ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

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別件ですが、猫寮小説制作について………不安なので、少しご意見を下さると幸いです。(関係者・無関係者は問いません)

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ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sat Jun 27, 2015 4:09 pm

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ナインの復讐


The Revenge of Nine







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プロローグ






 冷たい雨が灰色の町に覆いかぶさり、すべてがくすんで陰気に見える。辺りはうらさびしい雨音と、濡れたアスファルトの無機質な

においしかしない。ときおりうなりをあげながら怪物がやって来ては、汚水を跳ねあげながらあっというまに町の向こうがわへと走り

去っていく。怪物たちですらこの町には一瞬もとどまっていたくないようだ。


 どこまでも続く道路の片方の果てに、黒い子猫がうずくまっている。長雨に濡れそぼち、ガラスのような黒い短い毛はぼさぼさだ。

濡れた毛は束になってかたまり、がりがりな体の線やあばらが露骨に浮き上がってよけいに小さく惨めに見える。


 目の前にくたりと横たわる母親の亡きがらを、子猫は無言で見つめていた。遺骸にはあちこちに深い噛み傷や引き裂いた痕があり、

そこから流れ出たはずの血は雨がとっくに洗い流していた。母親の死に顔を見つめる子猫の瞳はぞっとするほど冷たい色をしている。

だがそこにはわずかに怒りか悲しみのような表情もにじんでいた。いずれにしろ子どもらしい幼い面影はもうどこにも残っていない。

子猫がもっとも感情的な表情を浮かべるときがあるとすれば、それは生まれたときから心のなかにふつふつとたぎらせつづけてきた、

この世に対する憎しみをあらわにするときだけなのだ。


 「やっとくたばりやがった」黒い子猫はののしったが、その声は力がなくうつろだった。「やっと………やっとだ。それなのに」


 灰色の怪物が道の向こうからやってきて、すぐ横を走り去るときに汚い泥水を跳ねあげ、子猫と母親の遺骸に大量に浴びせかけた。

子猫は目をつぶって体をこわばらせ、まともに跳ね水を食らったが、飛びのきはしなかった。長年、死ぬほど母親を憎んでいたような

そぶりを見せるのに、今はなにがわが身に降りかかろうと、遺骸の前からけっして動こうとしない。再び目を開いたとき、汚水の波を

浴びてますます無惨なありさまになった遺骸を見下ろし、子猫の瞳はすっかり光を失っていた。


 たがしだいに、暗い目の奥に危険な炎がちらつきはじめた。暗い炎はますます激しくなり、子猫の金色の目を焼き尽くさんばかりに

なった。子猫の顔が不意に恐ろしいものへと変貌しはじめた。


 「ばかめが。いつまでそこに立ってるつもりだい」突然子猫の背後からしわがれた声が聞こえた。復讐心に燃えていた子猫は驚いて

飛び上がり、振り向きざまにかっと牙を剥いた。


 だが子猫はあまりに小さく、こうして威嚇してみたところでかえって哀れなほど無力に見えた。相手はまるで動じない。灰色の雨が

降るなか、いつのまにか背後から歩み寄ってきていたのは、薄汚く痩せさらばえた、暗い灰色のとら猫だった。年を取ってその足腰は

すっかりゆがみ、歩きかたがぎこちない。雌猫の片目はつぶれている。


 「おまえさんの母親かね」年寄りの雌猫はいい、黒い子猫の横に立って遺骸を見下ろした。遺骸に残る傷痕を見て、残った右目に、

衝撃、そして悼みの色が走った。やがて老猫は暗い声で鳴いた。「むごいことをする猫もいるものだ───こいつは車や犬にやられた

傷じゃないね。部族猫、そうだろう?」


 「なぜ貴様にわかる?」子猫は激しくうなってみせた。だが内心では、この雌猫の眼力の鋭さにかすかに驚いていた。


 「前にもこういう傷を見たことがあるからだよ。部族にはどうやら、伝統の殺しかたというのがあるらしいからね」雌猫は軽蔑する

ようにいった。ひげ先から雨の雫が途切れることなく垂れつづけている。「野蛮な悪魔どもめが。町に住むあたしらを、同じ生きもの

───猫として見やしない。ドブネズミかなにかみたいに、こちらを見下げて果てているのさ。気に入らなければ殺しても構わない、

ってね。それがやつらの信仰するスター族とやらのおぼしめしなんだ!」


 声に万感の憎しみがはっきりとこもっていた。町に降る灰色の雨が、ますます激しくなりはじめた。こちらを見つめる、老婆の暗く

激しい目を、子猫はじっと見つめた。憎しみがたしかに共鳴している。子猫はまっすぐに見つめ返した。体の内側から熱い力があふれ

だしてくる。


 「復讐するつもりだね」年寄りのとら猫がもの静かにたずねた。子猫はうなずいた。


 この老婆はまったくの赤の他人だ。だがまるで血のつながりがあるかのように自分の憎しみを理解している。心の底では信用しない

と決めていたが、老婆が自分になにかを教えるつもりなら、少なくともその内容だけは信用できる。次の老婆の申し出に、子猫は当然

驚かなかった。


 「おまえさんに手を貸そう。だれにもたよらずに自分ひとりで復讐したいかもしれないが、本当に復讐を果たししたいなら、まずは

やつらをよく知ることだ。やつらの弱みやすがっているものをよく把握しなきゃ、そこを痛めつけることはできない。おまえさんは、

部族に入ってやつらをすっかり信用させてから、牙をむくつもりでいるんだろう?」


 子猫はうなずいた。憎いのは母親を殺した男だけではない。部族のすべてだ。仇を討つのはなにも母親の分だけではない。どん底の

最悪の境遇に突き落とされた自分の分も、怨みを晴らしたい。それには仇の懐に飛びこむのがいちばんだ。ここで母を殺した部族猫は

自分の顔をろくに見ていなかったが、連れと交わした言葉のなかに、自分の名前や、属している一族などの手がかりは残していった。

ならそれを利用しない手はない。どうせ子猫の手に残されたのは復讐心以外になにもない。子猫はひとりきりだ。やるなら仇の陣地の

真ん中で、完璧な復讐を果たすのだ。


 「ならおまえさんには、力と知恵と、人心を掌握する術が入り用だね。この老いぼれが知るかぎりの完全な復讐は、かれらに自分を

愛させておきながら、本心では一切心を許さずに、最後の最後で鮮やかに裏切ってやることだよ。───おいで。ここに長居してたら

風邪をひいちまう。そうしたら復讐なんてほざいていられなくなる。まずは体調を自己管理して力を身につけることだ」


 しのつく雨のなか、老婆はゆっくりとどこかへ歩きはじめた。子猫は母親の遺骸を最後に冷えた目で一瞥すると、きびすを返して、

決意したような足取りで、二度と振り返らずについていった。


 老婆が自分に手を貸すのは、老婆にも部族への強い憎しみがあり、子猫を利用して自分の分も仇討ちしてほしいからにちがいない。

だが力を与えてくれるならそれでいい、そう子猫は考えていた。老婆と自分は、利用し、利用される関係に過ぎない。それで充分だ。

あの戦士と、やつのいるサンダー族という部族に復讐を果たせるなら、どんなことでもやり遂げる。だれがなんといおうと構わない。

だれにも邪魔はさせない。絶対に。





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最終編集者 LK@相方様を選定式にて募集中! [ Thu Mar 10, 2016 9:59 am ], 編集回数 23 回
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by ライトハート on Sat Jun 27, 2015 4:15 pm

新BBSでの新小説おめでとうございます!
最初見た時は題名がなかったのでびっくりしましたが、
もう一回見てみるとあったので一安心ですw
LKs本当にすごいです!プロローグ私の場合短くなるのですが、
長さが安定していて読みやすいです。子猫の心にもう復讐があるのが少し悲しいですね。
応援しています!お互い頑張りましょう!
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by レパードクロー on Sat Jun 27, 2015 4:19 pm



ナインの復讐...........なんかすごいですw
老婆と子猫がその後どのような関係になるかが楽しみです。
応援しています!頑張ってください(*^^*)
猫寮生活の小説も楽しみにしています!


最終編集者 ひょう@またまたおかしな妄想中 [ Sat Jun 27, 2015 5:38 pm ], 編集回数 1 回
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by ラッキークロー@LC on Sat Jun 27, 2015 5:04 pm

 新BBSでのライトニングキットsの新小説!お待ちしておりました!

 ナインの復讐......無力な子猫の復讐心がプロローグからひしひしと伝わってきました。描写がとても丁寧で、あっという間に読んでしまいました。さすがです!

