空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

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空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Wed Apr 06, 2016 3:02 pm





空がけた日

 ーA Misfortune MEMORY









「――――闘え、われた戦士たちよ」



       空のは、繰り返す。















主な登場猫紹介







Beginners -side




ンダーレイン【消炭色の雨】

「もう夏休み卒業してますー社会復帰してますー!」

鮮やかな緑色の瞳をもつ薄灰色のとら柄の雌猫。この物語の主人公
調子のいい元気な馬鹿。テンションの上下が非常にわかりやすい
人情と激情とその場のノリだけで突き進むがメンタルが豆腐以下

「私には、何かが抜け落ちているような気がする」


ークシェイド【鷹の影】

「冗談も程々にしてよ姉貴。それでも猫なの?」

夕暮れのような琥珀色の瞳をもつ薄茶色のとら柄の雄猫。シンダーレインの弟
物腰柔らかで掴みどころのない性格。しかし発言はいろいろな意味で鋭い
何を考えているのかよくわからないマイペース

「もう二度と、僕の世界は壊させない」


ェルクローズ【閉じる貝】

「お前は一生路頭に迷ってろ」

鋭い切れ長の群青色の瞳をもつ濃い灰色の雄猫。三兄弟の長男
ひねくれ者だが根は純粋な苦労人。意外とヘタレだったりする
シンダーレインと顔を合わせると決まって喧嘩になる

「俺は、強くならなきゃいけねぇんだ」


ビスフラワー【奈落の花】

「次飛んでくるのは、私の拳ではないかもしれないんですよ」

穏やかそうな琥珀色の瞳をもつ黄金色の雌猫。三兄弟の間っ子
普段は優しくて思慮深く丁寧だが、兄以上に手のつけられない短気
頭に血が昇っている時の彼女は兵器。普段の敬語も外れる

「……だとしたら、私は一生貴方を許さない」


ラッシュウェイヴ【閃光の波】

「見習い最後の狩猟任務、この私がお供してあげよう」

ぱっちりと大きい琥珀色の瞳をもつ黄金色と白の小柄な雌猫。三兄弟末っ子
楽しいこと好きのいたずら好き。シンダーレインと仲がいい
頭は切れるが天然という名の爆弾を抱えている

「ほら!そんな顔してると、幸せが逃げちゃうよ!」


ッドスカイ【赤い空】

「手懐けられて子猫みたいになったトラを見ても面白くないだろう?」

涼しげな浅葱色の瞳をもつ黒の模様のある赤みがかった雄猫。実は拾い子
常に余裕を忘れない人を喰ったような性格。よくアビスフラワーにちょっかいをかけている
ミステリアスだが素は結構常識人

「その言葉をきいて、安心したよ」







Researchers -side




ノウブリーズ【雪風】

「気持ちわりい嘘つくな目ぇ潰すぞ!」

夏空のように濃い青の瞳をもつ白い雄猫。この物語のもうひとりの主人公
ちょっぴり卑屈で自己犠牲的な面がある。サニー族の看護猫
思い込みが激しく、頑固で攻撃的

「それであいつに会えるなら、喜んでこんなもの、捨ててやる」


ルハート【丘の心】

「俺の心を治療してスノウちゃあん!!」

夜明けのような暗めの琥珀色の瞳をもつこげ茶の大柄な雄猫。族長の子その1
いつも明るいおおらかな性格だが周囲では愛すべきやられ役で通っている
ひとが良く騙されやすい面もあるが、何をされても折れない鋼のメンタルをもつ

「……俺は今でも、その言葉を信じているよ」


ェイドウィング【陰の翼】

「貴様は地にこすりつけた私の頭を踏みつけるなりするがいい」

明るめの琥珀色の瞳をもつこげ茶の模様のある黒い雌猫。族長の子その2
クールな口調と大真面目な顔でぶっ飛んだ中身をもつ自覚のない問題児
一族随一の情報屋という顔があり、様々なことを知っている

「ただ私は、貴様に笑ってほしいだけだ。……いけないか?」


モークペルト【煙の毛皮】

「んな馬鹿なことやってねぇでとっととそれ置いてこい」

夜の森のような彩度の低い緑の瞳をもつ黒と灰色の雄猫。族長の子その3
常に苛ついてそうな表情。寡黙で必要以上の関わりを嫌う。スノウブリーズと因縁がある
一貫してクールだが実は情に厚く、仲間意識が強い

「大切なものを守りたいと思って、何が悪い」


カイファー【空の毛】

「私はこの歩く不思議のダンジョンを回収しに来ただけよ」

春の森のようにみずみずしい緑の瞳をもつ青灰色の雌猫
顔つきは穏やかだが言動に容赦がない。笑顔の毒舌お姉さん
誰にでも平等に毒を吐いていくが、誰からも人気がある不思議なカリスマをもつ

「そうやって、いつまでも後ろだけ見ていればいいわ」


ロウスカー【鴉の傷跡】

「……俺を疑ってる?」

満月のような明るい黄色の瞳をもつ雄の黒猫。一族の嫌われ者
ただでさえ誰も近寄らないのに自分からも誰とも関わろうとせず、一匹狼を貫き通している
かつての裏切り者の生き写しの息子である

「世の中には、知らないほうが良いことだってあるんだ」







The Other Characters


グリーンスター【緑の星】

緑の目の黒と灰色の虎柄の雄猫。サニー族の族長
穏やかで争いを好まない、温和で良識のある族長


ライトストリーム【光る小川】

琥珀色の目の薄灰色の雌猫。サニー族の副長でシンダーレイン達の母親
時間や規律に厳しいしっかり者。少し冷たい印象を受ける


コットンファー【綿毛】

緑の目の黄褐色の雌猫。サニー族の看護猫でスノウブリーズの指導者
極度のお人好しで心配性だが、意外と弁が立つ


サンダーアイ【雷の目】

暗闇によく映える黄色の目をした傷だらけの真っ黒な雄猫。クロウスカーの父
元サニー族だったが、裏切りを働き追放された。その後の生死は不明



フェザーポー【羽の足】

神秘的な紫色の目をした白と青灰色の雌猫。シェイドウィングの弟子
ミステリアスで見習いにしては大人びているが、おちゃめな一面もある
意味深な冗談をよく放っている









用語集





サニー族
人里離れた森林地帯に暮らす巨大な一族
周りにサニー族のような部族猫はおらず、そのせいか縄張りの境界線も浮浪猫に対する警戒心も薄れてきている
平和を好み、少数より多数を重んじる傾向にある
縄張りに日の出を拝むことができる岩山があることが由来


ヘヴン族
サニー族が信仰する天空を縄張りとする部族
死んでいった者がこの部族に加わることができる
言い伝えでは、ヘヴン族に仲間入りすると星の光となる羽を貰い受けるとされている
本家で言うスター族


アクアロックス、バラストロックス、ロックフォート
サニー族の縄張りの中に位置する三つの岩山
一族は偶にこの岩山を利用してパトロールをする



ムーン族
サニー族の縄張りに突如現れた謎多き集団








目次



序章   夜明けの風

第一章  新たな戦士

第二章  有明の幻

第三章  忍ぶ影

第四章  暗闇の天啓

第五章  襲撃と記憶

第六章  解けた追憶

第七章  虚空の交錯

第八章  激情と深淵

第九章  胡蝶の胎動

第十章  夕闇の呼び声  ⇐ここまで更新

第十一章 夜霧の侵蝕

第十二章 晦冥に潜む

第十三章 月影の旅鴉

    ・
    ・
    ・













作者は激怒した。
必ず、かの暴虐非道な飽き性を除かねばならぬと決意した。
作者には、才能がない。
作者は、とんでもない三日坊主である。
毎回クソみたいな小説を作っては、ろくに話も進まずに忘れ去られていった。
それでも、この小説に関しては、何よりも長く設定を考え続け、深い愛着を抱いていた。(メロス並感)

はい皆様お久しぶりですふらわりです!大丈夫ですよね忘れ去られてなんかいませんよね?
まあそれはともかく、登場猫に懐かしさを感じた方、覚えていらっしゃるでしょうか?
この小説は、昔投稿していた「昼下がりの太陽-BAD FATE-」の完全リメイク作品となります!
いやまあそもそもひるばと自体リメイクなんだけれども気にしない!
本当に大きな筋とごく一部の登場猫しか変わっていないのでほぼ別物と考えてくださって構いません!

この小説も進化()を続け早4年…のくせ設定が生えるばかりで完結もせず…
さすがに今回こそ完結したいですね!はい!フラグじゃないです!

まあ相も変わらずのマイペース更新なので、ゆったりと暇つぶしにでも覗いていただければ、なんて。


最終編集者 フラワリングハート@ふらわり [ Sat Apr 14, 2018 5:04 pm ], 編集回数 9 回
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by レパードクロー on Wed Apr 06, 2016 5:10 pm

ついにキタアアアアアアアアヾ(*´∀`*)ノ

リメイクおめでとうございます!
ファンとして始動を楽しみに待っています!

(追伸)もちろん忘れてませんよ!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by ライトハート on Wed Apr 06, 2016 8:06 pm

おおおおおお!待ちに待ったリメイク!!
ずっと楽しみにしてましたよ~~!!
イラストのシンダーレイン(合ってますよね…?)も素敵ですね…!
この物語のファンなので、応援します^^*
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Wed Apr 06, 2016 8:41 pm

>ひょうつめさん
コメントありがとうございます!
覚えていてくださいましたか!嬉しいです!
ファンですと!?まさかこの私にファンが…
これは張り切っていかねば!ありがとうございます!


>ライトハートさん
コメントありがとうございます!
楽しみにしていてくださっていたのですね…!お待たせして申し訳ありません!
イラストへのお言葉も嬉しいです!そうです、シンダーレインです!
イラストはこれからもちょくちょく描いていくので…
ファンがここにも…応援ありがとうございます!頑張ります!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Wed Apr 06, 2016 8:48 pm

序章 -夜明けの風-








生暖かい風が木々をすり抜ける、夏の星月夜。
確か、こんな日だった。

息苦しい虫の合唱、気持ちいいとはとても思えないねっとりとした温風、
どうしようもないこの熱帯夜に彼女が目をさますのも無理はない。

しかし、この暑さがひとりの戦士の頭を狂わせてしまったのだとしても、無理はなかったのだろうか。

そんなことはあるまい。


きっとその戦士は、ずっと前から狂っていたに違いなかった。


森中に漂う熱気に押しつぶされそうだというのに、すぐ上の星々はいつだって涼しげにきらきらと輝いているのだ。


そう、確か、そんな日だった。


一族中から尊敬を浴びる戦士が、その一族を、その尊敬を、名声を、

すべてを裏切ったのは。


たくましい筋肉が波打つ大柄な体。
丁度真夜中の暗闇に紛れる漆黒の毛皮は、所々に歴戦の証が刻まれている。

そして、夜空に浮かぶ稲光のように鋭い黄金の双眸。


雷の瞳、サンダーアイ。


我が一族が忘れもしない、殺人鬼の名前である。







時は流れ、透き通るような冷たい風が枯れ葉を荒らしてやってくる、秋の終わり。

鮮やかな色に染め上げられていた楓も力尽きて小枝の先にぶらさがっている頃、
一人の見習いが戦士になろうとしていた。


夜の暗闇など知ろうともしない、光さしこむ朝へと突き進んでいくような、真っ直ぐな目をした雌猫。




今、過去と未来をつなぐ、新しい風が吹き抜ける。
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Fri Apr 08, 2016 12:45 pm

第一章 新たな戦士






ふわりとした落ち葉の中に足を踏み入れ、冷たくなりはじめた空気を味わってみると、鼻の奥に刺すような冷気が駆け巡った。
思わず眉間にしわを寄せると、横にいた雌猫がくつくつと笑うのが聞こえた。
黄金色と白の柔らかな毛皮が、木漏れ日にあたって輝いている。

彼女は、名をフラッシュウェイヴという。
シンダーポーが見習い最後の狩猟任務のお供に任命した、一番の親友だ。
彼女とは子猫からの付き合いで、キャンプ脱走からお叱りまでともにした気の置けない仲である。


「あ、シンちゃん、そこ」

「わかってる、任しといて」


風上の葉ずれの音を聞いて、二匹は揃って身をかがめた。
しばらく耳を澄ませていると、岩肌を引っかく音がアクアロックスの入り口から聞こえ、美味しそうな匂いがそれとともにゆっくり漂ってくるのを感じた。

言うまでもない、ねずみだ。

フラッシュウェイヴはねずみに近づいていくシンダーポーの後ろにつき、成り行きを見守るつもりでひげを震わせた。
その動きにこめられた言葉は、きっと「頑張れ」などという甘ったるい励ましではないだろう。
せいぜい煽りがいいとこだ。ひとのいい笑顔を絶やさないあいつはそういう奴だ。
そもそもこの任務に付き合えと頼んだ時だって彼女は

「それでは、見習い最後の狩猟任務、この私がお伴してあげよう」

と得意気に瞳を輝かせてどや顔でのたまっていたものだ。

ついこの前戦士になったばかりのくせに。
というか彼女は少しだけ年下のくせに。

あからさますぎる煽りも、じゃれあいの一環というものだろう。
両者どちらが戦士だとか見習いだとか、上だとか下だとか、本当はどうでもいいことなのだ。
互いの気持ちを理解した上でからかいあえる仲というのは、本人たちでさえ知り得ない特別な絆があるといえる。
と、説明し尽くしてしまうのも無粋というものだ。

しかしここまで語った上で、ただフラッシュウェイヴが戦士になれたことが単純に嬉しかっただけという身も蓋もないオチも無きにしもあらずなのだが。


ところで、シンダーポーが未だ見習いのままでいる理由である。

正直、直接的な理由をシンダーポーはよく覚えていない。
何せ過去を振り返らない質だ。細かいことをいちいち気にしていたら矮小な脳がパンクしてしまう。
ともかく、なんやかんやあってシンダーポーは肩を怪我してしまい、見習い期間を長引かせてしまっていた。


さて、そんな見習いの狩りの行方だ。

実はシンダーポーは、狩りがあまり得意ではない。
この任務中に二回のチャンスを不意にしてしまった過去はいつものごとくなかったことになっている。
こんな不甲斐ない結果を最後にして本当に見習い期間を修了させられるのかという不安は言わないことが暗黙の了解だった。

落ち着いて一度深呼吸をし、ねずみの位置を確認する。
あと三歩、と心の中で呟いた。
ゆっくりと一歩、二歩と進んで、ねずみがこちらに気づいていないことを確かめたシンダーポーは、これはいける、と目を輝かせた。

嬉しさが連鎖してぴくりと動いた黒っぽいしっぽをみたフラッシュウェイヴは、あちゃあ、と顔を引きつらせた。


思わず勢いのついてしまった三歩目は存在感を放ちながら草地に降り立った。
ねずみは案の定驚いて逃げ出してしまう。


「あ、こら、待て!」


シンダーポーも負けじと駆け出した。
思い切り前に跳び込んで前足をぐいと伸ばすと、ふわりとした体がかするのを感じた。
慌てて爪を立てる。ねずみの腰をひっかくだけだった。
くそ、ともう一度踏み込む。
ねずみは先ほどの一撃で怯んでいたようで、今度は容易く上を取ることができた。


「タッチ!」


容赦なく爪を食い込ませ、首筋に噛みつく。
暖かなぬくもりが口の中に広がり、骨が砕けるのを感じた。

しとめた。

誇らしげにねずみをくわえあげると、先ほどまでその小さな体を駆け巡っていたであろう鮮血が口の端から流れ出る。


「いや、してやったりって顔してるけどぎりぎりだったよね、途中から狩りじゃなくて鬼ごっこだったよね」

「結果オーライ!あの状況から持ち直しただけでもすごいでしょ」

「まあね、あれ猫の狩りじゃないけど」


肩をすくめたフラッシュウェイヴにシンダーポーはでしょ、としっぽを絡めた。
一度絡まったしっぽはするりと解け、独特な軌道を描いた。


「あー、これでやっと三匹捕れた、ノルマ達成!もう帰ろ、さっき埋めたの持って」


ねずみをくわえたままもごもごといったシンダーポーの要望に、フラッシュウェイヴはしっぽをさっと振って答えた。


「一匹だけね」

「えー」










「おーおー、ようやっと帰ったか」


ねずみをくわえてキャンプに戻った二匹を出迎えたのは、シンダーポーの指導者、スモークペルトだった。
端正な顔つきだが、相変わらず笑い方を長らく忘れてしまったのか、むすっと凝り固まった表情だ。


「ただいまですスモークペルト!どうです、よくやったでしょ!」

「遅え上にたかが三匹程度で手こずってんじゃねえ」

「私にしては頑張った方です褒めろください」

「子猫にしてはよくやった調子のんな」

「子猫じゃない!」


スモークペルトはぎゃあぎゃあ騒ぐシンダーポーの口をしっぽで塞いだ。
同じような灰色の虎柄の猫がじゃれあう姿ははたから見れば兄弟のようにも見える。
フラッシュウェイヴはそんな師弟の諍いにこらえきれずに吹き出した。


「ほら、んな馬鹿なことやってねえでとっととそれ置いてこい」


はあい、と間延びした返事を口の端から漏らしたシンダーポーはフラッシュウェイヴのの持っていたハタネズミを一緒にくわえると空き地の向こうの貯蔵庫に向かって歩き出した。


