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空のキオク─ Look up at the blue sky with you ─

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投稿 by ジェイホープ Sat Jan 23, 2016 7:48 pm

第7章__悟り


夜の暗闇がキャンプを包み込み、空には太い銀河が広がっている。

誰にも気付かれぬようファイヤポーは身を低くして抜け穴から森に出た。因みに今日の見張り番はロングテイル。見つかれば、ダークストライプやタイガークローの次に面倒くさい奴である。
だが、彼は大きな口を開けあくびをしている。あんな様子の見張り番はわざわざ抜け穴を使わず、真横を堂々と通り過ぎても夢だと思うに違いない。

ファイヤポーは夜の森を楽しんだ。スカイポーの事が引っかかってはいるのだが、森の静けさはファイヤポーを安心させ、楽しませる余裕をくれた。
昼の出来事を思い出しファイヤポーは後悔した。なぜあんなにも動揺していたのだろう。彼女は苦しみもがいていたというのに。助けを求めていたというのに__
丘へ続くあの獣道を早足で進む。彼女を助けたい。その思いが強く自分を突き動かしていくのをファイヤポーは感じていた。

案の定スカイポーは丘の中心にそっと座り込んでいた。月明かりに照らされて輝く白銀色の姿は儚く、触れたら消え去ってしまいそうであった。

「スカイポー!」ファイヤポーが声をかける前に、スカイポーはあの鋭い視線をファイヤポーへ向けた。まるで来ることが分かっていたかのようだ。
昼に見た時よりさらに冷淡で無機質な表情に見える。

「何しに来たの…?」スカイポーは小さな声で言った。ただその声は虚ろで答えはもう分かっているかのようだ。

「君に会いに来た」

ファイヤポーは緑の目を彼女に向けた。スカイポーになぜかとても惹き付けられている。自分のこの訳のわからない気持ちにスカイポーは気づくのだろうか。
なんでも見透かせそうなその瞳にはなにも浮かんでいない。


「消えて」

「え?」

「消えて」

今まで冷たく静かだったスカイポーの顔にカッと怒りが燃え上がった。

「あなたもどうせ同じ!今までのくだらない卑劣な連中と!両親を殺したあいつらと。
あなたは一族から嫌われてる私を助けたいとか、そんな正義を演じてみたいだけよ。正義を貫く自分に酔ったただの偽善者だわ」

その激しい口調にファイヤポーはなにも感じなかった。やはり、この少女は寂しさに呑まれ自分を見失っているのだ──そんな想いがそっと心に残っただけだ。

スカイポーの心に張られたきついきついこの糸を自分が解かなければ__

「君はなにを恐れてる?恐がる事なんてなにもないのに。さぁ自己紹介をしよう。僕はファイヤポー。君と同じブルースターの弟子だ。」


僕はあえてあの時微笑んで見せた。

月明かりが炎と花を照らして、運命は変わらない。


最終編集者 ジェイホープ [ Thu Dec 29, 2016 4:02 pm ], 編集回数 2 回
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投稿 by ジェイホープ Sat Jan 23, 2016 7:48 pm

黒尻尾 wrote: コメント失礼します。とても素敵な題名で読むのが楽しくなります。この小説を読みながらファイヤーポーの気持ちになったりしてみたりしていますw。陰ながら応援しています。お次の章が楽しみです。急がなくても大丈夫ですよ。(^-^)

ありがとうございます!
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投稿 by レパードクロー Sun Jan 24, 2016 2:23 pm

スカイポオオオオオオ!!!!!????

物語にぐいぐい引き込まれますね!森などの自然の描写がすごく素敵で大好きです。
キャラクターたちの感情表現の仕方も全てが好きです。
本当にはじめての小説なのか!?というほど文章がすばらしく、ただただ呆気にとられるばかりです。

執筆応援しています!
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投稿 by ジェイホープ Sun Jan 24, 2016 7:32 pm

豹爪 wrote:スカイポオオオオオオ!!!!!????

物語にぐいぐい引き込まれますね!森などの自然の描写がすごく素敵で大好きです。
キャラクターたちの感情表現の仕方も全てが好きです。
本当にはじめての小説なのか!?というほど文章がすばらしく、ただただ呆気にとられるばかりです。

執筆応援しています!

身に余るお言葉ありがとうございます!自然の描写はちょっと得意なので頑張ってます(`・ω・´)褒めて頂けて嬉しいです^^

スカイポーの過去に残る謎と不自然すぎるほど他の猫を避ける態度。今からファイヤポーの奮闘が始まりますw スカイポーがどうなるのか、ファイヤポーの思いとともに進めていきたいと思っていますw

応援本当に感謝です!頑張ります(๑•̀ㅂ•́)و✧
豹さんも執筆ガンバです!
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投稿 by ジェイホープ Thu Jan 28, 2016 7:59 pm

第8章__残酷



「嫌い。嫌い。あなたが嫌いよファイヤポー。あなたに私の気持ちがわかって?!」

スカイポーは唸り声で言った。
その鋭い声を聞いてもファイヤポーは引き下がる気などなかった。

「知ってる…君の両親のこと。でも僕はそんなバカな連中とは違う。
昼は本当にごめん。なにも出来なくて。何が起こってるかわからなくなって自分でもおかしいと思うぐらい動揺しちゃったんだ…」

スカイポーは顔を背けた。感情を抑えるように小さな溜息をついたのが聞こえた。

「あの…さ…君って何者なの?」

スカイポーはまだ何も答えない。

「急に倒れて、死のベリーでも食べたみたいにもだえてた。何かが憑りついたみたいに…恐ろしかった。何が起こったのか、説明してほしい」

遠慮なくファイヤポーは喋り続けた。何も言わなくてもいい。彼女の心の糸はそう簡単にとけない。厚く張った氷がなかなか溶けないのと同じだ。だが氷は温め続ければ表面からそっと溶けてくれるのだ。
ファイヤポーは軽く首をかしげた。もう今日は諦めるべきだろうか…

不意にスカイポーがバッと振り返り叫ぶと同時に、彼女の呼吸が浅く速くなった。

「ニゲテ」

なにか言う間もなく、気がつけばファイヤポーはスカイポーに再び倒されていた。鋭いカギ爪と細い脚、力のこもったそれは不自然なほどに震えていた。

「す、スカイポー?」呼びかけながらファイヤポーは彼女の表情を探ろうとした。そしてはっとする。
彼女の顔はとてもスカイポーとは思えなかった。スカイポーなのだが、スカイポーではない。長い毛から覗く眼光にファイヤポーは恐ろしくなった。昼間と同じだ!
そいつはファイヤポーの体にさらに深く食い込ませた。鋭いカギ爪が毛皮に突き刺さる。
皮膚を引き裂かれる…!そう思い必死に体をよじり、立ち上がろうとした途端、力が少し緩まった。
見ると、彼女の顔に苦悶の色がちらっと浮かんだ。それは紛れもなく普通のスカイポーであった。

「逃げて…!」必死なか細い声だった。

ファイヤポーは全身に力を込めて跳ね起きた。スカイポーは吹っ飛ばされ、そばに荒い息をして倒れる。
───助けないと!
ファイヤポーは襲いかかられないように気をつけながらじわじわと近づいた。爪を地面に軽く立てて、素早く動けるようにする。

「スカイポー!!」

灰色の美しい毛はめちゃくちゃに乱れ、逆立っている。顔は再びスカイポーではない何かに戻っていた。
そいつはううっと呻きながらスカイポーの脚をカギ爪でひっかいた。血がにじみだし地面に飛び散る。
言うなれば自傷行為というものなのだろうか。ただ闇雲に己を傷つけ破壊していく。その姿はやはり悪霊のようで、とても理性を保った普通の猫には見えなかった。

「僕だよ!ファイヤポーだ!どうして__」──そんな事をするの?

