【閲覧注意】スノークッキーレパードクリッカーファー【ウォリクラSS】

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【閲覧注意】スノークッキーレパードクリッカーファー【ウォリクラSS】

投稿 by 吉祥 on Mon Sep 24, 2018 10:58 pm

ある日吉祥は、ボタンのついた不思議な箱を見つけた。

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Re: 【閲覧注意】スノークッキーレパードクリッカーファー【ウォリクラSS】

投稿 by 吉祥 on Mon Sep 24, 2018 10:59 pm

酷く暑かった夏、世界観的に言うなら若葉の季節が終わりに近づき、涼しくなってきたウォリクラ族のキャンプ。
ようやく落ち着いて日向ぼっこができると、キャンプの日当たりの良い場所にはよく猫が落ちているようになった。
そんな涼しくなり始めたキャンプには、新しく副長部屋が新設されていた。
最初にキャンプを整備した際、族長の指示で長老部屋を作ったものの、長老など居るはずもないので、気がつけば副長たちの溜まり場になっていたのだ。

その部屋に、パトロールを終えたフォナイフセイブルが入ってくる。

「はぁー すっかり涼しくなりましたねぇ。」
フォナイフセイブルが気持ちよさそうに伸びをしてから腰を落ち着けた。
「今まで暑すぎたよねぇ」
既に副長部屋でくつろいでいたフロストテイルは、フォナイフセイブルのために場所をあけた。
「これからしばらくは過ごしやすい季節やから、一族も落ち着いて暮らせるはずやな。」
エルフは喉を鳴らしてフォナイフセイブルを歓迎した。
看護部屋に自分用の寝床があるにもかかわらず、最近はここに入り浸って寝泊まりしている。
そうして今日の日課を終えた副長たちが全員副長部屋に集まった。
「...ねえぱぱさん、」
「...」
「ぱぱさん?」
「...」
「スノーレパードファー!」
「えっ?何?」
そんな副長部屋の隅で、怪しげな箱を前足で叩き続けているスノーレパードファーは、フォナイフセイブルの不機嫌な声にようやく振り向いた。
「何してるんですかそんな隅っこで。」
「クッキー焼いてる。」
「何で?」
「何でって、焼けるから。」
「...あっそ。」
というのも、先日族長がこの怪しげな箱を見つけてきて、「どうやらここを1回押すと1枚クッキーが焼けるらしい。調べてよすのれぱ。」とかなんとか言って、スノーレパードファーをクッキー焼き係の係長に任命したのだ。
係長といっても部下は誰も指名されなかったので、スノーレパードファーは1匹でずっとクッキーを焼き続けているのだった。

再びクッキーを焼く作業に戻ったスノーレパードファーを見て、副長たちは顔を見合わせた。フロストテイルが話を切り出す。
「ぱぱさんも気の毒ですよね。毎日の任務もあるのに、族長からあんな良く分からない任務を任されて。」
「クッキーを焼くとかいっても、実際に出てくるわけやないし、僕らの体じゃクッキーなんて食べられんし。」
「族長ももしかしたらなにか考えがあってぱぱさんに頼んだのかもしれないけど... ねえぱぱさん、族長からそのへん何か聞いてないの?」
「え?ごめん、話聞いてなかった。」
スノーレパードファーは部屋の隅から振り向き、何が何だか分からないという顔をした。
「もういいです。そのままクッキー焼いててください。」
「わかった。」
スノーレパードファーはクッキーを焼いている。



「最近また仲間が増えたじゃない?たとえばライオンキットは最近どう?」
「まだ教えなくちゃいけないことは沢山あるけど、狩りや戦いの基本は問題ないよ。」
族長に無茶振りされてから、そのままずるずるとフロストテイルが一族の戦闘面の面倒を見ている。ライオンキットはしばらくフロストテイルの元で、戦い方を教わっていたのだ。
「教えなくちゃいけないことって?カップリング事情とか?」
「それ教える必要ある?」
すると唐突にフォナイフセイブルが立ち上がり、声を大にして叫ぶ。
「すず吉は正義!すのふぉなは天使!エルフロは変態!!」
「それ教える必要ある??」
「待って変態って何!?」
「というかそもそもエルフロなんてない!」
「いやいや、ウォリクラカプ情報は必修ですよ。ねえ、ぱぱさんもそう思いませんか?」
「え?ごめん、話聞いてなかった。」
スノーレパードファーは部屋の隅から振り向き、何が何だか分からないという顔をした。
「もういいです。そのままクッキー焼いててください。」
「わかった。」
スノーレパードファーはクッキーを焼いている。


