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留学生活冒険記   

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た、助けてくれ…!(と、いわれたら…?)

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投稿 by 明日輝 Sun Dec 11, 2016 11:56 am






冒険記5






 この状況を一言で表すなら、どんな言葉が相応しいだろうか。やはり、うるさい。
これに尽きる。ナイトジャーはひとり深く頷いた。


「ないどじゃあああ、おれは、おれはあああ!うれじいよおお」


 ネズミを口いっぱいに含みながら、涙目なって縋るように言ってくるヘローフット
にナイトジャーは呆れながら手刀をくらわせた。的確に額の中心へと降ろされた攻撃
に、ヘローフットは小さく「いたっ」と漏らす


「うるせーよ。離れろ。あとそれもう十一回目な」

「しょうがないじゃないか!嬉しいんだ」


 ヘローフットの肩を力一杯押して、遠ざけようとするも彼はなかなか動かない。な
らばこっちがとヘローフットから尻尾三本分の距離を取ったナイトジャーは顔をしか
める。しかし、ヘローフットは瞬く間に詰めると、再びナイトジャーの横を陣取った。

 きらきらとした無邪気な目で小さく体を揺らすヘローフットは、楽しそうだ。おも
むろに歌いだした鼻歌は気の抜けるような呑気な協調で、彼らしいと言えば、まあ彼らしい。


 あの後、送迎会は無事に開始された。送迎会と言うか、ただの食って踊るお祭りな
のだが、当然そこに突っ込むものはいない。主役はナイトジャーでありそこに疑い
の余地はないが、周りを見渡すと、個々で楽しみに浸っている気がする。

他部族のみなさーん、責めるなら今ですよー、とナイトジャーは少しおどけて心の中
でそんなことを言ってみる。それくらい、キャンプは悪く言って無防備だった。こっ
ちは、緊張で獲物がのどを通らないと言うのに。ナイトジャーは不満に口をへの字に曲げた。


「なあ、ナイトジャー」

「なんだよ」

「俺は嬉しいよ」

「ああ、そうか」


 もう、何も言う気になれない。ナイトジャーはほぼ上の空で、なんとなく親友に相
槌を打っていた。ヘローフットは何を思ったのか、体をくねくね曲げ始めた。「跳び
上がるほど嬉しいの舞~」だそう。知るか。


「ないっとじゃー!おめでとう!」

「ちょ、ちょ、飛ぶな!まっ、あ!」


 子猫のような高い声に続いてカナリーボイスが飛び込んできた。カナリーボイスの
体重やら勢いなどはすべてナイトジャーが受け持つはめになり、ナイトジャーはボ
フっと後頭部から地面に突っ込んだ。


「あっ、ごっめーん!」

「思ってないだろ。というか、お前、さっきも来たじゃんか」

「あれ?そだった?まあええやん!」


 埋もれるナイトジャーの上でがばっと上体を起こし、さらっととぼける。ナイトジ
ャーが強引に起き上がるとカナリーボイスはそのまま後ろ向きに一回転して、立ち
上がる。そのまま後ろ足で跳び、一瞬で額と額がくっつきそうなところまで持ってくる。

 ナイトジャーは無表情で一歩下がると、再び近づいてくるカナリーボイスを手で制した。


「おい、レンフェザーは?」

「レンちゃん?そこらへんにいると思うけど……。っていうか、私とレンちゃんセット
だと思ってる?!」

「いや、あいつがいないとお前が止まらないからな」

「んまーあ?もちろんレンちゃんも大好きだけどぉ。私としてはぁ、ヘローフットと
セットになりたいなあ、なんちって」

「そっちかよ」


 恥じらいながら言うカナリーボイスに突っ込みを入れつつ、ヘローフットを見る。
どうやら、聞こえていなかったようで、ネズミをつついていた。幸か不幸か。どいつ
もこいつもテンション高すぎるんだよ。ナイトジャーはこっそり唾を吐く。

 ナイトジャーが首を巡らすと、こちらにむかう猫が見えた。レンフェザーだ。彼女
もまた、ナイトジャーらと同期の戦士。無口で何を考えているか分からないが、美
味しいものと可愛いものには目がない。


「……」

「……」


 目が合ったナイトジャーとレンフェザーは、お互いにかける言葉が見当たらず、ぺ
こんと会釈する。ナイトジャーは気まずさに目を逸らした。別に仲が悪いわけではな
いのだ。そう、悪くなんかない。


「んん?前から思ってたんだけど、ナイトジャーとレンフェザーって、仲悪いの?」

「……いや」

「……」

「カナリーボイス!こっちにこい」

「はっ!ヘローフット!はい、たとえ火の中水の中!」

「それは危ないからこなくていいよ」

「ずきゅーん!カナリーボイス、優しいヘローフットに首ったけです~」


 顔を真っ赤にして、もじもじするカナリーボイスにははーと笑いながら、ヘロー
フットはナイトジャーを見て、ニマニマ笑っている。ナイトジャーは覚えてろよ!と
念を送るが、ヘローフットはどこ吹く風だ。