だがその思いは声にならずに消えた。これからどうすれば…
何を言えば、何をすればいいのかわからない。わからない…ファイヤポーには何一つ理解ができずに時が過ぎていく。

それが、わずか数分間のことだったのか、何十分に及ぶものだったのかもわからない。ファイヤポーもぼんやりと意識が飛びそうになっていたのだから。
不意に美しいスカイポーの瞳が一瞬大きく見開かれ、閉じた。横たわった灰色の塊は全てが疲労に満ちていて、弱々しかった。
その時ファイヤポーにふっと理性が戻る。必死になってスカイポーの体を揺らしたことは覚えていた。
放っておくことなんてできない。どうか死んではいませんように。

しばらくしてスカイポーが不意に意識を取り戻し目を開けた。もうさっきまでの違和感はなくその姿はスカイポーだった。

「よかった──「ごめんなさい」

ファイヤポーは安堵からその場にへたり込んだ。スカイポーに何か言おうと口を開いたが、その言葉を遮ってスカイポーはさっと立ち上がった。
苦痛に満ちた切なそうな声だった。顔を隠すようにうつむいて、震える髭の先だけが月明かりに光って見えた。
スカイポーはさっと背を向けて駆け出した。あっという間に消えていく。

ファイヤポーは追いかけずにそれを見送った。疲労感がどっと押し寄せていたし、頭の中までぐちゃぐちゃで何も言えなかったからだ。
謎が深まれば深まるほど、僕はスカイポーに惹きつけられていく。それは間違ったことだろうか?
否、頭は間違っても血は間違わない。本能のままの正義感に身を任せても後悔はしないだろう。そしてその本能はスカイポーを助けろと叫んでいる。

背を向けてスカイポーに想いを馳せ続けながら、ファイヤポーはさっきの出来事と今までの記憶をつなぎ合わせていた。
握った情報はごく僅かだ。スカイポーはたくさんの事を隠している。でも今日一つ確信した。



彼女の中には何かがいる____


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Jan 06, 2017 12:48 pm ], 編集回数 6 回
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投稿 by ライトハート Thu Jan 28, 2016 8:07 pm

不思議ですね!それがあの<魔の目>と関係するのでしょうか?
わくわくしながら続き楽しみにしています!
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投稿 by ジェイホープ Thu Jan 28, 2016 8:14 pm

ひかりすず@なりきりトピック wrote:不思議ですね!それがあの<魔の目>と関係するのでしょうか?
わくわくしながら続き楽しみにしています!

ありがとうございます!スカイポーの中の何かと魔の目の関係性はもうすぐ明らかになってきますwそれから魔の目の能力の事も…w
続きは遅くなってしまうかもですが、頑張って更新します!
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投稿 by ジェイホープ Wed Feb 17, 2016 7:01 pm

第9章__未来



気が付けば、ファイヤスターはハイレッジの上で独り、空を見上げていた。
まだ深い闇に包まれ、太い銀河の走る空は吸い込まれそうなほど美しく、手を伸ばしても一生届かない気がした。空を見れば何時でも彼女を思い出してしまう。過去を引きずる自分をファイヤスターは少し恥じた。
親友を一人失ったことにまだ悩んでいるとスカイフラワーが知れば、前を向けと諭されただろう。

不意に後ろから小さな足音がした。振り返れば、サンドストームが登ってきている。
星明りのわずかな光が淡いショウガ色の姿を浮かび上がらせている。

「こんな時間までどうしたの?ファイヤスター」

サンドストームは優しげな緑の目をこちらに向けた。すらりとした体がしなやかでとても綺麗だった。

「別になんにも。君こそどうしたんだい?」ファイヤスターは誤魔化した。
なぜか、心のモヤモヤを彼女に話すのは躊躇われる。

「真夜中のパトロールに行ってたのよ。」サンドストームは愛情を込めた目でこちらを見ると、尻尾の先でファイヤスターのヒゲを弾いた。そしておかしそうな表情を浮かべる。

「何か悩んでいるんでしょう?顔に書いてあるわ」触れ合った温もりがすとんと落ちてファイヤスターの心二広がった。

「ううん。別に大したことじゃないんだ…」話をすることを弱々しく渋っては見たが、サンドストームが自分を放っておくはずがないとわかっていた。
サンドストームは隣に腰をおろし、自分の体をさらにファイヤスターに押し付けた。

「話しなさいよ。溜め込まないで。」

「あいつ…スカイフラワーの夢を見たんだ。」仄暗い悲しさに包まれながら放った言葉はひどく喪失感に満ちているように聞こえた。

サンドストームはハッとすると同情の視線を向けた。

「あの子…あの子に私は_____」


空が泣いた。落ちた雫が一滴悲しそうに地面に染み込んで消えていった。


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Jan 06, 2017 1:01 pm ], 編集回数 2 回
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投稿 by ナットテイル Wed Feb 17, 2016 7:44 pm

美しくも、悲しさに満ちた物語の雰囲気が素敵ですね…。物語の世界にぐいぐいと引き込まれて、一気に読んでしまいました。
謎に満ちたお話で続きが気になります。執筆、陰ながら応援しております!
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投稿 by ジェイホープ Wed Feb 17, 2016 7:51 pm

ナットテイル wrote:美しくも、悲しさに満ちた物語の雰囲気が素敵ですね…。物語の世界にぐいぐいと引き込まれて、一気に読んでしまいました。
謎に満ちたお話で続きが気になります。執筆、陰ながら応援しております!

初めまして!コメントありがとうございます!
引き込まれる とお褒めの言葉、本当に嬉しいです^^
暫く更新できていなかったので、続きは近いうちにたくさん書こうと思っています´ω`*
応援もありがとうです。頑張りますね!
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投稿 by ジェイホープ Wed Feb 24, 2016 6:40 pm

第10章__隻眼


「今朝は節々が痛むね。夜通し降ってたのかい?」

イェローファングと他愛ない話をする。最初こそ、その刺々しい態度にファイヤポーは苛立ち、嫌々ながらも世話をしていた。でも、今はわかる。イェローファングは本当に素晴らしい猫だ。

「新しいコケとってくるよ」

ひんやりと濡れ、湿っぽい空気がキャンプを包んでいる。暗く重たい雲が空を覆い、ファイヤポーは少しだけ憂鬱な気分になった。

緩やかに朝を過ごす静かなキャンプ。平和だ。
その時、見習い部屋の茂みからスカイポーがすっと現れると、サッとキャンプを横切り出ていった。ファイヤポーは驚いて思わず目で追ってしまった。
彼女らしくない。寝坊だろうか。見習い部屋にまだいたとは。朝から物思いにふけっていたので気づかなかったのだろう。
ファイヤポーは周りの反応を見たが、この時間帯にスカイポーがいるのはとても珍しい事だというのに、誰1人として振り返って声をかけたり、見つめたりでさえしなかった。

