【閲覧注意】Hallo. 悪夢。【ウォリクラSS】

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【閲覧注意】Hallo. 悪夢。【ウォリクラSS】

投稿 by 吉祥 on Mon Sep 24, 2018 3:34 pm

フォナイフセイブルは、悪夢に悩まされているようです。


最終編集者 吉祥 [ Mon Sep 24, 2018 5:56 pm ], 編集回数 2 回

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Re: 【閲覧注意】Hallo. 悪夢。【ウォリクラSS】

投稿 by 吉祥 on Mon Sep 24, 2018 3:34 pm

フォナイフセイブルは、静かな戦士部屋で目を覚ました。
僅かに血の臭いを感知して、慌てて自分の体中を確認する。

よかった。私ではない。
あの悪夢は、所詮夢なのだ。

実は最近、夢をよく見る。
ウォリクラ族の仲間に喰らいつき、その喉や腹を喰いちぎる自分自身の夢だ。
油断している仲間に並んで歩き、抵抗されることもなく噛みつき、その猫の肉を口1杯に頬張るところで悪夢は途絶える。
口の中に、虚しさと美味しさを残して。

本当に食べてしまったのではないかと、その悪夢を見る度に恐る恐る確認してしまう。

でも、それが現実になったことは1度もないし、仲間と一緒に暮らしていて、その仲間を食べたいだなんて思ったこともない。

...では、この血の匂いは誰のものなのか?

フォナイフセイブルは、その小柄な体格を活かして、戦士の寝室の猫達を順番に嗅いで回った。
すると、丸まって寝ているフロストテイルから、その血の匂いが漂ってくることが分かった。

口の中に唾がわく。

そして慌てて頭を振って、血の匂いを鼻から追い出した。
私はテンだ。みんなとは違う。
本能も、性質も、食性も。

下手をしたら、一族の信頼を裏切ることになる。

常に獲物置き場を満たし、自分の腹をしっかり満腹にしておかなくては...。


フォナイフセイブルは族長に今日の指示をもらうため、戦士の部屋を抜け出した。


「テンってさあ、なに食べるの?」
フォナイフセイブルは、ぎくりと身体を震わせた。
なんだかいい香りの漂う気がする族長部屋で、フォナイフセイブルと吉祥が向き合った。
「猫と同じで、普通にネズミとかウサギとかですけど...」
「そうなの?ほら、私って猫以外に興味なかったからさ。」
そう言って呑気に欠伸をする。
この族長は、先程自分が動揺したことには気がついてはいないようだ。
「まあ、前世は度を越して猫好きでしたもんね。 それでは、今日も平常通り、狩りとパトロールを行います。」
「ああ、任せたよ。獲物はしっかり満たしておいておくれ。」

...どういう意味だろう?
しかし、既に族長に背を向けていたのもあって、特に返事はせずに歩き去ってしまうことにした。
いや、特に深い意味は無いだろう。
私が悪夢なんかに怯えているからいけないんだ。


腹の虫が鳴く。

今日は狩りから始めよう。






「私に食べられてくれないかしら?」
「ふささんだったら、いいよ。」

口に広がる血肉の味。
びくびくと痙攣する、目の前の白い縞のある毛皮と、赤い赤い傷口。
それをやったのは、紛れもなく自分自身だ。




フォナイフセイブルは目を覚ました。

おそろしく体が熱いのは、日向ぼっこをしたまま眠ってしまったからか、それとも...

午前の狩りは大成功だった。参加した全員が獲物を持ち帰り、スノーレパードファーがちゃんと満腹になっても獲物の山にはまだ獲物が残っていた。
フォナイフセイブルも、いつもより多めに獲物を腹に詰め込んでから昼寝を決め込んだのだが、昼間でもあの悪夢を見てしまった。


看護猫でもなんでもない自分がこれだけ悪夢を見るのは、どのような理由があるのだろう。

ふと目の前を涼しい風が通った。
見れば、フロストテイルが目の前を通った。
逃がすものかと、フォナイフセイブルはその尻尾に飛びついた。

「ンア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!何者ですか!?族長ですか!?アレを言いふらしますy ... なんだ、フォナイフセイブルか。」
「族長に何かされたんですか。」
「いや、なにも。」
何もされてないのにそんな反応をするのはあんまりだろう。
フロストテイルの涼しい尻尾が、火照った体に染み通っていく。
尻尾にしがみつきながら話を続ける。
「最近寝付きが悪くてですねぇー この尻尾がないと眠れないんですよー」
「フォナイフセイブルくらいならいいですけど、最近は争奪戦になったり引っこ抜かれたりしそうになるんで、誰も使ってない長老部屋に避難しないと、おちおち私も眠れないんです。」
「フロストテイルはモテますねぇ。」
「文字通り霜の尻尾だけですけどね。」

「...最近、暑いのもあるけど、夢見が悪くて眠れないんですよ。」
言ってしまった。
真剣に、相談があるとか話すことなく、なんとなく流れで言ってしまった。
フロストテイルはなんて言うだろう?