 部族を憎む子猫と老婆が、これからどんな復讐を果たすのか、それとも改心するのか、そしてはは猫を殺した戦士は誰なのか......楽しみすぎます!

 更新を待ち遠しく思っています。執筆頑張ってください(^_^)
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sat Jun 27, 2015 5:16 pm

明日くらいに感想が来てるといいなあ、と思っていたら電光石火(※LKの感覚)でコメントしてくださった方々が………!
ありがとうございます!

 光鈴さん      ⋙ コメントありがとうございます。
             実は、小説の内容がある時点になるまでタイトルを伏せておく仕掛けにしようかな、と思っていたのですが、
             いろいろ誤解を招きそうなので取りやめることにしたのです。驚かせてしまってごめんなさいね^^;
             長文しか書けないLKはこれを投稿した時も「長すぎる」と切り捨てられやしないかびくびくしていたのですが、
             少なくとも三人の方に読んでもらえた上、お褒めのお言葉までいただけて嬉しい限りです!
             哀しい子猫の復讐心がこれからどんな復讐心に変化していくのか、見守っていただけたらと思います。
             応援ありがとうございます。お互いに頑張りましょうね!
  
 豹爪さん      ⋙ コメントありがとうございます。
             話の内容をシンプルに、シンプルに………そう考えていたら題名までこうなりました。
             残念ながら、短編ゆえに展開が早く老婆とは次の次の次くらいの章でお別れになってしまいますが、
             ふたりの関係も重要なポイントですので、注目していただけてうれしいです。
             応援ありがとうございます。はい、頑張らせていただきます!
              実はこの短編は、猫寮生活の私小説を最高の調子で始めるために、いわば肩慣らし的な意味合いではじめた物語だったりします。
              とはいえ本気で取り組むので、ちゃんと完成させて、トータルで「面白かった」と感じていただければ幸いです。

 ラッキークローさん ⋙ コメントありがとうございます。
             お待ちしていただいていたなんて………嬉しい限りです!
             主人公の子猫の無力さ、復讐心の強さを伝えられたようで何よりです。
             あっというまに読んで下さった、と言うのは最高の褒め言葉です。ありがとうございます!
             タイトル通り、物語全体は復讐が中心ですが、復讐の意味や対象は、
             物語が進んで主人公が変化するにつれ、目まぐるしく変わっていきます。
             子猫は果たして復讐を果たせるのか、老婆や仇は何者なのかなど、色々なところを注目していただけたら幸いです。
             応援ありがとうございます。待ち遠しく思ってくださる思いに応えるため、すぐに第1章をお送りします!


最終編集者 ライトニングキット@Elle-Cay [ Sun Jun 28, 2015 6:07 pm ], 編集回数 2 回
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by ウィングシャドウ@もう復活でいいんじゃないかな on Sat Jun 27, 2015 7:14 pm

ライトニングキットsの新BBSでの小説を読むことが出来て嬉しいです!

どのようにして部族に入るのか、そして復讐心を抱いての部族猫生活などこの後の展開が気になります。

猫寮生活の肩慣らし的なものということですが、猫寮生活の小説が投稿されるまで、そしてその後も続きを楽しみにさせていただきますね。

ウィングシャドウ@もう復活でいいんじゃないかな
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sat Jun 27, 2015 7:19 pm

