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絡まった地下の関係〜水と炎の予言〜

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マァーラー2作目の小説、期待をお聴かせ下さい!

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投稿 by Murre Thu Mar 17, 2022 9:44 pm

第八章 前半
 グリーンハートとシャイニングスノウは一生懸命手当てをしたが、フォレストポーは、ルナクランの下へ旅立ってしまった。リフレッシュポーも重傷で、まだ目は覚めていない。
 ハンドライフとブラックストーン、グリーンハートは、スタールームへ向かった。
 「少し寝たら?」
 戦いに出ていたアイスファーが私と、本物の息子を気遣う。ナイトスカイロックは静まっていて、まだ三匹は出てきそうにない。ブレイズポーは疲れたように頷いて、一足先に見習い部屋のイバラをくぐった。
 よく見ると、アイスファーの月光に照らされ透明に近くなった毛には血が付き、肩や耳に切り傷が付いていた。出生の秘密について聞くのは、また今度にした方がよさそうだ。
「しっかり休んでね。」
 お母さん、と言えなかった代わりに血で濡れていない方の脇腹に鼻づらを押しつけた。アイスファーはブレイズポーと似たふさふさの尻尾で数回私の耳を撫でた。血のつながっていない私に愛情を注いでくれることに心の中で感謝した。
 一度、お通夜を済ませたフォレストポーの遺体を見つめ、私も寝よう、と見習い部屋へ向かう。
 激しい唸り声が聞こえてきた。シーサイドポーとクレーターポーだ。
 「あなた達が捕まらなければ、フォレストポーは死ななかったし、リフレッシュポーは大怪我をせずに済んだ。猫の命を奪った責任、分かってるよね?」
 シーサイドポーの的確な言葉に、ブレイズポーは反論できない。
 「フォレストポー、すごい嬉しそうだった。これが、見習い最後の仕事になるんだ!って…。」
 クレーターポーの悲しげな声が釘を刺した。
 「ブレイズポーを責めないで!言い出したのは、私。私はどんな罰でも受ける。」
 「フォレストポーを返して!」
 悲痛な叫び声が私の胸を貫いた。失った命は、戻ってはこない。そのことは、ルナクランも変えることのできない世界の定義だ。
 「シーサイドポー、今は寝て、明日のハンドライフの判断を聞こう。」
 弟のクレーターポーが姉の肩に尻尾をかけ、体を押しつけた。灰色の雌猫はきっとこちらを睨むと、自信の寝床に体を落ち着けた。
 「ウォーターポー、僕達も寝よう。」
 「そうよね、体を休めなきゃ、罰もまともに受けられない。」
 半分自分に言い聞かせるように小声で言う。シーサイドポーは、ぴくりと耳を動かした。
 緊張と後ろめたさと、フォレストポーが戦士になれなかった責任で、なかなか寝付けなかった。
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投稿 by Murre Fri Mar 18, 2022 4:56 pm

第八章 後半
 「ウォーターポー。」
 ブレイズポーにつつかれた。はっと目を開けて、いつの間にか眠ってしまったことに気付く。
 「ハンドライフが、ナイトスカイロックで招集をかけてる。」
 シーサイドポーとクレーターポーの寝床は既に空で、見習い部屋には私とブレイズポーしかいない。
 「すぐ行く。」
 さっと背中付近を舐め、苔のくずを落とし朝日を浴びる。
 「やっと来たか。」
 副長の声と一族の視線が体中に刺さり、痛い。
 「すみません。」
 体がいくらか小さくなった気がする。
 「全員知っていると思うが、フォレストポーが亡くなった。」
 ハンドライフは数回尻尾を振り、一族を静かにさせてから威厳たっぷりに言った。背中は悲し気に丸まりつつある。一族から悲しい鳴き声が上がった。フォレストポーの指導者だったオークウィングが虚しく地面をかきむしる。
 「グリーンハート、リフレッシュポーは。」
 看護猫は一歩前に出、一礼した。シャイニングスノウはここにはいない。
 「重傷で、肩が大きく裂け、目の上など顔の切り傷は化膿しかけています。出血は止まりましたが、意識はまだ戻りません。しかし、生きてはいます。ただ、戦士になるには、リハビリが必要かと…。」
 指導者のデンジャラスクローに頷きかけ、族長に場を譲る。
 「そして、ウォーターポーとブレイズポーには、勝手に他部族の縄張りに侵入した罰を受ける必要がある。昨日、俺とブラックストーンとグリーンハートで考えた。まず、二匹は一週間キャンプを出ずに、一族の世話を全て受け持つこと。二匹の行動は、ウォーターテイルが見張ること。」
 姉は恭しく頷き、副長は濃い灰色の目をぎろっとこちらに向け、光らせた。一族は族長の判断に頷いた。
 「集会はこれでお開きだ。ウォーターポーとブレイズポーは俺の部屋に来い。」
 一族の世話から一週間解放されたシーサイドポーは、勝ち誇ったように唸ってきた。
 
スタールームは日が当たらないため、早朝はまだひんやりしていた。周辺の温度が高くなるにつれ、部屋も蒸してくるだろう。部屋には、ハンドライフと、私とブレイズポーが居る。
 「さあ、どうしてホウル族に捕まったんだい?」
 族長は一族の中で唯一穴掘り族と口にしない。黒白の尻尾の先がぴくぴく動いた。
 私はフォレストポーの事に重く責任を感じながらも、ティン、穴掘り族の秘密を口にせず、私が穴掘り族の縄張りに侵入したら、滅多に姿を見せない穴掘り族のパトロール隊に見つかり、捕らえられた、とグリーンハートにもした説明を、もう一度した。ハンドライフは顔を顰めながらも口出しせずに聞いていた。
 「ブレイズポー、そうなのか?」
 私の言ったことを一度で信じてくれないの?と不満に思いながらも、ブレイズポーの顔を見る。ブレイズポーは気まずそうに、「そうです。」と一言言った。もしかして、ティンとの約束を守るために噓をついたことを、悪いことだと思っているの?
 「ウォーターポー、お前には酷くがっかりしたよ。殆ど物を学んでいない未熟な見習いが、他部族の縄張りに侵入し、ルナクランが定めた戦士の掟を破ったんだからな。」
 「本当に、すみません…。」
 「謝罪の気持ちは言葉で示すより、行動で示せ。さあ、長老の苔を敷き替えておいで。」
 ハンドライフは私達の頭を交互に優しく撫でると、苔の上で体を丸めた。戦いの後から今まで、一睡もしていなかったのだろう。脇腹の傷にはマリーゴールドをかんだものが塗られ、クモの巣が張り付けてある。白黒の大きな塊は規則正しく上下し始めた。
 「ブレイズポー、ごめんね。」
 「僕は大丈夫。弟として止められなかった僕も悪いよ。」
 ナイトスカイロックを背にしてブレイズポーは項垂れる。
 「ブレイズポー、あなたもウォーターライフとスカイブレイクの子供なの?」
 ブレイズポーは、雷に打たれ石化したように固まった。
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投稿 by Murre Sun Mar 20, 2022 4:39 pm

