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WAR OF CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】

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投稿 by ラッキークロー Mon Jun 22, 2015 4:54 pm

WAR OF CATS
~ブラックウォーズとフールの勇者~






世界説明

 人間が住む世界から遠く遠く離れた世界での物語。

 動物たちが高度な文明と知能を持ち、自然とともに幸せな生活を送っていた。が、現在の時代は、いつ終わるのか見当もつかない戦いと混乱と暴力の時代。各地で紛争や武力衝突が起き、戦士を職業にするものが多くいた。
 特に賢い頭脳を持つと言われた猫たちの争いはすさまじく、王に戦いを仕掛ける貴族、族長が後を絶たなかった。中でもティフォンと言われる集団と王の戦いは熾烈を極め、フクロウやシカといった動物たちまでもが、この戦いに巻き込まれることとなる。

 のちに、この大戦争はこう呼ばれることとなる__
 
 『WAR OF CATS』__猫たちの大戦、と。




 


最終編集者 ラッキークロー@サクラサク [ Thu Mar 17, 2016 1:29 pm ], 編集回数 10 回
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投稿 by ラッキークロー Mon Jun 22, 2015 4:59 pm




用語説明

 オリンポス軍_猫たちの王国オリンポス王国国王が作り上げた軍隊。ティフォン軍に対抗するために作られ、主に猫、フクロウ、シカたちからなる。地方の部族の猫たちや孤児となった子猫たちが次々と入隊しているが、勢力を増すティフォン軍が脅威となっている。
 ティフォン軍_約十年前ごろから姿を現し、以後勢力を拡大し続ける反王国集団。第一代目総司令官ラスモスの唱えた、すべての幸福は権力者のもとの徹底的な束縛から生まれる、という考えをもとに、この世界を支配しようともくろむ。非人道的な行いをし、虐殺や誘拐にも手を染める。

 魔法_古の時代から代々この世界に伝わる、『形を持たぬ奇跡』。訓練を積むことによって誰でもある程度身に着けられるようになるが、種や年齢、そして個人の能力にも大きくその力は左右される。猫、フクロウ、爬虫類が身に着けやすい。

 ブラックウォーズ...『黒の大戦争』_二十五年前に起こった、炎の地を中心とする地域での大戦。猫をはじめとし、フクロウ、シカ、ヘビ、アナグマ、さらにはトカゲやカモメ、クマまでが参戦した歴史史上最大の戦争。ソルファ軍(現オリンポス王国)対、黒魔術を使うアファー軍の戦いだった。ソルファ軍に現れた戦士、ファイア・ビトゥレイアの活躍により戦いは終わり、アファーは殺され、アファー軍は壊滅する。その後、ソルファがオリンポス王国を建国し、ビトゥレイアはその地位を引き継いだが、現在行方は不明。戦争による死者は戦士以外の民も含め、一万を超えたといわれる。

 オリンポス校_オリンポス軍がティフォン軍に対抗する戦士を養成するための施設。地方の部族からや単独猫、または孤児の子猫が入学する。一年生、二年生、三年生に区別され、生後六か月から入学を許可される。学年の中でΑ(アルファ)、Β(ベータ)、Ω(オメガ)の三つのランクに分けられる(主に出身部族や血筋によって決められる。そのためΑランクには貴族出身の猫も多いが、最低ランクのΩランクには浮浪猫や孤児の猫も所属する)。ランクの中で、さらに『大将』と呼ばれる代表の猫が決められる。卒業後はそのまま戦士となり、卒業生は比較的高い地位につきやすい。魔法を使う訓練を行い、その過程として『戦争』と呼ばれる模擬戦を実施する。

 『戦争』_「テスト」「特別な訓練」ともいわれる。ランク戦、または学年戦で、魔法、または戦闘の技術を使い戦う。どちらかの『大将』が打ち取られた時点で終了する。『戦争』では武器を使ってもよいが、相手を殺す、また訓練ができなくなるような重い怪我を負わせてはならない。『戦争』を行うときはオリンポス校すべてに魔力が張られ、万が一致命傷になるであろう攻撃がされた場合、攻撃された猫の命を守る魔法がかけられる。そのため『戦争』時にはほとんどの生徒がルールを破り、全力で勝利をとりに行く。


戦士の階級、しくみ
  ◆軍隊の中で戦士たちは総司令官を除く十一の階級に分けられる。階級は完全な能力順であり、年齢は関係しないが、
   長年軍に入っていた猫なら、最低でも皆大尉の位には就く。

   ◇総司令官:軍最高の位。九つの命を魔法により得る。戦士たちの畏敬と憧れの存在。国王。
   ◇大将:かなりの権力を持つ。大将の中でも最も勲章、功績のあるものが総司令官の位を継ぐ⇒◇中将⇒◇少将⇒
   ◇大佐:ここまでくればかなりのもの。戦士たちの目標⇒◇中佐⇒◇少佐⇒
   ◇大尉:そこそこの権力。長年軍にいればこのくらいにはなる⇒◇中尉⇒◇少尉⇒
   ◇曹長:戦士に命令することのできる権限が初めて与えられる⇒◇軍曹⇒戦士⇒三年生⇒二年生、一年生(見習い)


地形と各所説明
 
 オリンポス領_猫たちの住む巨大な森林地帯。オリンポス軍の拠点がある聖ギリシャ森林をはじめとし、オリンポス校を囲むトウェルブ断崖、オリンポスの滝、ブラニークフォレスト、荒れ地のロワールプレーンズの一部、ロワール川の一部などを含む。

 フクロウ森林王国_ロワール川沿いにある王国。フクロウが主に暮らす。

 スネーク砂漠帝国_かぎ爪砂漠一帯に広がる帝国。ヘビたち、フクロウたちなどが住む。

 炎の大地_ローツ山脈からくちばし火山まで広がる活火山地帯。孤児院のファイア・チルドレン院がある。

 氷の国(民主フレフ国)_極寒の地。ノワーム湖や傷跡湾があり、クマや犬、トナカイなどが住んでいる。未開の地であり、オリンポス王国でさえうかつに足を踏み入ることができない。

 荒れ果て林_フクロウ森林王国の近くにある、シカたちの住む地域。

 ビシェフラト湖_ローツ山脈の左側に位置する大きな湖。ロワール川が流れ出ている。北ひづめ島、南ひづめ島がある。北にある傷跡湾がティフォン軍の拠点。


登場キャスト紹介

 オリンポス陣営


【オリンポス校】

  フェイ★黒い毛に胸元が白い、美しい雌猫。目は緑色。一年生Ωランク『大将』。 
       男らしい明るい性格。何事も上手にこなし、人望も厚い。両親は大将と少将。

  リング★黄褐色にとら柄の雄猫。目は青。一年生Ωランク。
       フェイの幼馴染で親友。純粋で、まっすぐな性格。両親はすでに亡くなっている。兄は少将。
 
  ナノハ★三毛の雌猫。目は赤色。一年生Ωランク。
  バロン★黒っぽい灰色の雄猫。目は深紫色。一年生Ωランク。
  ラギ★濃い灰色にまだら模様のある雄猫。目は琥珀色。一年生Ωランク。

  アズフィール★真っ白な雌猫。目は深い青色。一年生Αランク『大将』。
  ローガ★腹だけ茶色い、黄褐色の雄猫。目は橙色。一年生Αランク。
  フロア★鈍色と黒の雌猫。目は黄色。一年生Αランク。

  スカイグ★灰色に黒い縞柄の雄猫。目は緑色。一年生Βランク『大将』。
  ドミノ★クリーム色と白に斑点のある雌猫。目は紫色。一年生Βランク。

  ボルム★くすんだ灰色の大柄な雄猫。目は琥珀色。教官、軍大佐。
  イフティー★銀色に縞柄の雄猫。目は紫。教官、軍少佐。


【オリンポス軍】

  ティート★しょうが色の雄猫。目は青色。オリンポス軍の創立者、総司令官、オリンポス国国王。        
  プロメタリア★淡いしょうが色に、足先が白い雌猫。目は緑色。大佐。

  イルク★薄茶とこげ茶の雄猫。目は琥珀。大将、ビシェフラト湖包囲隊の司令塔。フェイの父親。
  リエル★斑点のある灰色の雌猫。目は橙色。少将。フェイの母親。元浮浪猫。
  アーマゴールド★金茶色の雄猫。目は琥珀色。少将。リングの兄。
  ミリディス★クリーム色の雌猫。目は琥珀色。左耳にピアスをつけている。リエルの従者。大尉。


【フクロウ隊≪アルバ団≫】

  スターソルジャー(スターナ)★雄メンフクロウ。アルバ団総司令官、オリンポス軍フクロウ隊総司令官。
  グリーンラビット(グラン)★雌コキンメフクロウ。アルバ団大佐。
  フレイムダンサー(フレア)★雄シロフクロウ。アルバ団中尉。
  ブロッククラウド(ブロウ)★雄シロフクロウ。アルバ団中将。リングのお目付け役。


【シカ隊】

  シャルヴァ★雌アカシカ。オリンポス軍シカ隊総司令官。荒れ果て林国女王。
  スウィール★雄ノロジカ。シャルヴァの忠実な兵士。シカ隊少将。
  ストライド★雄アカシカ。ブロウの友人。シカ隊中佐。

【ヘビ隊】

  K・T★雌のモンペリエヘビ。リエルの従者。ヘビたちの中でも随一の戦闘能力を持つ。ヘビ隊大佐。
  S・C★雄のモンペリエヘビ。オリンポス軍ヘビ隊指揮官。


 ティフォン陣営


【ティフォン軍】

  アヴィット★濃い黄金色のとら柄の雄猫。目は青色。
        目元に傷があり、赤く染めているらしい。仮面をかぶっているため、素顔は分からない。ティフォン軍総司令官。

  セラフ★淡い色の雌猫。目は深青色。アヴィットの妻。大将。
 
  モーズ★鈍色に尾が金茶色の雄猫。目は緑色。中将。


【フクロウ隊≪ジッグ団≫】

  ブルーギャロップ(ルーギャ)★雄アメリカワシミミズク。ジッグ団総司令官、ティフォン軍フクロウ隊総司令官。
  ブラッサムルート(ブルー)★雄ススイロメンフクロウ。ジッグ団大将。



 中立の民

  朝顔★真っ白い雌ギツネ。
  五月雨★薄茶と黒色の雌ギツネ。



 wait a minute.......


最終編集者 ラッキークロー@LC [ Wed Aug 22, 2018 3:26 pm ], 編集回数 16 回
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投稿 by L ͛k ͛ Mon Jun 22, 2015 8:11 pm

!!

これは………ウォーリアーズとガフールの融合小説、なのでしょうか………?

ラッキークローさんの物語の構想がとても好きなので、新作の誕生がとても嬉しいです!

物語の始動、発展を、今から心待ちにしています!

(猫寮の件でいつもお世話になっています……改めて、ありがとうございます)
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投稿 by ラッキークロー Sat Jun 27, 2015 10:58 am

ライトニングキットs
 コメントありがとうございます!
 物語の構想が好き......とてもうれしいです!(*´ω`*)駄文ですが、見守っていただければ幸いです。

 ガフールの要素や世界観を取り入れた小説、という感じでしょうか......。今見てみると、タイトルがガフールに酷似していますね^^; タイトルの『フール』は、フクロウの方じゃありません^^; 物語が始まりしだい、明らかになると思います!

