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星のもとに置く王の名を

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投稿 by ジェードウィング Mon Dec 18, 2023 11:41 am

これから、新小説を立てたいと考えております。

族長という言葉を「王」に置き換え、国の中のおきても部族のおきてとは変えます。
国、と言っても、そんな大げさなものでもありません。
これまで通りに四つの国が隣り合って存在し、対立、そして協力し合うのです。

この、「星のもとに置く王の名を」も、「それぞれの恋の道」に次ぐ長い小説にしたいので、ぜひ読んでみていただきたいです。
ただし、「それぞれの恋の道」のほうもこれまで通り続けていきますので、そちらもよろしくお願いします。

また、書体を変えたいと思っておりますが、読みにくい場合、遠慮せずに言ってください。
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投稿 by ジェードウィング Mon Dec 18, 2023 11:43 am

すみませんあまりに読みにくかったので書体変更辞めます!

あ、でも最初のが一番よかったよって方はいってください!

これからもよろしくお願いします!

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投稿 by ジェードウィング Mon Dec 18, 2023 1:47 pm

設定

国    コニファー(針葉樹)族:針葉樹の森を好む部族。
     ハサック(草むら)族:草むらを好む部族。
     カプス(雑木林)族:様々な広葉樹の生える森を好む部族。木の実なども取って食べるため、病気にかかりにくい。主人公の部族。
     ドリズル(霧雨)族:濡れた湖のそばを好む部族。魚を捕って暮らす。


登場猫(ごく一部)
●カプス族
族長  フォックススター(狐の星):オレンジに近い、赤っぽい色をした雄猫。目は淡い青。
副長  フィニックスシャドウ(不死鳥の影):淡い灰色の目をした、黒い雄猫。しっぽに紅色の毛が少し混じる。見かけによらず優しい。
看護猫 サンセットアイ(日没の目):オレンジの目をした白い雌猫。
戦士猫 モーニングフラッシュ(朝の閃光):黄色い目をした、薄茶の雌猫。弟子はスターリングポー。
    ナイトレイヴン(夜のカラス):緑の目をした黒い雄猫。弟子はムーンポー。
    サマーブリザード(夏の吹雪):淡い青色の目をした雌猫。毛はオレンジっぽい茶色で、フォックススターの妹。
    サンドテイル(砂のしっぽ):砂色の毛皮をした雌猫。目は琥珀色。弟子はモウルポー。
    メドウペルト(草原の毛皮):少し黄色みがかった緑の目をした雄猫。毛は茶色。
    コーラルリーフ(サンゴ礁):珊瑚色の目をした白い雌猫。薄茶の斑点がある。弟子はスラッシュポー。
    デューウィスカーズ(雫のひげ):灰色の毛皮の、青い目をした雄猫。
    マーシュリード(沼のアシ):灰色っぽい茶色い毛をした、緑の目の雄猫。
    
●コニファー族(以下、族長・副長・看護猫のみ)
族長  ウルフスター(狼の星):灰色と白の毛が混じった雄猫。目は薄灰色。
副長  ブライトナイト(明るい夜):オレンジの目をした、黒い雄猫。腹や足先、しっぽの先は白。
看護猫 アイスリーフ(氷の葉):水色の目をした白地に三毛の雌猫。

●ハサック族
族長  ロゼットスター(小さな薔薇の星):珍しい、オレンジっぽい薄茶の毛皮に黒い薔薇のような形をした斑点のある雌猫。目は琥珀色。
副長  サンテイル(太陽の尻尾):しっぽの先だけオレンジ色の、白い雄猫。目は淡い緑。
看護猫 コニーイヤー(ウサギの耳):耳の大きな、すらりとした雄猫。毛は淡い茶色で、少し灰色交じり。目は琥珀色。

●ドリズル族
族長  スパークリングスター(火花を散らす星):オレンジ色の目をした灰色の雄猫。
副長  プラムペタル(梅の花びら):薄桃色の目をした、白い雌猫。
看護猫 ロビンフェザー(コマドリの羽):オレンジの目をした、灰色と茶色の毛皮の雌猫。スパークリングスターの妹。

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投稿 by ジェードウィング Mon Dec 18, 2023 7:02 pm

すみません設定のところ「国」って書いてますけど「部族」です!

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投稿 by ジェードウィング Tue Dec 19, 2023 6:03 pm

第一巻
                                                   

プロローグ
「おい!生まれたぞ!」
猫から猫へ、その言葉が広がる。
キャンプ中、いや、森中のカプス族の戦士たちが矢のように駆け、イバラのトンネルに飛び込んだ。
空き地の真ん中で体を丸め、子猫を温めている母猫が顔を上げた。
「アズールアクア(空色の水)」
子猫の父親が、つれあいに声をかけた。
アズールアクアはゆっくりまばたきをし、つれあいの顔を優しくなめた。
「フォックススター。私たちの息子と娘よ」
フォックススターと呼ばれた赤毛の猫はうなずき、琥珀色の目を輝かせた。
「よくやった」
まわりにいる戦士たちはいつの間にか大きな円を描くように空き地に広がり、祝福の声を上げた。
まわりで見ていたほかの母猫はアズールアクアに駆け寄り、保育部屋にある、羽とコケを敷いたやわらかい寝床に導いた。
フォックススターはどうどうと胸を張って顔を上げ、「今日、責任をもって命名する」と大きな声を張り上げた。
副長のフィニックスシャドウは紅色の尾をなびかせ、族長に駆け寄った。
「名前を考えている間狩猟部隊を出そうと思っているが、いいか?」
「ああ、たのむ」
フォックススターは真剣な目で見返し、族長部屋に続くトンネルにかかったカーテンをくぐった。
フィニックスシャドウは空き地の真ん中へ駆けていき、狩猟部隊の指示を出している。
フォックススターはため息をついた。
責任をもって名前を付けよう。
まず、娘。
あのキラキラと輝く、ガラスのような紺色の瞳。
そして、夜の星をまとった黒い毛皮。
夜の紺色の空に浮かび上がる、猫たちの黒い影。
よし、あの子の名前はナイトキット(夜の子猫)だ!
つぎに、息子。
透き通ったハシバミ色の瞳に、俺と同じ赤い毛。
まるで、火のような…
そうだ!
だが、この名前を付けてよいのだろうか?
あの、私の祖父の父、「森の王」と呼ばれたあの英雄の名を。
暗黒の森からの襲撃で、命を落としたあの猫の。
なぜ部族名が変わったのかは、わからない。
だが、今は気にしている時ではない気がする。
この子に合う名は、これしかない。
この名前を付けるからには、あの子も「森の王」と呼ばれるのにふさわしい、素晴らしい英雄に育て上げて見せよう!

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投稿 by ジェードウィング Thu Dec 21, 2023 6:47 pm

第一章
「おい、起きろファイヤキット」
ファイヤキットは、ハシバミ色の瞳をパチッと開けた。
「おとうさん?」
「ああ。命名式だろ?早起きするんじゃなかったのかい?」
命名式!
ファイヤキットは寝床から飛び出した。
あたりを見回すと、姉はもう毛づくろいを終えたつややかな毛皮を輝かせ、しっぽを前足に駆けて座っている。
「ファイヤキット!あなた、イバラのトンネルの中をしっぽから引きずり回されたみたいな姿ね!」
ナイトキットがからかった。
「手伝ってよ!」
「どうしようかしら?」
ファイヤキットが助けを求める声に、ナイトキットはいたずらっぽく目を輝かせた。
結局ファイヤキットはナイトキットに毛づくろいを手伝ってもらい、やがて炎の色をした毛が輝くまでになった。
「ありがとう!」
「当然よ」
姉が答えるのとほとんど同時に、母が保育部屋から現れた。
「あら、あなたたち。ファイヤキットは珍しく毛が輝いて。ナイトキットはいつもより少し早起きね」
ナイトキットは胸を張った。
「だって今日は命名式だもの!」
アズールアクアはにっこりと笑った。
だが、その瞳の奥には言葉に表せない何かが隠れているような気がした。
あれは、不安…?
ファイヤキットは頭を振った。
なんで母さんが心配する必要があるんだ?ないだろ!
ファイヤキットは気持ちを切り替え、しっぽを一振りした。
「ねえさん、遊びに行こうよ!あのシダの茂みの向こう!」
ファイヤキットはナイトキットを誘った。
「ええ!」
ナイトキットはガラスのような紺色の目を輝かせ、ファイヤキットと一緒にハリエニシダの茂みを飛び越えた。
「姉さん、いつものやつ作ろう!」
ファイヤキットがそう言うと、ナイトキットは目を輝かせてうなずいた。
と同時にファイヤキットは念を込めてしっぽを振り、形を描いた。
すると、その形通りに宙に小さな稲妻が浮かび上がった。
それを目がけてナイトキットが鋭くしっぽを振り、稲妻を氷に閉じ込めた。
そう、これこそ僕らの「力」だ。
ほかのみんなには言っていないが、僕たちきょうだいは氷と稲妻を操ることができる。
なぜだかわからないが、生まれつきそうだ。
「やったわね!今日は「カプス(雑木林)」の形をした稲妻よ!本物そっくり!やっぱりファイヤキットはすごいわ!」
ナイトキットがぴょんと一回跳ねた。
「姉さんだって!クリスタルみたいにきれいな氷だね!」
少し間があり、ナイトキットが言った。
「もう壊しましょうか?見つかったら大変な気がするの…いつもと同じで」
ファイヤキットもうなずいた。
「そうだね」
二匹は同時にしっぽを振り、氷を割った。
すると氷は素早く地面に溶け込み、稲妻は一度輝いて消えた。
その両方が消えたすぐ後、後ろの茂みがかさっと音を立てた。
「あなたたち、何をしていたの?さあ、命名式よ」
アズールアクアだ。
「はあい!」
二匹は一緒に返事をし、我先に、とハイロックの前に滑り込んだ。
そしてほかの戦士や見習いたちと族長     父でもある猫     を待った。
このキャンプは背の高いシダや倒木、ハリエニシダの低木やオークの木で囲まれた空き地にある。
その壁の内側には猫たちが作ったイバラの壁もあり、敵の侵入を防ぐ。
ところどころ岩でできたかたい地面になるが、だいたいは土か草が生えている。
過ごしやすい、安全なキャンプだ。                                 . .
そう考えていると、父が族長部屋から出てきた       族長部屋は、すごく太い木のウロの中だ。コケのカーテンがかかっていて、中は広い。
ファイヤキットは何度か父に入れてもらったことがあった。
族長は現れるなりハイロックに飛び乗り、声を張り上げた。
「みんな、もう集まっているな?今から一族の集会を始める!」
みんなが族長を見上げた。
「まず初めに、なわばり内の報告だ。キツネの巣穴が見つかったが、不在だった。森をうろついているかもしれないから、十分気を付けるように。特に、母猫は子猫から目を離さないように」
母猫のファーズシェイド(ハリエニシダの影)が小さな悲鳴を上げた。
「安心しろ。なわばりからは遠いところだから」
その言葉を聞き、ファーズシェイドはいくらかほっとしたようだった。
「そして次に、命名式…!」
ファイヤキットはごくりと生唾をのんだ。
ナイトキットは、となりで胸を張っている。
「ファイヤキット、ナイトキット、前へおいで」
フォックススターがしっぽで招いた。
ファイヤキットは震える前足を無理やり動かし、族長の前で止まった。
「わたくし、カプス族の族長であるフォックススターは、この子猫たちを見習いに昇格させることを宣言いたします。また、先祖の戦士の皆様に認めていただきたくお願いいたします」
フォックススターが二匹を見下ろした。
「ナイトキット。お前は今この瞬間から戦士名を獲得するまでの間、ナイトポーという名前になる。お前の指導者は、デューウィスカーズだ」
族長の言葉と同時に、青い目をした灰色の年長な戦士が前に出てきた。
「よろしくな、ナイトポー。フォックススター、責任をもって指導するよ」
フォックススターもうれしそうにうなずいた。
「頼んだぞ」
少し間をおいて、再びフォックススターが口を開いた。
「次に、ファイヤキットだ。お前は今この瞬間から戦士名を獲得するまでの間、ファイヤポーという名前になる。お前の指導者はフィニックスシャドウだ。私に忠実なこの部族の戦士をまとめる副長であるこの猫に、お前の指導を任せる」
フィニックスシャドウがゆっくりと出てきて、ファイヤポーと鼻を触れ合わせた。
「よろしく。がんばろうな、ファイヤポー」
ファイヤポーは、副長のあいさつにはにかんで答えた。
「よ、よろしくお願いします」
その様子を見て、フォックススターがうなずいた。
「次に、戦士の命名。スラッシュポーとモウルポー         
ファイヤポーはもう族長の言葉は聞いていなかった。
ひとつは、見習いになった興奮。
そしてもう一つは、緊張感が解けてからの安心だ。
これからの見習いとしての生活を考えると、うきうきする。
ファイヤポーはすぅーっと大きく息を吸い、空を見た。
空はただ青く、雨雲や稲妻の気配はかけらほどの量もない。
ただ、穏やかに、穏やかに、雲が流れていた。
スラッシュポーとモウルポーがスラッシュフェザーとモウルペルトという名前になったと知ったのは、後からナイトポーに聞いた時だ。
やっぱりあの時命名式をよくもていればよかったと、ファイヤポーは寝床で後悔した。