「なんだか、最近は一族も平和やなあ」
「それが一番いいことですけどね。」
「事件も事故も、無いのが一番!」
「ん、でも事故といえば。」
エルフは思い出したように話し始める。
「ホワイトハートが相変わらず怪我だらけなんよ。」
「怪我だらけって、どのくらい?」
「ん~ この世界に傷害保険があったら、あいつ間違いなく大金持ちやね。」
「それ、そもそも保険入れないんじゃない?」
「えっ!?この私でも入れる保険があるんですか!?」
「さすがにないでしょ。ホワイトハートだもん。」
「せやなぁ」
「ですねえ」

「きゃっ!!」
突然副長部屋に叫び声が響く。
副長たちがそちらを見ると、ツルを編み込んで作られた壁に、白猫の顔が飛び出していた。
噂のホワイトハートである。
「すみません!すみません!わざとじゃないんです!さっき何もないところに足をひっかけてしまって!!あとよければ出るのを手伝ってください…」
ホワイトハートの頭を押し返してやると、なんとか体勢を立て直したようで、謝りながら副長部屋から遠ざかっていく。そしてその先でまた誰かにぶつかったようで、その誰かの叫び声が聞こえてきた。
「看護部屋に用意してる薬草の半分はホワイトハートのためにあるんじゃない?」
フォナイフセイブルの冗談にフロストテイルは喉を鳴らすが、エルフはうつむいた。
「それがな、半分どころか、3分の2はホワイトハートに使っとるんよ…。」
「あぁ…。」
フォナイフセイブルは頭を抱えた。
慌ててフロストテイルはフォローを入れる。
「ま、まあ!ホワイトハート以外はほとんど怪我してないってことじゃん!それはウォリクラ族としてはいいことじゃない!スノーレパードファーもそう思うだろ?」
「え?ごめん、話聞いてなかった。」
スノーレパードファーは部屋の隅から振り向き、何が何だか分からないという顔をした。
「あ、うん、ごめんね。そのままクッキー焼いてて。」
「わかった。」
スノーレパードファーはクッキーを焼いている。



副長部屋を、ヒーステイルが覗き込んできた。
「おや、今日は皆さんお仕事終わりですか?」
「スノーレパードファー以外はね。」
スノーレパードファーはクッキーを焼いている。
ヒーステイルは嬉しそうに報告をする。
「さっき面白いものを見つけたんですよ。」
「面白いって、どんなですか?」
「何だか、無理やりツタで覆い隠したみたいなものがあって、」
「ああ、それあれやろ。うちらのキャンプ。」
「なんだ、ウォリクラ族のキャンプか。」
フォナイフセイブルとフロストテイルが同時に納得する。
「えっと、ウォリクラ族のキャンプじゃなくて。ここより遠い所です。」
「じゃあヴォルテクス族のキャンプやねんな。」
「なんだ、ヴォルテクス族のキャンプか。」
フォナイフセイブルとフロストテイルは同時に納得する。
「そこまで遠くないです!場所でいうなら、ヴォルテクス族との境界線を北の方に進んでいった所ですよ!」
さすがのヒーステイルも苛立ち始める。
「それはアレやろ。別荘。」
「なんだ別荘か。」
フォナイフセイブルとフロストテイルが同時に納得する。
「別荘なわけないじゃないですか!何なんですかさっきから!」
「なにキレとるん!逆に聞くけど、ヒーステイルはそれ中に何があるか確認しよったんかー!?」
「し、してないですけど...」
「ほなら別荘があったとしてもおかしないやろー!?」
「たしかに。」
「おかしくない。」
フォナイフセイブルとフロストテイルが同時に納得する。
「えぇ...」
さすがのヒーステイルも、副長3匹が言ってることに反対できず、というより反対したら今よりもっと面倒なので、とりあえずそのまま話を進めることにした。
「その、別荘?が、今まで調べてなかった訳ですから、しかもそれがツタで隠されてるのが気になってですね。」
「別荘なんだから隠してあるに決まっとるやろ。」
ヒーステイルは困って、副長部屋を見回す。
「...。あの、スノーレパードファー!スノーレパードファーはどう思いますか!?」
「え?ごめん、話聞いてなかった。」
スノーレパードファーは部屋の隅から振り向き、何が何だか分からないという顔をした。
「もういいです。私は何も見てません。」
ヒーステイルは呆れて副長部屋を出ていった。
「わかった。」
スノーレパードファーはクッキーを焼いている。