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第1章






 ひと月が経ち、ふた月が経った。母親を殺されてうらぶれていたあの子猫は、今や、見ちがえるようなすばらしい若者に成長した。


 あれだけぼさぼさだった毛皮はすっかり毛づやが良くなり、絹のようになめらかだ。あばらが浮いて見えるほど痩せこけていた体は

いまだに線が細いとはいえ、訓練を積んでよく引き締まったからであり、適度な筋肉をつけてしなやかになっている。ぼろきれのよう

だったしっぽも豊かな毛が生えそろい、牙や爪は健康的な輝くばかりの白さだ。かつて目やにがまとわりついていた目は、今はいつも

清潔で、そのふちは綺麗なアーモンド型になり、なかには金色のきらめきが常にたたえられている。


 どれも、毎日の厳しいトレーニングと充分な睡眠、そして栄養価の高い食事をつづけてきて、ようやく手に入れたものだ。それまで

無教養の母親と暮らしていた子猫は、町にすむネズミは体に毒であることを知らなかった。人間の捨てた、化学物質たっぷりのごみを

食べているのと同じだからだ。そして、かたい寒い場所で眠ると体は休まるどころか、疲れをためるばかりだということも、はがした

樹皮を噛むことで定期的に手入れしなければ、やがて歯茎が腐って歯が抜けることも、知らなかった。すべてはあの老いぼれた灰色の

とら猫が教えてくれたことだ。


 あのとら猫は本当に博識で、小さく非力で無知な存在だった子猫に、実にたくさんのことを教えてくれた。なにも体調を管理する術

だけではない。町から離れた公園や保護林で、健康な獲物を狩る方法。天敵のフクロウやイタチやアナグマから自分の身を守る方法。

太陽や星の位置から方角や時刻を知る方法、町猫の世界の権力情勢とかれらとの付き合いかた、自衛のための嘘のつきかた、逆に嘘を

見破る方法。


 もちろん部族猫についても学んだ。族長には九つの命があることや、森には四つの部族があって、日夜戦いに明け暮れていること。

サンダー族は昔から、リヴァー族とある土地を奪いあってきたこと。ウィンド族はもっとも貧しい狩り場で細々と暮らしていること。

シャドウ族の族長が、最近息子を副長に選んだこと。


 「なぜ貴様はそんなに部族に詳しいんだ?」あるとき、子猫は老婆にたずねてみた。一部族内の権力の座が最近変動したことなど、

つねの戦いで何度も顔を突き合わせている敵の部族さえ、すぐに手に入れられる情報ではないだろう。


 老いぼれ猫は肩をすくめた。「おまえさんが森林公園へ狩りの訓練に出かけているあいだ、あたしは偵察に行っているんだよ」


 子猫は金色の目をぐっと細めた。「貴様、まさか本当は部族の差し向けた猫なんじゃあるまいな?」


 いらぬ疑いだった。とたんに老婆は激怒して叫びはじめた。「あたしが? 部族に魂を売り渡したって? 冗談じゃない! なんの

ために、こんなに苦労してまでおまえさんを育ててやってると思ってる? おまえさんが復讐を遂げられるように、そして部族を痛め

つけてやれるようにと死ぬほど願ってのことなんだよ! でなけりゃ、どうしてわざわざサンダー道まで出かけていって、憎い相手の

すぐ近くまで舞い戻ったりするものか。あたしが部族の犬だなんて金輪際いうんじゃないよ。あと一度いってみな、おまえさんの皮を

生きたまま剥ぎとって、中身をカラスの餌にくれてやる!」


 こんな風に激しい喧嘩をすることが何度かあったものの、子猫と老婆の関係はおおむね落ちついているといえた。ふたりには部族に

対する憎しみという大きな共通点があったし、孤独で身寄りがないことでもまた同じだったのだ。利用しあう関係ということで互いに

適度な距離を置いているせいもあった。おかげでふたりは、日夜復讐のための鍛練に心を集中させることができた。





 また幾日かか過ぎていった。子猫の黒い体には、ひ弱だった面影などもうどこにも残っていない。金色の瞳には憎しみの炎が灯り、

けっして絶えることがなかったが、やがてそれを心の奥深くに押し隠せるようにもなった。ときおり、ろうそくの火のようにちらりと

燃え上がることがあるものの、普段は冷たい色を帯びているだけだった。本心に危険な殺気を秘めているそぶりまでうかがわせない、

静かさを装えるようになったのだ。


 「これでまだ、たったの四ヶ月とはね」老いぼれのとら猫は、ときおり感心とも哀れみともとれる声で子猫にそういうのだった。


 「きっとおまえさんは、天性の復讐の才能をもって生まれてきたんだろうよ」





 季節は過ぎていく。北風と雪の吹き荒れるなか、ふたりは取っ組み合って戦う訓練を積みつづけた。やがて雪雲が北へ消え去ると、

町をうろつく野良猫のごろつき相手に、実戦に挑むようになった。話術や交渉術、相手に鎌をかける術を、子猫は喧嘩と負傷と治療の

あいまに学んだ。夜、痛む体を粗大ごみの毛布の上で休めていると、老婆がどこからか採ってきた薬草の汁を子猫の傷にすりこんで、

何時間もつきっきりで看護してくれているのがわかった。


 子猫はだれかと戦うとき、最初は老婆に習ったテクニックをただ使おうとしただけだった。だがやがてその拳や爪には、子猫自身の

憎しみのパワーがこもりはじめた。子猫の生命力であり、老婆が見こみ惚れこんだ、この世のすべてへの憎しみの力だ。


 生まれてこのかた、子猫は幸せというものを感じてみたことがない。心が安らいだことがない。老婆が看護しているときも、自分が

大事な駒だから手入れしているのだと思うくらいだ───多少の恩を感じているとしても。


 人間に可愛がられ、庭先で遊んでもらっている飼い猫の親子、ときおり製材所の森で仲良く狩りをしている部族猫の親子を見かける

たび、黒い子猫の金の瞳には憎悪の炎がめらめらと燃え上がった。自分自身ではどうしようもないくらい、常に憎しみに取り憑かれて

いたのだ。そしてそのパワーはすべて、あの灰色の雨の日に子猫の母親を殺した、雄の部族の戦士ひとりに向けられているのだった。


 たしかにあの日、部族の戦士が殺害の前にあざけったように、子猫の母親はばかな、愚かな母親だった。毒の盛られたドブネズミを

それと知らずに好んで食べつづけ、野良の雄猫の誘惑に乗せられて一夜をともにし、そうして自分を身ごもった。そんな情けない母親

だった。なぜこんな猫を母にもって生まれたのだろうと、何度運命を怨んだことか。


 それでも子猫にとってはたったひとりの母親、たったひとつの可能性だった。子猫はいつも願っていた。いつか母親がはっきり目を

覚まして、ごく平凡でいい、まともな暮らしをふたりで送れるようになるんじゃないか───。


 その願いはもうかなわない。母親は殺された。雨のなか、生きざまと同じように、惨めな死にざまを迎えて終わった。


 この憎しみをぶつける相手は、母親を奪ったあの男のいる部族、サンダー族のほかにない。憎悪の正当性などどうでもよいことだ。

子猫が今いちばん怨んでいる男が、あの部族にいる。理由はそれだけで充分だ。自分がこの世に生まれたのはきっとこの憎しみの力を

振るうためだと、子猫は強く確信していた。ときおり子猫自身が驚くほど強い、業火のようなこの復讐心。ただひとつ、これだけが、

子猫が心から信頼できるものだった。


 自分が今生きているのは、いつかきたるべき運命の日に、サンダー族に復讐の牙を突き立てるためだ。子猫はそう信じて疑わない。





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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sat Jun 27, 2015 7:26 pm

ウィングシャドウさん ⋙ コメントありがとうございます。
              光栄なお言葉をいただけてとてもとても嬉しいです………!
              子猫と部族の初対面、そこで始まる生活については、私もどんな風に描き出そうかわくわくしています。
              なお、復讐の物語とはいえ、ときには穏やかなエピソードも入れたいなと思っているので、
              是非肩の力を抜いて読んで下さいね。もちろん子猫の復讐心ははらはらしながら見守ってください!
              あたたかい応援のお言葉、ありがとうございます。
              ご期待に添えられるよう、せいいっぱい頑張ります!
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by ノーススノウ on Sat Jun 27, 2015 7:31 pm

新小説おめでとうございます!
流石はLKさん……!プロローグ一章からぞくぞくしているノースです……!
後々の展開が楽しみです!執筆応援しています!

猫寮の方の小説も楽しみにしています
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by ラッキークロー@LC on Sat Jun 27, 2015 7:34 pm

 こ、こんなにも早く一章を読むことができるなんて幸せです!!

 ナインと老婆の冷たくも、同じ目標に向かって復讐の爪を磨ぐ姿に一心不乱に読み進みました^^本当に面白いです!短編ということですが、中身がぎっしりとつまっていて、感嘆感動です。

 これが肩慣らしなら、猫寮はどれだけ素晴らしいのか......!

 執筆ファイトです!(猫寮、いつもお疲れさまです)
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by フェニックスメモリー on Sat Jun 27, 2015 8:03 pm

なんかプロローグから素敵な予感が!!
楽しみに読ませてもらいますね!

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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sat Jun 27, 2015 8:33 pm

ノーススノウさん  ⋙ コメントありがとうございます! ぞくぞくしてくださったなんて幸いです!
             猫寮のほうももうすぐ始めるつもりですので、是非楽しみにしていてくださいね^^

 ラッキークローさん ⋙ 毎度毎度こちらのお伝えしたいものを的確に読み取ってくださり本当に嬉しいです!
             いつもあたたかいお言葉ありがとうございます。明日も新章をたくさん投稿するのでよろしくお願いいたします!

 フェニックスメモリーさん ⋙ コメントありがとうございます!
                プロローグには力を入れたのでそのお言葉嬉しいです!
                これからもよろしくお願いいたします。


時間の都合上簡単なコメ返しとなってしまいました、申し訳ありません。
上手くいけば明日には、「子猫」がとうとう部族生活を始める予定ですので、引き続きこの小説をよろしくお願いいたします^^


最終編集者 ライトニングキット@Elle-Cay [ Sun Jun 28, 2015 6:11 pm ], 編集回数 1 回
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by フラワリングハート@ふらわり on Sat Jun 27, 2015 8:56 pm

……え、えるけいさんの小説が来てる…!

プロローグから引き込まれるような繊細な描写にもう言葉が見つかりません!
部族猫を恨んでいる猫の物語という新鮮な視点と登場猫の名前が文中で出てこない独特な雰囲気がすごいなと…
子猫を支える唯一の感情が復讐心だなんて…こんなことがなければきっと優しい少年であっただろうにと胸が痛みます…
ぎくしゃくとした子猫と老婆の関係と復讐の行方…早くも続きが気になりすぎます!
執筆頑張ってください!
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by トワイライトアウル on Sat Jun 27, 2015 9:04 pm

新小説おめでとうございます!
なでしこジャパンくらい応援してます!
毎日応援の念を送ります(*^ー゜)b

サンダー族への復讐…盲点でしたね(^_^;
う、恨みはいかなる形でサンダー族を揺るがすのでしょうか…楽しみです!

執筆ふぁいとです!
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by ヒーステイル on Sun Jun 28, 2015 4:59 am

新小説おめでとうございます!
プロローグと1章目のぞくぞく感が素敵で、やはり見習いたいです!
短編ということで、師匠がどんなストーリーを編み出してくださるのか、非常に楽しみです!
執筆頑張ってください!
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sun Jun 28, 2015 5:54 pm