ここの所、スカイポーとは全くと言っていいほど話していない。あの一夜、走り去るスカイポーの姿が浮かび、やっぱり助けてあげなくてはとは思うのにスカイポーが前より一層自分を避けるのもあってか、全然探ることはできていなかった。
顔を合わせることもなく、ただ時だけが過ぎていく。その状況をどうにかできないかと毎日考えていたが、なかなか案など出るはずもない。だからと言って誰かに相談することもできなかった。

「おまえさん、あの子の事が好きなんだろう?」
不意に可笑しそうに喉を鳴らす音が聞こえ、イェローファングが言った。
ファイヤポーは驚いてびくっと体を震わせてしまった。イェローファングの喉を鳴らす音が大きくなる。ファイヤポーは恥ずかしくなって表情を隠そうと胸の毛をなめて整えた。顔に熱が集中しているのがわかる。これでは図星だと思われてしまったに違いない。

「好きなわけじゃないさ」ファイヤポーは言った。だが、その言葉には本心など込められておらず、恋愛的に好きなのかは自分でもよくわかっていなかった。ただ、初めて見た時から強く惹き付けられる。それだけだった。

「孤独は太いツタだよ。どこまでも絡みつく。抜け出そうとすればするほど、足掻くほど、きつく締まって離れない悲しい柵さ。」
半分閉じられた目はまるでそれを知っているかのように切なそうだった。どこか遠いところを覗き込んでいるような虚ろさがあった。

「お前さんにはあの子を助けられるかい?」
イェローファングは顔を上げると毛繕いしながら言った。その瞳がファイヤポーを試すように光っている。

「わからない。けど、助けてあげたいって思うんだ」正直に言えばイェローファングは目を細めてまた笑った。

なぜ、イェローファングはそんなことを聞くのだろう。多くを経験してきたであろう老猫の言葉は何かを隠し持っていた。

「あの子の家族のことを風のうわさで聞いたまでだよ。看護猫の情報網は広いからね。」
訝しげなファイヤポーに屈託なく言うとイェローファングは毛繕いを続けた。

「もっとスカイポーについて何か知ってる?」
思わず言葉が滑り出た。何か新たなことが掴める気がする。

「うーんそうだな…特にないと思うけどね。部族新入りのお前だから知らないかもしれないから一応教えてやろう。スカイポーの右目は見えないんだよ」

思っていたより衝撃的な言葉が飛び出して、ファイヤポーは目を大きく見開いて声を上げそうになった。
右目が見えない…?右目は青い方の目だ。でも、普通の猫と同じでどんよりと曇りがちだったりしているわけではない…?
否、ほかの猫と何ら変わりがないと思っているだけで実際は彼女の目をきちんと見たことなんてない。
改めて無知であることに落ち込んでいるファイヤポーにイェローファングは声をかけた。

「やっぱり知らんかったのかい。ここの一族の猫はあの子にほとんど反応を取らないけど知っているはずだよ。大集会でも噂になった時期があったからね。
まぁ、観察してみたところそこまで見た目に出る症状ではないからわからないやつも多いかもしれない。そう落ち込まなくても、大事なのは知ろうとする心さ。その強い正義感は尊敬するよ、ファイヤポー。」

言葉の最後に自分をほめる言葉が含まれていることに気づき、尻尾を振ると今度はイエローファングが恥ずかしそうにうつむく番だった。

「さぁ、もう行きな。無駄話して悪かった、ファイヤポー。頑張ってみるんだよ」

ファイヤポーは思わず口元を緩ませながら頷くと、駆け出した。イェローファングの元看護猫の洞察力で新たな情報が掴めた。
途中、スペックルテイルにぶつかりそうになりファイヤポーは横滑りして止まった。

「ブルースターがお呼びよ」年長の母猫はファイヤポーに伝言すると、去って行った。

「ありがとうございます」ファイヤポーは母猫に頭を下げ、族長の部屋へ向かった。

イェローファングに褒められた喜びが嘘のように消え失せた。なんだか不安を覚えつつ、ファイヤポーは族長部屋に足を踏み入れた。


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Jan 06, 2017 2:03 pm ], 編集回数 2 回
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投稿 by ジェイホープ Wed Feb 24, 2016 7:16 pm

第11章__正義



ブルースターは訓練に復帰させてくれる事をファイヤポーに話した。それから、イェローファングを認めていることも。
その思わぬ朗報にファイヤポーは嬉しさを隠し切れないほどだった。

「訓練にはスカイポーも行くわ」
喜びの声をあげたファイヤポーにブルースターは冷静な声で言った。顔色を伺うような不安の表情を浮かべている。

「もちろんです」
ブルースターの気持ちを感じ取り、ファイヤポーは元気よく言った。スカイポーと関わるのはちっとも嫌じゃない。寧ろ、これまでの距離を縮めるいいチャンスじゃないか!
しかし高揚した気持ちのファイヤポーと反対にブルースターは不安げに耳を動かしている。

「あの子が嫌われている事───過去まで知っているのかしら?」ブルースターは青い目で探るように自分を見た。

正直に話すべきだろうか。あまりにも不安そうな族長に少し戸惑っているのを隠しながら、ファイヤポーは考えた。自分がスカイポーを微塵も嫌っていないことは伝わっていないようだ。ほんの少しの接触しかしたことがないが、惹きつけられる気持ちは変わらなかった。
ファイヤポーは真剣に一つ一つ言葉を選んで連ねていった。

「なぜ、嫌われているのか知っています。〈魔ノ目〉の事と、彼女の両親がそれによって殺されたこと──「もうそこまで知っているのね」

ブルースターは誰から見てもわかるぐらい深く項垂れて、小声で遮った。

「はい…申し訳ありません」ファイヤポーは罪悪感を感じてそわそわ尻尾を振った。

「いいえ、あなたは悪くないの」

ブルースターは顔を上げて真っ直ぐにファイヤポーを見た。その賢そうな青い目は真剣な光をたたえている。

「あなたはあの子が嫌い?」

ブルースターの静かな口調が心にしんと迫って問うてきた。
ファイヤポーは余計なことを考えるのをやめた。もう一つのスカイポーや、あの丘のこと、彼女の孤独について。今ブルースターに聞けば確実な意見と答えが得られるのは分かっていたが、今はまだ言うべきではない気がする。

「嫌いではありません。寧ろ仲良くなりたいと思っているんです」

ブルースターは驚いたような笑みを浮かべた。そしてまたファイヤポーを見つめると理由を言うように促した。

「最初に見た時、感じ悪いとは思いましたけど…なんというか、すごく惹き付けられたんです。それから嫌われていることを知りましたが、スカイポーの孤独が手に取るようにわかって。伝説よりも救いたいという気持ちが勝ちました。

孤独は何よりも辛い縛りです。独りは恐ろしいものだと思うんです…こんな僕が言うのは相応しくないとは思いますが…」

遠慮がちにぽつぽつと喋る自分を品定めするようにじっくり見ていたブルースターはやがて一つ満足げに頷いた。

「そう__ならあの子と仲良くしてくれるわね」

「スカイポーの過去を詳しく話す意味はないから、説明するつもりはないわ。それと、スカイポーは〈魔ノ目〉の能力なんて存在しなくて、ただ何もない左右で色の違う目を持っただけの子だと思っている」

「一族の者はあの子を嫌うけれど、あなたは嫌わないでいて欲しいの」

ブルースターの期待をファイヤポーはしっかりと受け止めた。緑と青の視線がぶつかり合ってつながった。

「もう、行っていいわよ」

「ありがとうございました」

ブルースターはスカイポーを見放していない。それは信じられた。


しかし部屋から出ると、わっと疑問が浮かび上がり嵐のようだった。最近はたくさんのことに悩まされて頭がいっぱいになることがよくある気がする。

ブルースターはスカイポーをただの猫だといった。
だが、本当に〈魔ノ目〉の能力など存在しないだろうか…?でも、彼女に取り憑いていた何かが能力ではなかったら、自分が見たあれは何なのだろう?

