花吐き時雨 【短編】
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花吐き時雨 【短編】
いつからか、僕はこの美しい花の名を知りたいと思うようになった。
「ちがうんです。ほんの、ほんの出来心でっ・・・ちゃんと他の小説も、あの、はい、いえその、短編だからいいかなって・・・へへ」
その後彼女の姿を見たものは誰ひとりとしていなかった____
本当すみません。ヒースです。もう生卵投げつけてくれて構わないです。寧ろお願いします。卵かけごはんって美味しいですよね。すみません真面目にやります。
今回こそは本当に短編です。信じてください・・・同情するなら文才と根気をくれぇっ
暇な時に見てくださると嬉しいです。舞います。なお、本編は一切「花吐き乙女」様には関係ありません。
「ちがうんです。ほんの、ほんの出来心でっ・・・ちゃんと他の小説も、あの、はい、いえその、短編だからいいかなって・・・へへ」
その後彼女の姿を見たものは誰ひとりとしていなかった____
本当すみません。ヒースです。もう生卵投げつけてくれて構わないです。寧ろお願いします。卵かけごはんって美味しいですよね。すみません真面目にやります。
今回こそは本当に短編です。信じてください・・・同情するなら文才と根気をくれぇっ
暇な時に見てくださると嬉しいです。舞います。なお、本編は一切「花吐き乙女」様には関係ありません。
ヒーステイル- 副長
- 投稿数 : 282
Join date : 2015/05/17
Re: 花吐き時雨 【短編】
シオン
ある日から、僕は突然花を吐くようになった。
体液とか毛玉とか、そういう比喩ではない。僕は、ぽろぽろと薄紫の花を口からこぼした。
飲んでも飲んでも湧き出る水のように、花は僕の中から溢れて止まらない。胃の中がぐるぐるして気持ち悪かったけど、特有の酸味はなく、僕は悪い薬草でも食べてしまったのかと思って、看護猫に診せにいった。
彼女は最初、僕の話をくすくすと可笑しそうにきいていたけど、突然、僕が薄紫の花を一輪、二輪と零すと、飛び上がって悲鳴をあげた。
僕の病はあっという間に部族に知れ渡った。
看護猫は僕を長老部屋の奥に隔離し、長老たちは歯を剥いて僕を詰って部屋から出て行った。戦士たちは警戒した目つきで僕を見、見習いたちは怯えの中に侮蔑を孕んで、僕を遠くから罵った。
僕は茨に囲まれた狭い部屋で、ひとりになった。
誰も僕に声をかけない。遠くから、鋭く尖った言葉の棘が飛んで来る。
僕の周りには、薄紫の花と、濃い紫の小さな花が転がっていた。目頭が熱くなる。雫の代わりに零れたのは、やはり一輪の花だった。
太陽が僕を見放すように地平線の彼方へ沈んでゆく。キャンプでは族長の長い鳴き声が聞こえ、一族の集会が始まった。
きっと僕のことだ。
僕は、喉に湧き上がってくる花を飲み込もうと上をむいた。花を吐かなければ、僕はまた皆に受け入れてもらえるかもしれないと思った。
ぐい、と下に押された花は、僕の喉の筋肉を無理やり押し上げて、口から宙へと弾ける実のように飛び出した。
空に花が咲き乱れる、なんて。
ハリネズミが空を飛ぶよりありえないことだ。
ありえないことだ。だって、それはおかしいんだから。
おかしいことなのだから。
だから、
僕は、
足元を紫の花が埋め尽くす。それはとてもとても綺麗で優雅な光景だっただろう。
ある日から、僕は突然花を吐くようになった。
体液とか毛玉とか、そういう比喩ではない。僕は、ぽろぽろと薄紫の花を口からこぼした。
飲んでも飲んでも湧き出る水のように、花は僕の中から溢れて止まらない。胃の中がぐるぐるして気持ち悪かったけど、特有の酸味はなく、僕は悪い薬草でも食べてしまったのかと思って、看護猫に診せにいった。
彼女は最初、僕の話をくすくすと可笑しそうにきいていたけど、突然、僕が薄紫の花を一輪、二輪と零すと、飛び上がって悲鳴をあげた。
僕の病はあっという間に部族に知れ渡った。
看護猫は僕を長老部屋の奥に隔離し、長老たちは歯を剥いて僕を詰って部屋から出て行った。戦士たちは警戒した目つきで僕を見、見習いたちは怯えの中に侮蔑を孕んで、僕を遠くから罵った。