 猫寮、始動が楽しみです!こちらこそ本当にありがとうございます!
 
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投稿 by ラッキークロー Tue Jul 14, 2015 9:32 pm

諸注意

 この物語は『ガフールの勇者たち』の要素を一部取り入れさせて頂いたハイファンタジー小説です。
 戦争をテーマにした作品なので、戦いの描写が数多く出てきます。ご注意ください。

 また、物語は三部に分かれる予定です。
 この第一部に比べ、第二部、第三部はかなり世界観が変わると思います。第一部に散らばった伏線がのちに出てくる、という事もあります。お付き合い頂ければ幸いです^^


目次

  プロローグ: 少しきわどいオードブル

  第一章  : 愛された子猫

  第二章  : 幼猫時代

  第三章  : 希望と絶望
                         
  第四章  : おお、戦士たちよ 
                                               
  第五章  : 血色のマクガフィン              Αwakening
  
  第六章  : オリンポス校への入学                 of the kitten

  第七章  : オメガ

  第八章  : 『戦争』

  第九章  : 問題児たちの活劇

  第十章  : 底辺からの出動

  第十一章 : 隠れた信頼感

  第十二章 : 肝試し

  第十三章 : 武器を持て、血しぶきを上げろ

  第十四章 : 麗しき森の姫

  第十五章 : 非凡な才能

  第十六章 : 激高

  第十七章 : 恐怖の炎

  第十八章 : 妖精の大地で

  第十九章 : フェイ!

  第二十章 : 帰郷

  第二十一章: ある復讐劇

  
                                                   __ある子猫の覚醒


最終編集者 ラッキークロー [ Fri Dec 18, 2015 9:40 pm ], 編集回数 4 回
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投稿 by ラッキークロー Tue Jul 14, 2015 10:42 pm



プロローグ




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少しきわどいオードブル








                ミュージアム
 ようこそ、わが究極にして最愛の博物館へ。

 
 そう硬くなることはない、何故なら、この大木すべてが私の所有物。私の手であり、足であり、そして頭脳である。
 私の人生そのものが詰まっている。このおいぼれ猫の過ごしてきた三十年近くが、すべて!

 そこらへ腰かけ、棚の書物をいくつか手にとってみるといい。目から鱗の代物ばかりだ。ほら、こいつは猫の歴史を書いた本だ。実に
興味深いことが書き綴ってある。

 何しろ、私達猫は数百年前、まだ人間と一緒に生活を営んでいたころには、たった二十年ぽっちしか生きられなかったというのだ! 
いやはや、信じられん。それならば、私は今の猫の寿命が長くなったことに感謝しなければならん。長く長く生き、この世のありとあらゆる
不可不思議を解明するのが、私の希望でありいきがいであるのだ。

 
 おっと、これは失礼。つい熱くなってしまった。

 論議に花を咲かす前に、キイチゴをふんだんに使った甘いタルトなどいかがだろう? ハーブの香りのする紅茶もある。みずみずしい森の
息吹を感じたいというなら、取り立ての新鮮なハタネズミがあるぞ。シロップはかけ放題だ。

 
 が、私の目には、君はそのどれもをお望みでは無いように見える。

 違うか? 君が欲しているのは、食べ物ではなく肉球に汗握る物語だ。空腹なのは胃袋ではなく、知識を吸収したくてたまらないその
脳みそと心。

 いや、実に素晴らしい。今の若者にあってほしい精神を、君はお持ちのようだ。

 老猫の私には、うらやましくもある。君はこれから幾年もの時間を駆け抜け、自分の輝かしい人生を築き上げていくのだ。君の未来は希望と
可能性に満ちあふれており、何にだってなることができる。

 私は学問を学び咲かせた、知識という一輪の花を枯らさないようにするので精いっぱいだが、君は色とりどりの薔薇やコスモスを咲かし、
熟したいくつもの果実をつけることができるのだ。

 
 さて、また話が長くなってしまった。そろそろ君の望む話をしてあげよう。

 さっきのような甘い食事ではないが、君の空腹の頭を存分に満たしてくれるだろう。少しきわどいオードブルといったところだ。前菜で
腹いっぱいになる。

 その棚にある本をとってくれ。茶色い革表紙の分厚い本だ。落とさないでくれよ.......そう、それだ。

 その本をこの机においてくれ。優しく、そっとな。これで良し。明るさ、湿気、置く場所、すべて問題ない。


 おや、もうこの本が気になって気になって仕方のないようだな。無理もない。
 繊細な刺繍の施された表紙に、豪華な革製の背表紙。紙は最高級の品質のものを使っておる。表紙に刻み込まれた金色の文字は、うっとり
するほど美しいアルファベットだ。

 どうだ、わくわくするだろう。無論、私だってしている。何度も繰り返し読んだ物語だが、飽きることはない。すべての生きとし生ける
ものが読むべき物語だ。


 かつて確かにこの地で起きた、世界を揺るがす大戦争。その物語だ。

 
 慎重にページをめくってみたまえ。そこからは君が読み進めればいい。

 だが、読み進める前に一つだけ聞いておいてくれたまえ。

 
 何が正義で何が悪なのか、時に生き物は選択を間違えることもある。が、最後に必要となるのは、自らの石で考え、行動する気高い心。
信じ、自分を犠牲にしてでも他者を守ろうとする勇気だ。

 今君が目にするのは、そんな勇気を持った猫たちの生き様。絶望にも逆境にも立ち向かっていった、本当の勇者たちの話だ。


 長らくお待たせして悪かった。さあ、そこにつづられた文字を存分に目で追うのだ。

 
 始まりは、ある森の中でのお話......。


最終編集者 ラッキークロー [ Mon Jan 11, 2016 9:37 pm ], 編集回数 6 回
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投稿 by ラッキークロー Mon Aug 03, 2015 6:22 pm



第一章



WAR  OF  CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】 Cat00225



愛された子猫








 聖ギリシャ森林に新たな猫の命が誕生したのは、東の空が白く色づいた夜明けの時だった。ネズミやリスが自分たちを狙う猛獣から身を
隠し始める時刻、一本のシラカバの木の元では、この世に新しい生命が芽吹こうとしていた。


 出産の時、普通ならば母猫がお産を行う部屋の外にその夫や兄弟、兄や姉、叔父、叔母、子猫の誕生を喜ぶ近隣の家族の猫たちが一斉に
集まり、生まれたばかりの可愛らしい子猫__目を閉じたままみーみー鳴く、およそ自分たちとは違う小さな生き物__を愛でられるのを
今か今かと待っている。
 しかし、今シラカバの木にいるのは、母猫とそれを見守る二匹の雌の助産師__しかも一方は猫ではなく、なんと褐色の鱗を持った
モンペリエヘビである! __だけだった。二匹は母猫に仕える部下であり、今は助産師を務めようとしていた。この時代、従者や部下が
看護師や助産師を務めることは少なくなかった。

 戦火が地を覆っている聖ギリシャ森林では、当たり前のことである。実際、母猫は凍えるような寒さの冬の空気の中、初めての出産に挑もうと
していた。


 従者の一人ミリディスは、新鮮なとれたての薬草を口にくわえ、クリーム色の前脚で母猫のお腹をさすっていた。丸い琥珀色の瞳はキラキラと
光っていて、逆三角形の顔は落ち着いた表情を浮かべている。「K・T、何か感じる?」モンペリエヘビにそう尋ねると、k・T【※注1】
ぐっと顔を上げ、澄んだ黒い目を細めた。

 「なにもないわね__今のところは」
                                                              .   .
 その含みのある言い方に、ミリディスは思わず眉をひそめた。K・Tの勘__豊富な経験と知識、生まれ持っての魔力から出来上がる推測__
は馬鹿に出来ない。「何か......気になることがあるの?」

 そう尋ねたミリディスに、k・Tは鋭い視線を向けた。

 「賢いあなたならわかるはず、ミリディス。真っ黒いカラスネズミが二匹、そして腐ったジリスをくわえたまだらのシマシマトカゲが一匹」

 そのおかしな文章には、ありったけの恐怖と怒りが込められていた。ミリディスは無意識に爪をむき出し、ピアスをはめた耳を立てた。

 「雇い兵ね?」
 「ええ、多分ね。ああ、それにしてもなんて運の悪いこと!」

 k・Tは二つに分かれた長い舌を出し、シューっと不気味な唸り声を発した。モンペリエヘビの黒い瞳には、今や戦士としての光が
宿っていた。常に周囲の気配を察知し、口から出す言葉はすべて暗号文、冷酷な戦場を幾たびも見てきた双眸には殺意の炎を燃え上がらす、
戦士のモンペリエヘビがそこにはいたのだ。最早助産師のk・Tはそこから消えていた。シラカバの木を離れようとしたk・Tは立ち止まり、
真摯なまなざしを雌猫に向けた。「ミリディス、リエル様を」

 ミリディスはかぎ爪をむき出したままうなずいた。「ええ、もちろん。命にかけて務めを果たすわ」

 二匹の部下は今、主の為に命を顧みず戦う戦士となっていた。


 ああ、何という気高い精神だろうか! ここから先、『気高い精神』という言葉はこの戦争を記すうえで、何度も出てくるだろう。が、
それだけの決意と覚悟が、戦乱の時代を生きる生き物たちの胸にはあったのだ。自己を犠牲にしてでも他者を、そして国を守ろうとする精神が
彼らの心には根付いていた。

 
 k・Tが戦いへと挑んでいった直後、母猫は長い間続いた出産の苦しみに、ついに打ち勝とうとしていた。

 その時、ミリディスは母猫__リエルが、新たな生命を今まさに誕生させようとしているのを感じた。ミリディスは子猫の為の柔らかなこけ
を今一度地面に敷きなおしながら、子猫の誕生を待った。

 「さあ、もう少しですリエル様。頑張ってください!」


 やがて淡い太陽の日差しが熱を帯び始めたころ、ついにその時は訪れた。

 その瞬間、母猫の体が大きく脈打ったのをミリディスは感じた。寒い木枯らしが不意にやみ、あたりに静寂が訪れる。
 川のせせらぎがわずかにこだまし、その一瞬ののち、みーみーという小さな鳴き声とともに、一匹の子猫が産み落とされた。子猫は甲高い
鳴き声を上げ、母親の体温を求めてうごめいた。

 「女の子だわ!」ミリディスは悲鳴に近い歓声を上げ、喉がつぶれてしまうのではというぐらいに大きく喉を鳴らした。「まあ.......ああ!
リエル様、ご覧ください! なんてかわいらしいお嬢様なんでしょう!!」雌猫は感極まって叫び、思わずリエルの脇腹に顔を押し付けた。
 リエルは目を細め、前足で娘を自分のもとへ引き寄せた。


 その子猫はミリディスの言うとおり、とてつもなく美しかった。生まれたての子猫は目が閉じていてまだ毛も十分に生えていない。子猫が
小さな体で生きようと精一杯動く姿はとても愛らしいものであるし、この世に生きる生き物はすべてが美しく可憐だ。が、普通踏まれたての
子猫は雄猫が一目で恋に落ちるような怪しく妖艶な美貌は持たない。

 しかし、その子猫は別だった。 
 新月の夜空のようにし身一つない漆黒の毛皮。胸元は新雪のごとく真っ白い。まだぺたりと伏せた耳は大きめで、顔とちょうどいい大きさだ。
鼻筋はすっと通っていて、細いひげはピンと張っている。

 美の女神さえもが嫉妬し怒り狂うほどの美しさ。それを子猫は持っていた__まだ誕生して間もない、目も空いていない子猫が!