もしも、あいつが〈魔ノ目〉の能力だとしたら…?確実に部族を滅ぼす気がしてファイヤポーの首の毛が逆立った。


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Feb 10, 2017 2:34 pm ], 編集回数 2 回
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投稿 by ジェイホープ Thu Feb 25, 2016 9:43 pm

第12章___夢の中の声



___その後数日間も、たくさんの事に頭を悩ませたのを覚えている。

自分を信用してくれない偉大な戦士、そしてその弟子とのどこかぎくしゃくとした張り詰めた関係。そして、大集会の後にはイェローファングが一族からさらに嫌われるはめになってしまった。スカイポーは大集会でもずっと独り。探してみれば四本木の空き地の端にうずくまるようにして座っていた。

飼い猫だった頃の何も恐れる必要の無い、平和な日々が思い出される。だが、あそこにいて自分ま満足させられたはずが無いとスマッジと会ってファイヤポーは確信していた。

そしてさっきの集会で、ブルースターは月の石へ行くことを決めた。護衛に自分達が選ばれたのはとても誇りに思える、嬉しい出来事だった。だが、それと同時にブロークンスターの大きな脅威を感じられ、ファイヤポーは不安に瞬きをした。

しかしそんな事も、時がすぎればすぐ忘れる物で薬草を取りに行く間、不安は喜びに変わり大きな興奮だけがグレーポーと自分を包んでいた。

野生は自由。ファイヤポーは出会った時にグレーポーに言われた言葉を思い出した。嬉しい事を不安な事もたくさんある。だが、ファイヤポーはこの森での暮らしが心から好きになっていた。

もう、自分は甘い暮らしをする飼い猫ではない。敏捷で強い森の猫だ。
闘いや冒険。飼い猫だった頃の生活はもう遥か昔の事のようだ!

*    *    *

「起きて。ファイヤポー」静かな声が夢の中に響く。しかし、ファイヤポーは夢の中の戦場の凄まじい叫び声に気を取られ、かすかな鳴き声など気に留める余裕が無かった。

「起きなさい。ファイヤポー」だんだん意識がはっきりとし、声が鮮明に感じ取れるようになった。

「今見た事は必ず起きることとなる。ライオンハートは……死ぬ」

その言葉を最後に、ファイヤポーの意識は再び眠りへ引き込まれた。ぼんやりした頭は声を聞いていたのに聞いていない不思議な感覚で覆われ、言われた事もなに一つ理解出来なかった。

カサカサと音がして、ファイヤポーははっと目を覚ました。動揺して身構える。目を凝らすとタイガークローが訝しげにこちらを見ていた。

「どうかしたのかファイヤポー?」

適当に夢の事を誤魔化すと、タイガークローは出発すると告げ傲慢なその顔を引っ込めた。
慌てて準備を整え、グレーポー、レイヴンポーとともに飛び出すと外では落ち着いた様子のタイガークロー、ブルースター、それからスカイポー。スカイポーは薬草を食べ終え、顔を拭っていた。

不意にスカイポーが色の違う瞳をこちらへ向けた。何かを待っているような視線に違和感を覚えると同時に、急に夢の中で響いた静かな声が蘇ってきた。まばゆい光を放つ物と、叫び声…静かな囁き声…儚く小さなあの囁き声…!!静かな衝撃がファイヤポーを駆け巡った。スカイポーの視線が意味ありげな色を浮かべてファイヤポーを刺す。あれはスカイポーだったんだ!

ファイヤポーは視線をスカイポーから引き剥がし、平然と薬草を食べ続けたが最早薬草の苦みなど殆ど感じることができなかった。無意味な咀嚼を繰り返しながら、ファイヤポーは考えた。
スカイポーは自分の夢の中を見ていた…?聞いた時には理解できなかったものが今はちゃんと意味を成して聞こえる。そう、ライオンハートが死ぬと言ったんだ。夢で見た物が必ず起こると…

夜明けのパトロールから帰ってきたライオンハートとグレーポーの親しげな挨拶にファイヤポーの心はぎゅっと握られたように痛くなった。


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Feb 10, 2017 2:54 pm ], 編集回数 2 回
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投稿 by ジェイホープ Fri Feb 26, 2016 10:25 pm

第13章__終わらない悪夢


仲間達と他愛ない会話を楽しみ、ファイヤポーは自分の底に波のように押し寄せる恐怖に呑み込まれないよう努めていた。スカイポーとは話す気にもなれなかった。

夕暮れ時、その場所にやっとたどり着いた。ぱっくりとあ7いた美しく、冷たく恐ろしい母なる口はファイヤポーを待っていたように堂々と構えている。
自分の毛皮のような炎色の静かな夕焼けが辺りに広がり、やがて冷たい星星と柔らかな月が輝く濃紺の空へと変わっていった。
ブルースターはどのタイミングに洞窟に入ればいいのかわかっているようで、暗くなっていく空を見上げていた。

「スカイポーとファイヤポーは私と一緒に来なさい」

ついにその時が来たようだ。族長に呼ばれ、ファイヤポーは驚きと喜びに心震わせた。母なる口のほぼ真上に上がった月が〈月の石〉という響きを殊更美しくしている。
スカイポーがブルースターに続きしなやかな体をその暗い入口へ滑り込ませ、ファイヤポーはそれを追った。タイガークローは後ろからついてきたが、恐怖に駆られているようで不自然に荒い息がファイヤポーの尻尾にかかっていた。その妙な様子に多少驚きつつ、ファイヤポーは少し可笑しく感じてしまった。どんなに逞しい戦士でも怖いものはあるらしい。
ブルースターとスカイポーはいつもと変わらず落ち着いている。
差し込んできた光を見て、ブルースターは言った。しかしその瞳はもうスター族を見据えているかのように遠かった。

「まもなく真夜中になるわ」

目が眩むような強い光が洞穴を照らす。今まで見たこともないような光を放つそれはとても、とても美しいものだった。
ついにタイガークローはこらえきれなくなったのか、くるりと背を向けて駆け出した。一目散に洞窟を抜けていく。

ファイヤポーはタイガークローの後姿を目で追っていたがやがて月の石に目を戻した。こんなに神秘的なものを見たのは初めてだ。
自分は好奇心しか感じないというのにタイガークローは何を恐れていたのだろう?
そんなことを考えている間にブルースターが眠りに落ち、静寂が洞の中を包んだ。規則正しい呼吸だけが聞こえる。
ファイヤポーはまたうっとりと洞窟に見惚れていたが、不意に思い出した。この光は、この石は初めてではない…今朝の夢の中の光り輝くものはまさにこれだ!月の石だったんだ!!
無意識にファイヤポーはスカイポーを見ていた。スカイポーの銀色の毛が月明かりに一層美しく輝き、艶っぽい瞳がこちらを見た。

「言ったでしょう?あの夢は現実に必ず起こると。」

ファイヤポーの恐怖が再びせり上がってきた。ライオンハートは…死んでしまう…!

