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Memory of Flower[完結]

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Memory of Flower[完結] - Page 2 Empty Re: Memory of Flower[完結]

投稿 by アイルステラ Sun Feb 09, 2020 9:24 am

【第5章】2

 「そろそろ旅を始めない?」

食事を終えて毛繕いをしている最中、不意にフルールスリートが遠慮がちに言った。

「もう体力は戻ってるのか?」

ムーンルキスが心配そうに聞く。

「私、今すぐにでも出発したい!!!」

フルールスリートが笑いながら言い、目を輝かせて2匹を見つめる。

「ムーンルキス、どう思う?もう大丈夫かな?」

ネージュムーンが聞くと、ムーンルキスは少し考えてから答える。

「フルールスリートが大丈夫だと言うならな...だが、一応、出発は明日の朝にしよう。」

「もう大丈夫だって言ってるのに!」

フルールスリートが不満そうに鼻を鳴らしたが、ムーンルキスは大事をとって、と繰り返す。

「旅をしている最中でも、体調が悪くなったらすぐに言うことを約束しろ。いいな?」

真剣な口調で言い聞かせるムーンルキスにフルールスリートは大きく頷いた。

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投稿 by アイルステラ Mon Feb 10, 2020 6:29 pm

【第5章】3

 かぎ爪のように細い三日月が木立の上で光っている。

「私達は明日からどこに向かうの?」

フルールスリートがあくびをしながら聞いた。

「海だよ。」

「海って?」

フルールスリートが眠気を堪えながら兄弟に聞く。

「僕達も見たことないからね。」

ネージュムーンが首を傾げながら言い、ムーンルキスも頷きながら言う。

「水がたくさん溜まった場所らしい。世界で一番大きな物だと聞いた。」

「世界で一番大きな物...」

フルールスリートはそう呟き、目を閉じる。間もなく兄弟も眠りについた。

3匹の上では満点の星空が広がっていた。

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投稿 by アイルステラ Tue Feb 11, 2020 8:04 am

【第6章】1

 高い木の枝先で、小鳥が朝日を浴びながらさえずっている。

ムーンルキスはゆっくり目を開くと立ち上がり、体を振って頭をはっきりさせた。毛繕いをしていると、隣で2匹が目を覚ましはじめた。ネージュムーンは眠そうにあくびをし、フルールスリートは興奮してそわそわしている。

「朝ご飯はどうするの?」

「いつもなら歩きながら捕まえるんだが、今日は食べてから出発しよう。」

しっぽで地面を叩きながら聞くフルールスリートにムーンルキスは答えた。フルールスリートは少し不満そうな顔をしたが、そっと茂みに入っていった。ネージュムーンもフルールスリートとは逆の下生えを掻き分けて獲物を探し始めた。



 のんびり食べているムーンルキスとネージュムーンをフルールスリートが横目で見る。

「フルールスリートってば。早食いしすぎ!」

ネージュムーンが笑いながら言った。

「早く出発したいの!なのに、ネージュムーン達がゆっくり食べるんだもん!!!」

フルールスリートは口を尖らしてそっぽを向く。

「はいはい。すぐ出発しますよ。」

ネージュムーンはそう言いながら口の周りを綺麗に拭う。ムーンルキスは満足するまで顔を綺麗にしている。

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投稿 by アイルステラ Wed Feb 12, 2020 7:42 am

【第6章】2

 「出発しようか。」

「やっとね!行きましょ!!!」

嬉しそうに言い、ぴょんと立ち上がったフルールスリートだったが、左右を見回して目をぱちくりさせる。

「そういえば...どっちに行けばいいの?」

ネージュムーンは大笑いする。いつもクールなムーンルキスも肩を震わせている。

「もう!そんなに笑ってないで教えてよ!!!」

フルールスリートが言うと、ネージュムーンが目に涙を浮かべながら後ろの山をしっぽでさした。

「えっとね...」

言いかけて、ネージュムーンは再び笑い始める。ムーンルキスが仕方がないな、というようにさっとしっぽを振って話しはじめる。

「俺達はあっちの山から来たんだ。川はいつか海に流れ着くらしい。」

「つまり!川をたどっていけば海に着くってことね!!!」

「ああ。」

ムーンルキスが頷き、歩き出す。フルールスリートは期待と興奮でさっと体を震わせ、ムーンルキスについて茂みを通った。後ろからネージュムーンが茂みを通り抜ける音が聞こえる。