僕は茨に囲まれた狭い部屋で、ひとりになった。
誰も僕に声をかけない。遠くから、鋭く尖った言葉の棘が飛んで来る。
僕の周りには、薄紫の花と、濃い紫の小さな花が転がっていた。目頭が熱くなる。雫の代わりに零れたのは、やはり一輪の花だった。
太陽が僕を見放すように地平線の彼方へ沈んでゆく。キャンプでは族長の長い鳴き声が聞こえ、一族の集会が始まった。
きっと僕のことだ。
僕は、喉に湧き上がってくる花を飲み込もうと上をむいた。花を吐かなければ、僕はまた皆に受け入れてもらえるかもしれないと思った。
ぐい、と下に押された花は、僕の喉の筋肉を無理やり押し上げて、口から宙へと弾ける実のように飛び出した。
空に花が咲き乱れる、なんて。
ハリネズミが空を飛ぶよりありえないことだ。
ありえないことだ。だって、それはおかしいんだから。
おかしいことなのだから。
だから、
僕は、
足元を紫の花が埋め尽くす。それはとてもとても綺麗で優雅な光景だっただろう。
ヒーステイル- 副長
- 投稿数 : 282
Join date : 2015/05/17
Re: 花吐き時雨 【短編】
はじめまして!ヘザーストームといいます。
最初から面白いです…!花を吐くっていう発想がとても面白いと思います…!
執筆頑張ってくださいね!
誤字あったので編集しました。
ヘザーストーム- 副長
- 投稿数 : 260
Join date : 2016/04/05
Age : 19
所在地 : いまはTwitterにいます
Re: 花吐き時雨 【短編】
ヘザーストーム wrote:一コメげっとですw
はじめまして!ヘザーストームといいます。
最初から面白いです…!花を吐くっていう発想がとても面白いと思います…!
執筆頑張ってくださいね!
誤字あったので編集しました。
初めまして!コメありです。
ありがとうございます!ですが、花を吐く、というのには元ネタがあります。良かったら検索してみてください。
お互い頑張りましょう!
ヒーステイル- 副長
- 投稿数 : 282
Join date : 2015/05/17
Re: 花吐き時雨 【短編】
アネモネ
___おい、
僕を呼ぶ乱暴な声がした。脇腹が強く、かたいもので突かれる。
僕はうっと呻き声を上げて、焦点のあわないまま彼を見上げた。
彼は紫の花を四肢で踏み潰し、僕に顔を寄せた。目に鼻がつきそうなくらいまで顎を突き出すと、黄色っぽい歯を剥いて低く唸った。
「お前は今から一族の仲間ではなくなる。どういうことかわかるな?さっさと身支度をしてキャンプから出て行け。敏いお前なら、俺の・・・俺達の言うことをきいてくれるよな?」
彼は一歩下がると、僕を耳の先から尻尾の先端まで時間をかけてゆっくり見た。また、花がぐしゃりと音を立てて潰れた。
足元の覚束ないまま、何がどうなっているのかわからないまま、僕は立ち上がってイバラの部屋を抜けた。
いや、本当はわかっていた。
キャンプには大勢の猫たちがいた。口から桃色の花弁をはらはらと零す僕を見て、彼等はぎょっとしたように耳を立てた。
本当は知っていたくせに。僕には彼等が憎らしい。もう仲間と呼べなくなった彼等が。
キャンプの真ん中を裂くように歩いて行くと、さっと一族は身を引いて避けた。離れたところから、族長が胸を張って成り行きを見ている。
「二の舞いにはなるまい」
「ええ。あの子は敏い。ただし、星に見放された身だった・・・それだけです」
「天に嫌われては、もう部族ではくらせない」
僕を刺す。
刺される。
尖った木の棒のように、視線が僕の心臓をぐちゃぐちゃに引き裂いていく。
ズキン、と頭の横に衝撃が走った。僕が咳き込むと、濃い桃色の花がボロボロと溢れて地面に落ちた。
「早く出て行って!」
甲高い、怯えと怒りの混じった悲鳴があがる。
子猫がぱっと飛び出してきて、花を一輪咥えあげると、母親の元まで戻ってじゃれついた。僕に懐いていたあの子さえ、僕をいないものとしている。
母猫は花を前足で叩き、ぐしゃりと潰して子猫を叱った。彼女は、僕の面倒をよく見てくれた一族のマドンナだった。
