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憂鬱。     『あの日、彼が消えた。』                  [1期/全巻/オリジナル/グロ系ホラー]

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投稿 by レパードクロー Fri Feb 26, 2016 8:39 pm

憂鬱。            『あの日、彼が消えた。』



                                 

                      
                              

 [1期/全巻/オリジナル] 










☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



零章___Ⅰ





うららかな春の日差しの中で、ファイヤスターはゆっくりと顔を上げた。


まだ枯葉の季節を乗り切ったばかりなのに、もう今は一日中日向ぼっこできるほど、暖かい。


こんな季節の日は『彼』を思い出してしまいそうで、思わず苦笑がこぼれた。


もう、何年になるだろうか。


そっと前足で肩の毛を弄る。あった。今だに枯葉の季節の特別寒い夜なんかは静かに、でも確かに疼くこの傷が。


今でも忘れない、『彼』が『彼』自身ではなくなり、別の人格がつくられてしまったあの日のことを。


そして、愛しているのに愛されなかった『彼』の苦悩を。


ウィンドクラウドという猫の中には、確かに影があった。





用語説明



*闇憑  ヤミツキ

猫の肉を喰らい、そのエネルギーによって生きている生きた亡者。闇憑には二種類あり、一つ目はすでに死んだ猫の身体を闇が乗っ取り闇憑となるもの。
二つ目は生きている猫の魂を闇が支配し、闇が乗り移ってしまった闇憑。生きたまま闇憑となったものは憎悪や野心といった[漆黒感情]に支配されたものが多い。
普通の猫は彼らに物理的に攻撃されると傷口に影が乗り移る。その傷が元で絶命し、喰われなかった者は闇に飲み込まれ、死体は残らない。
傷口は完治しても一生残り、ドス黒い渦が傷全体にある状態になる。
闇憑を倒すには心臓を攻撃するしかない。闇憑は猫の肉を喰らい続けている限り永遠に生きつづける。


*闇  ヤミ

闇憑をつくりだすもの。元は憎悪、野心、怠惰などの[漆黒感情]が集まりできた。自らの意思をもち、猫の身体に乗り移る。血と肉を以上に好み、彼らが這いずり回ったあとにあった動植物はすべて絶命する。普通、猫に乗り移らない限りは[境目]と呼ばれる世界と世界の間の空間でひたすら血肉を求めさまよっている。
実際に猫の世界にいるのは運よく[境目]の破れたところから出てきたものだけ。


*影  カゲ

闇よりかは小さく、弱い[漆黒感情]の集まり。物理的な攻撃をしたときなどに傷口に乗り移る。


*漆黒感情  シッコクカンジョウ

憎悪、野心、怠惰、虚栄などのマイナスな感情を表す言葉。主に猫たちの魂から発生する。

*境目  サカイメ

世界と世界のはざまにある空間。薄暗く、わびしい場所でそこにはマイナスエネルギーしか存在しない。外へ出られない闇が出口を求めさまよっている。



最終編集者 レパードクロー@アイデアが止まらない [ Fri Feb 26, 2016 9:40 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by 涙雫 Fri Feb 26, 2016 9:33 pm

愛してる〜のに、愛せ〜な〜い♪←おいっ!

お久しぶりです!
一期とか懐かしいなぁ…

頑張ってください!
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投稿 by レパードクロー Fri Feb 26, 2016 10:27 pm

壱章__Ⅰ










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死ぬ前の一瞬に、自分の人生が早送りで蘇るという話をボケてしまった長老から聞いたことがある。普段はわけのわからないものをつぶやいている老猫だったが、この話だけは信じることができた。

が、無理だ。

蘇えらねぇッッッ!!!!