頭上から木漏れ日が差し込んでいる。
初夏の強い陽を浴びて、青葉が燃えるように輝く。
3匹の旅が始まった。

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投稿 by アイルステラ Thu Feb 13, 2020 7:46 am

第2部
【第7章】1

 後ろからついて来るフルールスリートの足音がリズミカルに聞こえてくる。ちらっと振り返ると、周りの景色を眺めながらフルールスリートが歩いている。

「フルールスリート、疲れていないか?」

「全然大丈夫よ!」

ムーンルキスが聞くと、フルールスリートは朗らかに答えた。

「そうか。」

「海はこっちであってるの?」

「うん。水は高い所から低い所に流れていくでしょ?だから、低い方に下ればいいんだよ。」

ネージュムーンに言われて、フルールスリートは横を見てみる。

───そう言われてみれば、少し斜面を下っている気がするかも...

「フルールスリート!!!前!!!」

「うわっ!!!」

ネージュムーンの切羽詰まった声にフルールスリートは我に返った。目の前には倒木の枝が自分に向かって突き出ている。慌てて急停止して目を丸くしていると、前後から安心したような溜め息が聞こえた。

「これからは、前に障害物があったら言った方がいいのか?」

倒木の上からムーンルキスがからかって言った。

「ちょっと考え事してただけよ!言わなくて大丈夫です!」

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投稿 by アイルステラ Fri Feb 14, 2020 7:49 am

【第7章】2

「フルールスリート、気をつけてよ?」

ネージュムーンが優しく言う。フルールスリートは頷きながらムーンルキスを見上げる。

「どこから登ったの?」

「あっちだ。」

ムーンルキスは倒木の根元の方向をしっぽでさした。

「避けて通ってもいいんだよ?」

「ううん!飛んで見せるわ!」

心配そうに聞いたネージュムーンにフルールスリートはしっぽをさっと振った。幹を見上げると意外と倒木は太く、しっぽ2本分より少し高かった。

───私だってできる、ってこと証明してみせるんだから!

少し後ろに下がり、助走をつける。兄弟が見守る中、フルールスリートは飛び上がった。弧を描きながら、風を感じる。幹の上にぴったり着地し、フルールスリートは得意そうにしっぽを立てた。

「お見事!!!」

「ま、普通だな。」

兄弟が口々に言った。隣ではムーンルキスが身を屈めて下を見据えている。さっと下に飛び降りたムーンルキスはフルールスリートに下りて来るように合図した。

ムーンルキスの横に降りると、やるじゃないか、というようにしっぽがぽんと肩に乗った。ネージュムーンが揃い、3匹は再びムーンルキスを先頭にして進み始めた。

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投稿 by アイルステラ Sat Feb 15, 2020 8:00 am

【第7章】3

 日が傾き始める。

密生した木々の隙間から太陽を見て、ムーンルキスが言う。

「この辺りで今日は休もう。」

そろそろ足が痛くなってきていたフルールスリートは、その言葉を聞いてほっとした。

「私は何をすればいいの?」

疲れたことを顔に出さないようにしながら、フルールスリートは聞いたが、本当はすぐにでも眠りたい気分だった。

「僕らが狩りをしてくるから、ゆっくりしてていいよ。」

「でも───」

「無理するな。体を壊されたら困る。」

口を開きかけたフルールスリートをムーンルキスが遮って言った。フルールスリートが大人しく頷いたのを確認して、2匹は茂みを回って姿を消す。伏せかけたフルールスリートだったが、地面に何もないことに気付き、近くのコケを集め始めた。

2匹が獲物をくわえて戻って来る頃には、地面に寝心地良さそうな寝床が出来上がっていた。

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投稿 by アイルステラ Sun Feb 16, 2020 6:57 pm

