……。」
スフィアが鏡のようなシールドを展開してゲノムの反撃を防ぐ。
「最小限の動きとはいえ、周囲に意識を回しながら動き続けるあなたと動かず指示と防御だけの私。先に疲弊するのはどちらかしら?」
突撃してきたビットがゲノムの腰に直撃する。
「ぐっ・・・高みの見物をしながら嬲り殺しにしようってことかい?いい身分だ。さすが天使。」
「ふっ・・・・・・チェックメイト!」
膝をついたゲノムに周囲を円を描くように飛んでいたビットにレーザーの一斉掃射を指示する。
「確かにお前のオールレンジ攻撃は強力だ。ビットは私も使えるが、もともとお前の武器だし、私より使いこなせているだろう。」
レーザーのチャージが強まる。敵がどう動こうと打ち抜く自信がスフィアにはあった。
「だが、大事なことを忘れているぞ?」
「っ!?」
しかしそのレーザー群は弾かれる。強力な魔法壁が各ビットを閉じ込めるように展開され、エネルギーが内部で炸裂、ビットを自滅させてしまったのだ。
「ネブラの守護魔法!!」
「そうだ、そして!」
ひるんだ一瞬のスキを見逃しはしない。ハンドアックスモードの刃を振り下ろす。シールドで止められはしたが形勢は逆転した。
「接近戦ではビットは使えないだろう?自分にもあたるからな。」
相手の右腕にビットが生成されている。そのまま掌底に乗せてぶつけようというつもりだろう。だが―!
「甘い甘い甘い!!」
素早く受け流し、肘にアックスを叩き込む。切断はできなかったがこれでもう右腕を使えまい。
「くぁっ!!……あっ!?ぐっ……!!」
背後に回って首を締めあげる。
「やはり接近戦は苦手のようだな。さんざん上から狙撃してくれたんだ、今度君が―!」
左手にガントレットマニュピレータ―を出現させ、背中に押し当てる。
「堕ちる番だっ!」
そのままロケットパンチを発射し、相手を地面にたたきこむ。
「ステイだ。そのまま伏せてな。」
起き上がろうとする相手に二発目のロケットパンチを浴びせ、背中と顔面を抑えて地面にねじ込む。
「悪魔めっ……!!」
歯ぎしりをしながらスフィアは上空の毒々しい六枚羽の悪魔をにらむ。
「グッバ~イ。次は格闘もこなせるようになるんだね。」
コピービットとハンドガンの一斉射撃がスフィアを消し去った。ラプラスがサヤを倒したのとほぼ同じときであった。
「フンッ!フンッ!!」
別の場所ではレヴィと空蓮が交戦していた。振り下ろされるメイスの一撃を軽快な動きで避けてすきを見て片手剣で切り付ける。
(・・・・・・アイツ、結構固いな。)
レヴィの剣は小型ではあるが、込められた魔力と呪いの量は段違いだ。切断能力だけならラプラスの爪をも凌駕するだろう。
しかし、今回の相手は切り傷はつけども浅い。刃が法衣の魔力に阻まれてうまく通らない。
動きを止めて重いメイスの一撃。速さはないが一撃で仕留める戦法だ。
「ふっ!はっ!」
飛びのきながら針を投げつける。顔を狙って投げたが、相手は「壁」の文字が浮かび上がると同時に魔法壁を出して針をはじいてしまった。
「『砕』ッ!!」
相手のメイスの柄尻に装備された筆から墨汁のような水滴が地面に垂れたと思うと、メイスでその地面をたたき砕き、「砕」の字とともに土砂の散弾を放ってくる。
「うわっとっ!!」
とっさに紋章型の防御壁で防いだが衝撃までは消せない。吹っ飛ばされる。が、誰かがキャッチしてくれた。
「アハハ!大丈夫かい?」
吹っ飛ばされるレヴィの左手を空中ブランコにぶら下がったナハトがキャッチし、ぐるんと一回転したのち別のブランコにレヴィを投げ上げる。
「ナッちゃんサンキュー!」
ブランコの上に着地したレヴィにナハトはウインクをして返す。
「いいってことさ。…おっと!」
ナハトが上体を曲げると同時にそれまで頭があった場所をビームが通過していく。聖杯を構えたエヴァが左手に持っていた槍を構えなおす。
「ナッっちゃん。私前にアイツにみぞおち殴られたんだよね。」
「へぇ、それはひどい。……バトンタッチ、するかい?」
「OK。」
レヴィがブランコから飛び降り、エヴァに切りかかる。同時にナハトもメイスを引き釣りながら追ってきた空蓮の前に降り立つ。
