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とてもとても長い、たった一夜のこと。【ウォリクラSS】

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投稿 by 吉祥 Fri Aug 03, 2018 10:16 pm

雲ひとつない空。
きっと綺麗な月が昇ることだろう。

勝手に名前を借りています
だらだらと書き進めます

吉祥
新入り戦士
新入り戦士

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投稿 by 吉祥 Fri Aug 03, 2018 10:22 pm

「お前なぁ、名前が子猫だからって仕事しなくていいってわけじゃねえんだぞ。」
「名前だけじゃなくて体格も子猫ですわよ?」
「それだけの知能と知識を、何にも活かすことなく、キャンプの中で暇を持て余すのはもったいないと言っているんだ。」
「要は、キャンプでヴァイオレットフォックスが吉祥さんのことを何回見たかとか、それに気づいた吉祥さんが何秒で目をそらすかとか、恥ずかしそうに尻尾を振ったとか、それをカウントされるのが嫌なだけでしょう?」
「誰だって嫌だろそれは!適当言いやがって!それだけのことをいちいち覚えているはずがない!」
「最速で1秒43で気がついて、少なくとも今まで21回は目をそらして尻尾を振るっていうコンボ決めてますよ。」
「お前はよほど暇なようだな。よかろう。名前はそのままでいいから戦士として扱ってやろう。これで明日以降、『子猫だからキャンプから出ちゃいけないんですぅー』なんて言おうもんなら、埋めるからな!」
「どこに?」
「川の底。」
もちろんライトニングキットは、実際にヴァイオレットフォックスの視線や吉祥の身動きなど監視していなかったし、子猫だからキャンプでから出られないなんて、そんな事を言ったのは吉祥にしかない。
吉祥はおそらくそれをわかった上でからかっているのであろう。
「ほら、分かったなら狩りにでも行くんだな!」
「私子猫だからキャンプから出ちゃいけないんですぅー! ...まってまって!明日以降って言ったじゃん!!」
「...」
「怒ってる?私言い過ぎちゃった?」
「怒ってないから行ってこい。」
「よかった!」
吉祥は、ライトニングキットの去り際、彼女の尻尾を前足ではたいた。

時刻は夕刻。
まもなく日が落ち、また夜がやってくる。

「あ、そうそうライトニングキット。」
「んぁ?」
子猫にしては随分だらしない声だ。

「戦士昇格、おめでとう。」
「あ、ありがとう?」
「めでたく今夜は寝ずの番だ。」
「ふぁっく。」

今夜はなんだか、長い夜になる気がする。



日は落ちて、月が明るくキャンプを照らす。
ライトニングキットが少し不機嫌に寝ずの番をしている。
吉祥は看護部屋の前に、ヴァイオレットムーンを見つけた。
「やあヴァイオレットムーン。キャンプの外を眺めて何をしているんだ?」
「あ、族長。いろいろ考え事を。」
「例えば?」
「そうですね... 月に傘がかぶってないから、明日は晴れるだろうとか、エルフさんが薬草を探しに行ったまま戻ってないなとか、看護部屋の奥で飼ってるヘビに、生きた獲物を運びたいなって思ったりですね。」
「晴れるのはいいことだ。エルフはどうしたんだ?まさかヘビの餌まで探しに行ってるわけじゃあるまい?」
「ええ。ヘビのことはまだ話してませんから。」
「よし、ちょっと探してくる。」
「どっちを?」
「私1匹で平気だよ。」
「だからどっちを?」
「夜の森は危険だからな。ついてくるんじゃないぞ。」
「どっちを探しに行くんですか!?」
「エルフに食べさせるヘビと餌の両方!」
「えぇ、どういう意味なんですか?」
ヴァイオレットムーンは呆れたようにこちらを見ている。
それに構わずキャンプの出口に向かう。
道中のライトニングキットに、小声で囁く。
「ヴァイオレットフォックス、カメラ向けた時に恥ずかしがって顔を隠すのが可愛い。」
ライトニングキットが驚いて口を開くも、寝ずの番なので口を聞けないのを思い出し、何か言いたげなまま悔しそうに口を閉じた。
なにやらジェスチャーをしているが、見終わる前に背中を向けて歩き出す。
からかってやったぜ。 まあ、明日何を言われるか分かったものではないが。

月はまだ昇ったばかりだ。



夜の森を1匹で歩くのは、とても気持ちがよかった。
猫に転生できたのはいいが、イエネコとして転生させられていたら多分今日まで生きてこられなかっただろう。
こんな真っ黒だが、一応野生の猫なのだと思う。

草むらをくぐり抜けると、不意に目の前から驚いた声が上がった。
「うわっ!びっくりした!」
声の正体はヒーステイルだった。

「やあこんばんは。良い子は寝る時間だぞ。」
「良い子扱いとか、やめてくださいよ。」
「何か悪いことでもしてるのか?」
「いえいえ。そういう訳じゃないですよ?」
「じゃあなんでこんな時間に、マタタビの枝なんか咥えて歩いてるんだ?」
「...ええと。」
ヒーステイルは足元にマタタビを落とし、気まずそうに目をそらした。
「みなまでいうな。どうせ誰かに頼まれたんだろ。」
「ち、違います!これは自分用!自分用です!」
「はー。普段マタタビなんて嗜まないお前が?」
「...そうですよ。悪いですか!私がマタタビを舐めようが、別に禁止されてないでしょう!?食べますよ!?」
「なにを?」
「吉祥さんが狙う獲物。」
「地味にいやらしい。」
私の最近の流行りの口調を真似してるんだろうか?
「まあ、早めにキャンプに戻るんだぞ。ちゃんと顔を洗って!酔ったまま帰ってくるなよ!」
「はーい。」
ヒーステイルはマタタビをくわえ直し、歩き去っていった。
ヒーステイルにマタタビを運ばせるなんて、誰がそんなことをするのだろう。
筆頭はチリーレインだ。あいつならやりかねない。だが怪しすぎて逆に怪しくない。
ほかに、マタタビを必要とするような猫がいるだろうか?
あまり、ウォリクラに酒豪がいるイメージが湧かない。
まあ、あとでヒーステイルが酔っ払ってるかどうかで確かめればいい。

少し歩くと、陽気な鼻声が聞こえてきた。
こんな時間に鼻歌を歌って歩いているなんて、ますます怪しい。
草むらに隠れて誰なのか確かめる。

歩いてきたのは、スノーレパードファーだった。
マタタビの匂いを纏っている。

「お前かよ!」
「ひえっ!?」

草むらから飛び出すと、スノーレパードファーは本気でびっくりしたようで、2mくらい飛び上がった。
どすんと着地すると、あたりの小さな獲物たちがカサカサと音を立てて逃げ出して行った。
「族長!何でこんなところに!族長部屋で尊い時間を過ごされている筈では!?」
無言でスノーレパードファーの鼻面を殴る。
「いてて... すみません。酔って調子に乗っちゃいました。」
「ふん。お前がヒーステイルにマタタビを取りに行かせたのか?」
「え?ヒーステイル?知りませんけど。」
再び殴ろうと、前足を構える
「知りませんって!私が舐めたのはエルフさんから貰ったやつですよ!」
「は?エルフ?」
「そうですよお。普段マタタビは控えてますけど、あれは我慢出来なかったんです〜」
再び陽気になり、ご機嫌に吉祥の横を通り過ぎて行った。

