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WARRIORS ~ラビットポー編~【完結】

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投稿 by ドーンミスティ Fri Jan 29, 2021 6:43 pm

WARRIORS ~ラビットポー編~【完結】 Aoasaa11

『WARRIORS』4期頃のサンダー族が舞台です。

主人公は創作猫ですが、世界はそのままなので、原作の猫たちも登場します。
完結しています。一度にアップしたので長くて読みづらいかもしれませんが、読んでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いします。


※字が詰まりすぎていて読みづらかったので、改行修正しました。


最終編集者 ドーンミスティ [ Sat Jan 30, 2021 12:06 am ], 編集回数 5 回
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投稿 by ドーンミスティ Fri Jan 29, 2021 6:45 pm

WARRIORS ラビットポー編

一章

 乾燥した強い風がサンダー族のキャンプの乾いた砂を巻き上げ、キャンプは霧がかかったように白くなっている。子猫や長老猫たちは強風を避けて寝床にこもり、空き地に出てきている猫は少ない。空き地にいる猫たちはみんな耳と体を伏せて目を細め、熱風と砂から身を守ろうとしている。
 今回の青葉の季節は極端に雨が少なかった。いつものこの季節と比べていくぶん涼しかったのが救いだ。そうでなければすべての部族猫たちが耐え難い飢えと渇きに苦しむことになっていただろう。

 ブランブルクローが空き地の真ん中まで歩いてきて辺りを見回した。そして獲物置き場でファーンクラウドを風から守るようにして座っているダストペルトを見つけると駆け寄り、風に負けないように声を張り上げた。
「ダストペルト、昼のパトロール隊を率いてもらえますか?」
ダストペルトは口に砂が入るのが嫌なのか、口を開かず黙って二度頷いた。
「ベリーノウズとスパイダーレッグ、ラビットポーを連れてウィンド族との境界を見回ってください。」

 ファーンクラウドの横でハタネズミを食べていたラビットポーは、それを聞いて思わずぴょんと飛び跳ねた。その拍子に風に煽られてふらつき、隣でクロウタドリをかじっていた指導者のスパイダーレッグにぶつかってしまった。
スパイダーレッグは軽くむせてラビットポーを睨んだ。
「お前はもう見習いになったんだ。子猫みたいにはしゃぐのはよせ。」
「すみません。」
ラビットポーは真剣な顔をして謝った。けれども焦げ茶色の肩の毛が興奮で膨らむのを抑えることはできなかった。
 三日前に戦士見習いになったばかりのラビットポーはまだキャンプのほんのすぐ外までしか出たことがなかった。見習いになったらすぐに狩りやパトロールに出かけられると思っていたのに、今までにさせてもらえたことといったら、長老部屋の掃除とコケ集め、マダニ取りのみ。今日もそんな一日だったらどうしようかと思っていたところだった。スパイダーレッグは弟子を連れて歩くのが面倒くさいと思っているのか、雑用ばかり言いつけてくる。

 ラビットポーは残っていたハタネズミを一口で飲み込むと、出発を待った。スパイダーレッグがクロウタドリの羽根をむしるのを待っていられなくて、横からむしりそうになったほどだ。
 ダストペルトはみんなが食べ終わるのを待って立ち上がると、ファーンクラウドと軽く鼻を合わせた。それからしっぽをぴんと立てて合図し、イバラのトンネルに向かって歩き出した。途中、うんざりしたような顔で砂まみれの毛皮を毛づくろいしているベリーノウズに声をかけ、一行はキャンプの外へと出た。


 森は木々のおかげで風が遮られ、猫たちはやっとまともに目を開けられるようになった。ラビットポーは目を輝かせながらスパイダーレッグの後を追った。昨日寝床のコケを取りに来た場所を通り過ぎ、今まで一度も来たことのないブナの林に足を踏み入れた時、ラビットポーは胸が高鳴りすぎて毛玉がのど元までせり上がってくるような気がした。

 次第にシダが多くなり、地面がひんやりとしてきた。ふいに前を走っていたスパイダーレッグがスピードを落とした。きょろきょろと辺りを見回しながら走っていたラビットポーは、危うくスパイダーレッグの尻に鼻を突っ込みそうになった。
 スパイダーレッグはラビットポーを避けて横に並ぶと、普段から不機嫌そうな顔を一層険しくして言った。
「この乾燥のせいでウィンド族の縄張りでは骨と皮でできているみたいなウサギしか採れなくなって、最近のウィンド族は気が立っている。いきなり襲ってくるようなことはないだろうが、刺激しないように気をつけろ。」
「分かりました。」
答えながら、ラビットポーはまだ見ぬウィンド族を想像してみた。戦士たちの話では、ウィンド族の戦士はみんな痩せこけていて、ひ弱らしい。それなら小柄な僕でもなんとか立ち向えるだろうか?

「止まれ!」
先頭を走っていたダストペルトが足を止め、小さく鋭い声で言った。
「ウィンド族だ。」
スパイダーレッグとベリーノウズが毛を逆立てて唸った。
「あいつら、こんなところで何やってるんだ?」
「こっちの縄張りに入ったらどういうことになるか、思い知らせてやる!」
飛び出して行きそうになるベリーノウズをダストペルトが止めた。
「待て、何か理由があるのかもしれない。様子を見よう。」

ラビットポーはみんなが何故こんなにも腹を立てているのか分からず、首を傾げた。
「川のこっち側はサンダー族の縄張りだ。」
茂みに身を隠しながら、スパイダーレッグが教えた。ラビットポーもみんなの真似をして茂みの下にもぐり込むと、地面に腹をつけて息ををひそめた。