 
 いとしげに子猫をなめるリエルの姿を愛情のこもった瞳で見つめながら、一方でミリディスは不穏な気配を感じていた。

 数秒前、この近くで一つの命が失われ__今、命を奪い合う戦いがおこっている。


  ▼△

 
 ミリディスの感じていた通り、シラカバの木のすぐそばで、激しい戦いが繰り広げられていた。K・Tと、リエルの首を狙うならず者の
兵士の戦いだ。

 k・Tは首元に編み込まれた鉄の鎧を身につけ、顔に木でできた仮面をかぶっていた。額のところにとがった枝が付いていて、両目のところ
にだけ小さい穴が開いている、トロイと呼ばれる最もオーソドックスな防御仮面だ。モンペリエヘビはヘビの中でも大きな種で、トロイの
重さによって動きがのろくなることはないため、戦闘にトロイは必需品だった。

 が、k・Tの場合、気休めの防御具などなくてもよかった。K・Tは軍の中でも上位の実力を持つ戦士なのだ。

 「後ろに回れ! 挟んで攻撃するんだ!」

 敵のアナホリフクロウが叫んだ。先ほど不意打ちでもう一羽のアナホリフクロウの息の根を止めたが、状況は二対一。この片目のつぶれた
アナホリフクロウ一羽と、薄茶色の痩せた猫一匹だ。薄茶の猫はすでにk・Tの後ろに回り、剥きだしたかぎ爪をギラギラ光らせている。
 アナホリフクロウは小型のストーンナイフ【※注2】を持っているが、薄茶猫は何も武器を手にしていない。これなら大丈夫、とK・Tは思った。オリンポス軍戦士の自分が、こんな底流な雇い兵に負けるわけにはいかないのだ。

 アナホリフクロウが突っ込んできた。鋭く研ぎ澄まされた凶器がギラリと光る。その瞬間、後ろで薄茶猫が動いたのがわかる。猫の荒い
息づかい、フクロウのバサバサという羽音が同時に響く。

 K・Tは鎌首をもたげていた頭をぐっと下げ、地面にぺたりとつけた。そのままがっしりとした体を瞬時に丸め、アナホリフクロウの
ナイフを紙一重でよけると、刹那巨大な頭を思い切りアナホリフクロウの背中に叩き付けた。それとほぼ同時に体を逆方向に伸ばし、薄茶猫の
一撃をかわす。フクロウのくちばしから苦し気な悲鳴が漏れた。

 雌のモンペリエヘビは仮面の奥から敵二匹の様子をうかがった。小柄なアナホリフクロウは地面に倒れ、翼をばたつかせている。薄茶猫が
怒りに満ちた唸り声を上げたが、飛びかかってくる勇気はないようだった。

 それも当然だ。モンペリエヘビの、大きいものは二メートルにまで成長する体と、力強く俊敏かつ的確な攻撃を見せつけられれば
誰だって__特に経験を積んでいない若く浅はかな兵は__おじけついてしまうだろう。

 K・Tは口を大きく上げ、奥歯の鋭い毒牙を見せつけるかのように頭を持ち上げた。目の上の張り出した鱗がヘビの瞳に影を落とす。
薄茶猫は耳を寝かし、一言二言脅し文句をつぶやくと尻尾を丸めて逃げ出した。アナホリフクロウは動かない。翼はおかしな方向に曲がって
おり、光を失った黄色い目は宙に向けられている。

 K・Tは二羽のフクロウの遺骸に近づき、そばに生えているシダの茂みの根元に尾を振りおろして小さな穴を作ると、そこに二羽を寝かせた。穴の中にストーンナイフを落とし、霜のついた冷たい土を上からかぶせていく。

 __何度経験しても、命ある生き物を殺すというのは気分が悪い。K・Tは目を閉じ、頭を下げて静かに二羽の若い兵士の冥福を祈った。

 彼女はその時、戦士から心優しいリエルの部下のK・Tに戻っていた。


 △▼


 ミリディスは瞳を開けた。ぼんやりとした頭の中で、侵入者とK・Tの戦いが今終わったという事を雌猫は察知していた。そして二つの価値
ある命が失われたということも。
 が、それを悲しむことはできないのだ。殺さなければ殺されていたのは自分達なのである。K・Tが敵兵の命の綱を切り裂いていなければ、
今リエルが娘の体を幸せなまなざしで見つめていることも、子猫が母親のもとで眠ることもなかった。ミリディスは戦乱の世に生きなければ
いけないことを改めて辛く思った。

 「__K・Tは生きているようね」

 リエルの声に振り返ると、雌猫は静かなまなざしでこちらを見ていた。子猫はこけと母猫に挟まれて眠っている。本当に、ぞっとするほどの
美しさだ。「はい、そのようです」ミリディスは答えた。

 主は小さなため息をつき、視線を子猫に戻した。

 「この子が無事に生まれてきてよかった......あなたたちのおかげよ、ミリディス」

 「リエル様もよく頑張りました」ミリディスは目を細めていった。「お嬢さんは立派に生まれてきました。きっと美の女神に愛されて生まれてきたのでしょう__あまりにもお美しいんですもの!」

 リエルは微笑み、そしてふと眼光を鋭くした。

 「ありがとう。......でも、この子はこれから戦いの渦へと放り込まれる運命を持った子。雌猫に生まれてしまったのはこの子にとって不幸な
ことだったかもしれないわ。戦争では戦闘能力がものを言う」

 「K・Tを見ても雄猫の方が戦闘能力が優れているなんてことが言えますか?」ミリディスはくすくす笑った。「彼女ほど素晴らしい戦士は
同種の中でいません」

 母猫はうなずいた。いくらか表情は和らいだが、表情はまだ厳しい。

 「......この子は生まれたその時から__いいえ、生を受けようとしていた時から、戦争の恐怖に晒されて生まれた。運がよかったわ。
K・Tとあなたがいなかったら、私達は殺されていたのよ」

 ミリディスは神妙な顔つきで同意した。「お嬢さんはもしかしたら、戦いの女神にも愛されたのかもしれません。天にいる猫たちの魂たち、
スター族に」

 「スター族は遠い遠い昔のお話よ」

 リエルは息を吐いた。「まだこの世界に人間がいたころの話。今私たちが信仰しているのはソウル族。猫だけではない、すべての生物たちの
魂が属する集団」雌猫は空を仰ぎ、昇った朝日を見つめた。「でも、この子が彼らに愛されているのだとしたら、それは良かったわ。ねえ
ミリディス、彼らの名前をいただくのは罰当たりな行為かしら?」

 「いいえ」
 ミリディスは首を振った。

 「お嬢様はこれからわが軍の運命を背負う猫。決して罰当たりなことではありませんよ」

 「それならよかった。__かつてこの世界で、危機に陥った猫たちを救ったといわれる雌猫は、夜明けの時刻に生まれたのよ。
                  妖精
  その猫の名を受け継ぎ、あなたをフェイと名付けます。この軍を率い、私達の危機から救い出してくれる事を願って」


 ▼△


 かくして、聖ギリシャ森林に戦士となるべく義務付けられた一匹の子猫が誕生した。が、その子猫がやがて大きな希望と絶望になろうとは、
この時いったい誰が予想できただろうか......。


 【※注1:ヘビは自分たちの名前を伏せ字で表す習慣があり、親しいものにしか本名を知らせることはない】
 【※注2:ストーンナイフ;大きな石を砕いて、その破片を加工した小型のナイフ。接近戦で効果を発揮し、相手の急所に確実に攻撃をするのに有効。石によって硬さや質は変わる。
 また、武器以外にも料理用の道具としても用いられている。】



最終編集者 ラッキークロー [ Mon Jan 11, 2016 9:42 pm ], 編集回数 15 回
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投稿 by ウィングシャドウ@もう復活でいいんじゃないかな Mon Aug 03, 2015 8:36 pm

遅ればせながら読ませていただきました。

昔話をするような語り口のプロローグに始まり緊迫した戦闘の描写とどんどん引き込まれていきました。

読めば読むほど続きが気になる作品です。執筆頑張ってください!

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投稿 by ラッキークロー Fri Aug 07, 2015 4:35 pm

ウィングシャドウs

 コメントありがとうございます!こんな長ったらしい小説を、読んでくださっただけで感謝です^^♪

 戦闘描写は今回(毎回)自身がなかったので、褒めて頂いてとてもうれしいです!これから戦闘シーンを描くことはかなり多くなってくるので、うまくなるようにしたいです。
 
 続きは今年中にはできると思います......いや、今月中に投稿します!!!次はもう少し読みやすい文章にしたいです^^;
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投稿 by フラワリングハート@ふらわり Tue Aug 11, 2015 2:02 am

ただ今PCがぶっ壊れています故慣れないスマホから失礼しますふらわりです!
まず軍モノが個人的に大好きなので初っ端の紹介からわくわくが押し寄せてきてましたw
ミステリアスなプロローグと自然な導入に指が止まりませんでした…
実際に何かの本を読んでいるかのようでした!
裏の設定も深そうで読み応えがありそうですね…
とにかく、一目惚れしましたw
陰ながら応援しております、執筆頑張ってください!
フラワリングハート@ふらわり
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投稿 by ライトハート Tue Aug 11, 2015 8:48 pm

ガフールを少し入れていると言う事でワクワクしながら読みました!
やはりラッキークローさんの文章がかっこよくて好きです!
猫以外の動物も出て、おおっとなりましたw私の好きな猛禽類が…!
話の内容も凄く気になります!応援しています!
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投稿 by ラッキークロー Wed Aug 12, 2015 12:23 pm

フラワリングハートs
 コメントありがとうございます^/^

 嬉しすぎるお言葉ばかりいただいて感無量です......!軍隊の戦いものはずっと書いてみたいと思ってたので!ですがかなり難しくて四苦八苦しています...。

 第一部は本に書かれているような文体にしてみました。ドキドキだったので誉めてくださって感動です。読みにくい話ですが、これからもよろしくお願いします。

光鈴s
 コメントありがとうございます(^^ゞ

 かかかかかっこいい!?本当にありがとうございます!このような長くて読みにくい文章を...!光鈴sの小説もいつも読ませていただいていますが、読みやすくて憧れです。

 猛禽類は私も超好きです(笑)特にフクロウやタカなんかの鋭い鍵爪とかが好物です。話の内容はこれからどんどんヒートアップするので、よろしくお願いします。
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投稿 by フェグワンヴィレッジ Tue Aug 18, 2015 12:03 pm

かっこいい話ですねw
面白くて続きが楽しみですw
登場猫のネーミングセンスもとても素敵ですwww
執筆がんばってください!
フェグワンヴィレッジ
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投稿 by ラッキークロー Wed Aug 19, 2015 5:03 pm

フェグワンウィレッジs
 コメントありがとうございます!