「アハハ!空蓮、あんたも出世したね?けど―!!」
ふり降ろされたメイスを肩越しに担いだ槍でそのままくるりと一回転しはじく。そのまま回転の勢いを載せて槍で薙ぎ払うが空蓮は頭を下げてこれをかわし、
「はっ!!」
右手を添えなおして下から突き上げようとする槍をメイスを横からぶつけて防ぐ。
「リリス、我々の手にしたケットシーという力、その恩恵で出来上がったこの世界。そんなに悪いものでもないでしょう?」
「かもね。でも私は認めない。」
そのまま頭を突き刺そうとするナハトの動きに対応し、体制を低くしながらメイスを滑らせ、胴に叩き込む。
「ぐふっ・・・。」
倒れこむナハトに反転した空蓮がメイスの柄頭に『撃』の文字を書き込む。文字に対応した事象を拡大する魔法。それがやつの能力だ。
「なぜそこまで我々の希望を・・・・・・『撃』!!」
「なぜかって?そんなの―。」
槍のリーチを生かして振り下ろすより先に付きたてる。法衣のガードは固く、串刺しにはできなかったが槍を振って弾き飛ばす。
「―愛ゆえに。」
「・・・?」
「愛ゆえに!私は全てのケットシーたちに、生きて欲しいと思っている!」
「世界を壊すというのに?」
「最初の悪魔を救うにはそれしかない。やり直す。全てを。ケットシーなどなかったことにしてやる。」
「私は全ての猫の母。故に許せないのさ。私の与えたもので我が子が不幸になるなんて。」
空中ブランコに飛び乗り、複数のブランコを間を駆け巡りながら反転魔法で作った重力の機雷を投下し絨毯爆撃のごとく地表を吹き飛ばす。
「命を犠牲にしてまで、願わなくてもいい世界。願う必要なんて、ない世界。それが私の目指す新世界だ!!」
空蓮が結界を張ってそれを防ぐ。重力でつぶれ、クレーターだらけの地面にゆっくり着地しながら頭上の悪魔を見やる。
「・・・・・・それは、あなたのエゴでしょう?」
その言葉にナハトの動きがぴたりと止まる。
「・・・・・・ああ、そうさ。愛はエゴ。故に譲らない。」
燃え盛る悪魔の瞳が涙を流していた。しかしその炎はその涙をも蒸発させ、なおも燃え盛る。
「読める・・・・・・いけっ!!」
命令を受けたスフィアの水晶玉を思わせるエネルギー攻撃端末―ビットがレーザーの時間差攻撃を開始する。ゲノムはハンドガンを二丁構えてこれを打ち落とそうと狙うが、予知魔法によって軌道が読まれているらしく当たらない。
「チッ・・・・・・!」
レーザーの一本が頬をかすめた。髭が焼き切れる。
(相手を包囲しての波状攻撃。確かに有効な戦術だ)
上空からの三連射をバック転でかわす。
「私の予知とあなたがコピーした予知。お互いの能力が干渉しあって命中しませんか。ですが……。」
スフィアが鏡のようなシールドを展開してゲノムの反撃を防ぐ。
「最小限の動きとはいえ、周囲に意識を回しながら動き続けるあなたと動かず指示と防御だけの私。先に疲弊するのはどちらかしら?」
突撃してきたビットがゲノムの腰に直撃する。
「ぐっ・・・高みの見物をしながら嬲り殺しにしようってことかい?いい身分だ。さすが天使。」
「ふっ・・・・・・チェックメイト!」
膝をついたゲノムに周囲を円を描くように飛んでいたビットにレーザーの一斉掃射を指示する。
「確かにお前のオールレンジ攻撃は強力だ。ビットは私も使えるが、もともとお前の武器だし、私より使いこなせているだろう。」
レーザーのチャージが強まる。敵がどう動こうと打ち抜く自信がスフィアにはあった。
「だが、大事なことを忘れているぞ?」
「っ!?」
しかしそのレーザー群は弾かれる。強力な魔法壁が各ビットを閉じ込めるように展開され、エネルギーが内部で炸裂、ビットを自滅させてしまったのだ。
「ネブラの守護魔法!!」
「そうだ、そして!」
ひるんだ一瞬のスキを見逃しはしない。ハンドアックスモードの刃を振り下ろす。シールドで止められはしたが形勢は逆転した。
「接近戦ではビットは使えないだろう?自分にもあたるからな。」
相手の右腕にビットが生成されている。そのまま掌底に乗せてぶつけようというつもりだろう。だが―!