 ラビットポーが隠れている場所の少し先からは緩やかな下り坂になっており、底を細い小川が流れている。川から吹く強い風が、嗅ぎなれない猫の匂いを運んでくる。ウィンド族の猫たちはシダを揺らしながら川下の方へと歩いていく。
 先頭を歩く薄茶色の雄が時折伸びあがって密生したシダの中から顔を出し、警戒するように辺りの匂いを嗅ぎ取っている。その後ろを薄灰色の雄猫と黒い雌猫、戦士になったばかりと思われる若い白地に黒いブチ柄の雄猫がついていく。
「このまま見過ごすつもりですか?」
離れていくウィンド族の戦士を見ながら、ベリーノウズがダストペルトに食ってかかるように言った。
このまま川を下っていけば、そのうちウィンド族の縄張りに入る。ベリーノウズはその前に捕まえて痛い目に合わせてやらないと気が済まないと鼻息を荒くした。
「黙っていろ。」
ダストペルトは尻尾で軽くベリーノウズの鼻を叩くと、足音を忍ばせてウィンド族の後を追い始めた。スパイダーレッグも長い脚を体の下に入れて音もなく蛇のようについていく。ベリーノウズがその後をぶうぶう文句を言いながら追った。ラビットポーは自分のせいでこの追跡が失敗してしまうのが怖くて、きつね2匹分くらい間をあけてついていった。


 川が大きく曲がり、前方に丘が見えはじめた。四匹のウィンド族は縄張りへと向かう川から離れ、まっすぐに森へ向かっていく。ウィンド族の猫たちが自分の縄張りに戻る気がないことを確認すると、ダストペルトはスピードをあげ、ウィンド族との距離を縮めはじめた。
 森に入ったウィンド族たちは口を開けて獲物の匂いを嗅ぎ、足音を忍ばせてハリエニシダの茂みに近づいていく。茂みからぱっとウサギが飛び出した。大きい脚で地を蹴り、安全な巣穴を目指して一直線に走っていく。とても追いつける速さではないとラビットポーは思ったが、先ほど先頭を歩いていた薄茶色の猫がその後を追い、ウサギに飛び掛かると背中に爪を立て、スピードを失ったウサギの首筋に噛みついてしとめた。
「わぁ、すごいや!」
思わず声を上げたラビットポーは、次の瞬間自分たちが身を潜めていたことを思い出してはっとしたが、その時にはもうダストペルトがウィンド族の猫の前に飛び出していた。スパイダーレッグとベリーノウズもその後に続き、ウィンド族の縄張りに戻る道を塞ぐようにして並んだ。ラビットポーも慌てて後を追い、スパイダーレッグの横に立った。

 初めてまともに見たウィンド族は、噂で聞いていたよりもずっと逞しかった。確かにどの猫もあばら骨が見えるほど痩せてはいるが、肩と太腿の筋肉は盛り上がっており、とてもひ弱には思えなかった。少なくともラビットポーが立ち向えるような相手には見えない。
 ウィンド族の猫たちは突然現れたサンダー族に驚いて目を丸くした。ぶち猫が慌てて薄茶色の猫を見た。縋るような目をしている若い猫と違い、薄茶色の猫は薄い琥珀色の目をぎらつかせてダストペルトを睨んだ。
「どういうつもりだ?」
ダストペルトが怒りを抑えた声で言った。
「この意地汚い獲物泥棒!」
待ってましたと言わんばかりにベリーノウズが口汚く罵った。
薄茶色の猫は素早くサンダー族の猫たちに目を走らせた。その視線がラビットポーまで来たとき、目に余裕の色が浮かんだ。サンダー族もウィンド族もどちらも四匹ずつだが、サンダー族の中の一匹はまだ子猫臭さが抜けない見習いだと気づいたからだ。
 咥えていたウサギを後ろにいる雌猫の方に放り投げると、トガリネズミを相手にしているかのような横柄な態度でダストペルトに向き合った。黒い雌猫はそのウサギを咥え上げると一歩後ろに下がり、2匹の雄が薄茶の猫の両側に進み出た。
ダストペルトが警告するように低く唸った。隣にいるスパイダーレッグの肩に力が入ったのを感じる。
一体どうなってしまうんだろう?ラビットポーは怖くなった。全身の毛が逆立っていく。

「このウサギはうちの縄張りから迷い込んだウサギだ。我々が捕っても何の問題もない。」
薄茶色の猫はふてぶてしく言った。
「そんな太ったウサギがウィンド族の縄張りのウサギなもんか。」
スパイダーレッグが馬鹿にしたように鼻で笑った。
「これはワンスターの指示なのか?」
ダストペルトが忍耐強く訊ねた。雌猫の黒い顔に後ろめたそうな表情が浮かんだ。
「うるさい!お前には関係のないことだ。」
痛いところを突かれたのか、薄茶色の猫は怒鳴り、ラビットポーの脇をすり抜けてウィンド族の縄張りに向かって歩き出した。
「待て、話はまだ終わっていない。」
ダストペルトが薄茶色の猫を追って立ち去ろうとする灰色の雄猫の行く手を体で遮った。
「逃げる気か、この卑怯者!」
ベリーノウズがウサギを咥えたまま走り去ろうとした雌猫に躍りかかった。地面に押さえつけられた雌猫は体を捻ってベリーノウズを蹴ろうとしたが、うまくいかず、足をばたつかせた。
行く手を阻まれた雄猫が飛び上がってダストペルトの背中に飛び乗ろうとし、ダストペルトは横に転がってそれを避けた。薄茶色の猫が踵を返し、こちらに向かってくる。

 ラビットポーの足は恐ろしさのあまり石になったように固まってしまい、立ち向うことも逃げ出すこともできなかった。その横をスパイダーレッグが走り抜けた。
「お前は離れていろ!」
スパイダーレッグが叫んだ。その声に弾かれたように、ラビットポーは森の奥に向かって走り出した。白黒のぶち猫が後を追おうとこちらに体を向けたのが視界の端に見えた。ラビットポーはさらに速く走ろうと、足に力を込めた。
「危ない!!」
誰かの叫び声が聞こえた。それと同時にラビットポーは首に焼けるような鋭い痛みを感じ、足が宙を掻いた。
「ラビットポー!」
スパイダーレッグが今まで聞いたことのない悲鳴のような声をあげた。