「ねえ、ウォリクラの中で誰が1番美味しいと思う?」
フォナイフセイブルは唐突に訊ねる。
「随分急やな。」
「穏やかじゃない話題だしね。」
「誰だと思う?」
「スノーレパードファー。」
「スノーレパードファー。」
エルフとフロストテイルが同時に答える。
「うん。ぱぱさんは実際美味しい。けど飽きちゃった。」
「喰いごたえあるしなぁ。」
「え、うん。」
とりあえず二匹の会話に合わせるフロストテイル。本当に食べたのか問い正したいが、きっと言葉の綾だろう。
「他に美味しそうな子は?」
「やっぱパーシモンシードちゃう?」
「だよねー」
「あれ見ると、どーしても前世の料理を思い出しちゃうのよね。」
「せやなぁ」
「うん。わかる。」
これには賛同できるフロストテイル。
「逆にフォナイフセイブルは今誰を目つけてるん?」
「今はねー、ぶっちゃけ、フォームダックだね。」
「あぁーわかるぅー」
本当にわかっているのかエルフ!フォナイフセイブルは割と本気でフォームダックを食おうとしてるんじゃねえのか!?

フロストテイルはのちほど、この行き場のない叫びをツキノコに向かって叫んだらしい。


「よし、食べに行こう!」
「乗った!」
「え、ほんとに行くの?!フォームダックはたしかパトロールに行ってたはずだけど...」
勢いよく立ち上がった二匹につられてフロストテイルも立ち上がる。
「逃がさないわよ!」
「よっしゃいくで!スノーレパードファー!」
「え?ごめん、話聞いてなかった。」
スノーレパードファーは部屋の隅から振り向き、何が何だか分からないという顔をした。
「ええわ。そのままクッキー焼いとって。誰かがここに来たら、『お母さんはいません。』って答えるんやぞ。」
「わかった。」
スノーレパードファーはクッキーを焼いている。


副長たち3匹、フォナイフセイブルとエルフとフロストテイルは、勢いよくキャンプを出て、猫達の匂いを探った。
「フォームダックって普段どこにいる?」
「暖かいところか、川の近く。」
「パーシモンシードは?」
「あいつは湿地とかによくおるけど、今回のターゲットではない。」
「ええ。あの子ネズミ好きですから。」
「せや。ネズミ好きやからな。」
ネズミが好きだと一体どんな不都合があるんだろう...。
「ほならまず川に行くで!」
「はい!行きますよ!」
「あ、うん...」
フォームダックがいたとしたら自分はどうしたらいいんだ??
フロストテイルは考えるも、ノリノリな2匹の前では口出しできなかった。

水の音が徐々に近づき、川にたどり着いた。
しかし、フォームダックの姿どころか、彼女の匂いもしてこない。
「おらんなぁ」
「私の獲物がぁ」
もう隠す気のないフォナイフセイブル。
「別にフォームダックを探す必要ないんじゃないかなぁ?」
フロストテイルが提案すると、2匹は同時にフロストテイルの方を見た。
「フォームダックじゃないとダメですよ!」
「せやろが!フォームダック食べたいやろ!それにパーシモンシードはネズミ好きやろ!」
「そうですよネズミ好きじゃないですか!」
だからネズミ好きだとなんの不都合があるのかが全くわからない。
「そうじゃなくて... 私たち、普通に狩りをして普通にお腹を満たせばいいんじゃないの?」
「それはダメよ。なぜなら私たちは、フォームダックの味を確かめなきゃならないもの。」
「せやせや。 僕らは味を確かめに行くんや。」
「あっそう... というか、パトロールが終わってもうキャンプに戻ってるんじゃないかなぁ。」
そもそもパトロールなんだし、行先くらいは指定していそうなものだが。
「じゃけえ、今すぐキャンプに戻るけん!」
「がってん承知!」
キャラどころか口調まで壊れ始めた二匹を追って、フロストテイルも駆け出した。

副長たちがキャンプに戻ると、目の前にシアクラウドがいた。
「あ、シアクラウド。確かフォームダックと一緒にパトロールに行ってたよね?」
フロストテイルが質問するが、シアクラウドの返事を待つことなくフォナイフセイブルが口を挟んだ。
「何味だった!?」
「ええ、パトロールが終わって... なんですって?」
シアクラウドが驚いて瞬きをしながら聞き直す。
「フォームダックがどこにいるか知ってる?」
「フォームダックはやっぱり生で食べるん?」
今度はフロストテイルとエルフが同時に質問する。
「ちょっと待ちなさい。まともな質問とまともじゃない質問を同時にされてる気がするんだけど。」
「いや、私たちはただフォームダックを探してて、」
「捕まえて縄で縛って」
「ちょっとローストするだけです」
「なんてこと。ウォリクラの副長たちってここまで狂っていたのね。手遅れだわ。」
シアクラウドに言われてしまってはおしまいだとフロストテイルは呆れた。
そして、自分はもう下手に口出しするのを諦めることにした。