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投稿 by ジェードウィング Fri Dec 22, 2023 5:15 pm

第二章
「姉さん!」
呼びかけると、ナイトポーが顔を上げた。
「なあに、ファイヤポー?」
「デューウィスカーズが探してたよ。ぼくらと一緒に狩りの訓練に行こうって」
ナイトポーは目を輝かせ、サッと立ち上がった。
「デューウィスカーズとフィニックスシャドウは?」
「イバラのトンネルの前に。ぼくに、君を探してきてくれって頼まれたんだ」
ナイトポーがうなずいた。
「行きましょう。呼びに来てくれてありがとう」
二匹は見習い部屋を飛び出し、イバラのトンネルの前に滑って止まった。
「ナイトポー、聞いたと思うが、今からフィニックスシャドウとファイヤポーと一緒に狩りの訓練に行く。前習ったことは覚えているな?」
ナイトポーはうなずき、注意事項を3つ並べていった。
「まず、足音を立てない。次に、無駄な動きはしない。そして、獲物から目を離さない」
デューウィスカーズが満足げにうなずいた。
「上出来だ」
そしてフィニックスシャドウと見やり、四匹は連れ立ってイバラのトンネルを抜けた。
ファイヤポーは相変わらずフィニックスシャドウの速さについて行くのには苦労した。が、初めての訓練の時よりも体力が付いた気がする。
ファイヤポーはそう思いながらも短い足を必死に動かした。
フィニックスシャドウ、特別に足が長いんだよ!
ようやく狩りをするためのサニーツリーズ(日当たりの良い木々)に着いた。
ファイヤポーは太陽であたたかい空気をすぅーっと吸い込み、思いっきり伸びをした。
そしてシャンと体を起こし、フィニックスシャドウをまっすぐ見つめた。
フィニックスシャドウはうなずき、「何か獲物のにおいはするか?」と尋ねた。
ファイヤポーは身をかがめ、鼻づらを突き出してあたりのにおいをかいだ。
「リスのにおいがします。そして、ハタネズミが」
デューウィスカーズもうなずいた。
「その通り。では、ナイトポーにはハタネズミを捕ってもらおう。ファイヤポーはリスを」
そしてフィニックスシャドウがしっぽをシュッと一振りし、「はじめろ」と合図を出した。
その合図と同時に二匹は分かれて駆けだし、ファイヤポーはリスのにおいを追った。
あそこだ!
リスのにおいは、あのシダの茂みの向こう側からする。
耳を澄ますと、クルミをかじる小さな音も聞こえた。
ここからじわじわ進んで忍び寄ろう。
ファイヤポーはぐっと目を細め、滑るように前足出した。
そして蛇が地面を這うかのようにくねくねと進み、シダの茂みをぐるっとよけてリスの背後に着いた。
だがリスはクルミをかじるのに夢中で、こちらに気づかない。
いける!
ファイヤポーはさらに前進し、狙いを定めて鋭い牙を持つ口を開いたまま鼻づらを突き出した。
そして見事にリスを捉え、ひと噛みで仕留めた。
ファイヤポーは満足げにリスをくわえ、指導者の下へ戻った。
ファイヤポーがフィニックスシャドウの足元に大きなリスを落とすと、フィニックスシャドウは「よくやった」とひげを動かした。
「今の狩りのわざはどこで覚えたんだ?」
デューウィスカーズがたずねる。
「自分で考えたんです。リスは地面の振動を感じ取ると同時に音も察知します。なので、音や振動がないように這って進み、逃げられないように飛ばず、すばやくあごを突き出してみたんです」
デューウィスカーズは感心したようにうなずき、フィニックスシャドウを見やった。
フィニックスシャドウも説明を聞いて納得し、誇らしげに目を輝かせた。
そして四匹はしばらく狩りを続け、デューウィスカーズはネズミを二匹、そしてフィニックスシャドウは大きく太ったハトを捉えた。
全員が獲物を捕ったので、獲物の山はきっと大きくなることだろう。
フィニックスシャドウがくわえていた獲物を地面に置き、見習いたちに声をかけた。
「二匹とも。昨日教えたベリーの種類は覚えているな?」
二匹は真剣に目を光らせ、「はい」と答えた。
そう、カプス族の戦士は獲物の肉だけでなく木の実も食べるので、健康的で病気にかかりにくい。
そして獲物をしとめる量が少しで済むのだ。
「ファイヤポー、言ってみろ」
「ひとつは、アカフサスグリ。細い木になります。酸味が強く、名前の通り赤い実です。もう一つは、アケビ。気に絡まって生えるツタ類です。だいたいが紫で、たまに茶色の個体もあります。種は少し毒性があるので気を付ける。素朴で優しい甘みのある実ですよね?」
フィニックスシャドウがしっぽを振った。
「上出来だ。では、ナイトポーはアカフサスグリをひと房、ファイヤポーはアケビを三個とってこい」
二匹はうなずき、昨日まわったベリーがとれるポイント、「ナッツウッズ(木の実の森)」へ向かった。
二匹はすぐに見つけ、ナイトポーはアカフサスグリをひと房、ファイヤポーはアケビを三個取った。
そして急いで二匹の元に戻り、胸を張って座った。
「よくできたな。では、すべて持って帰って獲物置き場と木の実置き場に追加しよう。ナイトポーはアカフサスグリを置くときは気をつけろ。うっかりすると実がつぶれてしまうからな」
四匹はしばらく森をかけ抜け、イバラのトンネルをくぐった。
キャンプの中は活気にあふれ、もうすべての戦士が起きだして仕事をしていた。
「ファイヤポー、サンセットアイに獲物と木の実を届けて来い」
ファイヤポーは自分の取ったアケビとデューウィスカーズのネズミを一個ずつ取り、優しい看護猫のもとへ向かった。
ファイヤポーは看護部屋の入り口に立ち、大きな声で呼んだ。
「サンセットアイ!ファイヤポーです!アケビとネズミですよ」
すぐに夕焼け色の目をした白猫が現れ、ファイヤポーはネズミとアケビを足元に落とした。
「あら、ファイヤポー!アケビを採ってきてくれたのね。ありがとう。私が木の実の中で一番好きなものはアケビだと知っていて持ってきてくれたの?」
ファイヤポーは少し照れて返事をし、フィニックスシャドウの元へ戻った。
また明日もアケビを採ろう。

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投稿 by ジェードウィング Sun Dec 24, 2023 12:19 pm

第三章
「姉さん?」
返事がない。
ファイヤポーは姉の寝床に近づいた。
「姉さん」
もう一度呼びかける。
その瞬間、シャッ!という音とともに姉の寝床から氷が飛んできて、ファイヤポーに当たる前に砕けて散った。
「引っかかったわね!」
ナイトポーが無邪気に寝床から飛び出し、ぴょんぴょん跳ねた。
ファイヤポーもふざけてうなり、電気を宿した前足で姉の尻尾に触れた。
ナイトポーは「きゃっ!」と叫び、「やったわね!」とファイヤポーをにらんだ。
だが姉の目が輝いていることから、本気で怒っているのではないと分かった。
ナイトポーは仕返しに冷たい前足でファイヤポーの尻尾を触り、凍らせた。
「寒いだろ!青葉の季節ならいいけど、もうすぐ落ち葉の季節だぞ!」
ナイトポーがおかしそうに転げまわった。
あたりを見回すと、見習い部屋は二匹の遊びのせいでひどい有様になっていた。
「部屋、戻そうか」
ファイヤポーが声をかけるとナイトポーは部屋を見回し、凍った寝床に目をやって「ひどくやりすぎたわね」とうなずいた。
二匹はまず部屋の氷を砕いて消し、そしてからお互いの尻尾をなめて元に戻そうとした。
お互いの尻尾をなめようと座ると、誰かの声がした。
「お前たち?何やってるんだ!」
二匹は凍り付いた。
もちろん、姉の氷でという意味ではない。
「お、お父さん…」
族長である父はまずファイヤポーの凍った炎の色の尻尾に目をやり、そして雷をまとったままのナイトポーの尻尾を見やった。
「どういうことだ?」
父の目は疑問と不安に満ちていたが、どうやら怒っているのではなさそうだ。
「父さん、ごめんなさい」
ファイヤポーはとりあえず謝り、地面に伏せた。
ナイトポーも同じように謝って伏せ、反省していることを表した。
やっぱり、見習い部屋で遊ぶのはリスクが大きかった。
だって、力のことが父にばれてしまったのだから!
「二匹とも、顔を上げろ。お前たちの尻尾は      なんでそんなことに?」
父は言葉が出ないようで、声はとぎれとぎれだった。
二匹は顔を見合わせた。
そして顔を上げて体を起こし、耳をぴたりと寝かせたまま話そうとした。
だが父はしっぽでさえぎり、「まずは外に出よう」と言って見習い部屋を出た。
三匹は見習い部屋のすぐ外で座り、フォックススターは話してくれ、という風に片耳をぴくっと動かした。
ファイヤポーは少しためらい、本当に話そうか、とナイトポーの目を見た。
ナイトポーは首をすくめて、「話しましょ。仕方がないわ」と小声でしっぽを振った。
ファイヤポーは息を大きく吸い、ゆっくりと、でも震える声で話し出した。
「父さん、僕たち遊んでたんだ     自分たちの持ってる力で。知ってたよ、ほかの猫にはない力だって。使っちゃいけないかもって。でも、使える力をどうしても使いたくて、みんなに迷惑が掛からないように秘密で遊んでたんだ」
フォックススターは半分口を開いたまま、身動き一つせずに二匹を見つめた。
「いつからだ?」
「生まれた時からずっと、だと思う」
あってるかな、とナイトポーをちらっと見ると、ナイトポーは小さくうなずいた。
「こういうことだったのか…」
フォックススターは身動きをしないまま口だけを動かしてそう言った。
二匹は再び顔を見合わせ、ファイヤポーはたずねた。
「どういうこと?」
フォックススターはやっとシャンと体を起こし、目に光を戻して話し出した。
「お前たちが生まれた時からある、奇妙な模様」
ファイヤポーは目を見開いた。
「僕たち、ほぼ単色の猫だよ       僕はうっすら縞柄だけど」
ファイヤポーは不思議でたまらなかった。
フォックススターは首を振り、しっぽの先でファイヤポーの肩をそっとなでおろし、「隠していてすまなかった」と謝った。
ファイヤポーが何のことだと思いつつ肩を見下ろすと、それまでなかった稲妻の模様が出てきた。
それも、「模様」という模様ではなく、まるで宝石のような、黄金色で透明の石を埋め込んだようなものだ。
「何これ!」
ナイトポーも自分の肩を見下ろし、クリスタルの形の、透明な宝石を見た。
フォックススターは困った表情になり、再度謝った。
「これ、何…?」
ファイヤポーは父をじっと見た。
父はまた首を振り、「わからない。だが、お前たちの力を主張するものだと、今わかったんじゃないかな」と答えた。
「これが、僕らの力      !」
ファイヤポーがそう言ったその時、二匹の肩に埋め込まれたような石がまばゆい光を放ち、カプス族のなわばりの森中    いや、部族の森中の空が黄金色と白の光で満たされた。
戦士や母猫、看護猫のサンセットアイも何があったのかと部屋を飛び出し、アズールアクアは恐怖に満ちた目をしている。
「あなたたち!」
アズールアクアは急いでファイヤポーとナイトポーに駆け寄り、「誰にも傷つけさせるものか」とみんなをにらんで二匹を守るように前に立った。
一族のみんなはあまりのまぶしさに目をつむり、フィニックスシャドウとデューウィスカーズは何とか弟子に近づこうとゆっくり足を動かしている。
そのうち光はやんだ。
と思ったその時!
ビシビシと音がしたので地面を見下ろすと、黄金色の稲妻が混じった透明な氷でゆっくりと地面がおおわれていっていた。
フィニックスシャドウやデューウィスカーズ、ほかの戦士たちは後ずさったが、父と母だけは二匹のそばにいてくれた。
ナイトポーが恐怖に満ちた目を見開き、叫んだ。
「やめて!」
                   