 その場にいたすべての猫が取っ組み合いをやめ、凍り付いたように動きを止めている。みんなラビットポーをまるで冬眠から目覚めたアナグマを見るような、とんでもなく恐ろしいものを見る目で息を殺して見つめている。
 首の血管がドクドクと波打ち、そこに猫ではない嗅いだことのない動物の熱くて臭い息がかかり、ラビットポーは自分がその動物にウサギのように咥えられているのだと気が付いた。もがこうと前足に力を入れようとしたが、まったく力が入らず、腕はだらんとぶら下がっているだけだった。
「キツネだ!」
一番近くにいた若いぶち猫は後退りを始めた。
その動きに反応したのか、ラビットポーを咥えているキツネの口に力が入った。キツネの鋭い歯が喉に食い込む。ラビットポーはあまりの痛さに悲鳴を上げたが、声にはならなかった。
 ダストペルトがキツネの鼻面に飛び掛かり、スパイダーレッグがキツネの脇腹に爪を立てた。ベリーノウズとウィンド族の猫もキツネに向かって走ってきた。ダストペルトに鼻を思いきり噛みつかれ、キツネはようやくラビットポーの首を離した。
ラビットポーの体は落下し、成すすべなく地面に叩きつけられた。



二章

 ひんやりとした風がようやく生えそろってきたラビットポーの首の毛を撫でた。治療と療養でキャンプにこもっている間に、すっかり落ち葉の季節になってしまった。どの部族の縄張りでも獲物があふれ、みんな腹が満たされて満足そうな顔をしている。
 ウィンド族がサンダー族の縄張りで狩りをした一件は、ラビットポーを襲ったキツネをウィンド族も協力して追い払ったことで、うやむやになってしまった。

 ラビットポーはやりきれない気持ちで湖岸からウィンド族の縄張りである丘を見つめた。後ろの茂みがカサコソと音を立て、トガリネズミを咥えたスパロウポーが顔を覗かせた。
「こんなところで何やっているの?まさか、魚でも捕るつもり?」
スパロウポーは斜面を滑り降りてラビットポーの横まで来ると、前足で軽く肩を突いてきた。
「スパイダーレッグが探しているわよ。」
スパロウポーはつま先立ちして足の長いスパイダーレッグの真似をしながら言った。高い声がキンキンと耳に響く。
 ラビットポーは自分より少し後に戦士見習いになったこの雌猫が苦手だった。ラビットポーより数週間後に生まれたというのに、ラビットポーよりも頭一つ分体が大きく、茶色に黒い縞模様の入った手足はやたらと太くて逞しい。目を合わせるときにいちいち見上げないといけないのも癪に障るし、僕の方が先輩なのに子猫を見るような優し気な目で見下ろしてくるのも気に食わない。

 ラビットポーは黙ったまま湖岸を離れ、さっきスパイダーレッグと別れた場所に引き返し始めた。もうどこかに行ってくれればいいのに、スパロウポーはラビットポーの横に並んでついてきた。
「ねぇ、これ見てよ!めちゃくちゃ痛そうじゃない?なんでこうなっちゃったと思う?」
スパロウポーはそう言うと自分の前足をラビットポーの目の前に突き出した。スパロウポーのピンク色の肉球に小さな穴があき、そこから血がにじんでいる。ラビットポーが答えないでいると、スパロウポーは再び話し始めた。
「さっきあたしの前にリスが飛び出してきたの。丸々太っていてすっごく美味しそうだったのよ!で、追いかけてたら頭からイバラに突っ込んじゃって、肉球にトゲが刺さっちゃったの。サンドストームは見習いのころのスクワーレルフライトみたいだって言って笑ってたわ。」

 ラビットポーは思わずため息をつきそうになった。図体は大きいのに声だけはスズメみたいに甲高くてピーチクパーチク無駄によくしゃべる。そのうえ話しながら、リスと言いながら尻尾を膨らませ、イバラに絡まったようにもがき、爪をトゲのように出したかと思えば飛び上がって地面に転がって痛がるという、馬鹿みたいなオーバーアクションをするので、たまにこいつは頭がおかしいんじゃないかと疑いたくなってしまう。でもスパロウポーが嫌いな一番の理由はそんなことじゃない、と考えてラビットポーは暗い気持ちになった。
 何より嫌なのは、指導者のスパイダーレッグが本当は自分ではなく、スパロウポーを弟子にしたいと思っているようだからだ。ラビットポーの見習いの命名式の日、指導者として名前を呼ばれたスパイダーレッグが、一瞬何か言いたげに口を開いたことにラビットポーは気づいていた。その後ちらりとスパロウポーを見たことにも。
それにスパロウポーの指導者であるサンドストームに何やら熱心に話しかけている姿を何度も見ている。きっと弟子を交換してほしいと言っているんだ!
 ラビットポーは惨めな気持ちになりながら、スパロウポーを無視して歩き続けた。


 「日が暮れる前に戻って来いって言っただろ。」
スパイダーレッグは咥えていたウサギを地面に落として苛立った声で言い、近くを探していたらしいサンドストームを呼び戻した。
「今日も獲物はなしか。」
手ぶらのラビットポーを見てスパイダーレッグが大きなため息をついた。その途端、隣にいたスパロウポーが咥えていたトガリネズミをラビットポーの足元に落とした。
「違うんです。これは本当はラビットポーが捕ったんです。でもずっと咥えてたら口が痛くなっちゃうかもしれないから、代わりにあたしが持ってきたんです。ね、ラビットポー?」
ラビットポーは、それは嘘だ!と怒鳴った。しかし実際に口から出たのは咳のような空気の音だけだった。怒りで足が震える。こんなことはいらない世話だ。スパイダーレッグがそんな噓を信じると思っているなら、スパロウポーは本物の馬鹿だ!

