Memory of Flower[完結]
2 posters
WARRIORS BBS :: 小説投稿フォーラム :: 完全オリジナル猫小説
Page 5 of 6
Page 5 of 6 • 1, 2, 3, 4, 5, 6
Re: Memory of Flower[完結]
【第22章】9
「フィーユはどうしてこんなに詳しく知ってるの?」
あまりに壮大な話に、聞いていたフルールスリートは目を丸くしながらも声を絞り出す。フィーユはそう聞かれてクスッと笑った。
「なぜかって言うと、私達が先祖代々この山と暮らしているからよ。」
そう言ってから、訳がわからない、という顔をしている3匹に説明を始める。
「代々私の家系の雌猫は、花に力を与えに来た猫を案内する役をしているの。初代の雌猫は、花に永遠に生き続ける力を与えた猫から任された、と聞いているけど。」
しばらく経ってから、ムーンルキスがようやく口を開く。
「つまり、昔、本当に流れ星が落ちて、今も花は咲いているということか...?」
「多分ね。少なくとも、私の母が若い時、ちょうどその100年目だったらしいわ。そこで体験したことは誰にも話してはいけないから、何があったのか私も知らないけど...」
「フィーユのお母さんが!?」
当たり前のことのように話すフィーユを、フルールスリートはさらに目を丸くして見つめる。
「私も、もう少し早く産まれていたかったわ。」
フィーユは残念そうに呟く。
「フィーユはどうしてこんなに詳しく知ってるの?」
あまりに壮大な話に、聞いていたフルールスリートは目を丸くしながらも声を絞り出す。フィーユはそう聞かれてクスッと笑った。
「なぜかって言うと、私達が先祖代々この山と暮らしているからよ。」
そう言ってから、訳がわからない、という顔をしている3匹に説明を始める。
「代々私の家系の雌猫は、花に力を与えに来た猫を案内する役をしているの。初代の雌猫は、花に永遠に生き続ける力を与えた猫から任された、と聞いているけど。」
しばらく経ってから、ムーンルキスがようやく口を開く。
「つまり、昔、本当に流れ星が落ちて、今も花は咲いているということか...?」
「多分ね。少なくとも、私の母が若い時、ちょうどその100年目だったらしいわ。そこで体験したことは誰にも話してはいけないから、何があったのか私も知らないけど...」
「フィーユのお母さんが!?」
当たり前のことのように話すフィーユを、フルールスリートはさらに目を丸くして見つめる。
「私も、もう少し早く産まれていたかったわ。」
フィーユは残念そうに呟く。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第22章】10
「フィーユ。」
「何?ムーンルキス。」
「フィーユがその案内をする猫ということは、その花がどこで咲いているのか知ってるんだよな?」
「いいえ。」
考え込みながら尋ねるムーンルキスの言葉をフィーユはあっさりと否定する。もう訳が分からないという顔をしているネージュムーンとフルールスリートに微笑みかけ、フィーユは話し続ける。
「実際に花の位置を正確に感じることが出来るのは、花に力を与えに来た猫だけ。でも、花が咲いているのはあの山。」
そう言いながら、フィーユは振り返り、一番近くの山をしっぽで指した。それは、今フルールスリート達が辿っている川が流れて来る山だった。
「それ、僕達に教えていいことなの?」
ネージュムーンが遠慮がちに口を開く。
「その花は誰でも見に行っていいのよ。ただ、見つけるのがすごく難しいから幻って言われてるだけ。もちろん、その花を取ろうとか考えている猫がいたら、私はその花を守って戦わなくちゃいけないわ。だけど、ネージュムーン達はそんなことないみたいだから。」
フィーユはそう言いながら、フルールスリート達3匹の瞳をじっと見つめる。そして、満足したようにパタッとしっぽを振った。
「でも、どうして花を守ってるの?」
フルールスリートがもっともな疑問を口にし、兄弟もそれに頷く。
「そのうち、この花が必要になる時が来るって言われてるからよ。それに、母や祖母が守ってきたものを放ってどこかに行くのが気が引けるわ。」
「それでも...ここで一生暮らすの...?」
小さな声で尋ねたフルールスリートの言葉を聞いて、フィーユは思わず笑い出す。
「一生!?一生じゃないわ!もちろんここで暮らしたかったらここに住んでもいいんだけど。私はジェルムが大人になったらこの役目は終わり。」
そう言うと、フドルと遊んで毛が乱れたのを気にして、体の毛を整えているジェルムを優しい目で見つめる。ジェルムは小さくくしゃみをし、小さな頭をプルプルと振った。そして、4匹が自分を見つめていることに気付くと、不思議そうに首を傾げた。
「フィーユ。」
「何?ムーンルキス。」
「フィーユがその案内をする猫ということは、その花がどこで咲いているのか知ってるんだよな?」
「いいえ。」
考え込みながら尋ねるムーンルキスの言葉をフィーユはあっさりと否定する。もう訳が分からないという顔をしているネージュムーンとフルールスリートに微笑みかけ、フィーユは話し続ける。
「実際に花の位置を正確に感じることが出来るのは、花に力を与えに来た猫だけ。でも、花が咲いているのはあの山。」
そう言いながら、フィーユは振り返り、一番近くの山をしっぽで指した。それは、今フルールスリート達が辿っている川が流れて来る山だった。
「それ、僕達に教えていいことなの?」
ネージュムーンが遠慮がちに口を開く。
「その花は誰でも見に行っていいのよ。ただ、見つけるのがすごく難しいから幻って言われてるだけ。もちろん、その花を取ろうとか考えている猫がいたら、私はその花を守って戦わなくちゃいけないわ。だけど、ネージュムーン達はそんなことないみたいだから。」
フィーユはそう言いながら、フルールスリート達3匹の瞳をじっと見つめる。そして、満足したようにパタッとしっぽを振った。
「でも、どうして花を守ってるの?」
フルールスリートがもっともな疑問を口にし、兄弟もそれに頷く。
「そのうち、この花が必要になる時が来るって言われてるからよ。それに、母や祖母が守ってきたものを放ってどこかに行くのが気が引けるわ。」
「それでも...ここで一生暮らすの...?」
小さな声で尋ねたフルールスリートの言葉を聞いて、フィーユは思わず笑い出す。
「一生!?一生じゃないわ!もちろんここで暮らしたかったらここに住んでもいいんだけど。私はジェルムが大人になったらこの役目は終わり。」
そう言うと、フドルと遊んで毛が乱れたのを気にして、体の毛を整えているジェルムを優しい目で見つめる。ジェルムは小さくくしゃみをし、小さな頭をプルプルと振った。そして、4匹が自分を見つめていることに気付くと、不思議そうに首を傾げた。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第22章】11
「色々話が脱線してしまったわね。」
フィーユがそう言って3匹を見回す。ムーンルキスははっとして、頷く。
「そうだったな。つまりまとめると、この山の頂上に不思議な力を持った花がある。」
「少なくとも、フィーユのお母さんがこの花を守っていた時は!」
フルールスリートが横から補足する。
「 ”白い海” についてフィーユは何か知ってる?」
「それは知らないわ。」
ネージュムーンにフィーユは答える。
「でも、これだけ分かれば探せる気がするわ!」
フルールスリートが興奮してしっぽを立てる。兄弟も頷く。
「ありがとう、フィーユ!とても助かったわ!!!」
「お役に立ててなによりよ!もう出発するの?」
3匹は顔を見合わせる。
「どうする?僕は別に疲れてるわけじゃないから今出発できるよ。もちろん、ここで一晩過ごすっていうのもいいけどね。」
ネージュムーンはそう言って、自分の隣でまだ寝ているプリュイを優しい目で見る。
「フルールスリート!もういっちゃうの?」
母親の声を聞いて急いで走って来たフドルが不満気に言った。フドルの耳をさっと舐めてから、フルールスリートが訴えるようにムーンルキスを振り返る。その2匹の様子を見て、ムーンルキスは苦笑する。
「出発は明日の朝にするか。」
「やった!」
「色々話が脱線してしまったわね。」
フィーユがそう言って3匹を見回す。ムーンルキスははっとして、頷く。
「そうだったな。つまりまとめると、この山の頂上に不思議な力を持った花がある。」
「少なくとも、フィーユのお母さんがこの花を守っていた時は!」
フルールスリートが横から補足する。
「 ”白い海” についてフィーユは何か知ってる?」
「それは知らないわ。」
ネージュムーンにフィーユは答える。
「でも、これだけ分かれば探せる気がするわ!」
フルールスリートが興奮してしっぽを立てる。兄弟も頷く。
「ありがとう、フィーユ!とても助かったわ!!!」
「お役に立ててなによりよ!もう出発するの?」
3匹は顔を見合わせる。
「どうする?僕は別に疲れてるわけじゃないから今出発できるよ。もちろん、ここで一晩過ごすっていうのもいいけどね。」
ネージュムーンはそう言って、自分の隣でまだ寝ているプリュイを優しい目で見る。
「フルールスリート!もういっちゃうの?」
母親の声を聞いて急いで走って来たフドルが不満気に言った。フドルの耳をさっと舐めてから、フルールスリートが訴えるようにムーンルキスを振り返る。その2匹の様子を見て、ムーンルキスは苦笑する。
「出発は明日の朝にするか。」
「やった!」
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第22章】12
「これ全部フルールスリート達が取ったの!?」
フドルの声に迎えられて、3匹は茂みに入る。茂みの外はもう空がオレンジ色に染まり始めている。
「ネージュムーンすごい!!!」
プリュイも興奮している。ジェルムは母親の隣で目を丸くしている。
「ありがとう!!!こんなに取ってきてもらって申し訳ないわ。」
フィーユが感謝を述べる。