夜空にはまるでうまれたてのようなぬめりとした輝きを放つ半月が輝いており、どことなく猫の半分閉じた瞳を連想させた。そんなハーフ・ムーンにふさわしい静かで大人な夜は、戦士猫には関係が無い。

それはともかく蘇らないということならば、自分はまだ死ねないということなのだろうか。これだけの深手を負っているのに、自分は怪物かと叫びたくなってしまう。

ちらりと横を見ると、カワウソのように水の中を自在に動き回るリヴァー族たちが次々と岩を這い上がってきてサンダー族の戦士に襲い掛かっている。思わずしてしまった大きな舌打ち。敵の戦士はもうこちらがかなりの深手を負っているということに安心感を抱いているのか、それともたんに面倒くさいだけなのか馬乗りになって満足そうな唸り声を上げているだけだった。


副将の首とったつもりかよ、若造が。

妙な怒りが腹のそこから湧き上がり、馬乗りになっていた茶虎の戦士を跳ね飛ばし、鼻ずらから絶え間なく流れ出る血を前足でぬぐった。遠くのほうでマウスファーとレイヴンポーの悲鳴が同時に上がった。

どちらを選ぶか.........?

迷う必要は無かった。先輩であるレッドテイルがマウスファーを押さえつけていたこげ茶色の雄猫を殴りつけた。しなやかな細長い身体をくねらせ、マウスファーは森の奥へと逃げていった。

レイヴンポーのほうへと歩み寄ろうとした足を思わず止め、後ろを振り返った。

レッドテイルはオークハートと激しく取っ組み合っていて、周りの様子など耳に入っていないようだった。赤茶色のふさふさした尻尾が地面をピシャリと叩いた。鋭い小さな叫び声があがり、梟がうるさく騒ぎ立てながら飛び立っていった。

今なら、副長の座を奪える。俺のほうがよっぽど副長にふさわしい。ドス黒い感情が渦を巻き、胆汁が喉にせりあがって来た。


気がつけば、今にも崩れ落ちそうな岩棚の下に彼らを突き落としていた。

面白いほどコロコロと斜面を転がり落ちていった二匹は最後までもつれあったままだった。刹那、岩棚が一気に崩れ落ちた。あっという間の出来事だった。

砂埃が立ち、その戦場で戦っていた全ての猫たちの注目を集めた。

レッドテイルが必死にオークハートを助け出そうとしているのがわかった。淡い色の尻尾をくわえて引っ張り、土砂の中から引きずりだそうとしていた。だが、彼の尻尾はもうピクリとも動いてはいなかった。

馬鹿め。そんなことだから副長の座が務まらないんだ。


ひらりと我ながらほれぼれするほどの見事な姿勢でタイガークローは岩棚の下へと飛び降りた。体中の筋肉という筋肉がパンパンに張り詰め、ヒゲの一本一本まで真っ直ぐに伸びていた。

レッドテイルは疲れきっており、脇腹を大きく波打ちながら荒い息をしていた。それでもオークハートを引っ張り出そうと残りわずかの気力を奮い立たせていた。

そんな彼の後ろに気配を殺して忍び寄る。ゴツゴツとしている地面にそっと足をつける。滑らかな足取りで進む。桃色の肉球はタイガークローの体重の全てを支えきっており、彼はまるでビロードの上を歩いているかのようだった。

いきなり背後から疲れきったレッドテイルに飛び掛ると、一息に喉を切り裂いた。

血に染まった鼻を高くあげて周りの匂いを嗅ぐ。何かが違う、先ほどまで感じていなかった邪悪な雰囲気が漂い始める。何だ、これは?

茂みからシャドウ族の戦士が赤い瞳をぎらつかせながら飛び出してきた。そして、サンダー族の応援部隊も。

頭をガツンと殴られ、タイガークローは地面に崩れ落ちた。

聞こえてくるのはレイヴンポーの名前を連呼する仲間たちの声だったが、意識が徐々に遠くなっていった。やがて、目の前が真っ暗になった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


