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辛く苦しくても、この世界を慈しんで

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辛く苦しくても、この世界を慈しんで Empty 辛く苦しくても、この世界を慈しんで

投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Tue Oct 27, 2015 10:49 pm

   世界は、辛いことばかりじゃないんだと思う。
        だから、どんなに辛くても、笑ってれば大抵は乗り越えられるんだ。
  けど。
 立ち直れないことがあったとき、私は、一体どうすればいいんだろう?




__________________________________________


慎ましく、穏やかに暮らしてたはずなのに。


「どうしてこんなことに」


誰にも迷惑をかけた覚えもないのに。


「なぜこんな酷いことを」


こんな目にあったのは、全て、身分のせいなんだ。


「こんな世界、消えてしまえばいいのに」


そう思うのは、きっと、悪いことじゃない。


最終編集者 ウィンターリーフ@和風が好み [ Sun May 29, 2016 1:41 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Tue Oct 27, 2015 11:03 pm

まず謝罪を。
色々あり、今まで書いた文(プロローグ以外)は消去しました。
物語の構成を少し変えたいと思ったので、小説はこのまま続ける予定です。
時間がかかると思いますが、少しだけでも見ていただけたらハイになります^^


最終編集者 ウィンターリーフ@冬葉 [ Sun Mar 20, 2016 4:42 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Wed Oct 28, 2015 10:15 pm

  【始まり】




美しい雪の夜。


ひらひらと舞い落ちる雪は真っ白で、自分でさえも白に塗り潰されたような錯覚に陥る。


でも空は黒い。


真っ黒な夜空に星が瞬き、月輝く静謐な冬の夜。


厳かで神聖で、言葉では言い表せないほど美しかった。


そんな冬の夜に私は憂いを吐き出す。


悲しみと苦しみと憎みと怒りを。


誰にも気付かれないようそっと、静かに、ただただ吐き出す。


自分が嫌になる。


心が割れそうになる。


こんなにも苦しいのに、神々は手を差し伸べてくれない。


怖くて怖くてたまらないのに、誰も助けてはくれない。




孤独心を無くして欲しい。


手を差し伸べてくれるのなら、私は立ち上がれる。


弱いから、誰かがいなきゃまえに向かって歩き出せない。


最終編集者 ウィンターリーフ@冬葉 [ Sun Mar 20, 2016 4:52 pm ], 編集回数 3 回
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投稿 by L ͛k ͛ Wed Oct 28, 2015 11:07 pm

まるでエピローグともとれる、どこか切なくて儚げな、不思議なプロローグですね。

新小説開幕、おめでとうございます!

メッセージそのものとも言えそうなストレートなタイトルに心惹かれ、閲覧させていただきました。

元の小説がラノベの『海上のミスティア』くらいしか思い浮かばない私はたぶんまだまだ修行が足りない……

何はともあれ、この救世の物語の更新を楽しみにお待ちしています。

陰ながら応援させていただきます( *´ ω` *)!!
L ͛k ͛
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http://nekoryou-seikatsu.jimdo.com/

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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Thu Oct 29, 2015 10:58 pm

らいとにんぐきっと wrote:まるでエピローグともとれる、どこか切なくて儚げな、不思議なプロローグですね。

新小説開幕、おめでとうございます!

メッセージそのものとも言えそうなストレートなタイトルに心惹かれ、閲覧させていただきました。

元の小説がラノベの『海上のミスティア』くらいしか思い浮かばない私はたぶんまだまだ修行が足りない……

何はともあれ、この救世の物語の更新を楽しみにお待ちしています。

陰ながら応援させていただきます( *´ ω` *)!!



なんて嬉しいお言葉を………!!
正直、世界観や設定などに悩んで立ち上げたので、観覧していただけただけでも嬉しいです。
亀さんペースになり得ますが、更新、楽しみにしてて下さい!
コメ、ありがとうございます^^
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Sun Mar 20, 2016 5:05 pm

   【幕開け】




「酷い、酷いよ!」


悲鳴が溢れる。
視界を埋め尽くす、たくさんの火。


「誰か、誰か!」


倒れ伏す母の身体を揺さぶりながら、声限りに叫ぶ。
周りにはたくさんの野次馬が群がっているのに____誰一人、助けてくれない。


母の呼吸が浅い。
目を見開いてくれない。


私は必死に揺さぶった。
母は死なない。私を置いて死なないでほしい。
お母さんが居なくなったら、私は、いったいどうしたら……!