 スパイダーレッグとサンドストームは顔を見合わせ、困った顔をした。
「きっとまだ本調子じゃないのよ。」
サンドストームが呟くように言った。そうじゃない!とラビットポーは怒鳴りたくなったが、口を閉じた。どんなに分かってもらおうとしても無駄だということは、この数ヶ月で嫌というほど思い知らされている。キツネに噛まれた首の傷はもうすっかり癒えたが、あの日以来ラビットポーは声を出せなくなってしまった。喉にある声を出すための部分が傷ついてしまったためだろうと看護猫のジェイフェザーが言っていた。もう二度と声を出すことはできないだろう、とも。

 スパイダーレッグはそれ以上は何も言わず、もう一度大きなため息をついてから地面に置いたウサギを咥え上げ、さっさとキャンプに向かって歩いて行ってしまった。
「私たちも行きましょう。」
サンドストームが二匹の見習いを促し、スパイダーレッグの後を追って茂みに入っていった。サンドストームがたてるシダの音が聞こえなくなると、スパロウポーがラビットポーの顔を心配そうな表情を浮かべながら覗きこんできた。
「ねぇ、どうしちゃったの、ラビットポー?訓練を再開してすぐの時は、たくさん獲物を捕っていたじゃない。」
 スパロウポーの言う通り、訓練を再開したばかりの頃のラビットポーはたくさんの獲物を捕らえていた。今だって、やろうと思えばできるのだが、本気を出す気はない。どれだけ獲物を捕って、もう体はすっかり治ったのだと証明して見せても、スパイダーレッグは狩りの訓練ばかりして戦いの訓練を全くさせてくれないからだ。そこで抗議のために獲物を一切捕らないと心に決めたのだが、どうやら指導者には通じないらしい。
「やっぱりまだ傷が痛むの?それともどこか他のところが痛いの?一度ジェイフェザーに見てもらったらどうかしら?」
スパロウポーはまだ的外れなことを言い続けている。ラビットポーは足元のトガリネズミをわざとらしく大股で跨ぐと、慌ててトガリネズミを咥え上げるスパロウポーをその場に残して歩き去った。


 キャンプに着くころには辺りはすっかり暗くなっていた。岩壁に囲まれたサンダー族のキャンプは月明かりが遮られ、より一層暗く感じられる。分かってくれない指導者に心の中で悪態をつきながらラビットポーは獲物置き場の前を通り過ぎた。獲物を捕っていないので、夜のパトロール隊が帰ってきて食事を終わらせるまでは獲物を食べる気はなかった。
 見習い部屋に向かって歩いていると、ジェイフェザーに声をかけられた。
「お前の怪我はもうすっかり治っているから、狩りの練習だけでなく、戦いの訓練をして体力をつけた方がいいとスパイダーレッグに言っておくよ。」
ジェイフェザーは内緒話でもするように、ラビットポーの耳に口を近づけると小声で言った。ラビットポーは驚いてジェイフェザーの澄んだ青い目をしげしげと見つめた。何も言っていないのに、なんで何も見えないジェイフェザーに僕の思っていることが分かったんだろう?ジェイフェザーの瞳の中に無数の星が煌めいているように見えて、ラビットポーは何度も瞬きをした。これが看護猫の力なんだろうか?



三章

 ジェイフェザーと話した翌日から、スパイダーレッグは戦いの訓練を始めた。約束通りジェイフェザーが助言してくれたのだろう。スパイダーレッグが向かってくるのをラビットポーが避ける。ラビットポーが向かってくるのをスパーダーレッグが避ける。そんな単純な訓練ばかりだったが、狩りの練習だけを繰り返していた時よりはずっとましだ。やたらと休憩が多いのも、抗議する手段が思い浮かばないので、もう諦めることにした。

 二度目の休憩に入り、退屈したラビットポーは、訓練場の反対側で訓練しているサンドストームとスパロウポーをぼんやりと眺めていた。スパロウポーは向かってきたサンドストームの腹の下に滑り込み、後ろ足に噛みつくという技を練習しているようだった。体の大きなスパロウポーはサンドストームの腹の下に潜り込むのが難しいようで、何度もサンドストームの前足に頭突きを食らわせていた。サンドストームの足がスパイダーレッグの足くらい長ければ、スパロウポーもあんなに苦労しないかも?そう考えて、ラビットポーは良いことを思いついた。

 「俺が向かっていくから、お前は避けて横から一発殴ってみろ。」
スパイダーレッグが言った。
 二匹はキツネ三匹分離れると、向き合った。スパイダーレッグが向かってくる。いつも通り、子猫をじゃらしてやっているような、そんな走り方だ。ラビットポーは素早くスパイダーレッグの腹の下に潜り込むと体を反転させて仰向けになり、スパイダーレッグの後ろ足に力いっぱい噛みついてやった。
 スパイダーレッグは思いがけない反撃に面食らったのか、後ろ足で立ち上がると、前足で思いきりラビットポーを殴った。ラビットポーは飛ばされて横に転がってしまったが、どうにか態勢を立て直してスパイダーレッグの方に顔を向けた。スパイダーレッグは困惑したような表情をしている。それを見ていたサンドストームが、おかしそうにひげを震わせた。
「やられちゃったわね、スパイダーレッグ。」

 その日の帰り道のスパロウポーは、いつもにも増してうるさかった。
「あの時のスパイダーレッグの顔を見た?初めて雪を見た子猫みたいな顔してたわよ!」
相変わらずオーバーアクションで、ピーチクパーチクうるさい。
スパロウポーはあの後も全然上手くできず、いっそのことそういう攻撃方法ということにしたらいいんじゃないかと思うくらい頭突きをし続けて、最後にはサンドストームが音を上げていたが、全く気にしている様子がなかった。それどころか、ラビットポーがスパイダーレッグの足に噛みついたことや、その後の訓練でラビットポーがスパイダーレッグの顎を蹴り上げたことばかり嬉しそうに話している。焦りとか嫉妬心というものは、こいつにはないんだろうか?ラビットポーは呆れてスパロウポーを見た。
「なあに?さっきスパイダーレッグに殴られたところが痛むの?それとも今日はたくさん体を動かしたからお腹空いちゃった?あたしはお腹ぺっこぺこよ!」
スパロウポーは明るい緑色の目をくりくりさせながら言った。こいつは本当に、いつも的外れなことしか言わない。