*           *            *           *             *            *


「スター族の警告した通りだわ。キャンプが襲われている!」

ブルースターはドブネズミの怪我で負った傷をもろともせず、強い足取りでキャンプへ駆け込んだ。タイガークローの逞しい背中がそれを追う。

グレーポーとレイヴンポーが自分の横を掠めて通り過ぎた。「行くぞ!」

ファイヤポーが駆け出した後、1匹の猫が__スカイポーだけがそこに残った。

「運命は誰にも変えられない。炎と空は必ずどこかで交わることになる。私はあなたが嫌いよ、ファイヤポー…」

その言葉を聞いたものは誰もいなかった__否、いたのかもしれない。もう1人の彼女が。

「綺麗事と偽りで塗り固められた世界など信用してはいけないわ」彼女はクックっと嘲笑した。反射的に飛び出たカギ爪が土の地面に深く食い込まされた。

「この世界は醜い。そして醜い世界の最も穢れた存在があなたよスカイポー。私はあなたが大っ嫌い……あんたが皆を殺すの。死にたい……?その望み叶えてあげる…」

スカイポーの鉤爪がスカイポーの腕を切り裂いた。

血がどくどくと流れていく。赤い血が私は大好きだ__

「お願い……今はやめて。ロンリースカイ。お願い」

少女の涙はまた闇に堕ちて消えていくだけ。


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Feb 10, 2017 4:09 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by ジェイホープ Sun Mar 06, 2016 4:48 pm

第14章__戦地


悲痛な叫び声がキャンプに響く。夢で聞いたあの声__グレーポーだ。
最愛の副長、指導者を嘆いて空を仰ぐその灰色の毛はもつれて血が飛び、哀れに見えた。

夢で見たことが現実に起こる。ファイヤポーはもう動揺すら覚えられなかった。あるのは虚ろな悲しみと疲労だけだ。
一族は灰色の見習いを同情の目で見つめ、動かなくなった偉大な戦士を同じように嘆き悲しんだ。
ファイヤポーはグレーポーに寄り添い、ライオンハートの黄金の毛を優しくグルーミングし始めた。思い出が溢れて悲しみが止まらない。
しかしその悲しみに触れればグレーポーを支えてあげられなくなってしまうような気がしてファイヤポーはただ黙々と毛を整えた。今すべきことは親友を助けることではないだろうか。ライオンハートも弟子の笑顔が見たいだろう。

ふと、舌を休めて空き地を見る。スカイポーの淡い灰色の姿が目に入り、ファイヤポーは戦慄を覚えた。傷口を丁寧に舐め、相手の戦士の血を流している。しかしその眼光が冷たく光って自分を見ていたのだ。
ファイヤポーは反射的にパッと立ち上がると彼女の所へ向かった。グレーポーは疲れきっていて顔もあげなかった。

スカイポーは自分の姿が近づくと、尻尾でついてくるように合図した。勿論彼女は自分が来るのがわかっていたに違いない。ファイヤポーはもう恐怖さえ薄れているような気がしていた。

襲撃により、大きな穴の空いたキャンプの壁から2匹は通り抜けた。もちろん、辺りには猫がいなく、戦いが終わり凄惨としたキャンプを2匹が出ても誰も気づかなかった。

「スカイポー」ファイヤポーはキャンプからしばらく離れたところで沈黙に耐えきれず、声をかけた。

スカイポーはずんずん突き進んでいく。ファイヤポーの事など気にしていない。ファイヤポーはただついていくことしかできなかった。
──そしてついたのはあの丘だった。スカイポーは丘の中心に座ってファイヤポーを返り見た。ファイヤポーは後ろから丘へ登っていき、スカイポーを見つめた。

「ライオンハートは死んだわ」
スカイポーは冷たい眼差しで言った。哀しく静かな声だった。茂るシダの下生えが風に踊る音だけがやけに大きく聞こえるようだった。

「夢で見たこと。そして私が言ったことは現実になった」

ファイヤポーはその言葉に思わずびくっとした。
「ライオンハートが死ぬことをわかっていたんだろう?」

そんな風に言うつもりはなかったのに咎めるような尖った声が出てしまった。
知っていたなら、なぜ助けなかった?偉大な戦士が死ぬのを黙ってみてたのか?そんな思いは声にならずに消えていった。

「ええ」
1番望んでいなかった答えがスカイポーから発せられる。ファイヤポーは崖から落とされたかのように己の思いが冷たく遠くなっていくのを感じていた。

「私はライオンハートがが死ぬことをわかっていた」綺麗なスカイポーの顔に嘲笑うような狂気に満ちた笑みが浮かぶ。

「見捨てたんだ。副長を……ライオンハートは誰にだって公平だった。きっと君にだってそうだったろう?なのに見殺しにするなんて」

失望と怒りの混じった言葉が風に流され溶けていく。声にならない怒りもきっと聞こえているはずなのに彼女は変わらない笑みで僕を見る。

「私がライオンハートを殺したのよ」


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Feb 10, 2017 5:05 pm ], 編集回数 3 回
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投稿 by ジェイホープ Sun Mar 06, 2016 5:58 pm

第15章__消えてゆく夕暮れに


「殺した…?」

スカイポーの冷徹な笑みが恐怖を加速させていく。そう、殺したんだライオンハートを「見殺しに」した。
なんで、スカイポーは知っている?なんで知るはずもない未来のことを知っている?

「聡いあなたなら気付いていてもおかしくない」

長い沈黙が二匹の間に広がった。混乱が渦巻く脳内で、導き出された答えは__
それを口に出す前に、スカイポーは困惑と安堵のようなものを覗かせて先に言葉を発した。

「気づかなかったのかしら…?私が──

ファイヤポーは遮った。心臓が早鐘のように打っている。それが興奮なのか恐怖なのかは分からなかった。

「君が未来を見透せるってことだろ」

スカイポーはやはりという表情を見せた。

「そうよ。私は未来が視えるわ。魔ノ目の能力よ」

悲しかった。夕焼けが亡き副長の黄金色の毛並を思い出させて、なぜか目頭が熱かった。

くるりと背を向けて駆け去っていく炎を何もせずに見送った。なんでだろうこんなに苦しいのは悲しいのは初めてかもしれない。
夕焼けを背に森を眺めながらスカイポーは暫くそこへ佇んでいた。

「やっと独りになれたね?」彼女の中の魔物が囁く

「ええ」自分を信じて助けようとしてくれたファイヤポーが去っていく姿。初めて、孤独な自分に優しくしてくれた猫に嘘をつくのは身を裂かれるほど辛かった。

「ははっ。あんたは本気で助けてくれると思ってたわけ?スカイポー?あんた、同じ体にいる事忘れてるの?」

「…そんな訳ないでしょう」

「まぁいいわ。感情なんて私にはお見通しなのよ。スカイポー。ところであの黄金の毛の猫が死んだ事も悔やんでるけど…あれはしょうがないでしょ。ウンメイだからね」
魔物はからかうように妙な抑揚をつけて言った。

