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Memory of Flower[完結]

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投稿 by アイルステラ Mon Mar 02, 2020 11:03 am

【第12章】3

 大きな庭のある家の前を通り抜けた時、ネージュムーンが急停止した。

「ムーンルキス!!!前からも来る!!!」

「嘘だろ!?」

ムーンルキスは地面を引っ掻くようにして止まり、元来た方向に走り出した。そして、キツネ2匹分ほど戻って少し前に通り過ぎた大きな庭に駆け込む。

噴水のすぐ隣に生えている大きな木を目指して走っていると、その陰からむくりと大きな白い犬が起き上がった。

「冗談だろ!?ここは犬の密集地帯かよ!!!」

白い犬は歯を剥き出して唸った。3匹は白い犬から目を離さず、ゆっくり後ろに下がる。しかし、2匹の犬の鳴き声が後ろから近づいて来るのを聞いて、絶望的な表情で顔を見合わせた。

ムーンルキスは白い犬を睨みつけてかぎ爪を剥き出す。フルールスリートを挟んで左側にいるネージュムーンは、庭に入って来た2匹の犬の方向にぱっと身構えた。犬達は3匹を見据えながらゆっくりと近づいて来る。

白い犬がぱっと飛び掛かってきた。ムーンルキスは短く警告の鳴き声を発しながら、脇に飛び退く。通り過ぎる犬の脇腹を引っ掻いたが、爪に引っ掛かったのは白くて長い犬の毛だけだった。

ムーンルキスの警告の声に別の犬と向かい合っていたネージュムーンもなんとか攻撃をかわす。しかし、フルールスリートの飛び退いた先には茶色の中型犬が待ち構えていた。茶色い犬は、勝ち誇った声で吠え、フルールスリートの後ろ脚に噛み付いた。

フルールスリートは悲鳴をあげ、必死に抵抗する。

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投稿 by アイルステラ Mon Mar 02, 2020 11:04 am

【第12章】4

「フルールスリート!!!」

兄弟は同時に茶色い犬に飛び掛かった。あまりの勢いに、中型犬はフルールスリートを離して後ずさる。フルールスリートは脚を引きずりながら兄弟の後ろに隠れた。

中型犬は血のついた鼻面をさっとなめた。他の2匹の犬もフルールスリートの血の匂いを嗅ぎ、興奮して吠え立てている。ムーンルキスは焦りを必死に押さえ込んで左右を見渡し、白い柵に目をつけた。

「フルールスリート、ネージュムーン、よく聞け。俺から見て左側の白い柵を越えられたら道路に戻れるはずだ。俺が合図したら、そこまで走れ。フルールスリート、着いたら迷わず柵に登れ。いいな?」

「わ、わかった...」

「うん。」

フルールスリートは震える声で、ネージュムーンは真剣に答えた。

「今だ!!!」

白い犬が吠えた瞬間、ムーンルキスは叫んだ。兄弟は柵に向かって脚を引きずりながら走るフルールスリートの後ろを追う。フルールスリートの後ろには点々と血のあとがつく。犬達は互いにいがみ合っていて、走るスピードが遅くなっている。

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投稿 by アイルステラ Tue Mar 03, 2020 11:33 am

【第12章】5

 フルールスリートは柵にたどり着くと、息を整える暇も無く柵を登り始めた。しかし、柵は思ったより高く、表面はつるつるしている。

「無理よ!高すぎる!!!」

柵から滑り落ちたフルールスリートが泣きそうな声で言った。フルールスリートの脚からは血が流れ続けている。

「諦めるな!俺が押し上げる!登れ!!!」

ムーンルキスは叫んでフルールスリートを力強くつついた。ネージュムーンは柵より少し離れた所で犬達を睨みつけている。フルールスリートはもう一度登り始めた。ムーンルキスは能力を使って風を起こし、フルールスリートを支える。

「ムーンルキス!!!」

呼び掛けられて、ムーンルキスはちらっとネージュムーンを見た。弟は、犬から目を離さず、しっぽをぴんと立てている。

「そういうことか。」

ムーンルキスは呟き、不敵に微笑んだ。ムーンルキスの周りには、風に吹かれてたくさんの砂が舞っている。

「お前の能力、見せてもらうぞ!」

ムーンルキスは叫びながら、ネージュムーンの方向にも風を送った。その風が犬に届いた時、大きな悲鳴があがった。3匹の犬はそれぞれ鼻を押さえて地面に伏せる。ネージュムーンの作り出したものすごい臭いがムーンルキスの風によって直撃したのだ。