「お願い、助けて、助けてよ!!」


メラメラと火が燃え盛る。
オレンジ色の鮮やかな火。
草木を燃やし、黒い煙を排出し、視界を曇らせる。
息が詰まりそう。


「誰か____!」


最後の気力を振り絞って叫んだ。
それなのに誰も動かない。
炎に囲まれた私たちに近づけないのか、近づきたくないのか。
憐れみと嘲笑の色を浮かべる猫たちは非情だった。


泣きたい。
泣きたいほど辛かった。苦しくて苦しくて、涙が溢れそうになるほどに、心が痛かった。


____私がいったい何をしたというの?


この国の非情さに怒りが募った。
下位の者は神々の怒りを買わないよう生贄を差し出す。差し出されるのは女子供ばかり。それも下位の身分のもの。
生贄なんて最低だ、と言いたかった。


でも言えない。
気道を煙が塞いで、声も呼吸すらできない。


きっと、私はここで朽ちていく。
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投稿 by ウィングシャドウ@もう復活でいいんじゃないかな Tue Mar 22, 2016 8:14 pm

 遅ればせながら、新小説おめでとうございます!

 2章とも語り手の悲しみが伝わってくるような文章で、とても引き込まれました。

 忙しいとは思いますが、続きを楽しみにしております。無理のない範囲で執筆頑張ってくださいね!

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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Thu Mar 24, 2016 9:17 pm

ウィングシャドウ@復活といったな、あれは嘘だ wrote: 遅ればせながら、新小説おめでとうございます!

 2章とも語り手の悲しみが伝わってくるような文章で、とても引き込まれました。

 忙しいとは思いますが、続きを楽しみにしております。無理のない範囲で執筆頑張ってくださいね!

わあああああ!コメントありがとうございます、嬉しいです!!
嬉しいことばかりおっしゃって下さって……やる気がどんどん湧いてきます。
お互い頑張りましょう^^

(部族猫体験遅くてごめんなさい……土日には更新できる予定です)
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Sat May 28, 2016 12:11 pm

不定期更新……神出鬼没……こんな私でごめんなさいm(__)m



『黒い日』




黒かった。


全てが黒い、暗黒の色。


限りなく続く同じ色のなか、彷徨い歩く私。 


「お母さん」


母を呼ぶ声が幾重にもなってこだまして、少々気味が悪い。でもいくら大声で叫んでもとても小さく聞こえる。
_____ここ、怖い。


そう思って逃げ出したくなるけど、だめなんだ。だって、お母さんを置いてきちゃった。
置き去りにしちゃいけないのに、暗闇に一人、残しちゃった。
だから。


「お母さん、何処にいるの?」


探さなきゃ、だめなんだ。








**






喉が、痛い。


私は盛大に咳き込んだ。喉に何か、異物が詰まっているような感覚に身体が拒絶を示す。
ふるふると震え始める身体からは木屑がぱらぱらと落ちてきた。そして、赤い水も。それに、煤。


鈍い頭をぶるっと振って私は辺りを見回した。
限りない黒い色。そして焼け焦げた木々。そして時折チラつく赤い炎。
その景色を見回し、私は慌てた。


「お母さん!」


飛び出た声は恥ずかしいほど掠れたものだったけど、私は無我夢中で倒れた木々の隙間に滑り混んだ。
汚れなんて、怪我なんて気にしない。そんなのどうでもいいもの。
お母さんが無事でいれば、それでいいの。


願うほど、叶わない想いは辛いんだと思う。
願っても、叶わないことほど辛いことはないと思う。
だから、夢なんて抱いちゃいけないのかもしれない。だって、叶わなかったとき、とても悲しい。
胸が張り裂けそうになるほど悲しくて、死にたいって思うから。だから。


