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投稿 by Murre Sun Oct 30, 2022 2:59 pm

ハニードロップさんのお題、湖で溺れた主人公のハッピーエンドの話用トピックです

遅め更新ですが、よろしくお願いしますー
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投稿 by Murre Sun Oct 30, 2022 3:13 pm

CHARACTER

レイク族

族長
キングフィッシャースター【翡翠星】
翡翠の羽色をした目を持つ灰色の雄猫

副長
クリアリーフ【透明な葉】
透明に近い緑色の美しい目をした雌猫。錆猫

看護猫
ラベンダースカイ【ラベンダー空】
碧とラベンダー色の間の色をした目を持つ白猫。ブルークレインとクラウドストリームの双子の妹

戦士
ブルークレイン【碧い鶴】
薄い紺碧の目をした白猫。生まれつき耳が聞こえない雌猫

クラウドストリーム【雲の小川】
ブルークレインの双子の妹。淡い碧色の目を持つ白猫

ミルキーウェイ【天の川】
碧みがかかった濃い灰色の雄猫。水色と蒼のオッドアイ

ギャラクシーテイル【銀河尻尾】
艷やかな銀色の毛皮をした雄猫。目は紫に近い濃い紺色

グレータイガー【灰色虎】
灰色に黒い虎模様の入る雄猫。目は灰色に近い琥珀色

アーモンドリーフ【アーモンドの葉】
アーモンド色をした錆猫。クリアリーフの双子の妹。弟子はストロベリーポー【苺足】

フローズンハニー【凍った蜂蜜】
水色の目をした黄色の毛皮の雌猫


最終編集者 マァーラーフェザー [ Sun Oct 30, 2022 3:43 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by Murre Sun Oct 30, 2022 3:20 pm

PROLOGUE
私の生活に、音はない。全て、視覚、嗅覚、触覚が頼りだ。食事の時は骨を砕く音が聞こえないくらいの支障しかない。そうそう、味覚も頼りだ。
けれど、部族、仲間がいれば、無音の世界でも生きることができる。
ただ、仲間の忠告が聞こえないだけでー

うっかりしていた。
ちゃんと足元を見て歩けば良かったのに。

水が、しっかり機能したことのない耳にまで侵入してくる。肉球には、掴もうとしても形を変える水以外触れるものはない。

さっきまで見ていた空は、淡い桃色が掛かった、綺麗なラベンダー色をしていた。
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投稿 by Murre Sun Oct 30, 2022 3:42 pm

✴✴
溺れるっ
足元から地面がふっと消えた。足を藻掻くように動かし、前脚の爪を出して摑むものを探す。水を蹴ったはずの脚はすかっと勢いが抜け、前脚の爪で、何か血の巡る物体を捉えた感触になった。
悲鳴などはない。
おかしさに目を開ける。
眼の前のラベンダースカイが口を動かすが、何も聞き取れない。
「ア、タ、シ、イ、キ、テ……ル?」
ゆっくりと口を大きく動かし、音を出す。ラベンダースカイは、私の“声”に目を少し潤ませると、大きく頷いた。何度も、何度も。
看護猫は極めの細かい砂の地面に爪で地図を描き始めた。私達のレイク族の縄張りと、湖を挟んで向こう側のロック族のシンボルマークを描く。境界線を二本、湖の地軸のように引くと、湖の周りに物を描き足し始める。
アンダーレイク、インレイク、礫場、<二本足>の家と道、木の橋、そして、森
ラベンダースカイは、波が数本立った湖の表面を何度も指す。口を苦しそうにぱくぱくさせると、ぐだっと項垂れる。
「ダ、レ、カ、タ、ス、ケ、テ、ク、レ、タ…?」
看護猫はそうそう、と頷く。そして、礫場を指し、床に寝そべる。胸が上下してなかった私を表してるらしい。
「ダ、レ、ダ、ロ、ウ?」
ラベンダースカイも首を傾げる。
『ア、ア、ア、ア、イ』
ラベンダースカイの返事は、口の形が4音同じで読み取れなかった。
『ア、ウ、ン、エ』
ラベンダースカイは最後の口で微笑んだ。私に何かを促したようだ。
私の口元に黒い粒が運ばれる。
これは、確か、植物の実
作用はー
目がとろんとするのが薄れる意識の中で分かった。


最終編集者 マァーラーフェザー [ Sun Oct 30, 2022 5:10 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by Murre Sun Oct 30, 2022 5:09 pm

✴✴
溺れた時の情景が瞼の裏に、それと同時に脳裏に移される。
視覚がいつもより敏感になっていたのか、それとも私の幻想なのか、あの時、私が息出来なかった時、確かに湖の奥底から、私を助けてくれた猫が居た。
嗅いだことのないはずの柔らかな水の匂いと、濡れることのないふわふわの毛皮の感触。目は美しい紺碧で、真っ白な毛皮をしていた。これらが私の感覚器官で捉えられた情報だ。
そして、身体が軽かった。月のように輝くヴェールを身体中に身に着けていたようだった。
彼は微笑んでいた。
『待ってるよ』
“声”が聴こえた。
そう、音が彼にはあった。私の家族、仲間が私に伝えたことのない“音”を、彼は私に送った。
心地良かった。耳が溶けていくようだった。
美しかった。