「いいの!私達に不思議な花のことを教えてくれたお礼よ!!!」
フルールスリートはそう言って、獲物を落とす。
「ほら!どれでも好きなの取って!!!」
フドルが早速走って来て、獲物の匂いを嗅ぎ、ウサギを引っ張り出す。
「すごい!!!ウサギだ!!!」
目を輝かせてフドルはウサギにかじりつく。プリュイはネージュムーンのくわえている獲物の中の、太ったハタネズミの匂いを嗅いでいる。
「プリュイはこれが欲しいの?」
こっくり頷いたプリュイに、ネージュムーンはハタネズミを落としてやった。
「これ全部フルールスリート達が取ったの!?」
フドルの声に迎えられて、3匹は茂みに入る。茂みの外はもう空がオレンジ色に染まり始めている。
「ネージュムーンすごい!!!」
プリュイも興奮している。ジェルムは母親の隣で目を丸くしている。
「ありがとう!!!こんなに取ってきてもらって申し訳ないわ。」
フィーユが感謝を述べる。
「いいの!私達に不思議な花のことを教えてくれたお礼よ!!!」
フルールスリートはそう言って、獲物を落とす。
「ほら!どれでも好きなの取って!!!」
フドルが早速走って来て、獲物の匂いを嗅ぎ、ウサギを引っ張り出す。
「すごい!!!ウサギだ!!!」
目を輝かせてフドルはウサギにかじりつく。プリュイはネージュムーンのくわえている獲物の中の、太ったハタネズミの匂いを嗅いでいる。
「プリュイはこれが欲しいの?」
こっくり頷いたプリュイに、ネージュムーンはハタネズミを落としてやった。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第22章】13
ムーンルキスはキジをくわえてフィーユとジェルムに近付く。
「キジ、食べたことあるか?」
「いいえ...1度も取れたことないわ。」
フィーユは驚きで目を丸くしながらそっと近付き、前足で触った。ジェルムはキジを瞬きもせずに見つめている。
「どうぞ。」
ムーンルキスは小さく微笑んで2匹の前にキジを落とした。
「ありがとう...キジって捕まえられるのね...」
「ありがとう。」
ジェルムは小さな声でお礼を言い、母娘は尊敬の眼差しでムーンルキスを見た。ムーンルキスはさっとしっぽを振ると、ネージュムーンの隣に腰を下ろした。
7匹は満腹になり、それぞれが毛繕いをしている。茂みの葉と葉の間から、藍色の空が見えた。
「もう寝る時間よ。」
フィーユが子猫達に声をかける。プリュイが欠伸をしながらネージュムーンの隣をちらっと見る。許しを乞うかのように母猫を見上げると、今日だけよ、とフィーユは頷いた。早速ネージュムーンの隣に擦り寄ると、プリュイは体を丸めて目を閉じる。ネージュムーンはそっと頬擦りすると、プリュイを囲って体を丸めた。
ムーンルキスはネージュムーンの隣に伏せ、フルールスリートはムーンルキスの隣でくるくる周り、寝場所を整える。フドルが母親のお腹の横から抜け出し、フルールスリートとムーンルキスの間に体をねじ込むと、眠そうな声で話し掛ける。
「ムーンルキス...今度キジの捕まえ方教えて...」
「ああ、もちろんだ。また会った時な。」
ムーンルキスが答えた時、フドルはもう目を閉じていた。ジェルムはフィーユのお腹に居心地良さそうに顔をくっつけている。フルールスリートはフドルの頭をそっと舐め、目を閉じた。
ムーンルキスはキジをくわえてフィーユとジェルムに近付く。
「キジ、食べたことあるか?」
「いいえ...1度も取れたことないわ。」
フィーユは驚きで目を丸くしながらそっと近付き、前足で触った。ジェルムはキジを瞬きもせずに見つめている。
「どうぞ。」
ムーンルキスは小さく微笑んで2匹の前にキジを落とした。
「ありがとう...キジって捕まえられるのね...」
「ありがとう。」
ジェルムは小さな声でお礼を言い、母娘は尊敬の眼差しでムーンルキスを見た。ムーンルキスはさっとしっぽを振ると、ネージュムーンの隣に腰を下ろした。
7匹は満腹になり、それぞれが毛繕いをしている。茂みの葉と葉の間から、藍色の空が見えた。
「もう寝る時間よ。」
フィーユが子猫達に声をかける。プリュイが欠伸をしながらネージュムーンの隣をちらっと見る。許しを乞うかのように母猫を見上げると、今日だけよ、とフィーユは頷いた。早速ネージュムーンの隣に擦り寄ると、プリュイは体を丸めて目を閉じる。ネージュムーンはそっと頬擦りすると、プリュイを囲って体を丸めた。
ムーンルキスはネージュムーンの隣に伏せ、フルールスリートはムーンルキスの隣でくるくる周り、寝場所を整える。フドルが母親のお腹の横から抜け出し、フルールスリートとムーンルキスの間に体をねじ込むと、眠そうな声で話し掛ける。
「ムーンルキス...今度キジの捕まえ方教えて...」
「ああ、もちろんだ。また会った時な。」
ムーンルキスが答えた時、フドルはもう目を閉じていた。ジェルムはフィーユのお腹に居心地良さそうに顔をくっつけている。フルールスリートはフドルの頭をそっと舐め、目を閉じた。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第23章】
「またきてね!!!まってるから!!!」
4匹の別れを告げる声にしっぽを振って応えると、フルールスリート達は山に向かって歩き始めた。目の前にそびえ立つのは、険しくはなさそうだが、大きな山だ。青々と茂る緑がその斜面を覆っている。
「このまま歩いたら、明後日の午後までには山の入口に着けそうだね。」
先頭を歩くネージュムーンが言った。
「獲物も豊富にいるみたいだ。山に入ってからどうなるかは心配だが、とりあえず今は問題ないな。」
ムーンルキスも3匹の歩く先からさっと飛び出し、逃げて行くウサギを見ながら答える。
「山に着いたらどうするの?全部を探すのは...」
フルールスリートは不安そうに山を見上げる。
「あの歌がヒントになるんじゃないか? ”白い海” ができるくらい広くて平坦な場所は限られている。山の中にあるとは考えにくい。」
「つまり、山頂ってこと?」
ネージュムーンが尋ねる。
「ああ、恐らく。」
ムーンルキスは頷いて同意を示した。
「だとすると、ひたすら登ればいいだけね!」
フルールスリートは朗らかに言うと、山から吹いてくる風の香りを嗅ぐ。その中には、平地よりも遅い春を告げる草花の香りが混じっていた。
「またきてね!!!まってるから!!!」
4匹の別れを告げる声にしっぽを振って応えると、フルールスリート達は山に向かって歩き始めた。目の前にそびえ立つのは、険しくはなさそうだが、大きな山だ。青々と茂る緑がその斜面を覆っている。
「このまま歩いたら、明後日の午後までには山の入口に着けそうだね。」
先頭を歩くネージュムーンが言った。
「獲物も豊富にいるみたいだ。山に入ってからどうなるかは心配だが、とりあえず今は問題ないな。」
ムーンルキスも3匹の歩く先からさっと飛び出し、逃げて行くウサギを見ながら答える。
「山に着いたらどうするの?全部を探すのは...」
フルールスリートは不安そうに山を見上げる。
「あの歌がヒントになるんじゃないか? ”白い海” ができるくらい広くて平坦な場所は限られている。山の中にあるとは考えにくい。」
「つまり、山頂ってこと?」
ネージュムーンが尋ねる。
「ああ、恐らく。」
ムーンルキスは頷いて同意を示した。
「だとすると、ひたすら登ればいいだけね!」
フルールスリートは朗らかに言うと、山から吹いてくる風の香りを嗅ぐ。その中には、平地よりも遅い春を告げる草花の香りが混じっていた。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第24章】1
歩き続けていたフルールスリート達の前に、木々の隙間から山への入口が見えてきた。フィーユ達から別れて3日歩く間に、周囲は草原から徐々に森林へと変わってきている。太陽は、真上を少し過ぎた位置で輝いていた。
「もう着くね。」
先頭を歩いていたネージュムーンが後ろを振り返り、2匹に話し掛ける。
「どうする?今日はこの辺りで眠って、明日山に入る?」
「それがいいかもな。」
ムーンルキスはそう答え、周囲を見回す。
「しかし、山の入口を少し見に行っていいか?山にどれくらい獲物がいそうなのか、見ておきたい。」
ネージュムーンは頷くと、兄に前を譲った。
「ここ?」
フルールスリートが首を傾げて前を見つめる。
「ああ。この辺りからが山だ。間違いない。」
ムーンルキスはそう言って、一番近くに生えている木を上り始めた。
歩き続けていたフルールスリート達の前に、木々の隙間から山への入口が見えてきた。フィーユ達から別れて3日歩く間に、周囲は草原から徐々に森林へと変わってきている。太陽は、真上を少し過ぎた位置で輝いていた。
「もう着くね。」
先頭を歩いていたネージュムーンが後ろを振り返り、2匹に話し掛ける。
「どうする?今日はこの辺りで眠って、明日山に入る?」
「それがいいかもな。」
ムーンルキスはそう答え、周囲を見回す。
「しかし、山の入口を少し見に行っていいか?山にどれくらい獲物がいそうなのか、見ておきたい。」
ネージュムーンは頷くと、兄に前を譲った。
「ここ?」
フルールスリートが首を傾げて前を見つめる。
「ああ。この辺りからが山だ。間違いない。」
ムーンルキスはそう言って、一番近くに生えている木を上り始めた。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第24章】2
「どうしてここから山だって分かるの?」
フルールスリートは振り返り、後ろでムーンルキスを見ているネージュムーンに尋ねる。
「ここの辺りから木が急に高くて立派になってるでしょ?」
「言われてみれば...」
フルールスリートはそう言って自分の前に生えている木と後ろに生えている木を見比べる。
「ここは南側だってことが太陽の位置から分かるでしょ?南側ってことは、陽当たりがいいんだ。そして、斜面の方が地面が平な場所より木に日光が当たりやすい。つまり、木が大きく立派に育つんだ。逆に言うと、木が大きいということは、斜面のある場所、つまり山になるってことなんだよ。」