何が起こったのかどうなったのか。
父は?母は?戦士たちやサンセットアイはどうなった?
ファイヤポーは周りを見ようと目を開けた。
自分たちの足は、地面についていない。
冷たくて視界はうるうると歪んでいて…
父も母も、弾き飛ばされたのか。
二匹は身を寄せて恐怖に満ちた目を見開いている。
          死ぬのか?
ファイヤポーはスゥっと目を閉じた。
自分の少し下のほうで、姉のナイトポーが身動きをせずに目を閉じている。
僕たちは稲妻をまとった氷の中に閉じ込められ、まだ始まったばかりだった生涯を終えるのか?
ファイヤポーはもう考えることもできなくなり、体の力を抜いた。
みんなが下のほうに見える。
僕たちは地面から突き出した氷にとらわれたのか。
でも、よかったかも。
僕たちの力のせいで、みんながおびやかされることは、絶対ないから。

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投稿 by ジェードウィング Mon Dec 25, 2023 11:28 am

第四章
寒い…
ファイヤポーは前足を動かそうとして、思い出した。
そうだ。
ぼく、死んだんだっけ?ナイトポーと一緒に。
「いいや、違う」
知らない猫の声がした。
ファイヤポーは氷にとらわれたまま目を開けた。
そこにいたのは、二匹の猫。
一匹は、灰色の縞柄に水色の目をした雄猫。
そしてもう一匹は、僕とそっくりな炎の色の毛をした雄猫。でも、目は僕よりもっときれいな緑で       
炎の色の猫が二匹の見習いを捕らえた氷に歩み寄り、前足を触れた。
すると、あっという間に真っ赤な炎が氷を覆い、溶かした。
身動きができるようになったファイヤポーはナイトポーに駆け寄り、呼びかけた。
「ナイトポー?ナイトポー?」
ナイトポーはしばらくしたのちうなり、ゆっくり目を開けた。
ナイトポーはゆっくりと体を起こしながら、「ファイヤポー?ここはどこ?」と尋ね、急にはっとした顔になった。
「まさか、死んだの…?」
今度は灰色の猫が歩み寄ってきた。
「違う。死んでない。だが、生きてもいない」
二匹は顔を見合わせ、首をかしげた。
「見せてやろうか?」
灰色の猫が言うので、ファイヤポーはうなずこうとした。
が、ナイトポーがそれをさえぎった。
「あなたたちは誰ですか?」
炎の色の猫が目をぐっと細めた。
灰色の猫は水色の目で二匹をじっと見つめ、立ち上がりかけていた足を下ろした。
炎の色の猫が口を開く。
「俺の血を分けた子孫たち。お前の父、フォックススターは私の孫の孫だ」
ファイヤポーは目を見開いた。
ナイトポーも相当驚いていることだろう。
「私はファイヤスター。元のサンダー族の族長だ。こいつはその時の看護猫、ジェイフェザー。ファイヤポー、ナイトポー、お前たちは「カプス族」の猫だろう」
二匹はそろってうなずいた。
「今の部族名、四つ言ってみろ」
ファイヤポーは少しためらい、ナイトポーをちらっと見やった後口を開いた。
「カプス族、コニファー族、ドリズル族、ハサック族です」
ジェイフェザーがうなずいた。
「昔       まあ昔と言っても近い時代だが、部族はサンダー族、ウィンド族、リヴァー族、シャドウ族という名だった。が、今はいろいろあって今お前の言った四つの名前になっている」
ファイヤポーはうなずいた。
まあ、「いろいろあって」の部分は流しておこう。
「俺たちが来たのは、お前たちの力について話すため。それのせいでお前たちはここにいる」
ナイトポーが恐る恐る口を開いた。
「この肩の模様が現れたからですか?」
ファイヤスターが首を振る。
「それもあるかもしれんが、お前たちはおそらく自分の力を制御できなかったんだ。昔、似たような力を持った者がいた」
ファイヤスターの言葉と同時に自分のいた場所が全く知らない場所に移り、ファイヤスターやジェイフェザー、ナイトポーも自分も色が薄くなっていることに気が付いた。
「ここはその猫の記憶。我々の姿があの猫たちの目に映ることはない」
二匹の猫が氷と稲妻で遊んでいる。
まだファイヤポーと同じような大きさであることから、見習いだろう。
二匹は戦士の目に入らない場所で無邪気に遊び、騒いでいる。
だが、ファイヤポーは気が付いた。
二匹の足元は、稲妻混じりの氷でビシビシと凍っていっている。
二匹は気づかず遊び、そのうち草花や木までもが凍りだした。
そしてその瞬間、まばゆい閃光が空へ向かって伸びた。
二匹は恐怖に満ちた顔をして身を寄せ合い、戦士たちの驚きの声や悲鳴を聞いている。
ファイヤポーは身震いをした。
さっきの僕たちと似たような状況になっている!
だが、その先は違った。
空に走った閃光は森中を包み込み、あっという間に生き物や植物を襲った。
稲妻と氷は二匹の見習いだけを避け、すべての猫を恐怖の表情のまま凍らせてしまった。
二匹が逃げることなくおびえてかたまっていると、いきなり二匹が凍り付いて砕け、消えた。
そう、二匹は消えたのだ。
             
静かすぎる。
あたりはクリスタルのように美しい氷と黄金色の稲妻に囲まれ、森は氷に閉じ込められた。
森にいるすべての猫がすべての植物が、すべての生き物が凍り付き、消えてゆく。
二匹の見習いは力を制御できなかったのだ…!
そこで、景色が変わった。
元居た場所に戻ってきたのだ。
ナイトポーはおびえてうずくまっている。
が、ファイヤポーはまっすぐとファイヤスターを見つめ、ファイヤスターは見つめ返してきた。
「僕はどうしたらいいんですか?」
ファイヤスターは表情を動かさないまま言った。
「おいで」
ジェイフェザーはナイトポーをなめて不器用に慰め、ファイヤスターのもとへ行くよううながした。
ファイヤスターはフォックススターがやったように尻尾でファイヤポーの肩をなでおろした。
さっきまで稲妻の石があった場所は元の炎の色の毛に戻り、ファイヤスターはナイトポーの肩も同じようになでた。
ファイヤスターがしっぽをどけると、そこには小さな宝石のかけらがあった。
だが、さっきまでと様子が違う。
そのかけらの先端にはツタの茎のようなものが通してある。
「これは何ですか?」
ファイヤポーはファイヤスターに尋ねた。
ファイヤスターは黙ってそれをくわえ、かぎづめと牙を使って器用にファイヤポーの左前足にくくりつけた。
「これはスター族の      俺の力で結び付けられている。どれだけ激しく戦ったとしても、ほどけることはないだろう。こうしておけば、力を制御『しやすく』はなる」
ファイヤスターが、ナイトポーの右前足にもファイヤポーと同じように石をくくりつけながら言った。
「後はお前たちの心しだいだ。母や父、仲間が待ってるぞ」

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投稿 by ジェードウィング Tue Dec 26, 2023 4:57 pm

第五章
誰かの泣く声がする。
きれいな、透き通った声。
知らない声だ。
ファイヤポーが目を開けると、知らない白猫が見えた。
でも、誰かに似ている             
ファイヤポーは目を開けた。
そう、「本当に」目を開けたのだ。
さっきのはきっと夢。
『母や父、仲間が待ってるぞ』
ファイヤスターの声が頭の中によみがえった。
僕たちはまだ、氷の中だ。
ファイヤポーは気力を振り絞って動くほうの前足のかぎづめを出し、ぎゅっと目をつぶって力を込めた。
その瞬間、ファイヤポーの前足から炎が噴き出し、一気に氷を溶かした。
猫たちは目を真ん丸にして見つめ、母はすすり泣くのをやめて顔を上げた。
ファイヤポーはゴホゴホと水を吐き出し、ナイトポーも同じように倒れこんでいるのが目の端に映った。
すぐにフォックススターが駆け寄ってきて、ファイヤポーの肩にしっぽをかけた。
「どうした!?大丈夫か?何があった?」
父の質問に、ファイヤポーは一気に答えた。
「自分たちの力を制御できなくなった。大丈夫。夢の中で高祖父のファイヤスターや大大おじさんのジェイフェザーとあった」
フォックススターが目を丸くした。
「その…前足についているのは?」
ファイヤポーは自分の左前脚についている美しい石を見た。
「力が制御できるようにって、ファイヤスターが      
そこで、ファイヤポーはファイヤスターの言葉を思い出した。
「制御『しやすくは』なる」
と。
これは制御しやすくなるわけで、注意しなきゃまたこんなことに…いや、これ以上の出来事になってしまうんだ。
ファイヤポーは昔の見習い猫たちの記憶を思い出し、身震いをした。
あんなことにはなりたくない!
…仲間を守りたい…!
フォックススターが心配するような表情になった。
「よくわからないが、お前たちが無事ならいい。ファイヤポーやナイトポーを失わなかったのが、一族にとっても、俺にとっても良かった」
ファイヤポーは胸があたたかくなった。
父はこんなに優しく接してくれる。
ファイヤポーはナイトポーを必死になめて温める母を見て、同じことを思った。
だが、気が付いた。
一族のみんなはおびえた表情で僕ら二匹を見つめている。
ファイヤポーが一歩進むと、そばにいた猫たちが数匹後ずさった。
後ずさらなかったのは、指導者のフィニックスシャドウとデューウィスカーズくらいだ。
だが二匹も不安そうな目でファイヤポーたちを見つめている。
ただ、一つの集団は動かずにずっとそばにいる。
長老たちだ。
長老の一匹、最年長のウィーゼルフットが言った。
「特別な力があるからって、なんじゃ!この子たちは全力でカプス族につくしておる。なにか意義があるものか?」
次に年長な長老であるヘアテイルも言った。
「そうよ!この子たちに力があるからって、恐ろしいものですか!むしろ、有効に考えたほうがいいわ。カプス族、いいえ、部族には心強い味方がいるのよ!」
「そうじゃ!それに、この二匹はアズールアクアとフォックススターの子じゃぞ?善良な猫から恐ろしい猫が生まれることは、めったにないと思うが?」
二匹に次いで、ラッシュテイルが言った。
ファイヤポーは長老たちの優しい心に胸があたたかくなったが、仲間を殺めてしまった見習いたちの無邪気な笑顔を思い出して一気に怖くなった。
ファイヤポーは今にも誰かが襲ってきて自分ののどを切り裂くのではないかと恐ろしい考えが頭に浮かんだ。
だが、みんなは黙って散り始めた。
誰ひとり長老の言葉に賛成する者はいなかったが、誰も何も言いはしなかった。
ナイトポーはうずくまり、耳をぴたりと寝かせている。
ファイヤポーは長老たちの集団の前へ行って姿勢を低くし、頭を下げて礼を言った。
「さっきはありがとうございました。長老たちの言葉で、恐ろしい気持ちは半減しました。姉も僕も、心から感謝しています」
長老たちが表情を和らげた。
「あなたたちにどんな恐ろしい力があったって、あなたたち二匹が部族にとって大切な存在であることに変わりはないわ。自信を持ちなさい」
ファイヤポーはファーズペタルの言葉にもう一度頭を下げ、長老たちに背を向けて去った。
少し歩くと誰かの尻尾が背中に触れた。
振り向くと、そこにはサンセットアイの夕焼け色の瞳があった。
「体が冷えているんじゃない?こっちにおいでなさい」
ファイヤポーは少し沈黙の時間があったのちに尋ねた。
「サンセットアイはみんなみたいに僕が怖くはないんですか?」
サンセットアイがじっと見つめてきた。
「怖いと思う?」
ファイヤポーはうつむいた。
「ファイヤポー。長老たちの言うとおりだと、私は思うの。あなたがどんな力を持っていようと、あなたに対する一族の愛情が薄れるべきではない」
ファイヤポーはサンセットアイの夕焼け色の瞳を見つめ返した。
「もちろん、私の愛情だって尽きることがないわ」
ファイヤポーは自分のわき腹に触れているサンセットアイの真っ白な毛のあたたかさが心地よくて、サンセットアイの鼻に自分の鼻を触れた。
サンセットアイはにっこり微笑み、言った。
「ファイヤポー、またアケビをちょうだいね」