 訓練でいつも以上に体を動かし疲れて早く眠ってしまったラビットポーは、いつもより早く目を覚ましてしまった。見習い部屋を囲むイバラの隙間からは、夜明けの灰色がかった空が見えている。隣に寝ているスパロウポーは丸まって静かな寝息を立てている。あたしはスパロウだからと言ってたくさん拾ってきて寝床に敷きつめてあるスズメの羽毛が、スパロウポーの寝息に合わせて震える。他の見習いたちも、まだぐっすり眠っている。夜明けのパトロール隊もまだ出発していないようだ。まだ眠っているのか、鳥の声も聞こえない。
 もう一眠りしようかとラビットポーが体を丸めなおした時、どこからボソボソと話し声が聞こえてきた。ぼんやりとした頭で、パトロール隊を起こしに来たブランブルクローの声か何かだろうと思い気にとめていなかったが、「ラビットポー」という自分の名前が出た途端、はっとして一気に頭がはっきりした。

 声の主はサンドストームと、ラビットポーの指導者、スパイダーレッグだった。二人は戦士部屋の前で何やらひそひそと話しているらしかった。遠くてほとんど聞き取れないが、断片的に「無理」「向いてない」「できない」といった否定的な言葉が指導者の口から発せられている。
 ラビットポーはがっかりした。昨日しっかりと自分も戦えるんだと証明したつもりでいたのに、スパイダーレッグはあの訓練でラビットポーは戦士に向いていない、戦いは無理だと判断していたなんて!ラビットポーはこれ以上二人の話し声が耳に入らないように、ぎゅっと丸まって自分の耳に尻尾を突っ込んだ。


 翌日はまた狩りの訓練だった。一緒に戦いの訓練ができないと聞いてスパロウポーは残念そうにしていたが、サンドストームになだめられて森の奥の訓練場に向かっていった。スパイダーレッグはラビットポーを連れて、古いサンダー道のある落葉樹の林へ向かった。黄や赤に色付いた葉はほとんどが落ちて地面に厚く積もり、枯葉の季節が近いことを知らせている。乾燥した葉を踏むと、パリパリと音を立てて砕けた。細かくなった葉の破片が肉球の隙間に入り込むのが気持ち悪くて、ラビットポーは何度も足を舐めた。

 スパイダーレッグは目的の場所に着くと、ネズミに忍び寄るときと鳥に忍び寄るときの注意点は何かなど、今まで散々繰り返してきたつまらない質問をいくつかし、実践させた。ラビットポーはうんざりしながらも、戦士に向いていないと思った今でも指導してくれようとしているスパイダーレッグに感謝するべきなのだろうかと複雑な気持ちで従った。
「次はリスを捕まえる訓練をする。」
スパイダーレッグが宣言するようにそう言うのを聞いて、そういえばリスを捕まえる訓練はまだ一度もしたことがなかったなとラビットポーは思った。
 スパイダーレッグはこの林の中で一番大きな樫の木にラビットポーを連れて行った。二匹は樫の木には近づかず、近くのエニシダの茂みに身を隠した。樫の木の下には落ち葉に混じってたくさんのどんぐりが落ちている。
 どんぐりの間を一匹のネズミが品定めするようにチョロチョロと動き回るのが見えた。ラビットポーは飛び掛かりたくてうずうずしたが、スパイダーレッグは完全にネズミを無視していた。リスのことしか頭にないようだ。何匹かのネズミと鳥を見逃し、ラビットポーの我慢が限界に達したころ、ようやく一匹のリスが現れた。

 リスは用心深そうに尻尾を動かしながら樫の木に近づいてくる。リスはどんぐりを見つけると口に入れ、次のどんぐりを探すために落ち葉を引っ掻き回している。スパイダーレッグが音もなく茂みから出て、一歩、また一歩と滑るように落ち葉の上を進んでいった。あと一歩で飛び掛かれるというところまで来た時、リスが猫の気配に気がつき、一目散に樫の木に駆け寄ると素早く登り始めた。スパイダーレッグは高くジャンプして、リスから尻尾一本分も離れていない場所にしがみついた。そして幹に爪を立てて、リスを追って木を登り始めた。が、すぐに止まった。スパイダーレッグは樫の木の一番低い枝の少し下に張り付いたまま、動かなくなってしまった。その間にリスはどんどん上へ登っていき、木のてっぺんに近い葉の陰に消えていった。
 長い手足を広げて木に張り付いているスパイダーレッグは、まるで本物のクモのように見えた。しかしクモのように長時間木に張り付いていることは、スパイダーレッグにはできなかった。

 スパイダーレッグは尻の方から無様に地面に落ちてきた。落ちた瞬間、熟れた木の実が潰れるような嫌な音と、微かなうめき声が辺りに響いた。宙で体を捻って態勢を立て直そうとしたが間に合わなかったため、片方の腰を強く打ち、樫の木の根元にぐったりと倒れた。ラビットポーは指導者に駆け寄った。スパイダーレッグは固く目を閉じ、動かない。ラビットポーは慌ててスパイダーレッグの肩を何度も突いた。
「生きてるから。突くな。」
スパイダーレッグは浅く息をしながら絞り出すように言った。口調にはいつもの嫌味な感じが含まれているものの、弱々しくて今にも消えてしまいそうだ。ラビットポーはどうしていいか分からず途方に暮れて、宙に浮かせた手を何度も曲げたり伸ばしたりした。尖った木の根か石で傷ついたのか、スパイダーレッグの腰の辺りから血が滲みだし、土を黒く濡らしていく。
「誰でもいいから呼んで来い。」
でも、僕が行っている間にキツネが来たら、スパイダーレッグはどうするの?ラビットポーは子猫のように大声で鳴きたくなった。
「お前は足が速いんだから、もうキツネに捕まりっこない…。」
こんな時に僕が自分の心配をしていると思っているのか?ラビットポーは一瞬かっとしてスパイダーレッグの顔を見た。スパイダーレッグは薄く目を開けてラビットポーを見ている。ラビットポーは、はっとした。スパイダーレッグの瞳に浮かんでいるのは、不安じゃない。信頼だ。