「そういうことね!!!木を見るだけでそんなことまで分かるなんてすごいわ!」
その時、上からムーンルキスが飛び降りてきた。
「お帰り。どんな様子だった?」
「上の方までずっと緑が広がっていた。獲物の心配はそこまでしなくて大丈夫そうだ。」
ネージュムーンの問いにムーンルキスは答え、前足をさっと舐めた。
「よかった。じゃぁ、今からそれぞれ狩りをして、後でここに集まるでいいよね?」
ネージュムーンはフルールスリートとムーンルキスが頷いたのを確認して、下生えの中に消えていった。
「どうしてここから山だって分かるの?」
フルールスリートは振り返り、後ろでムーンルキスを見ているネージュムーンに尋ねる。
「ここの辺りから木が急に高くて立派になってるでしょ?」
「言われてみれば...」
フルールスリートはそう言って自分の前に生えている木と後ろに生えている木を見比べる。
「ここは南側だってことが太陽の位置から分かるでしょ?南側ってことは、陽当たりがいいんだ。そして、斜面の方が地面が平な場所より木に日光が当たりやすい。つまり、木が大きく立派に育つんだ。逆に言うと、木が大きいということは、斜面のある場所、つまり山になるってことなんだよ。」
「そういうことね!!!木を見るだけでそんなことまで分かるなんてすごいわ!」
その時、上からムーンルキスが飛び降りてきた。
「お帰り。どんな様子だった?」
「上の方までずっと緑が広がっていた。獲物の心配はそこまでしなくて大丈夫そうだ。」
ネージュムーンの問いにムーンルキスは答え、前足をさっと舐めた。
「よかった。じゃぁ、今からそれぞれ狩りをして、後でここに集まるでいいよね?」
ネージュムーンはフルールスリートとムーンルキスが頷いたのを確認して、下生えの中に消えていった。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第24章】3
ハトとネズミを捕らえたフルールスリートは、集合場所に戻り、獲物を落とした。ネージュムーンとムーンルキスは狩りをしているのか、まだ帰って来ていない。フルールスリートは小さく伸びをすると、毛繕いを始める。しばらくすると、音も無くムーンルキスが帰ってきた。
「あとはネージュムーンだけか。」
フルールスリートは頷くと、しっぽの毛を舐める。ムーンルキスもフルールスリートの隣で毛繕いを始めた。
「なかなか帰って来ないな。何かあったのか...?」
ムーンルキスが弟を心配してそわそわし始めた。フルールスリートも耳をそばだて、ネージュムーンの気配を探す。その時、フルールスリートの右側の茂みがガサガサとなった。
「よかった!お帰りネージュムーン!!!遅かったわね!」
フルールスリートが出迎えようとするのをムーンルキスが体で遮った。
「待て。ネージュムーンじゃない。」
「え?」
ムーンルキスが辺りの匂いを嗅ごうとするが、自分達が風上にいるため、相手の匂いが届かない。2匹は息を詰め、茂みを見つめる。
ハトとネズミを捕らえたフルールスリートは、集合場所に戻り、獲物を落とした。ネージュムーンとムーンルキスは狩りをしているのか、まだ帰って来ていない。フルールスリートは小さく伸びをすると、毛繕いを始める。しばらくすると、音も無くムーンルキスが帰ってきた。
「あとはネージュムーンだけか。」
フルールスリートは頷くと、しっぽの毛を舐める。ムーンルキスもフルールスリートの隣で毛繕いを始めた。
「なかなか帰って来ないな。何かあったのか...?」
ムーンルキスが弟を心配してそわそわし始めた。フルールスリートも耳をそばだて、ネージュムーンの気配を探す。その時、フルールスリートの右側の茂みがガサガサとなった。
「よかった!お帰りネージュムーン!!!遅かったわね!」
フルールスリートが出迎えようとするのをムーンルキスが体で遮った。
「待て。ネージュムーンじゃない。」
「え?」
ムーンルキスが辺りの匂いを嗅ごうとするが、自分達が風上にいるため、相手の匂いが届かない。2匹は息を詰め、茂みを見つめる。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第24章】4
一瞬茂みを掻き分ける音が止まったと思った瞬間、中から赤っぽい茶色の動物が飛び出し、ムーンルキスを跳ね飛ばした。そして、フルールスリートの捕らえたハトをくわえ、こちらを振り返る。
「キツネだ!」
ムーンルキスがさっと起き上がり、全身の毛を逆立て、威嚇をする。
「まだ子供じゃないの!私の獲物を取るなんてどういうつもり!?」
フルールスリートも怒りを露わにする。子ぎつねと言っても、ムーンルキスより一回り以上大きいが、ムーンルキスがさっと飛び掛かり、鼻面を引っ掻く。そして、戸惑いで動けなくなっている子ぎつねに体当たりし、ひっくり返った子ぎつねの耳を噛んだ。
子ぎつねがギャンと悲鳴を上げてハトを落とすと、ムーンルキスは子ぎつねを離してやった。子ぎつねは耳を寝かせ、クンクン鳴いている。その時、走ってくる足音がしたかと思うと、ネージュムーンが飛び込んで来た。
「ムーンルキス!!!キツネが───」
「もう大丈夫だ。」
ムーンルキスが身をすくめている子ぎつねを横目にネージュムーンの言葉を遮ると、ネージュムーンが苛立たしげに頭を振った。
「そうじゃないんだ!!!大人のキツネの匂いがあった!多分コイツの母親だ!子供に手を出したと気付いたら───」
ネージュムーンがふと言葉を切り、身を強ばらせる。子ぎつねの悲鳴を聞いて駆け付けようとしているのだろうキツネの母親の素早い足音が、聞こえてきた。
「来た!!!気を付けろ!相当怒ってるぞ!」
ネージュムーンが爪を出す。
「フルールスリート、怯えを嗅ぎ取られるぞ。」
フルールスリートは目を怒りに染めて走って来るキツネを見て少し怯えを見せたが、ムーンルキスの言葉で我に返った。母ギツネは立ち止まることなく、一番近くにいたネージュムーンに飛び掛かり、地面に倒して押さえつけた。
一瞬茂みを掻き分ける音が止まったと思った瞬間、中から赤っぽい茶色の動物が飛び出し、ムーンルキスを跳ね飛ばした。そして、フルールスリートの捕らえたハトをくわえ、こちらを振り返る。
「キツネだ!」
ムーンルキスがさっと起き上がり、全身の毛を逆立て、威嚇をする。
「まだ子供じゃないの!私の獲物を取るなんてどういうつもり!?」
フルールスリートも怒りを露わにする。子ぎつねと言っても、ムーンルキスより一回り以上大きいが、ムーンルキスがさっと飛び掛かり、鼻面を引っ掻く。そして、戸惑いで動けなくなっている子ぎつねに体当たりし、ひっくり返った子ぎつねの耳を噛んだ。
子ぎつねがギャンと悲鳴を上げてハトを落とすと、ムーンルキスは子ぎつねを離してやった。子ぎつねは耳を寝かせ、クンクン鳴いている。その時、走ってくる足音がしたかと思うと、ネージュムーンが飛び込んで来た。
「ムーンルキス!!!キツネが───」
「もう大丈夫だ。」
ムーンルキスが身をすくめている子ぎつねを横目にネージュムーンの言葉を遮ると、ネージュムーンが苛立たしげに頭を振った。
「そうじゃないんだ!!!大人のキツネの匂いがあった!多分コイツの母親だ!子供に手を出したと気付いたら───」
ネージュムーンがふと言葉を切り、身を強ばらせる。子ぎつねの悲鳴を聞いて駆け付けようとしているのだろうキツネの母親の素早い足音が、聞こえてきた。
「来た!!!気を付けろ!相当怒ってるぞ!」
ネージュムーンが爪を出す。
「フルールスリート、怯えを嗅ぎ取られるぞ。」
フルールスリートは目を怒りに染めて走って来るキツネを見て少し怯えを見せたが、ムーンルキスの言葉で我に返った。母ギツネは立ち止まることなく、一番近くにいたネージュムーンに飛び掛かり、地面に倒して押さえつけた。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第24章】5
あまりの速さに3匹の反応が一瞬遅れたが、怒りの鳴き声を上げてムーンルキスがキツネに体当たりをする。しかし、キツネは気にする様子もなく、ネージュムーンの前足に噛み付いた。
ネージュムーンは痛みに唸り、自分の首元を押さえ付けているキツネの脚に噛み付く。ネージュムーンが歯に力を込めると、キツネはネージュムーンの脚を離して飛び退いた。そして、猫達を見回して歯を剥き出す。
「相手にするのは得策じゃない。ネージュムーン、逃げられるか?」
「もちろん。」
「先に行け。」
ムーンルキスが短くそう言うと、ネージュムーンはさっと身を翻して駆け出す。フルールスリートもその後に続いた。フルールスリートを追いかけようとした母ギツネは、後ろ脚をムーンルキスに引っ掻かれ、苛立たしげに頭を振る。
ムーンルキスを捕え損ねた鋭い歯が空を噛んだ。後ろから不気味に聞こえた音に振り返りかけるフルールスリートを、前からネージュムーンが鋭い声で制した。
「フルールスリート!振り返るな!登れそうな木があったら登って伏せるんだ!」
「わ、わかった!」
珍しいネージュムーンの声に、フルールスリートは前を向いてスピードを上げた。
「フルールスリート!!!右前の木だ!」
少し走ったところで聞こえたネージュムーンの言葉で、フルールスリートは太いツルの巻きついた木を見つけ、急いで登る。そして、下から2本目の太い枝の上でぴったりと伏せる。
ネージュムーンはその木の近くに、同じようにツルの巻きついた木を見つけ、登っていた。すぐに足音が近付いて来たと思うと、しっぽを立て、ムーンルキスが薮をすり抜けるのが見えた。母ギツネはその薮を押し潰しながらムーンルキスを追い掛けている。
「ムーンルキス!こっちだ!!!」
木の上からネージュムーンが叫び、ムーンルキスは方向を変える。ムーンルキスは木の上をちらっと見上げ、弟の姿を確認すると、その木へ一直線に走って来た。そして、幹に飛び付くと、ツタを使って素早く駆け登る。