流れ星が空を駆け抜けていく。そんな光景をスポッティドリーフは今までに何度も何度も見てきたが、今夜は少し、特別な感じだった。

「また、何か読み取ったんでしょう?スポッティドリーフ?」

隣に座っている賢そうな輝きを目にまとっている雌猫が聞いてきた。青い毛並みは月光を受けてほのかな銀色に耀き、眩い光を放っていた。

スポッティドリーフはゆっくりと振り向いた。そして、老けた、と思った。

自分が子猫の頃はこんなにも疲れきった顔は見たことが無かった。思わず苦笑してしまったスポッティドリーフを一瞥した族長は眉を吊り上げた。そして不満そうに耳をぴたりと寝かせた。

「スター族からの予言です、ブルースター。六ヶ月ぶりの。」

「そう___。レッドテイルが死んで、次はどんな悪い事が起こるというのよ?」


彼女の口調には半分諦めがあった。スポッティドリーフは夜露でひんやりする草の上にその身を横たえ、じっと空を見つめた。その瞳はここではない、もっと神秘的な遠いどこかを眺めているようだった。

「火が一族を救う。闇が一族にはこびり、森全部が不安定になる。__そして、風は火をあおりたて、火は風をあおりたてる。この困難を乗り越えれば素晴らしい未来が待っている、と。」

「火?」


「火はすべての一族が恐れているものよ、火がどうやって私たちを救うのよ!?」

スポッティドリーフは何もいわずに空を見上げていた。

彼女はまだもう一つ言っていなかった。

スター族は付け加えたのだ。

__素晴らしい未来のために、一族は多大な犠牲を払うことになる、と。


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投稿 by レパードクロー Fri Feb 26, 2016 10:28 pm

涙雫@元シーズンメモリー wrote:愛してる〜のに、愛せ〜な〜い♪←おいっ!

お久しぶりです!
一期とか懐かしいなぁ…

頑張ってください!

お久しぶりです!

う、歌ができただとっ!しかも意外とうまi((ry

一期懐かしいですよねw私も読み返したばかりです。

涙雫さんも頑張ってください!
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投稿 by レパードクロー Fri Feb 26, 2016 10:50 pm

零章



壱章_金獅子流星群     キンジシリュウセイグン








弐章_紫苑花吹雪   シオンハナフブキ






参章_恋華泉月  レンカイズミヅキ





肆章_黒霧夜叉丸 クロキリヤシャマル






伍章_不可思議七変化  フカシギシチヘンゲ








陸章_突撃闇憑祓  トツゲキヤミツキバライ









漆章_三日月夜想曲   ミカヅキヤソウキョク


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投稿 by レパードクロー Sat Feb 27, 2016 7:16 pm

金獅子流星群___Ⅱ



  ダーク・ブラック    ゴールデン・ライト
鮮やかな黒と光り輝く金色の羽を持った大きな蝶がひらりひらりと自分の鼻先を飛び回るのをラスティーはじっと見つめていた。ひんやりと
湿った芝生はほてった身体には気持ちが良くて、どさりとその上に身体を預けた。

ゴロゴロという可笑しがっているように喉を鳴らす音が聞こえ、ラスティーは反射的に跳ね起きると目の前にあるイラクサの茂みをじっと見つめた。ヒゲは
ピンと張り詰めていて、なるべく隙を見せないようにした。
茂みを突き破り、まず出てきたものは黄金色の耳だった。

「へっ?」と思わず間抜けな声を上げ、目をまん丸にしてしまった。かぎ爪をむき出し、いつでも戦えるように身構える。昨晩グレーポーと戦ったときのように気持ち
は高ぶっていた。

茂みから現れたのは二匹の猫だった。一匹は見事な黄金色の毛皮で胸毛と首まわりがふさふさとしたクリーム色の毛で覆われていた。モスグリーンの
煌く瞳は飼い猫ではまず見れない、荒々しさを浮かべていた。もう一匹は家の人がもっている、何だっけ__そう、白いテンの毛皮のマフラーのように
真っ白だった。二匹はイラクサまみれだったが、瞳はおもしろそうに輝いていた。

「ほう、こいつか、族長がおっしゃっていたチビは。だが構えからしてまるで戦士の素質がないな。」白い大きな雄猫が鼻を鳴らしてつぶやいた。ラスティーは
馬鹿にされたことが悔しくて下から思いっきり睨みつけた。だが、雄猫のほうが頭二つ分ほど背が高い。口の隙間から覗く銀色の鋭い牙を見た瞬間彼の闘志は
みるみるうちにしぼんでいった。