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投稿 by アイルステラ Tue Mar 03, 2020 11:33 am

【第12章】6

ムーンルキスが上を見上げると、フルールスリートはなんとか柵の一番上までたどり着いた所だ。フルールスリートは痛みと恐怖で顔を引きつらせながら、柵の外側に飛び降りようとしている。

「待て!!!フルールスリート!!!」

ムーンルキスが大声で呼び止めたが、フルールスリートは気付かない。ムーンルキスは大きく飛び上がり、柵に爪をかける。目の端に、ネージュムーンがこちらに駆けて来るのが見えたが、ムーンルキスの頭には柵から飛び降りるフルールスリートの残像が焼き付いている。

フルールスリートより一瞬遅れて柵の上にたどり着いたムーンルキスは声にならない悲鳴をあげた。フルールスリートが恐怖で目を大きく見開き、近づいて来る自動車を見つめている。ムーンルキスは柵から飛び、車道で固まっているフルールスリートを突き飛ばした。

ムーンルキスの体が宙を飛ぶ。

「ムーンルキス!!!」

ネージュムーンが叫び、道路に横たわる兄に駆け寄る。自動車は少し進んだ所で止まった。フルールスリートは突き飛ばされて地面に転がっていたが、倒れているムーンルキスを見て慌てて駆け寄った。

「ムーンルキス!!!聞こえる?大丈夫!?」

ネージュムーンとフルールスリートが声をかける。

「ムーンルキス!!!返事をして!!!」

フルールスリートが涙声で叫ぶと、ムーンルキスが薄く目を開けた。

「泣くな...フルールスリート...ネージュムーンも...こんな所で死ぬわけないだろ...」

「ムーンルキス!!!」

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投稿 by アイルステラ Wed Mar 04, 2020 7:14 pm

【第12章】7

ムーンルキスは立ち上がろうと足を踏ん張るが、前脚が立たず、倒れ込んだ。ネージュムーンはようやく我に返ったように頭を振った。兄の周りを慎重に歩き、匂いを嗅ぐ。

「出血はしていない。」

ぶつぶつ言いながら歩き、前脚の前で足を止めた。そして、兄の脚に鼻でそっと触れ、顔をしかめた。

「前脚が折れてる...」

フルールスリートはその言葉を聞き、そわそわと地面を引っ掻いた。

「私が道路に飛び出さなかったら...」

ネージュムーンが口を開きかけたその時、バタンという音に、2匹は顔をあげた。自動車から一人の人間が出てきて3匹に近づいてくる。ネージュムーンが兄を守るように前に立ち、威嚇するように唸った。フルールスリートも脚を引きずりながらその横に並んだ。

人間は2匹を気にせずムーンルキスに近付く。フルールスリートはどうすればいいのか分からず、ちらっとネージュムーンを見たが、ネージュムーンは不安そうに人間を見上げている。人間はムーンルキスを抱こうと手を伸ばしたが、ムーンルキスは抵抗しなかった。

目を閉じてぐったりとしているムーンルキスを抱いて、自動車に歩いていく人間を、ネージュムーンとフルールスリートは追い掛けた。人間は一瞬足を止め、2匹を振り返る。そして、フルールスリートに手を伸ばしたが、フルールスリートは怯えて後ずさった。

人間は再び歩き出し、ムーンルキスを自動車の中に入れた。

「ネージュムーン...」

フルールスリートは不安になって呼び掛けた。人間は2匹が自動車の横で見ているのを見て、自動車の入口を大きく開いた。

「入れってことなの...?」

フルールスリートの問いには答えず、ネージュムーンはゆっくりと自動車に近付いた。ネージュムーンは人間を見上げるが、人間は何もしない。

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投稿 by アイルステラ Wed Mar 04, 2020 7:14 pm

【第12章】8

ネージュムーンはくるりとフルールスリートを振り返った。

「フルールスリート。フルールスリートは来なくてもいいよ。自動車に乗ったら、どこに行くかも分からないし、何をされるかも分からないから。僕はムーンルキスと離れられない。だから、ムーンルキスが行く所に一緒に行くよ。」