【第8章】1

 「うわぁ~!!!」

森を抜けた3匹の前に青々とした広大な草原が広がっている。
草原を大きく蛇行しながらゆったりと川が流れている。
草原に咲いている小さな花の上をチョウチョが舞っていて、空からは澄んだひばりの声が聞こえてくる。

フルールスリートは草原の甘い香りを思い切り吸い込み、草原に飛び出した。ひとりでに笑いが込み上げてきて、フルールスリートは笑いながら草原を駆け回った。

体をかする草がしなやかに曲がる。森の入口では、ムーンルキスの毛が爽やかな風に吹かれてなびいている。ネージュムーンは花の香りを嬉しそうに嗅いでいた。



 フルールスリートは走り疲れて草原に転がって空を見上げていた。すると、フルールスリートの視界にネージュムーンの顔が急に現れた。

「ネージュムーン。どうしたの?」

「ムーンルキスが呼んでるんだ。ほら、あそこ。」

ネージュムーンはそう言いながら、森の入口に生えている大きな木をしっぽでさした。フルールスリートが体を起こしてその方向を眺めると、木の上に座っているムーンルキスが見えた。

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投稿 by アイルステラ Mon Feb 17, 2020 7:52 am

【第8章】2

「上がって来いよ。」

フルールスリートが駆け寄って来るのが見えたのか、ムーンルキスが上から声をかけた。フルールスリートは目の前にある太い幹を見てからムーンルキスを見上げた。

「どうやって登るの?」

「普通に。」

「普通...って...」

フルールスリートは思わず笑ってしまった。そんなフルールスリートの様子を見て、ムーンルキスが一番下の枝まで降りて来た。

「ほら。ここまで来い。そしたら引き上げてやるから。」

フルールスリートはちらっとムーンルキスを見上げてから幹に飛び付いた。しっかり爪を立ててゆっくり登っていくと、ムーンルキスが身を乗り出してフルールスリートの首をくわえた。

引っ張り上げられるようにして一番下の枝に乗ったフルールスリートは、ほっとして大きな溜め息をついた。

「次行くぞ。」

「え?まだ登るの?」

「当たり前だろ。」

そう言って、ムーンルキスが一つ上の枝に飛び乗った。

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投稿 by アイルステラ Tue Feb 18, 2020 7:50 am

【第8章】3

 「よくやったな。見てみろよ。」

少し誇らしげなムーンルキスの声にフルールスリートはゆっくりと視線を上げ、息を飲んだ。フルールスリートが今居るところは、森の中でもひときわ高いくすのきの大きく横に伸びた枝の上だ。てっぺんではないものの、周りの木々はフルールスリートの目線より下に見えている。

「すごい!よく見えるね!!!」

一本下の枝でネージュムーンが興奮したように言った。フルールスリートは壮大な景色に圧倒され、無言で頷いた。大きく息を吐き、フルールスリートは体を震わせた。

「本当にすごい...世界の端まで見えそう...」

その言葉を聞いて、ムーンルキスが小さく笑った。

「世界はもっと広いさ。一生かかっても見てまわれないほど...」

少しの間の後、フルールスリートが言う。

「ネージュムーンも上で見たら?」

「僕は大丈夫だよ。3匹分の重さで、枝が折れちゃったら嫌だから。」

ネージュムーンは微笑みながら言った。

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投稿 by アイルステラ Wed Feb 19, 2020 7:51 am