何よりも恐ろしいのは目だ。一匹目のあの黄金色の雄猫のような柔らかい、温かい眼差しではなく、もっと冷たく強い眼差しだった。焼け付いた砂漠の砂のような
黄色い瞳はラスティーを見下ろしたが一瞥しただけでまた鼻を鳴らした。

「そんなこと言うなよ、ホワイトストーム。まだ生後六ヶ月だぜ?」

白猫はホワイトストームという名前だった。確かにあの鋭い眼差しと見事な大柄の体格は嵐と呼ぶのに相応しかった。

「だが一族にはもっとマシな生後六ヶ月の猫がいるんだ。ヤワな奴は一族にいる資格は無い。食わせなきゃならない猫が大勢いるんだ。」
だが黄金色の猫はホワイトストームの反論を無視すると、ラスティーに向き直った。ふさふさした毛皮にはイラクサの葉がたくさんついていたが彼は気にして
いないようだった。もっとも、彼の毛皮ではたびたび色んな物がくっついてそうだが。

「自己紹介をしていなかったな。俺はライオンハート。一族の副長だ。こっちはホワイトストーム。」

ホワイトストームは紹介されたのにまた鼻を鳴らすと意見を無視されたことに腹を立てたのかそっぽをむいてイラクサの葉をむしり始めた。
だがライオンハートはまるで気にしていなくて、「あまりやり過ぎるなよ、森が死ぬ。」とだけ返していた。

「こいつの見立てではお前は来ないだろうと確信していたが、来たんだな。」ライオンハートが心底感心したようにつぶやいた。

ラスティーは良い印象を与えようと背筋をピンと伸ばし、胸を張って頷いた。正直飼い猫のあの退屈な日常には飽き飽きしていたし、何よりもスリルが欲しかった。
若い猫は大抵欲しがるスリル_ラスティーはそれを何としてでも手に入れたかった。家の人を裏切ったって構わない。あのふわふわしたベッドで一生寝られなくったって
別にいい。ただ、今の退屈な暮らしにもう少し、いや、もっともっと刺激が欲しいのだ。

「いいか。一族は集団だ。集団に馴染めない奴は出て行くしかない。ただ、刺激のある生活というわけではないんだ。それでもいいのか、若造?」

まるで心の中を見透かされたようにライオンハートは問いかけてきた。ラスティーに迷いは無かった。

「はい。」自信たっぷりに頷く。その動作を見たライオンハートが満足そうにうなると、ホワイトストームに行くぞ、と声をかけた。

「いいか、キャンプまで走るぞ。途中で付いて来られない場合は脱落だ。テストのようなもんだよ。森の中をまともに走れないようじゃ、戦士なんか夢のまた夢だ。」

「せいぜい頑張れ、若造。」ホワイトストームも横から口を挟んだ。

言うが早いかライオンハートとホワイトストームはいきなり駆け出した。再びイラクサの茂みに飛び込む。ラスティーは慌てて後を追っていった。ホワイトストームの
たくましい筋肉のついた背中は猫の尻尾四本分くらい遠くだったが、何とか見ることができた。

夜通し降り続けた雨のせいで地面はぬかるんでおり、足をつくたびに肉球が泥の中にのめり込んだ。かぎ爪の間に砂と泥が入り、思わず顔をしかめそうになったが
我慢した。ライオンハートたちは涼しい顔で走っているが、ラスティーはすでに肩で息をしていた。二匹は軽々とオークの倒木を飛び越え、水溜りも飛び越していたが、
ラスティーは倒木を必死によじ登り、水溜りの中を転びながら通り抜けた。

すでに毛はグショグショで顔はさっきこけた時についた泥で引きつっていた。彼らは小川の中を渡る時だけ速度を落としたが、ラスティーは勢いあまってつんのめりそう
になった。水が毛皮の中に染み込んできて重たくなり、気持ちが悪かったが彼らの前でそんな態度は出すまいとわざと平気な顔をしていた。