不意に鼻面に温かい血液の巡るリズム

夢がぼやけ、彼は遠くへと、足の届かない湖底へと戻ってしまう。

『行かないでっ』

言葉にならない。


私の“声”は不気味だ。


『オ、ア、オ、ウ』
にこりと微笑んだ妹のクラウドストリーム。
毎朝見ている“おはよう”の口の形。

そこに彼は居ない。耳の聞こえないこちらの世界の現実が、肩にのしかかってくる。
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投稿 by Murre Sun Oct 30, 2022 5:16 pm

ちなみに✴✴で、『ア、タ、シ』となってるのは、わを上手発音出来なくて、わの母音のアを出してるからです。
現実での会話を片仮名にしてるのは、“声”じゃなくて、“音”を出してる感じにしたかったからです
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投稿 by Murre Sun Oct 30, 2022 5:34 pm

✴✴
私、彼にまた会いたい。彼は、こんな私を解ってくれた。
生まれつき耳の聞こえない、先天性の病気の私を。

湖で痛い目に遭ってから、2日経った。もう元通りに動けている。
今日も独りで狩りをして、獲物を山に積む。
言われても何も分からないから、族長も副長も命令しないでくれている。その代わり、私は他の戦士より沢山働いて、部族を報おうと思ってる。
……耳の聞こえない私は、敵に襲われても仲間の掛け声に合わせられないから……

コンプレックスが頭を痛くさせる。
もう嫌だ。
私は妹達と普通に会話してみたいし、ちゃんとパトロールに出て、皆で狩りをして、いつか弟子を戦士にさせてあげたい。
元指導者の顔が頭に浮かぶ。所々記憶が脆くなっていて、あの綺麗な瞳の色をはっきり重ねることが出来ないのが、凄く悲しい。
元指導者のファーンスター【羊歯の星】は、ある日突然行方不明になり、そのまま見つかっていない。
戦士の掟に則り、レイク族とロック族一同はファーンスターを“死亡”と見なし、副長だったナイトキングフィッシャー【夜の翡翠】を族長に立てたのだ。
そして、前族長は、私に仮の言葉を与えてくれた。だから私は“音”一音一音なら不正確だが発音出来、頭の中では喋ることが出来る。

あぁ、族長にも会いたい。
スター族が、湖で暮らしてるスター族が、こんな自分でも救ってくださったんだよ、って話したい。
その時には、耳が聞こえてて、ちゃんと声帯から声を出せる猫になりたい。
族長が言葉を教えてくれた記憶がぶわっと蘇る。
悲しくて涙が止まらない。大粒の涙が足元の礫に大きな染みを幾つも作る。

彼に会いたい。
彼には、どこかファーンスターを思わせた。
そして、またあの瞳を見つめたかった。
ファーンスターの美しい夜の木陰色に似た、暗い紺碧の瞳を。

波がそんな私を攫う



勉強する気なくなったんで、沢山更新した
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投稿 by Murre Sun Oct 30, 2022 6:12 pm

✴✴
どうしたら彼に会えるんだろう?夢に会いに来てくれないかな?それとも、現実で霧のようにあの光を纏って現れてくれないかな?それともー
はっと気づいた。
受け身だけじゃ駄目だ。スター族は到底願っても顔を見せないだろう。
青葉の季節の月が、天の川のような星の集いの近くに孤独に浮かぶ。
まるで、天の川で狩りをしているスター族が、月のように孤独な私を遊びにおいでと言っているようで……

湖がきらきらと輝く。夜の水は美しい。
彼の瞳のように……

気配がした。いや、ただの思い込みだ。
波が私を誘う。
いや、もう波の中に居た。無意識に首まで水に浸かるくらいの深さまで歩みを進めていた。
夜は長い。まだ月は沈まない。太陽も面倒くさがり屋だから、まだまだ顔を見せることは無い。
湖の中の彼へ、会いに行く。
出来る限り息を吐き出し、吸いたいのを堪えて潜る。顔を水面につけ、手足を水に任せる。ぷかぷと浮かぶが、肺の中に空気は少ないからか、不思議と沈んでゆく。

『こんばんは』
彼の声が優しく私の耳を包む。
「こんばんは」
私の目は彼の美しい瞳に吸い込まれる。もう、目線を反らしたくない。放したくない。このまま、言葉を話せる自分で居たい。不自由な体を捨てたい。
「私、ずっと貴方と一緒に居たい」
『俺もだよ』
彼は朧気に微笑んだ。顔はよく見えないけれど、口端が上がってるのが分かるし、目ははっきりと見える。ただ顔全体が霧に巻かれているように感じるだけで、見えているのに見えていない。
『1つだけ、方法はあるんだ』
彼が耳元で囁く。
その方法を聞こうと口を開いたら、私と彼の間に水飛沫が沈んできた。
ごぼごぼと音を立てて物体が飛び込んできた。彼の美しい毛皮が薄れていく。