フルールスリートは目を丸くして聞いていた。しかし、ネージュムーンが自動車に乗り込もうとするのを見て声をあげる。

「私も行く。一緒に旅をするって決めたんだから、一緒に行く。」

そういって、震えながら自動車に近付く。それを聞いて、ネージュムーンは優しく頷いた。

「ありがとう。」

ぴょんと飛び乗ったネージュムーンの後から、フルールスリートはためらいがちに自動車に脚をかける。

「大丈夫だよ。」

ネージュムーンはそう言って、フルールスリートをしっぽで招いた。フルールスリートは慎重に自動車に乗り、ネージュムーンの隣に座りこんだ。

座った途端、気付いていなかった脚の痛みがフルールスリートの全身を駆け巡った。フルールスリートが座ったことを確認して、人間が自動車の扉を閉める。

「これからどうなるのかな。」

フルールスリートは呟いて、脚をなめはじめた。ネージュムーンもフルールスリートの傷を心配そうに見る。2匹は布の上に寝かせられているムーンルキスにくっついて伏せた。

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投稿 by アイルステラ Thu Mar 05, 2020 1:00 pm

【第12章】9

 フルールスリートはぱちりと目を開けた。眠ってしまっていたようだ。窓の外を眺めてみると、傾いてきた陽に照らされながら、景色が後ろへ後ろへと流れていく。脚の痛みはまだ続いている。フルールスリートは傷を丹念に舐めた。

「まだ痛む?」

ネージュムーンに心配そうに聞かれて、フルールスリートは小さく頷いた。

「ムーンルキスは大丈夫よね?」

フルールスリートは話題を変えた。2匹の間ではムーンルキスが体を丸めることもせず、横たわっている。

「分からない...自動車とぶつかったんだから、もしかしたら、骨折だけじゃないのかもしれない...」

2匹は押し黙った。



 自動車が急カーブを曲がると西日が自動車の中に差し込んできた。ネージュムーンとフルールスリートは目を細めながらその方向を見てはっとした。自動車は砂浜の横を走っていて、太陽が遠く地平線まで続く青いものに沈んでいく。

その青いものは、太陽の沈む地平線に近付くほど、青色からオレンジ色に変わっている。フルールスリートは思わず溜め息をついた。やっと辿り着いた海だったが、隣で意識を無くしているムーンルキスを思い、ネージュムーンもフルールスリートも喜べない

やがて、自動車は白い石が敷き詰められた広い庭へ入っていった。

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投稿 by アイルステラ Thu Mar 05, 2020 1:00 pm

【第12章】10

 自動車の震動が完全に無くなり、人間が自動車から出て行く。2匹は目を交わした。

「僕達これからどうなると思う?」

その時、フルールスリートの隣のドアがぱっと開き、人間が手を伸ばしてきた。フルールスリートが身体を強張らせてその手を見つめていると、その手はフルールスリートの後ろのムーンルキスを抱き上げる。

ムーンルキスと一緒に自動車から出ようとしたネージュムーンの目の前でバタンとドアが閉まった。ネージュムーンが訴えるように鳴いたが、人間はムーンルキスを抱えて家に入って行く。

次に人間が家から出てきた時には、もうムーンルキスは抱えられていなかった。人間はドアを開けてフルールスリートに手を伸ばす。フルールスリートは戸惑ってネージュムーンを振り返った。

「悪い人間ではないと思うけど...」

ネージュムーンは自信なさげに言って、人間を見つめた。人間はさっとフルールスリートを抱き上げる。フルールスリートは抵抗して爪を立てたが、毛布に包まれて大人しくなった。

ネージュムーンが後ろでうろうろしているのを見たのか、人間はドアを開けてネージュムーンに一緒に出るように促した。ネージュムーンがさっと自動車から飛び降りると、人間はドア閉めて、家に向かって歩き出す。

人間を追い掛けるように家に飛び込んだネージュムーンだったが、人間は特には気にする様子はない。人間の家の壁は白く、床はツルツルしている。ツンとする匂いに、ネージュムーンは思わず鼻を歪めた。

人間は大股で歩いて行き、角を曲がってすぐの部屋に入る。小走りで追い掛けていたネージュムーンだったが、目の前で扉を閉められて慌てた。

「フルールスリート!!!」

「ネージュムーン!!!」

扉の向こうからフルールスリートが心細げに叫んだのが聞こえた。

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投稿 by アイルステラ Fri Mar 06, 2020 10:20 am

第3部
【第13章】1

 ムーンルキスは頭の中で響く高い音でぼんやりと意識を取り戻した。暗く、深い闇の中から引っ張り出されるような感覚と共に、ムーンルキスは目を開く。目を瞬かせるうちに、ピントが合い、徐々に周りの景色がはっきりと見えてきた。

それと同時に、耳鳴りも小さくなっていく。最初に目に入ったのは、自分を取り囲んでいる金網だった。その向こうから、微かにネージュムーンとフルールスリートの香りが漂って来る。しかし、それよりも鼻にツンとくる匂いが辺りに漂っている。