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第2章





 夜明けの風が寂れた町を吹き渡る。黒猫は目を覚ますと、さっと頭をあげて周囲の路地に金色の視線をめぐらせた。次に口を開け、

この三ヶ月でかなり感覚を研ぎ澄ました上あごの器官で辺りのにおいを慎重にかぐ。幼い見かけにはそぐわない、洗練された警戒行為

だ。これはもはや目覚めの儀式だった。町猫はみなすこぶる柄が悪い。なかには寝こみを狙って乱暴を働くものもいる。老婆と黒猫は

今までに二、三度襲われ、そのたびに命懸けで戦わなくてはならなかった。


 だが今は、何度確かめても特に不穏な気配はない。黒猫はほっとして、交差した前足に小さな形のよい頭を乗せた。


 ふととなりを見れば、なじみのとら柄の老いぼれが深く眠りこんでいる。長かった去年の冬の寒気が相当にこたえたらしく、最近は

陽気があたたかくなってきたというのに、めっきり老けこんだように見える。老婆との戦いの訓練は、明らかに回数が減った。今では

まだ半分ほどの大きさしかない黒猫のほうが体力では勝るのだ。黒猫は目に見えて強くたくましくなった。


 ふたりのちがいは、単にかけ離れた年の差のせいなのだろう。黒猫はこれからが伸びる育ち盛り、対する老婆は、あとは衰えるしか

ない生涯の下り坂に突入している。


 黒猫は立ち上がった───体つきばかりはまだ普通の子猫のように小さいものの、厳しい生きかたのために引き締まったその姿に、

もう「子猫」という呼び名はふさわしくない。老婆と共用の寝床にしていた、打ち捨てられたソファの裏に飛び降り、ぐるりとごみを

よけて路地のまんなかに出る。黒猫は歩きだした。狩りのついでに、復讐を果たす舞台をもう一度見渡しておきたい。


 うずく心が黒猫にささやいている───老婆と別れる日は、もう遠い先のことではないのだと。


 黒猫は路地の角を曲がる前に、ちらと仮住まいを振り返った。襲われないようにとふちの鋭い空き缶のふたを手前にばらまいてきた

ソファの上では、ぼろ雑巾に似た毛のかたまりにしか見えないものが、長い呼吸にあわせてふくらんだりしぼんだりしている。老婆は

われ知らず耳障りな大いびきを響かせている。黒猫はほんのかすかにおかしそうなほほ笑みらしきものを浮かべてから、朝焼けの赤い

ほの明かりのなかへ、ひとりで足を踏み入れていった。





 「あそこは四本木っていうんだ」地平線近くにそびえ立つオークらしき大木をかぎ爪で指しながら、老婆は黒猫に教えてくれた。

「満月の晩、部族猫たちはあそこで大集会を開くんだ。満月の日だけはどの一族も休戦することになっていてね。でも滑稽なことに、

部族間戦争の火種をつけるタイミングを、禁戦の大集会ほどもたらしてきなものはないのさ」


 「なら、さらに向こうにあるあの荒れ地は?」


 「ハイストーンズ。人間の古い鉱床かなにかのなごりで、ほら、話したろ、部族猫たちの聖地だよ。族長はどうやら、あの穴ぐらの

なかで九生を授かるようだね」


 「例の、スター族とやらの夢のなかの交信でか」


 「そのとおり」


 老婆と黒猫は人間の家の屋根の上で若いイエバトをわけあって食べていた。ますます老いて弱ってきても食欲だけは衰えないのが、

老婆を見ていてほっとするところだ。今、太陽はふたりのうしろから昇り、屋根の上から見渡せる部族猫の住む土地を、すみずみまで

照らしはじめている。四部族の土地の俯瞰図はこれですっかり頭に入った。実際にそこで暮らすとなると、またちがった地図を覚える

必要があるのだろうが、予備知識はあるに越したことがない。


 「貴様は本当になんでも知っているんだな」黒猫は感心するでもなくそういい、不意に金色の目を細めて老婆を見つめた。「なあ、

本当は昔部族にいたんだろう?」


 「何度もいわせるんじゃないよ」老婆は地上から持ってきた樹の皮で歯のよごれを取りのぞきながら、やれやれとかぶりを振った。

「あたしは部族で生まれても育ってもいないし、大集会にもハイストーンズにも行ったことがないんだ」


 「まるで行きたかったというような口ぶりだな」


 「まったく! 人心掌握の術の授業で、あたしは教えなかったかい? 他人のことでよけいな詮索はするもんじゃないよ。やるなら

気づかれないようにと───」


 「もしも」黒猫は突然慎重に切り出した。「………もしも、貴様の個人的に憎んでいる相手がまだ部族で生きているのなら、自分の

復讐のついでに、その怨みを晴らしてやるが………どうする」


 老婆は驚いて片目をまんまるに見開き、黒猫を穴の開くほど見つめた。だがやがてその目はかげり、黒猫が一瞬ぎくりとするような

冷たい光を浮かべた。「なにをいってる、おまえさんは。自分自身の復讐だってまだはじめてすらいないというのに。あたしのことは

忘れていい。おまえさんはおまえさんの復讐に集中しな」


 「だが………」


 「なんだい、おまえさんはこの三ヶ月ですっかり骨抜きになっちまったのかい? あの復讐心はどうした! もうあの日の憎しみは

忘れっちまったのかい!」


 「忘れてなどいない!」老婆の激しい語気にあおられ、黒猫もかっと牙を剥き出して立ち上がった。「なぜ、寝る間も惜しんで爪を

研ぎつづけてきたと思っている?」この数週間は意図的に消していたあの憎悪の烈火を、金色の瞳にめらめらと燃やしながら、老婆に

のしかかるようにしていう。「忘れてなどいない。あの男───ティスルクローへの憎しみも、サンダー族への怨みも、絶対に忘れて

などいないさ。忘れられるわけがない」


 最後は声が震えた。黒猫は顔をそむけ、珍しくあふれだした自分の深い感情に動揺しながら、白い胸もとを毛づくろいして、自分を

落ち着かせようとした。老婆はじっと黒猫を見つめ、なにやら考え深げなようすでいる。白くにごりきった片目に浮かぶその表情が、

黒猫にはなんだか気にいらない。


 やや沈黙が流れてから老婆が口を開いた。「それならいいんだ。おまえさんが復讐心のみで研いできた爪や牙が、なまくらになって

いないのならね。それじゃ、この話は終わりにして、別の話をはじめよう。………実は、おまえさんがこれまで学んで身につけてきた

ものだがね、もしかするとサンダー族の土地では毛ほども役に立たないかもしれない」


 黒猫は胸を舌でなめる動作をぴたりとやめ、いぶかしげな目でちらと老婆を見上げた。「なんだと?」


 「あたしたちはずっとふたりっきりでやってきたね」老婆はつぶれていない右目をまっすぐ黒猫に向けた。そのまなざしはさっきの

剣幕が嘘のように穏やかだ。「成長すればいずれまた別々になって独りになる、猫本来の自然な生きかたをしてきたわけだ。だがね、

部族ではやりかたがちがう。部族猫は集団生活をする。族長や副長、ついで平の戦士なんていう上下関係があるし、封建的な価値観に

縛られなきゃならない。そのなかで大がかりな復讐を果たしたいなのら、おまえさんはひとりひとりの戦士が持っている過去や才能や

望み、そして互いの複雑な関係を、ひもといていく必要がある」


 老婆が不意に立ち上がり、食べ終えたイエバトの骨の山をよけて歩いてくると、目を丸くして見上げる黒猫のすぐそばに横たわり、

わき腹をそっと押しつけてきた。黒猫はとまどった。触れあったわき腹から、老婆のぬくもりがじかに伝わってくる。今や古なじみと

なった老婆のにおいが、強く黒猫の鼻ににおう。


 「部族じゃ、忠誠心がなによりも大事とされてるんだ」老婆は眼下の風景を見渡したまま、しわがれた声で語りつづける。「周りを

あざむくためには、おまえさんは忠実な模範戦士を演じなくてはならない。一族のほかの猫たちと、見せかけでも信頼関係を築くのが

必須だ。現場に行きゃあ、そこにいる猫どもがおまえさんに下す評価がなによりもものをいう。サンダー族に入ったら、おまえさんは

そこの猫たちとの関わりあいのなかで、いちばんいい復讐の方法を見定めなくてはならないんだ」


 やわらかな春風がはるかな空から吹き降りてきて、並ぶ老若二匹の毛をそよがせた。老婆は黒猫の毛皮のなかに鼻面を差し入れた。

黒猫は身を引かない。前を見すえて固まったままだ。


 「あたしが今まで教えてきたものはすべて、そういうほんものの復讐を遂げる能力を楽に手に入れるために必要な、基本的な武器に

過ぎないんだよ。

 それに四六時中戦争をしてるもんだから、部族猫どもは戦い慣れしてる。おまえさんはだいぶ強くなったけれど、それでも同年代の

部族猫より少し上を行けたくらいだろう。森の獲物は、町の公園でのんびりしている同類とちがって、常に狩られる恐怖にさらされて

いるから勘がいい。あたしはおまえさんにいろいろなことを教えたし、おまえさんは驚くほど飲みこみがよかった。賢いんだろうね。

でも、部族の見習いとしての生きかたをはじめてからも、きっと退屈はしないだろうよ。おまえさんは、きっとこれから、だれよりも

多くの才能をそなえた猫になる。復讐を誓うものとして、申し分のない仕上がりに」


 黒猫はしばらくどう返してよいかわからなかった。老婆がこんなふうにあたたかい言葉をかけてきたのは、初めてのことだったし、

それなのに黒猫は、なにか一抹の不安が心に押し寄せるのを感じていた。


 やがて、それを吹き飛ばすように黒猫は笑い声をあげた。「この数ヶ月が無駄だったのかと恐れたが、なにをいいだすかと思えば。

足腰の弱い貴様やドブネズミ漬けの町猫より戦いの腕が劣るようなら、部族への復讐にも張り合いがなかろうよ。知識や能力がが未熟

だという話も構わない。貴様から復讐の理論を学ぶのと、いざ部族に入って復讐を実践するのとがちがうというのも、なおいっそう、

腕が鳴るというものだ。貴様は期待してくれているようだが、十二分に応えると約束するよ」


 老婆はほほえんだが、やはりその片目の奥深くにあるなにかに、黒猫はなにか胃のざわつくような不安を感じずにいられなかった。


 「おまえさんを手放すのは寂しいよ」老婆は穏やかなしゃがれ声で鳴いた。「さあ、おしゃべりはこれで終わりにして今日の授業を

はじめよう。それに明日からは、あたしがおまえさんに伝授できる、最後の術の講義を開始するよ」





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最終編集者 LK@シーズンメモリーさんにお会いできますように! [ Sun Jun 28, 2015 6:36 pm ], 編集回数 1 回
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sun Jun 28, 2015 6:23 pm


新しい読者の皆様、コメントありがとうございます!