「あー!私もあります!この前のはひどい悪夢だったんですよ!」
「...え?」
「聞いてくれます? ...まあ尻尾離してくれないなら話すしかないんですけど。」
「あ、うん、ごめん。」
しかしフォナイフセイブルは尻尾を離さない。

フロストテイルは勢いよく語り始めた。
自分以外の全員が狂ってしまった夢の話。
シアクラウドを殺して、一族全員が悲しむことなく葬式をした話。

「...で、そこで夢の中の族長に話し掛けられたら、戦士部屋で目が覚めたんですよ。」
「なんて言われたの?」
「...たしか、『もう目が覚めてもいい頃なんじゃないか?』だった気がします。」
「いやに具体的ね。」
「今思うとたしかに... でもまあ夢の話ですからね。」
「そのあとは何も無いの?」
「実は、夢から覚めた後なのに、首元に切り傷が出来てまして。 ほらここ。」
フロストテイルが見せた場所には、クモの巣が押し付けられており、所々血の色が滲んでいる。
今朝フロストテイルから血の匂いがしたのはこの傷のせいだったのだ。
「もうびっくりしちゃいまして。看護猫には、「あさイチでダッシュしたら、茨の枝に引っ掛けちゃいました」って伝えたんですけど。 あんな夢を見た後に、自分にまで覚えのない傷が付いてるなんて。」
「それがいつのこと?」
「今朝ですね。」
「めっちゃ最近。」

フォナイフセイブルは、涼しい尻尾にしがみつきながら考える。
「私の悪夢も、何か関係あるのかなぁ...」
「フォナイフセイブルはどんな夢を見たんですか?」
「...。」
やはり、そうなったか。
フロストテイルからしたら、自分が話したんだから相手も話すべきだと考えるのは自然なことだ。
さて、話すべきか...。

「ごめん、なんだか目覚めたらいつも夢の内容うろ覚えなの。」
「あー あるあるだよね。」
そう言ってしまってから後悔した。
フロストテイルは細かに話してくれたのに。

「怖い夢を見たってことだけ覚えてて、内容が思い出せないってある意味いちばん怖いよね。」
「...。」
わざわざ嘘をついてしまった自分に腹が立つ。
それを紛らわすように、フロストテイルの尻尾に顔をうずめた。




「痛ったぁ!!!!」

フロストテイルの叫び声。
尻尾から振り落とされる。

投げ出されたフォナイフセイブルは、訳が分からず立ち上がることしか出来ない。
「なに!?なんですか!?」
「なんてことするんですか!!」

フロストテイルの怒った声。

その声は、はっきりと自分に向いていた。

「...え?」

フロストテイルに睨みつけられる。
そしてこちらからさっと目をそらすと、自分の尻尾の付け根を舐め始めた。

私からも見える。
ふさふさの白い尻尾の付け根が赤く染まっている。

フォナイフセイブルは、自分の口周りを舐めてみた。

はっきりと、血の味かした。

「うそ... 私、そんなつもりじゃ...」
「冗談でもやりすぎですよ!勘弁してくださいよもう...。また看護部屋行かなきゃ...。」
フロストテイルはそのまま不機嫌そうに看護部屋に歩いていった。



取り残されたフォナイフセイブルは、全身から血の気が引いていくのを感じた。

ついにやってしまった。

悪夢を現実にしてしまった。

私の信頼も地の底に落ちてしまうだろう。


どうしたらいい?副長を辞める?一族を出ていく?全て正直に話す?