「あら。目を覚ましたのね。気分はどう?」

その声の方向に目を向けると、毛繕いをしていたのか、前足を上げている白い雌猫がムーンルキスを見つめている。雌猫はムーンルキスの横の高い棚の上からムーンルキスを見下ろしている。ムーンルキスは思わずはっと息を呑んだ。



 雌猫の声が聞こえたのか、曲がり角からネージュムーンが走って来た。

「ムーンルキス!!!」

弟は、大きく喉を鳴らし、金網越しにムーンルキスに体をこすりつけた。

「久しぶりだね!!!すごく寂しかったよ!」

ムーンルキスは頭をさっと振り、雌猫から弟に視線を移した。

「心配かけたな。俺は何日寝ていたんだ?」

「丸2日。どこか痛いところは?」

ネージュムーンは苛立たしげに金網を引っ掻いた。

「頭が痛いだけだ。前脚の痛みはほとんどない。」

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投稿 by アイルステラ Fri Mar 06, 2020 10:20 am

【第13章】2

ムーンルキスは布が巻かれている右前脚に体重をかけないようにしながら、体勢を変えた。そして、白い雌猫をちらっと見てからネージュムーンに尋ねる。

「フルールスリートは?」

「あそこ。あの棚の上の檻の中。」

ネージュムーンは部屋に置いてあるたくさんの檻の一つをしっぽで示した。フルールスリートは眠っているのか、ムーンルキスには、銀色の塊が上下に動いているのが見えた。

「犬に噛まれた所以外は問題ないよ。そこも、あと1週間もあれば、問題なく動けるようになると思う。」

ムーンルキスに聞かれる前に、ネージュムーンが素早く答えた。

「ここは人間の家だよな?」

辺りを見回して聞いたムーンルキスに、ネージュムーンがさっと上を仰いだ。

「それは、僕より彼女の方が知ってるよ。彼女はクォーツ。」

そして、白猫に向かって親しげにしっぽを振った。ネージュムーンの側に優雅に着地した雌猫は、目を輝かせてムーンルキスを見つめる。

「こんにちは。私はクォーツ。ここは動物病院よ。病気や怪我をした動物を人間が連れて来て、治療する所。」

「ムーンルキスだ。よろしくな。」

ムーンルキスは首を傾げてクォーツをしげしげと見つめた。

「クォーツは飼い猫なんだな。」

「当たり前よ。ここにいる動物達は、みんな人間に飼われているわ。あなた達は違うみたいだけど...」

「僕達は旅猫だよ。」

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投稿 by アイルステラ Sat Mar 07, 2020 11:58 am

【第13章】3

クォーツは不思議そうな表情を浮かべた。

「ムーンルキスはなんでここで治療を受けられているかしら?普通、飼い主がいない動物は誰も治療してくれないもの。」

「それは多分───」

ネージュムーンが口を開いた。

「ムーンルキスを撥ねた自動車を運転してた人が...えっと...何て言うんだっけ?」

「ムーンルキス、車に撥ねられたの!?」

クォーツが目を丸くして聞き返した。そんなクォーツをネージュムーンが促す。

「治療する人、何て言うの?」

「獣医のこと?」

「そうそう、獣医だったからじゃない?」

「獣医は怪我を治すはずなのに...どうしてムーンルキスを撥ねたのかしら?」

クォーツは困惑しながら聞き返す。

「人間ってそういう動物なんだろ。それにしては、なんで俺を治そうとしているか、よくわからないけどな。」

ムーンルキスが欠伸をしながら言った。

「ムーンルキスを撥ねて、申し訳なく思ったとか?本当は撥ねたくなかったんじゃない?悪い人間なんて、そうそういないもの。」

クォーツが考えながら言う。そして、考えを求めるようにムーンルキスを見たが、ムーンルキスは眠っていた。

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投稿 by アイルステラ Sat Mar 07, 2020 11:58 am

【第14章】1

 朝を告げる鳥の鳴き声が響く。

ムーンルキスはゆっくりと目を開いた。それと同時に、ムーンルキスの檻の扉がゆっくりと開き、人間の手がのびてくる。その手は水の入った器を取り、その代わりに新しい器を置いた。

ムーンルキスはツンとする匂いに思わず鼻を歪める。ニンゲンは、ムーンルキスが起きていることに気付いたのか、すぐに食べ物を持って来た。人間が用意した食べ物は美味しいとは言えないが、その香りを久しぶりに嗅ぎ、ムーンルキスは子供時代が懐かしくなった。