木の下に辿り着き、ムーンルキスのしっぽに噛み付こうとしたキツネだったが、一瞬早くムーンルキスが安全な高さに辿り着いた。キツネは悔しそに唸り、地面を前足で引っ掻く。
ネージュムーンは、ムーンルキスの1本上の枝でキツネを睨みつけ、しっぽをぴくぴくさせている。その時、小さく茂みを掻き分ける音がしたかと思うと、ビクビクした様子の子ぎつねが顔を出した。しかし、母親の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄る。
母ギツネはようやく兄弟から目を離すと、子ぎつねを気遣うように、耳をそっと舐めたそして、最後にもう一度兄弟を睨みつけると、子ぎつねを連れて去って行った。
あまりの速さに3匹の反応が一瞬遅れたが、怒りの鳴き声を上げてムーンルキスがキツネに体当たりをする。しかし、キツネは気にする様子もなく、ネージュムーンの前足に噛み付いた。
ネージュムーンは痛みに唸り、自分の首元を押さえ付けているキツネの脚に噛み付く。ネージュムーンが歯に力を込めると、キツネはネージュムーンの脚を離して飛び退いた。そして、猫達を見回して歯を剥き出す。
「相手にするのは得策じゃない。ネージュムーン、逃げられるか?」
「もちろん。」
「先に行け。」
ムーンルキスが短くそう言うと、ネージュムーンはさっと身を翻して駆け出す。フルールスリートもその後に続いた。フルールスリートを追いかけようとした母ギツネは、後ろ脚をムーンルキスに引っ掻かれ、苛立たしげに頭を振る。
ムーンルキスを捕え損ねた鋭い歯が空を噛んだ。後ろから不気味に聞こえた音に振り返りかけるフルールスリートを、前からネージュムーンが鋭い声で制した。
「フルールスリート!振り返るな!登れそうな木があったら登って伏せるんだ!」
「わ、わかった!」
珍しいネージュムーンの声に、フルールスリートは前を向いてスピードを上げた。
「フルールスリート!!!右前の木だ!」
少し走ったところで聞こえたネージュムーンの言葉で、フルールスリートは太いツルの巻きついた木を見つけ、急いで登る。そして、下から2本目の太い枝の上でぴったりと伏せる。
ネージュムーンはその木の近くに、同じようにツルの巻きついた木を見つけ、登っていた。すぐに足音が近付いて来たと思うと、しっぽを立て、ムーンルキスが薮をすり抜けるのが見えた。母ギツネはその薮を押し潰しながらムーンルキスを追い掛けている。
「ムーンルキス!こっちだ!!!」
木の上からネージュムーンが叫び、ムーンルキスは方向を変える。ムーンルキスは木の上をちらっと見上げ、弟の姿を確認すると、その木へ一直線に走って来た。そして、幹に飛び付くと、ツタを使って素早く駆け登る。
木の下に辿り着き、ムーンルキスのしっぽに噛み付こうとしたキツネだったが、一瞬早くムーンルキスが安全な高さに辿り着いた。キツネは悔しそに唸り、地面を前足で引っ掻く。
ネージュムーンは、ムーンルキスの1本上の枝でキツネを睨みつけ、しっぽをぴくぴくさせている。その時、小さく茂みを掻き分ける音がしたかと思うと、ビクビクした様子の子ぎつねが顔を出した。しかし、母親の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄る。
母ギツネはようやく兄弟から目を離すと、子ぎつねを気遣うように、耳をそっと舐めたそして、最後にもう一度兄弟を睨みつけると、子ぎつねを連れて去って行った。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第24章】6
下から聞こえてた溜め息にネージュムーンは問い掛ける。
「ムーンルキス、大丈夫?」
「ああ。ネージュムーンこそ噛まれた所、大丈夫か?」
「大丈夫そう。そこまで酷くないから、このまま進めるよ。」
ネージュムーンはそう言って、噛まれた前足を何度か舐めた。ムーンルキスは辺りの気配を伺う。そして、音を立てずに地面に飛び降りると、周囲の匂いを嗅ぎ、キツネが去ったことを確認する。
ムーンルキスが合図し、ネージュムーンも枝から飛び降りた。2匹がフルールスリートを迎え行くと、不安そうな表情が浮かんでいたフルールスリートの顔がパッと明るくなった。フルールスリートは枝から滑り降りる。
「さっさとここから離れるぞ。」
ムーンルキスの言葉に残りの2匹は頷き、速足で木立を進む。そのまま3匹は山の中に踏み込んだ。
先頭を歩いていたムーンルキスが心配そうにちらっと後ろを見る。一番後ろを歩いていたフルールスリートも後ろを振り返るが、ムーンルキスはキツネの心配をしていたわけではないようだ。フルールスリートには分からないが、ムーンルキスにはネージュムーンの脚がおかしいことが分かるのかもしれない。
「これだけ離れれば大丈夫だろう。」
ムーンルキスはスピードを落とし、夜を明かせそうな茂みを探す。間もなく、3匹が一緒に入れる茂みが見つかった。
「私、狩りしてくる。」
フルールスリートはそう言って、疲れた脚を無理矢理動かし、獲物を捕らえに行く。ムーンルキスもネージュムーンに何かを言って、狩りに出て行った。
下から聞こえてた溜め息にネージュムーンは問い掛ける。
「ムーンルキス、大丈夫?」
「ああ。ネージュムーンこそ噛まれた所、大丈夫か?」
「大丈夫そう。そこまで酷くないから、このまま進めるよ。」
ネージュムーンはそう言って、噛まれた前足を何度か舐めた。ムーンルキスは辺りの気配を伺う。そして、音を立てずに地面に飛び降りると、周囲の匂いを嗅ぎ、キツネが去ったことを確認する。
ムーンルキスが合図し、ネージュムーンも枝から飛び降りた。2匹がフルールスリートを迎え行くと、不安そうな表情が浮かんでいたフルールスリートの顔がパッと明るくなった。フルールスリートは枝から滑り降りる。
「さっさとここから離れるぞ。」
ムーンルキスの言葉に残りの2匹は頷き、速足で木立を進む。そのまま3匹は山の中に踏み込んだ。
先頭を歩いていたムーンルキスが心配そうにちらっと後ろを見る。一番後ろを歩いていたフルールスリートも後ろを振り返るが、ムーンルキスはキツネの心配をしていたわけではないようだ。フルールスリートには分からないが、ムーンルキスにはネージュムーンの脚がおかしいことが分かるのかもしれない。
「これだけ離れれば大丈夫だろう。」
ムーンルキスはスピードを落とし、夜を明かせそうな茂みを探す。間もなく、3匹が一緒に入れる茂みが見つかった。
「私、狩りしてくる。」
フルールスリートはそう言って、疲れた脚を無理矢理動かし、獲物を捕らえに行く。ムーンルキスもネージュムーンに何かを言って、狩りに出て行った。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第24章】7
フルールスリートはネズミとハトをくわえて茂みに戻る。
「おかえり。」
ネージュムーンが前足を舐めるのを止めて言った。
「足、大丈夫?」
「心配しなくて大丈夫だよ。なんともないから。」
ネージュムーンはそう言って、フルールスリートを安心させるかのように微笑み、さりげなく前足をしっぽで隠した。フルールスリートは少し不安だったが、気持ちを切り替えるように尋ねる。
「ネズミ、食べる?」
「ありがとう。」
ネージュムーンはそう言って、フルールスリートからネズミを受け取った。
「ムーンルキスは───」
フルールスリートが呟きかけた時、茂みを掻き分けてムーンルキスが帰って来た。
「辺りに危険な匂いはなかった。多分大丈夫だろう。」
ムーンルキスは茂みに入るなりそう言うと、お帰り、と声を掛けてきたネージュムーンに向けて軽くしっぽを振る。
「ごめんなさい、私も確認しに行けばよかったわ。」
フルールスリートが少し申し訳なさそうに言うと、ムーンルキスは首を振る。
「いや、いいんだ。ネージュムーンを長い間一匹にしておきたくなかった。」
ムーンルキスはそう言いながら、くわえていたネズミの中から太ったミズハタネズミを選ぶと、ネージュムーンに放った。
「だから、僕は大丈夫だって言ってるでしょ。」
ネージュムーンは不服そうにしながらも、空中でパクッとネズミを受け取ると、兄に礼を言う。
葉と葉の隙間から僅かに見える空には星が輝いていた。
フルールスリートはネズミとハトをくわえて茂みに戻る。
「おかえり。」
ネージュムーンが前足を舐めるのを止めて言った。
「足、大丈夫?」
「心配しなくて大丈夫だよ。なんともないから。」
ネージュムーンはそう言って、フルールスリートを安心させるかのように微笑み、さりげなく前足をしっぽで隠した。フルールスリートは少し不安だったが、気持ちを切り替えるように尋ねる。
「ネズミ、食べる?」
「ありがとう。」
ネージュムーンはそう言って、フルールスリートからネズミを受け取った。
「ムーンルキスは───」
フルールスリートが呟きかけた時、茂みを掻き分けてムーンルキスが帰って来た。
「辺りに危険な匂いはなかった。多分大丈夫だろう。」
ムーンルキスは茂みに入るなりそう言うと、お帰り、と声を掛けてきたネージュムーンに向けて軽くしっぽを振る。
「ごめんなさい、私も確認しに行けばよかったわ。」
フルールスリートが少し申し訳なさそうに言うと、ムーンルキスは首を振る。
「いや、いいんだ。ネージュムーンを長い間一匹にしておきたくなかった。」
ムーンルキスはそう言いながら、くわえていたネズミの中から太ったミズハタネズミを選ぶと、ネージュムーンに放った。
「だから、僕は大丈夫だって言ってるでしょ。」
ネージュムーンは不服そうにしながらも、空中でパクッとネズミを受け取ると、兄に礼を言う。
葉と葉の隙間から僅かに見える空には星が輝いていた。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
第5部
【第25章】1
フルールスリートは何かを探しながら、暗い森の中を歩いている。不思議と恐怖はなかったが、何も見つからないことに不安を感じた。
(私は何を探してるの...思い出せない...それとも、何も探していないのかしら?)
