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花吐き時雨 【短編】

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花吐き時雨 【短編】 Empty 花吐き時雨 【短編】

投稿 by ヒーステイル Wed May 18, 2016 2:19 pm

いつからか、僕はこの美しい花の名を知りたいと思うようになった。





















 「ちがうんです。ほんの、ほんの出来心でっ・・・ちゃんと他の小説も、あの、はい、いえその、短編だからいいかなって・・・へへ」
  その後彼女の姿を見たものは誰ひとりとしていなかった____







本当すみません。ヒースです。もう生卵投げつけてくれて構わないです。寧ろお願いします。卵かけごはんって美味しいですよね。すみません真面目にやります。
今回こそは本当に短編です。信じてください・・・同情するなら文才と根気をくれぇっ
暇な時に見てくださると嬉しいです。舞います。なお、本編は一切「花吐き乙女」様には関係ありません。
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花吐き時雨 【短編】 Empty Re: 花吐き時雨 【短編】

投稿 by ヒーステイル Wed May 18, 2016 2:47 pm

シオン






 ある日から、僕は突然花を吐くようになった。

 体液とか毛玉とか、そういう比喩ではない。僕は、ぽろぽろと薄紫の花を口からこぼした。

 飲んでも飲んでも湧き出る水のように、花は僕の中から溢れて止まらない。胃の中がぐるぐるして気持ち悪かったけど、特有の酸味はなく、僕は悪い薬草でも食べてしまったのかと思って、看護猫に診せにいった。

 彼女は最初、僕の話をくすくすと可笑しそうにきいていたけど、突然、僕が薄紫の花を一輪、二輪と零すと、飛び上がって悲鳴をあげた。

 僕の病はあっという間に部族に知れ渡った。

 看護猫は僕を長老部屋の奥に隔離し、長老たちは歯を剥いて僕を詰って部屋から出て行った。戦士たちは警戒した目つきで僕を見、見習いたちは怯えの中に侮蔑を孕んで、僕を遠くから罵った。

 僕は茨に囲まれた狭い部屋で、ひとりになった。

 誰も僕に声をかけない。遠くから、鋭く尖った言葉の棘が飛んで来る。

 僕の周りには、薄紫の花と、濃い紫の小さな花が転がっていた。目頭が熱くなる。雫の代わりに零れたのは、やはり一輪の花だった。

 太陽が僕を見放すように地平線の彼方へ沈んでゆく。キャンプでは族長の長い鳴き声が聞こえ、一族の集会が始まった。

 きっと僕のことだ。

 僕は、喉に湧き上がってくる花を飲み込もうと上をむいた。花を吐かなければ、僕はまた皆に受け入れてもらえるかもしれないと思った。

 ぐい、と下に押された花は、僕の喉の筋肉を無理やり押し上げて、口から宙へと弾ける実のように飛び出した。

 空に花が咲き乱れる、なんて。

 ハリネズミが空を飛ぶよりありえないことだ。

 ありえないことだ。だって、それはおかしいんだから。

 おかしいことなのだから。

 だから、

 僕は、

 
 足元を紫の花が埋め尽くす。それはとてもとても綺麗で優雅な光景だっただろう。

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花吐き時雨 【短編】 Empty Re: 花吐き時雨 【短編】

投稿 by ヘザーストーム Wed May 18, 2016 3:39 pm

一コメげっとですw
はじめまして!ヘザーストームといいます。
最初から面白いです…!花を吐くっていう発想がとても面白いと思います…!
執筆頑張ってくださいね!

誤字あったので編集しました。

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花吐き時雨 【短編】 Empty Re: 花吐き時雨 【短編】

投稿 by ヒーステイル Fri May 20, 2016 11:30 am

ヘザーストーム wrote:一コメげっとですw
はじめまして!ヘザーストームといいます。
最初から面白いです…!花を吐くっていう発想がとても面白いと思います…!
執筆頑張ってくださいね!