「まあ動機はともかく、フォームダックなら、気持ちのいい寝床を見つけたから!って別れ際に言ってたわよ。」
「気持ちのいい寝床ですか。」
「心当たりあるで。」
エルフが自慢げに言う。
「ずばり、族長部屋やな。」
「なるほど!」
「...絶対違うと思う。」
しまった。下手に口出ししないって決めたばっかりなのに。
しかしフロストテイルの口出しなど意に介さず、エルフとフォナイフセイブルは族長部屋へと突撃していった。



族長部屋には誰も居なかった。

族長がどこにいるのかはともかく、副長2匹による家宅捜索が始まった。
「羽毛を探すのよ!」
「あと紫の毛もな!」
大して物を置いていない族長部屋が隅々まで捜索され、族長の寝床を最後に残すのみとなった。
しかしまずは、エルフがその寝床で丸くなる。
「族長の使ってる寝床、やたら気持ちいいんよー。なんでやろなぁ」
エルフが丸くなっている隙間に、フォナイフセイブルも体を滑り込ませた。
「たしかに!これはいいわね!」
フロストテイルは、族長がいつ戻ってくるかとヒヤヒヤしている。部屋の入口から外を確認するも、まだ族長の姿は見えない。

そして視線を戻すと、2匹とも族長の寝床で寝息を立てていた。
仕方がないので、フロストテイルがその寝床の周囲を調べ始める。

すると、入口から死角になる場所に、怪しげな土の山があった。
恐る恐る掘り返してみる。

中から、猫の毛と思われるものが掘り出された。
土を払ってみると、その毛の色は、ほとんどが真っ白だった。ちらちらと、族長のと思われる黒い毛が混じっている。

族長は真っ黒猫だ。族長部屋に、なぜ白い毛があるのだろう?
しかもそれを族長は、何故隠したのだろう。
匂いを嗅いでみても、土の匂いと、族長の匂いしか感知できない。

「ねえおふたりさん、
これどう思う?


その言葉は、途中で遮られた。

「いますよ。」

耳元で、聞き慣れた声が囁かれた。
フロストテイルの口を、吉祥の2本の尻尾が塞いでいる。

「これからも、笑顔で暮らしていたいだろう?クッキー焼きの平社員にはなりたくないだろう?」
フロストテイルは思わず頷いた。
「あれは、誰かの毛ではない。私の毛だ。同じ場所にいつも白い毛が生えてきて、みっともないから毎朝抜いている。それをそこに溜め込んでただけだ。 ...この話を知ってるのはお前だけだ。情報が漏れたら、お前の役職はクッキー焼き平社員、いや、小麦粉役に降格する。いいな?」
フロストテイルは頷く。

族長の尻尾が、フロストテイルの口元からどかされた。

後ろをふりかえっても、そこには誰もいなかった。


「ほ、ほら!フォナイフセイブル!エルフ!そこで居眠りするために来たんじゃないだろ!」
「んぁ?」
「あぁ、寝ちゃってた...」

二匹は同時に欠伸をして、族長の寝床から這い出てきた。
「寝心地が良すぎるのがいけないんですぅー。」
「いいからここを出ますよ!」
エルフはまだ眠たそうだが、副長たち3匹はそのまま族長部屋を後にした。

部屋を出たのを見計らって、フロストテイルは2匹に声をかけた。
「族長に、黒以外の毛が生えてるの、見たことある?」
「えー ないなぁ」
「うちもない。」
「こらぁぁぁあ!!!!」
誰も居なかったはずの族長部屋から、族長が全速力で走ってくる。
「やばっ 逃げるで」
「寝床借りたくらいであんなに怒る?!」
3匹は慌てて副長部屋に駆け込んでいった。


「ふう。ここなら安全です。」
フォナイフセイブルはそう言って腰を落ちつけるも、とても安全とは思えない。
しかし族長は、副長部屋まで追っては来なかった。


「しかし、結局フォームダックは見つからんかったなぁ。どこ行ったんやろ。」
「ぐわ。呼んだー?」
3匹が驚いて声のした方を見ると、スノーレパードファーの毛皮の中から、白い猫が顔を出した。
フォームダックである。
「いつからそこにいたの!?」
「んー?フォナイフセイブルが、「はぁー すっかり涼しくなりましたねぇ。」って言ったあたりから。 」
「最初からじゃねえか!!」
フォームダック副長説が浮上する。
「あ、よく考えたら私と一緒にパトロール終わらせたんだった。」
フォナイフセイブルが、てへ と舌を出す。
フロストテイルは呆れて、フォームダックに囁く。
「もう、煮るなり焼くなりされる前に早くここを出た方がいいよ。」
「ぐわ。気持ちよく寝てたのにー。」
スノーレパードファーの毛皮を飛び出し、副長部屋をよたよた出ていった。