シンダーポーが背を向けた時、スモークペルトの目の色が少しだけ変わったのにフラッシュウェイヴは気づいた。


「これで、あの子もようやく戦士ですか」

「ああ、あんなんでもようやく戦士だ」


いつも見せる顰め面とは少し違う慈愛と後悔の入り混じった翡翠色の瞳を、フラッシュウェイヴは上目遣いに覗き込んだ。


「まだご自分を責めていらっしゃるんですか」

「……全く。いつもボケ腐ってるくせに、こういう時だけ変に邪推しやがってお前は」

「図星ですか?」

「はっ倒すぞ」


スモークペルトはきまり悪そうにそっぽを向いた。
口を心なし尖らせてうつむくその姿は、どこか純粋な子供のようだった。


「大丈夫ですよ、あれは運が悪かっただけです」

「そんなんで片付けられたら苦労しねえっての。いいから子供は親と指導者の背中だけ見てろってんだ」

「子供舐めてもらっちゃ困ります」

「……ツッコむところ本当にそこでいいのか」


不機嫌そうな緑の視線を涼しく流したフラッシュウェイヴはしっぽで貯蔵庫を差した。
丁度シンダーポーがこちらに向かって歩き出していた。


「全く、見かけによらず優しすぎるんです、先輩は」











獲物を置いて戻るやいなや毛並みを整えてこいとキャンプの端に追いやられたシンダーポーは、興奮で毛づくろいがはかどらないでいた。


「あーまだかなー、命名式まだかなー」

「仮に今から始まったとしてそのぐっちゃぐちゃな毛で式に出るのはどうかと思うよ姉貴」


シンダーポーの終わらない毛づくろいを隣で観察しているのは弟のホークシェイドだ。
整えては乱れる薄灰色をトラ模様を眺めてはくすくす笑っている。


「えっ、ちゃんとやったはずなのに」

「ちゃんとって、冗談も程々にしてよ姉貴。それでも猫なの?」


ホークシェイドはむっとするシンダーポーの背中に回り込んで跳ねた毛をならし始めた

この光景を第三者が見ていたらどっちが上の子だとツッコミをいれていたことだろう。


「今度こそ大丈夫?」

「落ち着きなって。まだ時間あるんだから」


ホークシェイドになだめられながら待つ時間は永遠のように感じられた。

本来どのくらいこうしていたかは知る由もないが、空き地がすっかり騒がしくなっていたことが、その時が迫っていることを教えてくれた。


「だ、大丈夫だよね姉貴、もう大丈夫だよね」

「知らないよっていうか何であんたまで焦り始めてんの!
ひとのこと言えないじゃん!」


しばらくこうしていると、不意にキャンプ中が静まりかえった。
きっとグリーンスターがビッグロックの上に立ったのだろう。

ふと横を見ると、ホークシェイドの赤みがかった瞳と目があった。
普段あまり感情というものをさらけ出さないほうの弟が、今日だけは違った。
嬉しさと緊張がはちきれんばかりに入り乱れている目を見ると、笑いがこみ上げてきた。
何であんたまで緊張するかな。

ぽんとしっぽで頭を撫でると、ホークシェイドは俯いた。


「……姉貴」

「大丈夫だって」


「まだちょっと毛が跳ねてる」

「先に言えそれを!」





なんとか大衆の前で赤っ恥をかかずに済んだ。


ふう、と息をつくと、グリーンスターの声がようやく頭に届いてきた。


「……彼女には、随分待たせてしまった」


息を呑む。やはり、式典の空気は息苦しい。


「スモークペルト、シンダーポーを戦士にするのに、異論はないな?」

「……はい、あいつは、……よく頑張りましたよ」


その言葉にシンダーポーはびくっと耳を立てた。
今の、しっかり聞いておけばよかった。

初めてだ、スモークペルトにあんなこと言われたの。


「それでは、シンダーポー。前に」


一瞬前まで歩き出す準備はできていたのに、今ので全部パーになってしまった。
ぴくりと肩を震わすと、ぎこちなく歩き出す。

何とかグリーンスターの目の前に出た。
族長の優しげな瞳をこんなに近くで眺めるのは初めてで、つい緊張して目をそらしてしまった。
グリーンスターはふっと目を細めると大丈夫だよ、と耳元で囁いた。
どうやら緊張を悟られてしまったようだ。
しかし耳元で囁かれるなんて余計に緊張するだけなので正直やめて欲しかった。


「わたくし、サニー族の族長グリーンスターは、ヘヴン族の空のもと、この見習いに戦士の称号を与えることを認めます。
私はみなさまヘヴン族の権限をお借りして、この見習いに戦士名を与えます」


族長が滑らかに決まり文句を並べていくが、シンダーポーの頭には半分も入らなかった。
期待と興奮で頭がいっぱいになって容量が足りない。

きっちりと口を結んでいないと叫びだしてしまいそうだ。


「シンダーポー。貴殿は自分の身を捨ててでも一族を守りぬき、ヘヴン族の教えを尊重しながら生きることを誓うか?」


「誓います」


シンダーポーの発した一言は凛々しく響き、静まり返った空き地にこだました。



「では、貴殿をこれよりシンダーレインと命名する。
貴殿の勇敢さと意志の強さはヘヴン族にも伝わり、正式な戦士として讃えてくださるであろう」


シンダーレイン、……シンダーレイン。
シンダーレインは自分の新しい名前を何度も反芻した。

体が火照る。口元が緩むのを感じる。


これから自分は、シンダーレインという戦士なんだ。



グリーンスターが礼にならって首を伸ばしてシンダーレインの左耳をなめる。
シンダーレインも敬意を込めて族長の肩をなめ、左前足をぐっと前に突き出して深々と頭を下げた。


「シンダーレイン!シンダーレイン!」


真っ先に聞こえてきたのはホークシェイドとフラッシュウェイヴの声だった。
そこから少しずつ声が増えていき、キャンプは暖かな大合唱に包まれた。

シンダーレインは頭としっぽを高々と上げて振り返った。



サニー族が、一族が、自分を讃えて湧いていた。










そらさけラジオ(という名のあとがき)
シンダーレイン:はいやってまいりましたそらさけラジオー
       今日のお相手はシンダーポー改めシンダーレインと!
フラッシュウェイヴ:フラッシュウェイヴでお送りしまーす

フ:さてさて待ちに待った第一章がようやく日の目を見るということで、
シ:ってちょっと待ってちょっと待って、なにこれ?
フ:何って、ラジオよ、ラジオ
シ:いや全く状況つかめないんだけど
フ:このラジオは、この小説の裏話を作者に変わって私達がお伝えしていくコーナーです!
シ:あっはい。

フ:この第一章はちょっと会話文少なめだけど
シ:これは作者がちょうど「燃えよ剣」に謎の影響を受けてただけなんで、次回からもっとはっちゃけると思いますね、はい
フ:いつもはもっと私達も好き勝手やってるよねー
シ:というかサニー族基本騒がしいからねー

フ:それでは次回予告のコーナー!
シ:唐突!
フ:次回はサニー族の看護猫、スノウブリーズの日常です!
シ:リメイク前にもいたあの不思議な見習いも出てくる!
フ:そういえばスノウブリーズってリメイク前ずっと女の子だったんだよ
シ:ファッ!?

第二章 有明の幻

フ:次回もお楽しみに!
シ:と、とりあえず、こんな感じでゆるゆるお送りいたしまーす!

フ、シ:ここまでご覧いただきありがとうございました!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sun Apr 10, 2016 12:47 am

第二章 有明の幻










秋の終わりの看護猫は忙しい。

気持ちのいい風が駆けぬける涼しい気候、暖かな色に衣替えした木々、豊かな獲物。
非の打ち所がない秋のすぐ後ろに控えるモンスター、それが冬だ。
秋はいわばラスボスが待ち受けるステージの直前、至れり尽くせりのボーナスステージというところであろう。
ラスボス前は体力の全回復、アイテムの確認、セーブを行うのが定石。

つまり看護猫であるスノウブリーズは、薬草というアイテムの確認に追われていた。


「ミントとルリチシャはコットンファーが採りに行ってるからいいとして……
トクサがねえなあ」


ぼそりとつぶやくと、散らかした薬草を端によけてがらんとした看護部屋を出た。
こんな湿気だらけの部屋に閉じこもっていてはいずれカビが生えてしまう。

キャンプは丁度朝日が昇った頃らしく、見かけの割に冷え込んでいた。
黄金色の光が葉を落とし始めた木々に降りそそぎ、空気を必死にあたためようとしている。
あたりを見渡してみても、猫の姿どころか気配すらしない。
流石に夜明けとなると、騒がしいサニー族も寝静まっているようだ。


「おや、早起きだなスノウブリーズ」

「うおおうっびっくりさせんな!!」

「いきなり大声をあげるなはしたない!貴様が勝手に驚いただけだろう」


スノウブリーズの背後から黒い影がぬっと飛び出してきた。
少し小柄でしなやかな体は、例え口調が男前であろうともそれが雌であることを表している。
その気配を消すのに長けた雌猫は、シェイドウィングと呼ばれていた。
彼女は看護猫とはいえ雄猫に飛び上がられた事実にも動じず、無表情のまま佇んでいる。


「して、朝っぱらから一体何をしている」

「備蓄の確認だよ、薬草の。そういうお前こそ何やってんだ」

「私か?貴様をずっと見ていた」

「気持ちわりい嘘つくな目ぇ潰すぞ!」


スノウブリーズは荒々しくため息をつき、踵を返して看護部屋に戻った。シェイドウィングが後に続く。
この綺麗な雌猫の仮面を被った変人相手にまともな会話などできない。


「もういい。それよりトクサ採ってきてくれよ、アクアロックスの麓の湿地にあるからさ」

「ああ、構わない。トクサの場所は頭に入っている。
貴様はトクサをただの薬草のひとつとしか考えておらんだろうが、あれは私たち戦士にとっても非常に役に立つ代物なのだ、知っているか?」


シェイドウィングはびしっとしっぽをふり、看護部屋の端に転がっているトクサの切れ端を拾い上げた。

スノウブリーズは呆れたように眉間にしわを寄せてもう一度ため息をつく。


「ふふ、良いか小僧」

「誰が小僧だ」

「トクサの表面の細胞は硬化している。だからこの茎は、爪研ぎにも使えるのだ。
故に、砥草、なのだろう」

「ドヤ顔でどうでもいい雑学ありがとうさっさと採りにいきやがれ」

「それがひとにものを頼む態度か!」


シェイドウィングは咎めるようにトクサをスノウブリーズに向けた。

ちなみに彼女は若いながらにして一族屈指の情報屋だ。
サニー族の命運に関わることから上記のような価値のない雑学まで、彼女以上に知る者は一族にいないと言わしめる。


「お前なんかに頭下げるくらいなら首切り落としたほうがマシだ」

「いや、私とて頭を下げてほしいなどとそのようなおこがましいことは思っていない。
貴様が頭を下げるくらいなら、私が下げる」

「いや、それ本末転倒じゃね?どんな状況?」

「貴様は地にこすりつけた私の頭を踏みつけるなりするがいい」

「いよいよどんな状況!?何言ってんだこの変態!?」

「貴様はそういう奴だろう」

「どういう奴だと思われてんだ俺は!!そんな発想にいくのは頭ん中が地に堕ちてるお前だけだ!!」


何を考えているのか考えなしなのか掴みどころのない琥珀色の瞳でこちらを見つめるシェイドウィングをよそに、スノウブリーズはまたもやため息をついた。
これだからこいつと話すのは疲れるのだ。




気づけばキャンプが少しだけ騒がしくなっていた。そろそろサニー族も朝だ。

ふと何気なく入り口に目をやった瞬間、こげ茶色の大きな毛玉が転がり込んできた。


「うわああん俺の心を治療してスノウちゃあん!!」

「うわっ、頭の治療が必要な奴がきたぞ」


毛玉の正体はシェイドウィングの兄、ヒルハートだった。
同じ兄弟でもシェイドウィングとは変の方向が真反対に向いている。


「イヴニングフラワーを狩りに誘ったんだがなんか避けられちゃったんだよ……
あの子今日非番なはずなのに!」

「それは兄者が気に食わないだけだろう、気に病むな」

「直球だよ、直球で言っちゃったよこの妹!全力で気に病むよ!」

「お前が雌猫に振られんのはいつものことだろ、いい加減慣れろ」

「慣れたくないよそんな悲しい習慣!!」


ヒルハートは雌雄問わず気軽に話しかけられる気さくな猫だが、すぐ調子に乗る悪い癖があり、そのせいで主に雌猫に嫌われている。
気さくな猫ほどモテるというがこれはいい反例だ。

しかし毎日のように泣きついてくるのは本当にやめてほしい。


「しかしイヴニングフラワーは分別のある猫。
少なくとも兄者に非があるのは明白だ、己と向き合う良いチャンスではないか」

「何かした覚えもないし、そもそもあまり関わったこともないんだけど……」

「そりゃもう救いようがねえな。雌猫にとっちゃお前はそこら辺のイモムシ程度ってこった」

「地味にすごい傷つくんだけど、治療どころか全力で傷抉ってったんだけど」

「もういいしゃべんな、イモムシ」

「お願いイモムシって呼ぶのはやめて?イモムシ程度でもあだ名にするのはやめて?」


ヒルハートは哀れな目で妹を見た。
哀れとはいうが、彼のメンタルは何度でも蘇るため、基本たいしたものではない。
そのせいもあり、ヒルハートの曰く「やられ役」フィルターは日に日に厚くなっている気がする。


「確かに俺はシェイドやスモークみたいな美形にはなれなかったけどさあ……どうして兄弟でこんなにも違うのかねえ」

「ふむ、失敗作というところか。何せ初めての出産だ。手違いで猫のようなイモムシが誕生してしまったとしても何ら不思議はあるまい」

「どんな手違い!?不思議だらけだよ親御さんトラウマになるよ!
というかあだ名どころか俺イモムシになっちゃってるんだけど!?」


ヒルハートの兄弟、特にスモークペルトは一族の中でもモテる方だ。
正直あいつは扱いにくいただの堅物なのでなぜモテているのか、雌猫共の気が知れない。

所詮顔なのだ。世の中は顔と獲物で回っているのだ。



「看護部屋がやけに騒がしいと思ったら……やっぱりあなたもここにいたんですか、シェイドウィング」


突然若い雌猫の穏やかな声が聞こえ、三匹は一斉に振り向いた。

朝日に照りかえる新雪のような白の模様に青灰色のなめらかな毛。
まだ成長途中の小さな体。そして、珍しい紫色の瞳。

声の持ち主は、シェイドウィングの弟子、フェザーポーだった。


「おやフェザーポー、どうした?今日の訓練は午後からだったはずだが」

「ああ、いえ、そうなんですけど。普通に看護猫に用事があるだけです」

「俺か?」


怪訝そうな顔をするスノウブリーズを見て、フェザーポーは小さな肩をすくめて苦笑いをした。


「たいしたことではないんです、ちょっと茨に顔突っ込んじゃっただけで」

「どうしてそうなった」


可愛らしい見習いの顔は、確かに傷だらけで、くせっ毛でもないのに所々毛束が跳ね返っていた。


「私は大丈夫だと言ったんですけど、フォグポーが看護部屋行けってうるさくて」

「いや、念には念を入れよだ、フェザーポー。もしかしたらその傷が後々お前を殺してしまうやもしれん」

「茨どんだけ殺意高いんですか」

「この森は危険があふれている、殺意の塊といってもいいだろう」

「私が殺意を覚えそうですシェイドウィング」


あのシェイドウィング相手に淡々と返し続けるフェザーポーに、スノウブリーズは感心せざるを得なかった。

この若さであの手慣れよう、師弟関係のせいなのだろうか。
思考回路がワープダンジョンのシェイドウィングを相手取ることができるのは同期だけだと思っていたので、正直驚きだった。


それはさておき、看護部屋に本当の患者がやってきたのだ。
コットンファーはまだ当分戻らないだろう。手当をするのは当然スノウブリーズだ。

そう思うと、気が重くなってしまう。

幸い茨の傷など放っておいても治るので問題はないが、それこそ、いずれ死に関わるような治療を指導者なしで行わなければならなくなるだろう。
スノウブリーズは、未だに看護猫のプレッシャーに慣れることができずにいた。

結局、命の重さを、全て指導者に押しつけているだけなのだが。


「あれ、どうかしたのか、スノウブリーズ?」


ヒルハートが黙り込んでいるスノウブリーズを覗きこんだ。


「……いや、何でもねえよ。とにかく、用がねえならさっさと出てけ邪魔者共」

「へいへい。せっかくだ、シェイド、狩りにでもいこう」

「ああ、ついでに頼み事もすませるぞ。トクサは湿地にあるはずだ」


ヒルハートが妹を連れて出て行くのを見届けると、スノウブリーズはしっぽでフェザーポーに座れ、と苔のベッドを差した。

フェザーポーは言われるがままにそこに座り、白いしっぽを前足に巻きつけて俯いた。


「いつもより元気ねえじゃねえか、何かあったか?」


声をかけると、フェザーポーはびくりと顔を上げた。


「……別に、いつもどおりですよ。
そもそもいつもと比較できるほどあなたと関わったこともないじゃないですか」

「つまんねえこと聞くなよ、俺は看護猫だ」

「胸はって言えるほど自信もないくせに」


今度はこちらが驚く番だった。そんなことを見通せるほどこの見習いと関わったこともない、とはあちらが放った言葉だろう。
くすりと艶めかしく笑うフェザーポーが、少しだけ不気味に見えたのは、きっと見慣れない色の瞳のせいだ。
まだ幼さを残す顔にできた傷にマリーゴールドの汁の刷り込ませる前足が、少し震えた。


「何でそんなことが言えんだよ」


フェザーポーはその質問には答えなかった。
相変わらず見習いとは思えない妖艶な笑みを崩さない。


「大丈夫です、あなたは指導者がいなくても、もう立派な看護猫ですよ」

「……余計なお世話だ」


思わず治療に力が入った。マリーゴールドの葉を思い切り噛みちぎる。



この見習いは知らないはずだ、何も。
この看護猫の皮を被ったろくでなしのことなんて、知らないはずなんだ。



フェザーポーは、動揺に満ちたスノウブリーズの深海色の瞳をじっと覗きこんだ。


看護部屋に、嫌な空気が満ちるのを感じた。
まるでこの部屋だけ、キャンプから、否、この世界から切り離されてしまったかのような、違和感。


紫の視線がただただ刺さる。まるで焼かれているかのような、ちりちりとした感覚を背筋に感じた。


目の前の雌猫は、まるで拘束するように瞳を逸らさなかった。


「きっとあなたも知るはずです、いつか」


その声を合図に、スノウブリーズはようやく視線の束縛から解き放たれた。

瞬きとともに、フェザーポーは戻ってきたようだった。


「治療、ありがとうございます」

「あ、ああ。念のため、痛くなったらまた来いよ」


フェザーポーはにこりと笑った。こどもらしい、屈託のない笑み。


「大丈夫ですよ、これくらいなんともありません」

「茨は舐めたら死ぬぞ?」

「死ぬのは舌でしょう」


フェザーポーはお後がよろしいようで、と呟くとぺこりと頭を下げ、看護部屋を出て行った。


スノウブリーズはその背中を見送ると、今日何度目か、数えることもやめたため息が漏れた。











そらさけラジオ

スノウブリーズ:えーと、今回も、始まりました、そらさけラジオ
       お相手は、めちゃくそ緊張してます、スノウブリーズと
シェイドウィング:いつもは饒舌な馴染みが棒読みなのが面白い、シェイドウィングでお送りするぞ
スノウブリーズ:うるせえ!