「お母さん」


残酷な現実に、夢を抱いちゃいけない。








**






泣いた。


声が枯れるほど、咳き込むほど。


泣いて泣いて。酷い酷いって。お母さんを返してって。


泣くしかできなかったから。泣く以外に何をしたらいいのかわからなかったから。


こんな酷い現実を、どう生きて行けばいいのか不安だったからかもしれないけど。


泣くしか脳のない私に、差し伸べてくる手は邪魔でしかなかった。


「俺と一緒に居よう」


その言葉、とても儚かった。








(暗…)


最終編集者 ウィンターリーフ@復活宣言! [ Thu Feb 16, 2017 4:00 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by レパードクロー Sat May 28, 2016 7:35 pm

今更ですけど、新小説おめでとうございます(遅

切ない文章にグイッと引き込まれました。
ウィンターsならではの表現の仕方、すごく好きです。

陰ながらしかし全力で応援させていただきます......(・ω・´●)
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Sun May 29, 2016 1:45 pm

ひょうつめ@復活宣言 wrote:今更ですけど、新小説おめでとうございます(遅

切ない文章にグイッと引き込まれました。
ウィンターsならではの表現の仕方、すごく好きです。

陰ながらしかし全力で応援させていただきます......(・ω・´●)

ああああ! コメントありがとうございます。
表現の仕方がすごく好きと言っていただき、すごく嬉しいです! これからも頑張りたいと思います。
なんかすっごく暗いなー……なんて思ってたので、これからは少しずつ明るく……! しばらくはシリアスかなあ。

お互い頑張りましょう!
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Sun May 29, 2016 2:48 pm

        『赤い日』










「俺と一緒に居よう」だなんて。


あなたに一体なにができるというのか。


私のことなんて、なにも知らないくせに。


「嫌い。あっちへ行って」


そう言うのに、彼はただ笑った。赤い赤い景色の中、澄んだ水面のような目を輝かせて。
その目を見る限り、私に対しての憐れみはなかった。ただの、優しさだけが浮かんでいた。


「言葉とは、つくづく裏がある」


穏やかな、どこまでも穏やかな声音に思わず耳を傾ける。滝のように溢れた涙はいつの間にか止まっていた。


「だから、今、君が言った言葉とは」


本心を隠している、彼はそう囁いた。




「今は、眠れ。心の傷に耐えられる、その時まで。成長し、過去を振り返られるようになる、その時まで」


眠れ。
その言葉で、眠りたくもないのに自然と瞼が重くなっていく。睡魔に引き摺り込まれそうになる前に、私は精一杯抗って必死に訴えた。


「……嫌! だってお母さんを置いてきちゃった。取り残しちゃいけないのに、暗闇に置き去りにしちゃった!」


その声に、彼は切なそうに瞳を伏せた。










**





『赤は血。炎も赤。死を表すのは決まって赤』


ならば生は?


私は首を傾げ、赤い林檎を前足で突ついた。


『生は金。輝かしい、太陽のような金』


とろりと林檎が金色へと変化する。


ならば、心に眠る深い憎悪の種は。


『黒。烏と、夜空と、土の黒。何も見えない、残酷な世界の色』


ならば喜びの色とは。


その問いかけに私は困ってしまった。しばし考えた後、答えを紡ぐ。


『喜びに、色などない』


そう思って頷いたのに、やはり違和感を拭えない。
私は本当に困り、高みに居る猫に声を掛けた。


『喜びの色とは?』


そう尋ねたのに、彼は教えてくれない。ただ黙って微笑み、こう言った。

君が付けなさい。


『喜びの色を、私は知らないよ?』


だから無理、その想いを込めて再び見上げれば、彼は背を向け、さらに高みへと姿を消してしまった。


後に残されたのは、金の林檎と、空っぽな心。


その心を埋めるには、喜びというものに、色を付けねばならない。


『喜びなんて、わからない』


ぽつりと呟いた言葉から、涙が落ちた。
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Thu Feb 16, 2017 4:28 pm