頭を抱えるも、何も答えは出てこない。

フラフラと歩き始めると、足が勝手に族長部屋に向いていた。


「こらぁ、入る前には声を掛けろって言ってるだろ。」
大して怒っていない族長の声を聞いて少しだけ落ち着きを取り戻した。
「どうかした?なんだか三日三晩寝てない挙句、全てを失ったみたいな顔してるけど。」
「族長、私に、『そろそろ目を覚ましてもいいんじゃないか?』って言ってください。」
「そろそろ目を覚ましてもいいんじゃないか?」

フォナイフセイブルは目を閉じた。

これが夢で終わってください。目が覚めたら、いつも通りの戦士部屋に居させてください!
そう願ったが、目を開いてもそこは族長部屋で、目の前には心配そうにする族長がいるだけだ。

「獲物は美味しかったか?」
「見てたんですか!?」
「いや、見てないけど。とやかく言うつもりはないけど、口元くらいは綺麗にしておいた方がいいよお嬢さん。」
フォナイフセイブルは慌てて前足で口元を拭った。

「その調子だと、午前の狩りは大成功だったんだね。」
「はい。狩りは成功でした。」
「んー、なら、ヴォルテクス族を見たとか?」
「違います。」
「じゃあなんだろうなぁ まさか!ヴァイオレットフォックスの身に何か!?」
「やっぱりすず吉じゃないですかー!」
「ヴァ吉だ馬鹿野郎。」
なんだかいつものやり取りで多少元気が出てきた。

「さて、どうしたんだい?」
族長はひとつ伸びをしてから、改めて聞いてきた。
どこまで話さなくてはいけないんだろう。
悪夢のことを少しでも話せば、族長は全てを察してしまうだろう。
先程のフロストテイルの叫び声も当然聞こえているはずだ。

悩んでいると、族長が再び口を開いた。
「んー、話したくないとか、話せないんだったら、その内緒にしたいこと以外を全て話してくれる?」
「えぇ...」

でも、それならできる。

朝早起きして、族長に今日の指示を聞きに行き、パトロール隊を派出しつつ、自分は狩猟部隊を先導した。
充分に獲物を捕らえて、充分に食事を済ませてから、日に当たりながら昼寝をした。

「...それが今日、朝起きてから今までの出来事です。」
「ふーん。」

相槌を打ちながら聞いていた吉祥は、そこまで聞いて目を閉じた。


...。


「起きてます?」
「寝てます。」
「どっちなんですかそれ。」

吉祥は目を開き、欠伸をしてから話し始める。

「要するに、話せないこと以外は、全くいつも通り、むしろ調子がいいくらいってことだね。」
「まあ、そうなりますね。」
「ならば私の手助けは必要あるまい。」
今はね。 と、顔を洗いながら付け足した。
「たぶん、話されても私には荷が重い。」
たしかに。と、フォナイフセイブルは心の中で付け足した。
「私は今日は何をしたらいいでしょうか。」
「んー?いつも通りだよ。君は午後の狩りとパトロールの面倒を見るんだ。フロストテイルが看護部屋に行ったんなら、戦闘訓練は私が面倒を見よう。」
「わかりました。」

いつも通り。
私が正気でいれば、至っていつも通り。
悪夢さえ見なければ、いつも通り。

そんな簡単なことが、なぜ今はこんなにも難しく感じるのだろう。


「相談に乗ってくれてありがとうございました。失礼致します。」
「ああ、フォナイフセイブル。」
族長部屋を後にしようとしたら、背中越しに声を掛けられた。

「世の中には、誰かに切り抜けてもらえる問題と、自分で切り抜けなくてはいけない問題があるそうだよ。」
「...。」
「んじゃ、今日も生き抜くとするか。呼び止めて悪かったね。」

族長は立ち上がって、伸びをした。

吉祥
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Re: 【閲覧注意】Hallo. 悪夢。【ウォリクラSS】

投稿 by 吉祥 on Mon Sep 24, 2018 3:34 pm

午後はパトロールに出た。

スノーレパードファー、 ライトニングクロー、シアクラウド、ナイトリーフが一緒だ。

ヴォルテクス族との境界線も異常なし。
縄張りの中におかしなものもなし。
他愛のない話をしながら、何事もなくキャンプ近くに戻ってくる。

「いいか?隙というのは、相手に“見せつける”ためにある。隙を相手に見せつけることで、相手の攻撃してくる場所を極限することが出来るわけだ。」
近くの砂場では、宣言通り族長が直々に戦闘技術を指導している。
「よくわかりません!」
ライオンキットが両目をぐるぐるに回しながら、元気よく返事した。
「んー ネズミが、巣穴に頭だけ突っ込んでいたら、尻を狙うだろ? つまりネズミは、尻を狙われると知っているわけだ。」
「よくわかりません!」
「んーー FPSとかTPSで弾のリロードの時は隙になるだろ?」
「よくわかりません!」
「んーーー スマブラで空中回避しながら着地したら隙が」
「よくわかりません!」
「もういい!次行くぞ!」
族長は小さい子が苦手なようだが、あんな教え方では誰でも戦えるようにはなるまい。