【第8章】4

フルールスリートが再び視線を前に戻した所でムーンルキスが話しかける。

「草原の奥に町があるのが見えるか?」

「マチ?草原の向こうにある...あの...」

初めて見たそれをなんと表現すればいいのか分からず、フルールスリートは言葉を濁した。

「ああ。あれが町だ。」

「町って何?」

フルールスリートが首を傾げながら聞くと、兄弟は少し難しい顔をした。

「町っていうのは、人間が集まって暮らしている所なんだ。」

「人間って?」

「う~ん。2本足で歩く生き物...って言ったらいいのかな。」

「鳥みたいな感じ?」

「鳥じゃないんだ。鳥じゃないのに、2本足で歩くから不思議なんだよね...」

「2本足でどうやって歩いてるんだろ...」

「さぁな。人間のやってることは意味が分からないからな。」

兄弟は口々に答えた。

「ねぇ、あの町の向こうに見えるのってなんだろう...」

ネージュムーンが不意に言った。その言葉を聞き、ムーンルキスとフルールスリートは目を懲らした。ネージュムーンの言うように、空との境目まで続く大きな青いものが大きな町の向こうに見える。

───もしかしたら...あれが...

3匹はそう思ったが、あえて口には出さなかった。

爽やかな風が3匹の周りの木の葉を揺らして通り過ぎていった。

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投稿 by アイルステラ Thu Feb 20, 2020 7:31 am

【第9章】1

 湿った生温い風が旅を続ける3匹に吹き付ける。ムーンルキスが鼻を上げて風を吸い込み、顔をしかめた。

「これは一雨来そうだな。」

「川の近くは森と違って何もないからね...雨宿りするところが見つかるといいんだけど...」

辺りを見回しながらネージュムーンが言った。フルールスリートも周りを見回すが、幅の広い川とその周りに広がる草地以外は何もない。

「少し急ごうか。」

3匹は川の土手を軽快に走り出した。



 フルールスリートは走りながら空を見上げた。その鼻先に雨が一粒当たり、フルールスリートは頭を振って水滴を払い落とす。雨はあっという間に本降りになり、3匹の皮膚まで水が染み込んできた。

「雨嫌い...」

フルールスリートは呟いたが、それだけで口の中に雨粒が飛び込んできた。

「まずいな...このままだと全員、風邪を引くことになる...」

「どうしようもないよ...なんにもないんだから...」

もどかしげに言うムーンルキスをネージュムーンがなだめる。視界は激しい雨によってかなり悪くなっている。3匹は泥水を跳ね飛ばしながら土手を走るが、だんだんと歩みが遅くなってきた。

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投稿 by アイルステラ Fri Feb 21, 2020 7:34 am

【第9章】2

ムーンルキスは息を切らしながら走るフルールスリートをちらりと振り返った。一緒に旅を始めた頃より、間違いなく体力はついてきているが、今はかなり辛そうだ。いつもは綺麗な銀色をしている毛皮が、茶色く染まっている。

「無理だ。」

ムーンルキスはそう言いながら、走るのを止めた。ネージュムーンとフルールスリートが驚いたように立ち止まる。

「走っていても、雨宿りをする場所がないなら仕方がない。無駄に体力を消耗するのは意味がないだろ。」



 3匹はのろのろと進んでいた。雨は弱まることなく降り続いている。

「ねぇ、今向こうに何か影が見えたよ。」

ネージュムーンの声に、ムーンルキスとフルールスリートも目を懲らす。

「何も見えないわ。」

「気のせいかな...」

ネージュムーンが申し訳なさそうに言った。少し進んだ所でネージュムーンが再び声をあげた。

「やっぱり何かあるよ!」

フルールスリートはネージュムーンの見つめる方向をじっと見て、さっと耳を立てた。

「私にも見えたわ!行ってみましょうよ!!!」

隣でムーンルキスが頷いた。

「行ってみよう。走れるか?」

ムーンルキスが走り出す。走るうちに、影が濃く、はっきりとしてきた。川の上にかかっている黒い影を見て、ネージュムーンがほっとしたように叫んだ。

「橋だ!!!良かった!これで休めるね!」

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投稿 by アイルステラ Sat Feb 22, 2020 12:26 am