第九章 前半
 私の子供…。ウォーターポーは夢で何を知らされたのだろう?
 足は自然とウォーター族の縄張りに向かっていた。葦がびっしりと生え、柳が枝を垂らしている高台のキャンプは、昔と変わらず水が湧き出し、湖に小さな滝となって流れ込んでいる。湖に歯<水上バイク>や<電動ボート>といった<二本足>が発明した水遊び用の怪物の仲間が水しぶきを上げ、<二本足>の歓声をかき消している。
 「リヴァーサイドアネスティ―パースン。」
 しゃんと背筋を伸ばして一族が起きだしてくる様子を眺めている水色の母猫に呼び掛ける。ウォーターライフの事をリヴァーサイドアネスティ―パースン、と戦士名で呼ぶのは、申し訳ないが、私しかいない。
 厚い灰色の雲から薄い帯となり流れ出ている朝日に、水色の毛皮の縁は淡く黄色に輝いている。その雌猫は、そっと首をめぐらし、濃い青の目をきらっと輝かせた。ウォーター族族長は一族に指示を出そうと戦士部屋から出てきたスプラッシュヘルプに頷きかけると、湖に魚を獲りに行くと見せかけ、背の高い葦の分け目から出てきた。
 「おはよう、ティン、どうしたの?」
 娘達に似た声で柔らかく喉を鳴らす。
 「私、ホウル族を出てきたの。」
 湖に下りながら話す。ウォーターライフは驚かなかった。
 「そう。あの二匹の件?」
 私は頷く。ウォーターライフたちの子であるウォーターポーと、ゼイファイトとアイスファーの子であるブレイズポー。絡み合った部族の血を引く二匹がマウンテン族で生きていることにより今後もたらされるであろう戦いにそっと追悼する。
 「ウォーターポーに、出生の秘密は伝えられた。ルナクラン様が夢を見せたの。」
 「そう、それで?ティン、あなたはホウル族に捕まるかもしれないのに、ウサギの巣穴近くにいて大丈夫なの?」
 水色の尻尾がすぐそばの穴を指す。
 「大丈夫よ。ホウル族は夜行性だもの。それで、私、山に住もうと思うの。」
 「マウンテン族の?一匹で?」
 ウォーターライフは後ろを振り向き、茶色く、所々に草の緑色が混ざる山に目を向ける。
 「あそこなら、枯れ葉の季節にしかマウンテン族は来ないし、敵も殆どいない。ロングファー達のところに隠れていたら、タカだって私を襲えない。」
 タカの事を考えてぶるっと身震いする。鋭い族長は、私の変化を見逃さなかった。
 「ティン、秘密だらけでいなくなるのはやめて。私の秘密は全てあなたと共有した。だから、あなたも。」
 「そうね。」
 ウォーターライフは湖の淵で数秒固まると、微かな朝日を反射する鱗の魚を捕らえた。
 「一緒に食べましょう。」
 二児の母猫は、直接与えられなくて溜まっていた愛情で優しくしてくれた。
 「いつか、時期が来たら、教えてやって。ウォーターポーも気になってた。本当に、あなたと似て鋭いわね。」
 ウォーターライフは喉に骨が刺さったのか、咳き込んだ。
 「私は、二度出産したの。あなたと一緒ね。」
 族長は目を丸くした。彼女がウォーターポーを生んだ時と同時期の事しか知らなかったはずだからだ。
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投稿 by Murre Mon Mar 21, 2022 2:13 pm

第九章 後半
 フラッグアンドウィンド、知っているでしょう?マウンテン族の前副長。あの子、私の最初の子。
 実は…、単独猫―ウィートフィールドとの子なの。スカイブレイクに聞いた?ウェザー族の縄張り内の、ぼろぼろの空き家で、ウェザー族の食糧難の時に助けている猫。
 フラッグアンドウィンドは、生まれた時、ホウル族の猫として育てるつもりだったの。父親をクロウリブズインウェスト、と偽って。あの雄猫なら、オリジナリーリターンライフの信頼が厚いから。クロウリブズインウェストは、上手く引っかかった。子の前にいるときだけ良い顔をするようになって。笑える。
 フラッグキットは、ウィートフィールドと同じ黄色の瞳で、焦げ茶と茶色の体を父親から受け継いでいた。私は誇らしかった。ウォーターテイルが戦士になった時あなたもそうだったでしょう?
 けれど、私の注意不足よ。ちょっと目を離した隙に、キャンプから出てしまったの。急いで追いかけたら、見つかったけれど、タカに連れ去られた。目の前で。必死に脚を伸ばしたけれど、産後体が重くて、全然跳び上がれなかった。
 -詳しく知らないんだけど、その後、山の麓でパトロールしてたマウンテン族に助けられたらしいの。
 私は知らずに、二度目の妊娠をした。あなたと出会った少しあとね。
 二度目の子供は三匹生まれたけれど、オリジナリーリターンライフに殺された。あなたとスカイブレイクは、まだ見つかっていなくて安心しているわ。けれど、時間の問題かもしれない。もうそろそろ、会うのを止めたら方がいいと思う。助言する。あなた達がオリジナリーリターンライフに見つかったら、あなた達だけでなく、ウォーターテイル達に危害が加わるかもしれない。もう、あなたは族長、彼は副長なのよ。
 ……。そんなに泣かないで。私、あなたと涙で別れたくない。
 ねえ、聞いて。グリーンハートが言っているの、小耳に挟んだの。ウォーター族のあなたに伝えていいのかわからないけど…。
 「水と炎の戦士が誕生する。」
 ウォーターポー、ブレイズポーの事、見守っていて。私からのお願いよ。
 ごめんね、まとまりのない話で、少しは私の秘密、共有できたかしら?
 
 族長は、激しく頷き、頭を垂れた。地面に大粒の涙が染み込む。
 そう、これは事実だ。変えられない。
 私の子供は全員、もうこの世にはいない。
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投稿 by Murre Mon Mar 21, 2022 3:05 pm

第十章 特別編 前半
 フラッグアンドウィンドは、不思議な猫だった。
 小麦のような黄金色の瞳をしていて、焦げ茶と茶色の虎猫だが、耳、脚、口の先周辺はシャム柄のように焦げ茶の模様をしていた。
 俺、ハンドライフの同期であり、親友であった。
 そして、彼はマウンテン族生まれではない。
 先代の族長―フレキメデスライフ(羽ばたく命)―の率いたパトロール隊が、山麓の灰の溜まり場の落ちていたところを助けられた。族長達はその直前に、何かを捕らえた、穴掘り族側から飛んできたタカを目撃していたから、フラッグアンドウィンドは、どこかからタカに攫われたのだろう。彼は、マウンテン族の猫とは異なるところがいくつかあった。
 母は子猫の彼の育児を、快く引き受けてくれ、俺は、フラッグキットとパールキットと共に育った。
 フラッグキットは、-戦士になってもそうだったが―寝ている時、寝言は決まって「ティン(錫)」だった。彼の故郷は錫が良く採れるところだったのか、分からずじまいだったが、彼は「ティン」と呟く度、優しそうな、甘えたそうな顔になった。
 俺の指導者はビッグテイルで、彼の指導者は亡きテイルハズレジリエンス(回復力のある尻尾)だった。俺の妹のパールポーと三匹そろって一緒に毎日訓練に出掛けては、戦士になることを夢見た。
 「ハンドポー、早く来てよ!ほら、丁度いい朽ちた木があるんだよ!」
 フラッグポーは、謎に虫を好んだ。タイガの森の中の倒れた老木を見付けてはあさり、アリクイのように虫を食べた。パールポーはフラッグポーが気を見つけて走る度に顔を顰めた。
 -族長になってから、ホウル族は虫も食べることを知ったのだが、勿論彼に言っていない。
 「フラッグポー、どうして君は、そんなに虫を好むの?」
 俺の問いかけに、彼は尻尾で鼻をくすぐった。
 「そんなの、知らないよ!」
 彼はマウンテン族で一番明るく、純なマウンテン族にも負けない忠誠心を持っていた。
 戦士の掟を破らず、俺達三匹は晴れて戦士になった。
 俺はフレキメデスライフからホワイトハンド、の戦士名を頂いた。フラッグポーはフラッグアンドウィンド、パールポーはハッピーパールだ。
 それから、俺達、固い絆で結ばれた三匹は別々の人生を歩むようになった。ハッピーパールはルナクランから子を授かり、今では母猫として幸せそうにやっている。
 俺は、青葉の季節に草を蓄えること他人より多くやりつつ、日々に仕事をこなした。そのことが、功を奏した。
 当時の副長のジュニパーフルーツ(ネズの実)が、ロングファーの飢饉によるグリーンコフで命を落とし、族長も残る命は二つとなった。
 俺はただただロングファーに、ヤギ族に、干し草を与え続けた。
 銀河が煌めき、ルナクランの縄張りが、一層強く輝く夜、俺は副長に任命された。
 真っ先に「ホワイトハンド!」と呼んでくれたのは、他でもないフラッグアンドウィンドだった。
 彼はその頃、よく丘からルナツリーを見ていた。今となっては、直ぐ近くにあるのに行くことさえままならない、本当の部族を見ていたのでは、と時々思ってしまう。彼はどこで覚えたのか、氷のように冷たい川を泳いでは、一族の腹の足しになるよう魚を獲った。族長は彼を褒め称えた。彼は、戦士部屋の隅で泣いた。
 魚を獲り、一族から「ありがとう。」と言われる度に悲しそうに頷いた。
 山で一緒にタカを狩った時、彼は羽で口をもごもごさせながら、そっと言った。
 「僕、ホウル族の猫だと思うんだ。」
 どうしてだい?と、声をかけてやれば、と今でも後悔している。驚き、返事ができなかった俺に、彼は何も言わなかった。ただ、いつもの悲しげな表情を浮かべるだけだった。
 フレキメデスライフは、その後、一族に食べることを優先させたことにより命を一つ失い、最後の命は加齢で、安らかに失った。
 族長は、最後まで温かくしてくれた。
 一緒に立ち会っていたフラッグアンドウィンドと、グリーンハートの指導者であるオーロラペルト(オーロラ毛皮)は、さっと俺の耳を舐めると、遺体をキャンプの広場に引きずった。
 ショックと、喪失感で、脚が震え、涙が止まらなかった。まだフレキメデスライフのにおいが残る苔に縋りつき、スタールームの中で悲しみに打ちひしがれた。母や、父を失った時と同じくらい、慕っていた偉大な族長を失ったことは辛かった。
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投稿 by Murre Mon Mar 21, 2022 7:35 pm