「マタタビねぇ。」

吉祥は空を仰ぐ。
夜はまだまだ始まったばかりだ。

スノーレパードファーが歩いてきた道を逆に辿っていく。するとフロストテイルに出くわした。

しかしフロストテイル、吉祥を無視して歩き去ろうとする。
思わず尻尾を叩く吉祥。

「ンア"ア"ア"ア"-!! なにすんですか!」
「ン"ア"ア"ア"ア"!! じゃねえよ!こんな時間にこんな所で何をしておるのだ!」
「違いますよ族長。ン にまで濁点付けちゃダメですよ。ンア"ア"ア"ア"-!! こうです。」
「ン"ア"ア"ア"ア"!!」
「まだついてる!」
「ンアアアア!!」
「濁点取りすぎ!」
「」ンア"ア"ア"ア"!!
「ああ!よく出来てるのにカギカッコから外れてる!!どうやったのそれ!?」
「うっせえ!!しつけえんだよ!!」
「ン"ア"ア"ア"ア"-!!」
フロストテイルを殴ると、正しい発音で叫んでくれた。

「んで、何をしてたの?」
「2回も殴った...ぐすん。 僕はただ、なんか変な噂を聞いたからそれを広めて... じゃなくて、確かめに来てたんですよ。」
「酔ってはいなさそうだな。」
「あれ、なんだ吉祥さんはもうマタタビの噂知ってたんですね。」
「誰もマタタビなんて言ってないぞ。語るに落ちたな。」
「...元々隠すつもりなんてないですしー??」
「はいはい。いいから知ってる事教えな。」
「僕はブライトスカイから、外でマタタビを配ってるらしいって聞いただけですよ。」
「ブライトスカイ??また意外なところから。」
「そうなんですよ。じゃあ僕はこれで。」
「おう。」
フロストテイルが歩き去るのを、何もせずに見送る。
「あれっ?何もしてこないの?」
「うん。」

フロストテイルはどこか寂しそうに去っていった。



「あれ?族長も見回りですか?」
次に現れたのはフォナイフセイブルだ。
「なんだか副長たちによく会うなぁ」
「じゃあエルフさんにも会いました?」
「いんや、エルフだけ会ってない。」
「こっちはスノーレパードファーがひどく酔ったまま戦士部屋に戻ってきたから、マタタビ臭くておちおち寝てられなかったんですよ。」
「テンってマタタビ効くの?」
「多分効きます。まだ試してないですけど。」
「そうなのか。 どうやらエルフがマタタビを舐めさせてるらしい。俺も探してるんだが。」
「エルフさんが?」
「何か知ってる?」
「いえ。さっきキャンプ出てきたところですよ。スノーレパードファーのことくらいしか知らないわ。」
「そっか。ありがとう。」

フォナイフセイブルと分かれると、吉祥は空を仰ぐ。

誰かが嘘をついてる気がするなぁ。


まだまだ月は昇りきらない。
夜は終わらない。



そして吉祥は、このいざこざの主犯を見つけた!
「チリーレイン!!」
「うわっ!やべっ!」
中年猫はよたよた走る。
吉祥は駆け足で回り込み、低く唸る。
しかしチリーレインはほっとしたような声を上げた。
「なんだよ!族長か!ヴァイオレットムーンかと思ったぜ!」
「どこをどう間違えた??」
「あー?ほら、黒いところとか。」
「あいつ紫だろ。」
「そうとも言うな。 はぁー、走って損したぜ。」
その場にぐでっと座るチリーレイン。
吉祥はそいつの体の匂いを嗅いでみた。
「マタタビの匂いがしてないな。」
「マタタビ??お前さん持ってるのか?」
「いや。俺は持ってないが。」
「なんでえ、あったらお前の欲しい情報をくれてやろうと思ったんだがなぁ。」
「うーわ、めんどくさ。じゃあ、俺の欲しい情報はマタタビが必要なんだな?」
「そうだ。聞きたければマタタビをオイラに恵んでくれな。」
「じゃあ、俺が今全く欲しくない情報の質問するから、それにはタダで答えてくれるよな」
「...うーん??」
「ヒーステイルになにか話をした?」
「今日は何も話してないぞ。」
「マタタビの話を誰かにした?」
「それならしたぞ。看護猫の集会でな。マタタビをさらに美味しくする情報!」
「でもチリーレインは、マタタビを舐めていない。」
「ああ。ヴァイオレットムーンが意地でも監視してる。看護猫が看護猫を看護してるみてえだ!」
「なるほどなるほど。全く役に立たなかった!」
「だろうな!役に立てたければマタタビを持ってこい!はっはっはっはー!」
チリーレインは愉快に笑いながら去っていった。
...あいつシラフでもめんどくせえな。知りたいことは聞き出せたけど。



吉祥が歩いていると、川へと着いた。
月明かりを浴びて、川面がキラキラと光っている。
すると上流から、どんぶらこ、どんぶらこと猫が流れてきた。

「フォームダック。こんな時間に水泳か?」
「ぐわっ!ぐわっ!」
楽しそうだ。だが話が通じないのは困る。

「隊長の話が聞きたい!」
「待って今行く」
通じた。

川からアヒル足で精一杯の駆け足でこちらへ駆け寄ってくる。
体を震わすと、水をまき散らしていつものふわふわの猫っぽい体に戻った。
「隊長の何が聞きたい!?」
しかしフォームダックの顔が少し赤いことに気づいた。
好きな話でテンションが上がってるというわけではあるまい。
匂いを嗅ぐと、川の匂いに隠れてうっすらとマタタビの香りがした。
「隊長はマタタビ好き?」
「隊長は猫じゃないからマタタビは効かないよ。」
「猫姿の隊長は?」
「うーん、すごく効く!」
フォームダックはなんだか嬉しそうだ。
そうだよな!うちの子のこと考えるのめちゃくちゃ楽しいよな!!
「こんな所で何を?」
「川登りの練習!」
「なんで?」
「敵が追えない逃げ道をみつけようと思って!」
テンションが高い。
「どこでマタタビを舐めたんだ?」
「あれっ?えーと、泳いだら思い出すかも。」
あたりをキョロキョロ見回すフォームダック。現在位置を見失ったのかもしれない。
フォームダックが再び川に駆け込み、迷わず飛び込んだ。

そして辺りを見回す。

「ぐわっ!思い出しました!あっち!あっちの方に...」

彼の言う『あっち』がどこなのかわかる前に、フォームダックは川の下流に見えなくなった。

無事に帰ってくるといいけど。


ふと空を仰ぐと、月は真上にあった。

夜はまだまだ終わらない。




「おやおや!吉祥さんではありませんか!」
次に現れたのはマリンフェザーだった。
「こんな時間に私の前に現れるとは、夜の保健体育がしたいに違いありませんね!?」
「したいわけねーだろが。」
「まあ!そうでしたね!吉祥さんにはヴァイオレットフォックスがいますもんね!」
「それも違う。」
「違うならいいじゃないですか。いいからいますぐ露出しなさい!大丈夫どうせこんな時間に誰も見てませんから!」
「お前の理屈は破綻している!支離滅裂にも程があるぞ!」
「じゃあ選んでください!ヴァイオレットフォックスに愛を囁くか、私といまここで変態仲間となるか!さあ、吉祥さんがどちらを選ぶか!これはもう決まったようなもの... あ、ちょっと!無視しないで!ねえ!」