【第9章】3

 フルールスリートは転がるように橋の下に滑り込んだ。橋は3匹がゆっくり体を伸ばせる程大きく、石造りで頑丈だった。乾いた地面に3匹の足跡がつく。

フルールスリートは乱暴に突つかれて、閉じかけた目を開いた。とろんとした目で見上げると、ムーンルキスがいらいらした表情を浮かべている。

「お前は馬鹿か?こんなにびしょ濡れで寝たら、風邪引くに決まってるだろ!?さっさと体を乾かせ!!!」

フルールスリートはゆっくり体を起こし、毛繕いを始めた。橋の下は激しい雨音に包まれている。毛繕いをしていると、身体がぽかぽかと暖まってきた。

大きなあくびをすると、フルールスリートは目を閉じる。体を丸めることができないほど疲れきったフルールスリートは深い眠りに落ちた。



 「眠ったね。」

「ああ。」

「それにしても、ひどい雨だね。」

暗闇の中で兄弟は話し続ける。ネージュムーンが重そうに身体を起こしてフルールスリートに近寄った。

「フルールスリート、まだ濡れてる...」

「乾かせって言ったのに...」

ムーンルキスもフルールスリートに近付き、フルールスリートの毛を乾かそうと舐め始めた。兄弟が舐めるうちに、フルールスリートは銀色のふんわりとした毛皮に戻ってきた。

「こうしているとあの時のこと思い出すな。」

「フルールスリートを見つけた時のこと?」

ムーンルキスは頷き、橋の外を眺める。

まだ雨は降り続いている。

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投稿 by アイルステラ Sun Feb 23, 2020 7:41 am

【第10章】1

 大雨の次の日はすっきりと晴れた。

フルールスリートは暖かい日差しの下で思い切り伸びをする。強張っていた身体の筋肉がほぐれ、フルールスリートは毛繕いを始めた。3匹が寝ていた場所からキツネ4匹分の所を、茶色く濁った川が流れている。

「晴れて良かった~」

後ろからネージュムーンの嬉しそうな声が聞こえた。

「川がかなり増水してるな。」

気をつけろよ、という声に頷きながらフルールスリートは土手を登って行く。フルールスリートは土手から頭を突き出して目を丸くした。見慣れない大きな物が1つ、3匹の近くにある。

「ムーンルキス...ネージュムーン...」

フルールスリートの緊張した声を聞いて、兄弟がさっと駆け上がってきた。

「人間の住む家だ...」

ネージュムーンが呟いた。

「こんな近くに来ていたなんて...もう町に近づいてるんだな。」

「人間って危険なの?」

「人間自体はそれほど危険じゃないんだが、人間と一緒にいる犬は危険だ。」

ムーンルキスが家から目を離さず、答えた。

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投稿 by アイルステラ Mon Feb 24, 2020 10:48 am

【第10章】2

「犬って何?」

ムーンルキスが驚きで目を丸くしたが、ネージュムーンがしっぽをさっと振ってフルールスリートの説明し始めた。

「犬っていうのはね、猫より体も声も大きくて、毛がボサボサで...キツネをもっと大きくした感じかな...」

「もしかして、野犬のこと?」

一生懸命その姿を思い浮かべていたフルールスリートが自信なさそうに言った。

「なんだ!野犬を知ってるんだ!野犬と犬は同じ生き物だよ!!!」

ネージュムーンが笑いながら大きく頷く。

「後は、自動車が危険だ。」

ムーンルキスが口を挟んだ。

「自動車は、すごいスピードで走る大きな物で、中に人間を入れて運ぶんだ。」

「中に人間を入れるの!?」

驚いて聞き返すフルールスリートにムーンルキスは頷く。少しためらった後、ムーンルキスは静かな声で言う。

「自動車に踏み潰されて死んだ猫を見たことがある。本当に気をつけろよ。」

ムーンルキスは空を見上げて、とても悲しそうな顔をする。ムーンルキスの珍しい表情に、フルールスリートは戸惑った。ネージュムーンが慰めるようにそっと鳴く。

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投稿 by アイルステラ Tue Feb 25, 2020 7:45 am