『行かないでっ!!』
声にならない。格好悪い音が喉から漏れただけだった。
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投稿 by Murre Sun Oct 30, 2022 7:08 pm

✴✴
水を吐き出す。背中を擦られ、もっと水を吐き出す。
キャンプの端に立つ松の木陰がより色濃くなった。
見上げた影の持ち主は、キングフィッシャースター。翡翠色の瞳が夜の影を奪い、昼間より怪しげに光る。
族長は口を動かすが、それは私の鼓膜を震わせても、私の頭に文字として浮かびはしない。静音。
ありがとうございますの気持ちを込め、深く会釈した。族長は分かってくれたようで、毛の水分を払うように一度身震いした。
族長は部屋に戻り、夜中に再び、私独り。
毛を舐めて水分を払おうと試みていたら、松の木陰と、私の影に、新たな影が重なった。
ゆっくり首を動かし、やって来た猫を確認する。
『大丈夫……?』
その声は天から聴こえたのか、地から聴こえたのか、それとも彼が湖から送ってきたのか、不思議と私に届いた。目を閉じ、貴重な“声”、“言葉”を抱き締めるように大切に味わい、そっと目を開く。
「ウ、ア、ウ、オ、ウ、オゥイー、ン」
呼ばれたと分かった妹は、優しく頷いて反応する。
『大丈夫?』
白い妹の口の動きが、頭に流れて来た“音声”一致する。もしかして……
私、耳聞こえるようになった??

夢のように滑らかに言葉は出てこなかった。いつものように、つっかえたような不格好な変な音しか出てこない。そして、その音も認識出来ない。ただ、周りが、この場合はクラウドストリームが、少し怪訝そうな、そして、憐れみのたっぷり込められた表情をするから、私が“普通”でないことを、私が上手く“声”を発せられないことを、認識させられる。

あぁ、もうこの世を捨てたい。
こんな自分を消したい。
彼と会いたい。一緒に過ごしたい。
……健全な体で。

死ぬことを心から願う。
そして、湖の中に再び体を沈めることよりも確実な、死に方を思い付いた。
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投稿 by Murre Mon Oct 31, 2022 9:15 pm

AIに描かせた
ブルークレイン、ラベンダースカイ、クラウドストリーム
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ブルークレインが、連れ去られたスノウキット感あって、この中では一番良いと思う……
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投稿 by Murre Tue Nov 01, 2022 4:59 pm

✴✴
あの場所へ向かうため、森の中を走る。
湖は、泳ぎの得意なこの部族の誰かに助けられる可能性が高いから、中止だ。
途中、朝日がようやく昇り始めた。長い夜だった。
朝日を前にして、少し立ち止まり、口を僅かに開ける。目を閉じ、捉えたリスのにおいを追う。
リスはすぐに見つかった。松の木の根っこでまだ青い木の実をちびちびと噛じっていた。
弾力のある草を用いて、そこまで一回で跳んだ。狙ったリスは、私に気付くことなくあっさり死んだ。青葉の季節の太ったリスは脂肪が多く、エネルギーになった。
太い骨を近くの柔らかな土の中に埋め、再び走り出す。この森を抜けたら、目的地はすぐそこだ。

レイク族の猫は全員知っている。青葉の季節のこの時期に、<二本足>がそこのキャンプで数日過ごすことを。そして、この別荘地へは、彼らと荷物たちを運ぶ怪物を運転してやってくるということを。
                キャンプ
<二本足>は活動開始が遅いから、私は家が見えてきたら、近くの背丈が高めの草陰に隠れる。彼らは目も、そしてせっかく聞こえる耳も悪く、私がここにいることは絶対に気付かない。一週間分の獲物を賭けてもいい。

背中がぽかぽかと温まりだす。太陽はいつの間にか頂点へ届こうとしていた。
地面の震えが次第に強くなる。肉球がその振動を敏感に捉え、歯がかちかちと動く。
不意に明るい光が木陰の上に敷かれている道の奥から現れた。私がスター族へ召される時間はすぐそこまで来ている。
怪物の存在がもう目の前まで来たことにより、私の未来もはっきりとした。思い描く未来へ無事辿り着けることに胸が踊る。
草むらから突然飛び出す。
<二本足>が驚いた表情を見せる。
怪物は止まろうとする。
けれどそれはすぐには止まれない。
腹に強い衝撃が加わったー
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投稿 by Murre Tue Nov 01, 2022 9:20 pm