左 フラッグアンドウィンド
右 ウィートフィールド
第九章から話題のティンの家族
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投稿 by Murre Tue Mar 22, 2022 4:20 pm

オリジナリーリターンライフ
イラスト連続
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投稿 by Murre Tue Mar 22, 2022 8:15 pm

第十章 特別編 中盤
 族長が弱りつつあった頃、フラッグアンドウィンドは、不意に姿を消すことがあった。親友を疑ったことは、申し訳ないが、一日のスケジュールを一族に振り終わった後、そっと跡をつけてみた。
 彼は、弱った子猫に魚を与え、一族に内緒で母親の代わりをしていた。
 「フラッグアンドウィンド?」
 草の暗がりから小さく尋ねると、子猫は怯えたにおいを発し、彼は反射的に爪を出した。俺だと認識すると毛の逆立ちを抑え、小さく溜め息をついた。
 「迷子なんだ。でも、この子はマウンテン族に連れて行っていいのかわからなくて…。」
 俺は子猫のにおいを嗅いだ。微かにホウル族と、そして、ウォーター族とウェザー族の密に混ざり合ったにおいがした。この水色の子猫は、どこの子だ?
 「フラッグアンドウィンド、フレキメデスライフは、身寄りのなかった君を、部族に歓迎した。彼は、立派な族長だから、子猫を見殺しにすることは、決してないよ。」
 彼はこの時、久しぶりに満面の笑みを浮かべ、喉を鳴らした。
 この子は後にウォーターキットと名付けられ、今ではウォーターテイルという、誠実な戦士だ。
 
 フレキメデスライフの通夜を終えた日の真夜中近く、月は満月になろうとしていた。明後日は大集会だ。
 「フラッグアンドウィンドを、副長に任命する。」
 彼は純粋に驚き、恥ずかしそうに胸の毛を二、三度舐めた。ウォーターキットを救ったヒーローと知らされていた一族は、喜んで彼を認めた。彼が戦士になりたての頃持っていた、部族への疑いの念は消え、悲しい顔をすることは滅多になくなった。
 次の晩、指導者をグリーンコフで亡くしたグリーンハートと共にルナツリーへ向かった。若葉の季節を運んできた、仄かに暖かいそよ風は、殆どの葉を散らしたルナツリーの先端付近の、新芽の芽吹き始めた枝を細かく揺らした。
 フラッグアンドウィンドの指導者であったテイルハズレジリエンス、
 前看護猫のオーロラペルト、
 ハッピーパールの指導者であり、母猫でもあったキャラメルストライプ(キャラメルの縞)、
 俺達の父のウルフフット(狼脚)、
 母のアンバーバード(琥珀鳥)、
 元副長のジュニパーフルーツ、
 フレキメデスウィングの弟で、俺の先輩のペイルブルースカイ(淡い青空)、
 先のグリーンコフで命を落とした俺の初弟子であるアイランドヘア(島の野ウサギ)、
 そして、前族長のフレキメデスウィング。
 彼らと鼻づらを触れ合わせ、九生を授かった。
 グリーンハートが一番に「ハンドライフ」と頭を下げた。
 
 大集会のフラッグアンドウィンドは、前よりも威厳を持った。
 彼が大集会で発表されたとき、オリジナリーリターンライフは少し驚き、微かに鼻で笑った。ミントライフは「おめでとう。」と小さく呟き、亡くなったフレキメデスライフを追悼した。ブルーバードライフはフレキメデスライフの死に、月を見上げた。
 それから俺は、拾った子猫の事を話した。ダークフロムオゥベイパースンは無反応だったが、スカイブレイクとリヴァーサイドアネスティ―パースンは驚いた表情をし、ちらと目配せしあっていた。
 
 彼が風のようにキャンプに駆け込み、口に咥えていた物を足元に置いた。
 「ハンドライフ。」
 息を切らして彼は言った。彼が咥えて来たのは、またもや子猫だった。水色の。
 「君なら、この子を、受け入れてくれると、思って。」
 彼は、丘で拾った、と口早に説明した。君なら、という目で再び見てきた。フラッグアンドウィンドは、マウンテン族は迷子の保護センターだと思っているのか?
 「ハンドライフ、フレキメデスライフを思い出して。」
 身ごもっているハッピーパールが近づいて、俺の耳をそっと舐めた。妹はその後、フラッグアンドウィンドを見つめた。
 彼を見ていると、幼い時の姿が、水色の子猫と重なった。
 族長は、迷子で身寄りのなかったフラッグアンドウィンドを助けた。そして、今では立派なマウンテン族の戦士だ。また、彼はウォーターテイルも助けた。あの時助けた族長と、助けられた彼を、裏切らないため。
 「アイスファーと一緒に育ててもらおう。この子と,今から生まれてくる子は姉弟だ。」
 フラッグアンドウィンドは、ちょっと目を丸くすると、喉を鳴らし、淡い水色の母猫のところへ連れて行った。その時丁度、アイスファーが陣痛に叫び声をあげた。


最終編集者 マァーラーフェザー [ Thu Mar 24, 2022 7:49 pm ], 編集回数 1 回
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投稿 by Murre Wed Mar 23, 2022 9:17 pm