【第10章】3

 「出発するか。」

身体をぶるっと振って、ムーンルキスが言った。3匹は家を気にしながら進み始める。家の前を身を低くしながら進んでいると、静かな草原に突然大きな鳴き声が響き渡った。

「「犬だ!!!」」

ムーンルキスとネージュムーンが同時に叫んだ。家の裏から黒と白の大きな犬が飛び出してきた。

「逃げろ!!!」

「こっちだ!!!ついて来い!!!」

ムーンルキスが先頭に立って走り出す。フルールスリートがその後に続き、最後をネージュムーンが走る。犬は騒々しく吠えながら追いかけて来る。

後ろで鋭い口笛の音が聞こえて犬が一瞬脚を止める。犬が音の方向を振り返っている間に、3匹は川岸まで走ってきた。

「しまった!くそ!間違えた!!!」

ムーンルキスが悪態をつき、苛立たしげに川を睨む。3匹の前の川は茶色く激しい流れになっている。

「川を泳いで渡って、匂いをごまかすつもりだったのね...」

「ああ!そう思って来たんだが、増水していることを忘れていた!」

「これじゃぁ、向こう岸に渡れない!どうする!?」

ネージュムーンが切羽詰まった様子で尋ねる。

「来たわ!!!」

フルールスリートが悲鳴に近い声を上げて、土手を見上げる。

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投稿 by アイルステラ Wed Feb 26, 2020 8:06 am

【第10章】4

ムーンルキスとネージュムーンはフルールスリートの前に出て、爪を出した。犬はゆっくりと土手を降りてくる。

フルールスリートは怯えて一歩後ろに下がるが、激しい流れに脚を取られかけ、慌てて脚を引き抜いた。兄弟はぱっと別れると、犬の両側に移動する。黒と白の頭を振り、犬はどちらを狙おうか考えているようだ。

犬は不意にムーンルキスの方向に踏み出す。しかし、ムーンルキスは余裕を持ってその攻撃を交わした。そのすきにネージュムーンが犬の後ろに回り込み、脚を引っ掻く。

フルールスリートがハラハラしながら攻防を見ていると、土手の上に人間が現れた。人間は鋭い口笛を吹いて、長い棒で地面を叩く。その音を聞くと、犬はさっと人間の元に駆け寄り、人間の後について戻って行った。

3匹は急に終わりを告げた戦いに驚きながらも、深い溜め息をついた。

「よかった...ムーンルキスとネージュムーンが無事で...」

フルールスリートが震える声で言った。

「行こうか。」

疲れを隠してムーンルキスが言い、ネージュムーンの肩に鼻を押し付ける。

「ちょっと休んでから行った方が───」

「ここは危ないよ。早く離れた方がいい。」

ネージュムーンがフルールスリートの言葉を遮って言った。僕らは大丈夫だから、と言うように優しく微笑んで、ネージュムーンは土手を登り始める。そっと様子を伺うと、さっきの犬とニンゲンが白いふわふわした動物の群れを追い立てているのが見えた。

「今のうちだ。行こう。」

フルールスリート達は小高い丘を目指して歩いて行くことにした。

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投稿 by アイルステラ Thu Feb 27, 2020 8:20 am

【第10章】5

 フルールスリートは顔をぶるっと振って、水滴を振り払った。日は傾きかけていて、川の水面に反射した光がキラキラと光っている。

「今日はここまでにする?それとも、丘の上まで行ってみる?」

ネージュムーンが聞き、2匹を見た。

「私は行きたいわ。次にどんな景色が広がっているのか、見てみたいもの。」

フルールスリートの言葉を聞いて、ムーンルキスは同意するように頷いた。



 3匹は沈んでいく夕日を追い掛けて、丘を駆け上がった。丘を登りきると、下に広がっているのはもう草原ではなかった。

「町だわ!!!」

「ねぇ!!!その向こう見てよ!!!」

ネージュムーンが興奮して言った。

「海だよ!!!あんなに大きいんだ!!!絶対そうだよ!!!」

3匹の見つめる中、大きな太陽がオレンジ色に輝きながら海の向こうに沈んでいった。

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投稿 by アイルステラ Fri Feb 28, 2020 9:20 am

【第11章】1

 「やっぱり町の中の獲物って変な匂いがするよね。森の方が絶対美味しいと思うわ。」

フルールスリートは鼻にしわを寄せながら言った。3匹はそれぞれ痩せたネズミをかじっている。ムーンルキスがしっぽを振って同意し、口の周りを舐めながら立ち上がった。

3匹は小さな公園から通りに出て行く。まだ朝が早いためか、人間の姿は見えない。その時、地面が震え始める。

───自動車だわ...