そう……あれは運命だった。それでも……

「そういえば、こうして平和に話してあげるなんて久しぶりね。スカイポー」

スカイポーの中の魔物、ロンリースカイ〈孤独な空〉は恐ろしくからかうような声で言った。

「そうね…」答えたスカイポーの声は震えていた。

「さぁ。平和な会話はおしまい。さようなら、醜い私。」ロンリースカイが囁いた。

スカイポーの呼吸が浅く速くなった。

「つくづく可哀想な少女。歪んで醜いわ。あの正義感の強い雄猫もあんたを助けになんかこない。だってあいつの中であなたは副長を救わなかった能力持ちの恐ろしい猫なんですものね。あなたが救いたくなくて救わなかったんじゃないのにね……」

あの副長が死んだのは運命よ。あの雄猫はそんな事知らずにスカイポーが副長を救えたと思ってるなんて笑えるわ。そして… あなたが私に傷つけられるのも全て運命。わかってるでしょう?」

暗くなっていく空が、夜の闇の訪れを示していた。
美しい夜に美しい丘で己への憎しみを理由に己を傷つける雌猫がいたことなど誰も知らない。徐々に闇に馴染んでいく姿は消えてゆく。真っ暗な底へ。
淡い灰色の毛がぼさぼさに逆立って草に鮮血が飛んだ。

ロンリースカイはそれを見て笑う。

「運命は変えられないの。何があっても」


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Feb 10, 2017 5:06 pm ], 編集回数 2 回
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投稿 by ライトハート Thu Mar 10, 2016 11:11 am

ロンリースカイ?〈魔ノ目〉と関係しているんですかね…?
未来がわかるだなんて…続きが楽しみです^^*
お互い頑張りましょう!
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投稿 by ジェイホープ Thu Mar 10, 2016 6:10 pm


ライトハート@<ねじれた木>のそばで【完結】 wrote:ロンリースカイ?〈魔ノ目〉と関係しているんですかね…?
未来がわかるだなんて…続きが楽しみです^^*
お互い頑張りましょう!

コメントありがとうございます!ロンリースカイ…スカイポーの中の何かですw自らの体をロンリースカイを通じて傷つけているスカイポー。魔の目の能力は明らかになりましたが、まだ彼女は多くの謎を抱えていますw顕となった謎を次、少しずつ紐解いていこうと思ってますw
執筆頑張りましょうね!読んでくださってありがとうございますw


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Feb 10, 2017 5:18 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by ジェイホープ Mon Mar 28, 2016 5:24 pm

第16章__誰も知らない



____わかってた、勿論。全部全部__

傷だらけ、ぐしゃぐしゃになった毛を私は少し舐めた。後味の悪い、鉄が絡み付いたような血の味がした。

私は幼い時から、ロンリースカイという名のもう一つの私に、殺されてきた。

私の中の憎悪と孤独が固まった彼女は繰り返し繰り返し私を傷つけた。それに私は私が嫌いだった。それも彼女に殺される要因となったのかもしれない。
いつしかロンリースカイの攻撃は過激化して、意識を乗っ取られる二重人格のようなものになっていったのだった。一族の前では現れない。独りになれば決まって現れる悪夢だった。

嵐が通り過ぎたあとの静けさの中で、私はぼんやりと自分を辿り、今まで何をしてきたのかだろうかと自分に問う。

私はずっと私が存在している意味がどうしてもわからなかった。

炎がやってきた日、見えた運命は残酷で。ロンリースカイは私を嘲笑った。

「やっと死ねるのね」って。

炎は思ったよりしつこかった。ロンリースカイは助けようとしてくれた炎を消そうとしたし、私は差し伸べてくれた救いの手を打ち払った。

実を言えば私はファイヤポーを信頼したかったのかもしれない。彼を欺いて裏切って、その光に満ちた信頼の表情から彼の中の「私」が消えていくのが何故か身を切られるほど辛かった。
だけど、それすらも許さない私とロンリースカイがいた。

__久しぶりに感じた脆い感情。果てのない虚しさが突き抜けた。
いっその事なら、今すぐ消えたかった。炎になんて出会いたくなかった。
私という存在を抹消したい。例え家族が繋いでくれた生命だとしても。ごめんなさい。父さん母さん。でもね、こんな私なんかが生きていてもしょうがない。邪魔なだけなの。

──運命という柵に囚われた私達は哀れで、虚ろで……生も死も己の思うように動かしていると思っているだけで、実際は運命の上で転がされている。
私がまだ生きるというのは決まっていて、その間に何度死のうと消えようと足掻いても決して死ねはしない。

変えられない運命は、今重い鎖となって私を生へ留めている。

不意に、訳のわからない長い長い追憶から私はやっと覚めた。
またいつも通り傷を毛で隠して。感情を悟られないよう俯いた道化師の仮面をつけて。
私は痛む脚を無理矢理動かして、私の居場所のない場所に今日もまた帰ってゆく。

_________
初めてのスカイフラワーsideです。ロンリースカイの存在が上手に説明できていないので、補足としての章にもしています…w!
なかなか病んだ感じの小説ですが読んで下さると嬉しいです


最終編集者 ジェイホープ [ Fri Feb 10, 2017 10:40 pm ], 編集回数 3 回
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投稿 by レパードクロー Tue Mar 29, 2016 2:07 pm

スカイフラワーとロンリースカイの関係.......!

どんどん明かされていく真実に目が離せません!
孤独の空とは悲しいお名前......
自暴自棄になってしまっているスカイフラワーを止めてくれるのはファイヤポー君だけだッ((

続きがとても気になります!頑張ってください!
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投稿 by ジェイホープ Wed Mar 30, 2016 5:20 pm

ひょうつめ wrote:スカイフラワーとロンリースカイの関係.......!

どんどん明かされていく真実に目が離せません!
孤独の空とは悲しいお名前......
自暴自棄になってしまっているスカイフラワーを止めてくれるのはファイヤポー君だけだッ((

続きがとても気になります!頑張ってください!

コメありです~!今からたくさんの謎を明かしていきたいと思います!w
どこまでも独りなスカイポーちゃんの視点も少しずつ入れていきたいと思っているので、ファイヤくんの行動が起こす変化も注目してもらいたいと思います!

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投稿 by ジェイホープ Wed Mar 30, 2016 5:32 pm

キャラ募です!少しだけ…


ほんの少しだけキャラ募集します!スカイちゃんの家族設定は一応作ってはあったのですが…w
今になってその名前が気に入らなくなりまして←
そしていい名前が思いつかないんです…w

雄猫2匹、雌猫1匹の名前を募集です!どこか儚い感じの名前だと嬉しいです…(小声)

因みに…スカイちゃんの家族になりますのでw今になってこれを言ったって事はもうすぐ出てきm((

どなたでもOKです!どうかよろしくお願いします!
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投稿 by ライトハート Wed Mar 30, 2016 7:45 pm

応援しています!!もしよければ使ってください♪

マリンウィンド(海の風)
青灰色っぽい毛皮に青い瞳の雌猫。

こんな感じで…設定は変えてくださっても構いません。もちろん、ゴミ箱行きでもww
では続き楽しみにしています!
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投稿 by ジェイホープ Wed Mar 30, 2016 8:03 pm

ライトハート@水の花 wrote:応援しています!!もしよければ使ってください♪

マリンウィンド(海の風)
青灰色っぽい毛皮に青い瞳の雌猫。

こんな感じで…設定は変えてくださっても構いません。もちろん、ゴミ箱行きでもww
では続き楽しみにしています!