「ええと……」

「……」

「……」

「……おめでと」

「……ありがと」


 会話が続かない。正直泣きたい、そう思いながらナイトジャーはヘローフットに助
けを求める。しかし、ヘローフットはカナリーボイスの下敷きにされていて、彼も彼
で助けが必要そうだった。


「うっわ、なんですかこれ。どういう状態ですか?……修羅場?」

「断じてちがーう!」


 彼らを助けたのは、ラークトピック。ヘローフットの弟だった。金縛りのような空
間から解放されたナイトジャーは安堵を漏らす。いつもはおとなしいくせに、たまに
こう、変なことを言うものだから、油断ならない。この兄ありて、この弟あり。


「はいはい、行った行ったぁ。今は俺とナイトジャーの親友水入らずの時間なんですぅ」


 ぷんすか、と怒りながら手をひらひらと振ったヘローフットの言葉に、レンフェザ
ーが回れ右をする。それに続いて、ラークトピックが「嫌だぁ」と泣き叫ぶカナリー
ボイスを引っ張って連れていき、再び二人になる。とくに何を話すでもなく、ただ座
っていた。

 空を見上げると、当たり前のように星が輝き、月が光っている。煌々とした三日月
に、思い上がりか、スター族様の期待が込められている気がして、重くなった肩。ナ
イトジャーは人知れずため息をついた。


「不安か?」

「え?」


 唐突にかけられた声に驚いて、ナイトジャーは目を見開く。首だけを回して、声の
主を探れば、そこにはカイトテイルがほんのり笑いながら立っていた。今日一日、族
長に振り回された副長の顔は少しやつれていて、忙しく働いた証拠として、毛が乱れ
ている。それでも、かっこよさが消えないカイトテイルは、本当にすごいとナイト
ジャーは思った。


「ええ。そりゃあ、まあ、不安ですよ」


 ナイトジャーらの正面に回り込み、どさっと乱暴に腰を下ろしたカイトテイルに、
ナイトジャーは遠慮がちにそう言った。落ち着きをしらない尻尾が地面をこすって
いるのを感じる。


「え、マジで?いいじゃん、留学生。楽しそうでよォ。副長も、そう思いますよね?」

「ああ、そうだな。その通りだ。そんなに深く考えなくてもいいと思うぞ?」


 ヘローフットが、いつの間にか持ってきていた兎に齧り付きながら、目線だけをナ
イトジャーに向け、ケラケラと笑っていた。その姿は深刻に悩んでいるナイト―
ジャーを滑稽だと笑い飛ばしているようで、またこれから旅立つ親友を勇気づけて
いるようでもあった。

 しかし、ナイトジャーはヘローフットのように、素直に楽しむことはできない。


「ですが」


 言葉にできない、複雑な心情を持て余し、ナイトジャーは紡ぐ言葉を失う。所在
なさげに空を切った尻尾が振り下ろされ、軽く砂埃を上げる。

 そんな苛立っているような後輩を見て、カイトテイルは普段の厳しく真面目な彼ら
しくない柔らかな笑みを浮かべる。


「大丈夫だよ、お前だもん。ターミガンスターを見てみろ。あんなんで族長なんだ
ぞ?族長に比べりゃあ、留学生何てただのお使いだ。」

「お使いにしてはちょっと長すぎやしませんか?!」

「ヘローフット口を挟むな!ターミガンスターはあんなんだけど、すごいやつだよ。
あいつが族長であることを不満に思う奴はいるか?否、いない。いるわけがないん
だ。それは、あいつがすごいやつだって知っているから。だから、皆あいつを信じる
んだ」


 ナイトジャーはカイトテイルが語っていることにポカンと口を開いた。どれもこれ
も、いつもなら口が裂けても言わないような言葉ばかり。

 おかしなきのこでも食べたか、と疑いたくなったが、カイトテイルの目を見て息を
呑む。三日月と同じ色をしたその目には、親友への深い信頼が浮かんでいた。ナイト
ジャーは、恥ずかしさに自分の頬が火照るのを感じた。


「お前もそうだよ、ナイトジャー。お前がすごいやつだってことを、俺が知ってい
る。ターミガンスターが知っている。ヘローフットが知っている。お前の友達が、家
族が、一族が、知っているんだ。だから、俺たちは胸張ってお前を送り出す。最高の
戦士だってな」

「最高だぜ!」


 白い八重歯を覗かせて笑ったカイトテイルと、器用にも親指を立てて突き出してき
たヘローフットに、ナイトジャーは何も言えずに目を見開く。最高、とまで言われた
むず痒さが襲ってきて、歯がうまくかみ合わない。