ふと何かが立ち上がった気配を感じて、フルールスリートは身体を起こした。少し前まで見ていた夢は全く覚えていなかった。日が昇ったばかりでまだ薄暗い周囲は、静かな雨音で満ちている。
葉が密に生えている茂みのおかげで、降り込んでくる雨粒は少ないが、一晩の間で毛皮が濡れてしまっている。キツネが戻って来ていないか辺りを嗅いでいると、フルールスリートは自分の体に触れているネージュムーンの体温が不自然に高いことに気が付いた。急いでネージュムーンの鼻に自分の鼻を押し付けると、熱を帯びているのがわかる。
「ムーンルキス...」
どうすればいいか分からず呼び掛けると、ネージュムーンの前足の怪我を舐めていたムーンルキスが、もどかしげな顔を上げた。
「多分、昨日噛まれた前足から菌が入り込んだんだ。この雨のせいで熱も出ている。」
ムーンルキスはそう言って、恨めしげに空を見上げた。葉の隙間から見える薄暗い空からは、細かな雨粒が降り注いでいる。
「どうすればいいの?」
フルールスリートはそわそわと足で地面を踏みしめながらムーンルキスに尋ねた。ムーンルキスは一瞬迷ってからフルールスリートの目を見返す。
「フルールスリートはネージュムーンの身体を乾かしてくれるか?その間に俺は使えそうな薬草を探してくる。」
フルールスリートが頷いたのを確認して、ムーンルキスは茂みを掻き分けて出て行った。
【第25章】1
フルールスリートは何かを探しながら、暗い森の中を歩いている。不思議と恐怖はなかったが、何も見つからないことに不安を感じた。
(私は何を探してるの...思い出せない...それとも、何も探していないのかしら?)
ふと何かが立ち上がった気配を感じて、フルールスリートは身体を起こした。少し前まで見ていた夢は全く覚えていなかった。日が昇ったばかりでまだ薄暗い周囲は、静かな雨音で満ちている。
葉が密に生えている茂みのおかげで、降り込んでくる雨粒は少ないが、一晩の間で毛皮が濡れてしまっている。キツネが戻って来ていないか辺りを嗅いでいると、フルールスリートは自分の体に触れているネージュムーンの体温が不自然に高いことに気が付いた。急いでネージュムーンの鼻に自分の鼻を押し付けると、熱を帯びているのがわかる。
「ムーンルキス...」
どうすればいいか分からず呼び掛けると、ネージュムーンの前足の怪我を舐めていたムーンルキスが、もどかしげな顔を上げた。
「多分、昨日噛まれた前足から菌が入り込んだんだ。この雨のせいで熱も出ている。」
ムーンルキスはそう言って、恨めしげに空を見上げた。葉の隙間から見える薄暗い空からは、細かな雨粒が降り注いでいる。
「どうすればいいの?」
フルールスリートはそわそわと足で地面を踏みしめながらムーンルキスに尋ねた。ムーンルキスは一瞬迷ってからフルールスリートの目を見返す。
「フルールスリートはネージュムーンの身体を乾かしてくれるか?その間に俺は使えそうな薬草を探してくる。」
フルールスリートが頷いたのを確認して、ムーンルキスは茂みを掻き分けて出て行った。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第25章】2
ネージュムーンの薄茶色の毛皮についた雫を舐めて落としていると、急激に雨音が強まったように感じた。ネージュムーンは荒い呼吸をしている。いつも優しく、頼りになるネージュムーンが弱っているのを見ると、フルールスリートは心細くてたまらなくなった。
「ムーンルキス、早く帰って来て...」
小さく呟いた声が聞こえたかのように、ムーンルキスが帰って来た。何種類か薬草をくわえている。
「それでネージュムーンの病気治る?」
問い掛けるフルールスリートから、ムーンルキスは目を逸らした。
「どの薬草を使えばいいのか自信が無いんだ...怪我や病気に詳しいのはネージュムーンの方だったから。」
薬草をネージュムーンの傍に置き、弟の匂いをそっと嗅ぐ。そして、一種類の薬草を選び取ると、よく噛んでからネージュムーンの前足の傷につけた。
「これはマリーゴールドだ。切り傷や噛み傷に最も効く。しかし、発熱に何が効くか...ルリチシャのような気もするが、チャービルだった気もするんだ...」
フルールスリートに説明しながら、ムーンルキスは前足で残りの薬草をつついていた。フルールスリートもためらいがちに薬草の匂いを嗅ぐが、全くわからない。その時、ネージュムーンが微かに身動きした。薄く目を開き、焦点の合わない目で兄を見ると、掠れた声を出す。
「ムーンルキス...発熱にはルリチシャの方がいい...」
「ネージュムーン!!!」
思わず立ち上がってしまったフルールスリートとは異なり、ムーンルキスは冷静に頷くと、弟の前にルリチシャを落とした。ネージュムーンはのろのろと頭を起こし、1枚の葉を噛んで飲み込む。そのまま大きく溜め息をつきながら頭を下ろすと、再び目を閉じた。
「ゆっくり休め。」
ムーンルキスは弟の耳の近くでそっと囁き、ネージュムーンは感謝の印にぴくりと耳を動かした。
雨は小降りになってきたようだ。
ネージュムーンの薄茶色の毛皮についた雫を舐めて落としていると、急激に雨音が強まったように感じた。ネージュムーンは荒い呼吸をしている。いつも優しく、頼りになるネージュムーンが弱っているのを見ると、フルールスリートは心細くてたまらなくなった。
「ムーンルキス、早く帰って来て...」
小さく呟いた声が聞こえたかのように、ムーンルキスが帰って来た。何種類か薬草をくわえている。
「それでネージュムーンの病気治る?」
問い掛けるフルールスリートから、ムーンルキスは目を逸らした。
「どの薬草を使えばいいのか自信が無いんだ...怪我や病気に詳しいのはネージュムーンの方だったから。」
薬草をネージュムーンの傍に置き、弟の匂いをそっと嗅ぐ。そして、一種類の薬草を選び取ると、よく噛んでからネージュムーンの前足の傷につけた。
「これはマリーゴールドだ。切り傷や噛み傷に最も効く。しかし、発熱に何が効くか...ルリチシャのような気もするが、チャービルだった気もするんだ...」
フルールスリートに説明しながら、ムーンルキスは前足で残りの薬草をつついていた。フルールスリートもためらいがちに薬草の匂いを嗅ぐが、全くわからない。その時、ネージュムーンが微かに身動きした。薄く目を開き、焦点の合わない目で兄を見ると、掠れた声を出す。
「ムーンルキス...発熱にはルリチシャの方がいい...」
「ネージュムーン!!!」
思わず立ち上がってしまったフルールスリートとは異なり、ムーンルキスは冷静に頷くと、弟の前にルリチシャを落とした。ネージュムーンはのろのろと頭を起こし、1枚の葉を噛んで飲み込む。そのまま大きく溜め息をつきながら頭を下ろすと、再び目を閉じた。
「ゆっくり休め。」
ムーンルキスは弟の耳の近くでそっと囁き、ネージュムーンは感謝の印にぴくりと耳を動かした。
雨は小降りになってきたようだ。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第26章】1
小鳥がさえずる声が聞こえる。
ネージュムーンはゆっくりと目を開け、重い頭を起こした。茂みの葉と葉の隙間から差し込む朝日が、自分の隣で眠っているムーンルキスとフルールスリートを優しく照らしている。
一晩眠ったにも関わらず未だぼんやりしている頭で、まだ熱があることを理解したネージュムーンは、近くに置いてあったルリチシャを頬張り、苦味に顔をしかめる。苦味を払い落とすかのように頭を振ったが、これだけの動作で疲れを感じ、ネージュムーンは自分の体力が落ちていることを腹立たしく思った。
昨日狩ったのであろうハタネズミが残っていたが、食欲が湧かず、ネージュムーンはそのまま目を閉じた。
ムーンルキスはネージュムーンが目を覚ましたのを敏感に感じ取り、そっと薄目を開けたが、弟に余計な気を使わせたくなかったので、そのまま動かなかった。
しばらくすると、ネージュムーンの寝息が聞こえてきた。ムーンルキスは欠伸をしながら身体を起こす。昨日降り続いていた雨で辺りは薄い朝靄に包まれているが、日が昇り始めた今、すぐ消えてしまうだろう。
ムーンルキスは茂みの周りを1周しながら、周囲に危険がないことを確認し、身体を大きく振った。毛繕いを始めてしばらく経った頃、フルールスリートが静かに茂みから出てきた。
「おはよう、ムーンルキス。」
「おはよう。」
ネージュムーンを起こさなように小声で挨拶をし、互いにグルーミングをする。
小鳥がさえずる声が聞こえる。
ネージュムーンはゆっくりと目を開け、重い頭を起こした。茂みの葉と葉の隙間から差し込む朝日が、自分の隣で眠っているムーンルキスとフルールスリートを優しく照らしている。
一晩眠ったにも関わらず未だぼんやりしている頭で、まだ熱があることを理解したネージュムーンは、近くに置いてあったルリチシャを頬張り、苦味に顔をしかめる。苦味を払い落とすかのように頭を振ったが、これだけの動作で疲れを感じ、ネージュムーンは自分の体力が落ちていることを腹立たしく思った。
昨日狩ったのであろうハタネズミが残っていたが、食欲が湧かず、ネージュムーンはそのまま目を閉じた。
ムーンルキスはネージュムーンが目を覚ましたのを敏感に感じ取り、そっと薄目を開けたが、弟に余計な気を使わせたくなかったので、そのまま動かなかった。
しばらくすると、ネージュムーンの寝息が聞こえてきた。ムーンルキスは欠伸をしながら身体を起こす。昨日降り続いていた雨で辺りは薄い朝靄に包まれているが、日が昇り始めた今、すぐ消えてしまうだろう。
ムーンルキスは茂みの周りを1周しながら、周囲に危険がないことを確認し、身体を大きく振った。毛繕いを始めてしばらく経った頃、フルールスリートが静かに茂みから出てきた。