ス:さて第二章、やってきたわけだけど
シ:そういえば二匹とも、リメイク前の面影がなくなっているな
ス:ああ、お前、元のキャラはもっとツッコミ毒舌メインな物知りお姉さんだったはずなんだがな
 どうしてここまで事故った
シ:私は元からこの性格だ
ス:いやまあそうなんだけど
シ:そういえば貴様も元は女性だったらしいな
ス:なぜに!?性格が変わるのはよくあるが、なんで性別まで変わってんだよ
シ:好感度と意欲を上げるためだそうだ
ス:……どういうことだ
シ:何も、我等が作者殿が貴様の存在意義を4年間見つけられなかったとか何とかで、一時期は存在を消されたことも
ス:もういい何も言わないで死にたくなる

シ:それではここらで次回予告のコーナーと洒落込もうではないか
ス:俺に存在意義はない…俺に存在意義はない…
シ:元気を出せ、それは昔の話だ
 次回は再び新米戦士達の話に戻る、少しずつ日常に不穏な影が見え隠れし始めるそうだ
ス:今回出てきたフェザーポーも何やら不気味だったしな
シ:まあ、それはおいおい分かってくるだろう
ス:そうやってフラグを立てるだけ立てて失踪しないようにしないとな
シ:耳が痛いな、では次回
 
  第三章 忍ぶ影

  見逃さないでもらいたい
ス:見逃すも何もこれ見てくれてる奴いんのかな
シ:貴様はまた後ろ向きだな。それだから存在意義を生みの親に疑われ挙句ネタにされるのだ
ス:あっもうだめだ死のう
シ:生きろ!

ス:…ここまでご覧いただき、ありがとうございました
シ:感謝するぞ。次回もぜひ目を通してやってくれ


最終編集者 フラワリングハート@ふらわり [ Fri Mar 30, 2018 10:44 pm ], 編集回数 6 回
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by レパードクロー on Mon Apr 11, 2016 8:46 am

ふらわりさんしかできないような文章!とてもおもしろいです!
スノウ君とシェイドさんの会話で何度もふきだしてしまいました。

一章一章のタイトルも素敵です。
そしてなにより絵が上手ですね!シェイドさん美人です!
少しその才能をわけてほしいです

頑張ってください!更新を楽しみに待っています!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Fri Apr 22, 2016 12:12 am

>ひょうつめさん
コメントありがとうございます!
特に意味のない会話のシーンは結構ノリだけで書いているので、面白いと思ってくだされば感無量です!w
タイトルはこれまた文章を書き終わってからノリで決めてます…w素敵ですか…!?
絵は日々精進中です…ありがとうございます!
才能ならもう持っているではありませんか…(菩薩の微笑み)

一言一言が日々の糧になります!精一杯頑張らせて頂きます!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Fri Apr 22, 2016 12:39 am

第三章 忍ぶ影









今ならいける。

シンダーレインはそう思った。


嗅ぎ慣れた匂いが鼻を劈く。
あのすばしっこい足音がまるでアナグマのように耳の奥に響き渡るのを感じる。
匂いと音が脳内でネズミを形作っていく。目を瞑っていても、ネズミがどんな動きをするのかわかってしまう。

これ以上なく、シンダーレインの五感は冴え渡っていた。

それはまるで羽音を響かせず闇に紛れて近づくフクロウのように。
或いは満月のような瞳をらんらんと輝かせた飢えた狼のように。

絶対に気づかれない。ネズミにはこちらの姿など見えていないのだから。
絶対に邪魔されない。この森にはシンダーレインとネズミ以外存在していないのだから。
絶対に逃げられない。なぜなら……

スナイパーは狙ったら絶対に逃さないのだから!


薄灰色のライフルを思い切り振りかぶる直前、月明かりに鉤爪が舌なめずりをするように煌めいた。

ネズミはその殺意あふれる鉤爪に、とうとう気づいたのだろう。
しかし、もはや気づかないほうがよかった、そう思わせるほどに。
いや、そう思う暇もないほどに。

その拳で……




「いっだあああああ!!?」




殴られたのはシンダーレインだった。





「私の後ろに立つなあ!!」

「いつまでスナイパー引きずってんだ!
てか今何時だと思ってんだ!ハリネズミか!」

「余計なお世話よ暴力ニワトリ!何も殴るこたぁないでしょ!?」

「お前が何やっても起きねえからだろーがいっそそのまま永眠しちまえ年中夏休み!」

「もう夏休み卒業してますー社会復帰してますー!」

「うるせえだったら目覚ましぐらいかけとけ!」

「うるさいだから……」

「うっせえのはてめえら両方だろうが!!」



永遠かと思われた口喧嘩に終止符を物理的に打ったのは、アビスフラワーだった。

シェルクローズに拳で目覚めさせられたシンダーレインは、その妹の拳で睡眠第二ラウンドに強制突入させられたというわけだ。


サニー族は、今日も平和である。






シンダーレインが次に目を覚ました時は、拳は飛んでこなかった。
ぼんやりとした視界をアビスフラワーの心配そうな顔が覆っている。


「ごめんなさい、ついかっとなってしまって……頭に血が昇らないように気をつけてはいるんだけど」

「い、いいよいいよ、そういうこともあるよ」


申し訳なさそうに右前足を隠したアビスフラワーにシンダーレインは愛想笑いを返した。
あんなバイオレンスすぎるツッコミは怒ったアビスフラワーにしかできない芸当だ。
怒っていないアビスフラワーも全世界の雌猫もそこまで凶悪ではないので安心してほしい。


「……ああ……ひどい目にあった」

「ていうかなんで妹にノックアウトさせられてんの、これでも兄?」


シンダーレインのすぐ横で頭を抑えながら起き上がったシェルクローズに、アビスフラワーには聞こえないように耳打ちする。
シェルクローズは未だ焦点のあっていなさそうな瞳のまま睨みつけて答えた。


「うるせえな、あいつが怒り狂えば一族なんて消し炭だってことぐらいてめえも知ってるだろうが」

「暴れ狂う妹を止めるのも兄の役目でしょ」

「上は下に敵わねえのも定石だ。てめえも上ならわかるだろ」

「情けない、こんなんだからいつまでたっても尻に敷かれる運命なのよ」

「姉貴だって僕には勝てないくせに」


内緒話に突如乗っかってきたのはホークシェイドだった。
シンダーレイン達を挟んでアビスフラワーの真向かいで伏せている。
ちなみにアビスフラワーは先輩のリーフクラウドと立ち話に花を咲かせていた。


「そら見ろ、てめえだって頭上がらねえじゃねえか」

「そもそも敷かれる側の性別違うじゃない、男が女をいいように扱うのは生物学的に当然のことよ」

「何かその言い方だと僕がとんでもない奴に聞こえてくるからやめて」

「そりゃどっちにも言えることだろアホ、今は女が男を品定めする時代なんだよ」

「シェルくんそれ自分で言ってて悲しくならないの?ていうかさっきから何の話?」


死んだ魚のような目でシンダーレインとシェルクローズの話を聞いていたホークシェイドだったが、不意に目線を上げてあっ、と小さくつぶやくと、そそくさと匍匐前進で戦士部屋の茂みに消えていった。
何事かとシンダーレインたちが顔を上げると、立ち話が終わったらしいアビスフラワーがこちらを振り向く瞬間だった。


「あら、兄さんも起きたんですね」一瞬満足そうに琥珀色の瞳を輝かせたが、すぐにきりっとした表情に変わる。

「今回はごめんなさい。でも、殴ってしまった私が悪いとはいえ、喧嘩もほどほどにしなさいね?次飛んでくるのは、私の拳ではないかもしれないんですよ」


アビスフラワーのもの以上に凶悪な拳なんてこの世にはない、とは言えなかった。
思わずシェルクローズと目が合う。同じ考えに行き着いているようだ。


「さあ、まだお昼です。午前中の狩猟任務の代わりの任務を副長が考えて下さっているようですので、会いにいってみては?」

「ああ、そうするよ」


シェルクローズを先頭に、シンダーレインは副長がいるであろう空き地の奥へ向かった。

「ちょい待て、何で後ろにいんだ」

「いや、べ、別にいいじゃない。男女が横並びなんて気持ち悪いだけでしょ」

「ほとんどの小中学校敵に回してんじゃねえ別になんともねえだろうが」

「いいっていいって、お先にどうぞ」

「……てめえ、副長が怖いって正直にいえよ」



サニー族副長、ライトストリームはシンダーレインの母でもある。
しかし、シンダーレインは実の母が大の苦手だ。
母といってもこれといって思い出がないのも要因のひとつだが、ライトストリームはこんな娘がいるのに時間や規律に厳しい一面を持つ。
鬼の副長……とまではいかないが、おてんばな割に心が弱いシンダーレインはライトストリームに対してなかなかのトラウマを持っていた。


「あ、副長」


シェルクローズが呟くと同時にシンダーレインは飛び上がった。
副長ライトストリームはビッグロックのそばで丸くなっていたが、こちらに気づいた素振りを見せると頭を起こして座り直す。


「ああ、待ちくたびれたわ」

「すみません副長」


ライトストリームは言葉の割に表情を変えずにしっぽを前足に巻きつけた。
シェルクローズの後ろで震えている娘には目もくれない。


「シェルクローズ、あなたは夕刻の狩猟部隊に加わりなさい。ピニーハートには伝えておいたけれど、あなたからも忘れずにね」

「わかりました」


もう行っていいという合図をもらったシェルクローズは一度シンダーレインをちらりと見ると、戦士部屋に向かって歩き出した。


「それで、あなただけど」琥珀色の瞳に射抜かれたシンダーレインはいっそう体に力を込めた。

「もうすぐパトロールの交代の時間だし、ビーチペルトが率いる昼のに参加するといいわ」


ライトストリームがあまりにさらりとその名前をいうので聞き逃しそうになったが、ビーチペルトはシンダーレインの父だ。
いや、見習いまでならともかくとして、戦士ともなるとこの親族だらけの生活にいちいち反応しているときりがないのはわかっているが、仮にも連れ合いのはずなのに、ここまで冷たくその名前を呼べるものなのだろうか。
あいにくシンダーレインに春は来ていないのでそのあたりの事情は詳しくない上、母である彼女にこういう態度を取られることにも慣れっこなので、あまり深く考えることはしなかったが。

ライトストリームは相変わらず淡々とそれだけを告げるとしっぽをふって立ち上がる。
シンダーレインもこくりと頷くと、とげとげした空気に耐えられず逃げるようにその場を離れた。




ビーチペルトはキャンプの入り口にいた。
その近くにマリンウィンドと弟子のトゥモローポー、そして同期の仲であるレッドスカイが座っている。


「おお、来たかシンダーレイン」ビーチペルトはにっこりとひとの良い笑顔を向けた。

「ライトストリームから聞いたよ、急遽ここに入るって。何かしたか?」

「あはは、まあいろいろとー」

「お前は戦士になっても変わらないなあ」


父の大きくて暖かい前足で頭をわしゃわしゃと撫でられる。その懐かしい感覚に悪い気はしなかった。


「久しぶりだなあ、お前とパトロールなんて」

「そういえば。最後に一緒に任務やったのいつだったっけ」

「……うーん……まあいいか、いつでも」

「うん、もういつでもいいよ」

「あんたら揃って思い出すの下手すぎ」


黙って会話を聞いていたマリンウィンドが呆れ返って呟いた。
シンダーレインの過去は振り返らない質は父から来ているのだろうか。


「まあ、親子水入らずもいいけど。そろそろ帰ってくると思うわよ、パトロール隊」


そのマリンウィンドの一声を合図にしたかのように、ちょうど外から猫の匂いが漂ってくる。


「ほら、噂をすれば」

「なんの噂?」


顔を出したのはシャインペルトだ。かなり気性の荒い雌猫で、シェルクローズ達の母に当たる。
確かにあの兄弟なんだかんだいって揃って短気だったり気分屋だったりするし、蛙の子は蛙、とはよくいったものだ。


「いえ、そろそろあなた達が戻ってくる頃だろうと話してたんです」

「そう。ともかく、北の方に異常はなかったわってことで、後よろしく」


シャインペルトは気だるそうにそれだけいうとひとり獲物をとりに奥へ歩いて行った。
それを合図にその部隊の猫たちはゆるゆると解散していく。


「頑張れよ、お前ら」


最後に残ったダストスポッツがこちらに向かってウィンクをした。


「おう。んじゃ、行くか」







「聞いたよ、アビスちゃんに一発かまされたんだって?」


パトロールの道中、レッドスカイがにやにやしながら話しかけてきた。
ちなみに彼、アビスフラワーを怒らせる天才である。なぜ今もなお生きていられているのか疑問だ。


「一体何しでかしたのさ」

「別にー、あの馬鹿が私の快眠を力ずくで邪魔してきたから言い合いになってた」

「懲りないね、君もあいつも」

「だって先に手出してきたのあっちだもん」

「はいはい、喧嘩両成敗、ってね」

「というかあんたにだけは懲りないとか言われたくないんだけど」

「僕は君たちと違って自覚あるから」

「それただの確信犯!」


レッドスカイはやれやれと天を仰いだ。いややれやれ言いたいのこっち!


「わかってないなあ、アビスちゃんはブチギレてる時が一番輝いてるじゃない」

「そのブチギレてる時が一番危険じゃない!」

「怖いもの見たさだよ。手懐けられて子猫みたいになったトラを見ても面白くないだろう?」

「その例え雌猫にするものじゃないよね」

「可愛らしいトラも見ものだけど、その可愛らしさがある時突然剥がれて野生むき出しになった瞬間が一番魅力的だよ、やっぱり」

「あんたアビスさんをどんな目で見てるの」


くだらない会話をしていると南東の外れの岩山、ロックフォートの近くまで来ていた。

サニー族の縄張り、といっても周りにサニー族のような猫の群れはいないのでその境界は曖昧になってきているが、その中には三つの岩山が存在する。
その岩山の上に登ると、真南に大きく見えるグレートストーンズから日の出を拝むことができる。
それがサニー族の由来と言われているが、まあどうでもいい余談だ。


「あたし、ここに来るのはじめて」

「こんなところ、あまり来ないものね」


マリンウィンドは弟子のトゥモローポーをしっぽで引き寄せた。


「ここは危険なの。私のそばを離れちゃだめよ」

「子猫じゃないんですから、自分の身くらい自分で守れます!」


口を尖らせてマリンウィンドから身を引いたトゥモローポーを、ビーチペルトがやんわりたしなめる。


「ここは事故が多いんだ。一人前の戦士でも、下手をすると命にかかわる」


サニー族のパトロール隊はたまにその岩山の上から縄張りに異常がないか確認するが、この岩の砦といわれるロックフォートだけは違う。
砦とはいうが、ロックフォートは縄張りの中で最も危険な場所だ。

斜面が急でごつごつとした岩が敵意むき出しで張り巡らされており、パトロールのために命を懸けないかぎり登ることはできない。
砦が味方を寄せつけないとはなんとも皮肉な話である。


ロックフォートの手前で、ビーチペルトが不意に立ち止まった。


「どうしたんですか?」


トゥモローポーの一言にビーチペルトは静かに答えた。


「鼻を使え。……浮浪猫だ」


慌てて目一杯息を吸い込んでみると、なるほど確かに嗅ぎ慣れない猫の匂いを微かに感じ取ることができた。


「こんなところで浮浪猫なんて、珍しい」


マリンウィンドが呟くのが聞こえた。

前述のとおりこの森に住む部族はサニー族のみだが、猫自体は近くにわんさといる。
故に縄張り内で浮浪猫の匂いを感知すること自体はあまり珍しくはない。
浮浪猫が仮にいたとしてこちとら大勢力なのだ。ちょっかいをかけられることもそうそうない。

しかし確かに、こんな危険な場所に浮浪猫がいるケースは稀だった。

さらにもうひとつ、


「この匂い……何匹かいるな」


通常群れを好まない浮浪猫にしては珍しく、二、三匹で行動していたことが匂いの混ざり方からわかる。


「まあ……たいしたことではないとは思うが、一応報告しておこう」

「そうね、面倒なことにならないと良いけど」


ビーチペルトとマリンウィンドは再び足を進めた。
が、レッドスカイは先輩戦士に着いていこうとはせず、ロックフォートをしばらくじっと見つめていた。浅葱色の淡い瞳にごつごつしたシルエットが映る。