とりあえず置き去りにした。

いつにもまして頭がおかしいのと、彼女からもマタタビの匂いがしたことは、決して別問題ではないだろう。

後ろで、まるで石に激突して痛そうに呻いてそうな声が聞こえたが、私は何も知らないし何も聞こえない。

そんなことをしていても、相も変わらず月は明るく輝いていた。
夜はまだ終わりそうにない。

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投稿 by ヒーステイル Fri Aug 03, 2018 10:38 pm

続きも楽しみにしてます お体に気をつけて毎秒投稿してください
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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 12:57 am

次に現れたのは、ホワイトクラウドだった。
「今度はお前さんか。またひどく酔っ払っちまって。」
「わたしゃ今忙しいのです!通して頂こう!」
「こんな時間に泥酔したやつを見過ごすほど親切じゃないよ。事情くらいは聞かないと。」
「んぁい!」
「エルフを見なかったか?」
「んぁい!」
「どこでマタタビを舐めた?」
「んぁい!」
「…ホワイトクラウドさん酔ってます?」
「んぁい!!!」
埒が明かない。
完全に目が座っていて、ふらふらと歩く姿はたいへん心許ない。
「どこ行くの?」
「川辺の薬草を一掴み取りに!」
「なんで?」
「んぁい!」
なんでそこだけハッキリ答えらるんだよ。
「わたしゃ今忙しいのです!通して頂こう!」
そしてまたこれ。どうしようもないので道を開けると、千鳥足で川へと向かっていった。

どう見ても大丈夫じゃないよなぁあれ。




「ええい!覚悟!!」
突然上空からメス猫の叫び声が聞こえ、背中に鉤爪が食い込む!
「誰だ!?」
背中に誰かがしがみついて居る。体を揺さぶると、そいつは耐えられなくなって転げ落ちた。
「まさか敵の部族がこんな所に… って、シアクラウドじゃねえか。何しやがる。」
「あれっ!?オスだ…オスの方だったわ…。」
「落ち着け。メスの方なんかいないぞ。」
「そんなことないわ!さっきメスの黒猫が、いつもの族長みたいな喋り方で、『ライトニングクローは私のものよ。』なんて言って逃げ出したのよ!」
「シアクラウドさん酔ってます?」
「んぁい。」
「酔ってるのかよ。」
これじゃあどこまで本当なのか分からない。
あと私のメス猫版がいるっていう説もガセだからやめてほしい。
しかし、黒猫か。キャンプに黒猫はそんなに多くなかったはず。
「ああライトニングクロー!どこにいるのぉー!私がここにいながら、あなたの姿も心も、なにも私のモノにできていないのぉー!」
なんか勝手にミュージカルを始めたので、シアクラウドのことはそっとしておいた。


月はようやくてっぺんを回ったようだ。
夜は終わり始めている。


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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 12:57 am

「いっぺんひいてはぱぱのため~」
陽気な歌声が聞こえてくる。
「いっぺんひいては聖母のため〜
アいっぺんひいてはねこの子の〜」
その声のするほうをたどると、そこにはエルフがいた。

「ようやく見つけた!」
「ハァヤーレンソーランハイッハイッ!」
「なんで鋸曳き唄からソーラン節になったんだよ。」
「どっちかというと粉引ですけどね。」
「あ、うん。…いや粉引でもねえよ。」
どうやら、石を使って薬草をすり潰しているようだ。
エルフは正気なのだろうか?
「聞きたいことが山ほどあるんだけど。」
「いま見ての通りとても忙しいんです。この夜が明けてからでもいいですか?」
「いや、夜はまだまだ終わらない。作業しながらでいいから答えておくれ。シアクラウドに会った?」
「うん。会った会った。」
「なにか話した?」
「僕は彼女に薬草を渡して、「ライトニングクローに渡しておくれ。」って、ちょっと族長っぽく言いました。」
「え?「ライトニングクローは私のものよ」じゃなくて?」
「そんなこと言うと思います??」
ただのシアクラウドの聞き間違いじゃねえか。
「何を作っているんだ?」
「今ある薬草では対処出来ない病気のために、薬草を練った薬を作ってみてるんです。」
「こんな時間に?」
「ええ。アイディアがあるうちにやらないと!」
「成果は?」
「これは塗り薬ですけど、少し前は、乾かして粉にする薬も作ってましたよ。何匹か通りかかったんで、治験みたいな感じで飲ませてみました。」
「おい。…誰に飲ませたの?」
「フォナイフセイブルとか…チリーレインとか。あとヒーステイルも来ましたね。」
「んんんん??」
おかしい。今夜会ったなかでも酔ってない連中ばっかりだ。
「その薬、何が入ってるんだ?マタタビとかキャットニップ、イヌハッカとかキウイとか、その辺は入ってないか?」
「え、ぼくバーテンダーじゃないんですよ!?何と勘違いしてるんですか!?」
「…。」
てっきりエルフがマタタビをばらまいてるもんだと思っていたけど、そうではないらしい。
となると何匹か違和感のある言動をしてる奴がいる。
「ところでエルフ、ヴァイオレットムーンが心配してたぞ。あと、蛇の餌を狩ってきて欲しいそうだ。」
「あ、そう言えばヴァイオレットムーンに話してなかった!」
「いつか迷子扱いされるぞ。」
「よしじゃあ荷物をまとめて… あれ?あの薬どこいった? …おーい!返事しろー!」

薬草と心を通わせている。これが看護猫のあるべき姿…。
んなわけあるか。

月は傾いていくものの、輝きは衰えることはない。


最終編集者 吉祥 [ Mon Aug 20, 2018 1:50 am ], 編集回数 1 回

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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 12:58 am

木が茂り、トンネルのようになっている場所があった。
ここは既に発見しており、高台のような石もあり、ステージのように使えるのではないかと一部の猫達と話していた。

木のトンネルを潜り、中に入ってみると、その高台に月明かりを浴びて座っている猫が一匹いた。


「ブライトスカイ、こんなところで何を?」
「ひえっ!?な、なんだ、吉祥さんか。」

これだけの数の猫たちが出回っている中、なんでみんな一匹ずつで行動しているのだろう。

「何してんの?」
「え、ええと…。」

よく見ればブライトスカイは入念に毛繕いが済まされており、なんだかかわいらしい見た目になっている。

「ああ、そういう…」
「やっ、やめてくださいよう!普段から女装してるわけじゃないんですよう!今回はたまたま!たまたまであって…」
「いい趣味だと思うよ? 私はやんないけど…」
「吉祥さんはメスモードあるじゃないですか羨ましい」
「いねーよ!ガセだよ!」
メス版の吉祥がいるというのはガセである。

たぶん。
「吉祥さんこそ、こんなところで何を?」
「ああ、ちょっと気になることがあってな、マタタビのこと何か聞いた?」
「マタタビですか?確かに誰かから噂話みたいな感じで広まってきた気がしますけど。」
「誰から聞いたの?」
「・・・えーっと。」
「酔ってる?」
「いえ。」
「じゃあなんで覚えてないのさ!」
「ここに来ることばっかり考えてたからですよ!!!」
ブライトスカイは開き直った。
「まあ、私も誰にも言わんから、好きにやるといいよ。」
「広めないでくださいね!?約束ですからね!?」
「はいはい・・・。じゃあ俺は行くから、ごゆっくりー。」
「はーい。 って、もうしませんよ!?」
顔を赤らめてブライトスカイはトンネルを駆け抜けていった。