僕にはもう関係ないのか。
足が止まっていた。激しい感情の波が押し寄せてくる。僕は嘔吐き、自らが吐き出した花を踏み潰してキャンプを抜けた。きっと、縄張りを出るまで、僕は視線に心臓を抉られ続けなければならない。
無意識に僕は走りだした。
体がシダやイバラを突き抜ける。棘のついたツタが毛皮に引っかかって痛い。でももうそんなことどうでも良かった。
ズキンズキンと頭痛がする。耳鳴りが酷い。イバラが僕の首を締め付ける。
僕は縄張りの外れの坂を転がり落ちた。視界の橋で、きらきらと花弁が舞った。
___おい、
僕を呼ぶ乱暴な声がした。脇腹が強く、かたいもので突かれる。
僕はうっと呻き声を上げて、焦点のあわないまま彼を見上げた。
彼は紫の花を四肢で踏み潰し、僕に顔を寄せた。目に鼻がつきそうなくらいまで顎を突き出すと、黄色っぽい歯を剥いて低く唸った。
「お前は今から一族の仲間ではなくなる。どういうことかわかるな?さっさと身支度をしてキャンプから出て行け。敏いお前なら、俺の・・・俺達の言うことをきいてくれるよな?」
彼は一歩下がると、僕を耳の先から尻尾の先端まで時間をかけてゆっくり見た。また、花がぐしゃりと音を立てて潰れた。
足元の覚束ないまま、何がどうなっているのかわからないまま、僕は立ち上がってイバラの部屋を抜けた。
いや、本当はわかっていた。
キャンプには大勢の猫たちがいた。口から桃色の花弁をはらはらと零す僕を見て、彼等はぎょっとしたように耳を立てた。
本当は知っていたくせに。僕には彼等が憎らしい。もう仲間と呼べなくなった彼等が。
キャンプの真ん中を裂くように歩いて行くと、さっと一族は身を引いて避けた。離れたところから、族長が胸を張って成り行きを見ている。
「二の舞いにはなるまい」
「ええ。あの子は敏い。ただし、星に見放された身だった・・・それだけです」
「天に嫌われては、もう部族ではくらせない」
僕を刺す。
刺される。
尖った木の棒のように、視線が僕の心臓をぐちゃぐちゃに引き裂いていく。
ズキン、と頭の横に衝撃が走った。僕が咳き込むと、濃い桃色の花がボロボロと溢れて地面に落ちた。
「早く出て行って!」
甲高い、怯えと怒りの混じった悲鳴があがる。
子猫がぱっと飛び出してきて、花を一輪咥えあげると、母親の元まで戻ってじゃれついた。僕に懐いていたあの子さえ、僕をいないものとしている。
母猫は花を前足で叩き、ぐしゃりと潰して子猫を叱った。彼女は、僕の面倒をよく見てくれた一族のマドンナだった。
僕にはもう関係ないのか。
足が止まっていた。激しい感情の波が押し寄せてくる。僕は嘔吐き、自らが吐き出した花を踏み潰してキャンプを抜けた。きっと、縄張りを出るまで、僕は視線に心臓を抉られ続けなければならない。
無意識に僕は走りだした。
体がシダやイバラを突き抜ける。棘のついたツタが毛皮に引っかかって痛い。でももうそんなことどうでも良かった。
ズキンズキンと頭痛がする。耳鳴りが酷い。イバラが僕の首を締め付ける。
僕は縄張りの外れの坂を転がり落ちた。視界の橋で、きらきらと花弁が舞った。
ヒーステイル- 副長
- 投稿数 : 282
Join date : 2015/05/17
Re: 花吐き時雨 【短編】
花を吐くなんて、すごいですね
ちくわ猫- 年長戦士
- 投稿数 : 152
Join date : 2016/04/23
所在地 : ちくわ星ちくわ町ちくわ番地 ちくわの湧き出る泉の近く。最近ちくわがよく降る。
Re: 花吐き時雨 【短編】
新小説おめでとうございます、いや、生卵なんてそんな笑 むしろ玉子焼きを作って差し上げたいほどにこの短編が好きです!←
花を吐く主人公の絶望感と周りの猫たちの差別、そして美しい花の描写が混じりあってうるっときちゃいます(´・ω・`)
おうえんしてます、執筆がんばってくださいっ
ティアーミスト- 年長戦士
- 投稿数 : 135
Join date : 2015/05/17
Age : 22
所在地 : Love the life you live. Live the life you love.