「なに、心配なの?」

「まさか。いくら群れといっても、二、三匹じゃあ話にならないよ」その瞳にふと浮かんだ表情は読み取れない。


「この程度の岩山なら、あたしにだって!」


突然、トゥモローポーがロックフォートに向かって駆け出した。
驚いて肩を揺らしたレッドスカイの横から、シンダーレインが声を上げる。


「ちょっ、どこに行くの!?」

「トゥモローポー!待ちなさい!」


マリンウィンドがさっと振り返り、珍しく声を荒げて弟子を叱ったが、トゥモローポーは止まらない。

レッドスカイの目に焦燥の色がさっと浮かんだ。

マリンウィンドとビーチペルトも焦ったように顔を見合わせると、トゥモローポーを追って駆け出した。


「戻ってきなさい!トゥモローポー!」


マリンウィンドがもう一度鋭く叫ぶと、トゥモローポーは走って戻ってきた。
大きく見開かれた興奮気味の青い瞳を見るに、指導者の命令に従ったというわけではなさそうだ。


「全く、危ないじゃない!」

「……浮浪猫、」


トゥモローポーは指導者の説教も聞かず、息を切らしながら口を開いた。


「この先、浮浪猫がいっぱいいます!」

「なんですって?」

「ここをちょっと進んだところで、とてもたくさんの浮浪猫のにおいがして……」


マリンウィンドはビーチペルトと困惑したように目を合わせた。


「不思議だな。こんなところで、しかも浮浪猫が集団で行動するなんて」

「よくわからないけど、とにかくこちらに危害をくわえてくれないことを祈りましょう」


マリンウィンドはさっとしっぽをふって合図を出した。


「さあ、キャンプに戻って報告しましょう。トゥモローポーは私が報告し終わるまでキャンプの入り口で座っていなさい、たっぷり説教してあげるんだから」

「勝手に行動したのはごめんなさい。……でも、浮浪猫の集団はあたしのお手柄よ」


むすっとして指導者の後を追ったトゥモローポーの後ろで、レッドスカイが顔をしかめてロックフォートを一瞥し、ぼそっと呟いた。


「……これは、厄介なことが起こる予感」













そらさけラジオ

シンダーレイン:はいみなさんこんにちは、こんばんは、おはようございますー
       今回のお相手はー早くもめんどくさくなってきたシンダーレインとー
ホークシェイド:そんなダメな姉貴を支える弟、ホークシェイドでお送りするよー
シンダーレイン:ダメっつったか、今ダメな姉貴っつったか

シ:まあ第三章、ここらへんからリメイク前と変わってきてる気がするね
ホ:物語がじょじょーに動き出すね
シ:そういえば、作中でも触れられてたけど、お母さんとの思い出ってなんかある?
ホ:……まあ、それなりにあるんじゃない?
シ:あるの?私全く覚えてないんだけど
ホ:あー良いよ姉貴は、どうせ昨日の晩ごはんも思い出せないかわいそうなひとだから
シ:やめて!ひとをボケが加速してきてる長老猫みたいに扱うのやめて!
ホ:お、じゃあ昨日の晩ごはん何食べたかいえるんだね?たのしみだなー
シ:明らかに期待してない!
ホ:……きのうの晩ごはん、何だった?
シ:…………

シ:次回予告のコーナー!
ホ:わーい潔いごまかしっぷり
シ:次回はバトンタッチして看護猫たちの話!我等が看護猫スノウブリーズに異変が!?
  そしてあのいかにも怪しいあいつが出てくる!
ホ:ということで次回

  第四章 暗闇の天啓

  楽しみにしていてもらえるとうれしいな
シ:頑張るから!執筆スピードがまた亀並みになっても止まりゃしないから!お姉さんとの約束!
ホ:世の中、一生の約束の「一生」を何だと思ってるんだろうね
  命かけてるんだよ?一生に一度のお願いだよ?命いくつあると思ってんの
シ:その話今しなきゃだめかなあ!?

ホ:まあそんな感じで、ここまでご覧いただきありがとうございましたー
シ:次回もよろしくお願いします!ありがとうございました!




シャインペルト【輝く毛皮】
琥珀色の目の黄金色の美しい雌猫
気性が荒く気まぐれ。シェルクローズ達の母親

ビーチペルト【浜辺の毛皮】
緑の目の濃いショウガ色の雄猫
気さくな年長戦士 シンダーレイン達の父親でライトストリームの連れ合い

マリンウィンド【海風】
青い目の雌の三毛猫
頭が切れる。さっぱりした性格。

トゥモローポー【明日の足】
青い目の白い雌猫
せっかちで勇敢なおてんば娘。マリンウィンドの弟子


最終編集者 フラワリングハート@ふらわり [ Mon Apr 09, 2018 3:18 am ], 編集回数 5 回
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sat Jun 18, 2016 12:16 am









第四章 暗闇の天啓







看護部屋の入り口から差し込んでいた光が急に遮られた。
スノウブリーズが顔を上げると、指導者であるコットンファーが薬草をくわえて部屋に入ってくるところだった。


「ああ、おかえりなさいコットンファー」

「ただいま、大丈夫?怪我はない?」

「いやそれこっちの台詞」


コットンファーは薬草を部屋の端に置くとぐっと伸びをした。


「やっぱりこの時期になるとさすがに寒くなってきたわね、風邪とかひいてない?」

「いやそれも多分こっちの台詞」

「気をつけなさいね、医者の不養生とか笑えないんだから……っくしゅん」

「あなたはどれだけブーメランさせれば気が済むんですか」


コットンファーは見ての通り、筋金入りの心配性だ。
しかし心配が巡り巡って自分に行き届かなくなっているらしく、こちらが逆に心配になってくる。


「あれ、トクサもなかったのね」コットンファーが呟いた。

「ああ、それならシェイドウィングに採りに行かせましたんで、大丈夫です」

「あの子、トクサの場所わかるの?」

「あいつどうでもいいことはたくさん知ってるんで大丈夫でしょ」

「いやまあ確かにあの子にとってはどうでもいいことかもしれないけど」

「大丈夫ですよ!あいつ自身大丈夫だっていってたし!」

「さっきからあなた大丈夫しかいってないわよ、大丈夫?」

「誰のせいだと思ってんだ!」


ぴしゃりとスノウブリーズはしっぽを床に叩きつけた。
どうしてこう周りには話していて疲れる奴しかいないんだ!


「ふはは、待たせたな!頼まれていたトクサだ!受け取るが良い!」

「ほらまた人一倍疲れる奴来ちゃうし」


シェイドウィングが無表情で高らかに現れた。
どうしてこのテンションのまま無表情でいられるのだろう。
入り口の光が逆光となり、彼女の仁王立ちと高笑いが様になっていて殴りたくなる。


「あら、わざわざありがとうね、シェイドウィング」

「何、一族とは助け合い高め合うもの。礼になど及ばん。このベリーを少しいただこう」

「言ってること矛盾してんぞ」


シェイドウィングはギシギシの葉の上に並んでいるベリーを一粒口に放り込むと、甘酸っぱさに顔を少しとろけさせる。


「やはりひと仕事の後のベリーは格別だな」

「お前最初からそれ目的だっただろ」

「何を言う。私は友である貴様に親切心として手助けをしたまでだ。
そしてベリーは貴様の親切心だ」

「てめえが勝手に食っただけだろうが!おこがましいわ!」

「やっぱりベリーは美味しいわね」

「なんであんたまで食ってんですかコットンファー!」





「やっぱりやかましいわね、この部屋は」


そう言って入ってきたのはスカイファーだった。


「看護部屋は団欒する場所じゃないわよ」

「私は薬草を採ってきただけだ」

「はいはい、こいつにちょっかいかけるのもほどほどにね」

「だから私は薬草を採ってきただけだ」


スカイファーはシェイドウィングの首根っこを掴むと同時に、ベリーを流れるように口に放り込んだ。


「なんで当たり前のように食ってんだ!ベリーなくなるから!」

「まだあなたのベリーがあるじゃない」

「俺のベリーってなんだ!」

「安心しろ、貴様のベリーがなくとも、貴様のペリーがある」

「いよいよ何だよ俺のペリーって!!」


看護部屋がこの惨状では黒船どころか患者一匹来やしない。
スノウブリーズはうるさい雌猫二匹を部屋の外に押しやった。


「てめえら騒ぐなら他所で騒げ、こちとら迷惑してんだ」

「あら、私達がいなくても十分うるさいわよ、あなたがいる限り」

「ああん?それどういう意味だ」

「というかそもそも私はこの歩く不思議のダンジョンを回収しに来ただけよ」

「誰が不思議のダンジョンだ、財宝ならやらんぞ」

「そうかよ、なんでも良いけど仕事の邪魔だ」


スカイファーは歩く不思議のダンジョンの首を離して立ち上がった。
若草色の瞳をおかしそうに輝かせている。


「板についてきたじゃない、看護猫さん」

「……当たり前だろ、いつから看護猫やってきてると思ってんだ」

「少なくとも、あなたは本来看護猫になるはずじゃなかったじゃない」


スノウブリーズは黙りこんだ。夏空のような鮮やかな瞳が初冬の重たい曇り空を背負って揺れる。
その横で引きずられた姿勢のままだったシェイドウィングが乱れた毛を整えて立ち上がった。


「……昔の話だろ。今の俺は、看護猫のスノウブリーズだ」

「その言葉を聞いて安心したわ」


スカイファーが柔らかい微笑をたたえて頷いた。


「看護猫が過去引きずってたら世話ないものね」



スノウブリーズが看護猫としての仕事にプレッシャーを感じている理由は、まさにそこにあった。

きっとあの日に、全て変わってしまったのだ。
月のない夜、星が夜空を闊歩していた、あの日。

何よりも羨み、何よりも愛した一対の夏空は、その星に喰われて死んだ。



その時の絶望が、今もなおスノウブリーズの胸の中で、黒い霧となって渦巻いているのだ。




ふと眼前を黒が横切り、スノウブリーズははっと顔を上げた。

目の前を通り過ぎたのは黒猫だった。


「あらクロウスカー、狩りの帰り?」


スカイファーが話しかけるが、クロウスカーはこちらにちらりと目を向けただけで立ち去ろうとした。

相変わらず、彼は誰とも関わる気はないようだった。


「待て、集会だ」


シェイドウィングがクロウスカーを呼び止め、あごでビッグロックを指した。
ちょうどグリーンスターがビッグロックに登って招集をかけるところだった。


「せっかくだ、貴殿もここで集会に加わろうではないか」

「このタイミングだとパトロール隊が帰ってきた頃ね、何かあったのかしら」


無理やり近くに座らされたクロウスカーに、スカイファーは何か知らない?と問いかける。
クロウスカーはしばらく黙り込んでいたが、やがてゆっくり口を開いた。


「……午後のパトロール隊が、浮浪猫のにおいを感知したとか、噂になってたよ」

「浮浪猫?どこで?」

「さすがに、そこまではわからないけど」


クロウスカーとスカイファーが話している横で、スノウブリーズはずっとクロウスカーを睨みつけていた。
思い込みの激しいスノウブリーズは、どうしても湧き上がる先入観を抑えることができなかったのだ。
シェイドウィングがそんなスノウブリーズに気づいて首を傾げる。


「どうした?彼の顔に何かついているのか?」

「……いや、そういうんじゃねえよ。それより始まんぞ、集会」


シェイドウィングはスノウブリーズの真意に気づいたのかどうなのか、それ以上何もいわずにビッグロックに向き直った。

看護部屋はビッグロックの向かって左側にあるので、広場に向かって語りかけるグリーンスターを横から眺められる。
だからわざわざ広場まで足を運ばなくとも集会に参加できるのだ。


「先程ビーチペルト率いるパトロール隊が、ロックフォート付近で何匹かの浮浪猫の匂いを感知したらしい。
そこまで危険はないとは思うが、油断は禁物だ。各自外出時はいつも以上に警戒を怠らないようお願いしたい」


ここまで聞いた時、クロウスカーがこちらを振り向いた。
鋭い黄色の光がスノウブリーズを射抜き、反射的に体に力が入る。


「……俺を疑ってる?」


クロウスカーは静かにそういった。


「自分の胸に聞いてみろ」

「確かに俺の親父は裏切り者だ。でも……」


クロウスカーは立ち上がり、スノウブリーズと相対した。


夕暮れの影と交じり合う漆黒の毛皮。
満月のように浮かび上がる明るい黄色の瞳。

彼は、見れば見るほど、あの日の裏切り者の姿そのものだった。



「あまり単純に物事を捉えすぎない方が良いよ」




その言葉を聞いた瞬間、ふと眼前が陽炎のように揺らいだ。
スノウブリーズはたまらずよろけた。


クロウスカーの顔が一瞬、大人びた別のものに変わったように見えた。



これは……なんだ。



陽炎はやがて見えていた景色を全て焼きつくし、ゆっくりと空を映しだした。

銀色の森。紅い地平線。切り離された月と太陽。空を裂く稲光。




そう、空が、裂けていた。







―――-紅の星が目覚め、過去の風がもう一度流れる。



    太陽と月が争い、空は闇に覆われる。



    夕暮れを見つめろ。夜明けを見据えろ。

    そして闇夜を生きろ。




      闘え、戦士たちよ。









声がした。儚い雌猫の、天啓の声が。
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sat Jun 18, 2016 12:20 am

第五章 襲撃と記憶







シンダーレインがパトロールから戻ってきて、最初に探したのは親友の姿だった。
前を歩いていたビーチペルトとマリンウィンドが真っ先に族長の部屋に向かう。
レッドスカイはそんな先輩たちの後ろ姿を目で追っていた。

フラッシュウェイヴは姉のアビスフラワーと戦士部屋の手前で夕食をとっていた。


「おーい、二匹とも―!」

「お、おかえり」

「おかえりなさい二匹とも。何か収穫はありましたか?」


パトロールに収穫があるのは逆に困りますけど、とアビスフラワーは苦笑いで付け足した。
その言葉にレッドスカイが肩をすくめる。


「いやーさすが、しっかりフリを残してくれるね、君は」

「別にそんなつもりで言ったわけではないのですが」

「無自覚かあ。更に質が悪いなー」

「いいからさっさと話してください何があったんですか」

「いっ……てえ、……僕の無駄口を閉ざすスイッチは鳩尾にはないんだけど……」

「無駄口とわかっているなら永遠に閉ざしていなさい」


アビスフラワーは苦しみ悶えるレッドスカイに目もくれず、シンダーレインに話の続きを促した。
今やすっかりなれてしまった光景だがあのクマのような一撃を毎日のように食らっていると思うと少し腹のあたりが涼しくなる。


「実はさ、ロックフォートのあたりで浮浪猫の匂いを感知したんだよ」

「ロックフォートで?何でまたそんな危険なところで」


フラッシュウェイヴが首をかしげた。


「それもそうだし、なんかやたらとたくさんいるみたいで」

「浮浪猫が集団で行動してる、ということですか?」

「ほんと、不思議なこともあるもんだよね」


フラッシュウェイヴが未だに難しそうな顔をしていたが、これ以上何もいわなかった。
自分も何か食べるか、と立ち上がった時、族長がビッグロックに登ったのが見えた。


「あー、もう集会するのか……じゃあ夕食はおあずけだなあ」

「まあ獲物は逃げないって」

「獲物が逃げる前に私が死にそうだわ」

「そっかー。骨は埋めてあげるよ」

「……お願いその前に助けて」


シンダーレイン達は空き地にぞろぞろと集まる戦士たちの最後尾に座った。
ことのあらましは大体伝えてしまったので、もう集会で聞くこともあまりないと思ったからだ。


「……それにしても、ロックフォートに浮浪猫、かあ」


グリーンスターが話し始めたあたりで、フラッシュウェイヴが独り言を漏らした。


「何か引っかかることでも?」

「いや、別にー。ただの偶然かもしれないし」


フラッシュウェイヴは抜けてるようで、意外と頭が切れる。
彼女の意味深な呟きについていろいろ推察してみようとするには、どうもシンダーレインの頭では足りなかった。


「各自外出時はいつも以上に警戒を怠らないようお願いしたい」


グリーンスターはこう締めると、しっぽを振ってビッグロックを降りた。


「これで終わりか、さすがに短いね」

「緊急集会は短いに越したことはありません」


レッドスカイが不意にこちらを向いて、耳をぴくりと動かした。


「ま、そういうことだし。僕らも夕餉と洒落込もうか」






「……あー、どうしよう。このクロウタドリも美味しそうだけど……うーんやっぱりネズミかなー」

「さっきから自分のお腹と会話するのやめよう?」


獲物の山の前であれやこれやと悩んでいると、レッドスカイに笑われた。
全く、自重を知らない腹の虫は独り言にも突っかかってきて困る。


「腹減ってんならさっさと決めちまえよ、こういう時は何食っても一緒だよ」

「わかってないなあ、これだから脳内まで腹ぺこな奴はいうことが違う」

「脳内まで腹ぺこなのはお前だ」

「こういうのは迷ってる時間が一番幸せなんじゃない」

「お前は一生路頭に迷ってろ」


獲物の山の近くには今朝ぶりのシェルクローズもいた。
痩せたウサギにがっつきながら相変わらず不機嫌そうにシンダーレインを睨みつけている。


「何か君ら本当に仲良いよねえ」

「お前には何が見えてんだ、何をどう見てそんな結論にたどり着いたんだ」

「そうだよ、こんなのが仲いいんなら今頃食物連鎖も瓦解してるよ」

「君ら互いの関係を何だと思ってるの?」


シンダーレインは一瞬シェルクローズと目を合わせたが、すぐに逸らした。

ないない。少なくともこういう関係は仲がいい、とはいわないだろう。
こういう関係とはどういうものだといわれてもよくわからないが、とにかく仲はむしろ悪いほうだろう。
こいつは目が合えば何かと突っかかってくるし、口を開けば売り言葉に買い言葉だ。
仲の良い友達とは少なくともこんな殺伐としたものではないはずだ。