部屋の隅に置かれた檻の中では、弟のネージュムーンが食べ物を頬張っているのが見える。ムーンルキスはためらいがちに食べ物を数粒口の中に入れた。

「ムーンルキス!!!」

その声にはっとしたムーンルキスは辺りを見回す。すると、棚の上にある檻の中をうろうろと歩き回っているフルールスリートが見えた。

「もう大丈夫なの?どこも痛くない?私のせいでこんなことになって...本当にごめんなさい!」

人間にもフルールスリートがそわそわしているのが見えたのか、フルールスリートの檻を地面に降ろし、扉を開けた。

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投稿 by アイルステラ Sun Mar 08, 2020 11:11 am

【第14章】2

   フルールスリートは白い布を巻かれた後ろ足を少し引きずりながら駆けてきて、ムーンルキスの全身を心配そうに見る。

「フルールスリート、落ち着け。俺は大丈夫だから。」

「でも...」

と言いかけるフルールスリートを遮って、ムーンルキスは尋ねる。

「フルールスリートは?まだ痛みがあるのか?」

フルールスリートは、反論したくなるのをこらえて答える。

「動かす時にちょっと痛いだけ。」

「そうか。ならよかった。」

ムーンルキスは安心したように言い、ちらっと人間を見上げる。人間は、まだムーンルキスの檻の扉を開けるつもりはないようだ。部屋全体をさっと見回してから、人間は年取った毛の長い雄猫の扉を開ける。

黒猫はゆっくりと檻から出ると、陽の光が差し込む窓の下の床に横になる。その床は暖かいらしく、雄猫は満足気に溜め息をつくと、うたた寝を始めた。

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投稿 by アイルステラ Sun Mar 08, 2020 11:12 am

【第14章】3

    「昨日起きたなら言ってくれれば良かったのに。」

フルールスリートが少し不満そうに呟く。

「フルールスリートにも休息は必要だろ。どちらにしろ、これから暇な時間が嫌という程あるさ。その時に、好きなだけ話せる。」

「私達、いつここから出れるのかな...」

ムーンルキスはさっと肩をすくめ、わからない、と答える。唐突に、人間がフルールスリートの後ろから近付き、フルールスリートを抱き上げた。フルールスリートは身をよじって抵抗したが、檻に戻されると溜め息をつく。

「早く海で遊びたいわ...」

「海!?海に着いたのか!?」

ムーンルキスは棚の上にいるフルールスリートに大声で問い掛ける。

「そうよ!!!とうとう着いたの!!!この家を出たら、海があるの!!!」

フルールスリートはきらっと目を輝かせて言う。

砂浜に打ち付ける波の音が聞こえた気がした。

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投稿 by アイルステラ Mon Mar 09, 2020 3:27 pm

【第15章】0.5

 「おはよう、ムーンルキス。」

「クォーツ。」

ムーンルキスはひげを綺麗にするのを止め、白猫を見つめる。ムーンルキスが目を覚ましてから1週間が経つ。しかし、人間はムーンルキスが檻から出ることを許したことは一度もない。

暇を持て余していたムーンルキスの一番の話し相手はクォーツだった。ネージュムーンとフルールスリートは、人間が檻を開けた時だけではあるが、部屋の中を自由に歩き回ることが許されている。

そんな時、2匹はムーンルキスと金網越しに話すことができるが、普段はそれぞれ別々の檻で過ごしているため、その時間は短い。ムーンルキスは不思議に思っていた事を口に出す。

「クォーツ。なんでクォーツだけはいつも檻から出ているんだ?」

「あら?言ってなかったかしら。私、ここに住んでいるのよ。」

「ここに!?病気や怪我を治すために病院にいるんじゃないのか?」

驚いて聞き返すムーンルキスにクォーツは静かに答えた。

「もともとはここに住んでいたわけじゃないんだけどね。」

クォーツは話し始めた。

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投稿 by アイルステラ Mon Mar 09, 2020 3:27 pm

【第15章】1

「私、前はお婆さんと暮らしていたの。優しい人間だったわ。私もお婆さんが大好きだったし、お婆さんも私を可愛がってくれたの。でも、ある時倒れてね...そのままどこかに行ったきり、帰って来なかったわ。お婆さんの知り合いと少しの間暮らしたけど、その人は猫が好きではないみたいで...結局、私を動物病院で引き取って欲しいって...」

クォーツはここまで話すと、悲しそうに微笑んで見せた。ムーンルキスは慰めようと小さく鳴く。できるなら、悲しそうにしている小柄な雌猫に寄り添い、励ましてあげたかったが、檻が邪魔をしている。クォーツは顔を上げて、再び話しだした。