「まさかこの部屋におったとはなぁ。」
「ほんと。スノーレパードファーも気付いてたなら教えてくれてもいいじゃない。」
「お母さんはいません。」
スノーレパードファーは部屋の隅から振り向き、何が何だか分からないという顔をした。
「もういいです。そのままクッキー焼いててください。」
「わかった。」
スノーレパードファーはクッキーを焼いている。


「はぁー、いつまで続くんやろこの生活。」
「私は別に前世に戻りたいなんて思ってはいませんけどね。」
「私も。」
「いや、僕も前世に戻りたいって願ってる訳でもないんやけど、なんていうか、スター族の存在が見つからないまま、ヴォルテクス族とピリピリした状態っていうのが、いつ次の段階にいくんやろって。」
「ヴォルテクス族については、本家が進んでくれないと。」
「誰だ今のメタ発言したの。」
フロストテイルが聞くも、フォナイフセイブルとエルフは首を横に振り、スノーレパードファーはクッキーを焼いている。
「たぶん族長やろ。」
「なんだ族長か。」
フォナイフセイブルとフロストテイルは同時に納得する。
「あーあ。月の石か湖でも見つかりませんかねぇ。」
「そんな簡単には見つからないやろー。」



スノーレパードファーは、クッキー焼いている。
ボタンを押して1枚。また押して1枚。
100枚溜まったら、ボタンの機能をアップグレードする。
すると1回押すと2枚。また押して2枚。
次は200枚でアップグレードする。
これをずっと繰り返してきた。
たとえ肉球が擦りむけようと、爪が割れてしまっても、クッキーを焼く手を休めてはならない。
ひたすらボタンを押し続け、そのクッキーを投資してアップグレード。そしてさらにクッキーを焼き続ける。
最初は1000枚のクッキーを焼いた時に、確かな達成感を味わったが、すぐにその1000枚を投資して、1万枚を目指した。赤字になることは無い。ひたすらボタンを叩けばいいのだから。
今や、ボタンを1回押すだけで2500億のクッキーを生み出し、100兆のクッキーを積み上げ、10京枚のアップグレードを目指していた。

スノーレパードファーはクッキーを焼いている。
そして考えた。
そうだ。ウォリクラ族を抜けよう。
ウォリクラ族を抜けて、新しく猫達を集めて、クッキー族を立ちあげよう。そして、みんなでクッキーを焼くんだ。
みんなでクッキーを焼けば、今よりもっと多くのクッキーが手に入る。
今やスノーレパードファーは、クッキーを焼くボタンと一体化を果たしていた。
このボタン、族長に頼めば譲ってくれるだろうか。
族長は渋るだろうが、熱心に話せば、ボタンを譲ってくれて、一族を抜けることも許可してくださるだろう。

そんなスノーレパードファーの耳に、ほかの副長たちの言葉が飛び込んできた。

前世...


スター族...


月の石...


スノーレパードファーの頭の中で、何かが弾けた。

そうだ。大事なことを忘れていた!
神秘的な洞窟の入口を見つけ、ツタで覆い隠してきたこと!
副長たちに相談したあと、族長に相談しようと思っていたこと!
そのタイミングでこの箱を渡されて、わけも分からぬままクッキーを焼いてしまっていたこと!

正気に戻ったスノーレパードファーの目の前で、クッキーの枚数が10京に到達するのを見た。
しかし、感じたのは心の底からの恥ずかしさと虚無感だった。




「...ということなんです!」
「まさか。」
「その洞窟が。」
「月の石への入口?」
スノーレパードファーの話を聞いた副長たちは目を丸くした。

そしてエルフが低く唸る。
「別荘があるなんて言いよって。ヒーステイルは僕らを騙そうとしたんやろか?」
「えっ?」
あの時は悪ノリしていたフロストテイルだが、ヒーステイルは別荘があるなんて一言も言っていない。しかしこれ以上話をややこしくしたくないので黙っていた。

「とにかく、今から僕達でその洞窟の中を確かめに行くべきだと思うんだ。」
「賛成です」
「賛成や」
「賛成でーす」
副長たちは、駆け足でキャンプを飛び出していった。



もう日はすっかり落ちてしまい、綺麗な半月があたりを優しく照らしていた。

スノーレパードファーの大きな背中を追いかけていると、しばらく走った先にツタが絡んだ怪しげな盛り上がりがあった。
スノーレパードファーがツタを引っ張ってどけると、猫一匹が入れそうな入口が見つかった。
「中は見てみたの?」
「まさか。1匹で入るほど不用心じゃないよ。」
フォナイフセイブルの言葉に、スノーレパードファーは尻尾を膨らませながら反論した。
「入ってみるやろ?」
「誰か見張りはいる?」
「誰が先頭?」
フォナイフセイブルがため息をついて、オス3匹に指示を与える。
「スノーレパードファーが先頭。見張りはいりません。私が最後に入ります。本当に月の石の洞窟だった時のために、広場に出るまで一言も口を開かないこと!やむを得ず戻る時は、前の猫の尻尾を2回素早く噛むこと!」
3匹は顔を見合わせて、大人しく指示に従った。