レッドスカイは二匹を交互に見ると、こらえきれなくなったらしく吹き出した。


「……全く、難儀だねえ君たちは」


そういうと、小さいミズハタネズミをくわえて戦士部屋の方へ歩いていった。


「難儀って、何が?」

「……さあな。いいから選べよ、なくなんぞ」

「あんたの妹は獲物は逃げないって言ってたのに」


結局そばにあったクロウタドリを引っ張りだすと、一際美味しそうな腹から豪快にかぶりついた。


「やっぱり鶏肉最高だわ、こりゃ口の中羽だらけになっても許せる」

「物好きだな。羽が口の裏にへばりつくあの感覚、俺はどうも無理だ」

「ふん、甘いね。真の美味しさは苦難の先にあるものよ」

「舌にも羽くっついて味わかんねえけどな」

「私にはその羽を通してジューシーな肉の味が伝わって……げほ、げほっ」

「その羽でむせてる奴がいっても説得力ねーなー」


シェルクローズが笑いを必死にこらえてるのがわかった。
後でぶん殴ってやろうかな、アビスフラワーみたいに。


「お前ら揃って暇そうだな」


入口の方からラッシュクロ―が歩いてきた。
ラッシュクロ―は年長の戦士で姉のシャインペルト同様に気性が荒いことで有名だ。


「今は冬の手前だ、年少が暇を持て余してるくらいなら狩りにでも行ったらどうだ」

「でも、外出する時は警戒しろってグリーンスターが」

「浮浪猫騒ぎなど今に始まったことじゃないだろう。よほど心配なら他の戦士を誘えばいい」


シンダーレインは食い下がろうとしたが、ラッシュクロ―の有無を言わさない口調に何も言えなかった。
シェルクローズなどもう既に頷いている。
鋭い緑の目に当てられて、シンダーレイン達はしぶしぶキャンプを出た。



キャンプの入り口のトンネルを抜けると、冷たい夜風が毛を撫でた。
すっかり森は暗くなっており、空気が本格的に冷えてきている。
既に葉を散らした木々が小枝を震わせ、寒々しさを余計に際立たせていた。


「さすがに寒いな」


シェルクローズが呟いた。


「なんでこんな時間に狩りいかなきゃいけないかなあ……あとは寝るだけとか思ってたのに」

「目えつけられた以上はどうしようもねえさ。それに、日が縮んだだけで時間的にはまだ寝るには早えよ」

「あんた変に律儀だよね」

「お前が不真面目なだけだ」


シンダーレインは寒さで言い返す気も起こらず、木々の間から夜空を仰いだ。
月の位置は予想よりもずっと高かった。

冬が近づく度に太陽が出ている時間は短くなっていく。
ついこの前までこの時間はまだ明るかったのだと考えると、不思議な気分になった。


「太陽も寒いのは苦手なのかな」

「いや逆だろ、太陽が出ている時間が短いから寒いんじゃねえか?」

「……どういうこと?」

「俺バカに説明できる自信ないわ」

「使えないなあ」

「開き直んなよ、行くところまで行きやがったな」


二匹は不意に歩みを止めた。
このあたりは風上で、下生えも多い。狩りには絶好の場だ。

シンダーレインは耳を立て、意識を集中させる。
気配を察知するのは苦手ではない。問題はその後、なのだ。
どうも獲物を見つけると浮足立ってしまっていけない。

シェルクローズがくれぐれも邪魔だけはしてくれるなよ、と目で訴えかけてきた。
冗談じゃない、あんたの獲物も私の獲物よ、と心の中で言い返す。
シェルクローズは呆れて空を仰ぐともう一度前を見て、



耳を寝かせた。



何事かともう一度五感を研ぎ澄ますと、感じた。

午後のパトロールでかいだものと同じ、しかしあの時よりもずっと近い、たくさんのものが交じり合った複雑な匂い。



浮浪猫の匂いを。




「……これか、お前らがパトロールで見つけてきたのは」

「うん、間違いない」


シェルクローズの瞳に、形容しがたい複雑な表情がよぎった。
何を考えているのかはわからない。
が、浮浪猫の来訪をシンダーレインよりもずっと深刻に感じていることだけは明白だった。


森にぴりぴりとした静寂が流れる。
茂みの隙間から漂う敵意に、シンダーレインは息を呑んだ。

いや、敵意なんて生易しい物ではない。

これは明確な、純然たる、殺意だった。




「……来る!」


シェルクローズが鋭く叫んだと同時に、その「殺意」は襲いかかってきた。

茂みから飛び出した黒い影を素早く飛び退いて避けた。
黒い影はやはり一匹ではなかった。体制を立て直す間に目を走らせて数える。

三匹…劣勢ではあるが、勝てない数ではない。
そもそも二匹では援軍も呼べない。どのみち切り抜けるしか生きる道はない。

最初に飛び出した影は向きを変えてこちらに切りかかってきた。
大きい一撃を首を縮めて避け、できた隙に大きい体の下に入り込んで胸から腹まで一気に切り裂いた。
影は悲鳴を上げたが、さすがに傷が浅かったようですぐに向き直る。

さすがに一筋縄ではいかない。が、勝てない相手ではないとわかった。
殺意が溢れかえっている割に実力が十分に伴っていない。舐められたものだ。

もう一度跳びかかった影を上に避け、右の追撃を躱す。
そのまま影の後ろに降りると、後ろ足で思い切り蹴りあげた。

勢いで上に飛んだ影を追いかけ、首を掴んで地面に叩きつけた。

それでこの影は気絶したようだった。

シェルクローズの方を見ると、二匹相手に苦戦しているようだった。
一匹が休む暇を与えずにひたすら仕掛け、そこにできた隙をもう一匹が容赦なく叩いていく。
シェルクローズは何とか全てを受けきっているが、防戦一方になってしまっている。

疲労も溜まりはじめた隙に振りかぶった一撃に、シェルクローズは反応することができなかった。




刹那、シンダーレインを不思議な既視感が襲った。

この光景、どこかで見たことがある。
まさか、浮浪猫か何かに襲われたことが、前にもあるっていうのか?

でも、確かに、ぼんやりと感じる、この懐かしさは。



その時も、こんな風に、体は勝手に動いていたのだろうか。




シンダーレインは咄嗟に間に割って入り、その一撃を受け止めた。

シェルクローズがその後ろではっと目を見開いた。

左肩を鉤爪がかすり、血が滴る。


シンダーレインは構わず頭突きで相手の体制を崩すと、無防備になった腹を今度は力を込めて引っかいた。
シェルクローズも横からシンダーレインの邪魔をしようとした敵を突き飛ばし、首筋に噛み付いた。

二匹の影はたまらず悲鳴をあげ、気絶した仲間を連れて息も絶え絶えに逃げていった。



勝った。


シンダーレインは誇らしげにしっぽを上げると、前足をふって血を振り落とした。


対してシェルクローズの顔色は冴えなかった。
まるで嫌なものでも見てしまったかのように、毛を逆立てたまま地面を見つめている。


「どうしたの?怖い顔して」

「……何でもねえよ、……にしても相変わらず、強えな、お前」


シェルクローズは微笑った。


「あったりまえでしょ、本当にこれだけが取り柄なんだから、私」

「はは、違いねえや」


とりあえず、あの浮浪猫達はサニー族が思っている以上に危険な存在だ。
何が目的でシンダーレイン達を襲ったのかは分からないが、放っておけばいつか死人が出るかもしれない。
グリーンスターに早く報告しなければ。シンダーレイン達は帰路を急いだ。




「そういえばさあ、シェルクローズ」

「ん」

「私達、前に浮浪猫と戦ったこと、あったっけ?」

「……、さて、どうだったかな」

「何か、前にもこんなこと、あったような」

「気のせい、だろ。既視感は前世の記憶、とはいうが、ありゃただの記憶の混濁だ」

「……ちぇ、夢がないの」


「……現実は、非情なんだよ」




お前が思っているよりも、ずっと。











ラッシュクロ-【イグサの爪】
緑の目の薄茶色のがっしりした雄猫
せっかちで頑固。シャインペルトの弟


最終編集者 フラワリングハート@ふらわり [ Sat Mar 31, 2018 9:43 am ], 編集回数 5 回
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sat Jun 18, 2016 12:25 am

第六章 解けた追憶











裂けた空。崩れた太陽。闇に消える地平線。
未だにそんな光景がぐるぐると回っていたスノウブリーズの脳内を、聞き慣れた声が駆け抜けた。

目を開けると、こげ茶色の頭が浮かび上がる。


「お、起きたか」


スノウブリーズを覗き込んでいたヒルハートがにっこりと笑った。


「心配したぞ、集会中いきなりぶっ倒れるもんだから」

「……あれ、俺、今まで何を」

「覚えてない?俺はシェイドから聞いたんだが、臨時集会の時にいきなり倒れたのよお前。
柄にもなくうなされてたけど、何かあったか?」


ゆっくりと頭が働き出し、状況を理解し始める。
外は、まだ暗かった。そこまで長い間眠っていたわけではなさそうだった。

あの光景は、お告げだったのか。
紅の星が目覚め、太陽と月が争い、空が闇に覆われる。
あの時のことを思い出そうとすると、頭がずきずきと痛んだ。


「……まあ詮索はしねえが。
疲れてるようなら無理はするなよ、看護猫が看病されてちゃ世話ねえや」


俯いて動かなくなったスノウブリーズを、ヒルハートは心配そうに見つめた。


「迷惑かけたな、もう大丈夫だ」

「本当かあ?マジで無理しないほうがいいぞ」

「てめえのバカ面間近で見続けると余計に気分悪くなる」

「絶好調で何よりだよ!」


スノウブリーズは少しふらつきながらも立ち上がった。
平衡感覚がまだ少しおかしくなっているらしい。


「そうだ、族長がこの後朝一番で会議を開くらしいから、大丈夫そうなら準備しろって」

「何の会議だ?」

「詳しくはわからんが、多分浮浪猫の話とかじゃないかな」

「なるほどな……あんま俺がいる意味はなさそうだが」

「まあ頑張れよってことで、俺もう寝ていい?」

「そんなこと言うなよ、あと2日だけでいいから起きてろ」

「俺を殺す気ですかあ!?」


思わずスノウブリーズは吹き出した。
ヒルハートのおかげでようやく元気が戻ってきたようだ。


「いやほんと、世話になった」

「いいってことよ、お前もしっかり休めよ」


ヒルハートはにっと元気よく笑うと看護部屋を出ていった。
スノウブリーズはその大きな背中を見送ると、伸びをして歩き出した。

外に出たスノウブリーズを、冷たい風が迎える。
まだ夜明け前のキャンプは、すっかり冷え込んでいた。
臨時集会は夕方だから、ヒルハートは夕方から今までずっと看てくれていたのだろうか。
天性のお人好しのあいつなら、それくらいやってのけるかもしれない。
しかし感謝の念を抱くのは余りにも恥ずかしく、スノウブリーズは微笑みながら下を向いた。


「ようやく起きたか」


看護部屋の近くの木の影に、スモークペルトがいた。
スノウブリーズは驚いたが、声の主を見つけると不愉快そうに眉をひそめた。


「お前か、何の用だよ」

「集会中にいきなりぶっ倒れるたあ、相当何かあったんだろうなと思っただけだ。
で?なんだ、お告げでも見たか、看護猫さんよ」


スモークペルトは皮肉っぽく顎を引いて、相変わらずの不機嫌そうな眼差しで睨みつける。
スノウブリーズも睨み返した。
周囲の空気がより冷え込むのを感じた。


「てめえには関係ねえよ、質問に答えろ」


スモークペルトは口を開くのを一瞬ためらい、木の横に座ってしっぽを引き寄せた。


「少し前に、親父の部屋にシンダーレインとシェルクローズが来た」


二匹の名前を聞いて思わずぴくりと耳を動かしたが、スノウブリーズは睨みつけたままでいた。


「それがどうした、俺達にゃもう関係ねえだろ」

「だろうな。ただ……」


スモークペルトは再び立ち上がった。

      ・・
「あいつらはまた、襲われたんだ。あの浮浪猫どもに」


その言葉が放たれた瞬間、空気が一気に乱れた。木がざわざわと音を立てて揺れる。


赤黒い水たまりに映る白い影。あざ笑うかのようなふたつの三日月と笑い声を上げる騒々しい夜風。押し寄せる絶望と後悔の波。
今まで思い出さないようにしていた過去が、堰を切ったようにどっと脳に流れこむのを感じてめまいがした。


スノウブリーズは気づけばスモークペルトを押し倒していた。
首筋に置かれた前足をスモークペルトが掴んでいる。
そんなスノウブリーズにスモークペルトはやり返すでもなく、ただ笑った。


「んだよ、俺を責めたいのか?それともてめえ自身か?
どっちだっていい。憂さ晴らしなら後で付き合ってやるよ。
ただ、あの時みたいにはなってねえよ。二匹とも無事だ」


看護部屋にもいなかっただろ、とスモークペルトはいったが、それでもスノウブリーズは前足を離そうとはしなかった。


「……何がいいたい」

「わからねえか?奴らがまた動き出してるってことだ」


スモークペルトはその前足に爪を立て、力づくでどかした。


「後悔するのは勝手だが、んなことよりやるべきことがあんだろ」


スノウブリーズを睨みつける鋭い緑眼が心なしか沈む。


「もう看護猫を失うのはごめんだ」

「一丁前にひと様の心配か、ご苦労だな。
そんなこと言うためだけに変なこと思い出させやがって」

「てめえはあいつの二の舞になっても構わねえってのか」

「構わないどころか」


スノウブリーズは爪を立てられた前足を振りほどいて空を仰いだ。
深い夜の闇の合間に、月明かりを浴びて青白く顔が浮かび上がる。
空色の瞳は過去に溺れて目の前すら見えていないようだった。


「それであいつに会えるなら、喜んでこんなもの、捨ててやる」


スノウブリーズは前足を胸元に押し当て、鉤爪を立てて毛束をむしりとった。
それを見ていたスモークペルトは呆れたように目を伏せると、ため息をついて背を向けた。




そう、もともと自分なんて生きている価値すらろくになかったのだ。
あくまで自分は、あいつが完成するまでのその場しのぎと、完成したあいつを引き立たせるための不良品でしかなかった。

あいつが戻ってくることもなくなった今、生きる価値がすっかりなくなってしまった今、もうここに留まる理由すら見つからない。

この看護猫の仕事も惰性でしかない。自分勝手に心の穴を埋めるためだけに始めたものだ。

不完全な偽物がいくら本物の代わりをしようと、無理のある話だったのだ。
偽物は偽物でしかない。そこから生まれるのは虚しさと滑稽さだけ。


いっそ本物の隣で生涯を終えられていたら、どれだけ幸せだったか。






看護部屋の入り口から突如光が差しこんだ。
夕方から夜にかけてしっかり眠り込んでしまったスノウブリーズは、スモークペルトと別れて看護部屋のベッドに丸くなってからもすっかり目が冴えてしまっていた。
生活リズムが崩れた。これは今日一日辛いかもしれない。
スノウブリーズはそんなことをぼんやりと思いながら、少しずつ部屋に侵攻する光をしばらく眺めていた。


朝が来たと実感した瞬間、まぶたが重くなった気がした。

嘘だ。さっきまで全く眠くなかったはずなのに!
睡魔という奴も意地悪なものだ。寝るわけにいかない時に限って夢の中へ引きずり込もうとする。
特に今日はこれから会議なのだ。族長と副長、重鎮の戦士たちが集まる重大な会議なのだ。
徹夜した事実に気づいたくらいでここまで睡眠を求める必要はないだろう。
そう、ないんだ。大丈夫。一晩くらいなんてことないから帰って睡魔。
しっかり寝たじゃん、さっき。不本意だったとはいえ十分に疲れは取れたって。
さあ、起きよう。こんなふかふかのベッドで丸くなってるから眠くなるんだ。
ほら誰かに呼ばれてるぞ。立て、立つんだスノウブリーズ!