「おはよう、ムーンルキス。」
「おはよう。」
ネージュムーンを起こさなように小声で挨拶をし、互いにグルーミングをする。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第26章】2
身体も温まってきた頃、獲物の気配を感じ、2匹はそっと目を交した。そっと身を屈めて前進すると、新芽をかじっている大きなウサギが見えた。ムーンルキスが耳を動かしたのを合図に、2匹は二手に別れてウサギに忍び寄る。
フルールスリートが茂みの影に隠れながら近付いていると、ふとウサギが動きを止めて辺りを見回した。フルールスリートは地面にピタリと伏せる。
少し経ち、ウサギが再び葉をかじり始めたのを見て、フルールスリートはさっと前に飛び出した。ウサギを挟んだ反対側からムーンルキスも飛び出す。2匹を見て一瞬恐怖に固まったウサギは、次の瞬間駆け出したが、フルールスリートの方が早かった。
フルールスリートが後脚に噛み付いて動きを止めると、ムーンルキスがさっととどめをさした。2匹は顔を見合わせて、喜びで目を輝かせる。
「大成功ね!!!すごく立派なウサギ!」
「ああ!フルールスリートの足が早いおかげだな。」
ムーンルキスがフルールスリートを褒める。
「そんなことないわ。」
フルールスリートはそう言ったものの、嬉しそうに微笑んだ。2匹がネズミ数匹と大きなウサギをくわえて茂みに戻る頃には、靄は完全に晴れていた。
身体も温まってきた頃、獲物の気配を感じ、2匹はそっと目を交した。そっと身を屈めて前進すると、新芽をかじっている大きなウサギが見えた。ムーンルキスが耳を動かしたのを合図に、2匹は二手に別れてウサギに忍び寄る。
フルールスリートが茂みの影に隠れながら近付いていると、ふとウサギが動きを止めて辺りを見回した。フルールスリートは地面にピタリと伏せる。
少し経ち、ウサギが再び葉をかじり始めたのを見て、フルールスリートはさっと前に飛び出した。ウサギを挟んだ反対側からムーンルキスも飛び出す。2匹を見て一瞬恐怖に固まったウサギは、次の瞬間駆け出したが、フルールスリートの方が早かった。
フルールスリートが後脚に噛み付いて動きを止めると、ムーンルキスがさっととどめをさした。2匹は顔を見合わせて、喜びで目を輝かせる。
「大成功ね!!!すごく立派なウサギ!」
「ああ!フルールスリートの足が早いおかげだな。」
ムーンルキスがフルールスリートを褒める。
「そんなことないわ。」
フルールスリートはそう言ったものの、嬉しそうに微笑んだ。2匹がネズミ数匹と大きなウサギをくわえて茂みに戻る頃には、靄は完全に晴れていた。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第26章】3
ムーンルキスがウサギをくわえてそっと茂みに入ると、ネージュムーンが朝と変わらない姿勢で眠っていた。ムーンルキスは獲物を落とすと、毛繕いを始める。胸の毛を念入りに舐めていると、ネージュムーンが鼻を動かし、ゆっくり目を開くと、何度か目を瞬かせた。
「気分はどうだ?」
「大分よくなったよ。まだ熱が下がってない気がするけど。」
ネージュムーンはそう答え、心配そうに見つめてくるフルールスリートに健気に微笑んで見せた。
「ルリチシャ食べる?」
フルールスリートはそう言って、採ってきたばかりの薬草をネージュムーンに見せる。それを見たネージュムーンは、ほっとしたように頷く。
「もらっていい?」
ネージュムーンはフルールスリートに感謝を述べ、薬草を口に入れた。苦い、と顔をしかめてルリチシャを食べる弟に、ムーンルキスが心配そうに尋ねる。
「食欲はあるか?」
「ないけど、ちょっと食べておくよ。栄養を取らないと治らないから。」
ネージュムーンはそう答えると、ネズミを鼻先でつついた。なかなか食べる気にならかったが、早く治すためには食べて休むことが重要だ、とネージュムーンは自分に言い聞かせ、獲物を一口かじった。その様子を見て安心したのか、ムーンルキスとフルールスリートもウサギを食べ始める。
ネズミを半分食べた所で急に睡魔が襲ってきたネージュムーンは、大きく欠伸をする。もう限界のようだ。まだ日が照っているのに眠るのは少し不思議な気がしたが、眠気には逆らえず、ネージュムーンは目を閉じた。
ムーンルキスがウサギをくわえてそっと茂みに入ると、ネージュムーンが朝と変わらない姿勢で眠っていた。ムーンルキスは獲物を落とすと、毛繕いを始める。胸の毛を念入りに舐めていると、ネージュムーンが鼻を動かし、ゆっくり目を開くと、何度か目を瞬かせた。
「気分はどうだ?」
「大分よくなったよ。まだ熱が下がってない気がするけど。」
ネージュムーンはそう答え、心配そうに見つめてくるフルールスリートに健気に微笑んで見せた。
「ルリチシャ食べる?」
フルールスリートはそう言って、採ってきたばかりの薬草をネージュムーンに見せる。それを見たネージュムーンは、ほっとしたように頷く。
「もらっていい?」
ネージュムーンはフルールスリートに感謝を述べ、薬草を口に入れた。苦い、と顔をしかめてルリチシャを食べる弟に、ムーンルキスが心配そうに尋ねる。
「食欲はあるか?」
「ないけど、ちょっと食べておくよ。栄養を取らないと治らないから。」
ネージュムーンはそう答えると、ネズミを鼻先でつついた。なかなか食べる気にならかったが、早く治すためには食べて休むことが重要だ、とネージュムーンは自分に言い聞かせ、獲物を一口かじった。その様子を見て安心したのか、ムーンルキスとフルールスリートもウサギを食べ始める。
ネズミを半分食べた所で急に睡魔が襲ってきたネージュムーンは、大きく欠伸をする。もう限界のようだ。まだ日が照っているのに眠るのは少し不思議な気がしたが、眠気には逆らえず、ネージュムーンは目を閉じた。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第27章】
数日休むと、ネージュムーンは元のように動けるようになった。
「心配かけてごめん!」
「本当にもう大丈夫なの?無理しないでね!」
「薬草に一番詳しいネージュムーンが病気になるなんて、らしくないな。」
まだ不安そうなフルールスリートと、口ではそう言いながらも色々気を使ってくれたムーンルキスに、大丈夫、と繰り返す。そして、軽く走りながら、早く行こう、と呼び掛ける。
「ムーンルキスもフルールスリートも、僕が寝ている間に走れなくなった?」
そう冗談めかして言うと、フルールスリートがぱっと走ってネージュムーンの隣に並ぶ。2匹が並んで駆ける様子を見て、ムーンルキスは思わず呟く。
「走る必要あるか...?」
「何か言った?」
ムーンルキスの呟いた言葉に、ネージュムーンがわざと聞こえないふりをして尋ねる。それを聞いて、ムーンルキスは苦笑しながら頭をぶるっと振ると、2匹に向かって走り出す。
「ネージュムーンこそ、寝てる間に体力落ちただろ!」
ムーンルキスはそう笑いながらいい、走っていた2匹を追い越して一番前に出る。
「ムーンルキスってば、本当のこと言わないでよ...」
ネージュムーンが少し情けない声を出し、フルールスリートは思わず吹き出した。
「今日はこの辺りで寝よう。」
ムーンルキスがいつもより少し早く立ち止まり、フルールスリートもそれに賛同する。ネージュムーンも黙って頷くと、獲物を探して下生えの中に消えて行った。地面はだんだん急になっている。山頂が近付いているのかもしれない、とフルールスリートは思ったが、今は狩りに集中することにした。
数日休むと、ネージュムーンは元のように動けるようになった。
「心配かけてごめん!」
「本当にもう大丈夫なの?無理しないでね!」
「薬草に一番詳しいネージュムーンが病気になるなんて、らしくないな。」
まだ不安そうなフルールスリートと、口ではそう言いながらも色々気を使ってくれたムーンルキスに、大丈夫、と繰り返す。そして、軽く走りながら、早く行こう、と呼び掛ける。
「ムーンルキスもフルールスリートも、僕が寝ている間に走れなくなった?」
そう冗談めかして言うと、フルールスリートがぱっと走ってネージュムーンの隣に並ぶ。2匹が並んで駆ける様子を見て、ムーンルキスは思わず呟く。
「走る必要あるか...?」
「何か言った?」
ムーンルキスの呟いた言葉に、ネージュムーンがわざと聞こえないふりをして尋ねる。それを聞いて、ムーンルキスは苦笑しながら頭をぶるっと振ると、2匹に向かって走り出す。
「ネージュムーンこそ、寝てる間に体力落ちただろ!」
ムーンルキスはそう笑いながらいい、走っていた2匹を追い越して一番前に出る。
「ムーンルキスってば、本当のこと言わないでよ...」
ネージュムーンが少し情けない声を出し、フルールスリートは思わず吹き出した。
「今日はこの辺りで寝よう。」
ムーンルキスがいつもより少し早く立ち止まり、フルールスリートもそれに賛同する。ネージュムーンも黙って頷くと、獲物を探して下生えの中に消えて行った。地面はだんだん急になっている。山頂が近付いているのかもしれない、とフルールスリートは思ったが、今は狩りに集中することにした。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第28章】1
暗い森の中を歩いていたフルールスリートは、少し先の地面に明るい光があるのを見つけた。フルールスリートは、はっと息を飲み、その光に駆け寄る。その光は、薄い紫色で縁取られた白い花だった。
(私、この花どこかで見たことある気がするわ...どこで...)