Re: 花吐き時雨 【短編】
ちくわ猫 wrote:花を吐くなんて、すごいですね
初めまして!コメありです。
ですよね、私もネタを見た時凄いなあと思いました^^
ヒーステイル- 副長
- 投稿数 : 282
Join date : 2015/05/17
Re: 花吐き時雨 【短編】
ティアーミスト wrote:
新小説おめでとうございます、いや、生卵なんてそんな笑 むしろ玉子焼きを作って差し上げたいほどにこの短編が好きです!←
花を吐く主人公の絶望感と周りの猫たちの差別、そして美しい花の描写が混じりあってうるっときちゃいます(´・ω・`)
おうえんしてます、執筆がんばってくださいっ
コメありです!
玉子焼きつくってくださるんですか!w嬉しいですw褒めたって何もでませんよ(*´艸`*)
ありがとうございます!花の表現は難しいので、もっと勉強したいです・・・
ティアーsも頑張ってください!
ヒーステイル- 副長
- 投稿数 : 282
Join date : 2015/05/17
Re: 花吐き時雨 【短編】
『花吐き時雨』……題名かっこいいですね!かっちょいーです!
猫が花を吐くだなんてちょっと素敵ー……みたいな。
吐き出す花の種類は多種多様なんですかね?薔薇とかパンジーとか菫とか……(藤の花が好き)
主人公の感情表現が上手で、胸が痛みます……ひっそりこっそり応援しています^^
猫が花を吐くだなんてちょっと素敵ー……みたいな。
吐き出す花の種類は多種多様なんですかね?薔薇とかパンジーとか菫とか……(藤の花が好き)
主人公の感情表現が上手で、胸が痛みます……ひっそりこっそり応援しています^^
ウィンターリーフ@冬葉- 年長戦士
- 投稿数 : 140
Join date : 2015/06/20
所在地 : 北国
Re: 花吐き時雨 【短編】
ウィンターリーフ@和風が好み wrote:『花吐き時雨』……題名かっこいいですね!かっちょいーです!
猫が花を吐くだなんてちょっと素敵ー……みたいな。
吐き出す花の種類は多種多様なんですかね?薔薇とかパンジーとか菫とか……(藤の花が好き)
主人公の感情表現が上手で、胸が痛みます……ひっそりこっそり応援しています^^
コメありです!
そうですね、花は展開によって増えていきます。
うああありがとうございます!ウィンターsも頑張ってください(●´ω`●)
ヒーステイル- 副長
- 投稿数 : 282
Join date : 2015/05/17
Re: 花吐き時雨 【短編】
コチョウラン
暖かな光が僕をふわりと包み込んでいた。
僕は坂の下で、仰向けに倒れこんでいた。腹を晒すなんてみっともない。僕は羞恥で耳を火照らせたが、すぐにもうそんなことはどうでもいいのだと知った。
だって、僕はもう命を尊ぶべき生き物ではないのだ。
僕は首を曲げて自分の体を見た。
緑の草と、イバラの棘、それと小さな花弁が毛皮にくっついて、ぐちゃぐちゃと無様だ。
僕を舌を突き出して、毛皮の流れにそって、ゆっくりと毛づくろいをする。足を浮かすと、ズキリと傷んだ。
僕は一日気を失っていたんだ。
直感的にそう思った。頭上を、黄色い蝶が飛んでゆく。
耳を済ましても、勇ましく獰猛な猫たちの声は聞こえない。縄張りから随分外れたようだった。ここはどこだろうか、と首を傾げていると、
「目は覚めた?」
坂の上から、雌猫が下ってきた。ゆっくりな足取りと共に、毛足の長いクリーム色の毛が揺れる。緑の瞳は太陽の光を集めたように眩しかった。
僕は彼女に目を奪われた。ぽかんと開けた口から牙を覗かせ、僕は彼女に魅入る。
「どこか怪我はしていない?頭は打ってない?」
彼女が僕に問いかける。緑の瞳を優しく輝かせたまま、僕達の距離が縮まっていく。
うっと僕はうめいて体を折った。
頭が痛い。骨がネズミにかじられたようにズキズキしている。目がぐるぐる回って、全身の毛が逆立った。
ぽろり、と白い花が一輪零れた。