光の差さない暗い洞窟を、髭や毛皮の感覚だけを頼りに進んでいった。
スノーレパードファーは毛皮が厚いため、洞窟の幅を常に把握しながら歩くことが出来た。
フロストテイルがその尻尾を追い、エルフはフロストテイルの尻尾の冷気を頼りに進んだ。フォナイフセイブルはエルフの尻尾を咥えながら前進する。

そうして何度もうねる洞窟を進み続けると、明るい部屋に出た。

そこに出た副長たちは、言葉を失った。

そう、かつて心の中で描いたあの『月の石』が、目の前に鎮座していたのだった。

まだ光ってはおらず、それでも厳かな雰囲気を醸し出している。


そっと、フォナイフセイブルが口を開いた。

「今晩は、半月でしたね。」
「つまり、看護猫の出番。」
「うそ!?待ってや!うちじゃなくてもよくない!?」
「エルフ以外には勤まらないでしょ。」
エルフは焦って後ずさる。
「せや!ここは公平にじゃんけんで決めへん!?」
「仕方ないなぁ...」
そう言いつつエルフには作戦があった。
猫の手ではチョキは出せないから、パーだけ出しておけば良い。
誰かが何も考えずにグーを出してくれれば、自分が月の石で対話せずに済む。

これに気付かれる前に決着をつけなくては。
「いくで!じゃーんけーんぽん!

エルフ以外の全員がチョキを出した。
パーを出したエルフの1匹負け。
「なんでや!おかしいやろ!?みんなでハメよったんか!?」
「いや、前に頑張ったらチョキできたから、」
「嬉しくて、」
「出したくなったっていうか...」
「いや出来るわけないやろチョキなんて!猫の手でチョキは無理や... あっ出来た!チョキできるやんけ!!やば!!」

大騒ぎしているエルフの背後で、突如月の石が眩く輝き始めた。

心に思い浮かべていたよりももっと眩しく、もっと神聖で、もっと近寄り難い輝きだった。

再び言葉を失う副長たち。
エルフは観念して、月の石の元に歩いていった。

近寄ると、目が眩みそうだ。
緊張して身体が震える。

「じゃあ、やってみるで...」

石の近くに寝そべり、そっと鼻を押し付けた。

あまりの冷たさに、身体がぶるっと震えた。
目を閉じると、鉄球が海の底へと沈んでいくかのように、意識が深く沈んでいった。










エルフキット!






エルフポー!






まあ、よく出来たわね!







エルフハート!



エルフハート!









一族が危機です。



グリーンコフの蔓延を止めないと!


(これはなんや...?)


もう、役に立つ薬草は取り尽くしてしまいました!


エルフハート!

誰か私の子供を助けて!



エルフハート!



(誰の名前を呼んどるんや?)



スター族は何か言ってくださらないのですか?

他の部族の看護猫は?


族長は?





助かった!


エルフハートのおかげだ!






ああそんな!



エルフハート!

エルフハート!





「どう?あなたの一生は。あなたはよくスター族に、そして****族に尽くしてきたわ。」
目の前に、真っ白な猫が現れた。
「いえ!まだ私にはやらなくてはいけないことが!生き返ることは出来ないのですか!?」
「いいえ。残念だけれど」
白猫は、目を伏せた。
「嘘です!まだアローフットの怪我を治し終わってない!スカイファーの赤ちゃんがもうすぐ産まれる!私が、私が面倒を見ないと!」
「エルフハート。諦めなさい。あなたはよくやったわ。それともあなたの弟子の、ツリーリーフに、何も任せられないの?」
「あの子にはまだ全てを教えられてないの!私がついてなきゃ...」
「エルフハート。」
白猫は、エルフハートの肩を舐める。
「あなたはよくやったわ。一族全員があなたの死を悲しんでいる。でもあなたの良き行いが、あなたの教えが、これからもずっと語り継がれるわ。」
「...。」
そうだ。私は死んだのだ。
雷雨の中薬草を取りに出て、倒れてくる木に潰されて息絶えたのだ。
受け入れなくてはならない。スター族での暮らしを。

「****族の××代目の族長として、あなたを歓迎するわ。これからはずっと好きに狩りをして、好きに過ごすといいわ。」
「...はい。アリアスター。」
エルフハートは、恭しく頭を垂れた。
アリアスターは、エルフハートの尊敬していた族長だ。エルフハートが生まれた時からずっと族長で、仲間を庇って勇敢に死んでいった。****族の誰もが彼女を尊敬していた。
「もし不安があるなら、あそこの湖から、猫達を導くこともできるわ。でも全てを教えてはダメよ。あなたがかつて弟子だった頃、そうしてもらったようにね。」
「! そうだ!ファルコテイルに会えますか!?」
「ええもちろん。指導者らしく、ずっとあなたのことを見守っていたわ。あなたの死を悲しんでいましたが、きっと歓迎してくれるはずよ。」
エルフハートは、胸がいっぱいになった。
薬草のことを1から教えてくれた、大好きだった指導者にようやく会える!