「スノウブリーズ?」


コットンファーの声がようやく脳に届き、スノウブリーズは目を覚ました。
どうやらがっつり眠っていたらしい。
しかしどこから意識を手放していたのだろう、全く覚えていなかった。


「ごめんなさいね、族長に呼ばれていて昨日は顔を出せなくて。
ヒルハートから大丈夫そうだとは聞いたけど……調子はどう?」

「ああ、そのことなら平気です。ちょっとお告げを受け取っただけです」

「本当に?無理しないほうがいいわ、季節の変わり目で体調も……
……え、お告げ?」

「あ、はい、お告げ」


コットンファーはしばらく緑の目をまんまるにしたまま固まっていたが、ようやく思考が追いついてきたようで瞬きを合図に再起動した。
そこまで驚くようなことだろうか、とスノウブリーズは首を傾げる。


「実は私もお告げをいただいたのよ、それで族長と話していたのだけど……
珍しい、同じ時間にふたりもお告げを受け取るなんて」

「え、コットンファーも?」


今度はスノウブリーズが驚く番だった。
同じ時間帯に、ふたりがお告げを受けるなんてことは、ありえるのだろうか。
内容も同じだったのか、それとも全く違うものなのか。

お告げを受けてスノウブリーズだけが倒れたのは、きっと初めての体験による負担だろう。
看護猫になってからお告げを受け取るのは初めてだった。
それだけで倒れてしまったのは少し恥ずかしいが、ヘヴン族が自分を看護猫としてしっかり認めてくれているのだと思うと、ほっとする。

最も、あのお告げが、ヘヴン族からのものであれば、の話だが。



「お告げについては、会議で改めて話しましょう」


コットンファーは脇腹をつついて立つように促した。
それに煽られてスノウブリーズはベッドから這い出て軽く毛を整える。
あますところなく毛づくろいを済ますと、コットンファーをちらりと見た。
コットンファーは視線に気づいて頷き、すっかり明るくなった外に出た。スノウブリーズも後に続いた。

看護部屋を出たすぐ先、ビッグロックの下の族長部屋の前では、既に何匹かの猫が集まっていた。
族長のグリーンスター、副長のライトストリームの他には、ウォーターフットとマリンウィンドが座っている。
どちらもサニー族の重鎮で、優秀な戦士だ。


「おはよう、コットンファーにスノウブリーズ。よく眠れた?」


グリーンスターが切れ長の瞳を細めてひとの良い笑みを向けた。
この猫は族長の威圧感に欠けている気はするが、優しい愛情と思慮深さを持っており、サニー族の顔としては十分すぎる人材だ。
それこそ押しは弱いが、分け隔てない優しさと人懐っこい性格で大きい支持を得ている。
そんな菩薩が族長として一族をまとめ上げることができているのも、一重に沈黙の鬼と言わしめる副長、ライトストリームのおかげであるのだが。
族長のアメと副長のムチで一族が成り立っているといっても、過言ではないだろう。


「ええ、おかげさまで」

「それは何よりだ。スノウブリーズも昨夜は大変だったそうだけど、大丈夫かい?」

「平気です、ご心配をお掛けしました」

「君は溜め込みやすい性質だろう、たまにはストレスを吐き出すことも重要だよ。
うちのにも大分言い聞かせてたんだが、未だに自制してしまってるらしくてね」


うちの、とは、消去法でスモークペルトだろう。ヒルハートもシェイドウィングもそんな奴ではない。


「相談相手にでもなってやれればいいんだが、お父さんがでしゃばるのはやっぱりダメかなあ。
こういうのって同年代とかの方が良いのかい?」

「いや、そういうわけでもない、と思いますが」

「でもお父さんじゃ余計なお世話みたいにならない?年頃の男の子は放っておいたほうがいいっていうし……。
うーんでも悩みによってはダメだよね?自殺しちゃったりしちゃうかもしれないもんね?」

「族長これ以上ダメな父親ひけらかすのやめましょう」


族長にはこのように年頃の子供に悩む父親の面もある。
といってももう戦士になって随分経ってる逞しい子供にあの悩みようだ。
しかも悩み方が妙に女々しい。
そんな族長をライトストリームが容赦なく捌く。いつもの光景だ。


「君も同じ戦士の子を持つ仲間だろうライトストリーム!
悩みを持っている息子の心を絆してやるにはどうすればいいか、わからないかい?」

「そんなの自分で考えてください、会議を始めますよ」

「相変わらずつれないなあ、君は」

「これ以上格好悪い族長を一族に見せたら士気が下がります」

「わ、悪かったなカッコ悪くて!」

「心配するなライトストリーム、族長が残念なのはみんな知っている」


とうとうウォーターフットが会話に混ざり始めた。
隣に座るマリンウィンドが前足を口元に当ててくつくつと笑っている。


「ああ……だってライトストリーム。どうしよう、俺族長やっていけないかも」

「いっぺん死にますか」

「そうだね、もし生まれ変われるなら……次こそ威厳のある族長になりたいなあ」

「やってらんないわ」


ライトストリームは呆れたように目をくるっと回すと立ち上がった。


「さあ、そろそろ中に。……会議を始めましょう」















ウォーターフット【水の足】
藍色の目の濃い灰色の大柄の雄猫
賢さと威厳を併せ持つ落ち着いた年長者。シェルクローズ達の父親でシャインペルトの連れ合い


最終編集者 フラワリングハート@ふらわり [ Thu Mar 01, 2018 4:36 pm ], 編集回数 2 回
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by レパードクロー on Fri Jun 24, 2016 9:25 pm

久しぶりに読みました!

やっぱりフラワリさんの作品はどれも安定のおもしろさでなぜか感動しました。

シンちゃんを襲った浮浪猫たちの正体が気になります!

頑張ってください!応援しております!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sun Jul 03, 2016 7:45 pm

コメントありがとうございます!!
こんな忘却の彼方に吹き飛ばされそうな小説にこのような温かいコメントを残してくださることがもう感動です…
こちらも創作意欲が湧き出てくるというものです!
シンちゃんに蔓延る混沌はまさに物語の深部なので…!
いつものテンションに紛れる闇を感じていただければ…!幸いです…!
未だ見捨てられてはいないんだなと元気が出ました…期待に応えられるよう…書き進めなければ…!
ありがとうございます!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by ラッキークロー@LC on Mon Jul 04, 2016 8:57 pm

 コメント失礼します。お久しぶりです、ラッキークローです!

 フラワリングハートさんの文才と、深い独創性がこれでもかとちりばめられた物語に、尊敬の念が隠せません。あまりのクオリティの高さにしばらく惚けてしまいました。

 いきいきと登場人物の心情が描写されているので、一ミリも飽きることなくふらわりさんの作りだす世界に入り込むことができました。本当にすごい.......すごすぎるΣ(・ω・ノ)ノ!

 鉢巻を巻き付け、フラワリングハートの名前の刻まれた団扇を振り回しつつ、更新を応援しております!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sun Jul 10, 2016 4:22 pm

こ、コメントありがとうございます!お久しぶりです…!
私などにはもったいなきお言葉の数々…嬉しすぎて口元押さえて悶絶しました…
尊敬しているラッキークロ-さんに楽しんでいただけているのなら本望です…気まぐれにここに来て正解でした…!
またやる気メーター上がりました!頑張って進めなければ…!
熱い応援ありがとうございます!団扇もったいないですそれで暑さをしのいでください!
そして貴方様のWAR OF CATSも密かに楽しみにしております…!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sat Jul 16, 2016 6:09 pm

第七章 虚空の交錯












もう初冬に入ったであろう時期にさしこむ朝日は余りにも弱々しく、冷えきった森を暖めることすら難しくなっていた。
シンダーレインは、そんな寒さに邪魔されながらも、しっかり熟睡していた。


「おーい、起きて-姉貴ー。起きろーって」


ひっきりなしにかけられる声に目を開ける。
目の前には案の定、弟のホークシェイドがとろんとした眼差しでこちらを見つめていた。
シンダーレインを起こす気があるのかないのか、聞いてるこちらが余計眠くなるような声だ。


「おー、起きた起きた。おはよ、姉貴」


目が合ったことを確認したホークシェイドは、にこりと笑った。


「相変わらず朝弱いね、そろそろ自分で起きられるようになりなよ」

「できたらとっくにやってるよ……」


シンダーレインは寝ぼけながら起き上がった。
確かに毎度毎度起こされているような気がする。だがそれは自らで起きられない結果そうなっているだけだ。
本当に、自分で起きられれば苦労はしない。

起き上がった時に、昨日の肩の傷がずきりと痛み、少し顔を歪める。
昨日あの後コットンファーに治療はしてもらったが、見習いの頃の傷がまた開いたなんてことになってなければ良いのだが。


「聞いたよ、また怪我したんだって?」


そんなシンダーレインの様子に目ざとく気づいたホークシェイドがクモの巣でぐるぐる巻きにされた左肩を覗きこんだ。


「いやまあ、たいしたことないよ」

「よく言うよ、見習い期間長引かせといて」

「そんなに酷くないって」

「それは看護猫が決めることでしょ」


ホークシェイドは不満そうに口を尖らせ、しっぽを振った。


「後で看護部屋行ったほうがいいよ」

「同感だな」


不意に増えた声に、姉弟はそろって振り向いた。
声の主はシェルクローズだった。戦士部屋の端のほうの、影になっている寝床から目だけを鈍く光らせている。


「あんまり無茶してくれんなよ、困るのは自分なんだから」

「何よ、助けてやったってのにその言い草」

「助けるも何も、俺は助けてくれなんて一言もいってない」


お前なんかに頼らずとも、ひとりでやれた。
シェルクローズはそういいながらシンダーレインを横切り、戦士部屋を出た。
その濃い毛が朝日に照らされて銀色に輝く。

ホークシェイドがその後に続いて部屋を出たので、シンダーレインも後を追った。


「感謝くらいしてもいいのに」


わざとらしいシンダーレインの呟きに、シェルクローズは憎まれ口のひとつすら返さなかった。
そんなに借りを作ったのが嫌だったとでもいいたいのか。こちらは命を助けてやったというのに。
そっぽを向かれて調子が狂ったシンダーレインは、むっとしてそばの石ころを前足で転がした。


ホークシェイドは俯いたシェルクローズをじっと見つめていた。
その朱い瞳に一瞬、旧友に向けるとは思えないほどの、鋭い憎悪を宿していたことに、シンダーレインは気づかない。


「そういえば、昨日コットンファーが朝一で会議とか言ってたな。もう終わったかな?」

「さあ、まだじゃない?」

「いつ終わるかな?それまで暇なんだけど」

「さあ、暇つぶしに息でも止めてれば?」

「いや死ぬから!」


ホークシェイドは冗談だよ、ともう一度笑った。父に似た、人懐っこい笑み。


「まあ、行くだけ行ってみれば?何なら看護部屋の近くで待ってるといいよ」

「うーん……まあ仕方ないか。んじゃ行ってくるよ」


シンダーレインはしっぽを振ると、一度ちらりとシェルクローズに目をやってから歩き出した。




シンダーレインの姿が完全に見えなくなるのを確認したホークシェイドは、シェルクローズに向き直った。
あくまで自然に、素早く近づき、後ろをとったホークシェイドはその瞬間、

爪を出した。

シェルクローズがはっと振り返る。

最小限の動きで繰り出された攻撃を、シェルクローズは何とか避けた。
その勢いのまま後ろに倒れこむ。押し倒されたような体制に持っていかれた。

じゃれあいにしては、余りにも危険すぎる。


「……なんだ、キャンプのど真ん中で、しかも朝っぱらから……殺すつもりか、バカ野郎」

「まさか、それで殺せるなんて思っちゃいないよ」


ホークシェイドは先程姉に見せたものと同じ顔で笑ってみせた。
爪を引っこめると、一、二歩下がって距離をおく。
シェルクローズはうつ伏せに転がり、乱れた毛を軽く整えた。


「それにしても、相変わらずだね、シェルくんは」

「どういう意味だ」

「そのまんま。あの頃から何も変わってない」

「悪かったな。……また、同じことになっちまって」

「……ふ、全くだね」


シェルクローズが立ち上がった。
朱と蒼の瞳が真正面から交差する。


「約束も守れないでこんなことを繰り返すくらいなら、やっぱりシェルくん死んだほうがいいよ」

「世知辛いな、これでも頑張ってるつもりなんだよ」










シンダーレインはそっと看護部屋を覗きこんだ。
コットンファーもスノウブリーズもいない看護部屋はがらんとしていて暗く、散乱した薬草が寂しさを感じさせる。


「まだ終わってないんだ」


独り言交じりにため息をついて看護部屋に背を向け、辺りを見回してみる。
族長も副長もいない空き地はのんびりとしていて、狩りにもパトロールにも当てられていない戦士が何匹かで固まって朝食をとっていた。

ちらりとビッグロックに目をやる。
まるで獲物に忍び寄る時のように、反射的にしっぽが降りた。
そのままゆっくりと近づく。

一族の重鎮の極秘会議だ。これで心躍らなかったら猫じゃない。
何せ猫というものは好奇心で死ねる生き物なのだ。


ビッグロックに一番近い木の陰までたどり着くと、シンダーレインはその場に縮こまって耳をそば立てた。


「……あったな…………は……っただろうか……」


族長の声だ。シンダーレインはいっそうわくわくして目を閉じ、耳に神経を集中させた。


「……なにか…………に……ようなこと…………」

「やはり……、…………を襲った奴らと……」

「…………、……でもする…………」

「……。………っても構わない……、……もう…………」



「おい」

「うわっ!?」


シンダーレインは突然目の前で響いた声に驚いて飛び上がった。
暗闇に慣れ始めた目が陽の光を受けてちかちかする。
こちらを見下ろすスノウブリーズと目が合った。


「えっスノウブリーズ!?なんでここに……」

「それはこっちの台詞だ。こんなところで何してる」


スノウブリーズは呆れたように眉をひそめた。


「……盗み聞きでもしてたか」

「いいいいえいえそんなおこがましいこと滅相もない!」

「烏滸がましい自覚があるならもうちょっとマシな嘘ついたらどうだ」


スノウブリーズは深いため息をつくと、鋭い青い眼でこちらを刺した。


「どこまで聞こえた?」

「肝心なところは何も。でも、昨日の浮浪猫のことでしょ?そんな本気にならなくてもいいじゃない」

「当事者が何言ってやがるふざけんな」


そもそもその浮浪猫にやられた傷を診てもらいにきたんだろうが、とスノウブリーズはぶっきらぼうに前足でシンダーレインを看護部屋に押しやった。


「コットンファーは?」

「先輩たちはまだ会議中だ。俺だけが追い出されたんだよ、悪かったな」


シンダーレインは看護部屋の入口近くのコケのベッドに座らせられた。


「……そんなに酷いことにはなってないみたいだな」


左前脚に巻きつけられていたクモの巣を剥がし、傷口をまじまじと覗き込んでスノウブリーズが呟く。


「みんな心配しすぎなんですよ」

「お前の場合は前科があるからだろうが」


スノウブリーズはくるりと背を向けながら吐き捨てた。
いくら見習いの頃に同じように肩を怪我したからって、本人が大丈夫だと言っているのに。

しばらくして部屋の奥からマリーゴールドを咥えたスノウブリーズが戻ってきて、シンダーレインは顔をしかめた。


「大丈夫なんじゃなかったんですか」

「念には念を入れて、だ。素人目でもし失敗したら洒落にならねえ」

「先輩、コットンファーの心配症感染りました?」

「はあ?んなわけあるかよ!」


シンダーレインの言葉にスノウブリーズは声を荒げた。よっぽど心外だったのだろうか。


「素人も何も、先輩はれっきとした看護猫じゃないですか」

「れっきとした、なんてことはないだろ……そもそも俺が看護猫になったのは結構最近だぞ」

「え、何言ってるんですか?私が物心ついた頃にはもう……あれ、」




私が物心ついた頃、看護部屋にいた猫は……本当にスノウブリーズ、だったのか。

曖昧な記憶が脳内を駆け巡り、頭を揺さぶる。


この記憶は、何かがおかしい。


何かが……足りない?



私に足りない……




私の………





「っ……シンダーレイン!!」




スノウブリーズがシンダーレインの頭を鷲掴み、強引にこちらを向かせた。

ぐわんと頭が大きく揺れ、脳内のノイズ混じりの映像がかき消える。


「俺が間違ってた、俺はずっと昔から看護猫だったんだ。それでいい」


こちらを射抜くふたつの海溝に、飲み込まれるような感覚に陥る。

気づくと何かが口の中に入っていた。小さい粒だった。

だけどもう、どうして彼がそんなことをしたのか、そんなことすら考えられない。



「悪かった、もう。……何も、思い出さなくていいから」




薄れる意識の中で、消え入りそうなこの声だけ、やけに鮮明に脳裏に響くのを感じた。











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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sun Mar 25, 2018 3:20 am

第八章 激情と深淵













数刻前、スノウブリーズ達は狭いビッグロックの中で小さな輪を作り、鼻を寄せ合った。


「今回集まってもらったのは、無論最近の浮浪猫の騒ぎについてだ」


グリーンスターが厳格な面持ちで口を開いた。戦士たちの目に真剣味が宿る。


「事の始まりは昨日の昼のパトロールだ。ビーチペルトたちがロックフォート付近で不審な猫の匂いを嗅ぎとってきた」

「その夜に、シンダーレインとシェルクローズがキャンプにほど近い森でその匂いの持ち主と思われる猫たちの襲撃を受けました。その時の数は三匹だったそうです」


グリーンスターの言葉をコットンファーが繋ぎ、ぐるりと戦士たちの様子を伺った。
ウォーターフットとマリンウィンドは怪訝そうに顔を見合わせた。
ライトストリームは鋭い群青の瞳で周りを睨めつけている。どんな些細なことでも見逃さんとする気迫が感じられた。


「まさか縄張りの中で命が脅かされることになろうとは。いっそう警戒を強めなければいけないな」


グリーンスターがため息をついた。


「しかし、我々は浮浪猫とは違う、誇り高い一族です。簡単にはやられませんよ」

「プライドが高いのは結構だけど、感情論だけじゃ何も解決しないわよ」


勇み立つウォーターフットをマリンウィンドがたしなめる。
ライトストリームがグリーンスターをちらりと見て口を開いた。


「とりあえず、外出時は少なくとも戦士三匹以上で行動するようにしましょう」

「ああ、ロックフォートにも近づかないほうがいいだろう。集会で忘れずに伝えておかないと」


グリーンスターはよし、と頷くと、コットンファーに向き直った。


「ところで、お告げがあったんだろう、コットンファー?」

「はい。浮浪猫に関わるものなのかは、わかりませんが……。
『紅の星が目覚め、過去の風がもう一度流れる。太陽と月が争い……』」

「……『空が闇に覆われる』」


最後の言葉を思わず繋ぐと、コットンファーがはっとスノウブリーズに向き直った。
びっくりしたようなコットンファーの緑の瞳を見て、なぜか思わずお告げを受け取る直前に見た、夕空を背に立つクロウスカーを思い浮かべた。
刺すような鋭い瞳と、裂けた空。
あの恐ろしい光景は、何度思い出しても身震いがする。