息が切れ、ラスティーの進む速度が亀並みにのろくなってきたとき、彼らはやっと止まった。てっきり住処に着いたのかと思っていたが、そうではなかった。

巨大なオークの木が四本東西南北一本ずつ生えており、空き地の真ん中にはつるんとした灰色の岩があった。岩には所々青緑色の苔がはえており、それでもはっきり
とわかるほどたくさんのかぎ爪のあとがあった。

「ここは四本木。すべての部族の猫が月に一度、満月のときに集まる集会場だ。」

「中央にある岩はグレートロックといって、族長たちが演説をするときに使う。その下にある小さな岩には副長が座るんだ。」

ホワイトストームとライオンハートがそれぞれ説明してくれたが、ラスティーはいまいちその風景がわからなかった。その様子を見たライオンハートは笑って
「まあいつか行ったときわかるさ。」と言ってくれた。


休憩もほどほどに再び三匹は走り出した。その頃にはラスティーも森の中を走るコツをつかんでいて、さっきよりかはだいぶ進むスピードが速くなっていた。
突然ラスティーの鼻の中にたくさんの猫の匂いが入ってきた。そして小さなざわめきも。

ハリエニシダのトンネルを潜り抜けると、そこは大きな空き地だった。ぐるりと四方を谷が囲っており、壁に沿って草木でつくった部屋がいくつもある。隅の方に
大きな倒木が倒れていてそこの中に尻尾が半分しかない猫がよろよろと入っていった。

空き地の真ん中で小柄な猫がうたた寝をしていた。ラスティーよりも少し、小さいくらいの大きさで手足がひょろりと長かった。その猫の姿を見た瞬間、ライオン
ハートは大きなため息をついた。

「ウィンドポー、お前は.........ッ!タイガークローはどこだッ!」

「ふわぁ?」

ぐりぐりと目をこすりながら起き上がった猫の顔を見てラスティーは絶句した。子猫のような小さな童顔。つぶらな大きな抹茶色の瞳。美しい青灰色のどことなく
ブルースターと似ている毛。そして黒い斑点模様。

間違いなく部族猫ではない。鋭さがなさ過ぎる。

「君.....ここで何をしているんだい?」

「ん?僕、ウィンドポーだよ。今日は暖かいよねぇ。」

子猫......いや、ウィンドポーはぐーっと伸びをするとライオンハートに向き直った。ちょっと垂れ目な抹茶色の瞳はとろんとしており、くるくるの巻き毛になっている毛皮
は太陽の光できらきらと輝いていた。

「タイガークローに寝床の掃除をするように言われていたんじゃないのか......」

「ああ、なんか先輩言ってましたね。」

まるで他人事だ。

「まぁいい.......。ラスティー、こいつはお前より二ヶ月早く部族にやってきた。まあ森の中でボーっとしている子猫を拾ったんだがな。間違いなく拾ってはいけなかった.....」

ライオンハートはまたもや深いため息をつくと、首をブルブルとふった。

「名前はウィンドポー。[風の足]だ。族長がこいつの気まぐれな性格を風でたとえてな....いやまったく族長は素晴らしいよホント..........」

最後のほうはよく聞こえなかったが、一族がこの__ウィンドポーという名前の猫を持て余していることはすぐにわかった。差をつけようと変なプライドがたち、
ラスティーは胸を張って澄ました顔をした。

「と、いうわけでラスティー。族長の部屋に行くんだ。ああ、命名式が終わったらウィンドポーに住処を案内してもらえ。」

嘘だろう。押しつけられた。ラスティーの気分はグッと下がり、ホワイトストームの励ましの声さえも聞こえなかった。ウィンドポーはといえば相変わらずとろんとした
目つきで空を見上げていた。不思議とそんな彼を見ていると、怒りは治まり、変に落ち着いてきた。

ここから僕とウィンドポーの部族生活記がはじまる。

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