 フラワリングハートさん ⋙ コメントありがとうございます。はい、LK小説参りました!(`・ω・´)
               プロローグをお褒めいただいて本当にうれしいです。
               斬新………ですかね………? 名前を出さないのは初期の特権なので楽しかったです。
               意外と母親思いですから、もしかしたらまっすぐな子に育ったかもしれませんね。
               ただいま4章まで原稿は進んでおります、是非ご期待くださいね!
               応援ありがとうございます。執筆頑張らせていただきます!

 トワイライトアウルさん ⋙ コメントありがとうございます。
               なでしこジャパンくらいですと………? 果たして日本の誇る女戦士たちに私が並んで良いのやら^^;
               しかしお気持ち嬉しいです!
               毎日いろんなこと頑張れるのはトワイライトアウルさんの念のおかげかもしれません(*´ω`*)
               子猫のサンダー族への復讐心はかなり根深いですが、その運命の行く末を見守っていただければ幸いです。
               応援ありがとうございます。はい、頑張ってふぁいとします(`・ω・´)!

 ヒーステイルさん    ⋙ コメントありがとうございます。
               ぞくぞく感を感じていただけて、しかも素敵とおっしゃっていただけて、天にも昇る心地のLKです。
               私の方こそ常日頃から、ヒーステイルさんに学ばせていただいているものはたくさんありますよ………!
               短編とはいえひとつひとつが長いのでかなりボリューミーですが、
               いい意味であっとご期待を裏切れるような物語を編みたいなと思っています。
               応援ありがとうございます。執筆頑張らせていただきます(*´ω`*)!
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by ラッキークロー@LC on Sun Jun 28, 2015 7:00 pm

 きましたね第二章(^^)/パソコンの前で待ち続けたかいがありました!

 老婆と黒猫の間に、いつの間にか深いつながりが芽生えたのがわかって少し温かい気持ちです^^ と、ついに部族への仲間入りをするときになり、わくわくが覚めません!見習いとなり、どんな成長を遂げるのか......?

 黒猫の母を殺したのはティスルクローだったのですね......黒猫のその言葉を読んだ瞬間、鳥肌が立ちました。憎しみと恨みがまざまざと伝わってきます.......!

 執筆応援しています!
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sun Jun 28, 2015 8:19 pm

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第3章





 燃えるような夕空の下、黒猫は夕げの獲物をくわえてゆっくりと帰路をたどっているところだった。老婆とは、仮住まいがあるあの

裏路地で落ち合うことになっている。午後の北の町猫との喧嘩修行で、黒猫は肩に深い噛み傷を負っていた。それで、化膿しては大変

だからと、黒猫が大丈夫だというのも聞かずに老婆は薬草を探しに行った。たしか、沼や川辺にマリゴールドやトクサを採りに行くと

いっていたな。黒猫はほほえんだ。自分に負けず劣らずあんなに激しい気性をしているくせに。ずいぶん優しい世話焼きだ。


 町を歩いていると、道端の建物の壁ぎわに、割れた鏡のかけらが立てかけてあった。ふと足を止め、黒猫はそこに映る自分の容貌を

まじまじと見つめた。ビロードのようにつややかな、夜の色をした豊かな毛皮。胸と左前足の白い毛は夕明かりに淡く染まっている。

大きな三角形の耳がしゃきっと立っている小さな顔、そのまんなかにあるアーモンド形の金色の瞳。全体の容貌は年齢のためにいまだ

幼いというものの、そのふたつの眼だけはほかの部分からかけ離れた険しい鋭さを秘めている。自分もまた、あの灰色の雨の日から

真逆の姿の猫へと変わった。あの日の水たまりに映っていた痩せてみすぼらしい自分と、今この鏡に映る美しく堂々とした自分とが、

同じ中身の猫だとは。


 ───いや、中身も大きく変わったのだったな。あの老婆のおかげで、ずいぶんたくさんの知識を自分のものにすることができた。

黒猫はふっとほほえんで、また帰り道を歩きはじめた。


 黒猫の口に揺られているのは、この辺りではなかなか見かけない、キジバトの若鳥だった。まだうら若い娘だったころに食べたあの

味が忘れられないと、老婆はよく懐かしんでいたものだ。黒猫は貴様にうら若い娘だったころなどあったのかと大まじめにたずねた。

老婆は老婆で、もうひとつの目が残っていたら黒猫を思いきりにらみつけて今すぐ射殺してやるところだと息巻いてみせた。そうなる

前に自分が最後の目をくり抜いてやろうと、黒猫はにべもなく返してやった。まったく、ゆがんだ師弟愛もあったものだと思う。


 だが老婆は、復讐に燃える自分をここまで育てあげてくれたたったひとりの猫なのだ。キジバトを獲るには遠くまで出かけなくては

ならなかったが、たまにはあの老いぼれを喜ばせてやるのも悪くない。黒猫はひとり笑みをこぼす。「やっぱりうら若いあたしがいた

ことを信じるんじゃないか!」そんな老婆のしわがれ声が聞こえてくるようだ。

                                       クイーン
 そのとき、一匹のぶちの野良猫がほこりを舞いあげながら黒猫に駆け寄ってきた。「女王! クイーン、大変です!」


 黒猫はゆっくり振り返り、顔をしかめてからキジバトを足元に置いた。「なんだ?」町猫の血相にとりあわずぶっきらぼうに返す。


 復讐のために力をつける修行の過程で、黒猫はまだ弱冠生後六ヶ月ほどでありながら、この地区の若いごろつきたちを自分の配下に

手なずけていた。部族猫として暮らしているときも外部に忠臣をすえておけば、復讐に非常に役に立つだろうという老婆の助言による
                                                黒の女王
ものだ。自分たちより年下でありながら喧嘩の腕が強い黒猫に魅了された町猫たちは、彼女を崇めたてて<クイーン>と呼んでいる。