僕はあっと息を呑んだ。自分が青ざめていくのが分かる。もうここにはいられないのだ。彼女の瞳も、もう見れないのだ。
しかし、雌猫は微笑んだまま何も言わなかった。
「・・・どうして何も言わないの?」
僕は初めて口を開いた。初めて鳴いたカラスの雛のように、ひどく嗄れた。
「あら、言ってほしかったの?」
くすくすと彼女が笑う。耳を傾けて、体全体で優しい笑みを表している。
「とにかく、まず体を休めたほうがいいわ。私は、水を持ってくるから」
彼女が朗らかな声で言う度に、頭の奥が痛くなる。脳裏に笑顔がちらついた。僕は、何か大切なものを失くしたのではないだろうか。
・・・もうそれも思い出せない。
彼女が小さく咳をし、ぱっと身を翻して森の方へ走っていった。水をとってくるのだ。
僕はまだここにいていいんだ。僕は嬉しくなって、自分の吐いたたった一輪の花を蹴散らして、さっきまで雌猫がいた場所に跳んだ。
ぐしゃりと足が何か踏む音。
僕は、濃い紫と黄色の小さな花を踏み潰していた。肉球に、花弁が器用に挟まっている。
花は、彼女に見入って盲目になっていた僕の足元に、無数と広がっていた。
暖かな光が僕をふわりと包み込んでいた。
僕は坂の下で、仰向けに倒れこんでいた。腹を晒すなんてみっともない。僕は羞恥で耳を火照らせたが、すぐにもうそんなことはどうでもいいのだと知った。
だって、僕はもう命を尊ぶべき生き物ではないのだ。
僕は首を曲げて自分の体を見た。
緑の草と、イバラの棘、それと小さな花弁が毛皮にくっついて、ぐちゃぐちゃと無様だ。
僕を舌を突き出して、毛皮の流れにそって、ゆっくりと毛づくろいをする。足を浮かすと、ズキリと傷んだ。
僕は一日気を失っていたんだ。
直感的にそう思った。頭上を、黄色い蝶が飛んでゆく。
耳を済ましても、勇ましく獰猛な猫たちの声は聞こえない。縄張りから随分外れたようだった。ここはどこだろうか、と首を傾げていると、
「目は覚めた?」
坂の上から、雌猫が下ってきた。ゆっくりな足取りと共に、毛足の長いクリーム色の毛が揺れる。緑の瞳は太陽の光を集めたように眩しかった。
僕は彼女に目を奪われた。ぽかんと開けた口から牙を覗かせ、僕は彼女に魅入る。
「どこか怪我はしていない?頭は打ってない?」
彼女が僕に問いかける。緑の瞳を優しく輝かせたまま、僕達の距離が縮まっていく。
うっと僕はうめいて体を折った。
頭が痛い。骨がネズミにかじられたようにズキズキしている。目がぐるぐる回って、全身の毛が逆立った。
ぽろり、と白い花が一輪零れた。
僕はあっと息を呑んだ。自分が青ざめていくのが分かる。もうここにはいられないのだ。彼女の瞳も、もう見れないのだ。
しかし、雌猫は微笑んだまま何も言わなかった。
「・・・どうして何も言わないの?」
僕は初めて口を開いた。初めて鳴いたカラスの雛のように、ひどく嗄れた。
「あら、言ってほしかったの?」
くすくすと彼女が笑う。耳を傾けて、体全体で優しい笑みを表している。
「とにかく、まず体を休めたほうがいいわ。私は、水を持ってくるから」
彼女が朗らかな声で言う度に、頭の奥が痛くなる。脳裏に笑顔がちらついた。僕は、何か大切なものを失くしたのではないだろうか。
・・・もうそれも思い出せない。
彼女が小さく咳をし、ぱっと身を翻して森の方へ走っていった。水をとってくるのだ。
僕はまだここにいていいんだ。僕は嬉しくなって、自分の吐いたたった一輪の花を蹴散らして、さっきまで雌猫がいた場所に跳んだ。
ぐしゃりと足が何か踏む音。
僕は、濃い紫と黄色の小さな花を踏み潰していた。肉球に、花弁が器用に挟まっている。
花は、彼女に見入って盲目になっていた僕の足元に、無数と広がっていた。
ヒーステイル- 副長
- 投稿数 : 282
Join date : 2015/05/17
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