 ラビットポーは勢いよく立ち上がると、サンダー族のキャンプに向かって走り出した。地を蹴り、尻尾を後ろになびかせて、下生えの上を飛ぶように走る。迂回する時間が惜しいので、やぶや倒木はジャンプして飛び越した。坂を転がるようにして下ると、ハリエニシダのトンネルを勢いよく駆け抜けた。ジェイフェザーなら分かってくれる。絶対になんとかしてくれる!ラビットポーは看護部屋の前にかかるイバラを肩で押し開け、中に飛び込んだ。

 看護部屋にジェイフェザーの姿はなかった。薬草が蓄えてある岩の裂け目を覗いてみたが、ジェイフェザーはいなかった。もしかして、マウスファーの様子を見に長老部屋に行っているのかも?そう思って行ってみたが、ここにもジェイフェザーはいなかった。ラビットポーは途方に暮れてしまった。ジェイフェザー以外に、一体誰が僕の言いたいことを分かってくれるというんだ?
 保育部屋にも戦士部屋にもジェイフェザーはいなかった。ラビットポーは焦って地面に爪を立てた。こうなったら、もう誰でもいい!ラビットポーは戦士部屋でいびきをかきながら寝ているライオンブレイズの脇腹を前足で強く突いた。ライオンブレイズは寝ぼけた顔で片目を開けた。
「ラビットポー?今日は朝のパトロールの後に狩りにも行って、さっき寝床に入ったばかりなんだ。寝かせてくれよ。」
ライオンブレイズはそれだけ言うと、あとはもう何も聞かないというように、前足で耳を覆ってしまった。ジェイフェザーの兄弟なのに、なんでこんなにも違うんだよ?ラビットポーは声にならない叫びを上げながら、戦士部屋を後にした。

 獲物置き場ではクラウドテイルがつれあいのブライトハートと一緒にウサギを分け合って食べようとしているところだった。ラビットポーは二匹に駆け寄ると、クラウドテイルを前足で突いた。クラウドテイルはウサギを食べようと開きかけていた口を閉じ、座りなおしてラビットポーを見た。
「何か言いたいことがあるみたいね。」
ブライトハートが言った。クラウドテイルは首をかしげながらしばらくラビットポーを見た後、はっとした表情になった。そしてちょっと名残惜しそうな顔をしながら、足元にあるウサギをラビットポーの方へ押しやった。
「このウサギ、美味しそうだもんな。そんなに欲しいならゆずるよ。」
隣に座っているブライトハートが、そういうことなのかしら?と疑わしそうな目でクラウドテイルを見た。
 やっぱり僕が言いたいことを分かってくれるのは、ジェイフェザーだけだ。縄張りのどこにいるか分からないけれど、僕がジェイフェザーを探して出してスパイダーレッグのところに連れていくしかない。ラビットポーはキャンプの出口に向かって走り出した。



四章

 ハリエニシダのトンネルを抜けると、ちょうど訓練を終えて戻ってきたサンドストームとスパロウポーにぶつかりそうになった。
「ラビットポーったら、そんなに慌ててどうしたの?マウスファーに寝床のコケが汚いって怒られでもした?」
スパロウポーは目をぐっと細めてマウスファーの顔真似をした。今はスパロウポーの物真似に付き合っている暇はない。ラビットポーはジェイポーがよく薬草を採りに行く、誰も住んでいない二本足の家に向かって走り出そうとした。
「待って、ラビットポー!何かあったんでしょ?言ってよ!」
言えるわけがないだろ、口がきけないんだから!ラビットポーは振り返ってスパロウポーを睨みつけた。スパロウポーは、いつものようなへらへらした顔はしていなかった。それどころか、ラビットポーと同じくらい鬼気迫る顔をして食い下がってくる。
「何があったの?」
スパロウポーはラビットポーをじっと見つめている。ラビットポーは、つま先立ちをした。
「スパイダーレッグ?」スパロウポーが言う。
近くの木に飛びつき、手を放して尻から落ちてみせた。そしてそのまま立たずに、スパロウポーを見上げた。
「スパイダーレッグが…木から落ちて…動けなくなっちゃった?」
ラビットポーは跳ね起きて、大きく何度も頷いた。スパロウポーはトンネルを駆け抜けキャンプに飛び込むと、叫んだ。
「スパイダーレッグが木から落っこちて怪我しちゃった!誰か早く来て!」
僕が言いたかったことが、やっと、言葉になった。


 「ジェイフェザーは薬草を採りに出かけて、まだ戻っていないわ。」
ブライトハートが震える声で言った。リーフプールが看護部屋に駆けこむと、何種類かの薬草を咥えて走り出てきた。
「代わりにわたしが行くわ。手が空いている猫はついてきて。途中でクモの巣を見つけたら集めてちょうだい。必要になるかもしれない。ブライトハート、ジェイフェザーを探してこのことを伝えて。ラビットポー、スパイダーレッグのところまで案内して。」
リーフプールはてきぱきと指示を出した。以前リーフプールがサンダー族の看護猫をしていたというのは、本当らしい。グレーストライプとクラウドテイル、ブラクンファーがついてきてくれることになった。

 一行は風のように森の中を走り抜け、スパイダーレッグの元に駆けつけた。サンドストームとスパロウポーも手にたくさんクモの巣を巻き付けて少し遅れてやってきた。
 スパイダーレッグはラビットポーが最後に見た時と同じ格好で木の根元に横たわっていた。安否を確認するのが怖くて、ラビットポーは足を止めた。その横をリーフプールがすり抜けてスパイダーレッグに走り寄ると、体を確認した。持ってきた薬草の中からいくつか選び出すと口に入れて噛み、吐き出して腰の傷口に押し当てた。その上をクモの巣で覆う。
「ここでできる処置はこれくらいね。キャンプに帰ったら、ジェイフェザーがしっかり治療してくれるわ。」
 治療が終わると、リーフプールはスパイダーレッグのそばを離れた。ブラクンファーがスパイダーレッグの脇腹に鼻面を入れて押し上げ、スパイダーレッグが立つ手助けをした。スパイダーレッグは両前足に力を込めてどうにか立ち上がると、グレーストライプとクラウドテイルに両側から支えられ、なんとか歩き出した。頭を低く垂れ、痛めた腰をかばって三本足で歩く姿は痛々しいが、クラウドテイルに傷に触るなと食ってかかっているところを見ると、怪我の状態は深刻ではなさそうだ。