これがメス力というものか。私が本当に化け猫だったら、性転換くらいさせてやれるかもしれないのに。






なんだか得体のしれない気配を感じながら、吉祥は一匹で森を歩いていた。
誰かにつけられている気がする。しかし立ち止まってあたりを見回しても、なにも見当たらない。
匂いがするかと思えば、誰のにおいなのかまではわからない。

おかしいなぁと思いながら再び歩みを進めると、頭上の木の枝が揺れ、突然視界を生暖かいものが覆った!
驚いて頭を振るも、そいつは顔や背中に張り付いて剥がれない。
「ええい離れろ!噛みちぎってやるぞ!」
「どうぞ!」
「どうぞじゃねえだろ!?」
その声には聞き覚えがあった。そして張り付いているのはどうやら吸盤のようだ。
「パーシモンシード!いいから離れてくれ!いたい!」
「ぐへへへ~俺が満足するまでうねうねしてやるぜぇ~」
ダメだ完全に酔っぱらっている。
とりあえず許可もされていることだし、その触手に噛みついてみる。
「あぁん♡ もっと!もっと強く!」
「んぐぐ…」
なんつー声を出しやがる。
そう言ってやろうとしたが、触手が口を離れてくれない。
そしておいしい。

触手を思いっきり引っ張ると、ぶちんと抜けた。
口にくわえた触手が、だらんと力なく垂れる。
「あ、抜けましたね。」
「もががが…」
引っこ抜けた触手が、まだ舌にくっついている。
なんとか剥がし、触手を吐き出す。
「ご、ごめん!そこまでするつもりは…!」
「え?いいよ。痛みはない。」
「ないのかよ。」
「しかもたまに引っこ抜いておかないと触手増えすぎちゃって困っちゃうんですよ」
「ええぇ…」
知りたくなかった異形の猫の生態。
「で、どんな味がしました?」
「イカを酒に浸したような味がした。」
「そこタコじゃないの!?たまに別の生き物の触手が生えてくるから…」
「ますます聞きたくないわそんな生態。」
パーシモンシードはそこで満足したようで、吉祥から離れ、そのままキャンプの方向へとうねうね進み始めた。
「うぐぅっ...!」
もっとも、離れる時に吉祥の毛を何束も攫っていったのだが。

痛みに思わず視界が滲む。
涙でぼやけた月は、さっきよりも大きく見えた。
夜はまだまだ続く。

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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 12:58 am

キャンプから少し離れ、西の方角へ進む。
さきほど、触手うねうねキャットさんの変態が木の上に潜んでいたこともあり、高いところも警戒しながら歩いていく。
すると目の前の丘の先に、1匹猫がいるのが見えた。
「フォーニィラーク、そんな所で見張り番かい?」
「なんだかみなさん元気なので、ここにいればみんなのこと見られるかなって、思いまして。」
「どうだったの?」
「眠くてさっきからうつらうつらしてます。」
「ダメじゃーん。」
なんだか連続でテンション高い猫を相手にしていた気がするので、フォーニィラークの落ち着いた話し方に、こちらまで眠くなってくる。

「族長さーん 寝るならお部屋で寝ましょうよー」
「はっ」

寝てた。
こいつは厄介だぞ...

ともかく酔ってなさそうだし、ここから観察してたなら何かいい情報を持ってるかも。

「この辺誰か通った?」
「結構いろんな方が通りましたよ。全員は覚えてないですけど。」
「酔ってそうな猫は?」
「おおよそ半分くらいですね。あ、そういえば」
なにか思い出した様子のフォーニィラーク。
「東の方からくる猫達はおかしくなかったですけど、西の方からくる猫達はなんだかふわふわしてましたよ。」
「と、いうことは...」
ここから西でマタタビを配り、東へと戻って行ったのか?
つまり西の方向にマタタビを配ってる猫がいることになるのか?そして酔った猫は揃って東へと向かった。つまり...?

「ぞくちょー。起きてくださいよぅ」
「はっ」
また寝ていた。難しいことを考えるのは性にあわない。

「ありがとうフォーニィラーク。すごく参考になった。このまま監視を続けるかい?」
「いえ。もう寝ます。」
「マイペースだなあ。」
「まあまあ、もうこんな時間ですよ?そろそろ寝ないと...」
フォーニィラークがカクッと崩れ落ちた。
「今度はお前が寝るのか!」

キャンプまで運ぼうかとも思ったが、面倒くさいのでやめておいた。

月はまだ光り輝く。

それに、私にはまだやらなきゃならないことがある。

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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 12:59 am

また薬草の匂いだ。
薬草の匂いを辿ると、クリーム色の毛色が見えた。
「ごきげんようアスターハート。こんな時間に薬草探しか?」
「あら、こんばんは族長。ちょっと気になることがあって。」
笑顔で会釈し、その後少し顔を曇らせた。
「マタタビのこと?」
「ええ、それもあるんですけど、なんだか今日は看護猫の皆さんがそわそわしてたというか、なにかお互いに隠し事をしてるみたいで。」
「へぇ。例えば?」
「チリーレインさんがいつも通りなのはともかく、エルフさんは日が落ちてすぐにどこか行っちゃいましたし、ヴァイオレットムーンは看護部屋の奥に篭ってて、ヴァイオレットフォックスは族長と一緒にいないですし...」
「殴るぞ」
「えっ!?私なにか怒らせるようなこと言いましたか!?」
くそう。根まで染まってやがる。
1番厄介なのは、教えを広めてる者ではなく、心の底から教えを信じている信者の方だ!
「なんだか不安で、私に出来ることはないかと、1匹でキャンプを出てきた所なんです。」
「それ、余計に事態を悪化させてないか?」
「ええ。たしかにまだ看護猫と会えてませんから。」
「そっちじゃなくて。」
おっとりじゃなくて、天然なんじゃないのか?
「あとはさっきヴァイオレットフォックスを見かけましたよ。」
「なんだと!?」
「やっぱり興味あるんじゃないですか。」
アスターハートはにやりと笑う。
天然ではなかった。普通に厄介なタイプだった。
「興味がどうのじゃなくて、看護猫の意見を聞きたいからな。今のマタタビの事件について。」
「私には聞いてくれないの?」
「これから聞こうと思ったんだよ。どう思う?」
「チリーレインが今朝マタタビの話をしていたけれど、チリーレインにしては詳しい内容を話していたわよ。」
「詳しく。」
「私は怪我したホワイトウィングの手当をしながら聞いてたのであまり覚えてませんが、マタタビを吸いすぎると、自分が考えてるのか他人に言われてるのか、区別ができなくなる とかなんとか。」
「またあの子怪我したの?」
「ええ。昼の狩りから戻ったら、獲物と同じくらい怪我してました。」
「さぞかし激しい死闘を繰り広げたんだろうな。」
「ほんとですね。」
アスターハートは喉を鳴らした。
ああなんて素直でいい子なんだ!今酔っ払って面倒くさい絡みしてくる猫たちに見せてやりたい!
「それではヴァイオレットフォックスに会ったら、「族長が必死に探してましたよ」って伝えておきますから!」
訂正しよう。素直でいい子は撤回だ!
しかしアスターハートは笑顔だ。素で言ってるのが更に厄介だ!
「ほんとに伝えないでよ?用事が済んだら早めにキャンプに戻ること。」
「はーい。」
いい笑顔のアスターハートを残し、吉祥は歩き始める。