「甘い甘い甘い!!」
素早く受け流し、肘にアックスを叩き込む。切断はできなかったがこれでもう右腕を使えまい。
「くぁっ!!……あっ!?ぐっ……!!」
背後に回って首を締めあげる。
「やはり接近戦は苦手のようだな。さんざん上から狙撃してくれたんだ、今度君が―!」
左手にガントレットマニュピレータ―を出現させ、背中に押し当てる。
「堕ちる番だっ!」
そのままロケットパンチを発射し、相手を地面にたたきこむ。
「ステイだ。そのまま伏せてな。」
起き上がろうとする相手に二発目のロケットパンチを浴びせ、背中と顔面を抑えて地面にねじ込む。
「悪魔めっ……!!」
歯ぎしりをしながらスフィアは上空の毒々しい六枚羽の悪魔をにらむ。
「グッバ~イ。次は格闘もこなせるようになるんだね。」
コピービットとハンドガンの一斉射撃がスフィアを消し去った。ラプラスがサヤを倒したのとほぼ同じときであった。
「フンッ!フンッ!!」
別の場所ではレヴィと空蓮が交戦していた。振り下ろされるメイスの一撃を軽快な動きで避けてすきを見て片手剣で切り付ける。
(・・・・・・アイツ、結構固いな。)
レヴィの剣は小型ではあるが、込められた魔力と呪いの量は段違いだ。切断能力だけならラプラスの爪をも凌駕するだろう。
しかし、今回の相手は切り傷はつけども浅い。刃が法衣の魔力に阻まれてうまく通らない。
動きを止めて重いメイスの一撃。速さはないが一撃で仕留める戦法だ。
「ふっ!はっ!」
飛びのきながら針を投げつける。顔を狙って投げたが、相手は「壁」の文字が浮かび上がると同時に魔法壁を出して針をはじいてしまった。
「『砕』ッ!!」
相手のメイスの柄尻に装備された筆から墨汁のような水滴が地面に垂れたと思うと、メイスでその地面をたたき砕き、「砕」の字とともに土砂の散弾を放ってくる。
「うわっとっ!!」
とっさに紋章型の防御壁で防いだが衝撃までは消せない。吹っ飛ばされる。が、誰かがキャッチしてくれた。
「アハハ!大丈夫かい?」
吹っ飛ばされるレヴィの左手を空中ブランコにぶら下がったナハトがキャッチし、ぐるんと一回転したのち別のブランコにレヴィを投げ上げる。
「ナッちゃんサンキュー!」
ブランコの上に着地したレヴィにナハトはウインクをして返す。
「いいってことさ。…おっと!」
ナハトが上体を曲げると同時にそれまで頭があった場所をビームが通過していく。聖杯を構えたエヴァが左手に持っていた槍を構えなおす。
「ナッっちゃん。私前にアイツにみぞおち殴られたんだよね。」
「へぇ、それはひどい。……バトンタッチ、するかい?」
「OK。」
レヴィがブランコから飛び降り、エヴァに切りかかる。同時にナハトもメイスを引き釣りながら追ってきた空蓮の前に降り立つ。
「アハハ!空蓮、あんたも出世したね?けど―!!」
ふり降ろされたメイスを肩越しに担いだ槍でそのままくるりと一回転しはじく。そのまま回転の勢いを載せて槍で薙ぎ払うが空蓮は頭を下げてこれをかわし、
「はっ!!」
右手を添えなおして下から突き上げようとする槍をメイスを横からぶつけて防ぐ。
「リリス、我々の手にしたケットシーという力、その恩恵で出来上がったこの世界。そんなに悪いものでもないでしょう?」
「かもね。でも私は認めない。」
そのまま頭を突き刺そうとするナハトの動きに対応し、体制を低くしながらメイスを滑らせ、胴に叩き込む。
「ぐふっ・・・。」
倒れこむナハトに反転した空蓮がメイスの柄頭に『撃』の文字を書き込む。文字に対応した事象を拡大する魔法。それがやつの能力だ。
「なぜそこまで我々の希望を・・・・・・『撃』!!」
「なぜかって?そんなの―。」
槍のリーチを生かして振り下ろすより先に付きたてる。法衣のガードは固く、串刺しにはできなかったが槍を振って弾き飛ばす。
「―愛ゆえに。」
「・・・?」
「愛ゆえに!私は全てのケットシーたちに、生きて欲しいと思っている!」
「世界を壊すというのに?」
「最初の悪魔を救うにはそれしかない。やり直す。全てを。ケットシーなどなかったことにしてやる。」