「でも、俺はそんな風には思えません」

「思え」

「自身を持てません」

「持て」

「俺にできるでしょうか」

「決まってる」

「でも」


 なんというか、認めたくなかった。カイトテイルに甘えるようなやり方だと分かっ
ていながら、それを副長に問う。カイトテイルは目を細くし、ナイトジャーの心を見
透かしたように答えてくれた。


「俺は、」

「男は黙って背中で語れだ!オラ!」


 その刹那、ナイトジャーの横っ面にヘローフットの拳がのめりこんだ。猫パンチと
いうには強烈すぎるそれに、ナイトジャーは驚きを隠せないままヘローフットを見つ
める。じんじん痛みを主張する頬に手を当てるのは、格好つかないので、歯を食い
しばって我慢する。

 ヘローフットは額に青筋を浮かべてナイトジャーを睨んでいた。能天気なヘロー
フットはどこに行ったのやら、小さな舌打ちを繰り返している。


「さっきから黙って聞いてりゃあ!……黙ってなかったけども!なよなよしやがって!
ああ?自信がないだあ?なんだよ、嫌味かよ!この野郎!」

「え、あ、はぁ?」

「俺にはわかるぞ!なんてったて親友だからな!怖いんだろ、怖くて寂しんだろ。だ
から立つのを嫌がる。子猫だな!いいか?誰が何と言おうとお前は最高なんだぁ!」

「ちょ、ヘローフット、落ち着けって」


 ナイトジャーは怒りに興奮するヘローフットをなだめようとするも所詮焼け石に水
だった。一族がなんやなんやとヘローフットたちに視線を向け、聞き耳を立てる。ヘ
ローフットはそんなこと気にも留めない様子で、引き続き怒り心頭だ。

 ナイトジャーは助けを求めるようにカイトテイルを振り返るが、副長はにやにやと
笑って傍観しているだけだった。のらりくらりと躱せるような状況でもない。ナイト
ジャーは諦めてヘローフットに向き直った。


「だいだいお前はいつもかっこいいんだよ!なんでもさらっとこなしやがってさ。
あれだろ?お前努力とか汗臭いもん嫌いだろ。けっ、これだからクール野郎は」

「……」

「副長も言ってたがぁ!お前はすごいんだ!それを笑う奴は俺がぶっとばぁす!
『俺に任せとけ』とか言っとくくらいで良いんだよ、英雄さんよ」

「英雄って……」

「英雄だよ。ファイヤスターもびっくりの、だ」


 おどけて笑うヘローフットをどのくらい見つめていたのか。ふと、結論に至ったナ
イトジャーはふっと笑って目を伏せた。顎を上げ、したり顔をかますヘローフットに
向き合うように立ち上がった。やっぱりこいつには敵わない。ナイトジャーはヘロー
フットに言い放った。


「俺に任せとけ」






ファイヤスター「へっ、まだまだ俺様には敵わねぇなぁ」
サンドストーム「……」
ファイヤスター「すいませんでした」

……

こたつが欲しい




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投稿 by 明日輝 Thu Jan 19, 2017 6:16 pm




冒険記6 『破壊神、降臨』










「兄貴ィ、そろそろなんじゃねえ?」


 そこは、薄暗く、霧がかかり、陰険な雰囲気の漂う、嫌な場所だった。寒くも暑く
もない丁度いいはずの気温が生ぬるく感じる。ごつごつした岩場はどこまで続い
ているのだろうか。途中で切れて崖になっていても霧のせいで分からないだろう。

 白猫が首にかけた大きな赤い勾玉を揺らしながら、地面に突っ伏して退屈そうに伸
びをした。
 真っ白な、猫だった。自然界でとっても目立つ、色素が抜け落ちた、白。眠そうに
開いた瞳までも白く、薄い。異端。白猫の姿はそれそのものだった。


「そう焦るなって」


 白猫が、兄貴と呼んだ黒猫が落ち着いた声で言った。甘く優しい声の中に邪悪な気
が含まれている。黒猫は、その口角をゆっくりと開け、抑えきれない喜びをあらわに
した。

 岩と岩の間を冷たい風が吹き抜ける。心を抉るような冷たさに、栗色の三毛猫は身
震いをする。寒さ故の震えであったが、武者震いでもあった。大きくなる鼓動を耳の
奥に聞きながら、三毛猫は胸を膨らませた。


「でもまあ、そろそろかもな」


 黒猫が目を伏せながら呟いた。すっかり脱力していた白猫はその言葉を聞きつける
と耳をぴくりと揺らし、次の瞬間飛び起きた。先ほどまでのやる気のなさとは打って
変わり、やる気に満ち溢れた目をした白猫はさっそく準備体操をし始めた。