 カッコいいお話ですかΣ(・ω・ノ)ノ!ありがとうございます!戦いのお話なので、確かに格好いい系の物語かもしれません。ネーミングセンス、フェグワンsの方が素敵です...!いつもきれいな名前だなあ、と思ってます。

 執筆、グダグダですが頑張ります!
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投稿 by 涙雫@元シーズンメモリー Thu Aug 20, 2015 12:35 pm

お久しぶりです!
今更ながら読ませていただきました(いやぁ、面白いw)


ウォーリアーズとガフールの融合なんですね!
ラッキークローさんの小説の設定は興味を惹かれるものばかりですw

執筆頑張って下さい!



涙雫@元シーズンメモリー
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投稿 by ラッキークロー Fri Aug 21, 2015 11:27 pm

涙雫s
 コメントありがとうございます!

 あああシーズンメモリーs!!!お久しぶりです!再開できる日を待っておりました(^^ゞ嬉しいです!

 ガフール、やっぱり面白いので、世界観を使わせてもらいました!小説誉めていただけるとは...なるべくたくさんの人に興味をもらえるものを書きたいです。

 また是非新BBSへお越しください!
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投稿 by ラッキークロー Tue Aug 25, 2015 3:51 pm



第二章



WAR  OF  CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】 Cat01783



幼猫時代







 恐ろしいほどに美しい子猫がこの世に生を受けてから、二か月がたった。フェイはすくすくと成長し、早くもその逸脱した
才能を見せ始めていた。

 はじめの内は真似事だったハンティングの姿勢も、今や成猫と何ら変わらないほど完璧な構えをすることができる。狩りのテクニックも身に
つけ始め、一匹でハタネズミを捕ることに成功したほどだ。保育士兼家庭教師と化したミリディスの教育の成果もあってか、オリンポス領に
ついての地理学や歴史学の幾つかの要項はすべてマスターし、周囲の大人を驚かせた。

 が、何よりも子猫がずば抜けた才能を見せたのは、軍事学__戦争のことについて学ぶ時だった。フェイは、戦術についての基礎知識を
学び始めたその日には、高等軍事学の応用戦法をすべて覚え、それを実際に使用することまでできたのだ。


 やはり戦争の女神に愛されたのか__フェイは周りのどの子猫よりも目覚ましい成長ぶりを見せたのだった。

 
 が、それはフェイにとって辛いことでもあった。
 
 両親ともに軍の最高職に就いているフェイの生活は、オリンポス領では比較的豊かなものだった。シラカバの木を魔法で変形させて作った
大きな家に、数々の書物や武器、そして地方のめずらしい獲物などがそろった満たされた食事は、一部の貧困層の猫たちにとっては妬みの的だ。
母リエルの生まれがもともとは浮浪猫だったという事も、猫たちの偏見をあおったのだろう。くわえて何でも完璧にこなすフェイのことを
避ける子猫は意外にも多かった。

 賢いフェイは自分が避けられていることを察して、自分からもあまり他の子猫と遊ぼうとはしなかった。広い家の中でK・Tやミリディスと
遊んだり、外でネズミを追いかけたりして気ままに過ごした。

 そんな中、フェイはある一つの運命的な出会いをするのだ。


 父イルクは頻繁に戦争に出兵しており家にいることは少なかったが、フェイは父のことを心から尊敬し、父が家にいる時はずっと一緒に
過ごした。父と出かける時には、行く先でよく他の兵士の猫やフクロウと会い、そのたびにフェイは憧れのこもったまなざしで彼らを見ていた。

 その日も、フェイはイルクに話しかけた金茶色の雄の戦士をじっと観察していた。がっしりとした体格に琥珀色の切れ長の瞳、つややかな
毛並み。右目の上に深い稲妻型の傷があるが、かなりハンサムな雄猫だった。まだ若いのだろう、筋肉は毛皮の下でしなやかに波打っている。
 
 「やあ、アーマゴールド」イルクは親し気に雄猫に挨拶した。「前線から戻ってきたばかりにしては、ぴんぴんしているな!」

 「相手は傭兵ばかりだったんです」アーマゴールドが苦笑しながら返事をした時、その後ろからひょこっと、小さな子猫が顔をのぞかせた。

 フェイと同じぐらいの年頃の雄猫だった。黄褐色のとら柄模様をした、青い目の猫だ。アーマゴールドの鋭い瞳とは違い、その双眸は綺麗な
アーモンド形だったが、その奥には強い光がある。フェイはすぐにこの雄猫の知性に気づいた。今はまだ開花されていないが、花開けば魅力的な
芳しい香りで蜂や蝶を引き寄せる、魔性の花だ。

 子猫はくるりと目を動かし、気さくにフェイに話しかけた。
 
 「こんにちは! 君、どこから来たの? ブラニークフォレスト?」
 思わず面喰ってしまうほどに親し気で明るく、純粋な声色だった。子猫が話しかけている相手が自分だと理解するのに、少し時間がかかった。

 「聖ギリシャ森林だ」そう答えるときに少しどもり、恥ずかしさで顔がほてるのを感じた。同世代の子猫と言葉を交わしたのはこれが初めて
ではないだろうか?「お前は?」

 「君と一緒だよ!」子猫は輝くほどに明るい笑顔でフェイに近づき、嬉しそうに尻尾を振っている。イルクがぐいと子猫の顔を覗き込み、
「元気がいいな、坊主!」と豪快に笑った。

 「お前の弟か?」

 イルクの問いに、アーマゴールドがうなずく。子猫を見つめるその瞳は愛しげだ。「リング、知らない猫に会った時はもっとしっかり
挨拶をしなさい。こちらは偉い戦士さんに、そのお嬢さんなんだぞ」

 子猫__リングは素直にはいと返事をすると、キラキラ輝く瞳でフェイとイルクを見つめた。「こんにちは、大将さんと...君! ねえねえ、
君名前はなんていうの?」

 フェイは心臓がドキドキと音を立てているのを悟られないよう、務めて冷静に言った。


 「私は__フェイっていうんだ」

 「初めまして、フェイ! 僕の名前はリング! よろしくね!」


 それは、フェイにとって初めての出会いだった。満面の笑みを顔に浮かべて、ずいと突き出されたリングの金色の前脚に、フェイはおずおずと
自分の前脚を重ねた。

 そして二匹は、唯一無二の親友となった。


 △▼


 フェイとリングはすぐに仲良くなり、四六時中一緒に遊んだ。リングはころころと表情を変える明るい猫で、フェイはそんなリングを
からかったり、時にはいたずらし合ったりして朝から晩まで過ごした。

 リングの両親はすでに他界しているそうだが、雄猫の家は信じられないほど裕福だった。家は巨大なマツの木で、不審な猫が勝手に入ろうと
すればけたたましいベルの音が鳴り響く魔法の仕掛けまで施されていた。家の中には数々の装飾品や立派な学問書があったが、リングは全く
勉強をしなかった。どうしてそこまで勉学に嫌悪感を抱けるのか、ある意味不思議だった。

 リングの兄、アーマゴールドはフェイの母と同じ少将の位に就いており、家を空けていることが多かった。そのためフェイとリングは何度も
お互いの家を行き来し、今日はこんな事をしよう、明日はあの遊びをしようと話した。リエルはそんな二匹を嬉しそうに眺め、夜、フェイが
早口で話す一日の出来事を幸せそうに聞くのだった。

 そしてフェイはリングと過ごすうちに、ずば抜けた軍事学の能力ではない、もう一つの素晴らしい才能を開花させる、そのきっかけを得る。


 ▼△


 二匹が出合ってから早くも二か月がたち、フェイは生後四か月になっていた。子猫はますます美しく、可憐になっていったが、依然として
心の許せる友達は、リングしかいなかった。

 ある日、二匹はリングの家庭教師であり、ボディーガードでもある雄のシロフクロウのブロッククラウド__ブロウ【※注3】とともに、
聖ギリシャ森林を抜けて、ブラニークフォレストまで出かけた。暇を持て余した二匹が脱走して危険な冒険に行こうとするのをブロウが見つけ、
それからずっと無謀な探検に出かけようとする二匹をつけまわすようになったので、それならいっその事二匹と一羽で出かけようということに
なったのだ。

 ブラニークフォレストまで子猫である二匹が歩いていけば日が暮れてしまうので、ブロウの友人である、雄アカシカのストライドも同行し、
ストライドの背に二匹が乗って行くことになった。ストライドはわざわざブラニークフォレストまで行くのを嫌がったが、二匹を心配する
リエルに懇願され、しぶしぶ同行を承諾したのだった。

 
 太陽も空高く昇ったころ、二匹と一頭と一羽はブラニークフォレストの中心部に到着した。中心部には変形した木で作られた鍛冶場や薬屋など
が並んでおり、二匹は目をキラキラさせながらそれらの店に片っ端から顔を突っ込み、陳列している商品を倒したりした。ブロウがくたくたに
なるまであちこちを探索し終えたとき、リングがふと立ち止まり、フェイに尋ねた。

 「フェイ、あれは何?」

 フェイがリングの示す方向を見ると、そこにはどっしりとしたオークの巨木が生えていた。枝が横に大きく広がっていて、雨風を防げるように
なっている。枝にはつるで編まれた梯子がかけられており、何匹もの猫たちが上り下りをしている。その根元には大きな平べったい石の台が
あり、その上で猫やフクロウたちが何やらしゃべっていた。

 「多分、お芝居っていうものじゃないか?」フェイはK・Tに教えてもらったことを思い出した。「あの石の上で、みんなが劇をやるんだよ。
あの石は舞台っていうんだ」

 「芝居?」
 途端にリングの口調がとげとげしいものにかわった。フェイは驚いてリングを見た。いつもは輝いている瞳が、嫌悪にぎらついている。

 「私、芝居は見たことがないんだ」態度が豹変したリングを気遣いながら、なぜかフェイは舞台から目が離せなくなっていた。ただ作られた
話を演じるだけなのに、強く興味をひかれる。一度あの舞台を見てみたいが、リングが喜ぶとは思えない。

 フェイはリングの顔を見ながら言った。「......なあ、少しあの芝居を見てきていいか?」

 リングはさっと頭を上げてフェイを見つめた。その表情の厳しさにぎょっとする。こんな負に満ちた親友の表情を、いまだかつて見たことが
なかった。

 が、リングは無理やりこみ上げる感情を抑え込もうとするかのように視線を落とした。「いいけど、僕はちょっと遠慮する。鍛冶場にでも
行ってぶらぶらしてるよ」

 低くかたい声色だった。黙って立っていたブロウが心配そうにリングに聞く。「リング、大丈夫ですか? フェイ様と一緒に行かれた方が
よろしいのでは?」

 「見たくないんだ!」雄猫はばっと視線を上げ、獣のように怒鳴った。「自分を演じる猫たちの姿なんて、見て何の意味がある?」

 フェイは仰天した。リングが怒鳴ったのも、ブロウにこんな乱暴な口の利き方をしたのも初めてだったのだ。

 リングははっとして、ばつが悪そうに尻尾を振った。「ごめん、ブロウ。ちょっと.......」耳がビクッと動く。「嫌なことを思い出すんだ」

 嫌なこと?フェイは訝しんだ。リングに嫌なことなんてあったのか......。

 ブロウはうなずき、普段とは異なる、いたわるような目で雄猫を見つめた。「最近悪い風邪がはやっていますし、少しお疲れなのでは?
今日は聖ギリシャ森林に帰りましょうか」