 「私はこれから忙しいのだ」喧嘩の果てに手なずけた部下と接するときはたいていそうだが、黒猫は不機嫌な声を出してにらんだ。

足元に置いたキジバトをちらりと見やる。「これを私の老いぼれのところに届けねばならないからな。もし北の町猫が私に仕返しする

などとほざいたという話なら、私はすぐいなくなると伝えておけ。だが安心しろ、いずれ部族に行くとはいえ、ときどきは帰ってくる

のだ。あの老いぼれを貴様らに預けるのだから、町のこの地区は私が守る。心配はいらん」


 「そうではありません!」町猫は耳を寝かせ、毛を逆立てていた。「クイーン、そのお師匠さまが………!」


 「なに?」とたんに黒猫は金色の目をかっと見開き、鋭く叫んだ。ずかずかと部下に歩みより、つかみかからんばかりに鼻面を突き

合わせて、語気も激しく問いただす。「あの老いぼれがどうしたというのだ?」


 「や………薬草を盗んだという理由で、部族猫の戦士に………!」


 その言葉を聞いた瞬間、頭のなかが真っ白になった。愕然とする黒猫の耳は、もう一切の音を聴いていない。黒猫はキジバトをうち

捨てて走りだした。巻き上げた風に舞いあげられ、哀れな獲物の羽根が散らばる。───あの灰色の雨の日に見下ろしていた恐怖が、

黒猫の脳裏に今、どっと鮮やかによみがえる。





 また雨が降りはじめている。やわらかな天気雨だった。真っ赤に燃える夕焼けのせいで、血に染まった空が、金色の涙を流している

ようにも見える。


 町を出て森に入り、ヘビの多い岩場を抜け、かつて老婆にその名を教わった<サンダー道>を渡った黒猫は、それを見るなり歩みを

止めた。それから、覚悟もできないままおぼつかない足取りで近づいていき、道端に倒れている、まだら模様に赤黒く染まった灰色の

毛のかたまりのそばに、そっとかがみこんだ。


 見慣れた老婆の体には、無数の噛み傷や引き裂いた痕がある。それを見て黒猫の体に震えが走った。そばには青々とした、しかし、

複数の猫に踏みにじられた摘みたてのトクサが、無残にも散らばっていた。


 「………おい」情けない。かすれ声しか出ない。これでは目を覚まさせられないかもしれないではないか。「おい、老いぼれ」


 老婆はぐったりとしていたが、ひどく殴られて腫れ上がっていた右目をうっすらと開けた。「おまえさんかい」ちらっと嬉しそうな

輝きが浮かぶ。それを見て黒猫はいたたまれなくなった。


 「だれに………やられた?」


 老婆はかすかに顔を動かし、サンダー道の向こうにある沼ばかりのひどい荒れ地のほうを示した。「肉が腐ったような刺激臭がする

だろう。シャドウ族さ………ほら、サンダー族と昔から仲の悪い連中だよ。あそこの副長が率いるパトロール隊に見つかっちまった。

トクサを盗んだっていったって、ああしてわざわざ台無しにしていったんだからね………やっぱり浮浪猫だからいじめたかったのさ」


 「こんなところへ採りに来ることはなかったろう」黒猫はささやいた。老婆の息がかすかに速くなっているのがわかる。「まさか、

よりによって部族の縄張りに入りこんで」


 「かわいいおまえさんのけがを治すにゃ、野生の良質な薬草がどうしても必要だった」


 それを聞いて、黒猫の胸が締めつけられるように苦しくなった。「どうやって使うんだ?」せっぱつまった声でたずねる。「今こそ

トクサが必要だ。昔してくれたみたいに、噛んで出た汁を傷に塗ればいいのか?」


 「トクサじゃちょいと役不足だあね」老婆は力なく笑った。「トクサはひとつの傷の化膿を防ぐことくらいしかできない。致命傷を

治せるわけじゃないんだよ」


 「あなたに死なれたくない」黒猫は出し抜けにいった。


 荒い息をしはじめた老婆の片目が、熱に浮かされたようにぼんやりと、黒猫を見た。老婆の目が、ひげが、唇が、けいれんのように

小刻みに震える。「おまえさんの復讐を、遠くから見届けてやりたかった。それに明日から、あたしの最後の秘伝の術をおまえさんに

授けてやる予定だったんだ………」


 会話をつづければ恐ろしいときが来るのを先のばしにできる気がして、黒猫はたずねた。「なにを教えてくれるはずだったんだ?」


 「ふふ」老婆がおかしそうに目を細める。「………おまえさんの色気で、男を夢中にさせてやる方法だよ」


 こんなときだというのに、黒猫は思わずぽかんとしてしまった。「は?」混乱しながらやっと出た声がそれだった。


 「そんな反応をするのが目に見えていたからだまってたんだよ」老婆はくっくっと笑ってひげを震わせた。冗談じゃない、死にぎわ

だというのに、この話になったとたん目が生き生きと輝きはじめている。黒猫はあまりのことにぶん殴ってやりたくなった。しかし、

笑った拍子に老婆の口の端からふた筋の血があふれだしたのも事実だった。


 「おまえさんはきれいだよ」いとおしむような声で老婆はいう。「ばばあのあたしでさえ見とれちまうような、美しい娘に育った。

 今でさえこんななんだ、これからはもっと凄みを増すだろうよ………それに気づかない戦士はいない。きっとそうさ」


 「しゃべるな」血がのどもとにこみ上げてきたらしくせきこんだ老婆を見て、黒猫はあわてていった。だがこんなときまで、老婆は

自分が引こうとはしなかった。黒猫はいらいらと頭を振り、それから祈りを強くこめた目で老婆を見つめた。


 「お聞き。愛のためなら、男も女もおろかしく狂う。男女の情愛ほど恐ろしいものはない。いやでもその渦中に巻きこまれるなら、

それを利用しない手はないだろう?」


 「おい………頼むから」


 「あたしにもうら若い娘だったときがある、以前にそう話したね。男を惚れさせて利用することに関しちゃ、あたしは天才だった。

おまえさんもそうなれる。おまえさんの復讐のための才能でなにより強いのは、戦いの腕でもよく切れる頭でもない。その美貌だよ。

おまえさんは男を狂わせる………それでいい。力がすべての世界で、どうせ男よりも非力な女に生まれついちまったんだ。女の武器を

使ってしぶとく生きてもいいんだ………」


 「結構なご指導だな」話を打ち切ってほしい思いで、吐き捨てるように黒猫はいった。「こんなときにそんな話か? 与太話で息を

無駄にするな。待ってろ、今すぐに助けを………」


 「おまえさんが戦って手にいれた町猫の若造どもかい。無駄だよ」老婆は乾いた声でいった。「あの子たちはおまえさんとちがって

学がない」


 「無駄かどうかなんて知るか!」ついに黒猫は大声で怒鳴った。もう感情を抑えていられない。「あなたが死ぬかもしれないんだ!

また部族猫のせいで! 私の大切なものは、全部あいつらが奪っていく!」


 老婆は目を丸くして激昂する黒猫を見つめた。黒猫はいらだたしくその場を行ったり来たりしながら、爪で草をなぎ払って叫んだ。


 「こんなことはもうこりごりだ! どうしてあいつらに、私の母親の命を二度も奪う権利がある? どうしてこんなに残酷なことが

できる? 私はまだ子どもなのに、いつもいつも奪われてばかり、取り残されてばかりだ! もうたくさんなんだ!」


 顔をゆがめながら荒く息をつくと、黒猫は肩を震わせ、老婆の血染めの毛皮にさっと鼻面を押しつけた。「頼む、お願いだ………

あなたにずっとそばにいてほしい。独りに、しないで」


 老婆は頭をかすかに動かして黒猫の耳をなめた。「………ごめんよ。授業を終えられてないのに、先に逝っちまうなんて」


 「いやだ。そうはさせない。神やスター族が許そうと、私が許さない」


 「………………」


 突然老婆が激しくけいれんし、黒猫はぱっと顔をあげた。がらがらと恐ろしげな音をたてながら、老婆が必死に呼吸しようとする。


 「名前を………!」


 「………あなたの名前?」黒猫は老婆に身を寄せ、その背中にしっぽをかけながら、優しくたずねた。───もう、止められない。

止まらない。


 「ちがう………おまえさんにずっとあげたかった名前だ」老婆の傷だらけのわき腹が激しく波打った。「あたしの娘にあげるつもり

だった名前………」老婆の片目がうつろになる。「ナイン………ナインだ。ずっとこの名前をあげられたらと願ってた」


 「ナイン」黒猫は繰り返す。祈るような声でいう。「わかった。ナインだね。それで、あなたの名前は………?」


 老婆の呼吸は止まっていた。


 黒猫自身も一瞬、息をすることを忘れた。夕焼けはこんなにも、ぞっとするほど鮮やかなのに、世界の色が突然なにもかも失われて

しまったように思えた。足もとで奈落が口を開けた気がした。体じゅうの血がざあっと引いていき、くらくらとめまいがする。黒猫は

動けなかった。途方もない喪失感だった。


 老婆は死んでしまった。





 藍色の冷たい空に、ちらちらと星が輝いている。夜風が荒れ地を吹き抜けて、町猫の鼻に、今となっては偉大な猫として崇めている

あの黒い子猫のにおいを運んだ。町猫はサンダー道を渡り、草を踏み分け、夕方に黒猫を案内したところまで戻ってきた。あの黒猫が

心配でしかたなかったのだ。黒猫の臣下となった仲間たちと相談し、いちばんの実力者として黒猫に信頼されている自分が行くことに

なった。


 「クイーン?」ぶちの町猫はそっと呼びかけた。女王の師匠が倒れているのを発見した辺りで、かすかに身動きするものがいた。


 「クイーン、ご無事ですか?」もう一度呼びかけ、近づいていく。まさか、今は真夜中だ。夕方のあのときから、ずっと亡きがらの

そばにいたのだろうか。


 ゆっくりとこちらに顔を振り向くものがいた。銀河の下をゆったりと流れていた雲が散って、不意に月明かりが黒猫を照らしだす。

町猫はぎょっとして立ち止まった。そこにいたのは、彼がその強さにかつて惚れこんだ猫ではない。金色の瞳に深い絶望の闇を映し、

取り残された深い悲しみに沈んだ、独りぼっちの、惨めで無力な子猫だ。


 これがあのクイーン? 町猫は混乱する。これが自分の崇める、母親を殺されて憎しみの炎に全身をたぎらせていたあの黒い女王?