「うん、そうだな。そろそろだ」


 黒猫が立ち上がる。その動作のなかに、洗練された優雅さがあって、三毛猫は目を
見張る。それから、三毛猫も慌てて立ち上がると、黒猫の次の言葉を待った。


「それでは始めようか。僕たちの、僕の愚かで愚かな愚かなる戦いを!」


 すべてが、始まった瞬間だった。





***





「せーんーぱーいぃ、なんで冬ってあるんですかねぇ?」

「俺に聞くなよ」


 灰色の猫が寒さで逆立った毛を煩わしそうに揺らしながら、大柄なトラ猫にぶつく
さ文句を言った。深い雪の中、足を半分ほど埋まらせながら、彼らは前に前に進んで
いた。彼ら一門のマーキングの後をたどり、新しく付け直すのが彼らの仕事。


「でも、先輩。これ意味なくないですか?だいたいこの雪で、どこにマーキングしろ
と?!」


 後ろでわめく灰色の猫の言葉を、トラ猫は苦虫を噛み潰したような顔をして聞いて
いた。それは、もっともだった。もっともすぎて認めたいが、このパトロール隊のリ
ーダーである以上、それを認めたら負けである。


「おら、黙って歩け!みてみろ、あいつはただ黙々と仕事してるぞ」

「黙ってると言うか、あたしこの先輩が喋ってるの見たことないんですけど!」


 それもごもっともだとも。トラ猫は灰色の猫の後ろに並ぶブチ猫を見ながらそう思
う。無言実行を体現しているこのブチ猫は家族にでさえめったにしゃべらない。いく
らなんでも限度があるだろ!そう突っ込んだのは何回目だろうか。

 ふと、トラ猫はある悪戯を思いついた。ブチ猫に目配せすると、ブチ猫は目でやめ
るよう訴えてくるが、トラ猫は聞く耳を持たない。焦ったブチ猫は灰色の猫に目で、
警告する。


「え?なんですって?あ、しゃべるな?わかりましたよ~」

「……」

「止まれ、そこは岩だ。じゃあないか?」

「はい?……いっだぁ!」


 ブチ猫の忠告を読み間違えた灰色の猫はその鼻を岩に衝突させる。冷たい雪の中の
たうち回る灰色の猫をブチ猫が心配そうに見下ろす。トラ猫は少し離れた場所でガハ
ハと笑っていた。してやったり。


「なんで教えてくれなかったんですかぁ」

「……」

「そうだぞ、こいつはちゃんと警告してたじゃないか」

「なんで先輩はこのひとの言ってることわかるんですか?」


 涙目になって抗議する灰色の猫にトラ猫は悪戯に笑う。その顔は、わかったら黙っ
て仕事しろ、とでも言いたげだ。ブチ猫は苦笑いをしていた。


「さあ、立て。続きだ」


 そう言った直後だった。

 白い塊が降ってきた。雪の塊のようなそれのなかに、赤い勾玉が揺れるのをトラ猫
はぼんやりと認識する。白い塊が灰色の猫とブチ猫の上に落ちた瞬間、二匹が文字通
り吹っ飛んだ。


「?!」


 トラ猫は突然のことになにが起こったか理解できない。一拍おいて目を見開いたト
ラ猫に、起き上った白い塊__白猫はその牙を見せた。白猫の顔は狂気の笑顔に染ま
っていた。

 それぞれ別の方向に飛ばされた二匹がのそっと起き上がる。雪がクッションの役割
をしてくれたようだ。もし今が夏だったら二匹とも死んでいただろう。トラ猫は安堵
にため息をついた。

 その、わずかな隙を見せた一瞬だった。本当に、一瞬だった。再び前を見た時そこ
に白猫はいなかった。代わりに、視界に真っ赤な鮮血が映っている。


「あ……ああああ!」


 肩を深く切り裂かれていた。とどめなく流れる血に、乾ききった喉から絶叫を上げ
る。顔面から雪に突っ込み、痛みに耐えるように雪を咀嚼するトラ猫を、白猫が滑稽
そうに笑う。


「先輩!」


 灰色の猫が金切り声で叫んだ。怒りに血走った灰色の猫が、白猫に真っ直ぐ衝突す
る。的確に、殺すつもりで白猫の首筋を狙った渾身の一撃であった。白猫はそれを、
いとも簡単に、ハエを払うように躱す。そのまま、体を回し、灰色の猫の小柄な体に
蹴りを入れた。

 腹を蹴られた灰色の猫は血を吐いて、飛ばされる。薄れる意識の中、灰色の猫はう
うーとうなった。


「まずは、お前だな」


 楽しそうに言った白猫は一歩一歩を噛みしめるように灰色の猫に近づく。狂った猫
の爪の前、灰色の猫は圧倒的な力の前にぎゅっと目をつむった。ああ、振り下ろされ
る“白”が首筋に……。