「やっぱり、同じお告げだったのね!」

「看護猫二匹に同じお告げが降りるのは……相当重要なものなんじゃないか?」

「意味はわからないけど……なんだかぞっとしないわね」

「このお告げは、心に留めておこう」


グリーンスターの言葉にコットンファーが頷いて、もう一度スノウブリーズの方を向いた。


「後でお告げについて、ゆっくり話し合いましょう」

「はい」

「そういえば、浮浪猫のことだけど」


マリンウィンドがぽつりと呟いた。


「……確か、以前にもありましたよね。浮浪猫に襲われたこと」


おとなの猫が数匹膝詰めになるには狭い族長部屋が、途端に沈黙に包まれた。
コケのカーテン越しに、一族の朝の賑やかな喧騒がぼんやりと聞こえてくる。


「……あったな。あれは、どのくらいだっただろうか」

「結構最近だった気がするけど」

「サニー族、何か浮浪猫に恨みを買うようなことでもしていたか?」

「少なくとも、昔はそんなことはなかったはずだ」



「やはりそいつらは、以前アイスブルームを襲った奴らと同じ、なのか」


険しい表情で会話を聞いていたスノウブリーズは、ウォーターフットの静かな一言に頭を揺さぶられた。


思わず目を閉じると、眼前に現れたくらやみに水の上に垂らした血のように映像が広がるのを感じた。





「スノウブリーズ、立ちくらみでもするのかい?」


現実に逃げ帰るために目を開けると、グリーンスターが覗き込んでいた。切れ長の瞳が心配そうに揺れている。


「まだ本調子じゃないんだろう、先に戻っていても構わないよ。……それとも、もう解散するかい?」

「あ、待ってください。見習いの指導方針について、少しお話したいことが」


ライトストリームがしっぽを上げた。コットンファーがそれを見て口を開く。


「なら、スノウブリーズは先に戻って休みなさい」

「疲れているのならゆっくり休むんだよ、スノウブリーズ」


族長の労いの言葉に頷くと、失礼します、とぼそぼそいってスノウブリーズは部屋を出た。





それは何度も何度も夢に見る、スノウブリーズを縛る忌まわしい過去だった。
平和な日々に絆され、ようやく後悔の呪縛から解き放たれる時が来るかと思ったのに。
昨日から、それは再びスノウブリーズに迫っていた。
その鎖は、スノウブリーズの心を捉えて離さない。俺を恨んでいるだろうあいつは、忘れることをいつまでも許してくれない。







そしてこいつもきっと、俺と同じなのだ。
過去に囚われ、現実を見失った、哀れな猫。

咄嗟に取り出したせいでいくつか零れたケシの実を拾い、岩棚に並べる。
あの狂気にも似た恐怖に満ちた緑眼に耐え切れず無理やり気絶させてしまったが、果たして正しい選択だったのかどうか。


「スノウブリーズ、大丈夫?」


看護部屋にコットンファーが入ってきた。スノウブリーズのそばで静かに眠るシンダーレインを見つけ、不思議そうに首を傾げる。


「ああ、肩の傷を診たんです。傷のほうは大丈夫だったんですが、疲れていたようなので寝かせました」


本当のことをいうわけにもいかず、目を合わせないようにシンダーレインに視線を移した。


「そうだったの、いろいろあったものね……でも、疲れているのはあなたもなんでしょう、スノウブリーズ?」

「……いや、疲れているというわけでは」

「疲労というものは、意外と気がつかないものなのよ。いっそ、気分転換に友達と狩りにでも行ってきたら?」


コットンファーは、珍しく落ち着いた、見透かすような目で諭した。
いや、比喩ではなく、本当に弟子を見透かしていたのかもしれなかった。


「……じゃあ、お言葉に甘えて」

「浮浪猫にはくれぐれも気をつけるのよ」








昔、スノウブリーズたちがまだほんの子猫だった頃の話だ。
当時の族長はグリーンスターではなく、スウィフトスターという偉大な雄猫だった。
だがスウィフトスターはある真夏の熱帯夜に亡くなった。
事故ではない。病気でもない。

殺されたのだ。

偉大な族長を暗殺した残忍な裏切り者は、満月のような黄色い瞳の、傷だらけの漆黒の雄猫だった。


その裏切り者には、息子がいる。

同じようにぎらついた満月の瞳をもつ、生き写しの息子。


それが、クロウスカーの正体だ。




「どうしたスノウブリーズ、卒塔婆みたいな顔をして」

「いやどんな顔だよ」


スノウブリーズが看護部屋を出ると、どこからかシェイドウィングが現れた。相変わらず何も考えてなさそうな顔で、脳天気なやつだ。


「元気がない、といっているんだ。その程度の意味をどうして汲み取れない」

「誰がわかるかよ」

「ふむ、せいぜい私くらいのものだ。高度すぎるからな」

「さっきと言ってること違えけど」

「私は三歩歩けば何もかも忘れてしまう」

「ただの鳥頭じゃねーか!」


シェイドウィングは満足そうに頷いた。


「それで、どこかに行くのか?薬草採集なら手伝うぞ、午前中の間だけだが」

「いや、ただの気晴らしだ。浮浪猫騒動の件で今二匹じゃキャンプ出られないけどな」

「ああ、つい先ほど族長からお達しがあった。では適当にお供を探すことにしよう」

「いや、言い方なんかもっとあるだろ……」

「おお、君ら。これからどこか行くのか?」


現れたお供はヒルハートだった。がっしりとした体つきの割には幼げな印象を残す顔をきょとんと傾げている。


「残念だったな、兄者。厳正な審査の結果、犠牲者に選ばれてしまったようだ」

「は?犠牲者?やだこわい、何の?」

「いやだから言い方……もういいや、面倒くさい」

「え、待って、説明放棄しないでって、ねえ、ちょっと」


状況を理解しきれていないヒルハートと兄をいじって心なしか満足そうなシェイドウィングを連れて、スノウブリーズは森を出た。


スノウブリーズは俯き加減で、森に微かに響く獲物の気配をひたすら耳で追っていた。
ヒルハートとシェイドウィングはいくつか会話を重ねていたが、スノウブリーズが会話に混ざらないと気づくと次第に口を閉じはじめた。

草の影すら枯れた冬の森に、不用心にネズミが一匹飛び出す。
本能的に耳が立ったが、なぜかそれを捕る気にはなれなかった。
狩猟の際の足さばきを未だにしっかりと覚えていることに気付かされ、言い様の知れない虚しさが空っぽの心を駆け巡る。

足がすくんだスノウブリーズをちらりと一瞥したシェイドウィングは、相変わらずその整ったかんばせになんの表情も浮かべず、ただゆっくりと身を屈めた。
ネズミに狙いを定めた妹をみたヒルハートは、静かにしっぽを下ろして足を止めた。その視線はシェイドウィングではなく、無意識にスノウブリーズの方を向く。
音を立てないようにじっと見守っていると、やがて二、三歩ネズミに忍び寄った彼女が一気に飛び掛かった。
ネズミが身の危険に気づいたのは、その小さな背中に鋭い鉤爪がかかった後だった。
一撃で息の根を止め、何事もなかったかのように優雅にネズミをくわえ上げて、一言呟いた。


「私の勝ちだ」


ヒルハートは何も言わないスノウブリーズに軽く表情を緩め、妹に向けていった。


「お見事」




ネズミをそばの木の下に埋めた時、木々の間に遠く、黒い影がうごめいた。
びくりと顔を上げて目を凝らす。


「どうした、スノウブリーズ?」

「静かにしろ……一匹、猫がいた気がする……浮浪猫かもしれねえ」


ヒルハートがスノウブリーズの見つめる先に目を凝らして、首をふった。


「……何も見えないが……どっちにいったんだ?」

「あっちの岩場……ロックフォートの方向」

「だが、それでは後を追うのは危険だ」

「……アクアロックスに登ろう。ロックフォートの近くには木がないから、きっと高台にいけば見えるはずだ。走るぞ!」


まばらな低木と茂みが覆うつるんとした岩場を急いで駆け登る。
岩場といってもさながらごつごつした丘のようなもので、軽々高台に登ることができるアクアロックスは昔からパトロールに重宝していた。


「何か見えたか?」


いち早く高台についたスノウブリーズに、後ろからヒルハートが声をかけた。


「今の所何も見えねえな。……くそ、逃したか……?」

「っ、あそこに誰かいるぞ」


ヒルハートと肩を並べて高台にたどり着いたシェイドウィングが、ロックフォートの外壁を指した。
岩山を登る黒い、しなやかな影。その瞳がちらりと光った瞬間、スノウブリーズは思わず目を見開いた。
昨夜こちらを向いたあの無気力そうな、底の知れない金眼は、忘れもしない。
咄嗟にシェイドウィングとヒルハートを近くの茂みに押しやり、隠れた。


「お、おい、なんで隠れんだよ」もごもごとヒルハートがいう。

「なんでもなにもないだろ、こんなところで見つかったら終わりだ」

「でも多分あいつ、朝から出かけてたから集会のこと知らないんだよ。あんな危険なところで……」

「馬鹿か。あいつにとっては、危険じゃねえんだよ」



クロウスカー。

よりにもよって、浮浪猫の匂いが感知されたまさにこの場所で。
ひとり、何をしているのか。


茂みの奥から、スノウブリーズはその黒い影を、射殺さんばかりに睨みつけていた。




なぜロックフォートなどという、一族ですらめったに足を踏み入れないような寂れた場所に、一匹でいるのか。
そしてなぜ、こんな辺鄙な場所で、集団で行動する浮浪猫の匂いが感知されたのか。



その答えが、今繋がった。



サニー族の猫が寄りつかないロックフォートが唯一潜伏するのに絶好の場所だということを知っているのは、縄張りを知り尽くしているサニー族の猫の他にはいない。
浮浪猫共とサニー族の架け橋になる、唯一の猫。







こいつだ。



こいつが、アイスブルームを殺したに違いない。




「まだ彼が浮浪猫と関わっていると決まったわけではないだろう」


シェイドウィングが声を潜めて鋭く囁いた。

だが、そんな甘い見解に貸す耳など、生憎持ち合わせていない。








__なあ、アイスブルーム。
あいつの、あいつらのしっぽを掴み、今度こそ完膚なきまでに叩きのめしてぶっ殺して。


そうして仇討ちを成し遂げれば、きっとお前は、俺を許してくれるよな?


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お久しぶりです。
じわりじわりと亀のごとく執筆を進めております…
ご覧のとおり、少しずつ雲行きが怪しくなってきております
因みに5章でフラッシュウェイヴが意味深な独り言をいってたのもこういうことです
以前からのキャラクターの何やら不穏な(?)言動などには、浮浪猫が深く関わってたりします
この駄作を読んでくださっている方がもしまだいらっしゃるならば、
ぜひ作中の浮浪猫とサニー族との関係を推理してくだされば作者冥利に尽きます…
それでは、ここまで目を通してくださりありがとうございました!



※一回消して加筆修正再投稿しました
前のはちょっと雑すぎました
8章以前もちょくちょくサイレント加筆修正しております。基本的に文章見切り発車なので仕方ないね
生存報告も兼ねてお邪魔しました。ではまた


最終編集者 フラワリングハート@ふらわり [ Tue Apr 03, 2018 4:55 pm ], 編集回数 2 回
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sun Mar 25, 2018 6:19 pm

第九章 胡蝶の胎動













そこは、果てしなく深い暗闇だった。





かつての記憶は牙を向いてシンダーレインに襲いかかり、
絶望の激流に足をすくわれて流される。


離別の痛みに悲鳴を上げ、
数多の嘆声に耳を塞いでうずくまった。







(――――ああ、もう)







この闇に、すべてを委ねてしまおうか。



こんな思いをするくらいならいっそ、






すべてを、忘れて。









(なにも……なにも、みえない――――)









ふっと力を抜いて意識の波にのまれれば、やがて懐かしい温もりを感じた。







  
夜のような静かな闇に、一際輝く閃光の波。




私を導く、光の声が聞こえる。










――――――――――――――











「あれ、起こしちゃった?」


目を開けると、そこは看護部屋だった。
フラッシュウェイヴが目の前できらきらした琥珀色の瞳を見開いている。


「シンダーレイン?気分はどう?」


少し離れた薬草置き場からコットンファーの声がした。

そもそも、なんで自分はここにいるんだっけ?

思い出そうとすると、頭が何かに縛りつけられているかのようにずきん、と痛んだ。
首を振って痛みを振り払い、ゆっくり立ち上がる。


「私、何でここにいるんでしたっけ」

「疲れているみたいだったから、寝かせていたのよ」


コットンファーが穏やかに答えた。


「スノウブリーズがね」

「そのスノウブリーズは今どこに?」


フラッシュウェイヴが首を傾げる。


「気分転換に行かせたわ。多分、もうそろそろ帰ってくる頃じゃないかしら」


シンダーレインはよろよろと立ち上がった。
寝起きで頭が重く、上手くバランスが取れない。


「大丈夫、シンダーレイン?」

「なんとか。眠れなかった日の朝みたい」

「眠れなかったんじゃなくて、寝すぎたのよ」


フラッシュウェイヴがおかしそうにひげを震わせた。


「そういえば、フラはなんでここにいるの?」

「早朝のパトロールから終わって戻ってみたら、シンちゃんはここにいるって聞いたから」


いったん言葉を切り、シンダーレインの跳ねたくせ毛をなめて整える。


「何をやらかしちゃったのかな-って」

「別に何もやらかしてなんか……って、なんで何かやらかす前提なのよ」


軽口を叩き合っているうちに、シンダーレインの平衡感覚がはっきりしてきた。
ぐっと伸びをすると、身体中がまるで石にでもなってしまったかのように凝り固まっているのを感じた。

二日連続で昼に起きてしまったが、幸い今日は一日オフだ。
石になってしまった身体をほぐすためにも、午後は狩りにでも行ったほうがいいかな、と思考をぼんやり巡らせる。




昨夜浮浪猫に襲われたことを除いて、それはいつもと何ら変わらない日常だ。
浮浪猫と遭遇すること自体は、別段珍しいことでもなく、襲撃者相手にも数で劣っていたが打ち負かした。
きっと浮浪猫もこれで懲りたことだろう。
サニー族の戦士を襲撃しようなんて馬鹿な考えを今後捨ててくれれば、晴れていつもどおりの、平和な生活に戻ることができる。

それでも、何故だろうか。

漠然とした不安感が、霧のように思考回路を覆っているのは。








「コットンファー、いますか」


突然看護部屋に響いた凛々しく透き通った声とともに、濃い灰色の若い雄猫が岩の割れ目から顔を出した。


「どうしたの、ストームクロー?」

「いや、リードクロ-が肉球に棘を刺しまして。本人は大丈夫だってうるさいんですけど――」


そこまで言いかけたところで、遠くから飛んできた喧しい声に遮られる。


「言うなってストームクロー!こんなんで看護猫の世話になるなんて恥ずかしいだろ!」

「――けど、さっさと治療してもらったほうが長引かないかと思って」

「もっともね」コットンファーが苦笑いしながらぴくりと耳を動かした。


看護部屋に足を踏み入れたストームクローに少し遅れて、小柄なショウガ色のむっとした顔がひょこりと顔を覗かせた。


「さあ、リードクロ-。座って」

「俺は治療を頼んでないぞ」


口を尖らせたリードクローに恨めしげに睨まれたストームクローは、肩をすくめた。
申し訳なさそうにも、呆れているようにも見える。


「いい?リードクロ-。棘は放っておいたら化膿するかもしれないのよ」

「そこまで大げさな怪我じゃないよ」

「私は心配なの。もしあなたが小さい傷だと油断してその傷を放ったまま歩き回ってご覧なさい……」


コットンファーは普段ののんびりとした物腰はどこにいったんだという調子でまくし立てる。
リードクローは首をすくめて眉間に皺を寄せ、ストームクローも微妙な面持ちでコットンファーとリードクローを交互に眺めている。


「出た、看護部屋名物『コットンファーのマシンガンモード』」


シンダーレインは面白がってそっとフラッシュウェイヴに囁いた。
コットンファーはしばらくああだこうだと化膿した傷の恐怖についてリードクローに語り聞かせていたが、やがてはっと我に返って思い出したようにシンダーレイン達二匹に向き直った。


「さあ、看護部屋も狭くなるし、そろそろあなた達はここを出てくれると嬉しいのだけど」

「ああ、そうします。ありがとうございました、コットンファー」


二匹は肩を並べて看護部屋を出た。
出て行き掛けにフラッシュウェイヴが親しみを込めてリードクローを小突く。
リードクローがむっと睨みを返した。


コットンファーは二匹の背中をぼんやり眺めながら呟いた。


「……スノウブリーズ、大丈夫かしら」










「そろそろお昼時かな」


看護部屋を出たフラッシュウェイヴは時間を確認する癖で空を見上げた。


「太陽が見えないからわからないけど……おなかすいてるから多分お昼時よね」


つられてシンダーレインも空を仰いだ。
透き通った冬の青空はそこにはなく、ぼんやりした雲の白だけがただ広がっている。


「そういえば、昨日の浮浪猫の一件で、戦士三匹以上じゃないと外出ちゃいけないってことになったんだって」


どんよりとした重みを感じる藍鼠の夏の曇り空とは違い、ふわふわとしたその白さは、かえってどこまでも形のない不安が立ち込めているように思えた。



やはり私には、何かが抜け落ちているような気がする。


色を失った、この空のような……






「――シンダーレイン」





はっと我に返る。フラッシュウェイヴがどこかむっとしたような顔でこちらを見つめていた。


「ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてて……」


相槌を打ち損ねたことを咎めているのかと思い慌てて弁明するが、フラッシュウェイヴは表情を変えずシンダーレインに詰め寄った。


「……らしくないじゃない」


フラッシュウェイヴはそう言ってシンダーレインと鼻を突き合わせる。
琥珀色の透き通った瞳がきらりと輝いた。


「いつもはムクドリみたいに一日中囀っているあなたが、こんなに静かなんだもの」

「ムクドリって……」


シンダーレインは訳も分からずフラッシュウェイヴを見返した。
緑の目を瞬かせるシンダーレインをしばらく見つめていたフラッシュウェイヴは、やがて花が咲いたようにふわりと笑った。