「ここの人はすごいわ。どんな種類の動物でも治すんだもの。」

「クォーツは...寂しくないのか?」

「少しだけね...病気や怪我が治ったら帰れる家があるんだもの。皆、嬉しそうに退院していくわ。」

唐突にクォーツが話題を変える。

「そういえばね!さっきたくさんの種類の動物がいるって言ったでしょ?」

「ああ。でも、ここには猫しかいないよな?」

ムーンルキスはクォーツが話題を変えたがっていることに気付き、その言葉に相づちを打ったが、頭からは俯いているクォーツの姿が離れなかった。

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投稿 by アイルステラ Tue Mar 10, 2020 11:55 am

【第15章】2

「ここは、猫専用の部屋なの。他には、犬専用の部屋と小動物専用の部屋があるのよ。」

「小動物って、ウサギとかネズミとか?」

クォーツが頷き、目をきらっと輝かせた。

「ちょっと美味しそうだと思わない?」

少し声をひそめて楽しそうに囁くクォーツにムーンルキスはしっぽをさっと振った。

「外に行けば美味しいウサギはいくらでもいるさ。」

「自分で捕まえるの?」

興味深げに尋ねるクォーツにムーンルキスは頷いた。

「自分で獲物を捕まえないと、生きていけないからな。」

クォーツが何かを尋ねかけた時、人間が部屋に入って来た。その物音に、毛繕いをしていたネージュムーンとフルールスリートが顔を上げる。

人間は、年取った雄の黒猫と、一昨日手術を終えたばかりのクリーム色の雌猫の様子をゆっくりと観察した後、ネージュムーンとフルールスリートの檻の扉を開いた。2匹はムーンルキス達の元へさっと走って来た。

「ようやく出られた!こんなに閉じ込められてたら、脚が強ばっちゃうよ!!!」

ネージュムーンがそう言って、大きくのびをした。

「そこまで狭いわけじゃないわ。」

クォーツはそう言いながら、ムーンルキスの檻を片脚でつつく。

「俺なんか1週間以上ずっとだ。それに比べたら大したことないだろ。」

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投稿 by アイルステラ Tue Mar 10, 2020 11:56 am

【第15章】3

4匹が仲良さげにしているのが見えたのか、部屋から出ようとしていた人間が戻って来た。そして、少しためらった後、ムーンルキスの檻の扉を開いた。

ムーンルキスは右前脚を庇いながらゆっくりと檻から出る。ネージュムーンがムーンルキスの横にさっと体を寄せ、おぼつかない足取りの兄を支える。それを見て安心したのか、人間は部屋から出て行った。

「ようやくだ!」

「ムーンルキスが大丈夫か心配だっただけよ。」

クォーツになだめられ、ムーンルキスは不満げに鼻を鳴らしたものの、文句を言うことを止めた。ムーンルキスはゆっくりと歩いて、陽の光の差し込む窓の下へ向かう。

そこは昨日、雄の黒猫が日向ぼっこをしていた場所だ。ムーンルキスはその場所に横になると、久しぶりに浴びる暖かい光を全身で受け止め、欠伸をした。

体がぽかぽかと暖まる。ネージュムーンがムーンルキスの隣で横になり、兄の身体に自分の身体を押し付けた。



「フルールスリート、もう脚は大丈夫なの?」

クォーツは寄り添っている双子の兄弟をしばらく眺めてから問い掛けた。フルールスリートもゆっくりと2匹から目を離して頷く。

「もうすっかり大丈夫。少しの間はムーンルキス達、2匹だけにした方がいいよね。」

「それなら、私達だけで遊ばない?」

「いいわね!!!私が怪我してたからって甘く見ない方がいいわよ!」

フルールスリートが目をいたずらっぽく輝かせて言い放った。

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投稿 by アイルステラ Wed Mar 11, 2020 2:37 pm

【第15章】4

「絶対捕まえて見せるわ!!!」

クォーツが答えた瞬間、フルールスリートはぱっと身を翻して走り出した。そして、部屋の隅に置かれているキャットタワーに向かって走り出す。クォーツが1番下の段に飛び乗った時、フルールスリートは1番上の段からクォーツを見下ろしていた。