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投稿 by ジェードウィング Tue Jan 02, 2024 2:32 pm

第六章
「狩猟部隊は、二つにする。ひとつは俺が率いる。もうひとつはモーニングフラッシュに任せよう」
フィニックスシャドウが出し慣れた指示を出す。
フィニックスシャドウが猫の群れに目を向けた。
「俺の部隊に参加するのは、マーシュリード、ナイトレイヴン、ムーンポー」
フィニックスシャドウの目が、ファイヤポーに移った。
「そして、ファイヤポーだ」
みんなの体がこわばった。
が、フィニックスシャドウは冷たい声で仲間に言った。
「ファイヤポーがいって何か問題があるのか?文句があるなら言ってみろ」
みんなが黙っていたが、じきにムーンポーがおびえた口調で言った。
「ファイヤポーは恐ろしい力を持っています」
ファイヤポーは身をこわばらせた。
「ナイトポーもです」
ムーンポーのそばにいたスターリングポーも恐る恐る言った。
みんなが気まずそうにしている。
ファイヤポーは口を開いた。
「じゃあ、僕はいきません     いいえ、行けません。みんなが僕らから距離をとる。僕らが一族の生活を脅かすようなものになっているのなら、一族を出ていく覚悟もできています」
ファイヤポーはうなだれた。
そう、ファイヤポーは『自分たちに害をなすもの』が出る前にナイトポーと部族を出ていくことも考えている。
ファイヤポーはしっぽを引きずり、ナイトポーを呼んで、呼び止めるフィニックスシャドウの声を聞かないように努めてイバラのトンネルに入った。
ムーンポーは困った顔になり、スターリングポーに身を寄せた。
「いらないことを言って、すみませんでした」
二匹が謝るのが聞こえたが、ファイヤポーは許すどころか怒りを覚えた。
後ろで足音が聞こえた。
「誰だよ!」
ファイヤポーは牙をむき、毛を逆立てた。
あんなことを言われた後だ。少しは配慮できないのか?
「ファイヤポー、待て」
と、父さん…?
ファイヤポーはとりあえずイバラのトンネルを抜け切り、しっぽを前足に駆けて座った。
「何?」
フォックススターも同じように座り、黄色い目を光らせた。
「何を言われた?お前は何を考えている?」
ファイヤポーは一気に答えた。
「別に何も言われてないし、考えてもない」
フォックススターが立ちあがった。
「嘘だろう?」
目がきらりと光る。
ファイヤポーも立ち上がり、ナイトポーを背中でかばうように前に立った。
「僕たちを傷つけようと考えているものがいるなら     いや、快く思っていない猫が大勢いるから!だから僕は出ていくことも考えてるだけだよ!」
フォックススターが息をのんだ。
「出ていく…?」
「考えてるだけだよ。まだ、決定しても何でもない」
ナイトポーは震えている。
「もう、いいだろ?二匹だけにしてよ」
フォックススターは少し心配そうな目をしたがうなずき、イバラのトンネルに身を消した。
ファイヤポーはため息をつき、ナイトポーをつついて立たせた。
「行こう」
ナイトポーはうつむいたまま立ち上がり、震える足を無理やり動かすようにして歩き出した。
二匹はしばらく無言で歩いた。
ファイヤポーは大きな倒木をこえるときだけナイトポーに力を貸し、また無言で歩いた。
歩いて、歩いて、ひたすら歩いた時、ふわりと漂ってきたのは       
コニファー族のにおい!
ここは境界線なんだ!
ファイヤポーは急いでヒースの茂みの中に隠れようとしたが、遅かったかもしれない。
「カプス族のにおいがしないか?」
という声がしたのだ!
「そうか?まあ、ここは境界線だからな」
今度は、別の猫の声。
「境界線だからといいにおいが濃すぎるんだよ、ブライトナイト」
ブライトナイト!
確か、コニファー族の副長だ。
「落ち着け、カンファークロー。風はこちら向きだ。カプス族のにおいがしてもおかしくはないぞ」
ブライトナイト最高、とファイヤポーは思った。
「では、俺がここに残って確かめる」
カンファークローと呼ばれた茶色い雄猫は、紺と緑のオッドアイの目を光らせた。
「いいや、その必要はないだろう。とにかくマーキングをし直さなければ」
ブライトナイトがゆっくりとまばたきをした。
カンファークローは「どうだか」と鼻を鳴らした。
その様子を見たショウガ色の見習いが、口を開いた。
「ブライトナイト、僕がここに残って調べてみましょうか?そうすれば、カンファークローにも納得していただけると思います」
そういってファイヤポーの隠れているヒースの茂みに目をやった。
気づいているのか?
ファイヤポーはギクッとした。
ブライトナイトは一瞬考えるような表情になったが、うなずいた。
「いいだろう。では、レッドポーはここに残って調べろ」
カンファークローがしっぽを振った。
「見習い一匹でか?殺されちまうぞ」
ブライトナイトがオレンジの目を光らせた。
「俺の弟子だぞ?それに、フォックススターの部族の猫はきっとほかの猫を殺したりしない」
そして耳をぴくっと動かした。
「行くぞ、カンファークロー。レッドポー、たのんだぞ」
レッドポーはうなずき、境界線のにおいをじっくり嗅ぐ「フリ」をした。
そして二匹が歩いて行ったほうを横目で見やり、戦士たちがいなくなったことを確認すると体を起こした。
「出てきていいぞ」
ファイヤポーは疑わしげに思いながらもヒースの茂みから顔を突き出し、またひっこんでナイトポーをつついた。
ナイトポーは紺色の瞳を見開いていたが立ち上がり、ヒースの茂みから出た。
「二匹は行っちゃったよ。逃げたほうがいい。僕のにおいでごまかしておくから。カンファークローったら、いつもああなんだ」
レッドポーはナイトポーと目を合わせた。
ナイトポーも目をそらすことなくレッドポーの青い目を見つめ、口を開いた。
「ありがとう」
「いいんだよ」
ファイヤポーは二匹の間に割り込んだ。
「そろそろ行かなくちゃ。レッドポー、本当にありがとう。助かったよ。また大集会の時に改めてお礼を言わせてくれ」
レッドポーがうなずいた。
「急げよ。二匹が心配して戻ってくるかもしれない」
ファイヤポーはうなずき、駆けだした。
が、気が付いた。
「ナイトポー?」
ナイトポーはまだ何やらレッドポーと話している。
ファイヤポーが呼びかけると、ナイトポーはレッドポーに早口で何かを伝え、レッドポーから無理やり目を引きはがすようにしてこちらへ駆けてきた。
「何を話してたんだ?」
「いいえ、お礼を言っていただけ」
にしてはずいぶん長かったな。
ファイヤポーはそう言おうかと思ったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。
とにかく、さっきは助かった。
レッドポーにはしっかり感謝しなくちゃ。

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投稿 by ジェードウィング Wed Jan 03, 2024 12:42 pm

第七章
「ナイトポー、早く!」
二匹は急いでコニファー族との境界線から離れた。
ここはキャンプからすごく遠く、ましてや二匹の短い足ですぐには帰れない。
さっきは我を忘れて走ってきたので、そんなに長く感じなかったのだろう。
二匹は必死に足を動かしたが、じきに息が切れてきた。
後ろでバタッという音がし、ファイヤポーは振り返った。
そこにはナイトポーが足を投げ出して横になっており、「もうだめ!」と息を切らしていた。
ファイヤポーは駆け戻り、ナイトポーを説得しようと考えを巡らせたが、よく考えてみるとキャンプの外のほうが安全だった。
だって、キャンプに帰ってもみんなのおびえた声と、嫌な目つきと誹謗中傷しか待っていない。
ファイヤポーはナイトポーに言った。
「わかったよ…」
ナイトポーは目を見開いたままうなずき、「もういや」とつぶやいた。
そのうち、雨が降ってきた。
ファイヤポーは体を起こしてナイトポーをつつき、立ち上がらせた。
「雨だよ。しのげる場所に行こう」
ファイヤポーが小声で呼びかけると、ナイトポーはファイヤポーの目を見てうなずいた。
「そうね」
二匹はまた歩き出した。
今度は走るのではなく、歩き出した。
森のこんなほうまできたことはなかったな、と思い、ファイヤポーは周りの木々を見渡した。
すると、一本の道を見つけた。
サンダー道か…?
なわばりの外にあるのを見たことがあるサンダー道は、かたくて黒くて、とても嫌なにおいがして怪物が走っている。
だが、あの道は違う…?
その道は土でできており、草も生い茂っている。
もう使われていないんだろうか。
ファイヤポーはしばらく考え、寒さに震えるナイトポーと泥だらけの自分の毛を見て心を決めた。
この道をたどる!
ファイヤポーはナイトポーに声をかけ、あたたかいわき腹を寄せ合って進んだ。
ここでカプス族のにおいが途切れていることから、ここはなわばり外なのだろう。
ファイヤポーたちはそのやわらかい道を進み、やがて広い場所に出た。
そこはとても神秘的な場所に見えて、安心感を覚えた。
ここはどこだろう?
スター族と対話するのは、反対側の場所だし…
まあ、いろいろ考えていても仕方がない。
ファイヤポーはそう思い、改めて周りを見渡した。
その場所はコケでおおわれており、いろんな場所で木の根っこが突き出している。
細い木やとても背の低い木、白い小さな花がところどころ生えている。
真ん中は突き出した円形の岩があり、表面は平らだ。
その岩もコケに覆われていて、とてもやわらかそうに見える。
この場所が神秘的に見える極めつけは、差し込んだ光と流れずに止まった水かもしれない。
岩の向こう側はまたコケの地面が少し続いた後水に飲まれていて、その水の底もコケでおおわれている。
水は大きく広がっており、筋状に差し込んだ光に照らされて輝いている。
水が絶えた場所には岩壁があり、大きな穴が一つ空いていて、向こう側に何があるのだろうかと気になった。
水の中からは鮮やかな緑色をした木々が無数に突き出していて、ざわざわと音を立てた。
まるで、ファイヤポーたちを歓迎しているようだ。
ファイヤポーはほぅっと息を吐いた。
ナイトポーも寒さを忘れて見とれているようだ。
ファイヤポーは頭を振り、ナイトポーに話しかけた。
「上を見てごらんよ!岩でおおわれていて、穴は一か所しか開いていない。道理で、雨がかからないんだよ。ここで雨宿りしようよ、ナイトポー」
ナイトポーは目を上げ、うなずいた。
二匹は寝場所に平らな岩の上を選んだ。
その岩はさっきまで日が差し込んでいた場所だったらしくあたたかかった。
ファイヤポーはいろいろ考えたいことはあったが、いつの間にか眠っていた。
         