「私は全ての猫の母。故に許せないのさ。私の与えたもので我が子が不幸になるなんて。」
空中ブランコに飛び乗り、複数のブランコを間を駆け巡りながら反転魔法で作った重力の機雷を投下し絨毯爆撃のごとく地表を吹き飛ばす。
「命を犠牲にしてまで、願わなくてもいい世界。願う必要なんて、ない世界。それが私の目指す新世界だ!!」
空蓮が結界を張ってそれを防ぐ。重力でつぶれ、クレーターだらけの地面にゆっくり着地しながら頭上の悪魔を見やる。
「・・・・・・それは、あなたのエゴでしょう?」
その言葉にナハトの動きがぴたりと止まる。
「・・・・・・ああ、そうさ。愛はエゴ。故に譲らない。」
燃え盛る悪魔の瞳が涙を流していた。しかしその炎はその涙をも蒸発させ、なおも燃え盛る。
DCD- 見習い
- 投稿数 : 20
Join date : 2016/04/16
Re: 神話~Future to the desire
新年一発!
投稿お疲れ様です!
投稿お疲れ様です!
トワイライトアウル- 新入り戦士
- 投稿数 : 72
Join date : 2015/05/16
所在地 : と、都会だし? (震え)
37話
空蓮とナハトが問答を終え再度激突を繰り返すなか、レヴィはエヴァと対峙していた。
「罪深き子供よ。実の妹まで殺すとは、悪魔である以前に貴様は許されん。」
「ふぅん・・・。」
エヴァの言葉を突き出された槍と同じように流し、そのまま敵のスピアをレール代わりにして剣を加速させる。
スパークを纏いながら迫る紫毒の刃。突きを繰り出した重心と体制からは避けられまい。
「チッ…!」
「-っ!?」
しかし首筋を切り裂くはずだった逆手持ちの剣は空を切った。エヴァは槍の先端から魔力光線を発射し、その反動で急速離脱を行ったのだ。
「へぇ、躱すんだ。やるねぇ。」
「悪魔よ、カメリアはお前と戦うつもりはなかった。お前を救う気でいたというのに、なぜその手を振り払う?」
「救う気でいた?だったらなんなの?」
レヴィが投げつけた針をエヴァはマントを翻して弾く。
「カメリアが救いたかったのは自分であって私じゃない。」
「私の居場所はあなたたちの世界じゃないし、ここでもない。」
「そのとおりだ!」
上空から流れ星のごときエネルギー弾の雨が降ってくる。ラプラスだ。
「悪魔・・・!サヤの魂が!?」
「そうさ、もう二度と奴はリングには帰れない。因果地平の彼方へ追放した。」
「サヤだけじゃないぞ。」
言葉とともに飛んできた弾丸を槍で叩き落す。ゲノムだ。
「スフィアの奴も消した。」
「追放・・・だと!?」
「俺の魔法は成長したからな。」
「そして私の接続で共有もできる。」
「成長・・・。」
「くぁぁぁぁぁ!!」
困惑するエヴァの背中に向かって空蓮が吹っ飛ばされてきた。
「空蓮!」
「アハハハハハ!ケットシーたちが願いをかなえたことで生じた因果の歪み、それは魔物になることで修正される。」
ナハトがトライデントを担ぎなおしながら
「しかし、リングの誕生によって魔物は誕生せず、救済された魂は輪廻の輪に戻ることもできない。そんないびつな世界を保つために世界が自ら呪いを処理し、世界のバランスを保つ存在としてビーストを生み出した。だが、もし浄化不能なほどの呪いが世の蔓延したら?世界はどんな選択をするかな?」
「・・・世界の、・・・リセット!」
メイスを構えなおしながら空蓮がつぶやく。
「ご名答。これが我らの終末論。世界は滅びたがっている、そしてその担い手こそが我々悪魔さ!」
「・・・天使長・・・。」
「・・・・・・ふふ、やむおえまい。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
エヴァの怪しげな笑みとともに周囲が揺れ始める。
「なに!?」
「地震…いや違う、空間振動だと!?」
「これは・・・!」
「天使長、まさか!?」
「・・・-!この虫唾が走る魔力は・・・!」
ドガァァァァッァン!!