真上にあるはずの太陽の光は全く感じられず、弱い雨が降っている。一昨日の夕方から降り始めた雨は、降ったり止んだりを繰り返しながらまだ降り続けていた。
山を登り始めて3週間近く経ち、地面の勾配も険しい。もう少しで山頂だろう、という今になって、雨が降ることが多くなった。フルールスリートは不満げに空を見上げ、厚く葉が茂っている茂みに引き返した。
「この時期は雨がよく降るんだよ。」
戻って来たフルールスリートの表情を見て、ネージュムーンが苦笑した。
「でも、あと少しで山頂のはずよ!」
「不思議な花は逃げて行くわけじゃないんだから。」
うろうろと歩くフルールスリートに、ネージュムーンが欠伸をしながら言った。
「動けない時は、体力を温存するべきだ。」
朝から眠っていたはずのムーンルキスが目を開き、フルールスリートを諭す。
「もう眠り飽きたわ!ムーンルキスだってそうでしょ?」
フルールスリートはいたずらっぽい目をして、前足でムーンルキスをつついた。ムーンルキスはそんなフルールスリートには取り合わず、身体を起こして毛繕いを始める。フルールスリートはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、ネージュムーンの隣に腰を下ろし、ムーンルキスを見つめる。
暗い森の中を歩いていたフルールスリートは、少し先の地面に明るい光があるのを見つけた。フルールスリートは、はっと息を飲み、その光に駆け寄る。その光は、薄い紫色で縁取られた白い花だった。
(私、この花どこかで見たことある気がするわ...どこで...)
真上にあるはずの太陽の光は全く感じられず、弱い雨が降っている。一昨日の夕方から降り始めた雨は、降ったり止んだりを繰り返しながらまだ降り続けていた。
山を登り始めて3週間近く経ち、地面の勾配も険しい。もう少しで山頂だろう、という今になって、雨が降ることが多くなった。フルールスリートは不満げに空を見上げ、厚く葉が茂っている茂みに引き返した。
「この時期は雨がよく降るんだよ。」
戻って来たフルールスリートの表情を見て、ネージュムーンが苦笑した。
「でも、あと少しで山頂のはずよ!」
「不思議な花は逃げて行くわけじゃないんだから。」
うろうろと歩くフルールスリートに、ネージュムーンが欠伸をしながら言った。
「動けない時は、体力を温存するべきだ。」
朝から眠っていたはずのムーンルキスが目を開き、フルールスリートを諭す。
「もう眠り飽きたわ!ムーンルキスだってそうでしょ?」
フルールスリートはいたずらっぽい目をして、前足でムーンルキスをつついた。ムーンルキスはそんなフルールスリートには取り合わず、身体を起こして毛繕いを始める。フルールスリートはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、ネージュムーンの隣に腰を下ろし、ムーンルキスを見つめる。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第28章】2
「雨で先に進めないし、ムーンルキスはつれないし、つまんないよね!」
ネージュムーンが大きな声でフルールスリートに話し掛ける。ムーンルキスは一瞬胸の毛を舐めるのを止めるが、すぐに何事もなかったように毛繕いを再開した。
「うん。ムーンルキス、つれないね!」
フルールスリートはそう言いながら、ムーンルキスに一歩近付く。
「ムーンルキスだって暇なはずなのに」
ネージュムーンもそう言って、兄に一歩近付き、顔を覗き込む。ムーンルキスは諦めたように溜め息をついた。
「お前ら絶対わざとやってるだろ...」
「そんなことないよ?ねぇ?」
「ね!」
ネージュムーンとフルールスリートは笑いを堪えて顔を見合わせる。ムーンルキスは苦笑すると、座り直した。
「何がしたいんだ?」
「私、ネージュムーンとムーンルキスのお父さんの話聞きたい!!!」
フルールスリートがリクエストする。
「僕達の?」
フルールスリートはこっくり頷く。
「ネージュムーン達のお父さんも旅猫だったのよね?」
「ああ。父さんの行った場所か...」
ムーンルキスは僅かに目を細め、記憶を思い返しているようだ。ネージュムーンも少し考えてから、さっとしっぽを振る。
「フルールスリート、砂漠って聞いたことある?」
「砂漠?───」
「雨で先に進めないし、ムーンルキスはつれないし、つまんないよね!」
ネージュムーンが大きな声でフルールスリートに話し掛ける。ムーンルキスは一瞬胸の毛を舐めるのを止めるが、すぐに何事もなかったように毛繕いを再開した。
「うん。ムーンルキス、つれないね!」
フルールスリートはそう言いながら、ムーンルキスに一歩近付く。
「ムーンルキスだって暇なはずなのに」
ネージュムーンもそう言って、兄に一歩近付き、顔を覗き込む。ムーンルキスは諦めたように溜め息をついた。
「お前ら絶対わざとやってるだろ...」
「そんなことないよ?ねぇ?」
「ね!」
ネージュムーンとフルールスリートは笑いを堪えて顔を見合わせる。ムーンルキスは苦笑すると、座り直した。
「何がしたいんだ?」
「私、ネージュムーンとムーンルキスのお父さんの話聞きたい!!!」
フルールスリートがリクエストする。
「僕達の?」
フルールスリートはこっくり頷く。
「ネージュムーン達のお父さんも旅猫だったのよね?」
「ああ。父さんの行った場所か...」
ムーンルキスは僅かに目を細め、記憶を思い返しているようだ。ネージュムーンも少し考えてから、さっとしっぽを振る。
「フルールスリート、砂漠って聞いたことある?」
「砂漠?───」
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第28章】3
「そういえば、フルールスリート、まだ何も思い出せないか?」
話が一段落したムーンルキスがふと思い付いたように尋ねると、フルールスリートは頭を傾けた。
「言われてみれば、今日の昼にちょっと不思議な夢を見た気がするの...でも、眠りが浅かったせいだと思うわ。朝起きてもう一度寝た後に見た夢だったもの。」
「不思議な夢ってどんな夢?」
ネージュムーンが尋ねる。
「よく覚えてないわ。」
フルールスリートは耳をぴくりと動かし、残念そうに答えた。ムーンルキスは慰めるように小さく鳴く。その時、ネージュムーンが立ち上がり、茂みの外を覗いた。
「雨止んだよ!」
ネージュムーンの嬉しそうな声が響く。その声を聞き、ムーンルキスとフルールスリートもぱっと立ち上がった。
「やっとか!」
ムーンルキスは茂みから出ると、思い切り伸びをし、身体をぶるっと振った。フルールスリートも新鮮な空気の香りを嗅ぎながら伸びをした。
「あと少しだよ!」
ネージュムーンはすぐ近くに見えるようになった山頂をしっぽで示した。
頭上に広がる木々の葉に光る露が眩しい光に照らされて輝いた。
「そういえば、フルールスリート、まだ何も思い出せないか?」
話が一段落したムーンルキスがふと思い付いたように尋ねると、フルールスリートは頭を傾けた。
「言われてみれば、今日の昼にちょっと不思議な夢を見た気がするの...でも、眠りが浅かったせいだと思うわ。朝起きてもう一度寝た後に見た夢だったもの。」
「不思議な夢ってどんな夢?」
ネージュムーンが尋ねる。
「よく覚えてないわ。」
フルールスリートは耳をぴくりと動かし、残念そうに答えた。ムーンルキスは慰めるように小さく鳴く。その時、ネージュムーンが立ち上がり、茂みの外を覗いた。
「雨止んだよ!」
ネージュムーンの嬉しそうな声が響く。その声を聞き、ムーンルキスとフルールスリートもぱっと立ち上がった。
「やっとか!」
ムーンルキスは茂みから出ると、思い切り伸びをし、身体をぶるっと振った。フルールスリートも新鮮な空気の香りを嗅ぎながら伸びをした。
「あと少しだよ!」
ネージュムーンはすぐ近くに見えるようになった山頂をしっぽで示した。
頭上に広がる木々の葉に光る露が眩しい光に照らされて輝いた。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第29章】
夕日が沈みかけている。
普段寝床を探している時間にも関わらず、3匹は早足で進んでいた。
「日が沈むまでに山頂に着くかと思ってたけど...どうする?今日はもう休む?」
先頭のネージュムーンが脚を動かし続けながら後ろの2匹に尋ねる。
「ネージュムーンとムーンルキスさえよければ、私はこのまま山頂まで行きたいわ。」
フルールスリートが疲れを見せず、しっぽを軽く振ってみせた。
「俺はそれで構わない。」
「僕ももちろんいいよ。山頂からの日の出、絶対綺麗だよね!」
ムーンルキスは軽く頷き、ネージュムーンは嬉しそうに声を弾ませた。
太陽は地平線の彼方に沈み、木々の隙間から覗く空には星が輝き始めている。空には僅かに欠けた月が見え隠れしていた。
「ネージュムーン?」
急に立ち止まったネージュムーンの後ろでフルールスリートは首を傾げる。しばらく耳をそばだてていたネージュムーンは前方をしっぽで示した。
「前から水の音が聞こえるんだ。」
「山頂ってこと?」
「かもな。」
ムーンルキスはそう言って、前足をさっと舐めた。気まぐれな風向きは既に変わり、水音はもう聞こえない。再び歩き始めたネージュムーンだったが、突然さっとしっぽを立てる。そして、2匹についてくるように合図すると、ぱっと駆け出した。
「山頂だ!!!」
その興奮した声に、フルールスリートとムーンルキスも顔を輝かせる。ネージュムーンに追い付いたフルールスリートは、そのまま走ってネージュムーンを追い越し、息を切らせながら木立から飛び出す。
木立を抜けた先には、満点の星空が広がっていた。思わず息を飲み、3匹は空を見上げた。風が優しく毛を揺らす。夜ではっきりとはわからないが、頂上は相当広いようだ。
その晩、3匹は星空の下で眠ることにした。