夢を見ているのか…?
またあの白猫が泣いている。
透き通った美しい声を上げて…
そう、あの猫は誰かに似ている。
でも、いったい誰に似ているっていうんだ…?
知りたい。
考えたい。
だが、それを思い出す前に、また夢から覚めてしまった。
もうだいぶ時間がたっていたようで、朝日が差し込んでいる。
ナイトポーは       
ナイトポーは?!
ナイトポーがいない!
ファイヤポーは急いで立ち上がり、あたりを見回した。
「ナイトポー?ナイトポー!」
どこに行ったんだ?
ファイヤポーは岩から飛び降り、そこらじゅうを探した。
ここにはいないんだろうか…一匹で帰っちゃったのか?
と思ったその時、ここに入るときに使った小道からナイトポーが現れた。
口には、太ったハトをくわえている。
「私を探していたの?」
ナイトポーがハトを落とし、言った。
「ああ…ああ、そうだよ、姉さん」
ファイヤポーは安心して、まともに声を出せなかった。
ファイヤポーは姉のもとへ全力で走り、わき腹に顔をうずめた。
ナイトポーが優しくファイヤポーの耳をなめる。
「唯一信用できるあなたを、置いて行ったりするわけないわ」
ファイヤポーは首を振った。
「わかってるけど…」
ナイトポーが顔を上げた。
「さあ、心配したらお腹が減ったでしょう?このハト、バカなのよ!私が近寄ってることも知らずに昆虫集めに夢中で…思わず笑っちゃったわ!」
ファイヤポーは気を取り直し、ナイトポーのしとめたハトにありついた。
「おいしい」
ファイヤポーの言葉を聞いたナイトポーが、うれしそうに目を輝かせた。
「馬鹿なハトにもいいところがひとつあるとしたら、それはおいしいことね」
二匹はのどを鳴らし、残さずハトを平らげた。
「ああ、おいしかった!」
ナイトポーが息をつき、口の周りをなめた。
「…そろそろ帰る?」
ナイトポーの言葉にファイヤポーは耳をぴくっと動かした。
「それがいいかも」
その答えにナイトポーはほっと肩の力を抜いたように見えた。
そういえば、姉は疲れ切っているように見える。
どうして、そんなに疲れているんだ?
まるで、一晩中起きていたような       
ファイヤポーははっとした。
いや、でもそんなわけはない。
ありえない。
まさか!
でも、つじつまが合う。
信じたくないけど、つじつまは合う。
ああ、嫌だ。
気が付かなければよかった。
ファイヤポーは目を見開いた。
頭の中を整理する。
姉は去り際、レッドポーと言葉を交わしていた。ずいぶん長い間ね。
そして、姉は疲れ切った顔をしている。
おまけに、さっき顔をうずめた姉の毛には、レッドポーのにおいが染みついていた。
ファイヤポーはぐっと生唾を飲み込んだ。
ナイトポーはレッドポーとあっていたんだ…!

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投稿 by ジェードウィング Mon Jan 08, 2024 12:32 pm

第八章
ナイトポーはキャンプ内の自分の寝床で起き上がり、ファイヤポーが眠っていることを確認した。
今日ここに帰ってきたときは、不安そうな目をする者がだいたいだったが、少数の猫は安心してくれた。
アズールアクアなんか、泣いて喜んでくれたなぁ…
ナイトポーはそう思いながらも見習い部屋から頭を突き出し、そうっと外を見た。
誰もいない。
空き地にいるのは、見張り番のスラッシュフェザーだけだ。
ナイトポーはうなずき、見習い部屋を飛び出してスラッシュフェザーの見張っているイバラのトンネル前に来た。
スラッシュフェザーが、耳をぴくっと動かす。
「どうしたんだい、ナイトポー?」
スラッシュフェザーは、私たちのことを心配し、同情してくれた数少ない戦士の一匹だ。
「眠れなくって」
スラッシュフェザーの目に、同情の色が浮かんだ。
「一匹になりたいんだな?」
ナイトポーはうなずいた。
「気をつけろ。夜明けには戻ってくるんだぞ。何かあったら、大声で叫べ」
ナイトポーは頭を下げ、イバラのトンネルを抜けた。


…またか。
ファイヤポーの推測は、きっと当たっている。
ファイヤポーは半分確信していた。
もう、見逃すことはできない。
ファイヤポーはナイトポーの後を追うように空き地を飛び出し、半狂乱になったようなふりをしてスラッシュフェザーに話しかけた。
「どうしよう!ナイトポーがいないんです!少し起きてみたら、寝床にいなくて…!」
スラッシュフェザーが安心させるようにファイヤポーの肩にしっぽを乗せた。
「ナイトポーなら、今キャンプを出たよ。眠れないらしい」
ファイヤポーは、ほっとしたように肩の力を抜いた。
「探しに行っていいですか?」
スラッシュフェザーがゆっくりとまばたきをした。
「ああ、行ってこい」
ファイヤポーは急いでイバラのトンネルを抜け、森に出た。
ナイトポーのにおいを頼りに、居場所をたどる。
やっぱり。
ナイトポーはまっすぐコニファー族のところまで行ったようだ。
ファイヤポーは走り出した。
姉さんと言ったら、どうしてほかの部族の猫と付き合おうなんて考えるんだ?頭にハチでもわいたのか?
ファイヤポーは心配よりも強い怒りを感じた。
ファイヤポーは無心で走り続け、ようやくコニファー族との境界線の近くまで来た。
声が聞こえる。
ファイヤポーは自分のにおいをごまかすため、ハリエニシダの低木の下に潜り込んだ。
信じたくはないが、やはり、ファイヤポーの推測は当たっていたようだ。
「レッドポー、夜しかあなたに会えないなんて、すごく悲しいわ」
ナイトポーだ。
「僕もだよ。まともに狩りもできなくてさ」
やっぱり、話し相手はレッドポーだった。
「私たちが同じ部族だったらよかったのに        
ふいに、知らない猫の声がした。
「レッドポー、あなた、毎日こんな夜中に何してるのかと思ったら、カプス族の猫とあっていたの?」
まずい、戦士にばれたのか?
「ブラッサムポー、君はあとをつけてきたのか?」
レッドポーが低くうなる。
見習いか。
ファイヤポーは、今現れたこの雌猫をしげしげと見た。ブラッサムポーと呼ばれたこの猫は、なかなか美しいんじゃないだろうか?
逆三角形のような、形のいい頭。
ピンと立った耳。
すらりとした体。
毛は三毛柄に黒い斑点があり、つややかだ。
「私が何度あなたに好きと言ったか覚えてないの?同じ部族で族長の娘である私を無視して、カプス族の雌猫とあっていたなんて」
「君が族長の娘であることは、関係ない。君はただの見習いだ」
ナイトポーだって族長の娘だよ、とファイヤポーは思った。
二匹が会話を続ける。
「で、誰なの、この雌猫は!」
「ナイトポーだよ。この紺の瞳と真っ黒な毛…まるで、僕を包み込んでくれる夜みたいな        
「うるっさいわね!ほかの部族のくせして、何が「包み込んでくれる」よ!」
「でも、ナイトポーは本当に美しいよ」
ファイヤポーはハリエニシダの低木の下敷きになったまま激しくうなずいた。
「彼女は美しいかもしれないけど、ほかの部族の猫と付き合うのは戦士のおきてに反するわ!」
今度は、こっちの言うことのほうが正しい。
確かに、ほかの部族の猫と会うことは戦士のおきてに反する。
どれだけナイトポーが美しくても、それは変わらない。
「あなたもわかっているんでしょう?レッドポーとあってはいけないの。後々、困ることになるわよ!」
ブラッサムポーの口調は強いが、言っていることはずっと正しい。
ファイヤポーはもう誰に味方したらいいのかわからなくなった。
「ブラッサムポーには関係ないだろ!ナイトポーを混乱させるな!」
レッドポーのこの言葉で、ファイヤポーの疑問と怒りが一気にはちきれた。
ファイヤポーはハリエニシダの低木の下から飛び出し、二匹に向かって怒鳴った。
「混乱させているのはどっちだ!ブラッサムポーの言っていることはずっと正しい。ここでこんな風に会っているのは、戦士のおきてに反することだ!レッドポー、君にはもっと良識があるかと思ったよ」
三匹は目を真ん丸にしている。
「ファイヤポー、後を追ってきたの?」
ナイトポーがか細い声で言った。
「ああ、そうだよ、姉さん。いくら姉さんのことでも、もう見逃すことはできない。僕は、ブラッサムポーのいうことが正しいと思うよ」
ブラッサムポーが、一度だけ小さくうなずいた。
「あなたに何が分かるっていうの?!」
思いがけないことに、ナイトポーが怒鳴り始めた。
「あなたはほかの猫を愛したことはある?悩んだことはないの?」
「僕がいつも悩んでいることを知らないのか?!姉さんがレッドポーとあっていることも自分の力のことも、全部全部僕の悩みの種だ!」
ファイヤポーも感情に任せて怒鳴った。
「どれもこれも、姉さんのことをきょうだいとして愛しているからなのに…「どうしてわかってくれない」はこっちのセリフだよ」
ファイヤポーの怒りの勢いは冷め、もう言葉も出なくなった。
ナイトポーもうつむき、顔を上げない。
「もういいよ。僕に、姉さんの運命を…人生を決める権利はない。僕がこれまで姉さんを思いやった気持ちや心配した気持ちは、意味のないことだったんだよ…もう疲れたんだ」
ファイヤポーは、キャンプへと続く長い道のりに足を踏み出した。
ファイヤポーは疲れ切り、何年も年を取ってしまったようにも感じるほどだった。
もう、姉を説得するのは無理だ。
僕が願い続けることが実現する日は、来ないんだ              

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星のもとに置く王の名を Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Mon Jan 15, 2024 6:48 pm