               『青い日』





ーーすごく、優しい目があった。
まるで空のような、一度だけ見た海のような。深く深く、心の奥まで染み入るような、優しい青い目だ。
その目を私は食い入るように見つめていた。瞬きするのでさえもどかしくて、私はこの青い目を消したくなくて、一心に見つめた。
だってその青い目は、何の嫌悪も侮蔑も憐れみも讃えていなかったから。ただ一心に優しさだけを、包み込むような慈愛の色を宿して、私を見てくれている。それがこんなにも痛くて嬉しいなんて、私は知らなかった。


お互いに言葉は発さずに、心地良い空気が流れていく。微笑むように眇められた青に自分の金が映っているのを見つけ、私は無性に嬉しくなった。


ーー優しい色を、私も持てるだろうか?


そんなことを思って、ふっと浅く息を吐く。この目に溶ける金に混じって、優しさの色を宿したい。そうしたら、少しは嬉しい気持ちになれる気がした。濁ってしまった自分の瞳を、澄んだ優しい青に映されているということは、少し恥ずかしいけれど。


ーーああ、この景色が永遠に続けばいいのに。


叶わない願いを思って切なくなりながら、私は薄れていく意識を掴もうと手を伸ばす。
待って、まだ、嫌なのに。
掴もうとすると魚のように、スルリと手から離れてゆく意識に、私は負けてしまった。


ーーまだ、その青を見ていたいのに。


つかの間の温かさを失うと思うと、きゅうっと胸が萎んだように痛くなる。その痛みに、私は歪んだ考えを出してしまう。嫌だって、思うのに。
こんな痛みを感じるくらいなら、優しさなんていらない。


そんなこと、絶対思いたくなかった。






こんなことを思ってしまうのは、全て、この世界のせいなんだ。












**












「……ッ!」


身体を動かすと、今にも気絶したくなるような痛みが走った。咄嗟に地面に爪を立てて痛みを堪える。


「大丈夫、力を抜いて」


幻聴かと思った。
こんなにも優しい声を出すのは、母しかいないからだ。けど、母の声はもっと高かったはず。


「ほら」


促され、疑問は痛みと共に消えた。言われた通りに力を抜くと、みるみるうちに痛みの波が引いていく。それにほっとして思わず息を吐けば、僅かな笑い声が聞こえた。まるで吐息のような音で、それすらも柔らかい。
ーー誰?
そう思って瞼を開こうとするも、驚いたことにちょっとも動かない。まるで瞼と瞼がくっついてしまったかのようで、私は狼狽えた。その狼狽えが、尻尾に現れていたようで。


「大丈夫、今は寝ていなよ。寝ていれば目も開く。寝ることで、身体も治っていく。だからーー」


ああなんか、聞いたことがあるような声。そうぼんやり思ったときーー


「今は、眠りなさい」


酷く既視感があって思わず耳をぴくっと動かしてしまった。それと共に、何か暗くてどろりとしたものが心を覆っていくようなーー
それを確かめる前に、意識は落ちていった。


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
久々の更新……!
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投稿 by ティアーミスト Thu Feb 16, 2017 7:27 pm


うわああウィンターさあああん!うるさくしてすみません、復活おめでとうございます( ♡ᴗ♡ )

心に傷を負った主人公の目線から書かれているのに、ひとつひとつの文章に優しさと温かさがありますね。

時に詩のような一面もあって……とてもきれいな作品だなあ、とほれぼれしてしまいます笑

更新を楽しみにさせていただきます♪ 執筆ふぁいとですー!
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Fri Feb 17, 2017 6:35 am

ティアーミスト wrote:
うわああウィンターさあああん!うるさくしてすみません、復活おめでとうございます( ♡ᴗ♡ )

心に傷を負った主人公の目線から書かれているのに、ひとつひとつの文章に優しさと温かさがありますね。

時に詩のような一面もあって……とてもきれいな作品だなあ、とほれぼれしてしまいます笑

更新を楽しみにさせていただきます♪ 執筆ふぁいとですー!
       