第十章 特別編 後半
 フラッグアンドウィンドとの別れは、そのおよそ四か月後に訪れてしまった。
 何の逆鱗に触れたのか、ホウル族の見たことの無い戦士達が奇襲をかけてきた。
 ホウル族は、俺の留守を知っていたのか、俺は丘の方へパトロール隊を率いていて、キャンプに残る戦士はフラッグアンドウィンドと、ブラックストーンのみだった。
 アイスファーやラットペルト、ビッグテイルも応戦したが、大勢のホウル族に勝てるわけもなく、フラッグアンドウィンドとブラックストーン二匹のみで、残る者達全員をかばう態勢になった。
 丘を下っていたら、血のにおいがし、俺はアイランドスパイダーとシーサイドポー、デンジャラスクローに尻尾で合図して、加勢した。
 保育部屋を背にして、ダークフロムオゥベイパースンに上から乗られているフラッグアンドウィンドを助けようとそちらに跳んだ時、血しぶきが目の前に散った。ホウル族副長の鋭いかぎ爪は、マウンテン族副長の喉を掻き切った。
 俺は怒りで黒猫の顔を何度も引っ掻き、驚く雄猫の腹を思いきり蹴り、キャンプの出入り口付近まで飛ばしてやった。副長が退散の声を上げ、段々と猫の波が引いていった。
 デンジャラスクローと最後まで組み合っていた、白黒半分の雄猫は、デンジャラスクローの足を払うと、一度こちらを睨み走り去った。
 グリーンハートがシャイニングポーを連れ、クモの巣とマリーゴールドを処置しに来た。彼の喉の傷は深く、血はどくどくと流れ出し、止まることを知らない。
 「フラッグアンドウィンド、嫌だ!」
 「ハンドライフ、マウンテン族生まれでない僕と、仲良く、してくれて、副長にまでしてくれて…。」
 話す度に血があふれ、ぼこぼこと音を立てた。
 「ありがとう。」
 光の消えかけた小麦色の目を瞼で覆い隠すと、彼は、副長は、親友は、息絶えた。
 「フラッグアンドウィンド!戻って来てよ…。俺はまだ、君に感謝されるくらい、ものをしてないよ…。」
 彼はいつも俺達を明るくしてくれた。俺は、まだそれに報えていない。
 「彼は、良い副長だった。」
 敵の返り血が付いているハッピーパールが、まだ温かい体にそっと鼻づらをうずめる。グリーンハートは首の周りの血を拭い、傷を負ったブラックストーンの方に向かった。
 まだ呆然としていた。彼は、直ぐに起き上がって、冗談だよ、と笑ってくれるよな?
 無駄だと脳が認識したら、体がようやく動き始めた。血を舐め落とし、毛艶を良くする。毛がふわふわとしたら、体を反転させ、首の傷が見えないよう格好を整える。前脚を顎の下の入れ、あたかも眠っているだけのように見せる。
 本当は、そうであって欲しかった。
 俺が思っていたよりも時が経っていたらしく、早朝だったはずの空は青白く、明るくなっていた。
 族長の仕事を放棄してしまい、一族には申し訳なかったが、俺は一日中彼の傍で、彼との楽しかった思い出に浸った。時は飛ぶように過ぎ、星が空を埋め尽くした。彼のにおいはもうせず、死臭が鼻を突いた。
 一族もそれぞれ彼に声をかけ、最後にハッピーパールとグリーンハートがゆっくり歩んできた。
 「彼は、良い副長だった。」
 泣きはらした妹は、再び同じ言葉を言い、看護猫が優しく付き添った。
 「族長、真夜中はすぐそこです。」
 副長を選びなおす、という事実に駆られ、渋々立ち上がる。
 もう、この時がやって来てしまった。
 「山に一匹で登れる年齢の者は全員、ナイトスカイロックの下に集まれ。新しい副長を任命する。」
 一番にデンジャラスクローが部屋から出てきて、前足に尻尾をかけた。
 最後に姿を現したのは、看護部屋で体を休めていたブラックストーンだった。彼はよく戦った。
 「フラッグアンドウィンドの遺体の前で発表する。彼が、俺の選んだ者の名を聞き、認めてくれるように。」
 一族は固唾を飲んだ。
 「ブラックストーンを副長に任命する。」
 辛そうに目を閉じていた黒猫は、はっと目を開け、体の痛みに顔を顰める。
 「俺で、よろしいのなら。」
 彼は胸の毛をさっと舐め、頭を下げた。尻尾はゆっくりだが、左右に振れている。
 「ブラックストーン、ブラックストーン!」
 ハッピーパールが一番に声を上げ、新たな副長を讃えた。
 気のせいだったかもしれないが、フラッグアンドウィンドの茶色の体から、青白い彼の魂が抜けだし、俺にウインクをしてから輝く月に駆け昇っていった。
 「集会をお開きにしよう。」
 声がかすれてしまった。
 
 俺は、彼がしたようにウォーターポーを受け入れた。その彼は、また前族長をまねていた。
 俺は、フラッグアンドウィンドの魂がルナクランで輝き続ける限り、困っている者は―たとえ別部族であっても―見捨てない、とここに誓おう。
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投稿 by Murre Fri Mar 25, 2022 3:32 pm

第十章 前半
 「ブレイズポー、あなたもウォーターライフとスカイブレイクの子なの?」
 ウォーターポーの藍の瞳の光が不思議に光った。
 僕は、何と答えたらいいんだ?ウォーターポーは、僕と君が姉弟だと信じているのか?
 頭が固まり、数秒後に動き出した。
 「僕は、長老のマダニ取りをするよ。一族の世話が一通り終わったら、ゆっくり話そう。」
 頭を冷やし、考える時間が欲しかった。僕だって、この真実をまだ受け止め切れていない。案の定、ウォーターポーは頷き、見習い部屋に向かった。
 
 獲物置き場に山積みされたネズミやらムクドリやらを横目に、キャンプに流れる小川で前足を洗った。今日はダブルテイルから二匹、ビックスモールから一匹、血を吸って丸々と太ったマダニを取った。
 ウォーターポーは苔を運び出しては咥え上げるを繰り返していた。
 薄い雲がかかった大きな夕日は、ゆらゆらと揺れながら沈んでいった。
 フクロウが低く啼いた。
 ウォーターテイルが鼻に尻尾をかけ、夢の世界へ入ったのを確認すると、ウォーターポーに向けて耳をぴくっと動かし、誰にも触れないよう慎重に見習い部屋を出た。
 静まり返ったキャンプの、山とキャンプをつなぐ道近くに行く。ここならキャンプ内で、罰を破ったことにはならないだろう。
 僕は昼間考えていた切り出しで尋ねる。
 「ウォーターポー、僕と秘密を共有しよう。お互い真実を知って、ティンに、親に、何かしてあげたい。」
 「掟を破って生まれてきた私達がね。」
 皮肉気に聞こえたのは、気のせいだろうか。
 「まず、確認だ。僕の母はアイスファーで、父は穴掘り族のゼイファイトだ。」
 ウォーターポーは、叫びそうになるのを堪えた。どうやら、知らなかったようだ。ひそひそと返してくる。
 「そ、そうなのね。知らなかったわ…。私は、ウォーターライフとスカイブレイクの子で、ティンによってマウンテン族に連れてこられたの。」
 今度は僕が叫びそうになった。僕らの秘密にはティンが関わっていたのか?
 「ねぇ、ブレイズポー、ティンについて何か知ってる?」
 藍色の目には、不安が浮かんでいる。頷き、ティンの情報をかいつまんで明かす。
 「子供の事は、話さなかったのね。」
 神妙な顔つきで、ひとり合点するウォーターポー。君は何を見たんだ?
 「ウォーターポー、見た夢を教えてくれ。」
 水色の雌猫は目を閉じて、夢の事を話した。ウォーターライフの戦士名がリヴァーサイドアネスティ―パースン、ということは知らなかった。そうして、ウォーターポーとウォーターテイルの母の情報を知った。
 あれ、僕はまだつながっていない。
 「ウォーターテイルとウォーターポーは、何故姉妹だと公言できているんだ?」
 「ブレイズポー!ウォーターポー!明日も仕事するんじゃないのか?」
 後ろのスタールームから声がした。毛を逆立てて振り向くと、ハンドライフが背筋を伸ばしてこちらを見ていた。オレンジ色の目に、一瞬悲しさが過ぎったのは、考えすぎだったか?
 「すみません。少し、気になって…。」
 ウォーターポーが前足を動かして言い訳をする。ハンドライフはぎょっとした目をし、近づいてきた。
 「あぁ、フラッグアンドウィンド、俺がこの子達を助けたのは、正しかったのか?」
 そう言ったのが、聞こえた。どうして前副長が関わってくるんだ?
 「見習いは寝なさい。夜明けのパトロール隊が出掛けているうちに、苔を敷き替えておくと、喜ばれるぞ。」
 焦ったような口調でせかし、僕達を部屋に戻らせた。
 「小さな行動だと思っても、マウンテン族全体を揺るがすかもしれないんだ。よく考えなさい。」
 ゆっくりと諭し、部屋の入り口で座り、僕達が眠りにつくのを確認し、ナイトスカイロックへ帰った。
 ああ、ウォーターポーと秘密を共有しても、まだ疑問が増えてしまった。
ハンドライフは、何故あんなに焦ったんだ?もしかして、僕達の秘密を知っていて、隠そうとしているのか?
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投稿 by Murre Sat Mar 26, 2022 4:43 pm