第九章
森は静まり返り、月が草木を銀色に染める。
聞こえるのは、たまに鳴くフクロウの鳴き声だけだ。
もう夜は深く、スラッシュフェザーも心配し始めるころだろう。
それなのに…それなのに姉さんと来たら!
ファイヤポーはさっきのことを思い出し、再び強い怒りを覚えた。
ほかの部族の猫と忍んで会うなんて、どういう神経だ?それも、僕にも内緒で!
ファイヤポーは、ブラッサムポーの正しい発言を思い出し、レッドポーにも姉にも、さらに強い怒りを覚えた。
が、やはり、どれだけ腹が立っても血のつながった唯一のきょうだいのことはとても心配だ。
ファイヤポーはため息をついた。
「僕はどうしたらいいんだ…?」
ふいに足元がピリピリと音を立て、自分の前足が稲妻をまとっていることに気が付いた。
恐らく、怒りと心配のせいだろう。
この力を僕に与えたのは、父や母?それとも、スター族の猫たち…?
ファイヤポーはいまのややこしい考えを振り払うように頭を振った。
そんなことはどうでもいい。
とにかく、早くキャンプに帰らなきゃ。
ファイヤポーは歯をぐっと食いしばり、前足に力を込めてキャンプへと走った。
サニーツリーズを過ぎ、ハタネズミがたくさんいる狩場であるヴォウルロックスを通り過ぎ、木の実がたくさんなっているナッツウッズを過ぎようとしたところで気が付いた。
『ファイヤポー、またアケビをちょうだいね』
今、僕を信じてくれるのはサンセットアイやほか少数の戦士たちだけ。
サンセットアイに、アケビを採っていってあげよう…そして、ヴォウルロックスでハタネズミを一匹。
ファイヤポーは先にヴォウルロックスでハタネズミをたやすく一匹捕らえ、アケビを三個とってくわえ上げ、キャンプへと足を速めた。
ファイヤポーの息は次第に浅くなり、足も疲れてきたところで、やっとイバラのトンネル前に着いた。
「おお、ファイヤポー。狩りもしてきたのか?ナイトポーは見つかったか?」
スラッシュフェザーだ。
「はい。姉は、もう少しで帰ってくると言っていました」
スラッシュフェザーはうなずいた。
「よく眠れるといいな」
ファイヤポーは深く頭を下げ、イバラのトンネルに飛び込んだ。
まずは獲物置き場にハタネズミを置き、木の実置き場にアケビを二個落とし、一つはくわえたまま看護部屋へ向かった。
そこではっと気が付いた。
サンセットアイは寝てるんじゃないか?
ファイヤポーはそう気が付いてから忍び足で静かに看護部屋を覗き込み、耳を澄ました。
サンセットアイの甘い香りと、規則的な息づかいが聞こえる。
やっぱり。
ファイヤポーは起こしてはすまないと思い、アケビを看護部屋に入ってすぐのところに落とし、わかってくれるだろうと歩き去った。
そして見習い部屋自分の寝床に丸くなった。
薄目で見習い部屋を見回すと、ファイヤポーは悲しくて胸がきゅっと締め付けられるような気がした。
見習い仲間であるムーンポーとスターリングポーはファイヤポーたちきょうだい二匹の寝床から離れたところで丸くなっており、二匹ともこちらに背を向けている。
僕は、存在するだけで迷惑なのか…?
ファイヤポーの両方の視界が濡れ、景色がゆがんだ。
ファイヤポーは一度まばたきして目に浮かんだ涙を落とすと、寝床に丸くなって眠りについた。


またこの夢か…。
ファイヤポーは目を瞬いた。
白猫が、だだっ広い草原で、一匹の黄金色の雄猫を目の前に泣いている。
…ん?
この前まで、あんな淡い黄金色の猫なんて、出てこなかったはず。
ファイヤポーは、今度こそあの白猫が誰に似ているのかを突き止めようと目を凝らした。
すると、驚いたことに白猫がこちらに気が付いたように顔を上げ、翡翠色の瞳を真ん丸にした。
雌猫が口を開き、何かをつぶやいた。
とても小さな、風に吹き消されてしまいそうなか細い声で、まるで、口だけ動かして声を出さないような声だった。
ファイヤポーははっと目を覚ました。
まだ体は疲れていて、毛皮はぐっしょり濡れている。
ナイトポーの寝床はまだあたたかく、今起きたのだろうと見習い部屋の出入り口に目をやった。
ファイヤポーは起き上がり、一度大きくあくびをしてから見習い部屋を出た。
そしてあたたかく気持ちの良い日差しをいっぱいに浴びて伸びをした。
筋肉の痛みがほぐれていくかのような、気持ちいい、やわらかい日差しだ。
ファイヤポーの炎の色をした毛が輝き、つめを出し入れして前足を試す。
やっぱり、疲れてるなぁ…。
ファイヤポーは、昨夜もっと早くに帰ってきていればよかったと後悔した。
が、頭の中はそんなことばかりではない。
あの猫が誰に似ているのか。
それに、何と言ったのかの、両方が一気にわかってしまったのだ。
あの猫は、母であるアズールアクアにそっくりで、目の色だけ違う。
そして、あの猫は確かにこう言った。
『ファイヤスターですか?なぜライジングスターの命は奪われたのですか?         」

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投稿 by ジェードウィング Wed Jan 17, 2024 6:26 pm

第十章
ライジングスターって、誰だ?
ファイヤポーは必死になって考えた。
「スター」ってことは、族長だろう。
過去に族長を務めた猫?それとも、これから族長になる猫…?
ファイヤポーは頭を振った。
アズールアクアによく似たあの猫は、いったい誰だろう?ライジングスターって?
ファイヤポーはもっと必死になって考えを巡らせた。
だが、全く分からない。
父さんに…聞いてみるか…?
ファイヤポーはどうしようかと首をかしげた。
そこであることに気が付き、ファイヤポーは目を輝かせて立ち上がった。
あそこへ行こう!

「サンセットアイ?」
「なあに?」
サンセットアイの声が返ってきたのとほぼ同時に、薬草の甘い香りをまとったサンセットアイが姿を現した。
「あら、ファイヤポー!昨日の夜中のアケビ、あなたでしょう?おいしくいただいたわ、ありがとうね。それより、どうしたの?」
ファイヤポーはサンセットアイのお礼にうなずき、少しためらってから話し出した。
「最近、よく同じ夢を見るんです」
サンセットアイが耳をぴくっと動かし、続けて、というようにまばたきをした。
「はじめは、白い雌猫がただ涙を流しているだけだったんです…でも、」
「でも…?」
「でも、今日見た夢は違いました」
「見る夢が今日だけ違ったのね?」
ファイヤポーはうなずいた。
「どんな夢?」
サンセットアイがたずね、ファイヤポーが再び口を開く。
「今日は、その雌猫の目の色が分かりました…翡翠色です。それに、その猫はアズールアクアによく似ています。そのうえ、アズールアクアによく似たその猫は、横たわる淡い黄金色の雄猫の上に覆いかぶさり、僕に気が付いたかのように目を上げました」
「淡い黄金色の猫?」
ファイヤポーも目に不思議そうな色を浮かべてうなずいた。
「そして、その猫は僕にこう言ったんです。『ファイヤスターですか?なぜ、ライジングスターの命は奪われたのですか?』と」
しばらく沈黙の時間が続いた。
サンセットアイが首をかしげ、我をなくしたかのような、光の入らない真っ黒な目をしたままつぶやいた。
「『英雄の血は、部族を救う』」
英雄の血?
「何ですか、英雄の血って?サンセットアイ、何か知っているんですか?」
サンセットアイの瞳に光が戻った。
「予言よ」
「予言?」
「今の私にはそれしか言えない…また夢を見たら、教えてちょうだい」
ファイヤポーは少し納得がいかなかったがうなずき、看護部屋から離れた。
「ファイヤポー!」
サンセットアイが呼び止める。
「また、困ったらいらっしゃい…アケビをありがとう」
ファイヤポーは目を輝かせてうなずき、指導者の下へ向かった。
フィニックスシャドウはハイロックの前に立って役割を振り分けている。
「ああ、ファイヤポー!今日は訓練に行くぞ」
フィニックスシャドウが明るく話しかけてくれる。
「はい」
そんなに気を使わなくていいのに。
数匹の猫が、露骨に嫌そうな顔をした。
「あんな危険な力を持っているのに、普通の見習いとして一族にいるんだ」
だれかが、ぼそっとそういうのが聞こえた。
スターリングポーだ。
あいつは、もともと気に食わない。というのもファイヤポー単体の感想だが。
だが、それはスターリングポーの指導者の耳に入っていたようだ。
「普通の見習いとして一族に貢献して、何が悪いというの?あなたには、狩りや戦いではなく長老たちやけがをした猫たちの世話をしてもらったほうがいいかもしれないわね…もちろん、敬意を抱いて」
スターリングポーが耳を寝かせ、うなるのが聞こえた。
モーニングフラッシュは、僕に味方してくれる…というのも、かのじょが一族を何よりも大切に思っているからだ。
だが、ほかの猫も一族を大切に思っているのは同じ。ただ、思い方が違うだけなのだろう。
そして、またぼそっと誰かがつぶやくのが聞こえた。
「もっとも、普通の見習いではないが」
やわらかい灰色の毛に緑の目の雄猫、エルムフェイスだ。
エルムフェイスは、ファイヤポーをののしるというよりかは一族が心配なようだ。
ファイヤポーはしんどくなり、その場から離れた。
そして見習い部屋の自分の寝床に丸くなり、しっぽの下に鼻を突っ込んで目をぎゅっとつぶった。
サンセットアイの言葉が頭に響く。
『英雄の血は、部族を救う』

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投稿 by ジェードウィング Thu Jan 18, 2024 7:12 pm

第十一章
「…れはあなたが率いてください、ブラックストーム。それから、スラッシュウィンドは、狩猟部隊をもう一つ」
へえ、あの翡翠色の目をした雌猫は、副長なんだ。
ファイヤポーは夢を見ていた。
すると、岩壁の穴から淡い黄金色の雄猫が現れた…あの猫は!
そう、あの猫は、空き地に横たわっていた、「命を奪われた」猫。
じゃあ、これはあの猫が死ぬ前の夢か。
…って、僕、何考えてるんだろう?
あんまりみんなの目が気になるんで、頭がおかしくなったんだろうか?
あの猫が本当に実在する猫だとは、限らない。
「ジェードフロスト!見てくださいよ!」
あの猫の名前は、ジェードフロストっていうんだ!
ジェードフロストの足に、いがだらけのふわっとした生き物がぶつかった。
二匹の子猫だ。
「あら、シルヴァーキットとシュライクキットなの?巨大なイガだと思っていたわ!」
ジェードフロストがからかう。
銀色の縞柄に緑の目をした雌の子猫が毛をふわっと逆立て、甲高い声で言った。
「キャンプの中でイガのついた植物と格闘しちゃったんです!シュライクキットが悪いんですよ!」
茶色に黒のトラ柄の子猫、シュライクキットと思われる猫が顔をしかめた。
「お前があんまり追いかけるから、僕は逃げてただけだろ!」
「追いかけてなんかないわ!」
シルヴァーキットが胸を張った。
シュライクキットがふざけてうなり、シルヴァーキットにとびかかった。
ジェードフロストは足を胸の下に入れ込んで座り、子猫たちに指示を出した。
「シルヴァーキット、低くうずくまってしっぽを引き寄せて!」
シルヴァーキットが言われた通りに縮こまった。
次第にシュライクキットの攻撃が無効になり、シルヴァーキットが勝ち誇ったようにシュライクキットにとびかかった。
「シュライクキット、転がるのよ!」
ジェードフロストが明るい声で呼びかける。
子猫たちの戦闘の指導が、とても楽しそうだ。
シュライクキットが転がるとシルヴァーキットは無様に地面に落ち、前足で鼻づらをこすった。
するともう一度身を低くし、シュライクキットにとびかかろうとする。
「シュライクキット、もう少し待ちなさい…もう少し…」
シルヴァーキットがとびかかった。
「今よ!高く飛びあがって!」
シュライクキットがこれ以上にないほど高く飛びあがり、シルヴァーキットのやわらかい腹に衝突した。
シルヴァーキットは不機嫌な声をもらし、「シュライクキットだけに指示するなんて、ひどいわ!」と文句を言った。
「あなたは一人で戦えていたわ」
ジェードフロストがいとおしそうな目で二匹を見つめる。
「二匹とも、りっぱな戦士になるわね」
二匹の、緑と青の目が輝く。
向こうから、シルヴァーキットにそっくりな雌猫が駆けてきて急停止した。
「シュライクキット、シルヴァーキット!勝手に保育部屋を出ちゃだめ!しかも、こんなところでジェードフロストのじゃまをして…」
「いいのよ、タイガーリリー。とってもかわいい姪と甥だわ…」
「シルヴァーキット!」
タイガーリリーがまた大声を出した。
「ジェードフロストの尻尾につかみかかるのをおやめなさい…あなたもシルヴァーキットに手を出さないの、シュライクキット!」
ジェードフロストがおかしそうに目を輝かせる。
「二匹ともりっぱな戦士になれるわ」
ジェードフロストは、さっき二匹に言った言葉を繰り返した。
「ありがとう、お姉ちゃん」
タイガーリリーって、ジェードフロストの妹なんだ。
「さあ、この子たちのイガを取らなきゃ!もう、なんてひどい姿…!」
タイガーリリーは子猫たちを保育部屋であろう部屋へ追い立て、少し困ったような声でたしなめるのが聞こえた。
ジェードフロストはほぅっとため息をついた。
空を見上げる目は、まるで宝石のようだった…