 キャンプに戻ると、ブライトハートから知らせを受けたジェイフェザーが看護部屋の前で待ち構えていた。大騒ぎしながらつれあいにまとわりつくデイジーを一喝し、さっさと看護部屋にスパイダーレッグを押し込んだ。
 看護部屋に消えていくスパイダーレッグを心配そうに見ながら、サンドストームが呟いた。
「わたしのせいだわ。」
その声には後悔の色が滲んでいる。ラビットポーは首をかしげた。
「どういうことですか?」スパロウポーが訊ねた。
「スパイダーレッグは大柄な自分はラビットポーの指導者に向かないんじゃないかって言っていたのよ。ラビットポーは小柄ですばしっこいから、わたしが指導したら優秀な狩猟猫になれるんじゃないかって。昨日もリスの捕り方を教えてやってくれって言われたけど、スパイダーレッグのやり方を教えてあげればいいじゃないって断ってしまったの。あの時わたしが引き受けていれば、スパイダーレッグはあんな怪我をせずにすんだかもしれない…。」

 ラビットポーの目は驚きのあまり真ん丸になった。あの自信家のスパイダーレッグがそんなことを言うなんて!
「でも、わたしはラビットポーの指導者はスパイダーレッグの方が向いていると思っているの。ファイヤスターの判断を信じているというのもあるけど、ラビットポーの体格はわたしよりもスパイダーレッグに似ているもの。」
それはない、とラビットポーは思った。スパイダーレッグが僕の何倍大きいと思っているんだ?
しかしスパロウポーが大きくうなずきながらサンドストームの言葉に同意した。
「体に対して足がすっごく長いところとか、そっくりですよね。」
「スパイダーレッグは自分にも小さい頃があったことを、忘れちゃっているのね。あなたたち今日は疲れたでしょう、少し早いけど食事をして休みなさい。わたしはジェイフェザーにスパイダーレッグの様子を聞いてくるわ。」
サンドストームは労うようにスパロウポーの耳をさっと舐めると、看護部屋へと歩いていった。ラビットポーは信じられない気持ちで自分の細い足をしげしげと見つめた。今まで考えたこともなかった話をたくさん頭に詰め込まれて、頭が混乱しすぎてくらくらする。


五章

 枯葉の季節が近づき、木々に残る葉も大分少なくなってきた。厚く積もった落ち葉を蹴散らしながら、スパロウポーがオークの老木のある森に向かってばたばたと駆けていく。
「あんなに大きな音を立てて走り回ったら、サンダー族の縄張りにいる獲物は全部逃げてしまうんじゃないかしら?」
サンドストームはそう言いながらため息をついたが、その目は愛おし気に輝いていて、懐かしい昔を思い出しているような顔をしている。ラビットポーは獲物の気配を探るのを諦めて、二匹の後を追った。

 スパイダーレッグの怪我は、腰に深い裂傷ができていたものの骨に異常はなく、枯葉の季節が来る頃にはすっかり良くなるだろうということだった。療養中のラビットポーの指導は、スパイダーレッグの怪我に責任を感じていたサンドストームが引き受けてくれることになった。サンドストームの弟子であるスパロウポーと訓練をすることになり、一緒に過ごす時間が増えて分かったことがある。スパロウポーは、ラビットポーと話すとき以外はあの馬鹿みたいなオーバーアクションを一切しない。ラビットポーより仲の良い猫と話すときもしていない。僕のことをばかにしているのか?とも考えたが、どうやらそうではないらしい。スパイダーレッグが怪我をしたあの日、ラビットポーの言いたいことがスパロウポーに伝わったのは、スパロウポーが話すたびにしていたオーバーアクションの真似をしたからだった。もしかしたらスパロウポーは、僕との共通言語を作ろうとしているのかもしれない。


 オークの老木の下にはまだたくさんのどんぐりが落ちていた。枯葉の季節に備えるため、リスが頻繁に姿を現す。
「リスは木の実を集めているところを狙うのもいいけど、木の実を土に埋めているときも油断していて捕まえやすいわ。頬袋を膨らませているリスを見つけたらしばらく後をつけて、狙ってみて。木に逃げられたときは追ってもいいけど、くれぐれも無理はしないでね。」
サンドストームは真剣な顔で言った。きっとスパイダーレッグのことを思い出しているのだろう。

 ラビットポーとスパロウポーはオークの近くにある枯れて黄色くなった下生えに身を隠した。
「リスを見つけても焦ってすぐに飛び掛からないで。頬袋にたくさん詰めるのを待つのよ。」
サンドストームは二匹の姿が上手く下生えに隠れているのを見て満足そうに頷いてから、そう言い残して少し離れた茂みの中に潜り込んだ。そこから二匹の狩りの腕前を観察するらしい。
 さっきまであんなにちょこまかと走り回るリスの姿を見かけたのに、いざ待ってみるとリスはなかなか姿を現さない。獲物の匂いはするし、落ち葉の上を動き回る僅かな音はあちらこちらから聞こえるものの、多すぎてかえってどこにいるのか感知しづらい。
 落ち葉の季節のやわらかな日差しに背中を暖められたせいか、スパロウポーがあくびを押し殺した。震えるヒゲがラビットポーの頬にあたり、くすぐったい。文句を言おうとスパロウポーの方に顔を向けると、すぐ横にスパロウポーの顔があった。眠そうに瞬きを繰り返す黄色がかった緑色の目には薄っすらと涙がにじんでいる。サンドストームがいるのが後ろでよかったなラビットポーは思った。狩りの訓練の最中にこんな間の抜けた顔をしているのを見られたら、いくらサンドストームでも激怒するに違いない。