「ほら!そんな顔してると、幸せが逃げちゃうよ!」


きょとんとしていたシンダーレインは、しばらくしてついに顔を綻ばせた。


「なに、それ」

「私の座右の銘!幸せは笑顔の元にやってくる!」

「はじめて聞いたけど?」

「はじめていったもん」


あはは、と笑い合うと、すうっと頭の中から不安が消えていくのを感じた。
あれだけ脳内にまとわりついて離れなかった霞が晴れていくのを感じる。


幸せは、笑顔の元にやってくる。


なるほど、たしかにそうかもしれない。


雲ひとつない青空のようにすっかり晴れ渡った気持ちで、シンダーレインは向日葵のような彼女の笑顔を見つめた。

この親友は、かけがえのない私の陽だまりだ。
不安の北風に吹きさらされる私の心は、いつもこの暖かな光に守られている。


そう、自分には、この陽だまりさえあればいい。


今、この親友とこうして笑い合えているなら、例え自分に何が欠けていてもいいとさえ思った。



「ふう、なんかすっきりしたかも」

「それは何より。さあ、お昼ご飯食べましょ」


二匹はいつものようにしっぽを絡めた。
黒っぽい炭色と明るい銀杏色が一度混じり合い、するりと解けて軌道を描く。

この仕草は、いわば二匹の合図のようなものだった。
深い意味は特にない。ただ、お互いが今日も変わらずそばに居ることを証明する、ちょっとした約束事のようなもの。
これから先もずっと、変わらない日常をおくることを約束する、秘密の合図。




頭を振って意識をはっきりさせ、気持ちを切り替えようとしたその時、突然稲妻の如くものすごい勢いで、猫が一匹、キャンプに飛び込んできた。


「族長!いますか!」


現れたのは弟、ホークシェイドだった。
毛を逆立て、赤みがかった瞳は緊張をたたえてわずかに見開かれている。
いつも自分のペースを崩さない弟がこんなに取り乱すなんて、よほどの何かがあったのだろうか。


「何かあったのか、ホークシェイド?」


ホークシェイドはビックロックの割れ目から慌てて出てきた族長と目を合わせると、一度キャンプの中をぐるりと見渡す。
その視線がシンダーレインを捉えて止まると、ホークシェイドは心なしかほっとした表情を見せた。
一方、焦らされている一族は徐々に不安や焦りをあらわにしてざわめき始める。
気の短い女戦士のリトルプールが爪を出したり引っ込めたりしながらじれったそうに地面を叩いた。


「ちょっと、何の騒ぎよ!早く話しなさいったら」

「落ち着け、リトルプール。みんな、静かにしてくれないか」


グリーンスターはたちまちキャンプ中に広がりだした喧騒をしっぽをふって鎮めると、ホークシェイドに続きを促した。
ホークシェイドは深呼吸をして呼吸を整えると、ようやく口を開いた。



「東の岩場から、見たことのない猫が……大勢の猫が、我々の縄張りに向かってきています」





ストームクロ―【嵐の爪】
青い目の濃い灰色の雄猫
生真面目で律儀な年少戦士

リードクロー【アシの爪】
琥珀色の目の小柄な濃いショウガ色の雄猫
こどもっぽく猪突猛進な性格。ストームクロ―と仲良し

リトルプール【小さな池】
緑の目の小柄な黄金色の雌猫
年長だが小柄な身体がコンプレックス。気が短い
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by 明日輝 on Sun Apr 01, 2018 9:14 pm

おおお、ドキドキの展開ですね!!
いつも楽しく拝見させていただいています

猫ちゃんたちのテンポ抜群の会話が大好きです
しかも突然、空気が変わったように物語が動き始めて……!
引き込まれます(*^^*)
一番好きな猫ちゃんはトゥモローポー、と言いたいところですが、スノウブリーズですかね!
もちろん彼女の活躍も願っておきます笑

サニー族に過去に何があったのか、これからどうなっていくのか
楽しみにしながら、応援しています!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Tue Apr 03, 2018 5:13 pm

明日輝さん!!お久しぶりです…コメントありがとうございます!!

もはや誰も見ていないものと思っていたのですが…楽しんでいただけているのなら本望です…
嬉しすぎるお褒めの言葉の数々…感無量です…!

トゥモローポー…トゥモローさんだけにですね!w
モブというのがもったいなく思えてきました…こっそり出番を増やせるよう検討します…w
スノウブリーズも主人公なりに人気を得ているようで安心しましたw
シンダーレインに負けじと主人公を頑張って頂きましょう!

サニー族の過去の全てが明らかになるのはだいぶ後…というか、
そこまでたどり着けるかどうか…という体たらくですが…
楽しみに待っていただけるのなら、一刻も早く続きを書かねばと意欲が湧いてきます!!

ありがとうございます!!ご期待に答えられるよう尽力いたします!!
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Tue Apr 03, 2018 6:10 pm




第十章 夕闇の呼び声









スノウブリーズは心に誓った。



必ずや、あの裏切り者の血を引く悪鬼の企みを暴き出し、最愛の彼女の復讐を果たしてやる、と。





「スノウブリーズ!」


「……っ、」



鋭い声にはっと顔をあげると、シェイドウィングが普段の無表情よりいくらか剣呑な面持ちでこちらを見据えていた。
涼やかな琥珀の双眸が冷えた脳髄に突き刺さる。


「思考に溺れすぎるのも考えものだな」


シェイドウィングは一対の夏空にしっかりと捉えられたことを確認すると、すっかりいつもの調子に戻りきびきびと身体にくっついた木の葉を落としはじめた。
ヒルハートがぽん、とスノウブリーズの頭に長いしっぽをのせる。


「さ、そろそろ帰るぞ」

「こんな辺鄙な場所で油を売る趣味は生憎私にはない」

「……別に、俺だって好きでこんな……」


言い訳交じりに荒々しい岩場を一瞥する。憎き漆黒の影はどこかに消えていた。
シェイドウィングはそんなスノウブリーズの呟きを真っ向から無視して続ける。


「それに、私は午後からフェザーポーの訓練を予定している。……空を見ろ、もうすぐ正午だ」



シェイドウィングの有無を言わせない口調に、渋々スノウブリーズは帰路についた。
アクアロックスを下る道中で、ヒルハートが心もとなげに口を開いた。


「やっぱり俺、クロウスカーのことが心配だよ。ひとりであんな所に行くなんて」

「ふん。たとえそれで死んだとしても、自業自得だ」

「お前なあ、仮にも同期の仲間に、ちょっと冷たすぎるんじゃないか?」

「あいつは仲間なんかじゃない!」


スノウブリーズは鋭く吐き捨て、毛を逆立ててヒルハートに向き直った。


「あいつはあのサンダーアイの息子だ、忘れたのか?」

「あいつ自身が何かしたわけじゃないだろう」

「あいつは……!」


後に続くはずだった言葉をぐっと飲み込み、スノウブリーズは鉤爪に力を込めた。
岩肌に立てられた爪が擦れ、嫌な音を響かせる。

ヒルハートは何も言わず、ただ穏やかな目でスノウブリーズの次の言葉を待っていた。


どうしてこいつは、あいつを仲間だと言えるんだ。
あの絶望を、あの悔恨を、忘れたわけでもないだろうに。



「……ロックフォートにひとりで登っていた。それが何よりの証拠だ」

「まだ証拠じゃないよ、それはお前の憶測だ」


ヒルハートのまるでこどもに語りかけるような優しい口調に腹が立ってくる。
言葉で殴っても返ってこないもどかしさに八つ当たりしそうになるのを必死にこらえていると、ヒルハートの方から口を開いた。


「……あー、もうわかったよ。もう何も言わないから」

「は?」


肩をすくめたヒルハートに、スノウブリーズは思わず脱力した。
逆立てていた毛を寝かせ、納得がいかない、とヒルハートを睨む。


「だから、機嫌直せって」

「お前ほんと……ずるいな」

「はは、なんでそうなるんだよ」

「兄者は喧嘩が苦手だからな」


言い争いに一言も参加しなかったシェイドウィングがはじめて口を開いた。


「争わないから、一方的にこちらが駄々をこねているように感じてしまうのだ」

「あー、それだよ。だからめちゃくちゃ苛つくんだ」

「えー、こちとら怒りを静めてもらいたくてだな……」



ヒルハートの優しさは罪だ。
こういう手合いは、善人に対してしか通用しない。
あいつはいつか、優しさを知らない悪人に裏切られるに違いない。
悪を知らないこいつは、裏切られた時何を思うのだろうか。




「そういえばシェイド、訓練は順調か?」


再び沈黙が流れようとしたところで、ヒルハートがシェイドウィングに当たり障りのない話題を投げかけた。


「無論だ。特にフェザーポーは才気に溢れる逸材と言ってもいい」


シェイドウィングは少しだけ言葉の端に誇らしげな響きを滲ませる。


「彼女は何事も苦労なくやり遂げてみせる。故に私も、より彼女を高みに導くことが可能になるのだ」

「へぇ、なかなか楽しそうじゃないの。いいなあ、俺もまた弟子ほしいなあ」

「うむ、やはり指導者として後進の教育に腐心するのは良いことだ」

「……そうか」


そりゃあ、よかったな。相槌を打つ語尾が無意識に掠れて消えた。


小川を渡り、埋めておいたネズミを掘り返して運び、キャンプの入り口まで来ると、ヒルハートがこちらを振り返った。


「まあ、クロウスカーのことは俺が一応族長に報告しておくよ。先に昼飯でも食べてて」

「承知した」


ヒルハートは一足先にハリエニシダのトンネルを通ってキャンプへ入っていった。


続いてキャンプに入ろうとすると、裏口に続く獣道の近くで何やら小さい影がうろうろしているのが見えた。
青灰色のふわふわした毛並み。フェザーポーの姉のフォグポーだ。


「あいつ、あんな所で何やってんだ」


フォグポーはこちらに気づくと一目散に駆け寄ってきた。


「おふたりとも!フェザーポーは一緒じゃないんですか?」

「生憎な。そういうあんたこそ、一緒じゃないのか」

「朝からずっとキャンプにいないから……てっきり先輩たちといっしょにいるものだと……」


フェザーポーが近くにいないことに気づいたフォグポーは傍から見てもしょんぼりとうなだれた。
あのポーカーフェイスの妹とは違い、ころころ表情が変わる素直な奴だと、スノウブリーズは幼い顔にあの紫の瞳を想起しながら思った。


「それは困った。これから訓練なのだが」

「残念ですが、訓練は出来ませんよ」


澄んだ声が突然割って入ってきて、三匹は一斉にキャンプの裏側の方へ振り向いた。


「フェザーポー!どこに行ってたの?あたしに何もいわないで!」

「別に、ただの散歩」

「今は浮浪猫が彷徨いてるのよ!危ないじゃない!」

「無事に戻ってきたんだから、いいでしょ」


フェザーポーは鬱陶しそうにフォグポーを鼻面で押しのけた。
シェイドウィングがさりげなくフォグポーをしっぽでなでて落ち着かせた。


「確かに、誰にも所在を伝えずに一匹でキャンプを抜け出すのは、感心しないな」


フェザーポーに向き直って、シェイドウィングは続ける。


「ところで、訓練ができないと言ったが、どういうことか説明してくれるだろうか」

「ああ……猫の集団が東の岩場からやってきたんです。それで……」

「猫の集団だって!?」


スノウブリーズが驚いて口を挟んだ。あのシェイドウィングでさえも耳をぴんと立てて驚いている。
前代未聞の出来事に震えが走る。ぐるぐると不安が頭を駆け巡るのを感じた。

集団で行動する浮浪猫の後に続いて現れた大勢の猫。
このふたつは関係があるのか?
徒党を組んでサニー族を襲撃しにきたのか?
でも、だとしたら何のために?


「落ち着いてください。現状、集団のほうに敵意は見られません。族長と話がしたいらしくて」

「昨日の今日浮浪猫に襲われたばかりなのに、信じられるかよ、そんな話!」

「気持ちはわかりますが、私に言われても困りますよ」


フェザーポーはいらいらとしっぽをふった。先ほどヒルハートと言い争った名残か、思わず見習いに当たってしまった罪悪感で、スノウブリーズは小さく謝る。
それにしたって、猫の集団がサニー族に接触してきたというのに、この見習いはどうしてこんなに落ち着いていられるんだ。


「それに関する緊急集会が開かれていて、指示があるまでキャンプから出られないので、訓練はきっと出来ませんってことです」

「あたし達以外にも群れで暮らしてる猫たちがいたのよね!どんな生活をしてきたのかしら?少しわくわくしちゃう!」

「あなたはほんと、お気楽よね、フォグポー」


目を輝かせるフォグポーに、フェザーポーがため息をついた。


「事は理解した、が」


シェイドウィングが弟子を見つめて首を傾げた。


「フェザーポー、きみは先ほどまでキャンプにはいなかったのだろう。なぜそのことを知っているのだ?」

「……あー……その」


フェザーポーはやってしまったというように軽く天を仰いだ。
何か後ろめたいことでもあるのだろうか。スノウブリーズは見習いの不思議な瞳を覗き込んだが、相も変わらずその菫色は落ち着きを保っていた。
相変わらずこいつは、何を考えているのかわからない。


「散歩の途中で、たまたま聞こえてきたんですよ。そういうことにしておいてください」

「なんだよ、その言い回しは……煮えきらねえな」

「ふむ……仕方ない。そういうことにしておこう」

「お前もそれでいいのかよ」


フェザーポーが何かを隠しているのは明らかなのだが、どうにも真意が見えてこない。
適当なことを言っているだけなのだろうか。
そもそもただの見習いが、大きな秘密を知っているような、浮浪猫と関係する重要な立場についているとは考え難い。

しかし、どうにもこいつには、他の猫には見えない何かが見えているような気がしてならない。





「お前はさ」


キャンプに戻ろうとするフェザーポーを呼び止め、スノウブリーズは小声で話しかけた。


「今日大勢の猫がやってくること、知ってたのか?」


フェザーポーはふわりと振り向いた。岩場から吹き下ろしてきた風が木々を揺らしてざわめく。
曙色の不気味な瞳は、やはり日常とはかけ離れた幻想的な光を放っている。


「……それを知って、あなたは何をしてくれるんです?」

「いや……ただ、お前が何かを隠しているなら、サニー族の敵にもなり得るからな」

「……なるほど」


フェザーポーはゆっくりと瞬きをして、スノウブリーズをまっすぐ見つめた。
一対の昼と夜の境目の色の奥に、星の輝きが見えた気がした。


「いずれ、全てが明らかになる時が来るでしょう。それが手遅れにならないことを、祈ってますよ」







キャンプの入り口のトンネルを抜けると、ちょうど出かけようとする族長と鉢合わせた。
族長と副長、そして手練の戦士、タロンフェイスとアッシュフェザー、ラッシュクロ―を連れている。


「猫の集団に会いに行くんですか?」

「おや、知っているのかい?まあ、あちらの長が会いたいと言ってきたなら、応えるのが礼儀だろう」

「待ち伏せ攻撃の可能性だってあるのに、そんな簡単に敵地に踏み込んで良いんですか」

「それについてはさんざん言われたよ。大丈夫、気をつけていくから」


族長の表情には緊張が浮かんでいる。
確かに、連れているのは年長の戦士ばかりで、全く相手を警戒していないというわけではなさそうだが、なぜか族長は、攻撃を受けることはありえないと確信しているように見えた。

族長も、ヒルハートと同じで疑うことを知らないのか。

寧ろあいつのお人好しは、族長から受け継がれたのか。


スノウブリーズは出発する族長の後ろ姿を眉を顰めて見送った。



このままではサニー族は、得体の知れない集団に騙され、芯まで食い尽くされてしまうかもしれない。

取り返しのつかないことになる前に、自分が何とかしなくては。












そらさけ10章到達記念ラジオ

スノウブリーズ:はいお久しぶりですリスナーの皆様、やってまいりましたそらさけラジオ…
        ってお久しぶりすぎるだろ!どんな不定期配信だびっくりするわ!
        そもそもこのコーナーお蔵入りじゃなかったのかよ!
ヒルハート:まあまあおちつけって、せっかく10章到達記念配信なんだから
      さて今回は、本編でスノウに褒められてるのか貶されてるのかわからないヒルハートと、
スノウブリーズ:…心の内を知られて恥ずかしさで死にたいスノウブリーズでお送りいたします…

ス:まあ三章のラジオの「執筆スピードが亀並みになっても止まりゃしない」っていう見事なフラグを回収したわけだけど
ヒ:再開したから…いいじゃない、ね?
  っていうか、お前思考回路物騒すぎない?
ス:てめーらがお気楽なだけだっつーの。そういうのはあとでいろいろやるんだからいいだろ

ヒ:そうそう、作中でお前がいちばん好きっていってくださっている方がいるぞ
ス:…えっ……いや、だって俺…一度存在を消されかけた身なのに……
ヒ:それまだ引き摺ってんのかよ(笑)
  よかったな、ちゃんと認知されてるぞ
ス:……(毛繕いをする)……期待を裏切らないように、これからも精一杯やるだけだ
ヒ:照れんなよ、嬉しいくせに
ス:うるせえ!次行くぞ、次!!

ス:次回予告のコーナー!
  次回はあの脳天気な新米どもが脳天気に会話しやがる脳天気な回だ!
ヒ:私怨こもりすぎだろ!
  え~っと…この後も、サニー族の過去にも関わる伏線をいろいろ仕込んでいるから、楽しんでくれれば嬉しいな
ス:…あと、変な旅鴉に会ってきた族長の言葉にも、注目してくれよ

  第十一章 夜霧の侵蝕

  すぐに投稿できればいいがな
ヒ:おいおい、そういうのはこういう場所でいうもんじゃないぞ?
ス:うるせえ、黙ってろ
ヒ:反抗期の息子か、お前は

ヒ:これからも思い出したように不定期配信するかもしれないそらさけラジオも、よろしくな!
ス:不確定要素多すぎるだろふざけんな
ヒ:それでは、ここまでご覧頂いてありがとう!お相手はヒルハートと
ス:スノウブリーズでした。…すまないが、気長に待ってやってくれ
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Re: 空が裂けた日 -A Misfortune MEMORY-

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