「おおおれを!みぃやがれぇぇえええ!」


 終わる。そう思ったとき、灰色の猫の、白猫の脳天をつんざくような怒号があが
る。トラ猫だった。体中を赤く染めながら、地響きのしそうなほど、叫ぶ。


「ああ、いいね」


 白猫の軽い体が宙を舞った。トラ猫が稼いだ一瞬、そこでブチ猫が白猫に体当たり
したのだ。白猫は空中で一回転すると、綺麗に着地する。が、すぐに吹き飛ばされ
る。ブチ猫は的確にトラ猫のところへ白猫を飛ばした。

 待ってましたと言わんばかりに目を輝かせたトラ猫がスライディングで白猫と地面
の間に滑り込み、そのむき出しの腹を切って、離脱する。


「いいね、いいね」


 白猫は腹を切られたと言うのに楽しそうだった。むしろ、さっきより生気に満ちた
ような輝き方をしている。白猫は後ろ足にぐっと力を溜め、バネの要領で跳び上が
る。低く飛ぶ白猫の爪がブチ猫の右目を裂く。

 しかし臆さないブチ猫はそのまま白猫を捕まえ、齧り付いた。白猫は反動をつけて
ブチ猫を蹴ると、地面に叩きつける。そのまま何度も何度もブチ猫を蹴った。


「俺を!忘れるな!」


 その背中を噛んだトラ猫が自分の体ごと白猫をひっくり返した。おとなしくひっく
り返るはずもないので、トラ猫は後ろ足に噛みつかれる。


「先輩!今、助けに」

「逃げろ!」


 灰色の猫の言葉を遮ったのはブチ猫だった。初めて聞いたその声は、有無を言わせ
ぬ何かに溢れていて、灰色の猫は固まる。ブチ猫はすぐに参戦していた。


「逃げろ!お前だけならいける!早く!」

「そうはさせないぜっと」

「行かせねぇ。俺たちの大切な後輩だ」

「ふん、野良猫風情が!」


 トラ猫に飛び掛かる白猫を横からひっつかんだブチ猫が、出来るだけ、灰色の猫か
ら離すように投げ飛ばす。灰色の猫は転がる白猫がほぼ無傷なことに気が付いた。比
べて、先輩二匹は誰かわからないほどに傷だらけで血まみれだった。


「でも!」

「大好きだ!」

「……!」


 トラ猫とブチ猫、どちらが言ったのだろうか。戦場のなか、飛び込んできた言葉に
灰色の猫ははっと気が付く。瞬きをして開いた灰色の猫の目は覚悟が浮かんでいた。


「先輩のばぁかぁぁああ!大好きだぁぁああ!」


 灰色の猫は泣き叫ぶように言うと、身を翻して住処のある滝までただひたすらに走
った。寒いとか、積もった雪で走りづらいとか、そんなことは頭になかった。ただ、
仲間のもとへ。一秒でも早く!


「絶対に助けに来ますから!」




 鳶のような速さで帰った灰色猫が、仲間を引き連れて、戻ったとき、さきほどの戦
場は静まり返っていた。

 赤く染まった動かない二匹を残して__




***




「ったぁく、手のかかる後輩だぜ」


 灰色の背中を見送った後、トラ猫が呟いた。まだ油断はできない。ブチ猫がさらに
白猫を吹き飛ばした。


「兄ちゃん、最期に愛の告白かい?かっちょいいねぇ」

「うるせぇ!それにこれは最期じゃない!」


 隣でブチ猫もうなずく。三匹が同時に跳んだ。再び交わった三つの牙が、爪が、交
差し鮮血を生む。白猫が踊るような身の軽さで二匹の攻撃を躱すのに対し、体力も限
界に差しつかる二匹はボロボロだ。


「……!」


 ブチ猫が飛ばされた。白と黒の彼は少し唸った後、動かなくなる。トラ猫は体の中
の力が抜けていくのを感じた。怒りで視界が赤く染まる。それは、トラ猫の中で確か
な力として返還される。


「いいねぇ、兄ちゃんが時間稼ぎしないと、あの子がやられるもんな」

「あいつは傷つけさせない」

「おお、かっこいい。ああ、かっこいい」


 空気が変わった。今までどこか飄々としていた白猫の目が、本気に。トラ猫はその
圧倒的な威圧感に戦慄を覚える。


「……っ!」


 首を切られた。血が噴き出る。滝のごとく流れる血の量に、頭が重くなり、立てな
くなった。視界がゆがむ、傷が痛い、息が苦しい。ああ、つらい。


「……んらぁ!」


 舌を噛んで気絶を防いだトラ猫は、勢いそのまま白猫の首筋に飛びつく。不意を突
かれた白猫は反応できず、首を噛み千切られた。トラ猫は、そのまま雪に突っ込む。
どれだけ動けと命じても体動かない。軋む、もげる、痛い、痛い。