月のその輝きは衰えることがない。
本当に長い夜だ。このまま夜がずっと続いてもいいのかもしれない。

吉祥
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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 12:59 am

遠くの方に、紫色の尻尾が茂みに消えていくのが見えた。
「ヴァイオレットフォックス!」
間違いない。あの狐のような尻尾。
急いで茂みに駆け寄り、中を突き進む。
茂みを抜けるとすぐ、柔らかい毛皮にぶつかった。
「ヴァイオレットフォックス、お前に聞きたいことが...」
「え、なんですか族長急に!そんな大胆な!」
しかしそこにいたのはヴァイオレットフォックスではなく、ブラックテイルだった。白黒の毛皮と紫の毛皮は、どうやったって似つかない。
「...あ、悪い。」
「もー!白黒猫と黒猫でお似合いだからって〜!そんな大胆なことしないでくださいよぅ〜」
「酔ってるのかお前も。」
「酔ってなんかません〜」
めんどくさっ!
「ここをヴァイオレットフォックスが通らなかったか?」
「しいませんよー私以外のメスなんてぇ」
「きみそんなキャラだったっけ?」
「んぁい。」
埒が明かない。
「誰からマタタビを貰ったんだ?」
「猫から貰いました〜」
「猫しかいねえよ」
「狐から貰ったとか思わないんですかぁ??」
「狐?」
「うぇへへー」
ブラックテイルは歩き去ろうとするも、目の前の木の幹に頭から衝突し、その場にダウンした。

「あれっ?私なんでこんなところに?」
すると突然、ブラックテイルの声がはっきりとし、あたりを見回し始めた。
「族長?なんで私こんなところにいるんですか?」
「覚えてないのか?」
「ええ。マタタビ舐めて気持ちよーくなって、それから... うーん??」
「まあいい、キャンプはあっちだ。すぐに休め。」
「??? はーい?」
ブラックテイルは首を傾げながらキャンプの方向へと歩いていった。
その足取りはふらついたりすることなく、真っ直ぐに歩いていく。

これはただのマタタビではない。

そう思ったものの、それ以外の手がかりはまだ足りない。

月は輝く。
急がなくては。

吉祥
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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 12:59 am

吉祥は僅かな物音を察知した。
2匹のネズミの足音だ。こんな時間に出歩くなんて、随分と命知らずだ。
どうやら足音はこちらに向かってくるようで、吉祥は闇に身を紛らわし、待ち伏せる。

いずれ2匹のネズミが、吉祥の目の前に現れた!
素早く二匹の尻尾をまとめて咥えてしまうと、2匹揃って哀れな鳴き声を上げた。

...生け捕りにするのはいいんだけど、持って帰るとキャンプのみんな嫌がるんだよなぁ。
だけどヴァイオレットムーンの蛇の餌に持って帰ってやろう。
2匹のネズミを咥えながら歩き出すと、そこがウォリクラ族の西の境界線、すなわちヴォルテクス族とのなわばりの境目の近くであることに気がついた。

誰にも会わないといいけど。
獲物を奪ったとかそんなつまらないことで争いはしたくない。

しかし吉祥の願いを裏切るかのように、ヴォルテクス族の猫の臭いを察知した。

身を潜めようにも、口元には生きたネズミが2匹ぶら下がっている。

足音が聞こえる。
ひそひそしたり、隠れることを何も考えない、堂々とした足取り。
その1歩1本に、地面が揺れる。

誰が現れるか、察しがついていた。

「誰かと思えば、貧弱部族の貧弱族長ではないですか。」
吉祥は口元のネズミを、2匹ともかたてで掴み、返事をする。
「ごきげんよう。初にお目にかかります。」


「ヴォルテクス族の族長。バルクスター。気分の方はいかがです?」

「随分と余裕ですね。こんな所で獲物を狩っている。それがどんな意味なのか、族長であるあなたなら分かると思ったのですが。」
「もちろん分かっているさ。もしここで私が逃げたら、あなたは大層お怒りになる。だから私は。」

吉祥は、手元のネズミの1匹を、バルクスターに向かって山なりに放り投げた。
バルクスターの足元にネズミは落ち、バルクスターは巨大な前足でそのネズミを押さえつけた。

「なんのつもりです?これで見逃してくれと?」
「とんでもない。ただ、そのネズミを食べ終わるまでのあいだ、一緒にお話でもどうでしょう?お互いの縄張りを出ることなく。この場所で。」
「なぜ?」
「私は今夜は忙しくてね。ちょっと休憩したいのよ。前世風に言うなら、ちょっとお茶でもどう?ってね。」
「...よかろう。」

バルクスターは、押さえつけていたネズミに歯を立て、トドメをさした。
そして、腹の肉を食い千切る。
「今夜、何かおかしいと思いませんか?夜がとても長く感じるのです。」
「そんなことは無い。一日は短い。夜はもっと短い。気がつけば一日が終わり、また次の一日がやって来ている。私の終わりも、刻一刻と迫ってくる。」
「そんなに短く感じるのですか。私は今、縄張りを歩けども歩けども、夜が明ける気配がしないのです。朝はまだしばらく来ないとさえ、心のどこかで感じているのです。」
「ふん。それが若さか?ぬくぬくと適当に生きているだけのことはある。」
「辛辣だねえ。」
吉祥は、手元に残ったネズミを、頭から生きたまま頬張り、ごくりと飲み下した。
ネズミの叫び声は、喉を通ったくらいで聞こえなくなった。
バルクスターが目を丸くして見ていたが、吉祥がげっぷをひとつする頃には、先程と同じ表情に戻っていた。
吉祥は語りかける。
「今夜はどうも、うちの部族の猫達が賑やかにしているようで。そちらの部族にご迷惑をかけてないといいんですけど。」
「ええ、うちの部下が興奮した様子で伝えてきましたよ。「どうやらマタタビに酔っているらしい。攻め込むなら今だ。」と。」
「いいんですかそんなこと教えちゃって。」
「どうせあなた達が素面であっても、我が部族が負けることはありませんから。」
「...我が部族の鍛錬、舐めてはいけませんからね。」
「肝に銘じておきましょう。」
バルクスターは残りのネズミを平らげた。
最後に残していたネズミの内蔵も一口で平らげる。
「では、わたしはこれで。短い夜をせいぜい過ごしてください。」
「あ、最後にひとつだけ。」
吉祥は歩き去ろうとするバルクスターの背中に声をかける。

「おたくの部族の猫達、マタタビは嗜みます?」
「...酔いつぶれることなく、適量で。」
意外とホワイトだった。

バルクスターの立ち去る背中を見送り、吉祥も境界線に背を向けて歩き出した。
もうキャンプへと戻ろう。

月はついに輝きを失い始めた。
まさかの相手と話す機会に恵まれたが、きっと次に会う頃には戦場だ。
こんな夜があってもいいだろう。


最終編集者 吉祥 [ Mon Aug 20, 2018 1:11 am ], 編集回数 1 回

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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 1:01 am