ありがとうございます!瞳の色は変えさせていただくかもですが…!素敵なお名前なので使わせていただきます!
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投稿 by ジェイホープ Fri Apr 08, 2016 3:24 pm

第17章__偽りの思い出



銀河に瞬く無数の星の中で、ゆっくりと昔を思い返すファイヤスターには青白く光る星がひときわ輝いて見えた。
悲しげなその光は、ブルースターの懺悔を思い出させる。
あの時は__そう、ブルースターと自分、そしてスカイポーが初めて訓練を共に受けた日だった。


空が美しく晴れ渡る涼しい日であった。羽のようにふわふわと霞んだ雲が浮かんでいて、森には夜の闇がまだ微かに残っている。
キャンプは早くも戦士たちが活動を始めており、戦いの傷から立ち直りつつあることを証明するように明るい声も響いている。
あくびを噛み殺しながら族長を待っていると、そのうち青灰色の姿が近づいてきた。ファイヤポーをかすめて通り過ぎ穏やかな声で出発を告げた。

「ファイヤポー。行きましょうか」

ファイヤポーは元気に立ち上がると興奮して尻尾を高く上げた。ブルースターとの訓練だ!!
しかし、ファイヤポーはあることを思い出して少し気分が沈んでいくのを感じた。そうだ。今日はスカイポーも一緒に訓練を受けるはずでは……
あの日以来何も会話を交わしていないことに不安を覚えつつ、それを表情には出さないようにしてファイヤポーは尋ねた。

「ブルースター、スカイポーはどこに…?」

「もう狩りに行ってしまったのよ。スカイポーには朝日が登る頃、つまり今頃合流しましょうと伝えてあるわ」

ブルースターはキャンプの入り口にある坂を上るとそこでファイヤポーに合図した。ブルースターはしなやかな身のこなしで森を駆け抜けていく。その優雅な姿に見惚れる間もなくファイヤポーは一生懸命に足を動かした。
朝日が完全に姿を現し、照らされたものが全て金色に洗われていく。ブルースターの毛並も白銀に輝いていて綺麗だ。
ファイヤポーは久しぶりに味わう訓練の雰囲気を楽しみながら指導者を追った。自分の毛皮も日を受けて炎色に輝いているのだろう。名前をもらった日や、初めて受けた訓練やライオンハートのこと。
なんだか遠いところに来てしまったようで束の間哀しみのような何かがこみ上げたが、それもすぐ消えた。森はよそよそしく見えるのではなく、もっとずっと暖かくファイヤポーに映っていたからだった。

しばらく森を駆け、訓練場の谷間に流れる小川のあたりまで行くと、ブルースターは足を止めた。

「ここで待つんですか?」

ファイヤポーは族長に追い付くと滑って止まった。

「ええ。もういるはずよ」

ブルースターはそれだけ言うと腰をおろし、陽光に嬉しそうに目を細めた。
ファイヤポーはブルースターとの初めての訓練が楽しみで仕方なく、そわそわと足踏みしながらスカイポーを探した。早く訓練を始めたい。
次の瞬間爽やかな風が頬をなで、スカイポーの匂いがしたと思うと同時に、茂みの間から淡い灰色の姿が出てきた。スカイポーは軽く会釈をしただけで、何も言わずにブルースターの指示を仰ぐ。
姿を見るまでは顔を合わせることになんの抵抗も感じていなかったというのに、無表情なその顔はあの日裏切られたという苦い感情を連れて現れ、あの夜以来の恨みを思い出させた。自分でも不思議なくらいに興奮が冷めていく。体中が冷えていくような奇妙な感覚だった。

ブルースターはファイヤポーをちらりと見やり、驚いたような色を浮かべた。しかし、それが現れたのは一瞬で、ブルースターはサッと立ち上がると微笑んだ。機械的な表面の笑みではなく、心からスカイポーを信頼しているような温かい笑みだった。
ファイヤポーは族長に気持ちを悟られてしまったことが気まずくわずかに俯いてしまったが、気持ちを切り替えて胸の底の感情は表に出さないように努めた。

「朝からお疲れ様。今日は二匹で狩りの訓練を少ししましょうか」

スネークロックス周辺から二本足のすみかの近くにかけて、3匹は午前いっぱい回った。今日は本当に良い天気で空だけが眩しく、その青さが目に沁みるようだった。
スカイポーの狩りの腕前は素晴らしかったが、やはりピンと張り詰めた緊張を感じてファイヤポーは話せなかった。ファイヤポーも何度か獲物を感知して、捕らえようとしたが逃してしまうことも多かった。
硬い表情をして押し黙る弟子二匹に対してブルースターは、穏やかな笑みを浮かべてアドバイスをしていく。

「スカイポー、あなたは1人で行ってもいいわ」

スカイポーの獲物がもう山となりそうなほど獲れたとき、ブルースターは一人で狩りをするように促した。

「わかりました」静かな声、森と風の匂いを連れてスカイポーは駆け去った。その姿は霧のようにスッと消え去り、数秒もせずに森へ消えた。

「さぁ。彼女をどんな目で見ているの?教えなさい」

彼女が去ったと確信した瞬間、ブルースターは勢いよく振り返ってファイヤポーを睨んだ。ばれているだろうと思っていたが、理由を今聞かれるとは想定外だ。
ファイヤポーはその声に怒りを感じとり、服従の姿勢をとって真面目な顔つきをした。スカイポーと仲良くしたいと豪語しておいてブルースターを怒らせてしまうようなことをしてしまった自分が恥ずかしい。ただ何もかも正直に言うことはできず、しかしスカイポーに対する怒りを忘れろというのも無理だった。

「ただ少し族長にはお話できない事情で、つかの間の恨みを覚えてしまっただけです」
ファイヤポーが申し訳なさそうに俯くと、ブルースターは大きく溜息をついてしまった。

「私にも話すべき事ではないのね……?」
ブルースターは尻尾を引き寄せると自分の足にきちんとかけた。今度は静かな口調でファイヤポーを覗き込むようにして見てくる。そして、ファイヤポーが言葉を探している間に次の言葉を放った。

「では話さなくてもいいでしょう。だけどあなたがスカイポーの心を解こうとしていたのは知っていたから……」

族長の心配そうな視線はファイヤポーの心を揺さぶった。族長は、自分もスカイポーもちゃんと見てくれているのだ。その思いになんだかぐっと来てファイヤポーは自分を叱った。スカイポーのことをわかろうともせず恨んで……そんなの今までの連中と一緒じゃないか?僕がスカイポーを助けるって決めたんだろ?