誤字あったので編集しました。

初めまして!コメありです。
ありがとうございます!ですが、花を吐く、というのには元ネタがあります。良かったら検索してみてください。
お互い頑張りましょう!
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花吐き時雨 【短編】 Empty Re: 花吐き時雨 【短編】

投稿 by ヒーステイル Fri May 20, 2016 12:26 pm

アネモネ






 ___おい、


 僕を呼ぶ乱暴な声がした。脇腹が強く、かたいもので突かれる。

 僕はうっと呻き声を上げて、焦点のあわないまま彼を見上げた。

 彼は紫の花を四肢で踏み潰し、僕に顔を寄せた。目に鼻がつきそうなくらいまで顎を突き出すと、黄色っぽい歯を剥いて低く唸った。

 「お前は今から一族の仲間ではなくなる。どういうことかわかるな?さっさと身支度をしてキャンプから出て行け。敏いお前なら、俺の・・・俺達の言うことをきいてくれるよな?」

 彼は一歩下がると、僕を耳の先から尻尾の先端まで時間をかけてゆっくり見た。また、花がぐしゃりと音を立てて潰れた。

 足元の覚束ないまま、何がどうなっているのかわからないまま、僕は立ち上がってイバラの部屋を抜けた。

 いや、本当はわかっていた。

 キャンプには大勢の猫たちがいた。口から桃色の花弁をはらはらと零す僕を見て、彼等はぎょっとしたように耳を立てた。

 本当は知っていたくせに。僕には彼等が憎らしい。もう仲間と呼べなくなった彼等が。

 キャンプの真ん中を裂くように歩いて行くと、さっと一族は身を引いて避けた。離れたところから、族長が胸を張って成り行きを見ている。

 「二の舞いにはなるまい」

 「ええ。あの子は敏い。ただし、星に見放された身だった・・・それだけです」

 「天に嫌われては、もう部族ではくらせない」

 僕を刺す。

 刺される。

 尖った木の棒のように、視線が僕の心臓をぐちゃぐちゃに引き裂いていく。

 ズキン、と頭の横に衝撃が走った。僕が咳き込むと、濃い桃色の花がボロボロと溢れて地面に落ちた。

 「早く出て行って!」

 甲高い、怯えと怒りの混じった悲鳴があがる。

 子猫がぱっと飛び出してきて、花を一輪咥えあげると、母親の元まで戻ってじゃれついた。僕に懐いていたあの子さえ、僕をいないものとしている。

 母猫は花を前足で叩き、ぐしゃりと潰して子猫を叱った。彼女は、僕の面倒をよく見てくれた一族のマドンナだった。

 僕にはもう関係ないのか。

 足が止まっていた。激しい感情の波が押し寄せてくる。僕は嘔吐き、自らが吐き出した花を踏み潰してキャンプを抜けた。きっと、縄張りを出るまで、僕は視線に心臓を抉られ続けなければならない。

 無意識に僕は走りだした。

 体がシダやイバラを突き抜ける。棘のついたツタが毛皮に引っかかって痛い。でももうそんなことどうでも良かった。

 ズキンズキンと頭痛がする。耳鳴りが酷い。イバラが僕の首を締め付ける。

 僕は縄張りの外れの坂を転がり落ちた。視界の橋で、きらきらと花弁が舞った。

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花吐き時雨 【短編】 Empty Re: 花吐き時雨 【短編】

投稿 by ちくわ猫 Fri May 20, 2016 6:28 pm

花を吐くなんて、すごいですね cyclops
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投稿 by ティアーミスト Sat May 21, 2016 3:27 pm


新小説おめでとうございます、いや、生卵なんてそんな笑 むしろ玉子焼きを作って差し上げたいほどにこの短編が好きです!←

花を吐く主人公の絶望感と周りの猫たちの差別、そして美しい花の描写が混じりあってうるっときちゃいます(´・ω・`)

おうえんしてます、執筆がんばってくださいっ
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投稿 by ヒーステイル Sat May 21, 2016 5:05 pm

ちくわ猫 wrote:花を吐くなんて、すごいですね cyclops

初めまして!コメありです。
ですよね、私もネタを見た時凄いなあと思いました^^
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投稿 by ヒーステイル Sat May 21, 2016 5:07 pm

ティアーミスト wrote:
新小説おめでとうございます、いや、生卵なんてそんな笑 むしろ玉子焼きを作って差し上げたいほどにこの短編が好きです!←

花を吐く主人公の絶望感と周りの猫たちの差別、そして美しい花の描写が混じりあってうるっときちゃいます(´・ω・`)