町に入った時、フルールスリートはものすごいスピードで走る大きな物にとても驚いた。ムーンルキスとネージュムーンから、道路を外れることはない、と教えられたが、臭い息を吐きながら走る自動車がフルールスリートはとても怖い。

ネージュムーンが自動車の側の方にさっと移動し、フルールスリートを導くようにしながら歩き続ける。フルールスリートはネージュムーンが隣にいることで少し安心したが、自動車が通り過ぎるまで、毛を寝かせることができなかった。



 フルールスリートは、前で急に立ち止まったムーンルキスに衝突しかけて、慌てて止まった。大きく溜め息をつくムーンルキスの後ろからちらっと前方を見ると、行き止まりになっているのがわかった。

町に入ってから何度行き止まりに出会ったか数えることができない。進むにつれて、行き止まりの場所が更に増えているように感じる。その度に3匹は元来た道を引き返すことになっている。

「この町って、随分広いんだね。」

沈黙を破って、ネージュムーンが誰に言うともなく呟いた。

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投稿 by アイルステラ Sat Feb 29, 2020 8:31 am

【第11章】2

 太陽の日差しが真上から強く照らしてくる。地面の固い石は熱を帯びていて、一足踏み出すごとに焼かれるような熱さを感じた。少し先を歩いていたネージュムーンが嬉しそうに呼び掛ける。

「ねぇ!水があるよ!!!」

「本当!?」

さっと走り出したネージュムーンに続いてフルールスリートも駆け出す。後ろから耳をぴんと立てたムーンルキスもついて来る。ネージュムーンを追って走っていくと、徐々に水音が大きくなってきた。角を曲がった3匹の前には、空高く吹き上がる水があった。

「うわ~!」

思わずフルールスリートは歓声をあげた。噴水を見上げる3匹の体にミストのような水しぶきがかかり、火照った体を冷やしてくれた。ネージュムーンが浅い水の中に飛び込んだ。

「ムーンルキスとフルールスリートもおいでよ!すっごく気持ちいいよ!」

「俺は遠慮しておく。」

ムーンルキスはネージュムーンが跳ね上げた水を神経質そうに振り落とした。

「ここにいるだけで毛皮が十分濡れてるよ。」

ムーンルキスはぼそっと言って、水を覗き込んでいるフルールスリートをちらっと見た。

「私も水はちょっと遠慮しておく...」

フルールスリートが水面に軽く鼻で触れながら言うと、ネージュムーンは少し不服そうな顔をした。

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投稿 by アイルステラ Sat Feb 29, 2020 2:27 pm

こんにちは、アイルステラです!
"Memory of Flower" を読んでくださっている方、本当にありがとうございます。

最近コロナが流行っていますが、大丈夫ですか?
私の学校は明日から休校になったため、小説を1日2つずつ投稿しようと思います!

最後までお付き合い頂けると幸いです♪

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投稿 by アイルステラ Sat Feb 29, 2020 2:27 pm

【第11章】3

 3匹はそれぞれ体を休めていたが、公園の入口から小さな人間が入って来たのを見て、さっと体を起こした。ムーンルキスがベンチの下から耳を立てて現れ、ネージュムーンは水を滴らせながら、噴水から飛び出す。

ネージュムーンが体を強張らせているフルールスリートの横に駆け寄った。

「ちょっとネージュムーン!!!」

はっとして叫んだフルールスリートの声は間に合わず、ネージュムーンはフルールスリートの隣で体を大きく振る。フルールスリートはネージュムーンが体から振り落とした水滴を全身にかぶることになった。