第十章 後半
 大集会がやって来た。因みに僕達は、勿論前回の大集会に参加出来ていない。シーサイドポーは、少し気の毒そうな顔をしたクレーターポーの横で僕達に囁いた。
 「キャンプの防備、よろしくね。」
 しかし、今回の大集会では明るい話がある。リフレッシュポーが戦士になったのだ。ハンドライフからリフレッシュテイルの名をもらい、今回の大集会で完全復活だ。また、ハンドライフとラットペルトの子、フライトキットとカメットキットも見習いとなり、今日、僕達の後ろで同じ列を作っている。さらに、ハンドライフの妹のハッピーパールと、デンジャラスクローの間にまた子猫が誕生していた。丁度月一巡り前の大集会の晩だった。
 ハンドライフが尻尾を振って、一族に合図した。猫の集団ができる限り音を出さず、浅い川を渡る。ウォーターポーは何のそのという顔で足を水に浸し、本能ですと言わんばかりに水しぶきを上げず島に到着した。反対に僕は毛足が長く、ウォーター族の血を引いていないから、片足をばしゃんと入れてしまい、しんがりを務めていたブラックストーンに小さく唸られた。二歩目からは水を大きく揺らすだけで済んだ。
 太く威厳のあるルナツリーのある島に初めて足をつけ、川の際に生えた葦を掠りながら内側の世界を見る。ウォーター族とウェザー族、少ないホウル族のにおいが混ざりあい、騒がしく、けれども楽しく話す猫の声がどっと耳に押し寄せた。マウンテン族は今夜、びりのようだ。
 ルナツリーの根元に黒と灰のぶちであるオリジナリーリターンライフ、ウォーターライフ、初めて見るミント色の目の三毛のミントライフが座り、ハンドライフを見つめた。族長は族長たちの輪に加わり、話す順番を決め始めた。傍では黒いダークフロムオゥベイパースンが僕とウォーターポーを睨み、グリーンハートとシャイニングスノウに近寄ったランプセイヴはそんな副長を見て肩をすくめた。
 着いたマウンテン族の戦士達は、ウォーター族、ウェザー族の戦士達に会うため散らばり、今夜だけの休戦を楽しみ始めた。
 「あなたがウォーターポーとブレイズポーね!」
 高い雌猫の声がし、金茶とクリーム色のぶちの猫が駆け寄ってきた。
 「あたし、エメラルドポーよ。こっちは…おーい。オリエントポー。ウェザー族よ。」
 自己紹介をした雌猫の目は輝く濃い緑色だ。続けて近づいてきた雄猫は、青みのかかった黒猫で、さっと会釈し、他の見習いグループに加わった。
 「そうよ。私はウォーターポー。」
 ウォーターポーに促され、僕も名乗る。
 「僕はブレイズポーだ。よろしく。」
 エメラルドポーはウインクして、僕達をウォーター族のにおいが濃い方に導いた。さっきオリエントポーが加わった方だ。全員自分達より大きく、たじろいでいるフライトポーとカメットポーもいた。二匹はこちらを見ると、ほっとした表情に変わった。
 「ウォーター族のドルフィンポーとストリームポーよ。あら、今日はバブルポーとインディゴウポー、来てないのね。」
 エメラルドポーは片足で交互に名を言い、二匹は頷いた。
 黄緑色の目をした雌のドルフィンポーがエメラルドポーに向かって言う。
 「バブルポーは穴掘り族に攻められて、左前足を怪我したの。」
 ドルフィンポーの発言に、ストリームポーは毛を逆立てて、尻尾で背中を叩いた。
 「ウォーター族が弱ってると思われるだろ!」
 ドルフィンポーは、はっとし、後ろを振り向いた。奥には、灰色を黒のぶちの雄猫が居て、青紫色の目をぐっと細めて太く、大きい声で怒鳴った。よく見ると肩には新しい傷がある。
 「ドルフィンポー!」
 その時、ルナツリーから長い鳴き声がし、ウォーターライフの尻尾がさっと振られたのが、月明りの下、目立った。
 いよいよ、大集会が始まる。ウォーター族も習いの口から発された、穴掘り族との戦いの結果を、是非聞かなくては。
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投稿 by Murre Sun Mar 27, 2022 4:59 pm

第11章 前半
 ウォーターライフー私の実の母-が太い枝の前の方に歩み、開会の宣言をした。
 「これから、大集会を始めます。」
 集まった猫は静かになっている。
 「ウォーター族から話します。数日前、ホウル族が私達の縄張りに、攻め込んで来ました。」
 ウォーター族の猫の塊が一斉に穴掘り族に向かって毛を逆立てたり、唸ったりし始めた。穴掘り族のたったの三匹は平然とした態度で聞き流す。
 「オリジナリーリターンライフ、説明してくれる?」
 唸ったウォーターライフの背中には二本、大きなかぎ爪の痕が付いていた。生々しい。
 「ホウル族は、この地域の全部族を支配させて頂く。ただ、それだけの事よ。しかし…。」
 「ウォーター族の縄張りを奪うなんてー境界線は先祖の猫が決めたものだ!今更変えられるものではない!」
 ウォーター族副長のスプラッシュヘルプがオリジナリーリターンライフの言葉を遮り、立ち上がった。
 穴掘り族族長は冷たく灰色の雄猫を見下ろし、続きを話し出した。
 「裏切り者が出た。そもそも汚れた血の者だったが。ホウル族の秘密をマウンテン族の見習いにばらした。ティン、というシャムの雌猫だ。見つけたらすぐに殺して構わない。あの半分飼い猫は裏切り者だ。」
 オリジナリーリターンライフはマウンテン族の集団を睨んでいた。まるで、かくまっているのでは、と疑うように。
 「オリジナリーリターンライフ!今は私の番よ。」
ウォーターライフが穴掘り族族長を制す。その本人は黄色の目をぎろりと向けて、無視した。
 「ホウル族は宣戦布告する。私達、ホウル族はルナクランまでもを支配する。直にマウンテン族、ウォーター族、ウェザー族の縄張りを単独支配し、全ての猫は私に膝まづくことになるだろう。」
 島がざわざわと揺れる。反対の意見が飛び交う。
 「オリジナリーリターンライフ、どういう意味だ?」
 「今言ったじゃない、ハンドライフ。私は全部族を統合した―ワールドクランの族長になるのよ!」
 穴掘り族族長は笑って、ようやくウォーターライフに場を譲った。
 「ウォーター族では、長老のフェザーフィッシュと、ポンドインフラワーの子のビューキットが亡くなった―いや、ホウル族の戦士によって殺されたの!おかげでウォータースプラッシュハートは重傷を負い、生死をまだ彷徨っているし、バブルポーは大怪我をして見習いを続けられるかわからない…。ウォーター族は、ホウル族の宣戦布告、受けて立つわ!」
 ウォーター族族長はそう言うと、爪で枝を搔きむしった。その腹や背中、顔には傷痕がある。
 「ウォーターライフ!」
 「ウォーター族の縄張りを穴掘り族に譲るもんですか!」
 副長の言葉を遮り、空を見上げ、勝ち誇った顔をした。
 満月は輝いている。
 「ミントライフ、どうぞ。」
 「ウェザー族では獲物不足もないし、<二本足>の侵入もない。バタフライパウダーが母
猫になったわ。スウィートキットとペイルキットが誕生した。ウェザー族は決して弱くはない。」
 ミントライフの報告に、スカイブレイクー私の実の父―は、ごもっともと言うように深く頷いた。
 オリジナリーリターンライフは低く唸っただけだった。五日、ウェザー族も、そして、マウンテン族も、ウォーター族のように攻め込めれるのだろうか?
 ハンドライフが進み出て、穴掘り族族長に静かに、と尻尾を向けた。ぶち猫は爪を出した。
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投稿 by Murre Mon Mar 28, 2022 4:35 pm

第11章 後半
 「マウンテン族では子猫が二匹生まれ、見習いも二匹誕生した。フライトポーとカメットポーだ。」
 呼ばれた二匹は周りを見回し、空気を読むと会釈だけして、立ち上がりもしなかった。
 「さらに、リフレッシュポーが戦士になった。リフレッシュテイルだ。」
 祝いの声は上がらない。部族間の空気はぴんと張りつめている。
 「マウンテン族は力を取り戻した。枯れ葉の季節になろうとそれは変わらない。」
 ハンドライフは木から降りると、マウンテン族に戻るよう一声啼いた。部族はそれぞれ散り散りになり、島の影はルナツリーのみになった。
 