✴✴
彼が目の前にいる。あぁ、なんて幸せなんだろう。
「また来たのかい」
柔らかな声が耳を心地よく震わす。
「えぇ。来たわー」
彼の名前を呼ぼうとして言葉に詰まる。私はまだ、彼の名前を知らない。
「貴方、名前は…?」
彼の目が少し細くなり、笑ったのが分かった。目の端に皺が寄り、白い毛皮に影ができる。
「何だと思う?」
私は目線を反らし、ただ碧い水を見つめる。真っ白く、紺碧の目をした、元指導者に面影が似ている。紺碧の瞳に羊歯の影の深緑色が重なり、美しく調和する。
「ファーンスカイ【羊歯空】」
彼は、ふっと笑った。嬉しそうな、大人な笑み。
「ファーンスカイ。良いね」
彼は自分の名を確かめるようにゆっくりと繰り返した。
             、、、、、、
「俺も、君を名前で呼ぶよ、スカイスノウ」

スカイスノウ

はっきりそう呼ばれた。蒼い鶴ではなく、空の雪。

あのときの情景が脳裏に蘇る。

私が戦士になった日、ファーンスターは私をロック族の縄張りの向こうの小さな平原に連れて行った。
雪の降る、枯れ葉の季節だった。
雄の鶴が、きらきら日光を反射し光る凍った雪の上で、雌に対して優雅に舞っていた。空は雲一つない快晴で、放射冷却により気温は下がり、角度によってはダイヤモンドダストが見れた。
ファーンスターは、空を指してから、鶴の番達を指した。そして、私を指した。
だから私は、自分の戦士名は、蒼い空と、舞う鶴、ブルークレインだと……
、、、、
思ってたのだ。

全て思い込みだった。
そう。
ファーンスターだって、スターはそうだがファーンが正しいのかは耳が聞こえるようにならないと分からないし、私の妹達だって、ラベンダースカイじゃないのかもしれないし、クラウドストリームじゃないのかもしれない。
私は、指された事柄を繋げて彼らの、彼女らの名前を勝手に想像してただけなのかもしれない。

「君は、スカイスノウは、もう帰らなくてはならないよ。血の繋がった家族の待つ、上の世界へ」

ファーンスカイはゆっくりと、噛み締めるように、私に言い聞かせるように、諭すようにー言った。
「嫌だ!!私は耳の聞こえる、この世界で、貴方の居る、この場所でっ!!」
彼は口を開いたが、音はもう聞こえない。耳の中に水が勢いよく入ってくる、触れる泡の感触と、叫ぼうとした口の中に入る淡水の味。そして、いつの間にか湖から引き揚げられていたという事実。
全てが一気に押し寄せてきた。もう、体が持たない。

『…………!!!』

何かを叫んだ看護猫の妹。目には……涙?

慰めてあげたいけど、それが姉のすべきことだけど、私には、貴女に伝える手段がない。
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投稿 by Murre Tue Nov 01, 2022 9:41 pm

✴✴
行きたい。彼のところへ行きたい。
死にたい。耳の聞こえる人生をスター族の狩り場で送りたい。早く。
「ア、ァ……」
声が漏れる。不格好な声。けれどもそれは喉の振動具合しか分からず、どんな声なのか、周りがどれくらいざわざわしてるのかなんて、私は分からない。
看護部屋はもう飽きた。
あの日、怪物に轢かれた日、私はいつの間にか陸に居た。運命の仕業だろうか、それともスター族の嫌がらせだろうか。
あの心地の良い彼、ファーンスカイの元から私を引き剥がし、あの世界とは異なる現実に打ちのめされるように仕組んだのは、一体どの星だろうか。
キャンプから少し離れた礫場で、腹から血を流して倒れているのを、薬草を採りに来ていた妹が、私を発見した。全ては私の想像で、その時の状態から判断したまでだ。
ラベンダースカイ……看護猫の妹の口には新鮮なノコギリソウが咥えられていた事と、私の血が腹から流れていたこと、それらを考慮して想像しただけだ。
本当は違うのかもしれない。
あぁ、スター族様、私を幸せにしたいのなら、どうか私に“音”を授けてください!普通の猫達と同じ様に話し、同じ様に暮らしたいのです。ただそれだけの切実な思いなのです。

ファーンスカイはどう思っているのだろう。
不意に思う。
私を好きでいてくれるのなら、一緒に暮らしたいと思うよね。けど、彼は既に死んでいて、スター族の狩り場で、特に湖底で、毎日を暮らしている。
足音がして、出掛けていた妹が部屋に戻ってきたのが分かった。新鮮な草の香りを漂わせる妹の目には一筋、涙の跡が付いているように見受けられたが、気のせいだったのだろうか。彼女は笑っていた。
幸せそうな妹の表情を見て、ますます健全な体が欲しくなった。彼のいるあの場所で私がこれから暮らせるなら、何でもする。妹は約束を岩の割れ目に綺麗に整頓し、岩の窪みに溜まっていた水を二口舐めると、苔を整え丸くなった。すぐに体が上下する。
寝たのだろうか。
ということはもう、夜なのだろうか。
看護部屋の中で軟禁されているから、時間感覚と、鼻の感覚が狂っていた。
そっと抜け出そうと試みる。少なくとも、私の耳に私の足音は聞こえない。