おうえんしてます、執筆がんばってくださいっ

コメありです!
玉子焼きつくってくださるんですか!w嬉しいですw褒めたって何もでませんよ(*´艸`*)
ありがとうございます!花の表現は難しいので、もっと勉強したいです・・・
ティアーsも頑張ってください!
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Sat May 21, 2016 5:54 pm

『花吐き時雨』……題名かっこいいですね!かっちょいーです!
猫が花を吐くだなんてちょっと素敵ー……みたいな。
吐き出す花の種類は多種多様なんですかね?薔薇とかパンジーとか菫とか……(藤の花が好き)

主人公の感情表現が上手で、胸が痛みます……ひっそりこっそり応援しています^^
ウィンターリーフ@冬葉
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投稿 by ヒーステイル Sun May 22, 2016 10:45 am

ウィンターリーフ@和風が好み wrote:『花吐き時雨』……題名かっこいいですね!かっちょいーです!
猫が花を吐くだなんてちょっと素敵ー……みたいな。
吐き出す花の種類は多種多様なんですかね?薔薇とかパンジーとか菫とか……(藤の花が好き)

主人公の感情表現が上手で、胸が痛みます……ひっそりこっそり応援しています^^

コメありです!
そうですね、花は展開によって増えていきます。
うああありがとうございます!ウィンターsも頑張ってください(●´ω`●)
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投稿 by ヒーステイル Wed May 25, 2016 7:19 pm

コチョウラン







 暖かな光が僕をふわりと包み込んでいた。

 僕は坂の下で、仰向けに倒れこんでいた。腹を晒すなんてみっともない。僕は羞恥で耳を火照らせたが、すぐにもうそんなことはどうでもいいのだと知った。

 だって、僕はもう命を尊ぶべき生き物ではないのだ。

 僕は首を曲げて自分の体を見た。

 緑の草と、イバラの棘、それと小さな花弁が毛皮にくっついて、ぐちゃぐちゃと無様だ。

 僕を舌を突き出して、毛皮の流れにそって、ゆっくりと毛づくろいをする。足を浮かすと、ズキリと傷んだ。

 僕は一日気を失っていたんだ。

 直感的にそう思った。頭上を、黄色い蝶が飛んでゆく。

 耳を済ましても、勇ましく獰猛な猫たちの声は聞こえない。縄張りから随分外れたようだった。ここはどこだろうか、と首を傾げていると、

 「目は覚めた?」

 坂の上から、雌猫が下ってきた。ゆっくりな足取りと共に、毛足の長いクリーム色の毛が揺れる。緑の瞳は太陽の光を集めたように眩しかった。

 僕は彼女に目を奪われた。ぽかんと開けた口から牙を覗かせ、僕は彼女に魅入る。

 「どこか怪我はしていない?頭は打ってない?」

 彼女が僕に問いかける。緑の瞳を優しく輝かせたまま、僕達の距離が縮まっていく。

 うっと僕はうめいて体を折った。

 頭が痛い。骨がネズミにかじられたようにズキズキしている。目がぐるぐる回って、全身の毛が逆立った。

 ぽろり、と白い花が一輪零れた。

 僕はあっと息を呑んだ。自分が青ざめていくのが分かる。もうここにはいられないのだ。彼女の瞳も、もう見れないのだ。

 しかし、雌猫は微笑んだまま何も言わなかった。

 「・・・どうして何も言わないの?」

 僕は初めて口を開いた。初めて鳴いたカラスの雛のように、ひどく嗄れた。

 「あら、言ってほしかったの?」

 くすくすと彼女が笑う。耳を傾けて、体全体で優しい笑みを表している。

 「とにかく、まず体を休めたほうがいいわ。私は、水を持ってくるから」

 彼女が朗らかな声で言う度に、頭の奥が痛くなる。脳裏に笑顔がちらついた。僕は、何か大切なものを失くしたのではないだろうか。

 ・・・もうそれも思い出せない。

 彼女が小さく咳をし、ぱっと身を翻して森の方へ走っていった。水をとってくるのだ。

 僕はまだここにいていいんだ。僕は嬉しくなって、自分の吐いたたった一輪の花を蹴散らして、さっきまで雌猫がいた場所に跳んだ。

 ぐしゃりと足が何か踏む音。

 僕は、濃い紫と黄色の小さな花を踏み潰していた。肉球に、花弁が器用に挟まっている。

 花は、彼女に見入って盲目になっていた僕の足元に、無数と広がっていた。


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