 そんな! フェイは心の中で叫んだ。まだ芝居を見ていない。何故だろうか、リングがこれほどまでに嫌がるものに、狂いそうなほど
ひきつけられる。自分がこんな思いを抱くことがあるなんて、信じられない。

 が、リングは首を振った。「いや、フェイは劇を見た方がいいよ。ブロウ、僕を乗せて帰ることはできる? フェイはストライドに乗って
帰って」

 「本当に大丈夫?」芝居を見たいのはやまやまだったが、今は何よりリングが心配だった。が、リングはぶんぶん首を振り笑顔を作った。
フェイはほっとした。「ありがとう、リング」
 無論、リングの変化が体調不良のせいだとは到底思えないが、何故かその理由を探るのはためらわれた。少しでも詮索すれば、柔らかな
心の壁に傷ができ、そこから途轍もない後悔と憎しみがあふれ出してきそうな気がしたのだ。

 「お気をつけて、フェイ様」ブロウが丁寧に言った。「何かあればすぐにストライドに言ってください、何でもすると思います。万が一何も
しなかったらすぐに私に申し付けてください」

 何もしなかったらどうなるのか。フェイはクスリと笑った。「ああ、わかった。またな、リング。また明日」

 リングは元気よく__たとえ見せかけだろうが、元気よく__手を振った。フェイが見送る中、シロフクロウが力強く空に舞い上がり、
悠々と大空を舞った。

 フェイはしばらく二人の姿を見送っていた。理由はないのに、自分が何か恐ろしいことの一場面を目にしてしまったかのような気がしていた。


 △▼


 舞台の前には二十匹ほどの猫たちがいて、乱雑にまかれたこけの上に寝そべったり、香箱をくんだりして劇を見ている。ほとんど帰省した
戦士たちで、豪快にキャットニップのはちみつ漬けやワインを飲み食いし、完全に酔っぱらっていた。

 フェイは集団のど真ん中を潜り抜けて、舞台の目の前に座った。劇は『ニーズヘッグの咆哮』というよく知られた話で、大柄な錆色の猫が
ニーズヘッグ役らしい。舞台上にはつるで作られた作り物の城や、リアルな滝が描かれたタペストリーが設置されていた。

 「『呪われし子よ、死者の嘆きを聞け』」錆猫__ニーズヘッグが仰々しく言う。「『争いの時代に愚かな願いをしてしまったことを、一生
恥じて生きるがいい』」

 「『ニーズヘッグ!』」綺麗な顔立ちの雌猫が悲痛な声を上げた。「『どうか後一度だけ、私の願いを聞きとげて下さい。私にはどうする
こともできなかったのです。この胸に巣食う切なる願いを、あなたは無理やり引きはがせというのですか......』」


 フェイはじっと役者を見つめ、その挙動の一つ一つ、セリフの一言一言を喰いつく様に見聞きしていた。

 枝からぶら下がった稚拙な大鷲の模型も、ギラギラ光る油ぎったろうそくの照明も、今この瞬間だけは本物となり、美しい舞台の一部となる。
      虚構               真実
役者たちは現実の生活から解き放たれ、華々しい嘘の世界を現実として生きられる。

 
 __なんて素敵なことなんだ!


 気づけばフェイは劇のとりことなっていた。軍事学の書物のページをめくっている時と同じ、熱い衝動が湧きあがる。偽物を本物にできる
なんて、そんな世界が本当にあったとは。百も二百もの人生を生きられるなんて、そんな魔法が現実にあったとは。


 その時子猫の体中にあふれた衝撃は、天才の華が開花したことを示す、華やかな鐘の響きだった。だが、『天才』の登場というものは、いつの
時代でも社会に大きな変動を与え、時にはめちゃくちゃにかき回してしまうのだ。



 劇が終わり、舞台にこけのカーテンが引かれても、フェイはずっと舞台の前に座り込み、うつろな瞳で宙を見ていた。
 


【※注3:フクロウたちは意味のある名前を持つが、普段は本名を呼び合うことはなく、ニックネームで名前を呼ぶ。普通は頭文字などをとることが多い。例;ブロッククラウド⇒ブロウ】


最終編集者 ラッキークロー [ Mon Jan 11, 2016 9:44 pm ], 編集回数 2 回
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WAR  OF  CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】 Empty Re: WAR OF CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】

投稿 by ラッキークロー Fri Dec 18, 2015 9:38 pm



第三章



WAR  OF  CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】 Cat00795



希望と絶望









 フェイが実際に『天才』の所業を見せたのは、芝居を目にしたその晩のことだった。


 ストライドの背に乗って聖ギリシャ森林まで戻ったフェイは、帰宅するなり、すぐさまミリディスを捕まえて今日目にした劇のことを話した。

 頬を上気させ、興奮にひげを震わすフェイの姿に、最初は唖然としていたミリディスも、やがて優しく相槌を打ちながら子猫の話を聞いた。
フェイがまだまだ話したらずに、うずうずしていると、寝室で休養をとっていたリエルが広間に現れ、ひどく興奮している娘を見て首を
かしげた。「あら。どうしたの、フェイ?」

 その言葉に再びフェイがまくしたてるように話すと、リエルは微笑み、我が子の頭をなめながら言った。「そう、それはよかったわね。
芸術に関心を持つのは素晴らしいことよ」そして目を細め、「一回その劇を見てみたいわね」と何気なく思いを口にした。

 フェイは母の言葉を聞き逃さなかった。さっと立ちあがり、耳をぴくぴく動かして言う。「なら、私が今あの芝居をやるよ!」

 思いがけない申し出にリエルが目を丸くすると、ミリディスが喉をごろごろ鳴らした。「まあ、嬉しい。リエル様、ぜひご覧になっては
いかがでしょう?」

 リエルは楽し気にうなずいた。「ええ。お願い、フェイ。でも、あなた劇を全部覚えてるの__」

 雌猫は言葉を止めた。フェイがすっと頭を下げたかと思うと、激しく唸った。ぎょっとして目を見張る。フェイは唸り声を上げたまま、
ゆっくりと顔を上げる。その大きな瞳には燃えるようなすさまじい怒気が滲み出、小さな口は歪み、白い牙がぞろりと除いていた。死霊か
悪魔か。この世の生き物ではない者の、憤怒の形相だった。もはやさっきまでの子猫の面影はどこにもない。

 「__『聞け』」一体この可憐な容姿のどこからこんなに低い声が出るのかと思うほどの、太い声で言う。「『どうやら貴様にはあの者たちの
声が聞こえぬらしい。何と...』」言葉を切り、目をかっと見開く。思わずリエルが息をのんだ瞬間、『フェイ』はうめくように言った。
「『愚かな......』」

 この猫は誰? リエルは息をのんだ。今、リエルが見ているのはフェイという猫ではない。ニーズヘッグという、太古から存在するドラゴンだ。

 『ニーズヘッグ』は長いまつ毛に縁どられた瞳を釣り上げ、次の瞬間その目には殺意の炎が燃え上がった。反射的に目をつぶり、そして
そろそろと瞼を開くと、雌猫は憂いを帯びた表情で、じっとたたずんでいた。

 ミリディスが唖然として目を見開いているのがわかる。だが、リエルは今や静かな気持ちで我が子を見つめていた。この子は普通の猫では
ない。その身に祝福を受け、愛されて生まれた子。フェイにはこれから戦士として生きるときに役立つであろう、類いまれな能力が備わって
いるのだ。

 「『わかった。しかし、お前は理解していない。今、我々がどんな窮地に立っているのか? 地獄をも恐れぬ狂気の者たちが、我らの身を
燃やし尽くそうとする......』」フェイは目を閉じた。空気がピンと張りつめ、針の落ちる音さえ聞こえるであろう、深い静寂が訪れる。ふと
大気に微妙な揺らぎを感じ、リエルは凍り付いた。

 まさか、フェイ!

 雌猫がかっと瞳を見開いた瞬間、部屋の中に黄金色の光が炸裂した。同時にいくつもの鈴を一度にならしたような音が響き、体が震える。
刹那フェイの背から淡い光の柱がたち、それは螺旋を描きながら空中で形作られていく。

 鈍色の影を落としながら光線がうごめくのがおさまると、そこには一柱の光の竜が君臨していた。

 ダイヤモンドのような輝きを放つ角に、まぶしく光る数多の突起。何枚もの平たい鱗は、漆黒でありながら不思議とぼんやりと発光している。
琥珀色の両眼は派手に煌めいてはいないものの、夜明けの日光のような強く神秘的な力を宿している。まさしく、神話に登場するニーズヘッグ
そのものだった。

 濃密な魔力があふれ、リエルは思わず後ずさった。ここまで高度な具現化魔法を目にするのは久しぶりだ。長きにわたる鍛錬、そして余りある
霊力を持つ者でないと、魔法を使っただけで全精力を使い果たしてしまうだろう。

 でも、この魔法を使ったのは、まぎれもない自分の娘だ。

 リエルとミリディスが茫然としている中、竜の姿はだんだんと揺らぎ始め、ろうそくの火が燃え上がるように揺れると、霧となって霧散した。
普通なら具現化魔法は数十分、長いときは数時間続くものだが、さすがにそれほどの魔力はないのだろう。そもそも、基礎魔法を一つ二つ試した
事しかない子猫が、これほどの魔法を使えることなど、まずないことだ。奇跡といっても差し支えないほどのことだった。

 あたりに満ちた魔力が薄れ、空気に溶けていくようにして無くなると、フェイの体がぐらりと傾いた。慌ててミリディスが飛び出し、その
小さな体を受け止める。子猫は疲れ果てた様子で眠っていた。体内のエネルギーと魔力、それに精神力を使い果たしたのだろう。

 ミリディスの琥珀色の瞳がこちらへ向けられる。リエルはゆっくりと立ち上がると、我が子の額を優しくなめた。


 「......リエル様。今のは......!」
 「...ええ。わかってるわ、ミリディス」

 上ずったミリディスの声に、落ち着いた態度で答える。魔法の衝撃の余韻が、いまだリエルの体の中に残っていた。


 リエルはオリンポス軍少将の位を持つ雌猫だが、その出身は浮浪猫__それも限りなく黒魔術に近い魔法を操る猫たちの元に生まれたのだ。
そのせいか、彼女は普通の猫よりも魔力の動きに敏感で、戦場ではその鋭敏な感覚に何度も命を救われたのだった。