何事もなく看護部屋を出たところで、問題にぶつかった。
どうやって湖で彼と会おう?
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投稿 by Murre Tue Nov 01, 2022 10:08 pm

✴✴
流れ星が異常に多い。
悩み、空を見上げているときにふと思った。美しい紺碧の空に幾筋もの流星が空を渡る。綺麗だなぁ。
長く尾を引くものは無いけれど、引っ切り無しに新しいのが生み出されるから、見てて面白い。
そこでは北極星が変わりなく輝き、あそこではアンタレスが赤い光を投げ掛けて居るのに、どうして今日は、空の内側のカバーに流れ星が多く駆けているのだろう。
口を半開きにして、食い入るように空を眺めていたら、右肩をそっと触られた。
ギャラクシーテイルー少なくとも私はそう呼んでいるー雄猫が私の横に並び、空を見上げた。他の普通の猫のように、私に話しかけようと努力はせず、ただ私の横で、同じ空を違う気持ちで眺める。
不思議だ。
ギャラクシーテイルの、艷やかな尻尾を撫でるように目で追う。銀色の尻尾はゆっくりと振り子のように規則正しく左右に揺れている。
何かを測るように。いや、流れ星に翔ぶよう指示するように。
ギャラクシーテイルは何も言わない。口が動かないからだ。そして私も何も言わない。そもそも言葉を話せない。
流れ星が落ち着いてきた。無数のスター族の合間を縫うようにして落ちていた星達も、数が尽きたようだ。一瞬のことの様に短かかった時間は不思議に流れた。
ギャラクシーテイルは一段落付いたと思ったのか、親しげに会釈して、戦士部屋へ戻った。
看護部屋から出ていた私を咎めるでもなく、ただ、紳士的に。
不思議な猫だったな。凝った首を回しながら輝く濃い紺色の瞳を思い浮かべる。今日の夜空よりも少し紫が掛かった彼の瞳は、宇宙のように広く、寛大だった気がした。

「ン……?」

私は顔を顰める。長い尾を引く薄い黄色をした星が、こちらへ近付いてくる。
風が渦巻く。
ギャラクシーテイルの銀色の尻尾が左右に一往復分揺れる映像が自然と流れる。 ギャラクシー
あの星は、空からの、銀河からの、宇宙からの使者なのかもしれない。心優しい、少なくとも部族猫より慈悲のあるスター族の誰かが。

落ちてきた黄色の光は、猫だった。夢かと思い、ひとまず目を擦る。
『何してるの。夢じゃないわよ』
聞いたこと無いはずなのに、どこか懐かしい、聞き慣れたような、良い振動数の声。
「お母さん」
声が……出た!
母は何度も頷く。
『そうよ。ファーンスターが、貴女に贈り物しといでって』
「贈り物?」
母の毛長の尻尾が私の背中をリズミカルに撫でる。
『そうよ、贈り物。あの子も望んでることだから、族長は断りきれなくて』
母は前足を私の前足にかざすと、持っていた何か光る物体を私に握らせた。
『確かに渡したわよ。もう死ぬなんて思わないこと。中には、命を貰えず、この世に産まれることの出来なかった子だっているんだから』
母はそう言うと、そっとウインクした。
『それを、身体に仕舞いなさい』
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投稿 by Murre Wed Nov 02, 2022 11:33 pm

✴10✴
母の姿は次第に霧のように薄くなっていく。曙がいつの間にかもうここに来ていたのだ。
「帰らないで。もう、私を一人にしないで」
母は首を横に振り、もう心配ないという顔をした。
『大丈夫。貴女はもう、取り戻した』
母の目には大粒の涙があった。
『他の妹にも、よろしくね』
母はもう私を見ることを止めた。思い切って後ろを向き、まだ濃い紺色の残る西の空へ駆け出した。
「ありがとう」
光を纏った尻尾が優しく揺れた。