 だが次の瞬間、町猫をぞっとするような冷気が襲い、町猫は思わず息をのんで崩れ落ちた。心臓に痛みを覚えるようなこの悪寒は、

いったいどこから湧いてきたのか。辺りを見渡すと、真正面に、ゆらりと立ち上がってこちらにやってくる黒猫がいた。さらに町猫は

驚愕する。それはさっきの弱々しい子猫ではない。もうその子猫は死んでいるのだと町猫にはわかる。


 「墓穴を掘るのを手伝え」黒猫は部下に耳打ちした。「埋葬を終えたら、私は部族へ行く。しばらくあの町には戻らん。私が留守の

あいだは、チェルフォード、貴様が仲間の指揮を執れ。いずれ貴様らの助けが必要になる。案ずるな………いずれは貴様ら町猫どもも

森で暮らせるようにしてやる。それまで私の帰りを待つのだ」


 「なにを………しに………行くのです?」チェルフォードはおそるおそるたずねた。さっきの絶望した弱々しい子猫より、今の氷の

ような殺気を放つ黒猫のほうが、もっと見知らぬ猫に思えた。


 「決まっている」黒猫の瞳に金色の炎が燃え上がる。町猫は一瞬、自分は殺されるのかと思い、全身の毛を逆立てた。だが、黒猫は

町猫を残してそばの岩の上に立ち、サンダー道の向こうにある森に目を向けた。そのはるかな頭上で、不気味なほど巨大な青い月が、

冷たい光を投げかけている。


 「部族への復讐だ」黒猫の声には、重い誓いの響きがあった。「このナインの名を、あの森に………部族猫たちの血で刻みつける」

サンダー族の森を見透かす黒猫の瞳には復讐の炎が黒々と燃え上がり、今にも森を焼き尽くさんばかりだ。


 黒猫は、この数ヵ月に渡って研ぎつづけてきた鋭いかぎ爪を剥き出にしすると、心臓の位置にあたる自分の白い胸に、深い十字傷を

刻みつけた。焼けるような痛みが走るが、黒猫の体はびくともしない。老婆を喪った痛みに比べれば、こんなものはなんでもない。


 これは誓いの印だ。浮浪猫だからという理由で老婆が部族に殺されたことを忘れないための誓いの傷だ。このかぎ爪についた深紅の

血は、老婆のための弔いの血だ。


 黒猫はぎらつく目で、岩の上から銀河を見上げた。部族猫の信仰するスター族よ、聞こえるか?


 私は今夜のことを、どんなに貴様らに請われようと、絶対に忘れない。

 サンダー族とシャドウ族。貴様らの子孫であるかれらを、このナインは絶対に許さない。





 そのとき、森の奥深くで、燃えるように輝きながら落ちていく流れ星のなかに予言を幻視したスポッティドリーフが、はっと琥珀の

瞳を震わせた。





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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by レパードクロー on Sun Jun 28, 2015 8:39 pm

老婆がぁ・・・・・。
そしてナインという名前は老婆がつけたのですね。ナインの思いが繊細にかかれていてすごく引き込まれます!
老婆がイェローファングsなんじゃないかと思うレパードw
頑張ってください、応援してます!
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sun Jun 28, 2015 9:00 pm



 ラッキークローさん ⋙ コメントありがとうございます。お待たせしました第2章!
             なんと! お待ちしていただいてたのですか………!? ありがたくも申し訳ないです^^;
             今回はふたりの復讐を通じて築いた絆の回でしたね。少しあたたかくなっていただけたら何よりです。
             部族への仲間入りがどういうかたちで落ち着くのか、私も自分自身で密かに楽しみにしていたりします。
             成長………! ええ、ぜひ注目してください! その言葉をおっしゃっていただけるとはさすがです!
             いつもいつもコメント、応援をしてくださり、本当にありがとうございます。
             ラッキークローさんの応援を励みに頑張ります(*´ω`)
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sun Jun 28, 2015 9:06 pm



 豹爪さん ⋙ コメントありがとうございます。
        今回の章はもっと間隔をあけて投稿したほうがいいかな………と思いましたが、
        いろいろな意図からすぐに投稿させていただきました。
        3章目でやっとナインの名前を出せてとりあえずほっと肩の荷が下りています。引き込まれるだなんてうれしいです!
        初期の構想ではイェローファングが「老婆」という案もありましたが、
        彼女にはまた別の形で活躍していただこうと思っています。
        いつもいつも本当にあたたかな応援をしてくださってありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by L ͛k ͛ on Sun Jun 28, 2015 9:16 pm

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第4章





 ブルースターは黙ったまま目の前の看護猫を見つめていた。澄み渡った夜空の下、サンダー族が隠れ家としている夜露に濡れた空き

地には、自分とスポッティドリーフ以外にだれもいない。


 ブルースターは辛抱強く待っていた。たった今、燃えるように輝きながら消えていった流れ星を見た瞬間に、スポッティドリーフは

スター族からの予言をまちがいなく受け取ったはずだ。三毛猫は銀河を見つめ、背中の毛を逆立てたまま呼吸を止めて、きれいな顔を

苦しそうにゆがめている。予言を受けとるとき、看護猫たちはなんらかの痛みや発作に襲われるのだと聞いたことがある。先祖の賢い

助言の代償に、この若く美しい看護猫も今、なにかの痛みに耐えているのにちがいない。


 やがて、スポッティドリーフが震える息を吐き出しながらブルースターに向き直った。予言を受け取ったばかりでまだ神秘の世界を

さ迷っている琥珀色の瞳が、ブルースターをまっすぐとらえる。「スター族からのお告げです。わが一族を救えるのは火だけ」


 「火?」ブルースターは信じられない思いで繰り返した。本当に、それが先祖たちからの助言なのだろうか。「でも、火はすべての

一族が恐れているものよ! 火がどうやって私たちを救ってくれるというの?」


 だれより信頼できる相手だからと心の声をぶつけたが、どうやらスポッティドリーフを困らせてしまったようだ。「わかりません。

けれど、スター族は私にそう伝えてきたんです」


 看護猫のつぶらな瞳に見つめられ、ブルースターは思案した。滅びの力を持つ火が、どうやって厳しい時期にあるサンダー族を救う

というのだろう。今夜はサニングロックスで初めての敗北を喫したし、一族の未来を担うはずの子猫も今年はあまり生まれていない。

戦士が不足している今、スター族とこのスポッティドリーフ以外に頼れるものがあるだろうか。


 「あなたの判断がまちがっていたことはないわ、スポッティドリーフ」ブルースターは落ち着いた青い瞳で若い看護猫の少女に語り

かける。「スター族がそういったのなら、きっとそう。火がわが一族を救ってくれるのでしょう」


 自分を落ち着かせようといってみた言葉だった。しかしスポッティドリーフは、不安げな色を目に浮かべていた。「ブルースター、

実は………それだけではありません」


 「なに?」ブルースターは眉をひそめる。こんな風に、スポッティドリーフがあとからものをいうことなど珍しい。


 スポッティドリーフは勇気を出そうとするかのように深く息を吸ってからいった。「私たちのスター族が伝えてくださった予言は、

たしかに『火が一族を救う』という言葉でまちがいありません。しかし、私が星を読んだかぎりでは、天の河はそれ以上の言葉を伝え

ようとしてきたみたいなんです」


 「どういうこと?」ブルースターの毛が逆立ちはじめた。スポッティドリーフの言葉に、不穏な気配が潜んでいるのが感じ取れる。

スター族だけでなく、銀河そのものの深遠なパワーが、この子に予言を下したの? だからあんなに苦しそうにしていたの?