 その感覚が、今叫んでいる。この猫は、軍の最大の希望であるとともに、最悪の脅威になるかもしれない猫だと。

 
 「__実際に目にしたのは初めてよ。いるのね......生まれつき常人の比でない『虚像魔力』を持つ猫が」

 プロメタリア大佐も真っ青になるでしょうね、とつぶやく。オリンポス軍の異端児、プロメタリア。かつてオリンポス校要塞作戦で、まだ
二年生であったのにもかかわらず奇抜な戦法を提案して軍の危機を救い、戦士となってからもその優れた戦闘センスで戦闘の最前線を駆け抜ける
雌猫だ。

 しかし、フェイの才能はそのプロメタリアまでもを凌駕するだろう。いや、もしかしたら、成長した暁には、ティート最高司令官と同等の力を
持つのかもしれない。

 そこまで考え、リエルはため息をついた。ミリディスが不思議そうに尋ねる。「どうしたのですか?」

 「......平和な時代に生まれていれば、この子は女優か教師になって、自分のやりたいことを、自分の意志で追い求め、成し遂げたでしょう。
でも、今はそれは無理な望みよ」

 むしろ、戦乱の時代に生まれたことで、フェイの能力はいばらの道へと導く道しるべになりかねない、とリエルは思った。いったいこの子は
どんな大人になるのだろう? 何でもいい。ただ、その心にぬくもりを、安らぎを、わずかでもいいから灯していてくれれば。それはいつの日か、
必ず彼女の力になるのだから。


 △▼
 
 運命というものは、何と残酷なのだろうか! 彼女の純朴な望みは、この先最も無残な形で打ち砕かれることとなるのだ。

 しかし、君たちはこれから目にすることとなる事実から、決して目を背けてはならない。無知は何よりも大きな悪行である。彼らの、彼女らの
生き様を、戦いをしかと脳裏に焼き付けることが我々の宿命である。そしてその生き様を後世の者たちに伝えるのが、私の宿命なのだ。

 ▼△

 
 「__ミリディス」

 疲れ果てて眠りこけたフェイを寝かしつけていたミリディスにそう呼びかけると、雌猫はすっとリエルの方を向いた。「なんでしょう、
リエル様?」

 リエルはほっそりとした前足を交差させ、眉間にしわを寄せて座っていた。ミリディスが神妙な面持ちでそばに来ると、ふっと目をつぶる。

 ミリディスは何か悪いことが起こったのだと察した。そしてその予感は瞬く間に現実のものとなった。


 「良くない知らせですか?」
 「......ええ、最高にね。......ビシェフラト湖が占領されたわ」


 パサリ、と微かな音を立てて花瓶に生けられた花が花弁を落とした。

 ミリディスはあまりの恐怖に体を震わせ、真昼間のように瞳孔を小さく細めた。

 「リエル様...まさか、ブローレン大将は......」
 「ええ」

 喉笛をかき切られて、助ける間もなかったらしいわ。そうリエルが続けると、クリーム色の雌猫は瞳に大粒の涙を浮かべ、肩を震わせて
泣き伏せた。

 思わず目の奥からあふれそうになった熱いものを、リエルは何とか押しとどめた。泣いてはいけない。親しい戦友の命が失われることなど、
この戦争ではもはや当たり前のことなのだ。が、浮浪猫時代のころから唯一無二の友であったブローレンを亡くした痛みは押さえつけられる
ようなものではない。リエルは顔を伏せ、誰よりも忠実な従者とともに、勇敢な戦士の死を悼んだ。

 やがてミリディスがゆっくりと顔を上げた。きれいな双眸は涙で歪み、口の端からは牙がのぞいていた。「__リエル様」ミリディスは唸る
ように声を絞り出した。「私たちはいつまで__この苦しみを味わうことになるのでしょうか?」

 それは嘆願に近い問いだった。リエルは涙で濡れた頬をなんとか押し上げ、凛として胸を張った。

 「立ちあがりなさい、ミリディス。私達は苦しみだけを味わうことはないわ。どんな豪雨も吹雪も__いつかは必ず止むことを信じて。
それまでどんなに辛くても、前に進むしかないわ」


 
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WAR  OF  CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】 Empty Re: WAR OF CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】

投稿 by ラッキークロー Tue Jan 12, 2016 8:53 pm

第四章

WAR  OF  CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】 090802-thumbnail2

おお、戦士たちよ




 フェイが特異な才能を華やかに開花させ、リエルとミリディスがビシェフラト湖の悲しい知らせを耳にしてから、一か月がたった。フェイは
生後五か月となり、いよいよオリンポス校への入学を目前に控えていた。

 季節は夏に差し掛かるころとなり、森は活気に満ちていた。相変わらず戦争は続いており、血なまぐさい戦場のニュースは途切れることなく
オリンポス軍の元へ届いていたが、不幸中の幸いというべきか、イルクや再び前線へと赴くことになったリエルは、まだ重大な怪我は負って
いなかった。

 しかし、オリンポス軍の戦況は今だ喜ばしいものではなく、ティフォン軍の拠点である傷跡湾を中心として、敵軍の侵攻はおさまることを
知らず続いていた。

 
 その中、フェイの受ける教育はますます高度なものになっていた。軍事学や魔法の基礎知識はもちろん、狩猟術、地学、歴史に天文学、
気象学、さらには薬学や商学まで、幅広い学問をミリディスとK・Tから学んだ。ミリディスとK・Tの知識量は相当なもので、特にK・Tが
ヘビの視点から教える気性の変化や、それを使って戦う方法は、フェイの戦い方を大いに富んだものにしたのだった。

 しかし、ミリディスとK・Tの教育の中では、ある一つの暗黙の了解が存在していた。それは、『具現化魔法に関する魔法をフェイに一切
教えず、また使わせない』というものだった。それはフェイという、磨けば宝石の光を放つ原石を保護するための、頑丈な箱の役割を果たす
ものだ。

 あの日の一件で、リエルはフェイが具現化魔法を使うことに特化した虚像魔力を持つ、演技の異端児だと知った。そこで彼女は忠実な部下
二人に、しかるべき時が来るまで、フェイから具現化魔法を遠ざけるよう指示したのである。

 その理由はいくつかあったが、最も大きな理由は主に二つあった。一つはフェイが成長し、魔法を使うために十分なエネルギーがフェイの
中に宿るまでに魔法を使用することが、非常に危険であったこと。そしてもう一つは、愛しい娘を、外部の手から守るためだった。

 その時代、ティフォン軍の兵士による子猫攫いは、もはや日常的に行われていた。特に生まれつき魔法の才能に特化していたり、優秀な
頭脳を持っている子猫たちは、ティフォンの格好の標的だった。ティフォンの参謀はしらみつぶしにそのような才能を持った子猫を捜し、
見つけ次第兵を送りさらうという、非道な行いを繰り返していたのである。全くもって憎むべき仕業だ。

 そんな輩にフェイのことが知れれば、いかに凄腕の戦士たちが護衛にいるとしても、敵の手がフェイに迫ってくるのは時間の問題であった。


 そこでリエルは、フェイの才能をあえて使わせないことで、フェイが天才の子であることを知られないようにしたのである。
               ・・
 珍しい高価な宝石を、悪意ある泥棒どもの手から守るには、石を守る頑丈な箱が必要だ。リエルはさらに、その箱の鍵を厳重に保管し、
できるだけ石に近づけないようにしたのだ。フェイを箱の中から争いの世界へと導く。その鍵となる魔法を、オリンポス校入学の時まで誰にも
見せずにしまっておく。それによって、娘を害悪な輩__ティフォン軍や流浪の盗賊たち__から守ろうと、リエルは考えたのだった。

 母と二匹の従者の巧妙な計らいによって、フェイは才能を開花させてからも、自らはその力に気づくことはなく、平和な生活を送っていた
のである。


 難解な勉強にフェイが躓くことも何度かあったが、全体的に見れば、子猫は与えられた課題をそつなくこなしていた。そして驚いたことに、
それはまた、リングも同じだった。すこぶる勉強嫌いの雄猫ではあったが、彼の学力は相当に高く、またセンスもなかなかのものだった。
二匹は見る見るうちにたくさんのことを学んでいった。

 いつの間にか二匹は、オリンポス校で学ぶいくつかの分野を理解するまでになっていた。

 
 勉強嫌いのリングだったが、彼には唯一好きな学問があった。フェイの好きな学問はもちろん軍事学だったが、彼は同年代の子猫の中でも
随一の運動神経の良さを持ちながら、あまり戦術や体術には興味を示さなかった。
 彼が気に行ったのは経済学だった。ある程度の学をつんだ者でも、敬遠しがちな難解なそれに、リングはとりこになったようだった。

 好きこそものの上手なれという言葉があるが、それはまさに彼を表す言葉だった。フェイはしばしばリングとブロウと一緒に、近隣の酒場や
市場に赴き、そこでやり取りされる商売の様子を観察するようになった。


 ▼△

 
 その日も三人は実習という名目で、古びた酒場を訪れた。上流層の猫が行くようなこじゃれたバーではなく、戦士やフクロウが集まって
真偽の不確かな情報を交わすような、下品な酒盛り場だ。背の低いオークの木に建てられた小屋に並ぶ酒も、マタタビやキャットニップ、
ラピットベリー【※注4】でできた安物ばかりである。枝にかけられた真っ赤な看板はボロボロで、何とか『Red Nuts』と書かれた文字が
読めるぐらいだ。

 あちこちが擦り切れたつるの梯子を上って、二匹が店に入ると、店主のサビ猫が愛想よく声をかけた。

 「よう! また来たのかお前ら」
 「そうだよ! 今日はお客さんが多いね」

 愛嬌のあるリングが尋ねると、店主は筋肉質な体を、どすんとソファに沈めた。
                    スパイ
 「ああ、昨日今日は後援に派遣されてた偵察隊が一時帰還したからな。戦場の疲れを癒しに来た兵士がたくさんいるのさ」

 「どこのスパイ?」

 「ロワールプレーンズだ」

 ロワールプレーンズ? その地名を聞き、フェイは壁にかけられた、牡鹿のタペストリーに向けていた顔を上げた。今まさにリエルの兄、
アーマゴールドが派遣されている地域だ。だが、出兵しているオリンポス軍は確か二個旅団で、そこまで激しい戦況にあるわけではなかった
はずだった......。

 フェイの考えていることがわかったのか、店主は二匹にロワールプレーンズの戦状について説明してくれた。

 「どうやら、敵は新たにキツネを戦いに使うことを考えたようなのさ」

 重苦しい雰囲気の中告げられた言葉に、二匹は驚愕した。

 「キツネ!?」リングが聞き返す。

 「ああ、全く狡猾な連中だ。本来なら競争し合う敵同士なのになぁ......。どうやら、一部のキツネ達と契約を交わしたらしい。ティフォンの
兵になったキツネの食の保障、そして魔法の伝授を約束したっつう話だ」

 「魔法!?」

 仰天してフェイが叫ぶと、雄猫は苦い顔で続けた。

 「それも心理魔法や精神魔法とかの、神経をいじくる奴を教えているようでな。お陰でフクロウ隊も、上空から相手をしとめることができずに
苦戦しているらしい。こりゃ、最悪泥沼戦になるかもしれないな。
 ......っと、そういえば坊主、お前の兄ちゃんもロワールプレーンズに出兵してんだろ? 無事な帰還を祈ってるぞ」