「スカイスノウ」
後ろから声が掛けられた。そして、それは確かに私の耳に届いた。
「はい」
返事をしながら振り向く。そして、あっと声が漏れる。
「貴方は……」
私に声を掛けた雄猫は、目を一度閉じて頷き、こちらをしっかりと見つめた。
「まずは家族に声を掛けておいで。ラベンダークラウドと、ブルーストリームに」
看護猫の妹と、戦士の妹の名前だと理解し、雄猫に向かって、感謝の瞬きをする。眼の前の雄猫は会釈をして、戦士猫を起こさないように、そっと戦士部屋に戻った。
「ラベンダークラウド」
湖の下にある看護部屋に向かいざま、声に出して、正式な妹の名前を呼ぶ。朝日の差し込む入り口は柔らかく白い光に巻かれる。
「ラベンダークラウド」
丸くなっていた白い体を突いて起こす。申し訳ないと思いながら、私の今の状態を知って欲しくて、首根っこを甘噛みする。
「ん……?」
看護猫は寝ぼけ眼をこちらに向け、微笑んでいる私の顔に焦点を合わせようと努める。妹の鼻がひくひくと音を立てた。
「もしかして、スカイスノウ?」
「そう」
ラベンダークラウドの顔がぱっと明るくなる。
「どうしたの!耳、聞こえるようになったの?」
私は沢山頷く。けれど、妹はもう一度聞いた。
「耳聞こえるようになったの?」
私は不思議に思い首を傾げた。どうして妹は2回も同じことを尋ねたのだろう?
そこへ、毎朝挨拶をするために入ってくるもう一匹の妹が看護部屋に入ってきた。
「ブルーストリーム」
ブルーストリームは、耳が聞こえず言葉も話せなかった姉から急に話しかけられ、目を丸くしたあと、ようやく事実を飲み込んだ。
「わぁ!姉ちゃん!!私のこと、呼んでくれた!!」
ブルーストリームは嬉しそうに尻尾を振り動かし、私の脇腹に鼻面を強く押し付けた。
「ブルーストリーム、ラベンダークラウドが頷いても反応してくれなかったんだけど……」
私は二匹に母のことを伝えたあと、さっき気になったことを口に出す。
ブルーストリームは驚愕したかと思うと、一匹で納得したように頷き、悲しげな表情になった。
「ラベンダークラウドは……」
ラベンダークラウドが目を逸らす。
「目が産まれつき見えないの」
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投稿 by Murre Thu Nov 03, 2022 2:56 pm

✴11✴
「嘘……」
妹も障害持ちだったことに驚き、絶句する。ブルーストリームは力無さげに首を振ると、こちらを向いて微笑した。
「スター族が、スカイスノウの耳だけでも治してくれたことには、感謝しなきゃ」
妹の、純粋に私を思う気持ちが込められた眼差しに、私は申し訳なく思う。何も知らず、ラベンダークラウドと過ごしていたなんて……
はっと思い当たる。
いつか、私が礫場に打ち揚げられたとき、ノコギリソウを咥えたラベンダークラウドが私を一番に見つけたことがあった。あの時は疑問に思わなかったが、今考えてみると、彼女の周りには新鮮な、さまざまな種類の薬草の香りが付いていて、嗅覚がそれほど発達していなかったら、私の水まみれのにおいに、気が付かなかっただろう。
あの日、ラベンダークラウドが私を見つけれたのは、盲目のせいで嗅覚、聴覚、触覚が他の猫より何倍も鋭敏だったからだ。
「ブルーストリーム、私は大丈夫。お姉ちゃんの耳が聞こえるようになって、声が聞けるようになっただけで、嬉しい」
レイク族の看護猫は悲しげな影の残る顔を、無理矢理笑顔に変えた。私は胸が締め付けられる。
「他の戦士達にも報告してくる」
「まずは族長に報告しておいで」
ラベンダークラウドが明るい声色で言った。私はそれに応えて頷き、ブルーストリームがじっとこちらを見ているのに気付き、声を出した。
「族長の部屋にまず行く」
ラベンダークラウドが、そう、というように頷いた。

キングフィッシャースター、その他戦士が私の一夜の変化に目を丸くして驚いた。
「俺は、キングフィッシャースターだ。翡翠は見たことあるだろう?」
「スカイスノウ!話せて嬉しいわ!私はレイク族副長のクリアリーフ」
族長の名前も、副長の名前もファーンスターが教えてくれた単語通りの名前でほっとしたが、今まで妹二匹の名前を正確に知らなかったことに再びショックがのしかかる。
その後、戦士部屋とキャンプの乾いた広場に居たミルキーウェイ、グレータイガー、アーモンドリーフ、フローズンハニーと挨拶をして、疑問に思う。
ギャラクシーテイルはどこだろう?
アーモンドリーフの弟子のストロベリーポーと話したとき、隣りにいた彼女の指導者に尋ねた。
「ギャラクシーテイルはどこですか?」
アーモンドリーフは首を傾げた。
「ギャラクシーテイル?そんな猫、ここには居ないわよ」
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投稿 by Murre Thu Nov 03, 2022 3:19 pm