「よお。帰ってきたな。」
キャンプの入り口をくぐると、すぐに歓迎の声が飛んでくる。
「随分長い夜を過ごしてきたようだな。おかげで戦士なりたてだってのに、もうこんなに成長しちまったよ。」
なるほど寝ずの番をしていたライトニングキットは、もう立派な成猫の大きさに成長していて…
「いやいや!お前はライトニングクローだろ!ちっこい方はどこに行ったんだ?聞きたいことがあるんだ。」
「腹が痛そうだったんで、用を足しに行かせたぞ。一応言っておくが、あいつは喋ってないぞ。」
「ああそう…そっか。」
失念していた。ライトニングキットは夜中ずっと見張りをしているとはいえ、夜が明けるまで一言も喋ってはいけないのだ。
「なあライトニングクロー、キャンプにおかしなことは起こってないか?」
「おかしなこと?至って普通だぞ。ただ戦士部屋で寝てる猫がいつもよりだいぶ少ない気がするのと、看護部屋もなんだか落ち着きがないってくらいだな。」
「それをおかしいっていうんだ。詳しく教えてくれないか?」
「勘弁してくれよ。俺はかわい子ちゃんと遊ぶ以外の時間外労働は嫌いなんだ。残業などなくなれ!!!」
「それは全面的に同意だ。」
怨念を感じる。
そうしてライトニングクローは族長部屋を耳で指す。
「ところで族長部屋に君の…」
「いや、知っている。僕の長い長い夜の探し猫がそこにいる。」
「お、つまり、まだ夜が終わらないわけだな?」
ライトニングクローはニヤリと笑い、吉祥を小突いた。
しかし吉祥は、それを尻尾で振り払い、真面目に答える。
「馬鹿言うな。これから、その長い夜を終わらせるところだ。」


まだ月は見えている。
いよいよ夜は幕を引く。

吉祥
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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 1:01 am

「やっぱりお前だったんだな。」
吉祥は族長部屋にいる、その一匹に静かに語りかける。
「チリーレインからマタタビの話を聞き出し、ヒーステイルにマタタビを取りに行かせ、エルフの調合した薬草を盗み、ホワイトクラウドに催眠をかけたり一族の猫達に与えて反応を伺っていたのは、お前だったんだな。」


「ヴァイオレットフォックス。」


ヴァイオレットフォックスは静かに頷いた。
「さすが族長です。何もかもお見通しだったんですね。たった一夜のうちに全て見つけられるなんて、思ってはいませんでした。」
「これだけ長い夜なんだ。見つけられて当然だ。」
「いいえ。夜は短いのよ。こんなにも早く夜は終わってしまう。」
ヴァイオレットフォックスは小さくため息をついた。
「なんで、こんな事をしたんだ?」
「研究のためよ。なぜ猫はマタタビに酔うのか。酔った猫の反応の違い。それを調べていくうちに、薬草との調合次第で、マタタビによる催眠ができるようになったわ。」
「そのために、一族の猫達を実験台に使ったと?」
「ええ。別に命に危険はないわけだし… この前族長で解剖したのはさすがに危なかったけど、そんなのと比べれば大したことないじゃない?」
「このまえ起きたら腹に覚えのない接合跡があると思ったけど、やっぱりお前か!!」
ついでに言うと、その部分の毛が剃られていた。嫌なイタズラだと思ってたけど、解剖までされてたなんて。
「普通の猫なら死ぬだけの血が流れてましたけど、縫い合わせたらなんか生きてたので、いいかなって。」
「マタタビよりももっとヤバい事件を聞いてしまったけど、とりあえずそれは後だ。」
なんだかお腹がキリキリと痛い。臓器は全部揃ってるよな?

「私がキャンプの外をうろついて帰ってきてみれば、お前は族長部屋で私を待ち受けていた。 何をする気だ?次の実験台は私か?」
「いいえ。族長はむしろ実験台1号です。」
「だから解剖の話は後にしろって。」
「族長は特別な猫です。」
ヴァイオレットフォックスは、こちらをまっすぐ見る。
さっきから自分の行いを全て明かされようと、こちらが怒る素振りを見せようと、彼女は動揺しない。
「高いところから落ちても傷一つない。滝に落ちても平然としていて、お腹を切り開いても縫い合わせれば普通に生きている。いつの間にか好きになってました。」
「最後おかしい。」
「族長を意のままに操るために、どうすればいいかを考えていたところに、チリーレインからマタタビの効果について聞きました。陶酔や媚薬のような効果があるのは知られているが、実は意識や思考にも影響を及ぼすのはあまり知られていない。と。」
「それで、閃いたと?」
「閃いたっていうか、最初からそのつもりでしたし。」
「怖すぎる。」
「それで何匹かに協力してもらって、この特別なマタタビを完成させた。」
「協力…ねえ。」
吉祥はため息をつく。
ヴァイオレットフォックスは、いつだって本気だ。
決めた目標に向かって、たとえそれがどんな小さな目標であっても、立ち止まることは無い。
「さあ族長。私の気持ちに気づいているんでしょう?あとはあなたが、これで少しだけ素直になるだけです。」
その目標が、たった一匹しか成し得ないものなら、容赦なく他者を蹴落とすだろうし、
その目標が、誰かの不幸の上に成り立つとしても、彼女なら立ち止まらないだろう。
「言っておきますけど、族長がなんと言おうと、私は明日にでも看護猫を辞めるつもりです。」
ああもう!たった今戦士の掟を理由に断ろうと思ったのに!

吉祥はひたすら頭を巡らせた。
どんな言葉であっても、私が断れば彼女を傷付けることになる。
前世で文字書きを名乗っていたのが恥ずかしくなるほど、適切な言葉が見つからない。

だがそれでも、たとえ彼女を傷付けてでも、言わなくてはならないことがある。

「君のやり方は間違っている。」

「間違っている?こうでもしなきゃ族長は振り向いてくれないのに?」
「ああそうだ。俺はそう簡単に恋なんてしない。」
「だからこうして、族長の心をつかむ為に…」
「そんな事しなくても、俺は気づいてるよ。」
ヴァイオレットフォックスは顔を赤らめる。
あれ、やば。これじゃ付き合っちゃう流れじゃん…
それでも言葉は勝手に口から零れていく。
「マタタビなんかで、君の言いなりになって、それで俺がお前のこと好きだなんて言っても、それは本当の愛か?酔った勢いでの言葉なんて、信用に値するか?」
「じゃあ聞かせて!今ここで!族長はどうするんですか!?」
「…ちょっと心の整理をさせてくれ。」
なんて情けない言葉。
参ったな。いっそ付き合ってしまうか。
でもこんな騒動が原因なんて嫌だし、そして何よりも…。

ヴァイオレットフォックスは立ち上がり、こちらへ1歩近づく。
立ち上がった時に、葉っぱの包みが転げ落ちる。
甘い香りがするから、例の催眠作用のあるマタタビが入っているのだろう。

吉祥は決意をした。

「なあヴァイオレットフォックス。お前のその強引なところ、一途なところ、好奇心が旺盛なところ、俺は大好きだ。」
そう言ってヴァイオレットフォックスに歩み寄る。
「だが俺なんかじゃ、君を幸せにしてやれない。俺は生まれつき、いや、前世からずっとずっと不幸だった。」
彼女の目の前まで距離を詰める。
ヴァイオレットフォックスは、次の言葉を待っている。
「俺は自分が大嫌いだ。こんなに可愛い子を前にして、素直にイエスと言えない自分が、本当に嫌いなんだ。」
頬に頭を擦り付ける。
甘い香りと、ほんのりと漂う薬草の香り。
そして、キャンプの様々な猫達の香り。