「…ィヤポー、ファイヤポー!」
ファイヤポーは目をパチッと開けた。
ナイトポーの顔が、真上にある。
ファイヤポーは姉とけんかしていたのを思い出し、きまり悪くなって目をそらした。
「何だよ、姉さん」
「あ、あの…フィニックスシャドウが呼んでいるわよ?」
ファイヤポーは、今日は訓練があるぞ、と優しく話しかけてくれたフィニックスシャドウの姿を思い出した。
「わかったよ」
ファイヤポーは目を合わせずにサッと立ち上がり、見習い部屋を飛び出した。
「あ、あの、ファイヤポー!」
姉が呼び止めようとする、きまり悪そうな声が聞こえたが、ファイヤポーは無視した。
だがファイヤポーの心はいろんなことでぐちゃぐちゃになってしまった。
姉さんとレッドポーのこと…
一族のみんなのこと…
自分の力のこと…
ファイヤスターやジェイフェザーのこと、指導者のこと見習いのこと、訓練のこと…
その中でも、ひときわ大きく響いた。
『英雄の血は、部族を救う』

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投稿 by ジェードウィング Fri Jan 19, 2024 8:16 pm

第十二章
あたたかい日差し。さわさわと音を立てる木々。
キャンプはいつも通り、穏やかで心地よい。
それを切り裂いたのは、大きな叫び声。
部族仲間の悲鳴だ…!!
いったい何があったんだ?
ファイヤポーは目を見開いて飛び上がり、周りをきょろきょろと見渡しながら見習い部屋を飛び出した。
ほかの猫たちも異変に気が付いたらしく、落ち着かないような様子でその場を行ったり来たりしている者や、しっぽを振り動かしているものがいる。
「いったい、何事だ?」
フォックススターが急いで族長部屋を出てきた。
「何があった」
鋭い目で猫たちを見回す。
「わかりません!仲間の悲鳴が聞こえたんです…!」
ヒートウェーブが、動揺しきった声で答える。
「キャンプの外か?警戒しながら見回らなくては…フィニックスシャドウはどこだ?!」
フォックススターがしっぽを激しく振り動かした。
「ここだ!」
フィニックスシャドウが紅色の尾を揺らして立ち上がった。
「今すぐ、悲鳴のした場所へ行かねば…部族仲間が苦しんでいるかもしれないのだぞ!私が先に立っていく。お前はキャンプを守れ!デューウィスカーズ、マーシュリード、ファイヤポーは俺についてこい!」
ファイヤポーは自分の名が挙がったとたん飛び上がった。
ぼ、僕も?
「早く来い、ファイヤポー!」
マーシュリードにつつかれ、ファイヤポーは我に戻った。
そして「はい」と返事をし、フォックススターたちの後ろについてイバラのトンネルを飛び出した。
ファイヤポーはこれまでにないほど早く走った。
足を必死に動かし、力強く地面をける。
息が切れてきたところで、デューウィスカーズの声が聞こえた。
「どうしたんだ?!」
ファイヤポーが目を開けると、そこには想像よりも恐ろしい光景が広がっていた。
なんだ、あの牙のようなかたいものは…!?
牙のようなギザギザとしたものが、ムーンポーの前足を捕らえている。
「痛い…助けて!!」
ムーンポーが痛みにあえぐ。
「今助けてやる!」
フォックススターも不安に満ちた声で答えた。
「キツネの罠か…最近キツネが出たんで、きっと二本足が仕掛けたんだ」
マーシュリードが目をぐっと細める。
「それにしても、なんなんだ、このかたいものは?」
その罠は銀色で、まるでギザギザの牙を持つ大きな口のようなものだ。この中に足が入ると、牙に噛まれるようになっている。
ファイヤポーは右足をはさまれるのを想像し、背中の毛が逆立った。
デューウィスカーズが恐る恐る近づき、牙で罠をくわえてそっと引っ張る。
「だめ!やめてください!…痛いわ!!」
ムーンポーは、あまりの痛みに半狂乱になっている。
「だめだ、牙を使って取ることはできない。なにか、ほかの方法を考えなければ!」
デューウィスカーズの尻尾が激しく揺れる。
「この罠の構造をよく見れば、外し方もわかるかもしれませんよ!」
ファイヤポーが思い切って発言してみた。
「確かに、むやみに引っ張ってムーンポーの足がちぎれるなんてことになったら、俺はファーズシェイドになんと詫びればいいんだ?」
フォックススターが顔をしかめた。
ファーズシェイドはムーンポーの母親だ。
「そんなの嫌よ!助けて!」
ムーンポーがおびえ切った目を見開いて叫ぶ。
「そんなことにはならないようにちゃんと考えるから、もう少し頑張ってくれ!」
ファイヤポーは見習い仲間のムーンポーを励ました。
ムーンポーは暴れるのをやめ、小さな声で鳴いた。
「でも、どうすればいいんだ?いろんな角度でこの罠を見たが、どうすればいいかわからない」
マーシュリードが首をかしげた。
そこで、ファイヤポーははっと気が付いた。
「ぼくになら、外せるかも!」
ムーンポーが希望に満ちた目でこちらを見た。
「本当か?どうするんだ?」
ファイヤポーは耳を寝かせ、非難されることを覚悟して前足に稲妻の力をまとった。
ムーンポーが目を見開き、耳を寝かせてこちらを見る。
「本気…?」
ファイヤポーはうなずいた。
「最近気が付いた。この力は、自分がそう願わなければほかの猫を傷つけることはなかったんだ。だからムーンポー、僕は君を傷つけずに罠から解放して見せる」
これは本当だ。
ファイヤポー自身、最近このことに気が付いた。
稲妻で遊んでいて、ナイトポーのことを傷つけたことはない。
ファイヤポーの力強い物言いにみんなが納得の表情を見せ、「やってみろ」と声をかけた。
ファイヤポーはうなずき、震える前足で罠に触れた。
罠に触れた前足はバチバチと音を立て、ムーンポーは毛を逆立てたまま片方の薄目でファイヤポーの行動を見守った。
ほかの三匹の戦士も、緊張の表情だ。
ファイヤポーの前足はさらに大きな音を立てて火花を散らし始め、罠は焼けこげ始めている。
マーシュリードが驚きに声をもらした。
そして、大きなバチン!という音とともに、罠の金具が外れてムーンポーの前足は解放された。
ムーンポーは驚きのあまり目を見開き、解放された前足を少し動かし、声を上げた。
「ファイヤポー、ありがとう!あなたがいなかったら、私は助からなかったわ…今まであなたを危険な猫だと咎めたりしてごめんなさい!」
ファイヤポーの肩から、二つの重荷が下りた。
ムーンポーの支持を得たことと、ムーンポーを罠から救い出したことだ。
「看護猫に見てもらわねば。ムーンポー、歩けるか?」
「何とか」
ムーンポーはマーシュリードとデューウィスカーズに両側から支えられ、キャンプへと戻っていった。
ムーンポーの前足が無事回復しますように。
サンセットアイなら、絶対治してくれる。
だってサンセットアイは               

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投稿 by ジェードウィング Fri Jan 26, 2024 7:18 pm

第十三章
「ムーンポー!」
イバラのトンネルをくぐると待っていたのは、スターリングポーだった。
「どうしたんだ?大丈夫か?ケガをしているじゃないか!」
そして、戦士に両側から支えられて歩くムーンポーの斜め後ろにいたファイヤポーに目を移した。
「君が何かしたのか?だったら許さないぞ!」
鋭いかぎづめを出し、牙をむいてうなるスターリングポーに向かって、フォックススターが口を開こうとした。
だが、それよりも早くムーンポーの低いうなり声が聞こえた。
ファイヤポーがびっくりしてそちらを見ると、ムーンポーが目に怒りを燃やしてスターリングポーを見た。
「違うわ!彼は私を助けてくれたの!あなたが嫌っている、特別な力でね!」
スターリングポーも驚いて目を見開いている。
「彼がいなかったら、私の前足はなかったと思うわ。彼を傷つけようとしたら、今度から私は許さない!」
フォックススターも少し驚いたように口を開き、ムーンポーに感謝の目を向けて看護部屋へ向かうよう促した。
去り際、前を通ったファイヤポーにスターリングポーがうなったのを、ムーンポーが冷たい目でぎろっと見やった。

ムーンポーが看護部屋で診察を受け終えたとき、その噂はもうキャンプ中に広まっていた。
いろんな場所から声が聞こえてくる。
「ねえ、知ってる?ムーンポーがね、」
「ファイヤポーが稲妻を使って…」
「牙みたいな罠なんだって!」
「ムーンポーの前足に食らいついて…」
その時、フォックススターの緊急招集がかかった。
「一族のみんな、集めれ!緊急集会を始める!」
猫たちが急いで部屋から飛び出してきた。
ムーンポーも看護部屋から現れ、ハイロックに向かって歩いてくる。
ほかの猫たちが、サッと道を開けた。
ムーンポーはファイヤポーのそばに座り、こちらに感謝の視線を送ってきたので、ファイヤポーは瞬きで返した。
それを見たスターリングポーが低くうなったが、近くにいた戦士にうなられて黙った。
「みんな、もう聞いているものも多いと思うが、新種の罠が見つかった」
「牙みたいな罠なのよ!」
ファーズシェイドの子の一匹、ユーキットが言った。
ファーズシェイドが小声でたしなめたが、フォックススターはおかしそうにひげを震わせた。
「子猫まで知っているのか」
子猫の言葉で少し場が和み、戦士たちの間の張りつめた空気も少しずつ溶けていった。
「そう、ユーキットの言うとおり、牙のような罠だ。特徴は、牙のような形状、ギラギラと光る銀色で、かたい。そして、銀色のかたい輪が連なったものが付いていて、口の真ん中に足を入れると噛みつかれる」
何匹かがおびえたように声を上げた。
「注意事項だ。子猫から長老まで、絶対に守ってもらう」
みんなが族長の言葉を待った。
「まず、森を一匹で歩き回らない。特に見習いは、指導者や年長の戦士についてもらうこと。そして、夜は足元が見えにくいので出歩かない。見つけたら、近づかずにすぐフィニックスシャドウや俺に伝える。そして、茂みに隠れて見えないこともあるかもしれない。むやみに飛び込んだりしないように」
猫たちから同意の声が聞こえてきた。
「そして、今からその罠にかかるものがいなくなるよう、罠の除去に向かう。サマーブリザード、ヒートウェーブ、チャーテイル、一緒に来い。キャンプの監督はフィニックスシャドウに任せる。あの罠は、『ファングトラップ(牙の罠)』と呼び、なくなり次第報告する」
みんなの賛成と了解の声を確かめると、集会はお開きとなった。
「ファイヤポー」
ふいに、甘い香りと優しい声がした。
「サンセットアイ」
夕日色の瞳をした雌猫は、優しい声で言った。
「ほら、あなたの力を恐れるものはもうすぐいなくなるわ。あなたのその力が善良なものであるということを、証明してみなさい」
サンセットアイが顔を近づけてきた。
甘い息が、ファイヤポーの顏にかかる。
「大丈夫。あなたなら、絶対できるから」

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投稿 by ジェードウィング Sun Jan 28, 2024 11:57 am