✴12✴
夕日が、周りに棚引く雲を橙や黄、赤に染め上げ、就寝の支度を始める。偉大なる太陽に連れてこられたように、背後から紺碧の夜空が星を従えてやって来ようとしている。
星の散りばめられた空がまだやって来ないように、ギャラクシーテイルも、ずっと待ってもキャンプへ戻って来ない。
さっき、アーモンドリーフは、居ない戦士の名を口にした私を不思議そうな表情で見た。
けど、あの猫は確かにあの日、一緒に空を見上げた。無言で。ゆったりと揺れていた、銀色に輝く月色の尻尾を自然と目で探す。
キャンプを抜け、礫場へ向かう。そこへ行くまで通った森には灰色の毛は見えなかったし、湖のよく見える礫場にも、影さえなく、誰も居ない。
ギャラクシーテイル。確かに部族に存在してた。私が誰かの名前を知っているということは、ファーンスターが教えてくれたってことだから。元指導者が、自ら与えた戦士名を偽るはずがない。
「ギャラクシーテイル!!どこなの?私は貴方とまた、話してない」
いや、違う。そういえば、話した。母から贈り物を賜ったとき、言葉をこの世界で口にできたとき、彼らしき雄猫が、私を看護部屋へ行くよう促した。
あぁ、どうして彼はここに居ないの?もどかしい気持ちのまま湖を眺める。憎いくらい綺麗に輝き、雲のない空を鏡のようにそのまま映す。
綺麗だなぁと湖に見惚れる。その湖に影が差し込む。
空に雲が掛かったのかな?そう思い見上げると、逆だった。空が、空の一部が光っている。彗星のような尾を持つ星が、銀色に煌めいている。
あの色に、思い当たる。艷やかな銀色ー
『もう一度だけ、おいで』
彼の声がした。初めて地上でこの耳で聞いた。湖が私を歓迎するように、波を強くする。
「今行く」
彼に会いたいとむずむずする。けれど、また湖に飛び込んで溺死しようとしたって、泳ぎが得意なレイク族の誰かが、私と彼の時間を邪魔しに来ることが目に見えている。
もう、残された手段はこれしかない。あの場所、森の中のあの場所を思い浮かべ、湖に背を向ける。
あの実、あの実。名前は分からないけど、別名だけ知っている。ファーンスターがちゃんと教えてくれた、あの実。毒々しい半透明な赤色に、薄く窺える真っ黒い瞳のような種。あの実、あの実。
死のベリー
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投稿 by Murre Thu Nov 03, 2022 3:38 pm

✴13✴
「駄目」
実を数個もぎ採った時、背後から声がかけられた。もう何回か聞いた、看護猫の声。
「ギャラクシーテイルを探しているの。私があの猫に自己紹介を自分の声がするのは、湖に入って彼と挨拶すること以外に方法は無いの」
私は顔を上げず黙々と答える。何個くらいが致死量なんだろう……
「ギャラクシーテイル?」
ラベンダークラウドの語尾が上がる。やはりギャラクシーテイルは存在しない猫なのか……ますますあそこへ行かなきゃという焦燥感が私を追い立てる。
「私は彼に会うの。彼が待ってる」
「いや違う、待ってスカイスノウ」
私は待たずに実を持ち上げる。
「待って!!」
しーんと静まり返っていた森の中に、ラベンダークラウドの怒号が響き、思わず手を止める。振り向くと、ラベンダークラウドの美しいラベンダー色の目には、耐え難い怒りがふつふつと煮え立っていた。
「な、何……」
初めて見る妹の怒りの表情に困惑し、実を低木の影に押し込む。なんだか、彼の元へ行く気が急に失せてしまった。
「ギャラクシーテイル、って言ったよね?」
「うん……」
どうしてラベンダークラウドはギャラクシーテイルと、何度も言うの?看護猫は私を貫くくらいじっと見つめた。今思えば白く濁っている瞳に、理解済の色が加わる。
「私、その猫、知ってる」
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投稿 by Murre Thu Nov 03, 2022 8:21 pm