 スパロウポーの足がピクリと動き、全身に力がこもった。慌てて視線を前に戻すと、オークの木の根元にリスが一匹うずくまり、頬袋にどんぐりを詰めているのが見えた。今すぐ飛び掛かりたいのを我慢して見ていると、リスは少し移動しては詰め込み、少し移動しては詰め込みを繰り返していく。スパロウポーが音もなく一歩踏み出した。まだ早いんじゃないかと止める間もなく、二歩三歩とリスに近づいていていく。リスが異変に気付き、動きを止めて辺りを警戒した。スパロウポーはリスに向かってパッと飛んだが、届かなかった。
リスは慌ててオークの木に飛びつき、登り始めた。スパロウポーも間髪入れず木に飛びつき、後を追って登り始めた。ラビットポーはスパイダーレッグが木から落ちた瞬間を思い出してぞっとしたが、スパロウポーは太くて短い脚でしっかりと木にしがみつき、ムササビのようにするすると登っていくと、細い枝に逃げようとしたリスを思いきり叩き落とした。そしてその側にひらりと着地すると、リスの首に噛みついてしとめた。

 ラビットポーはあんぐりと口を開けたまま、得意そうな顔で戻ってくるスパロウポーを見つめた。茂みから出てきたサンドストームが、飛び出すのが早すぎると注意した。スパロウポーはリスを咥えたまま、しょんぼりと尻尾をたれた。ラビットポーはそれでも捕まえられてすごいじゃないかと慰めてやりたかったが、言葉で伝えることができず、もどかしくて足をもぞもぞと動かした。

 スパロウポーはそばまでやってくるとリスを足元に落として、ため息をついた。
「もっと慎重にやれって叱られちゃった。」
しかしその後すぐに顔を上げると、明るい声で言った。
「ま、落ち込んでいてもしょうがないわよね。次はもっと慎重にやればいいだけの話だわ。また木に逃げられたって捕まえられるしね!」
茶目っ気たっぷりな目をして、ラビットポーの肩を尻尾でぽんと叩いた。その通りだというように、ラビットポーは同じようにスパロウポーを尻尾で叩き返した。スパロウポーは、目をぱちくりとさせて自分の肩を見た後、嬉しそうに目を輝かせてラビットポーを見上げた。僕はいつの間にスパロウポーよりも大きくなっていたんだろう。スパロウポーを見つめ返しながら、ぼんやりと思った。スパロウポーの目はあくびをした後でもないのに、うるんでいる。
「やっと返事をしてくれたわね、ラビットポー!いっつもあたしばっか馬鹿みたいだったけど、もっとラビットポーも話してよね。あたしはラビットポーのこと、たくさん知りたいって思ってるんだから。それに、あたしのことも、知ってほしいし…」
スパロウポーは恥ずかしそうにそう言うと、さっとリスを咥えて行ってしまった。
自分でも馬鹿みたいだと思いながらも僕と話すためにやってくれていたのかと思うと、ラビットポーは胸がいっぱいになった。考えてみれば、僕の気持ちを一番分かってくれるのはジェイフェザーだったけど、一番分かろうとしてくれていたのは、いつでもスパロウポーだった!ラビットポーは自分の耳が何故だか青葉の季節の陽に当たったように熱くほてっていくのを感じながら、いつまでもその場に立ちつくしていた。


おわり


最終編集者 ドーンミスティ [ Sat Jan 30, 2021 12:04 am ], 編集回数 6 回
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投稿 by クロウトゥナイト Fri Jan 29, 2021 6:51 pm

はじめまして。
あの・・・言いにくいんですが・・・
もう少し幅をあけると言うか・・・
簡単に言えば文字が多すぎて、ちょっと読むのが大変で、あまり読む気にはなれないかと・・・
失礼なこと言ってすみません。

クロウトゥナイト
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投稿 by ドーンミスティ Fri Jan 29, 2021 6:58 pm

初めまして。
できるだけ読みやすいように修正していきたいと思います。
ご意見ありがとうございました。
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投稿 by スノーナイト Fri Jan 29, 2021 7:21 pm

はじめて。スノーナイトです。(始めたばかりでへたなスノーナイトです)
すごいですね!こんなにたくさん一気に書けるとは、、、感動です。
私なら10日はかかります。o(*゚∀゚*)o
私は長い小説などを読むのは苦手ですが読んでみたいです。よみおわったら感想書きます!

スノーナイト
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投稿 by ドーンミスティ Fri Jan 29, 2021 7:35 pm

初めまして。
数日かけてメモ帳に書きました。小分けにして投稿する根気がなかったので、一気に投稿してしまいました。
読んでいただけたら嬉しいです(n*´ω`*n)
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投稿 by シャイニングナイト Fri Jan 29, 2021 7:50 pm

こんにちは、ドーンミスティさん!
Twitterの方で見ようと思っていたのですが時間が無くて見れていなかったのですが、BBSにあるのを見つけた時は時間があったので読ませていただきました!
本物のウォーリアーズの様な表現や書き方など素晴らしかったです!本当に本当に面白かったです!
とても尊敬します!いつか私もこんな風に書けるようになりたいです!素晴らしい作品をありがとうございました!
シャイニングナイト
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投稿 by ドーンミスティ Fri Jan 29, 2021 10:41 pm

シャイニングナイトさん、こんばんは。
読んでくださって、ありがとうございます。
こういうところに投稿するのは初めてで誰かに読んでもらえるか不安だったので、一人でも最後まで読んでいただけて良かったです!
読んでもらえただけでも嬉しいのに、面白いと言っていただけて、とっても嬉しいです。
こちらこそ、本当に本当にありがとうございました!

Twitter、交流下手で無口ですが、これからもよろしくお願いします。
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投稿 by スノーナイト Mon Feb 01, 2021 10:26 pm

ドーンミスティさん!読み終わりました!!
とても素敵な作品でした。時間があまり取れず読むのに時間がかかってしまいました💦
これからも頑張ってください!!応援してます。

スノーナイト
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投稿 by ドーンミスティ Tue Feb 02, 2021 12:50 am

スノーナイトさん、読んでくださってありがとうございました。
貴重なお時間を使って読んでくださり、感謝です!
応援の言葉、とても嬉しいです。また何か書いて投稿出来たらいいなと思っています。
本当にどうもありがとうございました!
ドーンミスティ
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