「心配しないでください。もう、大丈夫です」

長い沈黙と自問自答の末にファイヤポーはうつむかずにきちんと前を向いた。あの狂気に満ちた笑みの裏にも孤独が眠っていると考えれば裏切りだろうがなんだろうが放っておける気がしなくなってきた。亡くなった副長のことは悔やまれるが、きっとライオンハートもスター族の下で見守ってくれているはずだ。彼ならスカイポーに歩み寄ることを笑ったりしないだろう。

「余計な詮索はしないわ。ファイヤポーこれからもあの子をよろしくね」

ブルースターはそれを聞くとやがて穏やかな声で言い、立ち上がった。
その時ファイヤポーはまるで母親でもあるようにスカイポーを見守ろうとするブルースターの一面に驚いてもいた。
__今なら聞けるかもしれない。スカイポーを大切にしている族長に聞けば公平な事を教えてくれるだろう。スカイポーの過去について。

「あの、ブルースター」ファイヤポーは思い切って族長を引き留めた。迷っている間すらも無かった。

「なに?どうしたの?」ブルースターは首をかしげファイヤポーを見た。

「聞きたいんです。」ファイヤポーは1度唾を飲み込んだ。「教えてください、スカイポーの過去の事。」

「過去……」ブルースターは耳をピンと立て小さな声で繰り返した。不思議な表情をたたえている。

ファイヤポーはそわそわと足踏みした。最初、スカイポーの過去について少し話した程度で項垂れていた族長だ。凄惨な過去について知ってほしくないと思っているのかもしれない。
少し間が空いてブルースターはゆっくりと頷いた。そして再び尻尾を前足にきちんとかけて座り込んだ。

「わかった。話しましょう。いずれ、誰かから聞いてしまうでしょうし……」

言葉の最後の方は独り言のように静かに消え去った。その言葉からファイヤポーはまだ族長が迷っていることを感じ、何も言わずに判断を委ねた。

「いいえ。それだけではないわ。きっとあなたには話す必要がある」

次に言われた言葉はきっぱりとしていて、自分にもファイヤポーにも言い聞かせているような口調だった。

「どこから話すべきかしら…」

思案するような表情でブルースターは記憶をたどっているようだった。

「あの…家族を殺されたというのは?どういう理由で誰に…?」ファイヤポーは助け船を出そうとこちらから話を振った。

「そうね……彼女の家族は何者かに殺されたのよ」ブルースターは静かにそう言った。そして記憶が堰を切って流れ出したようにブルースターはハッとすると、苦しそうに話し出した。

「雨の日だったから匂いも洗い流されていて、誰かはわからなかったの。スカイポーが生後四ヶ月頃のことで__」

長い長い話だった。その裏に隠された部族猫の愚かな感情に、ファイヤポーも話しているブルースターでさえも呆然としているようだった。

「__魔ノ目は突然変異で現れる。彼女の母親は…普通の猫から生まれたのだけれど、淡い紫と青の目だった。
彼女の両親は気味悪がったわ。そして彼女を捨てた。自分達は部族の外へ逃げて、魔ノ目の幼い子供だけを押し付けていったのよ。
当然他の皆も彼女を嫌って、だけど当時族長のパインスターは優しい方だったから―きっと哀れに思ったのね―追い出そうとせず守ってあげていた。
その猫、マリンウィンド〈海の風〉は本当に優しくて、毅かった。だから、差別の目に耐えて生き続けて。
私は……弱かったから陰ではマリンウィンドと喋って表では全く話しかけなかった。それでもマリンウィンドは話してくれてありがとうって笑ってくれた。」

ブルースターは後悔をありありと目に浮かべながら語った。その姿はいつもサンダー族を引っ張る姿とはかけ離れて、美しく儚い1輪の花のように見えた。

「──しばらくして、1匹の戦士がマリンウィンドを好きになった。きっと彼は見習いの頃から同期であるマリンウィンドのことに惹かれていたのだと思うけれどね、いつからかどこでも彼女を大切にするようになって、どうして今まで彼女を守ってあげられていなかったのだろう。って嘆いて謝って本当にずっと傍にいた。
それがスカイポーの父親のラピスラズリアイズ〈瑠璃の双眼〉。彼も一族から嫌われるようになってしまったけれど……そんなこと彼にとっては小さなことだった。マリンウィンドも彼を好きになって、幸せになれるはずだったのよ。

しばらくして、ラピスラズリアイズとマリンウィンドは子供を作った。もしかしたらサンダー族に反抗した行為だったのかもしれないわね。彼女は魔ノ目の子供が生まれないことを祈ってたわ。
生まれたのはラピスラズリアイズ似の男の子。マリンウィンドは体が弱かったから1匹しか生まれなかったけど、とても幸せそうだった。その子はミルキーウェイ〈天の川〉という名で、スカイポーにも皆にもとても優しい穏やかな猫だった。
しばらくして、二匹はミルキーウェイが魔ノ目じゃなくて自信が持てたのかまた子供を望んだ。勿論、サンダー族の中で嫌悪は増していった…
ミルキーウェイもラピスラズリアイズもとても優秀な戦士だったのにあまり評価もされずに……
そして次に生まれたのはスカイポー。魔ノ目だったの……」

森の香りが2匹を包む。穏やかな日差しの中で、ブルースターの声が震えているのをファイヤポーは感じていた。どれほどの不幸がそのあと家族を襲ったのか。考えるだけで胸が締め付けられるような気がした。

「それから四ヶ月。ほら、さっき言ったように酷い雨嵐の日。マリンウィンドとラピスラズリアイズはミルキーウェイに乳離れしたスカイポーを預けて…朝はすごく晴れていたから出かけたの。
あの時、私が一緒に行ければ良かったのかもしれない。でも久しぶりに二匹で出かけさせてあげたかったし、ミルキーウェイが困ったら助けてあげようと思って…

本当に、信じられなかった。森のはずれで___


殺されていた。


殺した猫の痕跡は全くなかった。消えてしまったように何も残らなかった。多分サンダー族の猫よ」


ファイヤポーは驚いたように目を見開いた。生まれついた容姿と能力だけで、幸せを奪う猫が心から憎く感じた。
激しい感情を抑えて、立ち上がりブルースターに言葉をかけた。

「ブルースター。そんな…何かしてあげられる___」

何かしてあげられる事はなかったんですか?幸せを奪うような恐ろしい猫達を放っておいていいのですか?

そう聞くつもりだった。しかしブルースターはその言葉を遮った。

「わかってる。ええ。私がなにか出来ていたら…」

族長の悲痛な声は、ファイヤポーの心に響いた。
ブルースターの哀しみと後悔の気持ちが押し寄せ、心が痛かった。

「まだ終わっていない…ミルキーウェイという名の戦士は今いないの」

ブルースターは疲れたように俯いてそっと言った。もうその視線はファイヤポーを見てはいない。遠い過去の何かを見ていた。何かをこらえるような目で悲しみを覆い尽くそうともしていた。

「あなたが来るほんの少し前。スカイポーが見習いになる直前。彼も殺されたのよ」

「それで……スカイポーは身内がいないのですね?」

壮絶な過去を知って頭がくらくらした。幼い子猫だというのに、家族を奪われて辛かっただろう。

ファイヤポーはそんな事を考えながら静かに礼を言った。

「副長になったとき言われたの『君があの子を裏で庇っているのは知っているよ、ブルーファー。君なら立派な族長になれるはずだ』って。パインスターに。だから私は変わった。隠さずにマリンウィンドたちと喋るようにした。当時私を支持していた戦士達の中には私を非難するものもいたけれど…掟に従って私は族長になれた。だから変えられると思っていた。もう野蛮なことをする奴らなんていないと思ってた。でも、遅かったのよ。私はもっと早く気づかなければならなかった。変わらなければならなかったのに……!」

呟くように言った声を、言葉を自分は今でも鮮明に覚えている。そしてその次に言った言葉も。



「あなたならスカイポーを救ってくれると信じてる」

青い眼光はしっかりと自分を見つめていたんだ。


最終編集者 ジェイホープ [ Mon Feb 13, 2017 5:11 pm ], 編集回数 2 回
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