フォナイフセイブルは口には出さずにキャンプに入り、今日の日課を終えた。


午後の狩りも大成功だったようで、獲物置き場にはしっかり獲物の山ができている。
いつもならネズミ1匹で朝までお腹は空かないが、今日は念の為、ネズミとリスを引きずり出した。

そして思い直す。
いけない。看護部屋に獲物を差し入れないと。
ネズミとリスを咥えたまま、看護部屋へと向かう。

「あ、おつかれー」
軽いノリでエルフが出迎えてくれた。
「フロストテイルの分かな?中にいるから持って行ってあげてよ。」
フォナイフセイブルは会釈をして、看護部屋へと入った。

「あ、フォナイフセイブル。」
フロストテイルは、コケを集めた柔らかいベッドに丸くなっていた。
フロストテイルの前に獲物を2つ落とし、距離を撮って座り直す。
「さっきは本当にごめんなさい。傷つけようと思ってやったわけじゃないの。」
「うん、分かってるけど、とにかく痛かったから...」
「これからは傷つけたりしないようにするから。噛みつかないように、引っ掻いたりしないようにちゃんと気をつけるから...」
フォナイフセイブルは、果たしてそうかと自問していた。
さっきフロストテイルの尻尾に噛み付いたのは、完全に無意識だった。
甘噛みでもなく、本気で噛みついていた。
私が意識するだけで、これ以上被害を出すことなく暮らしていけるのか。

「...私、副長辞めた方がいいかしら。」
「は!?何言ってるんですか!?」
フロストテイルは驚いて立ちあがった。
「仲間に、血が出るほど本気で噛み付いたなんて、副長としてあるまじき行為じゃない。みんなそんな猫の指示を聞いてくれるの?」
「ただの事故だろ?フォナイフセイブルが、わざと私の尻尾に噛み付いたのならそりゃ問題だけど...」
「フロストテイルはそう思ってくれるかも知れないけど、みんな本当にそう思うかしら。」
「...。」
フロストテイルは目を逸らす。
信頼を失った副長がどうなるかを考えているのだろう。
「私、どうしたらいいんだろう...」
フォナイフセイブルは、大きな溜息をついた。

「がっはっは!悩んでいるようだな!オイラの出番かぁ!?」
「うわ。」
落ち込む副長2匹の前にやってきたのはチリーレインだった。
続いてアスターハートが現れる。
「チリーレインさん?さっき族長が、岩の隙間のマタタビを没収してましたよ?」
「なんだって!?アレが見つかるはずがねぇ!!おいこら黒塗りぃぃ!!」
チリーレインは猛ダッシュで看護部屋を出ていった。

「ごめんなさいね。彼が乱入できないように押さえてたんだけど、その時にいろいろ話が聞こえてしまって。」
アスターハートは申し訳なさそうに笑顔をつくる。
「ねぇフォナイフセイブル。あなたの頑張りはみんな分かっているわよ。」
「でも私はそれを裏切るようなことを...」
「確かにそうかもしれない。でも、フロストテイルは許してくれてるじゃない。」
「え...本当に...?」
「もちろん!尻尾はちゃんと繋がってるし!」
「フロストテイル、看護部屋に来た時、「遊んでたらトゲが刺さっちゃった」なんて言ったのよ?問い詰めたら、フォナイフセイブルに噛まれたって白状したけど。ツキノコに噛まれたって言った方がまだ信じられたわ。」
「ツキノコにはいつも噛まれてるよ。」
「えっ?あっ、そうなの...。」
アスターハートは1歩、フロストテイルから距離を置いた。
「えっと、何が言いたかったんだっけ。しでかした失敗を反省するのも大事だけど、その失敗を引きずりすぎてはダメよ?反省が終わったら、次は前向きにならなくちゃ。」
「...。」

フォナイフセイブルは、フロストテイルを見た。
「私、まだ副長やっても大丈夫?」
「もちろん!むしろ、辞めるなんて言わないでよね!」
「そっか...」

フォナイフセイブルの中に、あたたかいものが満たされた。
フロストテイルに、鼻面をこすりつけようとして、思いとどまる。



私は、克服しなくてはならない。

吉祥
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Re: 【閲覧注意】Hallo. 悪夢。【ウォリクラSS】