夕日が沈みかけている。
普段寝床を探している時間にも関わらず、3匹は早足で進んでいた。
「日が沈むまでに山頂に着くかと思ってたけど...どうする?今日はもう休む?」
先頭のネージュムーンが脚を動かし続けながら後ろの2匹に尋ねる。
「ネージュムーンとムーンルキスさえよければ、私はこのまま山頂まで行きたいわ。」
フルールスリートが疲れを見せず、しっぽを軽く振ってみせた。
「俺はそれで構わない。」
「僕ももちろんいいよ。山頂からの日の出、絶対綺麗だよね!」
ムーンルキスは軽く頷き、ネージュムーンは嬉しそうに声を弾ませた。
太陽は地平線の彼方に沈み、木々の隙間から覗く空には星が輝き始めている。空には僅かに欠けた月が見え隠れしていた。
「ネージュムーン?」
急に立ち止まったネージュムーンの後ろでフルールスリートは首を傾げる。しばらく耳をそばだてていたネージュムーンは前方をしっぽで示した。
「前から水の音が聞こえるんだ。」
「山頂ってこと?」
「かもな。」
ムーンルキスはそう言って、前足をさっと舐めた。気まぐれな風向きは既に変わり、水音はもう聞こえない。再び歩き始めたネージュムーンだったが、突然さっとしっぽを立てる。そして、2匹についてくるように合図すると、ぱっと駆け出した。
「山頂だ!!!」
その興奮した声に、フルールスリートとムーンルキスも顔を輝かせる。ネージュムーンに追い付いたフルールスリートは、そのまま走ってネージュムーンを追い越し、息を切らせながら木立から飛び出す。
木立を抜けた先には、満点の星空が広がっていた。思わず息を飲み、3匹は空を見上げた。風が優しく毛を揺らす。夜ではっきりとはわからないが、頂上は相当広いようだ。
その晩、3匹は星空の下で眠ることにした。
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第30章】1
東の空からは白い光が輝き始め、空には最後の星が弱々しく光っている。
目を覚ましたフルールスリートは、欠伸をしながら顔を上げて、思わず目を丸くした。あまりにも美しい景色に、一瞬言葉が出てこない。少し先に起きていたらしいムーンルキスとネージュムーンも、目の前の景色に見とれている。
「これって...?」
3匹が登っていた一際高い山の周りには、少し標高の低い山々があったはずだ。しかし、今は真っ白く、濃い霧のようなものが眼下一面に広がり、山々を覆っている。
「雲海じゃないか...?」
フルールスリートの問いにムーンルキスが小さく呟き、その言葉にネージュムーンも思い出したように頷く。
「確かに、父さんに聞いた通りだね...すごい幻想的...」
「ウンカイ、って...?」
フルールスリートが綺麗、と溜め息をつきながら尋ねた。
「山や盆地で早朝に発生する雲のことだ。」
「風があると雲は流されるから、雲海は珍しいんだ。」
ムーンルキスとネージュムーンは昔の記憶を辿って、フルールスリートに説明する。フルールスリートは左右を見回し、後ろを振り返った。どこを見ても山は雲海に囲まれている。
「海に浮かんでるみたい...」
その言葉にムーンルキスは何かがひっかかり、頭を働かせる。ふと頭にフィーユとクォーツが歌っていた歌の歌詞が浮かんできた。
♪星の雫の落ちる場所
永遠に枯れないその花は
誰に知られることもない
白い海に浮かぶ森
月の光に照らされて
水面で揺れる 一輪の花
東の空からは白い光が輝き始め、空には最後の星が弱々しく光っている。
目を覚ましたフルールスリートは、欠伸をしながら顔を上げて、思わず目を丸くした。あまりにも美しい景色に、一瞬言葉が出てこない。少し先に起きていたらしいムーンルキスとネージュムーンも、目の前の景色に見とれている。
「これって...?」
3匹が登っていた一際高い山の周りには、少し標高の低い山々があったはずだ。しかし、今は真っ白く、濃い霧のようなものが眼下一面に広がり、山々を覆っている。
「雲海じゃないか...?」
フルールスリートの問いにムーンルキスが小さく呟き、その言葉にネージュムーンも思い出したように頷く。
「確かに、父さんに聞いた通りだね...すごい幻想的...」
「ウンカイ、って...?」
フルールスリートが綺麗、と溜め息をつきながら尋ねた。
「山や盆地で早朝に発生する雲のことだ。」
「風があると雲は流されるから、雲海は珍しいんだ。」
ムーンルキスとネージュムーンは昔の記憶を辿って、フルールスリートに説明する。フルールスリートは左右を見回し、後ろを振り返った。どこを見ても山は雲海に囲まれている。
「海に浮かんでるみたい...」
その言葉にムーンルキスは何かがひっかかり、頭を働かせる。ふと頭にフィーユとクォーツが歌っていた歌の歌詞が浮かんできた。
♪星の雫の落ちる場所
永遠に枯れないその花は
誰に知られることもない
白い海に浮かぶ森
月の光に照らされて
水面で揺れる 一輪の花
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Re: Memory of Flower[完結]
【第30章】2
「海...それだ!!!あの歌にあった白い海は、雲海のことだ!」
ムーンルキスの言葉にフルールスリートとネージュムーンは一瞬戸惑ったが、すぐにその意味を理解し、目を輝かせた。
「すごいわ!ムーンルキス!!!」
「ということは、白い海に浮かぶ森って、この山ってことだよね!」
3匹は歌詞の謎がわかり、興奮して話し出す。
「フィーユの言っていた山である上に、歌詞の通りなんだ!そうに決まっているだろう!」
「不思議な花は絶対にこの山にあるのね!!!あとは、水面で揺れる花、だったから...」
「この頂上に来る直前に水の音が微かに聞こえてきたの覚えてる?多分、ここのどこかに水があるんだと思う!」
ネージュムーンはそう言って、広い山頂にある大きな窪地を見据える。そう言われてから、フルールスリートは3匹が寝ていた場所から少し離れた所が急な下り坂になっていることに、初めて気付いた。
3匹は坂道の縁へ向かう。大きな窪地の中には、山肌の森を切り取ってそのまま入れたかのような小さな森が収まっている。朝日を斜めに浴びて、きらきらと輝くその森の中に、不思議な花は咲いているはずだ。フルールスリートは興奮して身体を震わせる。
「行こう!」
ムーンルキスの言葉に頷き、3匹は一斉に坂道を駆け下りた。
窪地の底の森は、普段歩いている森と何の違いもないようだ。木々の青葉から零れる柔らかな光は、下生えを優しく照らしている。少し歩くだけで、辺りから獲物の動き回る気配を感じる。3匹の歩く音に気付いたのか、横の茂みからウサギが慌てて飛び出した。
1番後ろを歩いていたネージュムーンがウサギを追って下生えに飛び込む。その音に驚いて出て来たハタネズミを見逃さず、フルールスリートは一跳びでしとめた。後ろから聞こえてきた小さな悲鳴で、ムーンルキスもネズミを捕らえたことを知る。
ハタネズミをくわえるフルールスリートに、ムーンルキスは、よくやった、というように喉を鳴らした。フルールスリートはしっぽを振ってそれに応えると、下生えからウサギをくわえて帰ってきたネージュムーンを振り返る。
「さすがね!ネージュムーン!!!」
「ありがとう、フルールスリート。」
「さぁ、食事にしよう。」
「海...それだ!!!あの歌にあった白い海は、雲海のことだ!」
ムーンルキスの言葉にフルールスリートとネージュムーンは一瞬戸惑ったが、すぐにその意味を理解し、目を輝かせた。
「すごいわ!ムーンルキス!!!」
「ということは、白い海に浮かぶ森って、この山ってことだよね!」
3匹は歌詞の謎がわかり、興奮して話し出す。
「フィーユの言っていた山である上に、歌詞の通りなんだ!そうに決まっているだろう!」
「不思議な花は絶対にこの山にあるのね!!!あとは、水面で揺れる花、だったから...」
「この頂上に来る直前に水の音が微かに聞こえてきたの覚えてる?多分、ここのどこかに水があるんだと思う!」
ネージュムーンはそう言って、広い山頂にある大きな窪地を見据える。そう言われてから、フルールスリートは3匹が寝ていた場所から少し離れた所が急な下り坂になっていることに、初めて気付いた。
3匹は坂道の縁へ向かう。大きな窪地の中には、山肌の森を切り取ってそのまま入れたかのような小さな森が収まっている。朝日を斜めに浴びて、きらきらと輝くその森の中に、不思議な花は咲いているはずだ。フルールスリートは興奮して身体を震わせる。
「行こう!」
ムーンルキスの言葉に頷き、3匹は一斉に坂道を駆け下りた。
窪地の底の森は、普段歩いている森と何の違いもないようだ。木々の青葉から零れる柔らかな光は、下生えを優しく照らしている。少し歩くだけで、辺りから獲物の動き回る気配を感じる。3匹の歩く音に気付いたのか、横の茂みからウサギが慌てて飛び出した。
1番後ろを歩いていたネージュムーンがウサギを追って下生えに飛び込む。その音に驚いて出て来たハタネズミを見逃さず、フルールスリートは一跳びでしとめた。後ろから聞こえてきた小さな悲鳴で、ムーンルキスもネズミを捕らえたことを知る。
ハタネズミをくわえるフルールスリートに、ムーンルキスは、よくやった、というように喉を鳴らした。フルールスリートはしっぽを振ってそれに応えると、下生えからウサギをくわえて帰ってきたネージュムーンを振り返る。
「さすがね!ネージュムーン!!!」
「ありがとう、フルールスリート。」
「さぁ、食事にしよう。」
アイルステラ- 副長
- 投稿数 : 247
Join date : 2018/12/27
Page 5 of 6 • 1, 2, 3, 4, 5, 6
WARRIORS BBS :: 小説投稿フォーラム :: 完全オリジナル猫小説
Page 5 of 6
Permissions in this forum:
返信投稿: 可
|
|