 リングがうなずくと、サビ猫は大きなため息をついた。

 「ああ気がめいる。毎日毎日血みどろのニュースばっかりだ」
 「おーい親父、ラピット酒ビンでくれ! 二本な!」
 「こんな辛気臭いことは飲んで忘れるに限るよ」

 店主は立ちあがると、二匹の頭を尾でポンポンとたたき、厨房に消えた。


 ▼△
 
 
 それから三日後、フェイの家に訪問者がやってきた。ベルの音にドアを開けたフェイは、思わずぽかんとした。外で礼儀正しく敬礼をして
待っていたのは、ストライドだったのだ。

 「どうしたの?」

 どうやら一頭で来たらしいアカシカにそう尋ねると、ストライドはいつものひょうきんな様子とは打って変わり、神妙な顔つきで言った。

 「ブロウが北東からの、不穏な気配を察知した」
 「.....それは猫? フクロウ?」

 問うと、ストライドはさらに眉根を寄せた。

 「どちらもだ。__おそらく子猫攫いの一団だろう。今、ブロウが近所の戦士たちに、応援を呼びかけているところなんだが......K・Tは
いらっしゃらないのか?」

 「ここにいるわ」

 ストライドが言い終るのと同時に、フェイの足元からモンペリエヘビがにょきりと体をつきだした。K・Tがいたことに気づかなかったのか、
ストライドがぎょっとして前足を上げる。

 「あらあらストライド中佐。戦士たるもの、常に気を張っておかねばならないわよ」

 K・Tはクスリと笑みを漏らしたが、すぐに表情を変えた。そう、研ぎ澄まされた感覚を持つ、戦士のヘビへと変わったのだ。

 「集合場所は?」
 「三本杉の根元です。しっかり装備をしてきて下さい。__ミリディス大尉は?」
 
 彼女は残るわ、とK・Tは答えた。「家を守るものが、一匹は必要だもの」

 そこでK・Tはそわそわ足踏みを始めたフェイに気づいた。フェイの体は今、森を荒らす不届き者達に立ち向かいたくて仕方がなく、うずうず
している状態だった。K・Tは子猫の小さな体の中に宿る戦闘意欲に、どこか怖いものを感じながらも、厳しく言った。

 「フェイ、あなたはこの戦いに来てはなりません。わかっていますね?」
 
 黒い子猫は何か言いたげにちらっとモンペリエヘビを見たが、素直にうなずいた。自分のできることとできないことが、しっかりと区別ついて
いるのだ。

 ストライドがほっと息をついた。「リングもこちらに来させていいでしょうか? 別に家に一匹でいさせてもかまわないのだが、どうも
心配だ」

 もちろん、ダメなわけがない。フェイがうなずくと、ストライドはすぐにリングにそのことを伝えた。(この時ストライドは、リングとの
やり取りができる魔法道具を持っていたため、簡単に連絡が取れたが、道具もない状態で離れた場所にいる者と、通信ができることはそうそう
ない。魔力がかかりすぎるからである。また、ストライドが持っていたのは、水晶の鏡である。)

 十数分後、ブロウとともにリングがやってきた。フェイがリングを出迎えると、雄猫は挨拶もそこそこに、くわえていた革袋から何かを
とりだして、フェイに渡した。

 フェイが目を見開くと同時に、ブロウが硬い口調で言う。

 「それはアーマゴールド様がもしもの為に残しておかれた護身用の武器です。小さく殺傷力は少ないですが、接近戦では恐ろしい威力を
発揮します」

 「この形! もしかして、戦闘爪?」フェイはどこか期待してシロフクロウを見上げた。

 「いいえ、戦闘爪じゃないわ」K・Tがフェイの顔を覗き込んだ。モンペリエヘビはトロイ__フェイが誕生した日に身に付けて、戦ったもの
__装着している。そこにいるだけで思わず身がすくむような威圧感に、フェイは再び息をのんだ。

 「それは護身爪と呼ばれるものよ。小型のフクロウやまだ若い猫が使う武器よ。本当はまだあなた達ほど幼い猫はつけるものではないけれど、
仕方ないわ」K・Tは頭を振り、突き出たトロイの棘をかざした。

 フェイはちらりとリングの顔を見た。親友は務めて冷静に、大人たちの会話を聞いている。

 「ストライド、K・T。もうすぐカラフトフクロウのリーヴェロン夫妻が集合する。体液戦士も何匹か来てくれる事になった」
 
 「相手ははっきりとわかったのか?」

 「猫が一個分隊、フクロウが大型小型合わせて一個分隊だ」

 ブロウの言葉にアカシカとモンペリエヘビがうなずいた。「よし、すぐに出発しよう」ストライドが告げた。

 三匹__一羽と一匹と一頭__が出発したのは、まだ太陽が南中する前のことだった。


 
 戦士たちがいなくなると、急にあたりはしんと静まり返った。フェイはリングとともに、二階の小部屋で彼らの帰りを待っていた。

 今、少女の両前足にはめられているのは、銀色に鈍く光る、精緻な鉄のかぎ爪だ。黒い毛皮に、明るい色のそれはよく映える。戦闘爪では
珍しい、脚にすっぽりはめるタイプのものだ。腕輪のような輪に、鋭いアナグマの牙のような爪型の棘が四つついている。棘は鎌状になって
いて、走ったり飛んだりという行動を妨げることはなさそうだ。

 初めてつける護身爪の感覚に、フェイは無意識のうちに興奮していた。それは体の奥底で、絶え間なくならされる鈴のように、冷静になろうと
するフェイの意識を刺激し続けた。フェイは落ち着かず、何度も部屋の中をうろつき、時折外を見張っているミリディスに目を向けた。

 対して、リングはどこまでも平然としており、今まで彼のわんぱくと呼ぶには少々悪戯が過ぎる行動を見てきたフェイには、少し意外なこと
でもあった。リングが付けているのはフェイと同じ、輪っか状の護身爪で、爪の刃がギザギザと、鋸のように尖っていた。あれをまともに
食らったならば、さぞかし痛いことだろう。

 やがてリングがフェイの視線に気づき、いつものようににかっと笑った。まるで一気に花が満開に咲いたかのようだ。「なんだか、つんと
すまして落ち着いてるなぁって? 実は全然そうじゃないよ!」虎猫は大きくぶるりと震えた。「兄さんから、もしこういうことになった時は
どうするべきか聞いてたから、それをしてるだけだよ。本当は今すぐ外に出て、みんなの戦いぶりを見たい気分」

 「アーマゴールド先輩に?」フェイは顔を前足でなめた。護身爪の先が頬をかすめる。

 雄猫は首を立てにった。「そう。だいぶ前だけどね」

 私はそんなこと聞いたことがない。フェイは真っ先にそう思った。ミリディスとK・Tに戦いの知識や歴史を教えてもらう事はあっても、
実際にどうすればいいのかは、あまり教えてもらったことがない。


 実はそれもミリディスとK・Tの計らいであったのだが__今のフェイには知るよしもないことである。


 リングがふと鼻を動かした。「ミリディスは?」太陽が雲に隠されたのだろう、ふっと部屋の中が薄暗くなった。

 「一回にいるはずだけど......」フェイは小さく伸びをした。「いってみる?」

 虎猫は笑顔で起き上がった。


 ▼△

 
 ミリディスは渾身の力で、敵の体を跳ね飛ばした。跳ね飛ばされたニセメンフクロウが、苦しそうにうめく。クリーム色の雌猫は容赦なく
その上に乗り、翼を押さえつけた。

 念のため外を見張っておいてよかった。翼にかぎ爪をつきたてながら思う。このフクロウが家の鍵をピッキングしようとしたのか、魔法を
使い始めたときは焦ったが、どうやら下っ端の兵らしい。ミリディスは牙をむき、フクロウのくちばしをかみちぎらんばかりの勢いで唸った。

「言え! いったい何をしに来たの?」

 フクロウがくちばしを開いた瞬間、ほとんど直感の内に、ミリディスは体を伏せ、後ろに飛びのいていた。刹那、ギラリと光る刃が鼻先
すれすれのところを通過する。
 ミリディスはさっと上を見上げた。シロフクロウが一羽、そして若い雌の三毛猫が二匹。猫に匹はまだ生後九、十か月といった体だろうか?
戦闘爪はつけていないが、口から細い針がぞいていてる。戦闘牙をつけているのだ。
                                ハーフ・アンド・アハーフ
 さっきミリディスに不意打ちをしたのはシロフクロウのようだ。かぎ爪で 片  手  剣   を持っている。刃幅が広く、かなり手ごわそうだ。
いけるかしら? ミリディスは目を細めた。

 三毛猫がすさまじい唸り声を上げた瞬間、戦いの火ぶたが切られた。

 

 

【※注4:イチジクに似た実をつける、多年草の植物。実は生のままだとかたくて酸っぱいが、発酵させると強い酩酊感を味わえる飲み物になる。悪酔いしやすく、この酒を飲んだ者が『ラビット』を『ラピット』と発音してしまうことからこの名がつけられた。】




______________
 今回は後ほど編集します( `ー´)ノ あまりにも文が汚いので......^^;
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WAR  OF  CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】 Empty Re: WAR OF CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】

投稿 by ラッキークロー Sat Feb 27, 2016 11:57 am



感謝のご報告



 皆様こんにちは、ラッキークローです^^

 この度、新BBSで初! 祝! 観覧数1000! を達成することができました! 【返信数18、観覧数1000、二月二十七日】

 ひとえにこの小説を呼んでくださっている皆様のお陰です。本当にありがとうございます!


 まだまだ修行中の身、拙い部分も多々ありますが、これからも宜しくお願い致します。


 BBSに感謝をこめて! ありがとうございました!



 WAROFCATは第三部までを予定しています(相変わらず長い!)。とりあえずオリンポス校に入学したいですね^^; 頑張ります!


最終編集者 ラッキークロー@書きたい物も描きたい物も沢山 [ Sat Feb 27, 2016 3:17 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by レパードクロー Sat Feb 27, 2016 1:20 pm

すごいです。とにかくすごいです。

ガフールのような世界観で、更にそれを深めていくラッキーsはとてもすごいです。
フェイの活躍と兄であるアーマゴールドの無事がとても気になります。
素晴らしい文才で読み手を惹きつけるのはやはり、ラッキーsにしか出来ないと思います。

第3部作まであるということですが、その三部すべてが読めるようになるときを楽しみにしております!
執筆、陰ながら応援しています!
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投稿 by L ͛k ͛ Sat Feb 27, 2016 9:56 pm


閲覧数1000突破、おめでとうございます!

ラッキークローさんの作品の中でもひときわ個性の強い『WAR OF CATS』、第3部まであるということですが、これからもどんなめくるめく展開で圧倒してくださるのでしょうか。
才能をそれが赴くがままに開花させていくフェイ、彼女を取り巻く仲間たちや重厚な世界観から、この先物語は一体どう転がっていくのだろうという期待感で胸がいっぱいです。
ラッキークローさんの世界にこれからもたくさん触れさせていただけたら嬉しいです。陰ながら応援しています(*´ω`*)!