ここに来るまで、色んな猫と関わり、ここまで辿り着いた。
全ては、私の心を手に入れるため。

それでも、私は。

彼女に気づかれないように、前足で足元の薬草の包みを解く。

「こんな事故物件選ぶなんて、どうかしてるよ。君がいくら本気でも、考え直すことをオススメするよ。」
「いいえ。族長… 吉祥さんがいい。私が吉祥さんを幸せにする。」
「嬉しいねぇ。そんな事、前世じゃ1度も言われたことないよ。もちろん今までもな。」
マタタビの包みが解け、粉のまぶされたマタタビの枝が現れた。
前足でそっと掴みあげる。
「なあ、ヴァイオレットフォックス。目を閉じていろ。」
そう言ってから彼女から身体を離すと、ヴァイオレットフォックスはしっかりと目をつぶっている。
やるなら今しかない。

ヴァイオレットフォックスの口元に口を近づけると、彼女はそっと口を開いた。

すかさず、前足に掴んだマタタビを、その口に押し込んだ。


「よく味わえ。君の今晩の成果だ。」
「むぐ…!」
ヴァイオレットフォックスはマタタビを吐き出そうとするも、吉祥はそのまま口を押さえる。
「ごめんな、本当にごめんな。僕はみんなの族長なんだ。誰か1匹を愛するなんて、僕には難しすぎるんだ。」
ヴァイオレットフォックスの目がとろんと惚ける。
しかしその瞳からは、涙が次から次へと流れ落ちている。
マタタビの効能ではないのは間違いない。

吉祥はそっとマタタビの枝を引き抜いた。

「いいかいヴァイオレットフォックス。君が次に目を覚ます時には、マタタビの特別な作用に関することをすっかり忘れている。君は昨晩日が落ちてから、看護部屋ですぐに眠りについていたんだ。そして…」

吉祥は目を閉じる。
自分の瞳も、なぜだか涙で一杯になっていた。

「君は吉祥のことを、族長として尊敬しているけど、好きだとは思っていない。そうだね?」

「そのとおりです…」
ヴァイオレットフォックスは、寝言を言うように呟いた。

「君は、僕が『じゃあね』と言ったら、看護部屋へと歩いていき、まっすぐ自分の寝床で丸くなる。そして、この催眠は解ける。」
「わかりました…」
「それじゃあ…」



「じゃあね。」


ヴァイオレットフォックスが無造作に後ろを向き、族長部屋をふらふらと去っていった。

1匹になった吉祥が目元を拭うと、その腕はびしょ濡れになった。

「なんだよ。こんなに泣いちまって。こうするのが正しかったに決まってるだろ。寂しいのか?それとも…」
分かりきった自問自答。
それでも独り言は勝手に出てくる。
「それとも、生まれて初めてオスとして扱って貰えたのが、そんなに嬉しかったのか?彼女の気持ちを考えてみたのか?結局自分が好きで好きで堪らなかっただけなんだろう?」
「やっぱり、俺なんて大嫌いだ。最低だ。死んじまえ。」

涙は次から次へと流れていく。

長かった夜もついに終わる。

もうきっと、診察と称してヴァイオレットフォックスが族長部屋に乗り込んできたりもしないし、獲物を持ってきてくれることもなくなって、一緒に食事に誘われることもなくなる。
だが、ヴァイオレットフォックスはきっと看護猫を続けるだろうし、一族には今までとおなじ生活が待っているのだろう。
これで良かったんだろう。

でもなんで、こんなにも、哀しいんだろう。


吉祥は、無理やり眠ろうと、ぎゅっと丸くなった。





「こらあ!サイテー族長!美少女を泣かせておいて自分は昼まで眠ろうって!?起きろ!!」
なんて横柄な起こし方。
無理やり目を開けると、ライトニングキットが目の前に立っていた。
「やめろライトニングキット。お前が怒鳴ると髭がびりびりする。」
そう言って、二度寝をしようとぎゅっと目を閉じる。
「喰らえ!」
「いっっっった!!!」
ライトニングキットが吉祥の腹に爪を突き立てると、静電気が流れたかのような痛みが全身を駆け抜ける。
嫌でも目が覚めた。
「くっそ。子猫だからって何してもいいと思いやがって。」
「今日から戦士扱いするって言ったのは族長でしょ!子猫扱いすんな!」
「いや、寝ずの番を途中でサボったからお前は戦士昇格失敗だ!」
「えええ!?寝てないし喋ってないんですけど!?朝日が昇ってフォナイフセイブルに許可されてから仮眠とったんですけど!そもそも寝ずの番は試験じゃなくてただの儀式であって… うひゃっ…あはははは!!!やめて!!」
面倒になってきたので、ライトニングキットの脇腹をくすぐってみる。
くすぐるのをやめると、こちらを睨みつけてきた。
「ヴァイオレットフォックスに何言ったんですか?いつの間にか族長部屋にいて、泣きながらこっちに目もくれずに看護部屋にふらふら歩いていきましたけど!」
「あー。」
一族の猫達に、なんて説明しよう。
「ヴァイオレットフォックスも、ひどくマタタビに酔ってたんだよ。んぁい。」
「なにを訳の分からないことを… あっやめて!!うひゃあ!!あっはははは!!」
これ以上は答えたくないので、もう一度くすぐっておいた。

「ひどい…お嫁に行けない…」
なんだか燃え尽きているライトニングキットを残し、族長部屋を出る。
どうやら、すでに昼を回っているようだ。腹の虫が鳴く。
獲物の山にはしっかり獲物が蓄えられている。
その中からスズメを選び、食べようとすると、背後に忍び寄っていたヒーステイルが、スズメをひったくって駆けていった。
「昼まで寝てるような族長さんは、狙った獲物を奪われちゃいますよ!」
「ああ、そうだな。気をつけなくちゃな。」
呆れながら、別の獲物を選ぶ。
そしてふと思い出し、ネズミを2匹くわえて看護部屋へと向かった。
「ヴァイオレットムーン。蛇の餌は足りてるかい?」
「あら族長。さっきあげた所ですよ。エルフさんが持ってきてくれました。」
「昨晩伝えておいたからな。覚えててくれたんだろう。」
「覚えててくれたって、僕はそこまで忘れっぽくありませんよ!」
薬草置き場からエルフがひょっこりと顔を出す。
「あれからいい薬は作れたか?」
「ぼちぼちですね。なんだか気分に作用する薬ばっかりで、傷とかに効く薬はあまり出来なかったんですよね。」
「…ま、そういうこともあるさ。頑張ってくれよ。看護猫たちがいるからこの一族は成り立ってるんだ。」
「え、やだ。なんか族長の視線が生温かい。ボクに気があるの??」
エルフが両前足を頬に当てる。
なんだその女子力。
「そんなことないですよエルフさん。族長にはすでに…」
「そうだよね!浮気はダメですよ族長!」
「なんだかエルフを材料に練り薬を作りたくなってきたな。」
「うわー!ごめんなさい!」
エルフが慌てて薬草置き場へと引っ込んだ。

せっかくなので、ヴァイオレットムーンの目の前で、ネズミを2匹まとめてひとのみにして見せた。
喉の大きな膨らみが、なんとか胃に落ちる。
「お見事!」
ヴァイオレットムーンは喉を鳴らした。