エルフハートの脳内に、何かが引っかかる。

「あの、ほかに私と特別親しい猫が何匹かいませんでしたか?」
「特別親しいというと...?たとえば昔あなたが片思いしていたスコットファーとかかしら?」
「いえ、その猫ではなく... スノー...なんとか...。 フロスト... なんとかセイブル...」
頭の中で、黒いモヤが掛かっているように、その名前は出てこない。

「きっと命を落としたショックが抜けていないのよ。落ち着いたらきっと思い出せるわ。さあ、スター族の縄張りを案内してあげる!」

アリアスターは、エルフハートに背中を向けて歩き出した。

何か引っかかりを感じるが、かつて大好きだった族長や、指導者にまた会えると思うと、そんなことはどうでもいい事のように感じられた。

その白猫をすぐに追いかけようと、足を踏み出した。







「待って!!!」


聞きなれない声に呼び止められた。


辺りを見回すと、背後に、くらやみがあった。

明るく綺麗なスター族の狩り場にふさわしくない、くらやみだ。

思わず後ずさる。


そのくらやみから、何者かの声が聞こえてくる。

「名前を思い出せ!そんな長い名前じゃなかっただろ!」

名前?

「私はエルフハートだ。****族の看護猫だよ。」

頭を殴られるような衝撃。

違う。何かが違う。

いや、何もかもが違う。



くらやみが、猫の形になる。


「いいぞ、その調子だ。君の周りには、愉快な仲間がいただろ?」

仲間?

「****族の仲間なら、アローフットとか、ツリーリーフとか、ファルコテイルとか...」

口が止まった。

****族の猫達の名前が出てこない。



くらやみが小さくなり、黒い猫の影になる。

そいつは叫んだ。
「さあ声に出してみろ。 お前が従う族長の名前を!」



アリアスターだ!

叫び返したつもりだったが、別の猫が頭の中を支配する。


白い猫ではない。

逆だ。

真っ黒な、もっと怪しげで、胡散臭い猫じゃなかったか?


そいつの名前は...

「きっしょう...?」


「はあ、思い出してくれたようだね...」


くらやみは、黒い猫又の姿になった。



エルフは、全てを思い出した!


「族長!僕どないしてしまったん!?」
「全然わからん!何とかして早く元の森に帰るぞ!」
「でもどうやって...」
「こういう時の魔法の言葉がある。多分、この世界にはもう戻って来られなくなる。そして、記憶は残るかどうか分からない。やり残しはないか?」
「... ちょっとだけ時間くれへん?遺してきた弟子にアドバイスだけしたい。」
「分かった。早くしてくれよ。いまヴァイオレットフォックスに仮死状態にされてるんだ。下手したら私も仲間入りしてしまう。」
「まじ!?めっちゃ急ぐわ。」