「兄ちゃん、すげーよ。でも、俺様には敵わないんだ」


 最期に聞こえた、慈悲を含んだ言葉。愛する猫を思い浮かべたトラ猫の意識が、



__暗転、消えた。





***




 破壊神、ここに降臨__





新年初投稿が、こんなんでなんか申し訳ないです汗




明日輝
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投稿 by レパードクロー Sat Jan 28, 2017 8:07 pm

明日輝sの作品はするすると文章が頭の中に入ってきてとても読みやすいですね。
一気に読んでしまいました。
破壊神、降臨という言葉の響きにぶるぶると震えが止まりませんッ
また文章中に猫たちの名前がでてきていないのも好きです。

続きを楽しみに待っています。
レパードクロー
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投稿 by 明日輝 Mon Mar 06, 2017 3:38 pm

レパードクロー wrote:明日輝sの作品はするすると文章が頭の中に入ってきてとても読みやすいですね。
一気に読んでしまいました。
破壊神、降臨という言葉の響きにぶるぶると震えが止まりませんッ
また文章中に猫たちの名前がでてきていないのも好きです。

続きを楽しみに待っています。


読みやすいだなんて……!
もったいないお言葉ありがとうございます!

『灰色の猫』『トラ猫』『ブチ猫』……と、
名前を出さずに、分かりにくいかな?と不安でしたので、
そう言っていただけるととても嬉しいです!

もう少ししたら更新を再開します。
気長に待っていてくださると光栄です(*^-^*)
明日輝
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投稿 by 明日輝 Mon Mar 20, 2017 12:44 pm






この話より、本家ウォーリアーズのキャラクターが登場しますが、この小説はあくまで二次創作です。






冒険記7   『茨爪と流れ星』




 流れ星が、落ちた



***



 ブランブルクローは、午後の暖かい陽気の中、こくこくと船を漕いでいた。

 まだ食べかけのネズミが前足の前に転がっている。今寝たら、ダストペルトあたり
に「行儀が悪い!」と怒られそうだ。そう思いながらも、眠気には逆らえない。体が
ぬくぬくと緩み、瞼は石のように重い。もうひと思いに寝てしまおうか。


「ほら!ブランブルクロー、起きろ!」


 誰かに肩を突かれ、はっと目を開ける。暫くぼうっと宙を見つめたあと、のんびり
首を曲げる。我ながら訛ってるな、と思う。ブランブルクローを起こしたのはグレ
ーストライプだった。頭が冴えてきたブランブルクローは、恥ずかしくなり、下を向
きながら、すいませんともごもご言う。グレーストライプは、可笑しそうに口をあけ
て笑った。


「気持ちはわかるけどな!最近ほんっとに平和だもんな」

「ええ。まあ、平和でなによりですけど」


 そうなのだ。今、部族はかつてないほどの平和を迎えている。枯葉の季節は雪も少
なく寒さも緩ければ、グリーンコフのグの字もない。青葉の季節も適度に雨が降る。
獲物は豊富。各部族、子猫も充分に生まれ、不穏な事件もない。二本足も怪物も姿
を見せないし、アナグマやキツネさえも姿を消した。

 当然、そんな条件下の中で部族間の争いが起こるはずもない。皆が、どこかのほほ
んとした平和な毎日を送っている。


「でも、こうもまあ平和だと、俺たちスター族の存在意義を見失うよな」

「仕事がまったくないですもんね」

「まったくよ、もう、私なんかすっごく大変だったんだから!」


 冗談っぽく嘲笑したグレーストライプになんとなく相槌を打つと、向かいに座るス
ポッティドリーフが膨れた様子で立ち上がった。それから彼女は、今までのことを思
い出したのか、嫌そうに顔をしかめた。


「その節はどうもお世話になりました」

「ホントよ、あなたもファイヤスターも、問題しか起こせないんだもの」


 私が火消しのためにどれだけ走り回ったことか……。思い出したように不満をぶつけ
るスポッティドリーフを、グレーストライプが優しくなだめる。グレーストライプ
が、甘い木の実を勧めると、スポッティドリーフはぶっきらぼうながらも、素直に食
べ始めた。流石だ。ブランブルクローは先輩戦士を見て思う。


「あれ……?そう言えば、今日ファイヤスターはいないんですか?」


 ブランブルクローは、今更といえば今更、いつものメンバーにファイヤスターが
いないことに気が付いた。「ああ」とグレーストライプが顔をあげ、ブランブルロー
に黄色い双眸を向ける。


「ブルースターやトールスターたちに呼び出されたって言ってたな」


 聞けば、それは、ブルースターが族長だった世代の主要メンバーの会らしく、たま
に開かれるらしい。グレーストライプがスラスラと並べた猫たちは、羨ましいほど華
やかな先輩戦士達だった。