あと、モノクロテイルさんのように、おそれながら閲覧数1000突破記念のファンアートを制作させていただきました。
いかんせん絵が描けないので、映画広告風の何物かです、すみません^^;
お粗末な作品ですが、もしほんの少しでも気に入っていただければ幸いです。

WAR  OF  CATS  ~ブラックウォーズとフールの勇者~              【第一部】【第五章まで更新】 Xm0ume



最終編集者 LK@相方様を選定式にて募集中! [ Thu Mar 10, 2016 10:04 am ], 編集回数 1 回
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年長戦士
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投稿 by ラッキークロー Mon Feb 29, 2016 9:26 pm

レパードクローs
 コメントありがとうございます!

 もったいないようなお褒めのお言葉、嬉しさにちょっと泣けてきました笑。この小説では特に、終わりの見えない戦争と、それに立ち向かい成長していく猫たちを描写することに命をかけているので、とてもうれしいです。

 三部作、完結までこれから長らくお待たせしてしまうと思いますが、頭の片隅にでも覚えてくだされば幸いです。ありがとうございました!


ライトニングキットs
 コメントありがとうございます!

 この物語はかなり自分の好みを入れたものだったので、期待して頂けて幸せです。激しい戦いの日々、それを生き抜く戦士たちの強い生命力を少しでも感じて頂ければ幸いです。ライトニングsの重厚かつ、繊細な物語に少しでも近づければ、と思っています。

 そしてファンアートありがとうございます!!! 体の奥からエネルギーが溢れてくるような作品に心から感動しました! この画像のような広大な自然、迫力を小説の中で再現できるよう、馬車馬のごとく励んでいきたいと思います。応援、ありがとうございました!
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投稿 by ラッキークロー Thu Mar 17, 2016 1:28 pm

第五章

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血色のマクガフィン





 耳の奥からなり響いてくるような唸り声に、フェイは顔を上げた。壁に設置された、今は明かりの灯っていないランプが、
窓から差し込む日差しをうけ、キラキラ光っている。隣にいるリングの方を見ると、雄猫は険しく表情で目配せした。

 言葉は必要なかった。二匹は軽くうなずくと、護身爪が床にぶつかり甲高い音を立てないよう気を払いながら、はめごろしの窓から外の様子を
うかがった。

 あっと言う声が口から漏れ、フェイは慌てて頭を伏せた。リングが身を低くし、低い声でつぶやく。「猫二匹にシロフクロウ一羽。武器を
持ってる」

 戦慄と、それをかき消すほどの興奮が押し寄せ、雌猫は身震いした。ブロウ達が見つけた分隊は、おとりだったのだ! 本命は守りが手薄に
なった家々を襲撃することだったのだ。ますます厳重になっている一般市民のセキュリティを突破するため、向こうも少しは頭を使うことを
覚えたらしい。

 普通の子猫なら、ここで恐怖に固まり、後はやがて家に押入ってくるならず者たちに誘拐されてしまうだろう。だが、この二匹は__自分達も
うすうす感じ取っていたが__普通とはかけ離れた教育を受けている、幼い戦士だ。二匹はすばやく身をひるがえし、二階へと続く階段を
駆け上った。廊下の一番奥にある小部屋に入り、そこに隠された隠し通路の扉を開ける。すべて、リエルから教わっていたことだ。

 リングが護身爪のロックを外した。フェイは息をつまらせ、ゆっくりとロックを解除した。今彼女の心を支配しているのは突然の脅威に対する
恐怖である。胸が押しつぶされそうなほどの緊張である。


 だが、それ以上に大きくなり響いているのは、戦いへ臨むと覚悟を決めた時から止まらない、胸の鼓動であったのだ。

 「ミャーオ!」

 リングが叫び、通路の中へと身を躍らせた。虎柄の尻尾が消えたかと思うと、次の瞬間、下から鋭い悲鳴が聞こえてきた。三毛猫の苦悶の
叫び声だ。その声に、フェイの心は再び奮い立った。

 あいつらの顔を引きつらせるのは、私よ!

 フェイは狭い通路の中へと飛び込んだ。視界が一瞬真っ暗になり、自分の呼吸音だけがやけに大きく響く。フェイはすさまじい唸り声を
上げながら、視界に映った三毛猫の背に飛び乗った。

 そのまま護身爪で背中を殴りつけると、驚愕の叫びが聞こえた。驚く相手の顔に、心の底から喜びが湧きあがる。フェイは振り落とされまいと
四肢を踏ん張り、爪をつきたてた。

 「フェイ!」リングの声に振り向くと、もう一匹のぶちの三毛猫がこちらに向かっていた。口から妙に長くぎらつく、二本の棘が伸びている。
戦闘牙だ! 時に使用者の体を傷つけることもある、諸刃の武器だ。ぶち猫が激しく唸り、かぎ爪をむき出して襲い掛かってくる。フェイは体の
向きを変え、すんでのところで相手のかぎ爪をよけた。

 そのまま飛びあがると、相手の顔の上に前足を押し込んだ。金属の爪が皮膚を切り裂く感触があり、ぱっと赤い血しぶきが飛ぶ。刹那、
リングがぶち猫の腹に横から体当たりした。ぶち猫は足を滑らせ、もんどりうって転んだ。

 もう一匹の三毛猫が後ろから前足を振りおろしたが、その時には二匹は相手から離れ、攻撃に備えて構えていた。四匹は間をたもちながら
相手のすきをうかがい、じっと睨み合った。護身爪をつけた前脚が重い。激しい倦怠感に、フェイは深く息を吐いた。

 急に目の前が薄暗くなり、フェイは目だけを動かして上を見た。「危ない、フェイ!」リングが叫んだ瞬間、三毛猫が地面をけり、フェイの
喉元をめがけて牙をむき出した。同時に上空から、シロフクロウが羽音を立てて、まっすぐに急降下した。かぎ爪に握られた片手剣が、日差しを
反射してまぶしく光る。

 フェイは剣をよけて右に飛んだが、その瞬間、三毛猫に思い切り突き飛ばされた。地面にしたたかに体を打ち付け、目の前に火花が散る。
キラッと細い針が視界に映り込んだ。

 やられる!

 だが、いつまでたっても喉に鋭い牙が突き刺さることはなかった。慌てて体を起こすと、三毛猫はうめき声を上げ、地面に背屈ばっていた。
その後ろで、ミリディスがほとんどささやくように、ぶつぶつと呪文を唱えている。強力な祝詞の一節を唱えるたび、三毛猫の体がビクンと
跳ね上がった。ぶち猫がおじけついたように後ずさる。

 シロフクロウはどこにいるのかとあたりを見渡すと、片方の翼をもがれ、地面に横たわっていた。

 リングがぶち猫に向かって唸ったが、ミリディスがそれを制した。「やめなさい。放っておけばいいわ」その言葉を聞くや否や、ぶち猫は
さっと身をひるがえし、森の奥へと走っていった。ミリディスが立ちあがると、魔法から解放された三毛猫がよろめきながら立ちあがり、息も
絶え絶えに後を追った。

 終わった。フェイはどっと押し寄せてきた疲れと安堵に押しつぶされそうになった。今更に、死と隣り合わせの戦闘を潜り抜けたという実感が
湧きあがり、ぶるりと震える。隣にリングがやって来ると、さっと頬をなめた。「お疲れ様。ひやっとしたよ」その口調があまりにも落ち着いて
いることに、フェイは少なからず驚いた。まるで殺意を持った敵と戦うのは、今回が初めてではないような振舞い方だ。

 「そっちこそ」フェイは震えを抑えて、親友の健闘を褒めようとしたが、木々を揺らすほどの怒りの叫び声にさえぎられた。「全く__
あなた達っていう子は!!!」

 フェイとリングは同時にお互いの顔を見た。虎猫は肩をすくめて舌を出している。おどけたその表情に、フェイは思わず笑いそうになった。

 「いきなり戦いに飛び込んでくるなんて、なんて神経をしているの!? 私の魔法があと二秒でも遅かったら、フェイ、あなたずたずたに
やられていたわよ!」般若のごとき怒りの形相で、ミリディスは二匹に詰め寄った。左耳のカットグラスのピアスに血痕が付いている。

 ここで唐突に私の考えを述べるのは、話の腰を折るようでまことに恐縮なのだが、諸君らに是非とも聞いてもらいたい。普段我々が従者や
家政婦と呼ぶ女性たちは、実は非常に優秀な戦士たちなのである。出身こそ代々の執事の家系からであったり、田舎の農夫の娘であったりと
まちまちであるものの、そろいもそろって戦いの腕は天下一品であり、教養を身につけた者たちだ。魔法の腕もかなり良く、そして何よりも、
自分の考えをがつがつ述べる。ここが男性の従者との、一番の違いであろう。諸君、女性の従者が怒った時、それは神話のポセイドン神が
オデュッセウスへ与えた苦行よりも、魔女メディアの夫イアソンの浮気への激怒よりも恐ろしい。

 フェイとリングも、ミリディスの怒りを前に、なすすべなく縮こまるしかなかった。「ごめんなさい」フェイはちらっとミリディスを
仰ぎ見た。「けど、家の中で黙って待つだけなんてできなかったんだ」

 「そうだよ。あのまま僕たちが隠れていたら、ミリディスが怪我していたかもしれないよ」リングも声をそろえて言った。雌猫のフェイより、
雄猫のリングの口調の方が親しみやすく、年相応のものだ。だが、雄猫は今回は真剣な声色で言った。「あそこでできる最善の選択だったよ」

 クリーム色の雌猫はため息をつき、尻尾を何度か降った。「それは分かっているわ。でも、向こう見ずで無謀な行動は、今後は慎んで
いかなくてはならない。いい、あなた達はわが軍の希望の猫なのよ。わかってるでしょう」

 ミリディスのしぐさはかたく、声はどこか微かによそよそしい響きを帯びていた。それはフェイが初めて見る雌猫の姿だった。

 リングがそわそわ体を動かした。「もしかして僕らの戦い方、すごく下手だった?」その問いにフェイもはっとし、かたずを飲んでミリディス
を見つめた。戦士は急におかしそうにひげをぴくぴく動かし、きょとんとする二匹に向かっていった。

 「あなた達、自分よりも戦いの方が大事なのね。__素晴らしい戦い方だったわ! あんなに果敢に闘う子猫、今までに見たことがなかった」
そしてフェイの顔を覗き込み、喉を鳴らした。「フェイ、あなたの戦いぶりは、イルク大将そっくりだったわ」

 
 途端に二匹の胸には激しい喜びが湧きあがった。血なまぐさい戦闘を経て、聖ギリシャ森林に、若い戦士が誕生した瞬間だった。同時に
彼らは、この悲惨な戦争を終わらせると胸に誓った。理不尽な死を迎えた兵士たち、彼らのためにも誰よりも勇敢な戦士になって見せると、
フェイは決心した。戦いを終わらせると誓ったそのきっかけ、それが血塗られた戦闘だったというのも、非常に皮肉な話である......。

 





最終編集者 ラッキークロー@サクラサク [ Thu Mar 17, 2016 7:21 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by 涙雫 Thu Mar 17, 2016 1:50 pm

あー、何か懐かしい文章…w
やっぱラッキークローさんはすごいです!
お手本にしたい文章ですwww

執筆頑張ってください!
涙雫
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