✴14✴
『分かったから、放してくれ』
煙の中から聞こえてくるようなくぐもった声が、死のベリーの木の裏から突如聞こえてきた。侵入者!と唸って警戒する。ラベンダークラウドは暗闇の中、聞いたことのない声を聞き、毛を逆立てる。
「誰」
私の唸り声に、聞こえていた声がぴたりと止んだ。と思ったら、木が細い葉を散らしながら揺れ、がさがさと音を立てる。
『あぁ、例の君か』
さっきと違う声。木が再び揺れ、一匹雄猫が姿を現す。薄い光を纏った猫の目には、星が幾つも煌めいている。
スター族!!
先祖の猫に無礼を働いてしまい、後ろめたくなり目を逸らす。
『スカイスノウ』
「はい」
出てきた雄猫は、私の名を呼ぶと、黒い尻尾を一振りした。
『こいつが生きたいって聞かないものだから』
黒猫は蒼い目をぐるっと回すと、肩をすくめ、もう一度尻尾を振った。ラベンダークラウドが、状況に困り、後退りする。
『スカイスノウ……』
木陰から覗く二対の目。それは、蒼が薄っすらと掛かった木陰色だ。二つの目の間の毛は、少し影になっているが、陽の光の下では、雪のような白だろう。
『俺だ』
水に包まれて聞いた、あの声。今まで求めていた、この声。柔らかな、あんな私でも認めてくれた、聞きたかった声。生き別れた、亡き指導者。
「ファーンスター!!」
彼は完全に出てきて頷いた。嬉しそうに尻尾を激しく振り、元弟子の声に顔を綻ばせる。
『会えたね、良かったね』
側に居る雄猫が飛び跳ねるような動作をする。辺りできらきらと光が踊る。
「けど、どうして?」
ラベンダークラウドが後ろから、おずおずと聞く。前族長はそれを聞き頷いた。
『認められたからだよ』
それは、答えになっていなかった。謎めいた、意味の含まれていない単語のようでー
『連れてきたんだ』
そう、まだ猫は居た。
『俺は、声を聞きに来たんだ。これまで出来なかった会話をしに来たんだ。そしてー』
木陰色の目がラベンダークラウドに向けられた。
『不幸を消し去ることが、生来の夢でね』
黒猫が仕方ないというように溜息をついた。
『実はファーンスターも、耳が聞こえなかったんだ』
黒猫は蒼い目を私と族長の耳に向けた。
『雨に当たったら、病気に罹ったらしく、少しの期間だけ耳が聞こえなかったんだ』
私は驚いた。そして、親身に言葉を教えてくれた理由をはっと悟った。指導者は、自己の体験から、私を指導してくれたんだ。
『ラベンダークラウド』
黒猫に呼ばれた妹は、足元に落ちていた死のベリーを潰し終えてから、顔を上げた。
「はい、ウッドリヴァー【木の川】」
『ファーンスターが、これ』
ウッドリヴァーと呼ばれた黒猫は、ラベンダークラウドに光を差し出した。
あっと声を出す。これは、母が私にくれた……
『じゃあ、俺は仕事終えたから。あんまり地上に居ると、来世が失われちゃうからね』
ウッドリヴァーはラベンダークラウドが光を受け取ったのを確認すると、尻尾でさよならを言った。
「わぁ!ス、スカイスノウ……!」
妹は驚きで叫び声を上げた。ファーンスターが微笑む。
『どうだい、色とりどりの世界は』
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投稿 by Murre Sat Nov 05, 2022 4:00 pm

✴15✴
「ありがとうございます、ファーンスター。なんと御礼申し上げれば良いのか……」
『一族に尽くして恩返ししなさい』
ファーンスターはラベンダークラウドのかしこまった言葉を尻尾で制した。
「はい」
看護猫は涙ぐんで深々と会釈した。
「ラベンダークラウド」
ラベンダークラウドは私に呼ばれて渋々こちらを見た。目にはハイライトが硝子のように映っている。
「ギャラクシーテイルって?」
ファーンスターを見ながら、私は妹に尋ねた。ラベンダークラウドは涙を拭くと、茂みの奥を穴が開くくらい見つめた。
「あそこに、居るよ」
ラベンダークラウドは、ファーンスターとちらっと視線を交わすと、頷いて前足で指した。三匹目の猫がそこに、隠れていて、私の湖と夜の秘密を明かそうとしている。
「スカイスノウ」
あの声がした。柔らかな、朝日のような声。明るく、何度も聞きたくなる、耳によく馴染む声。ちらりと覗いた尻尾は、艶めいた銀河色だ。
「あぁ、ファーンスカイ」
確かに彼だ。ファーンスターの横に立った、白い雄猫の目は、美しい陰った紺碧だ。艷やかな尻尾は銀色の光を規則正しく左右に散らす。
『俺の、歳の離れた弟だ』
ギャラクシーテイルは族長に紹介されて一礼した。
「スカイスノウ」
彼は再び私の名を呼んだ。
「でも、どうして……?」
疑問に思うことは沢山あった。何故私を助けたのか、何故何度も湖で会えたのか、何故、今ここにいるのかー
「どうでもいいじゃないか。俺にも君に明かせない秘密の一つや二つ、持たせてくれよ」
彼は、少し皺の寄る笑顔を私に見せた。
私が求めていた、彼。
『夜が空ける』
ファーンスターが明星を見つけ、そっと呟く。
「ファーンスカイ、貴方も行くの?」
ギャラクシーテイルは首を左右に振った。
「俺はどこにも行かないよ。俺は、これからここで暮らすんだ」
私の顔が明るくなったのが分かった。顔が自然と笑顔になる。
「本当に?」
「勿論」
私はギャラクシーテイルと、ファーンスカイと、尻尾を絡める。彼も私の尻尾を探る。
「君に、伝えたい」
「私も、貴方に送りたい。言葉を」
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投稿 by Murre Sat Nov 05, 2022 4:03 pm

✴EPILOGUE✴
暗い藍色の夜空に、流れ星が幾つも空を駆ける。
銀河色の尻尾が地上で左右にゆったりと揺れる。
白い二匹の猫の湖に映った影が重なり、尻尾が一本になる。
身体に不自由のない世界に生きる猫達は、皆それぞれの幸せを見つけた。
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