「あ!ごめん!!!」

フルールスリートはネージュムーンを横目で睨んだ。

「呑気に話してる場合じゃない!あの茂みまで走るぞ!」

ムーンルキスがさっと2匹の横を駆け抜けながら言った。小さな人間に目を戻すと、よろよろ歩きながらも近づいて来ている。公園の入口からは、何かを押しながらもう一人、人間が来た。

フルールスリートとネージュムーンはぱっと身を翻すと、ムーンルキスを追って茂みまで突っ走った。息を切らせながら茂みに飛び込むと、ムーンルキスが不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「なんで濡れてるんだよ。」

「ネージュムーンにかけられたのよ。」

フルールスリートも不機嫌そうに返す。

「本当にごめん!」

「後でムーンルキスの風で乾かしてもらおうかな。」

フルールスリートは冗談めかした口調で呟いた。ムーンルキスは二人のニンゲンから目を離さないまま、ふっと笑った。



 「大丈夫そうだな。出発しよう。」

しばらくすると、ムーンルキスが小声で言った。ネージュムーンとフルールスリートは頷き、ムーンルキスの後に続いてそっと茂みを出た。

小さな人間は猫達には気付かず、噴水の周りで走り回っている。大きな人間の方は、少し前にムーンルキスが休んでいたベンチに座っている。3匹は人間を気にしながら公園を横切った。

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投稿 by アイルステラ Sun Mar 01, 2020 3:31 pm

【第12章】1

 気付けば、道端に咲いていたナツツバキが、コスモスに変わっている。
人間の庭に植わっている紅葉がほんのり紅く染まりかけているのも、秋が近づいている証拠だ。

3匹はまだ町から抜け出せずにいる。

「フルールスリート?大丈夫?」

後ろから心配そうなネージュムーンの声が聞こえて、ムーンルキスは足を止めた。振り返ると、フルールスリートが肉球をなめている。

「大丈夫よ。何か鋭い物を踏んだだけ。」

フルールスリートは顔をしかめながら答える。ムーンルキスはフルールスリートの傷を見て少し安心した。そこまでひどい傷ではない。

「ギシギシの葉かヒレハリソウがあるといいんだけど...」

ネージュムーンがそう言いながら、辺りを見回す。しかし、道路の脇から薬草が生えているわけもなく、困った顔をした。

「歩ける?」

「大丈夫みたい。行けるわ。」

フルールスリートは恐る恐る足を地面につけてみてから言った。

「ひどくなったら言ってね。」

「ありがと、ネージュムーン。」

2匹のやり取りを見ているうちに、ムーンルキスは2匹の毛のつやが落ちていることに気がついた。町には森に比べて栄養価の高い獲物が少ない。早く町を出たいのだが、建物に遮られてなかなか思うような方向に行けないのがもどかしい。

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投稿 by アイルステラ Sun Mar 01, 2020 3:31 pm

【第12章】2

 後ろから自動車が走って来て、ものすごいスピードで3匹を追い越して行く。3匹の歩いている場所はとても狭く、左側は自動車の走る道路、右側には白いペンキで塗られた柵が迫っている。

大きな道路には、たくさんの自動車が走っていて、ほとんど途切れることなく行き交っている。3匹が道路を渡ろうとタイミングを計っていると、すぐ近くから犬の吠える声が聞こえた。

フルールスリートが怯えた鳴き声をあげて道路に飛び出そうとしたのを、ネージュムーンがさっと遮る。ムーンルキスが毛を逆立てて後ろを振り向くと、道を一本挟んだ家の角から茶色の中型犬が飛び出してきた。

「逃げるぞ!!!」

ムーンルキスは固まっているフルールスリートを荒っぽく鼻でつついた。

「ネージュムーン!!!」

ムーンルキスが呼び掛けると、ネージュムーンは頷き、先頭に立って走り始めた。その後ろに、恐怖で毛を逆立てたフルールスリートが続く。茶色い犬は甲高く吠えながら追い掛けて来た。

必死に走る3匹の横をひときわ大きな自動車が追い越して行く。熱い空気を吹きかけられて、3匹は咳込んだ。犬はまだ後ろの方を走っているが、徐々に距離が詰まってきている。

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