看護部屋を出ると、ちょうどフォナイフセイブルが看護部屋に入ろうとしていた。
「あら族長。よく寝ていらしたので、勝手に狩猟部隊とパトロール部隊組んでしまいました。」
「ありがと。助かるよ。」
「そしてヴァイオレットフォックスなら、薬草採りに向かいましたよ。」
「別にそれは関係ないだろ。」
「いえ、昨晩は黙ってましたけど、ヴァイオレットフォックスにいろいろ相談されたもんで。ちょっと心配になったんですよ。」
「そうなの?」
フォナイフセイブルがヴァイオレットフォックスと繋がりがあったなんて、そこまでは分からなかった。
「ほら、私マタタビ効かないから。」
「そういえばそんなこと言ってたな。…で、何を相談されたって?」
「あら、ガールズトークの内容が知りたいなんて、欲張りな族長さんですね。」
「…じゃあいいです。 フォナイフセイブルは看護部屋に何を?」
「スノーレパードファーがひどい二日酔いなの。あのあと戦士部屋に放置してたら、私の隠してたマタタビまで堪能されちゃって。」
「そもそもマタタビを戦士部屋に隠すなよ。」
「テンの私にとってはおやつなんですよ!おやつくらいいいでしょ!」
「おやつを寝室に持ち込んじゃいけません!」
「ぶーぶー!」
納得のいってない副長を放置し、その場を離れた。


キャンプの端でツキノコを栽培するフロストテイル。フォームダックに猥談をしかけるも、ふわふわの羽で叩かれて撤退するマリンフェザー。キャンプのメス猫を順番に眺めるライトニングクローと、それに寄り添うシアクラウド。日向でのんびりするホワイトクラウド。チリーレインはキャンプの壁の隙間を漁っている。

これがいつものキャンプじゃないか。

これ以上何を望むというんだ。


昨日の長い長い夜は、この景色を全く違うものにしたかもしれない。
そちらの方が、ハッピーエンドだったのかもしれない。

「族長。」

だが、選んでいないルートのことなんて、誰にもわからないが、今選んだこのルートが私にとって一番いいルートで、それはきっと彼女にとってもそうだったんだろう。

「族長!」


自分が呼ばれていると気が付き、振り向く。


「や、やあ。ヴァイオレットフォックス。」

挨拶がぎこちなくなってしまう。
薬草をくわえたヴァイオレットフォックスは不思議そうな顔でこちらを見つめている。

「どうしたんですか?体調でも悪いんですか?」
「…聞きたいことがある。場所を変えようか。」
「えっ、ちょっと待ってください。薬草を置いてから…」

ヴァイオレットフォックスを待たずにキャンプの出入口に向けて歩き出したが、キャンプを出る頃には彼女は追いついてきた。

そこから少し歩き、そこでようやく腰を落ち着けた。

「昨晩は大変だったね。」
「昨晩?何かあったんですか?」
「ヴァイオレットフォックスは何をしていたんだ?」
「いえ…昨日はなんだか眠くて。すぐに寝てしまいました。」
「…そうか。」
彼女は何も覚えていない。
何も起こらず、何もかもが元通りになる。


彼女が抱えていた想いを除いて。


「じゃあ、それだけを聞きたかったんだ。ありがとうな。」
そっと彼女から目をそらし、呑気に欠伸をする。そしてキャンプに向けて歩き出した。
「え?それだけ?待ってくださいよ!昨日何があったんですか!?」
「ちょっとした酒乱騒ぎがあったんだよ。んぁいする猫が多数いた。」
「えぇ…呼んでくださいよ!」
「ははっ。呼ぶわけないだろ。大変だったんだから。看護猫だからといって全員起こして対応させるつもりは無かったよ。」

『言っておきますけど、族長がなんと言おうと、私は明日にでも看護猫を辞めるつもりです。』

吉祥は驚き、ヴァイオレットフォックスの方を振り返った。
ヴァイオレットフォックスは首をかしげる。
「何か言った?」
「いいえ?」
幻聴だろうか。
いいや、違う。

「なぁヴァイオレットフォックス。看護猫を辞めるなんて言い出さないよな。」
「なんですか突然。 …実は、向いてないなーって思うことは何度もありますけど、今のところは辞める気はないですよ。」
「…そうだよな。よかった。」

きっと白昼夢だろう。それか、昨日の長い夜が、全て夢だったのかもしれない。

「看護猫として、これからも一族を支えてくれ。」
「は、はい。よろしくお願いします!」


あんなに長い夜を過ごすことなど、きっともう二度と無いだろう。
マタタビによって消し去られたひとつの恋路は、私の最初で最後の思い出として、私の最低最悪の罪として、私の中にずっと残されることだろう。


また夜はやってくる。
あの日ほど長くない、平凡な夜が、これからもずっと。

吉祥
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とてもとても長い、たった一夜のこと。【ウォリクラSS】 Empty Re: とてもとても長い、たった一夜のこと。【ウォリクラSS】

投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 1:03 am

おわり

長々と読んでいただきありがとうございました

吉祥
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投稿 by 吉祥 Mon Aug 20, 2018 1:17 am

HAPPYエンドも考えたので、せっかくなので投稿しておきます。

「昨晩は大変だったね。」
「ええ。みんな酔っ払ってたんでしょう?」
「ヴァイオレットフォックスは何をしていたんだ?」
「…昨日はなんだか眠くて。すぐに寝てしまいました。」
「…そうか。」
彼女は何も覚えていない。
何も起こらず、何もかもが元通りに…

「族長は、酔っていなかったんですね。」
「ん?ああ。そうだな。昨日は誰からもすすめられなかったから。」
「誰からも?」
「…なんだ?何が言いたい?」
「…なんだか、夢を見たんです。すごく辛そうな族長と、泣きながらこちらを見る族長の夢を。」
「ただの夢だろう?あ、それはもしかして予言かもしれな…
「族長はこうおっしゃいました。『君が次に目を覚ます時には、マタタビの特別な作用に関することをすっかり忘れている。君は昨晩日が落ちたら、看護部屋ですぐに眠りについた。』って。」
「…。そして?」
「『君は吉祥のことを、族長として尊敬しているけど、好きだとは思っていない。』」
「やけに具体的な夢だなぁ。もう話さなくてもいいぞ?」
思わず毛繕いを始める。それでも勝手に毛は逆立っていく。
「いいえ。看護猫ですから。夢の内容を報告する義務があります。その後は、『君は、僕が『じゃあね』と言ったら、看護部屋へと歩いていき、まっすぐ自分の寝床で丸くなる。そして、この催眠は解ける。』と言いました。」
「…。」
「どうやら、身に覚えがあるみたいですね。」
「そりゃな。君はひどく酔ってた。試しに催眠をかけてみたら大人しく従っちゃうんで面白くなって。それで…」
「もう、つまらない嘘はやめましょうよ。」
「…」

怖い。ヴァイオレットフォックスの目を見られない。
私はなんてことをしてしまったんだ。

「ねえ族長。私はもう看護猫を辞めるわ。族長はそれをみんなの前で発表してくれるわよね?みんなその意味をしっかりと理解するはず。」
「…いやだ。いやだ。」
「発表しないんですか?まったく。悪い子ですね。どうやら、私の言うことを素直に聞けるようになった方がいいのかもしれませんね。」
「いやだ…やめてくれ…」
「もちろん強制はしません。ただ、」



「あなたが私を受け入れない限り、永い永い夜は、永久に終わらないのよ?」


ヴァイオレットフォックスは、震えて動けない吉祥に、愛おしげに体を擦りつける。


「じゃあね♡」


そう言い残して、彼女は去っていった。

「」

そこには、震える黒い猫だけが取り残された。


長い永い夜は終わらない。

吉祥
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