投稿 by 吉祥 on Mon Sep 24, 2018 3:35 pm

フロストテイルとアスターハートに獲物を譲り、自分は獲物の山から子ウサギを貰い、腹に詰め込んだ。

戦士部屋を覗くと、既に眠っている猫や、グルーミングや雑談に興じている猫達がいる。
遠くに、スノーレパードファーの毛皮が静かに上下しているのが見える。

しかし、フォナイフセイブルは戦士部屋を後にし、使われていない長老部屋に向かった。


そこには誰もおらず、苔のベッドが1匹分あるだけだった。
そこでそっと丸くなる。



さあ、かかってこい。悪夢よ。



顔を上げると私の目の前には、見慣れない、よく知った顔がありました。

「やあ、フォナイフセイブル。」
そいつは、私に向かってそう言いました。

変な気分だ。

「こんにちは。フォナイフセイブル。」

私も返事をしました。
まるで、鏡に話しかけているようでした。

そりゃ、私の目の前には、私が座っていたのですから。


「ここ最近の悪夢は、あなたの仕業なの?」
「まあね。でも、私が生まれたのは、紛れもなくあなたのせいなのよ。」
「どういうこと?」
「私は、あなたの、「嫌いな自分」の集まり。あなたの嫌いな自分が集まって、私になったの。」
「嫌いな自分...?」
「あなたは望んでその姿に転生したくせに、テンの本性を嫌っていた。猫の仲間達を羨んでいた。同じように生活したがった。でもね。」
私の目の前の私は、ゆっくりと立ちあがりました。
「私のことを忘れ去るなんてできないのよ?分離して、切り捨てたとしても、悪夢は続き、きっとまた誰かに噛み付く。猫の肉が食べたくて仕方なくなる。猫の血が美味しくて美味しくて我慢が出来なくなる。」
「やめて!」
「かかってこい、悪夢よ? そんなかっこいいことを言うもんだからこうして現れたけど、何ができるのかしら?私のことを食いちぎるのかしら?」

もはや私の目の前に、その私の悪夢はいました。

「ちなみに私があなたを殺せば、あなたの「嫌いな自分」が、現実で目を覚ますわ。悪夢で見た出来事が、全て、いや、それ以上のことを現実で起こせるのよ。」

それだけは起こしてはいけない。
絶対に。

私はここに何をしに来たんだっけ?

悪夢を打ち倒すため。
邪悪な思考を克服するため。
副長としての信頼を取り戻すため。

みんなの、ウォリクラ族のみんなのため。

自分自身の、悪夢を打ち倒す!


しかし、私の顔を、私の悪夢が踏みつけてしまうのでした。

「自分の闇を直視出来ないくせに。こんなにあっさりやられてしまうくらいに、自分を嫌いなくせに。そんな綺麗事だけ並べられるなんて。流石は汚い部分を全て私に押し付けているだけのことはあるわね。」
「痛い...やめて...」

悪夢への懇願も、どうやら聞き遂げるつもりは無いようでした。


ふと、自分にかけられた重みと痛みが、まるっとなくなりました。
体を起こして前を見ると、そこには見慣れた、頼りになる背中が見えました。

「ぱぱさん!!」

ほっとして、涙が出そうになりました。しかし、気になることも沢山あります。
「どうしてここに?」
「ふささんを探してたら、うなされてるみたいだったから。...もう大丈夫だよ。」

スノーレパードファーに突き飛ばされた私の悪夢は体制を立て直すと、私たち2匹を見て、自虐的に笑った。

「ずいぶん愛されてるのね。綺麗な私は。私がもっとちょっかいを出してたら、そんなに愛されてはいなかったでしょうに!」

私の悪夢の言葉は、いちいちナイフのように私の心を突き刺してくるようです。
そう。私がどれだけスノーレパードファーに優しくされようと、それは私が嫌いな自分を、悪夢に押しやってるから、そうして残った綺麗な自分だけを、彼は知っているから。
綺麗な私だけしか、スノーレパードファーは知らないから。