「なにそれすごい」

「……と、言ってもやってることは族長の愚痴会だけどな」

「ははは。ところで、スポッティドリーフは行かなくていいのですか?」

「私?今回はイエローファングに押し付けたわ」

「なるほど」


 ブランブルクローはなにかと難癖をつけながら、渋々向かうイエローファングを想
像する。驚くほど簡単にできた。後で労りの言葉でもかけてみようか。


「おい、ブランブルクロー」


 イエローファングをいじる気満々で、計画を立てていたブランブルクローの肩を、
ポンっと誰かが叩いた。ブランブルクローが咀嚼していた獲物を飲みこみながら、振
り返ると、見下ろすように立っていたのはダストペルトだった。


「なんですか?」

「お前、今暇か?おお、そうか、暇か。良かった」

「……まだ何も言ってないんですけど」


 ダストペルトはひとりで満足してうんうん、と頷く。ブランブルクローがあのーと
声をかけても、無視をするダストペルト。

ストレスでも溜まってるのかな……。憐れむようなブランブルクローの視線を感じたの
か、ダストペルトはきっと睨んでくる。身構えたブランブルクローにダストペルトは
言った。


「お前、ちょっとパシられろ」

「……嫌ですけど」


 突然何だと驚いたが、ダストペルトが言うに、スター族のキャンプの壁に穴が開い
たらしい。ああ、そういえばすきま風がどうのって長老が騒いでたな。朝の騒ぎに合
点がいき、ブランブルクローはひそかに頷く。


「でも、その穴開けたのって、確かクラウドテイルでしたよね?なんで先輩がやんな
いんですか?」

「俺が、クラウドテイルに、やらせようとしなかったとでも?」

「……」


 脅すような口調な中に感じる、ダストペルトの疲労感に、ブランブルクローはお疲
れさまですと頭を下げた。でも、雑用なんてごめんだ。今でも十分ファイヤスターに
こき使われているというのに……!


「スートファーや、レインウィスカーはどうでしょう?なんなら、妹のソーレルテイ
ルも」

「後輩を売るな」


 ダストペルトのじとーっとした視線を、耳を折って跳ね返す。俺はやりませんよ。
ダストペルトに態度で示した。先輩を遮断するように、焦げ茶色の尻尾を体に巻き付
けると、ダストペルトはため息をついた。諦めましたか?ならさっさと行ってくださ
い。


「残念だがな、お前と違ってみんな忙しいんだよ」

「そんなバカな。こんな平和なのに」

「平和だからだ。平和すぎて引退した重鎮から問い合わせが殺到している」

「あー」


 そっちか、納得。あの人たちはうるさいからなー。ブルースターより、さらに前の
世代。身を引き、隠居生活を送っている彼らは仕事をしないくせに、やたらとうるさ
い。おおかた、嵐の前の静けさがどうとか、騒いでいるのだろう。

 ブランブルクローは大あくびをひとつした。食べ終わったら、眠くなってしまっ
た。これもかれも、平和なのが原因……。一眠りしようかと、身づくろいをしている
と、ダストペルトにぴしゃりと叩かれた。まだあきらめてなかったんですか?


「歓談中悪いけど、ちょっといいかしら?」

「ええ、もちろんです、サンドストーム。たいした話じゃないんで」

「おい」


 申し訳なさそうに目尻を下げて、話に入ってきたサンドストームを、ブランブルク
ローはそっと微笑んで迎えた。ダストペルトがドスを聞かせたが、気にすることはな
い。サンドストームは、良かった!とホッとしたように笑って、耳をピンと立てた。
先輩戦士の可愛らしい姿に、ブランブルクローはきゅっと目を細める。


「あのね、最近暇で体が鈍ってるから、戦いの訓練をしたいって戦士が多くて……。良
かったら手伝ってくれない?」

「いいですよ。それで、どこでやるんですか?」

「ありがとう!えっとね、柊の大木の側がいいと思うんだけど」

「そうですね、じゃあすぐに」

「ちょっと待った」


 始めましょうか、というブランブルクローの言葉を遮ったダストペルトは、もの言
いたげな目でブランブルクローを見た。「どうかしましたか?」紳士的な笑顔でそ
う聞けば、胡散くせぇ、と舌打ちされた。失礼な。ブランブルクローはダストペルト
に体ごと向き直った。


「知ってますか、先輩。女性には優しくしなくちゃいけないんですよ」

「知ってる?ダストペルト。日頃の行いが大事なのよ」


 サンドストームも、ブランブルクローに乗ってきた。悔しがるダストペルトを面白
そうに眺めるサンドストームの、悪戯に上がる口角をみて、確信犯か、とブランブル
クローは笑った。



***




「あ、流れ星」


 ブランブルクローはきらりと薄く光る星を見つけた。やけにゆっくり流れるな。サ
ンドストームや、ダストペルト、後ろのグレーストライプ気が付く。スポッティドリ
ーフは立ち上がって眺めていた。