「ここまでおいで!!!」

「そんな所、すぐ行けるわ!!!」

クォーツは中段にたどり着いた時、フルールスリートに問い掛けた。

「そういえば、フルールスリート。これが何か知ってるの?」

「知らないわ。登って遊ぶ物かと思ってたけど?」

クォーツは頷きながら答えた。

「そうそう。これは、キャットタワーって呼ばれてるの。」

「もう少し高くしてくれた方が嬉しいけど。」

フルールスリートはそう言って、ちらっと天井を見た。

「隙あり!!!」

クォーツは嬉しそうに叫んでフルールスリートの乗っている1番上の段に脚をかけ、爪を引っ込めた前脚でフルールスリートをはたいた。

「やったわね!」

フルールスリートはふわっと毛を逆立てる。

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投稿 by アイルステラ Wed Mar 11, 2020 2:37 pm

【第15章】5

「フルールスリート達、楽しそうでよかった。」

ネージュムーンが仲良さげに話し込んでいる2匹を見て言った。

「ああ。雌猫同士、話も合うんじゃないか?」

ムーンルキスは眠りから覚めきっていない様子で答えた。太陽は真上に登ってしまい、陽の光はムーンルキスに当たらなくなっている。

2匹の雌猫達は再びじゃれあい始める。その様子を眺めていたムーンルキスは、何かの視線を感じて辺りを見回す。すると、堅い表情をしている人間が目に入った。人間の目線の先では、クォーツ達が走り回っている。

人間は、ムーンルキスが見つめていることには気付かず、部屋を出て行った。

「ムーンルキス?どうかしたの?」

ネージュムーンが不思議そうな表情をして、兄の顔を覗き込む。ムーンルキスははっとして頭を振った。

「いや、なんでもない。大丈夫だ。」

「ならいいけど。それにしても、フルールスリートの脚、治って良かったよね!もう走り回れるほど元気みたい!!!」

ムーンルキスは上の空で頷いた。

何かが起こりそうな気配がする。

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投稿 by アイルステラ Thu Mar 12, 2020 6:12 pm

【第16章】1

鳥のさえずる声が聞こえ、またいつもの朝が始まる。

初めて檻から出て以来、人間は毎朝檻の扉を開けてくれるようになっていた。けれど、この日は違った。普段なら、朝ご飯を食べ終えると、すぐに檻の扉を開けてくれる。

しかし、今日の人間は、猫を1匹も檻から出さず、フルールスリートをじっくり観察していた。フルールスリートは緊張して身体を強ばらせている。クォーツがさっと走って行き、安心させようと小さく鳴いた。

「大丈夫よ。落ち着いて。」

人間は片手でクォーツをさっと撫でたものの、目はフルールスリートから離さない。



そのうち、人間は檻の中に手を入れ、フルールスリートを抱き上げた。フルールスリートは爪を出しているが、人間を引っ掻こうとはしない。クォーツから悪い人間ではない、と聞いていたからだ。やがて、人間はフルールスリートを小さな箱に入れ、蓋を閉じた。

「「フルールスリート!!!」」

兄弟は同時に叫び、クォーツは心配そうに人間を見上げた。フルールスリートの慌てたような声がするが、人間は気にする様子はなく、次にネージュムーンの檻の前で止まる。そして、ネージュムーンも箱の中に入れると、部屋を出て行く。

「ネージュムーン!!!フルールスリート!!!」

「ムーンルキス!!!」

3匹は人間の予想外の行動に戸惑うことしか出来なかった。クォーツは閉まりかけたドアに飛び込み、人間の後に着いて行った。

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投稿 by アイルステラ Thu Mar 12, 2020 6:13 pm

【第16章】2

ムーンルキスは何も出来ないことにイライラし、檻の中を歩き回る。

「ちょっとそこの若いの。もう少しじっとしてはくれんかの?」

年取った黒猫に声をかけられ、立ち止まったものの、ムーンルキスの頭の中は真っ白だった。



コトっという音にさっと耳を立てると、猫用の小さなドアを押し上げながら、クォーツが帰ってきた。

「クォーツ!!!ネージュムーン達は?」

「落ち着いて、ムーンルキス。2匹は大丈夫よ。今、2匹は家の外にいるわ。」

「家の外?」

思わず素っ頓狂な声で聞き返したムーンルキスに、クォーツが笑いながら頷く。

「そうなの。もう何が起こるのかと思った!多分、フルールスリートが完全に治ったから、ここにいる必要がないと思ったんでしょうね。」

「なんだ...良かった...」

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投稿 by アイルステラ Fri Mar 13, 2020 12:08 pm

【第16章】3

ムーンルキスはゆっくりと息を吐き出した。

「ねぇ!!!ムーンルキス、見て!!!」

クォーツが目を丸くしながら窓の外をしっぽで指す。窓の外を見ると、ネージュムーンとフルールスリートが家の中を覗き込んでいた。檻の中にいるムーンルキスの代わりに、クォーツが窓枠に飛び乗った。