「そんなこともないよ。」

しかし、スノーレパードファーははっきりと言い放ったのでした。

「ふささんにだったら、食べられてもいいって、俺は本気で思ってる。どんなフォナイフセイブルでも、愛してみせる。」


まるで時間が止まってしまったかのように感じました。
まあ元々私の夢の中ですから、時間なんてあってないようなものだとは思いますけど。

その言葉を聞いて、私の悪夢は黙ってしまったのでした。
遠目にですが、ひどくびっくりしてるように見えます。
私だってすごくびっくりしてるんですから。

「さあ、帰りましょう。ふささん。」

スノーレパードファーが、優しく体を擦り付ける。

今このまま目を閉じれば、夢から醒めるのだろうと分かった。







《世の中には、誰かに切り抜けてもらえる問題と、自分で切り抜けなくてはいけない問題があるそうだよ。》


「待って。 私、やらなきゃいけない事があるの。」

そう言って振り向くと、スノーレパードファーはもうどこにもいませんでした。


そう。これは自分で切り抜けなくてはいけない問題。

スノーレパードファーに頼ってはいけないんだとおもいます。


私は、私の悪夢の前に歩いていきます。

「何よ。私を殺す気?言っておくけど、私を殺しても、あなたが綺麗でいようとすればするほど、私はまた生まれるのよ。」
私の悪夢は、牙を剥く。

私は深呼吸してから、私の悪夢に語りかけました。
「いままで寂しい思いさせてごめんね。ずっと閉じ込めていてごめんね。あなただって、私の一部だもんね。あなたも、愛されたかったんだよね。」
私は、私の悪夢に、優しく体を擦り付けました。
さっき、スノーレパードファーにしてもらったように。
「私は、これからはあなたも愛します。私の短所ともちゃんと向き合います。なので。」


「私の悪夢さん、私の中に帰ってきてください。」


「...まったく。最初からそうしていれば、悪夢なんて見なかったのよ?」

そう言いながら、私の悪夢はとても嬉しそうにしていました。
「私のせいで誰かに嫌われる覚悟は出来た?」
「はい。」
「私がやらかすことに、ちゃんと謝る覚悟は?」
「もちろんできてます。」
「もう、仲間外れにしないでね...。」

そう言って、私の悪夢は姿が透けて、私の中に入り込んできました。


どんよりと暗い感情が、私の中を侵食していきました。

誰かを嫌いになりそう。
あの猫に噛み付いたら、どんな味がするのかな。
フロストテイルの血も、実は美味しかった。
実はあの猫のああいう所、嫌いだったのよね。


でもこれからは、あなたたちと、ちゃんと付き合います。
失ってはいけないものでした。
もう切り離したりしません。



なんだか身体が暖かい。
ぽかぽかと、外側から熱を感じる。


ん?なんで外側?こういう時って内側からじゃないの?




フォナイフセイブルは、目を開いた。

しかし、視界いっぱいに広がるのは見慣れた毛皮だった。

「あっついわ!!」

思わず蹴飛ばしてしまうも、フォナイフセイブルの体格ではスノーレパードファーはビクともしない。

なんとかもふもふの海から抜け出すと、どうやら今までスノーレパードファーのお腹の毛の中で眠っていたようだ。
そりゃ暑いわ。


「んう...  おはよう。」
「おはようございます。」

スノーレパードファーが目を覚まし、眠そうに目を擦った。
そこは、2匹だけの長老部屋だった。

「あ、あの、スノーレパードファー。夢ではありがとうね。」
フォナイフセイブルはまずお礼を言った。
夢というのはふとした拍子に内容を全て忘れてしまったりするし、覚えてるうちに夢の話をしておきたいと思ったのだが。
「え?夢?  ...なんか、夢を見てた気がするけど、内容忘れちゃった...かな?」
「えぇ...」

じゃああの言葉も全てが夢!?
フォナイフセイブルはがっかりした。
「じゃあ、悪夢とか、最近見ないですか?」
「悪夢?悪夢なら最近よく見るなぁ」
「ほんと?!どんな悪夢?」
スノーレパードファーは、体を震わせてから語り始める。

「恐ろしい夢だったよ...。頭上から無限にクッキーが降ってきて、食べても食べても減らないの。頑張って食べ続けるんだけどそれでも

フォナイフセイブルは、何も言わずに長老部屋を出た。
今日はいい天気だ。




長老部屋に1匹で残されたスノーレパードファーは、ぼそりと呟いた。

「本気の言葉は、現実で聞かせるからね。」


fin

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Re: 【閲覧注意】Hallo. 悪夢。【ウォリクラSS】

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