 「ハンドライフ!穴掘り族の宣戦布告を受けたに等しいですよ。どうするのですか?」
 ブラックストーンがいらいらと尻尾を振る。ハンドライフはスタールームへの歩みを止めた。
 「ホウル族に縄張りを取られてたまるか。「ウォーターポー、ブレイズポー!スタールームに来い。」
 ブラックストーンは困った顔をして、私達に行くよう促した。
 スタールームは暗く、傾いた月光も差し込まない。族長の白い部分とオレンジ色の目のみが浮かんでいる。
 「オリジナリーリターンライフは、裏切り者が居る、と言っていた。その猫はマウンテン族の見習いに秘密を話したと言っていたな。お前達、何か聞いたのだろう?」
 私達は顔を見合わせる。これはティンとの約束だ。破ったら、本当にティンの命が危ない。
 「何か聞いたのだろう?話しなさい!」
 珍しく激しく、厳しい口調だ。言わなくてはならなそうだ。
 「ティンは、裏切り者ではないです。」
 ブレイズポーが族長見上げて言う。ティン、と族長が出していた名前を再び出す。
 「ティン…。」
 ハンドライフは過去の記憶を手繰り寄せるかのように目を上へ向けた。外の灰色がかかった空には、黄色い星が一つ、消えずに残っていた。
 「ティン、そうか。それで?」
 族長は目を大きく見開きながらも、さっきより柔らかく問いかけた。
 私とブレイズポーは、交互に話した。マウンテン族に忠実であるためだ。
 「ウサギの巣穴、地下の縄張り、泥による整備…そうか。そうか。全ての辻褄がこれで合ったな。お前達が消えた理由も、ホウル族がウォーター族にあれだけ打撃を与えられた理由も…。」
 ハンドライフは塞ぐように会話を止めた。全ての糸が繋がったようだ。
 「そうか。ありがとう。よく勇気を出して話してくれたな。このことはブラックストーンにも言わないよ。ティンも、そうすべきだと言っていたのだろう?」
 オレンジ色の目はきらりと光った。
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投稿 by Murre Tue Mar 29, 2022 5:24 pm

第12章 前半
落ち葉の季節の終わりに差し掛かった。この季節はとても短いから、気を抜いていると枯れ葉の季節に突入してしまうだろう。そうなったら、私達は食料をロングファーであるヤギ族に頼る以外、勢力を保つ術はない。
そして、幸いなことに穴掘り族の侵入は、まだ無い。
私―ウォーターポーは、同期のブレイズポー、互いの指導者と共に灰の溜まり場付近にまで、何往復も、青葉の季節に刈り取っておいた干し草を運ぶ作業をしていた。白くなろうとしている山の頂上付近に縄張りを保有しているヤギ族に体を頂くために、干し草を大量に献上する、と百年程前に定められた決まりを守るためだ。マウンテン族の枯れ葉の季節の食料は。二日に一頭頂くヤギ族と、僅かに獲れる瘦せ細って筋っぽいネズミやリス、鳥などだ。ヤギ族はマウンテン族の太い生命線ともいえる。
「ウォーターポー、ブレイズポー、山の方に狩りをしに行かない?イワヒバリやライチョウが獲れるかもしれないし、ヤギ族の交渉のための山登りの練習にもなるし。」
ウォーターテイルがブラックストーンに近寄り、狩猟を促す。副長は頷く。
指導者らが山へ歩き出した後ろについて、私とブレイズポーは並んで歩く。
歩くうちに周りの橙色に染まったツンドラのような苔は消え、ごろごろとした岩場になった。一つ一つの岩に足をかけて登ることが多くなり、時々岩場が崩れ、れきのような大きさの粒が眼下に落ち、砂のように砕けた。ブレイズポーはそれを見て尻尾を二倍に膨らませた。
ある程度登ると、密な木で覆われたキャンプは小さく見え、丘の上で狩りをする猫の影が小さく風を切っていた。
ウォーターテイルが、つんと私の肩をつつき、前方に換羽の途中で黄土色と白の混ざった色のライチョウがじっと蹲っていた。まだ雪のない岩肌に白い斑点は目立っている。
さっと体を低くし、じわじわと前進する。ライチョウは動かない。一跳びで爪が届く距離まで来た、と思った時、風向きが変わり、私は風上になった。ライチョウはゴア―と大きな声で啼き、後ろの方からネズミが走り、逃げるのが横目に映った。
「残念。」
ウォーターテイルが耳を舐めた。その瞬間、またもや風向きが変わり、私の鼻を、あのにおいが刺激した。
右前方のいじけた木を透かすように見ると、濃い灰色の模様と、ベージュの毛がカモフラージュできずに丸くなっていた。
「侵入者!穴掘り族のにおいよ!」
姉が鋭く唸り、副長を呼ぶ。二色の塊は動かない。
ブレイズポーがイワヒバリを咥えて隣に立つ。私達の視線の先にある物を見つけると、ヒバリを落とし、口を動かした。私はその二文字に頷く。
あれは、あの色は、まぎれもなく、ティンだ…!
「ごめんなさい、ブラックストーン、ウォーターテイル。私はヤギ族を捕りに来たのではないわ。今、小屋のネズミを捕っているから、あなた達の食料を奪っているわけでもない。私はただ…。」
シャム猫が立ち上がり、青い目が怯まず四つの瞳を見つめた。
「穴掘り族の裏切り者か?オリジナリーリターンライフがいっていた。」
「ブラックストーン、何故この猫は私達の名前を知っているのでしょう?」
副長の独り言に被さるようにウォーターテイルが質問する。黒猫は答えることが出来ない。
「私はマウンテン族に危害を加えたりしない。ルナクラン様に誓うわ。けれど、ハンドライフに話があるの。彼なら手を打ってくれるはず。ブラックストーン、あなたは副長でしょう。私を捕虜として縄張りに連行して?」
ティンはゆっくり尻尾を振り近づいてきた。目には決意の色が浮かんでいる。
「そうだな…。ハンドライフは賢い判断をするだろう。」
ブラックストーンは青い空に浮かぶ半月に会釈し、ティンの肩に尻尾を乗せ、山を下り始めた。ウォーターテイルがぴたりと後ろにつき、私達はそのまた後ろを不安げに歩く。
ティンは何故山に身を潜めていたのだろう?それにティンはとても痩せていた。
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投稿 by Murre Wed Mar 30, 2022 1:57 pm

第12章 後半
 キャンプに入った生物は、猫五匹と、イワヒバリと、私がどうしても、と捕えたライチョウだった。陽だまりで日向ぼっこをしていた長老のビックテイルとダブルテイルが穴掘り族の猫を見てひそひそと噂する。子猫達を外で遊ばせていたハッピーパールは、本能で二匹を保育部屋に隠した。見習い部屋から苔を咥えたフライトポーが跳ねて来て、もごもごと何か言った。
 「ハンドライフ。」
 「おはいり。」
 あいにく族長はスタールームにいた。シャム柄の雌猫が戦士に挟まれているのを見て、少し困った顔をしたが副長の話で理解した。
 「ティン、あなたに聞きたいことがあるんだが…。」
 ハンドライフは数秒ためらい、部屋の中に多くの猫が居るのを確認すると、話題を変えた。
 「ホウル族が、あなたを裏切り者扱いしているのは、知っているのか?」
 「いいえ。その時にはもう、山にいたから。」
 ティンは驚く素振りもせず、淡々と答える。
 「俺はあなたを殺さない。」
 「なぜですか族長!この猫は半分飼い猫とオリジナリーリターンライフが言ってたじゃないですか!」
 ブラックストーンが僅かに声を荒げる。ティンは動じず、ハンドライフはいらいらと尻尾を振った。
 「ティンからは、ホウル族がなぜこのような行動を起こすのか、聞き出せるかもしれないだろう?それに、飼い猫の血が混ざっていようと戦士になる訓練を完了していて、立派な部族猫なんだ。フラッグアンドウィンドを思い出せ!あいつはどこの猫か分からなくても立派な戦士で、前副長だっただろう!」
 怒る族長にブラックストーンは怯み、ティンはフラッグアンドウィンドの名にひげをぴくりと動かした。
 「ティンは殺さない。そもそも無暗に猫を殺すことは戦士の掟に背いている。情報源としてデンジャラスクローに見張らせよう。それで良いな?ティン?ブラックストーン?ウォーターテイル?ウォーターポー、ブレイズポー?」
 問いかけはこだました。
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投稿 by Murre Thu Mar 31, 2022 5:10 pm