各々の反応が終わるより先か、地面が爆ぜた。
そこから現れたのは巨大な大樹。内包するは一つの世界。
「生命の…樹。」
吹き飛ばされた面々を反転魔法ー重力の応用で開けたワームホールを利用して一か所に集めたナハトがつぶやく。
「あれが、・・・あの中にあるのが、天国なのか?」
異変はそれで終わらない。今度はその大樹に向けて無数の光の線が伸びてくる。
「これって!?確か天使を倒したときに出てたのと同じ・・・!」
「俺は、いや主はこの光景を見たことがある。魔物になったデイジーと同じだ。世界中の魂を自分の楽園に吸い上げ、悲劇をなくす。それと同じだ。」
空に手を伸ばすレヴィを制しながらラプラスは腕組をしながらその光景を見守っていた。
ナハトは悲しげな声で話す。
「エヴァめ・・・。世界中の魂を吸い上げさせているんだ。強制的に救済し、私たちをつぶしたらまた世界にまく・・・そんなところだろう。」
「世に光あれ。救いようのない悪魔たちよ、せめて私の新たな力で、その罪を払うとしよう。」
エヴァの声がどこからか響く。やがて生命の樹の中央よりやや上部より光が現れる。
それは光り輝く黄金の果実を手にしたエヴァだった。
「変❝神❞・・・!
果実を口にしたとたん、まばゆい閃光とともに天使の長は新たな姿を見せた。
純白の毛を守るパールシルバーの装甲は胸部、肩部、碗部、脛を覆う最低限のものになり、腹部他頭部以外の露出部は白い魔力でコーティングされた鎖帷子になっている。腰背部からは金色の翼が出現し、腰にミニスカートのように巻かれていた。頭部は耳までしっかりと兜で守られている。背中に合ったマントは左肩にまとめられた典礼用マント。手に持つ槍はスピアから大きく形状を変え、ヴァンプレイトから四つのガトリング砲の砲身が覗くドリルランスに変わった。
マントを大きく広げたその姿はさながら片翼の天使。
「さあ、往生するがいい!」
槍を向けるとともに無数の配下たちが現れ飛び道具を構える。
しかし、竜の悪魔はひるまない。翼を広げ、仲間たちの先頭に立ち、咆哮する。
「ウシャァァァァァァァァァァァ!!」
「往生?するかよ。」
「俺の諦めの悪さは主譲りだ!!」
「罪深き子供よ。実の妹まで殺すとは、悪魔である以前に貴様は許されん。」
「ふぅん・・・。」
エヴァの言葉を突き出された槍と同じように流し、そのまま敵のスピアをレール代わりにして剣を加速させる。
スパークを纏いながら迫る紫毒の刃。突きを繰り出した重心と体制からは避けられまい。
「チッ…!」
「-っ!?」
しかし首筋を切り裂くはずだった逆手持ちの剣は空を切った。エヴァは槍の先端から魔力光線を発射し、その反動で急速離脱を行ったのだ。
「へぇ、躱すんだ。やるねぇ。」
「悪魔よ、カメリアはお前と戦うつもりはなかった。お前を救う気でいたというのに、なぜその手を振り払う?」
「救う気でいた?だったらなんなの?」
レヴィが投げつけた針をエヴァはマントを翻して弾く。
「カメリアが救いたかったのは自分であって私じゃない。」
「私の居場所はあなたたちの世界じゃないし、ここでもない。」
「そのとおりだ!」
上空から流れ星のごときエネルギー弾の雨が降ってくる。ラプラスだ。
「悪魔・・・!サヤの魂が!?」
「そうさ、もう二度と奴はリングには帰れない。因果地平の彼方へ追放した。」
「サヤだけじゃないぞ。」
言葉とともに飛んできた弾丸を槍で叩き落す。ゲノムだ。
「スフィアの奴も消した。」
「追放・・・だと!?」
「俺の魔法は成長したからな。」
「そして私の接続で共有もできる。」
「成長・・・。」