第十四章
ムーンポーは看護部屋で治療を受け、傷は治りつつある。
ファイヤポーが様子を見に行くと、サンセットアイが部屋から出てきてこういった。
「いま、ムーンポーは疲れて眠っているの。すまないけれど、起きたときに食べる用の獲物を持ってきてあげてくれない?」
ファイヤポーはうなずき、飛ぶように獲物置き場へ向かった。
そうだ!
サンセットアイにもアケビを持って行こう。
ファイヤポーはムーンポーの好物であるハタネズミをひっぱりだし、サンセットアイにアケビとトガリネズミを取った。
そして看護部屋へ向かい、入り口に落としてその場を去った。
保育部屋の前に、ファーズシェイドがいるのを見つけ、ファイヤポーは駆け寄った。
「ファーズシェイド」
ファーズシェイドはびくっと顔を上げ、「ああ、ファイヤポーね」と安心した声を出した。
「ムーンポーの傷、もう治りそうってサンセットアイがおっしゃってました」
「そう」
ファーズシェイドは目を輝かせた。
そして、少し表情を陰らせ、口を開いた。
「あの…私、あなたの力を恐れてた。でも、あなたはその力であの子を救ってくれたわね」
ファイヤポーはゆっくりまばたきをした。
「その、だから…ありがとう、そして、ごめんなさい。私は誰よりもあなたに感謝しているわ」
ファーズシェイドが感謝のまなざしでこちらを見てきた。
「当たり前のことをしただけです。それに、ファーズシェイドやみなさんが僕の力を恐れるのに無理はありません。お子さん、元気に育ってよかったですね」
ファイヤポーは母の尻尾で遊ぶユーキットとシードキットを見た。
「ありがとう」
母猫が二匹をいとおしそうに見つめ、小声でそう言った。
「ファイヤポー」
母猫から離れると、すぐに別の声が聞こえた。
「ファイヤポー、わたしよ」
ナイトポーだ。
「何、姉さん」
ファイヤポーはナイトポーを冷ややかな目で見た。
ナイトポーは少しひるんだが、離れずに話し続けた。
「あの、ムーンポーを救えてよかったわね」
「そりゃどうも」
ファイヤポーの冷たい答えに、ナイトポーが少し驚いたのを感じた。
「じゃあね…」
ナイトポーの悲しそうな声と同時に、立ち去っていく足音が聞こえた。
ああ、僕はどうしてナイトーポーがレッドポーと付き合っているのを止められないんだろう?
いっそのこと、僕もそうなってみてナイトポーの気持ちを理解できたらいいのに。
でも、僕にはそんなことはできない。
だって、姉さんがほかの部族猫に夢中になってしまった今、特別な力を持つ猫でこの一族だけに忠実な猫は、僕しかいなくなってしまったのだから。
僕がしっかりしないと。僕が…
『あなたのその力が善良なものであるということを、証明してみなさい』
証明?
証明ってなんだ?
どうやって、証明すればいいんだろう?
僕は危険な猫だ。
みんなが恐れているのもわかる…
でも、僕を善良な猫だと思っている猫もいるんだ。
それが、唯一の支え。
でも、僕が善良な猫であることを証明するって?
どうすればいいかわからない。
もはや、それが本当なのかも、わからない       

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投稿 by ジェードウィング Sat Feb 03, 2024 12:54 pm

第十五章
「俺たちが向かうのは、コニファー族との境界線だ。それまでに何かおかしなことを感知したら知らせてくれ」
フィニックスシャドウが、パトロール隊の猫たちに向かっていった。
おかしなことを感知って言っても、そうそうないだろうが。
ファイヤポーは薄々そう思っていたが、口には出さなかった。
「ファイヤポー」
同じパトロールに参加しているヒートウェーブが駆け寄ってきた。
赤茶の毛をした雄猫は、青い目を輝かせて言った。
「ムーンポーの件、すごかったな!おかげでもうすぐムーンポーも訓練に戻れるそうだ」
ファイヤポーは誇らしくなった。
「ありがとうございます」
ヒートウェーブがうなずき、スターリングポーを連れたモーニングフラッシュの後ろへ戻った。
スターリングポーは意地悪そうに琥珀色の目を光らせ、「僕ならもっと早く助け出していたよ」と言った。
だが、モーニングフラッシュににらまれ、スターリングポーは黙った。
しばらくの間五匹は無言で走り続け、次第にファイヤポーの息も切れてきた。
「着いたぞ!」
という言葉と同時に、ファイヤポーはフィニックスシャドウの尻にぶつかりそうになった。
「すみません」
フィニックスシャドウがうなずき、「モーニングフラッシュ、スターリングポー、マーキングしなおしてきてくれ。あそこのハリエニシダの低木の向こうだ」と指示を出した。
「ファイヤポー、あっちのシダの茂みのほうをマーキングしなおしてくれ」
フィニックスシャドウの指示にファイヤポーはうなずき、シダの茂みに駆け寄った。
そこで、気が付いた。
これは、レッドポーとナイトポーのにおい!
ファイヤポーはきょろきょろと周りを見渡した。
まだ、誰にも見つかってはいない。
ファイヤポーの頭の中に、二つの考えが浮かんだ。
このままフィニックスシャドウに知らせ、ナイトポーがレッドポーと会うのをやめさせる?
それとも二匹の秘密を守る…?
「ファイヤポー、何かあったか?」
ヒートウェーブの声に、ファイヤポーはびくっと我を取り戻した。
「な、何でもないです!すぐ行きます!」
そして急いで二匹のにおいが染みついた場所の土を掘り返してにおいを紛らわせ、マーキングしなおしてフィニックスシャドウの元へ戻った。
「どうかしたのか?少し遅かったが」
フィニックスシャドウの目には、疑問の色が浮かんでいる。
ファイヤポーは考えを巡らせ、嘘の言い訳を考えた。
「いえ、ただ、すこしコニファー族のにおいを境界線の内側に感知した気がしたんです」
「なに?」
フィニックスシャドウの目に困惑が浮かび、モーニングフラッシュが毛を逆立てた。
ヒートウェーブは爪を出し、スターリングポーは低くうなっている。
「でも、気のせいでした。ここは境界線近くなので、においが運ばれてきただけだったみたいです」
ファイヤポーは慌てて付け足した。
フィニックスシャドウの目から敵意が消え、「なら、いい」という声が聞こえたので、ファイヤポーはほっと息をついた。
二匹のにおいがばれなきゃいいけど。
「まったく、紛らわしいな。お前の鼻はちゃんと機能しているのか?」
スターリングポーが鼻を鳴らすのが聞こえたが、モーニングフラッシュには聞こえていなかったようだ。
「よし、一通りマーキングも終わった。狩りをして帰るか?」
ヒートウェーブが目を輝かせた。
「ヴォウルロックスにいってじゃたネズミを捕ってこよう。最近のヘアテイルのお気に入りなんだ」
フィニックスシャドウが楽しそうに言った。
そういえば、ヘアテイルはフィニックスシャドウの母親だ。
ファイヤポーは自分の母親、アズールアクアを思い出し、心が温かくなった。
そしてそのまま五匹はヴォウルロックスで一匹に着きハタネズミを一匹ずつ捕り、それをくわえてキャンプへ向かった。
「ファイヤポー、長老たちに届けに行こう」
スターリングポーはファイヤポーのことが気に入らないということを忘れ、自分の捕った大きなハタネズミを誇らしげにくわえたまま言った。
フィニックスシャドウをちらっと見るとうなずいてくれたので、二匹はそのまま長老部屋へ向かった。
こんな、平凡な日が続いたらいいのに。
普通って、いいな。
僕にとって「平凡」は、夢に見るほど幸せなことだと思う。

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投稿 by ジェードウィング Sat Mar 02, 2024 10:45 am

第十六章
「ライジングスター!」
ライジングスター?
ああ、また夢の中か。
スター族は、どうして僕にこんな夢を見せるんだろう?
「なわばり内には何も問題ありませんでした。ただトガリネズミの巣穴があったので、中にいたのを全部捕まえましたよ!今日は獲物置き場が獲物でいっぱいです。それも、ほとんどトガリネズミですけど」
ジェードフロストが翡翠色の美しい瞳をいたずらっぽく輝かせて言った。
「そうか。報告、ありがとう」
ライジングスターがおかしそうに薄い青色をした目を輝かせて礼を言った。
その時、僕はなぜだかすごく二匹に近寄ってみたくなったのだった。
ファイヤポーは隠れていた岩の陰から身を現した。
夢の中で会っても何にも大変なことにはならないのに、これまでここに来ていた時もずっとファイヤポーは岩陰や茂みから隠れて部族を見ていたのだ。
そして震える足を前へ前へ動かし、とうとう二匹の目の前まで歩み寄った。
「あら、ファイヤペルト」
ファイヤペルト?ぼくはまだ見習いだ、戦士名はもらっていない。
ふいに、ジェードフロストの目に困惑の色が浮かんだ。
「え…?あ、あなたはファイヤペルトではないわ!ファイヤスターでも。あなたはいったい       
そこで景色が渦を巻くように遠くへ消えていった。
「待って!あなたは誰なの!?」
というジェードフロストのか細い声を最後に、新しい景色がファイヤポーを待っていた。
まだ、夢の中のようだ。
「お前は姿を見せたな」
ファイヤスター!
「す、すみません」
「怒っているのではない、俺もジェイフェザーも。むしろ、お前が二匹に姿を見せるのをどれだけ待ったことか」
ファイヤポーは目を真ん丸にした。
「何でですか?」
「ライジングスターはお前の子孫だ」
は?
ファイヤポーは頭の中がこんがらがった。
「子孫、ですか?じゃああの部族もあの猫も、存在する、と?」
「ああ」
「そしてあいつは、お前と同じく特別な力をもって生まれた猫だ。あいつにももちろん過去がある。お前はこれからそれを知ることになるだろう」
ジェイフェザーが付け足した。
ファイヤポーが生唾をのむ。
「強い意志と根性がなくてはできない」
ファイヤスターの鮮やかな緑の目は真剣だ。
ファイヤポーは目をキラリと光らせた。
「わかっています」
ファイヤスターがうなずいた。
「お前にはやるべきことがある」
ファイヤポーは決心のかたまった真剣なハシバミ色の瞳を上げ、ファイヤスターのことを見つめ、次の言葉を待った。
「お前があの猫を導け」

ジェードウィング
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投稿 by ジェードウィング Fri Apr 12, 2024 6:39 pm

第十七章
「ねえ、ファイヤポーどうしたの?」
ん?
ファイヤポーははっと目を覚ました。
「僕が導かなきゃ…!」
ファイヤポーは夢の中でのファイヤスターの言葉を繰り返した。
「なあに、それ?」
ファイヤポーはクルッと首を回し、声のもとへ目をやった。
初めはナイトポーかと思ったが、そこには心配そうな、だが優しい母の顔があった。
「疲れているの?昨日は遅くまで働いていたものね。えらいわ」
母は心配そうな表情を顔から消し、ファイヤポーの頬に自分の頬をこすりつけた。
ファイヤポーの、疲れ切っておおきなプレッシャーにのしかかられた体には、母の行動がとても気持ちよかった。
「今日はどうしたの?うなされていたようだけれど」
ファイヤポーは首を振った。
「何でもないよ。夢を見てただけ。ネズミを追いかけてたのに、イバラの茂みに突っ込んじゃったんだ!」
ファイヤポーは嘘をつき、立ち上がってよろよろと何ほか歩き、まぬけに転ぶ真似をした。
その行動で母が笑ってくれたので、ファイヤポーは安心してその場に座った。
「フィニックスシャドウが呼んでいたわよ。訓練じゃない?」
ファイヤポーはうなずいた。
「木登りだよ!」
「まあ、あなたはこの森で一番のリスになってしまうつもり?」
母がおかしそうに目を輝かせて言ったので、ファイヤポーもふざけてうなって見せた。


申し訳ありません、時間がないので次回この続きを書かせていただきます。 ジェードウィング

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