 綺麗だ。心を奪われるとはこういう感覚か。神秘的な流れ星を眺めて、うっとりと
する。体の芯から震え上がらせてくるような、壮大さ。スター族となった今、星は一
層近く感じられる。


「ああ、ああ……」


 皆が消えた流れ星の余韻に浸っているなか、スポッティドリーフが弱々しく震える
声を上げた。そのただ事ではない雰囲気にブランブルクローは振り返る。スポッティ
ドリーフは三毛柄の毛を逆立たせ、目を戸惑いに揺らしていた。


「大変……。ああ、どうしよう……」

「スポッティドリーフ?落ち着いてください」


 グレーストライプが自分の肩を押し付け、ゆっくりと撫でる。過呼吸のように激
しく動揺するスポッティドリーフの目から涙が一滴、こぼれた。


「伝えなきゃ……!」


 スポッティドリーフが駆け出した。向かう先は、ブルースターたちがいるところ。
ファイヤスターがいるところ。サンダー族の戦士たちは、美しい看護猫を追って、走
った。仲間からも一目置かれる彼らの全力疾走に、猫たちが何事かと目を見開く。


「スポッティドリーフ?どうしたの?」


 ブルースターが飛び込んできたスポッティドリーフに驚きを隠さず、尋ねる。普段
激しい運動はしない彼女は、苦しそうに肩で息をする。会のメンバーがぞろぞろと現
れる。誰もが、よくわからずに首を傾げている。唯一、察したように息を呑んだイエ
ローファングに、ブランブルクローは嫌な予感がした。


「英雄の影に、死神あり」


 スポッティドリーフは張りつめていた何かを切らしたように、その場に倒れこん
だ。



***



「英雄というのは、誰のことかしら」

「もう死んでいるので、ファイヤスターってことはないでしょうね」


 落ち着き、規則正しい寝息を立て始めたスポッティドリーフにその場にいる皆が一
安心すると、ブルースターが疑問を持ちかけた。グレーストライプが答え、同意する
ように頷いた。


「それはつまり……あいつのこと、でしょうか?」


 偉大なるメンバーに委縮しながらも、恐る恐る発言すると、誰も言葉を発さなくな
った。無言は肯定か。ブランブルクローは頭がキリキリ痛みだすのを感じた。


「残念だが、そういうことだろうなァ」


 歯ぎしりするような声を絞り出したのは、レッドテイル。黒猫はイライラと先の
赤い尻尾を揺らしている。ライオンハートが肩でレッドテイルの肩を突き、なだめ
た。


「死神、これが意味わからんな」

「イエローファング、何かわかる?」

「あたしゃ、あの子ほどの才能はないもんでね。よくわからんが、ただ__」

「ただ?」

「とてつもなく、強大。それだけは確かだろうね」


 イエローファングは、徐々に小さくなった語尾を濁すように漏らした後、左耳を折
り、何かをこらえるように斜め下を向く。これだけの猫がいるのに、静寂が広まる。
呼吸の音さえ響かない。

 ブランブルクローはごくりと唾を飲む。胸を上げ下げして深呼吸した。緊張感に耐
えられそうになく、ひげをぴくぴくと振動させる。


「ああ、くそ!どうすれば!?」


 ファイヤスターが、勢いよく地面を叩いた。怒りに燃えた彼のエメラルドと、交わ
る視線はない。ファイヤスターは虚ろ気に宙を仰ぐ。何もわからないが、何となくわ
かる。その怖さが胸にこみ上げて、浸みわたる。暗闇の中を歩いている気分だ。


「山……」

「山?どういうこと?イエローファング」


 ポツリとこぼれたイエローファングの小さな声だったが、沈黙の中では聞き逃され
ない。闇のなか、見つけた小さな石ころ。それでも、拾わざるにはいられない。ブル
ースターの飛びつくような問いかけにイエローファングが驚いて目を見開く。


「流れ星は、山の方に落ちたはずだよ」

「英雄に、山、か……」


 その二つが表すことはもうひとつしかない。ブランブルクローは背筋が凍り、全身
を震わすように毛を逆立てた。そんな!悲鳴を上げたい気分だが、喉がカラカラに乾
ききり、声などとても出そうにない。


「どうするの?」

「行くしかないですよ、死神のところに」


 決まってます、そう前置きしてから、ファイヤスターが落ち着いた声で言った。か
つての英雄は立ち上がる。ずるいほどにタイミングのいい月に後ろから照らされ、炎
が浮かび上がった。

いつの間にか取り戻した輝きを放つ、エメラルド。それは、ブランブルクローが最も
尊敬し、信頼する、大好きな光だ。






ようやく冬が終わって、暖かくなってきましたね(´ω`*)
早く桜が見たいです




明日輝
明日輝
年長戦士
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投稿数 : 182
Join date : 2015/05/15

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