 スポッティドリーフの琥珀色の瞳が苦悩に揺らいでいた。「銀河は私に言いました。『サンダー族を救えるのは火だけ。だがまた、

サンダー族だけでなく、すべての部族を滅ぼすのも火だけだ』と」


 長い沈黙が降りた。「………救いの火と滅びの火、ふたつが存在するというの?」呆然としながらたずねる。


 「おそらくそういうことなのだと思います」スポッティドリーフは星空を見上げた。「異なるふたつの炎が今、部族に迫っている」


 「スポッティドリーフ………」ブルースターはため息を吐き出した。「こんな風に思う私を、どうか不信心となじらないでね。私は

ときどき、銀河もスター族も、地上に生きる私たちを予言で惑わそうとしているように思えてならないわ」


 「わかりますよ」スポッティドリーフが淡い色の瞳を優しく輝かせた。「この世は不確かなものばかり。だからこそ純粋な信仰心が

いっそうまぶしく輝けるんです」


 「少なくとも、あなたがいるかぎりは月のない夜も迷わないわね」ブルースターはほほえんだ。


 スポッティドリーフは感謝をこめてまばたきした。「ブルースターが私たちの族長でいらっしゃるかぎり、みんなも道しるべの星を

たよりに歩みつづけられるでしょう」


 サンダー族の女族長と看護猫は、そうしてしばらく、涼やかな夜のしじまに耳をかたむけつづけていた。静かな夜だった。この淡い

星明かりが優しく照らしだす世界のどこかで、憎悪の炎を秘めた復讐心が二度目の産声をあげたことなど、サンダー族の二匹にとって

まだ知るよしもないことだ。





 翌朝は晴れていた。昨日の夕方の天気雨が空の塵を洗い流したからか、青く明るく澄んでいる。ブルースターは族長部屋からコケの

カーテンを押しのけて出てくると、地平線上ににじむ金色の朝日に目をしばたかせた。ずいぶん日が早くなったようだ。待ち焦がれて

いた若葉の季節がついに到来した、なによりの証拠だろう。


 「昨日の戦いでけがをしたものたちの具合はどう?」戦士部屋から出てきた三毛柄の雄猫を見て、ブルースターは声をかけた。彼を

防衛戦の大将に任命していたのだ。レッドテイルはキツネによく似た赤毛のしっぽをさっと振った。「みんな大丈夫ですよ。肩を深く

やられたマウスファーはスポッティドリーフが面倒を見てくれているし、タイガークローも鼻を引き裂かれていましたけど、平気だと

怒鳴られたくらいですら」


 「彼は良くも悪くも強い戦士よ」ブルースターは憂鬱な声でいう。「昨日の敗戦は精神的に応えたんじゃないかしら」


 「たしかに、俺の退却命令にいい顔していませんでしたね。オークハートでなくて、俺を殺したいみたいでした」戦士は笑いながら

いった。


 ブルースターはちらりと顔をゆがめそうになったのをさとられないようにした。かつて愛した、リヴァー族の副長のオークハート。

彼と、自分の腹心の部下であるレッドテイルの殺しあう日が、こんなにも早く来るなんて。若くおろかだったころのような愛情はもう

ないとはいえ、複雑な心境だった。サニングロックスを奪われたというのに、彼の───オークハートの無事を願わずにいられない。


 「ブルースター?」レッドテイルがのぞきこむように目をあわせてくる。


 ブルースターは頭をはっきりさせ、明るくいった。「あなたの退却命令は正しい判断だったわ、レッドテイル。状況を的確に考えて

くれたおかげで、戦士をひとりも失わずにすんだ。一族から感謝を捧げるわ。スター族もあなたを表彰してくれることでしょう」


 「負けてしまいましたけどね」レッドテイルは悔しそうにいった。「責任は俺にあります。ですから、サニングロックスを取り返す

次の戦闘部隊は俺に指揮を執らせてください。ライオンハートが連れて行った夜明けのパトロール隊は、もう帰ってきましたか?」


 「まだよ」ブルースターは不安になってちらっとハリエニシダのトンネルに目をやった。何ヵ月か前のようにリヴァー族に襲われた

のでなければいいが。


 「あいつ、また見習いたちをたぶらかしてどこかで道草食ってるんじゃないよな?」陽気な戦士仲間の姿を思い浮かべて、三毛猫が

顔をしかめたその瞬間、キャンプの出入口のあたりにある茂みの奥が、がさがさと激しく揺れた。


 「噂をすれば! 出迎えに行ってきますね」レッドテイルは元気よく、軽快に駆け出していく。ブルースターは明るく利発な副長に

なぐさめられながらも、気が重い感覚をぬぐえなかった。


 自分が族長になってからまだ日が浅いとはいえ、昨晩の初めての敗戦は、自分の政権下にあるサンダー族は破れない相手ではないの

だと、リヴァー族のクルキッドスターを喜ばせたにちがいない。リヴァー族はこれからどんどん強気の態度に出るだろう。あの一族の

川は一年を通じて魚があふれているから、枯れ葉の季節が長引いても飢えて戦士が弱ることはない。対するこちらは新しい子猫の数に

恵まれなかったから、そのおかげでやっと全員の口に獲物が行き渡ったくらいなのに。


 さらに、スポッティドリーフがスター族と銀河の両方から受け取った、恐ろしげなあの予言。ふたつの火がサンダー族だけでなく、

四つの部族に迫っているというのだ。なんだか、自分が族長に就任してから一族を脅かすものがとたんに増えてしまった気がする。


 「族長になった暁には、素晴らしい運命が待っている」。スポッティドリーフの前任の看護猫がそう太鼓判を押したから、かわいい

あの子たちを手放してまでサンダー族の族長になるイバラの道を選んだのに。天のスター族は本当に、私たちを見守ってくれているの

だろうか?


 長くもの思いにふけっていたブルースターは、レッドテイルのぎょっとしたような声を聞いてはっと全身をこわばらせた。今の声は

一族のほかの者たちにも聞こえたようだ。戦士部屋からタイガークローとホワイトストームが飛び出し、見習い部屋からは怯えながら

ロングポーが顔をちらっとのぞかせた。保育部屋からはサンドキットとダストキットが転がり出てきて、なにごとだろうというように

大きく見開いた輝く目をトンネルに向けている。


 「なにがあったの?」ブルースターは勇むような足取りですばやくトンネルに向かいながら呼びかけた。だがぴたりと足を止める。

ハリエニシダの葉が揺れて、レッドテイルがライオンハートのパトロール隊を引き連れて現れた。ブルースターは青い目を丸くした。


 レッドテイルのすぐうしろには、ブルースターの知らない幼い子猫がぴたりとついてきていたのだ。子猫は黒いカラスの濡れ羽色を

していて、胸と左前足だけ白いのが、少し一族のレイヴンキットに似ている。だが胸には交差した十字の傷がぱっくりと開いていて、

純白のはずの毛を真っ赤に染めている。


 レッドテイルと子猫、それからパトロール隊の一行は、ブルースターのいるキャンプの中央まで進み出てきた。一族はすでに続々と

空き地に集まりはじめていて、見知らぬ子猫を警戒心と好奇心の入り交じった目で見ながらひそひそささやきあっている。


 「パトロールの途中に、スネークロックスのそばで発見したんです」黄金色の豊かな毛皮の戦士、ライオンハートがブルースターに

いった。「浮浪猫の孤児だといっていますが、どうもにおいがそれっぽくない。………とにかくけがをしているので、追い出すことは

できなくて」


 「そしてこいつは、ブルースターにお話ししたいことがあるそうです」レッドテイルがあとを引き取り、困ったようなまなざしで、

ちらりと子猫を見下ろした。


 ブルースターは子猫の金色の瞳を見つめた。驚いたことに、子猫のほうもブルースターの青い瞳をまっすぐ見つめ返してきた。


 子猫は少し震える足取りでブルースターの真正面に進み出ると、アーモンド型の瞳でブルースターを見上げた。サンダー族の族長の

体に、一瞬ぞくりと冷たいものが走った。この子はただの子猫じゃない。古強者の戦士に劣らない気骨と、ブルースターがまだはかり

きれずにいる、激しい野性を隠しているのだ。


 「浮浪猫の孤児のナインです」子猫はそんな危険な気配を急に消し、小さく慎ましくなって、よく透きとおる声でいった。「死んだ

父さんに聞いて、森に部族があると知って………それで、ごみためみたいな町を逃げてきて、サンダー族を頼ってきました。

 私、きっと一族のためになんだってします。ほかになにもないんです。だからブルースター、お願いします………私をこの一族に、

サンダー族に入れてください」





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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by ラッキークロー@LC on Mon Jun 29, 2015 1:23 pm

 第三章、四章と立て続けに読み終わり、衝撃と興奮を押さえきれないラッキークローです。

 老婆が殺されるなんて...しかも部族猫に襲われたなんて、ナインのこころのなかに燃え上がった復讐の深さを考えると、ゾクッとします。
 いつのまにか、ナインと老婆の間には、母子のような絆が出来上がっていたのですね。読んでてうるっと来てしまいました。引き込まれます。

 あとは、子猫の毛色、性別、名前、通り名と、回をおうごとに明らかになっていくのが面白いですね!ナインがブルースターの前で無力な子猫を演じたのも怖いです。彼女の復讐は始まっているのかと思うと......。

 執筆頑張ってください(^.^)
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

投稿 by ライトハート on Mon Jun 29, 2015 1:27 pm

とても進んでいて気合?が伝わってきました^^*
老婆の最後が、とても心にくるものがありました。
そして懐かしのお告げにもう一つ加わったのですね!!
ナインはサンダー族に仲間入りできるのでしょうか・・・。
楽しみにしてます!お互い頑張りましょう!
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Re: ナインの復讐 ーThe Revenge of Nineー                     [ひとりの戦士の復讐記][長編][原作1期全巻相当]

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