「僕達は大丈夫。ムーンルキスが治るまで、この家の近くにいるから、って言ってる!」

クォーツはガラスの向こうの言葉を緊張した面持ちで聞き取り、ムーンルキスに伝える。ネージュムーンとフルールスリートはムーンルキスに軽く頷きかけると、窓枠から飛び降り、姿を消した。

「クォーツ、ありがとう。」

「どういたしまして!伝えて欲しいことあったら言ってね。私、猫用扉を使って家の外にも行けるから!!!」

「そうなのか!?なら、俺もその扉を使えば───」

「それは無理よ。」

興奮気味に問い掛けるムーンルキスを、クォーツはクスッと笑って遮った。

「そうやって逃げ出さないようにって、私以外の猫が檻から出ている時は猫用扉、使えないようになってるの。」

笑いを含んだ声でクォーツが答えた。

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投稿 by アイルステラ Fri Mar 13, 2020 12:09 pm

【第17章】1

「ネージュムーン、どうしよう...」

2匹が必死に鳴いたのにも関わらず、無情にも玄関の扉は閉まってしまった。突然のことに呆然としながらも、フルールスリートは声を絞り出す。

「まずは、ムーンルキスと話すことが先決だ。」

ネージュムーンがはっと我に返ったように頭を振ってから答える。

「それに───」

と更に言葉を継ぐ。

「このドア見てごらん。」

「ん?ドアにドアが付いてる...?」

フルールスリートが不思議そうに言った。

「そう。これは猫用扉って言って、家の中と外を自由に行き来できるんだ。」

「それなら、私達も家の中に入れるってこと!?」

「多分ね。だけど、止めておいた方がいいと思う...人間に見つかったらどうなるか分からないから...」

目を丸くして問い掛けるフルールスリートにネージュムーンは冷静に答えた。指摘され、フルールスリートは慌てて頷く。

「これ以上あの狭い檻に閉じ込められるのは遠慮しておく!」

そんなフルールスリートの様子を見てネージュムーンはクスッと笑った。そして、さっとしっぽを一振すると、家の壁に沿って進み始める。

「どこ行くの?」

フルールスリートも急いでついて行く。

「どこかに窓がないかな、って思って。そしたらムーンルキスと話せるんだけど...」

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投稿 by アイルステラ Sat Mar 14, 2020 2:23 pm

【第17章】2

「僕達は大丈夫。ムーンルキスが治るまで、この家の近くにいるから!」

ガラス越しにそう叫んだ時、ネージュムーンは隣でフルールスリートが身体を緊張させたのを感じた。

「あそこ...」

フルールスリートの視線の先を辿ると、玄関に出て辺りを見回している人間がいた。

「僕達がいないか確かめてるんだ...早く行こう...」

ネージュムーンは小声で言うと、ガラス越しのムーンルキスにさっと頷きかける。そして、フルールスリートの後に続いて、積み上げられていた段ボールから飛び降りた。人間に見つからないように姿勢を低くしながら進む。

茂みに辿り着いた所で、2匹は頭を寄せ合った。

「これからどうすればいいの?」

「とりあえず、寝場所と食べ物を確保しよう。」

「この辺りの土地を見ておいた方がよくない?どこかに犬がいるかもしれないもの...」

フルールスリートはそう言って、辺りの空気を嗅いだ。

「今はいないみただけど...」

「じゃぁ、この家の近くがどんな様子をしているのか確かめよう。そうしたら、どこで寝て、どこで食べ物を取って、どこが危険なのかがはっきりするよ。」

その時、人間が家に戻って行った音がした。

「人間もいなくなったみたいだから。」



茂みの中の2匹は、集めた落ち葉の上に横になる。そして、近くの広い公園で捕まえたネズミを食べ始める。

「近くに広い緑地があって良かったよ。」

「食べ物の心配はあまりしなくて済みそうね!!!」

空では星が小さく瞬き始めた。フルールスリートがネズミを食べ終わり、満足そうな溜め息をつく。

「久しぶりに食べ応えのあるご飯食べたわ!人間の所のご飯は粒しかなくて、あんまり食べてるって感じがしなかったもの。それに、まずいわけではなかったけど、美味しくも無かったわね。」

ネージュムーンも大きく頷いて同意を示し、ひげを綺麗にし始める。家の中よりも大きく、深い波の音が響いてくる。ムーンルキスがいる病院から、暖かいオレンジ色の光がこぼれ出ていた。

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