「くぁぁぁぁぁ!!」
困惑するエヴァの背中に向かって空蓮が吹っ飛ばされてきた。
「空蓮!」
「アハハハハハ!ケットシーたちが願いをかなえたことで生じた因果の歪み、それは魔物になることで修正される。」
ナハトがトライデントを担ぎなおしながら
「しかし、リングの誕生によって魔物は誕生せず、救済された魂は輪廻の輪に戻ることもできない。そんないびつな世界を保つために世界が自ら呪いを処理し、世界のバランスを保つ存在としてビーストを生み出した。だが、もし浄化不能なほどの呪いが世の蔓延したら?世界はどんな選択をするかな?」
「・・・世界の、・・・リセット!」
メイスを構えなおしながら空蓮がつぶやく。
「ご名答。これが我らの終末論。世界は滅びたがっている、そしてその担い手こそが我々悪魔さ!」
「・・・天使長・・・。」
「・・・・・・ふふ、やむおえまい。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
エヴァの怪しげな笑みとともに周囲が揺れ始める。
「なに!?」
「地震…いや違う、空間振動だと!?」
「これは・・・!」
「天使長、まさか!?」
「・・・-!この虫唾が走る魔力は・・・!」
ドガァァァァッァン!!
各々の反応が終わるより先か、地面が爆ぜた。
そこから現れたのは巨大な大樹。内包するは一つの世界。
「生命の…樹。」
吹き飛ばされた面々を反転魔法ー重力の応用で開けたワームホールを利用して一か所に集めたナハトがつぶやく。
「あれが、・・・あの中にあるのが、天国なのか?」
異変はそれで終わらない。今度はその大樹に向けて無数の光の線が伸びてくる。
「これって!?確か天使を倒したときに出てたのと同じ・・・!」
「俺は、いや主はこの光景を見たことがある。魔物になったデイジーと同じだ。世界中の魂を自分の楽園に吸い上げ、悲劇をなくす。それと同じだ。」
空に手を伸ばすレヴィを制しながらラプラスは腕組をしながらその光景を見守っていた。
ナハトは悲しげな声で話す。
「エヴァめ・・・。世界中の魂を吸い上げさせているんだ。強制的に救済し、私たちをつぶしたらまた世界にまく・・・そんなところだろう。」
「世に光あれ。救いようのない悪魔たちよ、せめて私の新たな力で、その罪を払うとしよう。」
エヴァの声がどこからか響く。やがて生命の樹の中央よりやや上部より光が現れる。
それは光り輝く黄金の果実を手にしたエヴァだった。
「変❝神❞・・・!
果実を口にしたとたん、まばゆい閃光とともに天使の長は新たな姿を見せた。
純白の毛を守るパールシルバーの装甲は胸部、肩部、碗部、脛を覆う最低限のものになり、腹部他頭部以外の露出部は白い魔力でコーティングされた鎖帷子になっている。腰背部からは金色の翼が出現し、腰にミニスカートのように巻かれていた。頭部は耳までしっかりと兜で守られている。背中に合ったマントは左肩にまとめられた典礼用マント。手に持つ槍はスピアから大きく形状を変え、ヴァンプレイトから四つのガトリング砲の砲身が覗くドリルランスに変わった。
マントを大きく広げたその姿はさながら片翼の天使。
「さあ、往生するがいい!」
槍を向けるとともに無数の配下たちが現れ飛び道具を構える。
しかし、竜の悪魔はひるまない。翼を広げ、仲間たちの先頭に立ち、咆哮する。
「ウシャァァァァァァァァァァァ!!」
「往生?するかよ。」
「俺の諦めの悪さは主譲りだ!!」
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