第13章 前半
 ホワイトフィーリングハートフレンド(白い感情の心の友)は目を疑った。マウンテン族が騒いでいたのでタイガの森を抜け、キャンプを囲うオークの木の陰からナイトスカイロックがよく見える位置に移動していたのだ。
 あたしはホウル族の戦士で、最近ダークフロムオゥベイパースンの下で見習い訓練を終え、ティンという裏切り者が務めていた偵察猫を任せていただいている。そう、オリジナリーリターンライフはあたしを信頼してくださっている。
 それで、今はマウンテン族の縄張り内のウサギの巣穴を出て、偵察を実行していた。
 キャンプはざわざわとし、木の生えていない広場には多くの猫が色とりどりの体を寄せ合い、岩の下に二匹の猫―副長のブラックストーンと、二部族の混血のウォーターテイルに挟まれて立っている猫に野次を飛ばしたり、ひそひそと噂を言い合ったり、明らかに反抗した目つきで見たりと、険悪な空気が漂っていた。
 「ハンドライフ、このシャム猫は裏切り者じゃないか?」
 年長戦士のオークウィングが、スタールームから出てきた白黒ぶち猫に、大集会で聞いたことを確認する。
 「山に一匹で登れる年齢の者は全員、ナイトスカイロックの下に集まれ。一族に重要な報告がある。」
 オークウィングの言葉を聞き流し、決まり文句を口にする。しかし、マウンテン族の猫はもう集合していた。ウォーターポーとブレイズポーがスタールームから不安げに出てきて、岩の近くに腰を下ろす。
 「この猫は、ティンというのは、覚えているな?元ホウル族だ。しかし、この猫は勇気を出してウォーターポーとブレイズポーにホウル族の秘密を話し、オリジナリーリターンライフの圧政から逃れてきた。この猫が居れば、マウンテン族はホウル族との戦いに勝てるかもしれない。よって俺は、ブラックストーン達と相談して決めた。ティンをマウンテン族に置いておき、デンジャラスクローに一日中見張りをさせることにした。」
 一族は驚き、反対の声を上げる者もいた。ハンドライフは目を閉じ、一族の意見に耳を傾けた。
 「オリジナリーリターンライフが、見つけたら殺せと言ってましてけど?」
 見張りを任命されたデンジャラスクローがぎろりとティンを睨む。ティンは無反応だ。
 「デンジャラスクロー!お前は罪の無い猫を無暗に殺すのか?」
 いらいらと尻尾を振り、頭ごなしに????りつける。
 「ハンドライフ、いいのよ。私は半分飼い猫なの。オリジナリーリターンライフがそう言っていたなら、私を殺して構わない。」
 「ティン、俺はもう捕虜としてマウンテン族に置いておくことを決定したんだ。族長の意見に逆らわないことをホウル族で学んだだろう?」
 ハンドライフはティンに向けて頷き、一族に同意を求めた。
 「ハンドライフって、よそ者を一族に入れたが、るよな。」
 ぼそっと声がした。ハンドライフはぴくっと耳を動かした。
 「これで一族の集会を終える。不満が有る者は、フレキメデスライフやフラッグアンドウィンドを思い出せ。」
 白黒の族長は激しく尻尾を振り動かして、ナイトスカイロックから飛び降りた。
 キャンプには気まずい空気が流れた。
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投稿 by Murre Fri Apr 01, 2022 6:10 pm

第13章 後半
 「オリジナリーリターンライフ、よろしいですか。」
 元指導者の横で、暗い狭い岩の割れ目に呼び掛ける。ここは族長の部屋だ。
 「ホワイトフィーリングハートフレンド?入りな。」
 不器用そうな優しさが込められていると期待したい声が、岩壁に当たりながら返ってきた。副長はさっと頷き、横にずれた。あたしは頭を下げながら快適そうな部屋に入る。
 「報告です。ティー裏切り者が、マウンテン族にかくまわれていました。」
 族長の黄色い目は動じない。
 「そう。それで?」
 それで…?その先は考えていなかった。焦ったあたしを族長は見逃さなかった。
 「話の続きはないのかい?私は堂々としていない猫は気に入らないよ!」
 声が唸り声に変化しつつある。その時、外から声がした。ルナクランがあたしに助け船を出してくれたんだ!
 振り向くと、許可をもらったフライイングピジョンシェイプがおずおずと入ってくる。
 「少しだけ、提案よろしいでしょうか。整備猫から見た現状から、最善策を考えました。」
 「そうか。」
 族長はこちらを睨んだので、あたしは部屋の隅に下がる。フライイングピジョンシェイプは不自由な右前脚を体の下に入れて、縄張り内の欠陥を静かに伝える。
 「整備猫は、毎日、川の傍の泥を運んでいて、岩の割れ目を修復しています。しかし、最近は一族の数は増え続け、岩の割れ目も比例のように増え続けているのです。振動などの影響で。そして、泥を詰め、乾かす作業が間に合っていなく、一部では天井が崩れ落ちている所があります。縄張りを広げるのは、今だと思います。ホワイトフィーリングハートフレンドの報告を聞くと、マウンテン族は今、内輪に不満がたまっているようですし。」
 灰色の雄猫は鋭かった。あたしが「裏切り者がかくまわれている」と言っただけでマウンテン族内で言い争いをしていることを予想し、より攻めやすい状況だと、族長に助言した。
 オリジナリーリターンライフは少し考えると、滅多に見せない微かな笑みを見せた。
 「そうね。ありがとう、フライイングピジョンシェイプ。お前は整備猫リーダーとして、遅れを取り戻せるくらい整備に励みなさい。ホワイトフィーリングハートフレンドも、報告に感謝する。ランプセイヴに、マウンテン族を攻める、と伝えてから、またマウンテン族に偵察に行きなさい。ダークフロムオゥベイパースン、入れ。」
 灰色の小柄な雄猫は会釈し、あたしにウインクしてから部屋を出た。あたしも「お役に立てて何よりです。」とぼそっと呟き、元指導者とすれ違った。
 「ゼイファイト、クロウリブズインウェスト、ハイスピードアタッカー、フロムヒューマンオゥベイ、お前で行こう。夜明けの、キャンプが手薄の時間にお前が戦闘で率いろ。」
 数歩歩いた先でも、族長の低く、少し興奮した声は届いた。
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投稿 by Murre Sat Apr 02, 2022 3:02 pm

第14章 前半
今日、伝えた方がいい気がする。
 私は看護猫の直感というものをびんびん感じた。
 キャンプ内に流れる小川を横目にスタールームへ向かう。
 「ハンドライフ。グリーンハートです。」
 数秒間があり、「おはいり。」と考え込んでいるような、思いつめたような声が返ってきた。
 「お話があります。これは、一年ほど前に受けたお告げなんですが、意味を理解できず、話さないでいました。『<二本足>を倒しなさい。水と炎に戦士が誕生する。水と炎に続き、一族で立ち向かいなさいそうすれば、平和は取り戻せる。』とマウンテンライフは仰いました。」
 「マウンテンライフ…この土地の、初代族長だな。まさか、水と炎は…。」
 族長は察しがついたようだ。水と炎が共生している、と言えるのは、あの二匹しかいない。
 「ウォーターポーとブレイズポーに話を聞いてみましょう。あの二匹なら穴掘り族の情報を良く知っている。二匹なら、何かいい案を思いついているかもしれません。」
 「グリーンハート、ありがとう。そうするよ。今日は看護猫の集会だろう?寝るといい。」
 会釈して、部屋を出る。キャンプは穴掘り族の襲撃の気配を感じさせない、ほのぼのさが漂っていた。


短いのは、区切れの関係です。
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投稿 by Murre Sun Apr 03, 2022 4:15 pm