うわあああああ!! ティアーさんっ、会いたかったです!! ありがとうございます、ウィンター復活宣言です! 
嬉しいお言葉ありがとうございます! 書いてて思ったのですが、『爪』や『耳』『尻尾』などの描写がないと人間の話になりそう……

コメありがとうございます! お互い頑張りましょうね^^
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投稿 by ウィンターリーフ@冬葉 Wed Dec 27, 2017 2:29 pm

『暗い日』





『ーー返して!返して返して、お願い。ああ、お願いだから返して。私のお母さんを、返して!!』

胸が痛くなるような悲痛な声に、私は目を覚ました。叫んでいたのは自分だったのだ。
顔を上げたところでふぅ、と息を吐く。はっとして周りを見ると、足下には柔らかい苔と温かな鳥の羽。これが私を守ってくれたのだろうか。いやーーと否定しかけ、痛む頭を抑えた。
ちがう。なんだろう、誰かが居たのだ。とても綺麗な、湖面のように綺麗な色の瞳を持ったーー

「おはよう」

突然の声と見知らぬ猫の出現に驚き、私は思いっきり仰け反った。無様に頭を打ち、その痛みに悶絶する。

「あ、驚かせてごめんね。身体は大丈夫?」
「だ、大丈夫です…」

ぼそぼそと答えると、水色の瞳の彼は微笑んだ。
その様に警戒が湧く。ーーいや、確かにこの声と目は知っている。夢と現の狭間の中、優しく語りかけてくれたことも朧げだが思い出した。危険な猫ではない。むしろ助けてくれたのだからお礼だって言っていい。恩人なのだから。命を、救ってくれたのだから…?

ふと、そこで首を傾げた。
私は、助けてください、などと言っただろうか? いや、言ってない。この猫の善意だとはわかるが、助けるのならむしろお母さんをーーなぜ、お母さんを助けるの?

「え、え」

混乱して頭が痛い。
私はなんで、倒れていた? なんでそこにお母さんが出てくるの? それにーーなぜこんなにも、辺りが焦げ臭いのだろうか。まるで、何かを焼いたようなーー

「焼いた?」

呟き、繰り返す。瞬きに見えたのは木や猫を舐め尽くす炎の色ではなく、正反対に落ち着いた、救いの色。いや、今私はなんて。

「火……」

その瞬間、記憶がわっと頭に溢れかえった。
パチパチと爆ぜる木の音に、嘲笑の声。オレンジ色の炎と鮮やかな真紅。ぐったりとした肢体に、天を向いた虚ろな目。懐かしい匂いが残酷に、死臭へと変わる。
息が荒くなる。ーー痛い。
冷たい目。心に溢れる悲しみとどうしようもない怒り。どす黒く染まりそうになる思考と、落ちた涙。

ーーああ、そうだった。お母さんは……

「いや……やだあああああああああああっ!!」

耳を劈くような悲鳴が自分の口から放たれた。
ああ、痛い。胸が痛くて割れそうだ。お願い、助けて。痛いよ、お母さん。お母さーー
ふっと何かに強く抱き締められる。お母さんだったらと良いのにと願うのに、漂う香りはミントのような冷たい匂い。願うのは、陽だまりのーー

「嘘っ、うそ、うそだったら、いいのに。うそでいて、せめて、お願いだからぁ……!!」

鳴き声に変わり、嗚咽が漏れる。もう嫌だ。こんな現実受け止めきれない。
こんな現実、嫌だ。苦しくて痛くて辛いだけで、お母さんだっていないのに。もうもう、嫌だ。

不満のように、するりと言葉が溢れた。

「どうして助けたのよぉ……助けられたってちっとも、うれしくな、いのに……こんなんだったら、死んでたいよ、どうして、どうして私が、どうし、て……」

今、私の心は悪意でいっばいで。泥が詰められたようにぐちゃぐちゃで。だから聞かないで。間に受けないで。私の言葉はきっとあなたを傷つける。
だから。ごめんなさいの代わりに頑張って押し黙り、涙だけは許してもらう。

助けてくれてありがとう。と本心から言えたらいいのに。そうして笑えたら完璧なのに。私はもう、そんな当然のことさえできない。

どうして私を助けたの。なんて、これ以上言ったら彼に失礼だから、もうなにも言えない。
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