エルフは全ての記憶を取り戻していた。
しかし、エルフハートという猫の記憶も、同時に持っていた。

****族で看護猫として活躍して、弟子も取り、数々の病気を治療し、薬草の新しい使い道をいくつも発見し、何匹もの子猫をとりあげた確かな記憶がある。
しかし、自分ではない。

自分ではない誰かの偉業にすがり、その弟子に勝手にアドバイスをするのだ。
それってどうなんだと思いながらも、光り輝く湖のほとりにやってきた。

その湖の水を1口飲み、頭の中で弟子のことを思い浮かべる。


涙を流す、キジトラの猫が目の前に現れた。
そいつはこちらを見て、目を丸くした。

「全て教えてやる前に逝ってしまって申し訳ない。まだ教わってないことはよその部族を頼りなさい。お産も、お前なら大丈夫。****族の命運はお前にかかっているんだ。」


エルフハートの目の前で、小柄なキジトラ猫は、しゃんと背を伸ばした。

きっと大丈夫だろう。



急いで吉祥の元へ駆け寄る。


「待ちくたびれたぞ。さあ戻るぞ。」
吉祥は息を吸い込んだ。

「ショートダークモカチップフラペチーノ...」

夢は醒めない。

「間違えた。」
「ふざけとる場合か!?実は余裕あるんちゃうんか!?」
「ないよ余裕なんて!いくよ!」
吉祥は、エルフに向かって前足を突きつけた。

「もう目が覚めてもいい頃なんじゃないか?」


突然足場がなくなり、地の底へと落ちていく気がした。



その時、声が聞こえた。




「さようならエルフハート。もう会えないなんて残念だわ。」




その声が、アリアスターの声だと分かる頃には、エルフは意識を手放していた。







「 」






「エルフ!」



「エルフ!」




目を開けようとしたが、瞼が鉛のように重い。
無理やり目を開くと、薄暗い洞窟の中、何匹もの目が光っているのがわかった。

「目を開けた!エルフ!生きてる!?」

全身がずぶ濡れになった時のように、体中が重い。
それでも何とか体を起こすと、フォナイフセイブル、フロストテイル、スノーレパードファーが駆け寄ってきた。

「よかったぁ!」
「生きてて良かった!」
「ごめんね1匹でやらせちゃって...」


「気分はどうですか?」
横から、ヴァイオレットフォックスの声が聞こえる。

「...めちゃくちゃだるい。」

自己診断を行って、ヴァイオレットフォックスの方を見ると、空っぽの胃袋がひっくりかえりそうになった。
彼女の足元には、血塗れの黒猫が横たわっていた。


「石の光が消えても、そこから1時間くらい経ってもエルフが目を覚まさないから起こしに行ったら、息を全くしてなかったの。」
フォナイフセイブルが泣きながら報告する。
スノーレパードファーがそれを引き継ぐ。
「フォナイフセイブルが急いで族長とヴァイオレットフォックスを呼んできてくれたんだけど、光の消えた石では何も起こらないからって...」
「『俺を殺せ』と、言ってきたの。」
ヴァイオレットフォックスは辛そうに続けた。
「もちろん殺せないから、気絶させて仮死状態にしてみたけど、その様子なら上手くいったのかしら。」
「...おかげで戻ってこれたわ。」
「ふごぁっ!」
突然ヴァイオレットフォックスの足元の黒猫が、よくわからない声を上げた。
「族長!」
「私ちゃんと生きてる?サイボーグとして生まれ変わったりしてない?」
「残念ながら。009とクロちゃんで迷ったんですけど、間をとって006仕様に改造しておきましたよ。」
「まじで!?クロちゃんがよかったわぁ...ってか006って能力なに!?!」
「火炎放射ですよ。」
「まじで!?でかした!!!!これからはいつでも焼き物の料理が作れ





ウォリクラ族のキャンプには、秋の始まりを告げるように、よく虫が飛ぶようになっていた。

エルフは看護部屋からのっそりと出てきた。
「エルフ!調子はどう?」
「ぼちぼちやな。ありがとう」
「獲物取ってくるよ?」
「いや、自分で行くわ」
「マタタビはいるかぁ?」
「いらん。」

ウォリクラたちに声をかけられながら、エルフはフラフラと獲物の山に吸い寄せられていった。

あとで聞いた話によると、丸一日ずっとあそこにいたらしい。
立ち会ってくれた副長たちや、助けに来た族長とヴァイオレットフォックスも、ほとんどずっとそこにいたことになる。なんと言って感謝すればいいのだろう。

1番取りやすい位置にあったネズミをくわえ、ガツガツと食べる。


夢で見た事はもうほとんど覚えていない。


結局、あの石はスター族からお告げをもらうものではなく、安らかに死ぬための石ということになった。


なんとか調べることが出来れば、スター族と話ができるようになるのかもしれないとも思ったが、自分が犠牲になりかけたことを考えると、下手にあの石を使ってはいけないと確かに思う。


ネズミを食べ終わったエルフは、副長部屋に顔を出す。


「私は気づきました!ツキノコの耳の部分が1番の美味であったと!」
「ツキノコ畑の、耳が全部齧られてると思ったらフォナイフセイブルの仕業だったの!?やめてくださいよ!なんか余計キモくなってるじゃないですか!」
フォナイフセイブルとフロストテイルが、狭い副長部屋でどたばたと追いかけっこをしている。
エルフの後ろから族長が声をかける
「うるせえよ!副長部屋から長老部屋、いや、老害部屋に名前変えるぞ!!」
「「ごめんなさーい」」
そして老害部屋... じゃない。副長部屋の隅では、スノーレパードファーがクッキーを焼いている。その毛皮の中で、フォームダックが気持ちよさそうに眠っている。

今日もウォリクラ族は平和だ。

「うちが、しっかりせなあかんな。 うちなら大丈夫。ウォリクラ族の命運は、うちにかかっとるんや。」


なんとなく呟いたそんな独り言は、エルフの中で何回も何回も反響し、染み渡っていくようだった。

吉祥
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