第14章 中盤
 「ティン、話って何だい?」
 俺は前の雌猫に切り出す。スタールームには俺とこの猫しかいない。
 「オリジナリーリターンライフは、いや、彼女とその側近は、マウンテン族がヤギ族を食糧にしているのを知っているわ。…私が見て、話したから。」
 ホウル族には、ばれていることが多すぎて、正直困った。この偵察猫はよほど優秀だったのだろう。ホウル族は大損をし、マウンテン族は少し有利になった。
 「それを、彼女らは、どう使うのだろう?」
 俺の問いかけを知っていたかのように、ティンは自らの予想を打ち明けてくれる。
 「今日、看護猫の集会があるでしょう?ランプセイヴを動かして、ウェザー族とウォーター族の看護猫に、その昔からの秘密を言わせ、二部族の族長の耳に入れる。運が良ければ悪者と印象が植え付けられたマウンテン族はホウル族と、加勢の者に襲われる。そうでなくても次の大集会の時、オリジナリーリターンライフは、マウンテン族が不当に食糧を得ていたからと、攻めた口実を言える。あなたなら、分かるはずよ。族長がどれだけずる賢いかを。」
 ティンは目を伏せた。自分の族長が非情であることを恥じるように。
 「ここが襲われるなら、明日の朝。明け方。ランプセイヴが帰ってきたら、すぐ実行すると思うの。」
 ティンの蒼い目は、苦しみを浮かべる。
 「私はオリジナリーリターンライフにも言っていないけれど、ヤギ族が<二本足>にどんどんと取られているのを、知っている。」
 声を小さくして、シャム猫は呟いた。
 この偵察猫は、年々毛艶がウォーター族の油を含んだ毛には及ばなくなってきているのを、見抜いていたが、彼女の族長と異なり、俺達に情けをかけてくれた。
 「ありがとう。」
 俺の涙ぐみそうな声に、ティンは驚いた。
 「あなたは、さすが、フラッグアンドウィンドの母さんだ。誰よりも優しい。」
 ティンははっと目を大きく見開いてから、目元を和らげた。俺が一匹で気付いた彼と彼女の秘密は、正しかったようだ。フラッグアンドウィンドの母はティンで、四分の一飼い猫の血が流れていた。
 「俺は飼い猫の血がどうとか、考えない。オリジナリーリターンライフのように、汚れたもの、だと考える者もいるが、あなたや、彼を見ていれば、部族猫とどこと変わらない。俺はあなたを見捨てたりしない。どうぞ、好きな間だけマウンテン族に居てください。気が向いたら、ホウル族があなたの望む立派な誇り高い部族になったら、好きな時に行くといい。」
 ティンの前足にかけられた尻尾が動き、ぴっと弾くような音を出した。
 「ハンドライフ、あなたにこそ、ありがとう。フラッグアンドウィンドと、仲良くしてくれて、最期を見届けてくれて。」
 「行ってきます。」
 グリーンハートとシャイニングスノウがキャンプから出ていく声がした。
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投稿 by Murre Mon Apr 04, 2022 8:11 pm

第14章 後半
今夜、族長はいつものようにスタールームから顔を出して、尻尾の先をちょいと曲げてはくださらなかった。ティンという穴掘り族を追放された半分単独猫に、親身に話を聞いてやっていた。
 族長は良い策が思いついただろうか。
 あの予言と伝えたとき、族長は心ここにあらず、という感じだった。
 穴掘り族が攻めてくるのならば、もうそろそろだ。地下猫達は戦いたくてうずうずしているに違いない。鋭く研がれた爪が出されたり、引っ込められたりする様子がありありと思い浮かぶ。
 「グリーンハート、シャイニングスノウ、こんばんは。」
 私とシャイニングスノウに、リヴァーサイドは優しく声をかけくれたが、先に着いていた穴掘り族のランプセイヴは、何か言いたげに前足をそわそわ動かし、目を伏せていた。
 「遅れた!すまない。」
 看護猫最年長のエヴリスィングドクターがウェザー族の縄張りの方向から、葦をかき分けてやって来た。シャイニングスノウが会釈する。
 「ホウル族から、話があるの。是非、族長へ伝えて。」
 ランプセイヴの目が左右に自信なさげに動く。
 看護猫の嫌な直感は当たっていたのかもしれない。
 「マウンテン族は、卑怯な手を使って枯れ葉の季節を乗り越えてきたのに、何年も、何年も、何年も…!今こそ、部族はマウンテン族に罰を与えるべきよ!私達、ホウル族は近日、必ずマウンテン族に攻め、縄張りを三分割する。これまでのずるを、獲物の獲れる領地をして返還し、三部族で分け合いましょう。」
 ランプセイヴの青緑色の目は、ぎらぎらと光っている。
 「ランプセイヴ。看護猫は部族間の争いに関わらない、と戦士の掟でうたわれているだろう。」
 エヴリスィングドクターが白猫を宥めようとするが、穴掘り族の看護猫は私達に向け小さく唸った。シャイニングスノウも爪を僅かに出す。
 「シャイニングスノウ。」
 小声で叱ってからランプセイヴを見つめ返す。
 「オリジナリーリターンライフが、看護猫に争いを教唆するなんて、よっぽど切羽詰まっているのね。」
 「グリーンハート、ランプセイヴ、言い争いを止めなさい!今日は看護猫の集会で、僕達は看護猫なんだ。さあ、リヴァーサイド。ルナツリーに登るといい。」
エヴリスィングドクターが激しく尻尾を振った。困ったように静観していた薄い水色の雌猫は頷き、ルナツリーの幹に爪をかけた。
 「ごめんなさい。」
 そう言い、ランプセイヴが登っていくのを眺める。シャイニングスノウにそっと耳打ちする。
 「私はランプセイヴを見張っている。夢はあなたが。」
 白猫はこわばった顔をして頷いた。
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投稿 by Murre Tue Apr 05, 2022 2:26 pm

第15章 前半
 「戦闘態勢!」
 見張りをしていた俺は振り向いて叫ぶ。ブラックストーンの指示する声が聞こえ、前を見ると幾つもの目が朝霧に霞んでぼやんと光った。橙、黄、緑、青…。あの群青色の目は、ホウル族副長のダークフロムオゥベイパースンだろうか。
 小さくさっと葉同士が擦れる音がし、水色と赤の体がシダの影を縫うようにして進んでいった。
 「ダークフロムオゥベイパースン、話は聞いた。マウンテン族は縄張りを決して譲らない!」
 毛を逆立てて激しく唸った。
 「ハンドライフ!側をよけてもらえるかな。オリジナリーリターンライフからの命令なんだ。」
 黒猫は爪を出し、歯をむき出し俺に向かって唸った。群青色の目は戦いに興奮している。
 「ホウル族!」
 ダークフロムオゥベイパースンが雄たけびを上げると、大勢の猫が霧の向こうから駆け出してきた。
 「ダークフロムオゥベイパースン!」
 俺はそう叫ぶと、キャンプ内にホウル族の戦闘集団を連れ込む。黒猫を先頭に、一匹残らず、族長である俺を殺そうとついてくる。
 キャンプをすぐに抜け、山へ続く短い道を数秒で抜ける。
 「ウォーターポー!ブレイズポー!」
 俺の合図に、二匹の見習いと、その後ろからウォーターテイルとヴァルケイドレインジがホウル族の集団を追いかける。
 「マウンテン族だ!」
 体の半分で黒と白に分かれている雄猫が不意の四匹の登場に慌て、その焦燥感はホウル族の戦士に伝染する。ダークフロムオゥベイパースンも少し目を丸くすると、走るスピードを上げた。どうやら、俺の命を全て奪うまで追うのはやめないようだ。
 岩場が駆けにぼりにくくなったところから、少しスピードを落とし、後方を覗いながらあそこへと導く。ホウル族は初の山登りに息を荒くしながらも、執念深くついてくる。順調だ。
 ヤギ族の縄張りが近づいてきた時、ダークフロムオゥベイパースン始め、ホウル族の猫達はマウンテン族の狙いにようやく気付いたようだった。しかし、後ろにはウォーターポー、ブレイズポー、ウォーターテイル、ヴァルケイドレインジが爪を光らせていて、引けない。
 「さあ、ダークフロムオゥベイパースン、力を貸してくれないか?」
 向かい合い、ヤギ族の縄張りの向こうの、小屋を指す。<二本足>が一人出てきて、縛られた毛の群れに怒鳴った。
 「君たちも<二本足>を追い出すのに協力してくれたら、マウンテン族はホウル族の圧政を止める、と恩を返そう。」
 「言うな!オリジナリーリターンライフは正しいんだ!」
 「正しくない!ホウル族のだれもがそう思っているだろう。ティンを見ろ!苦しみ、ホウル族を、逃げ出した。」
 「あいつは裏切り者だ!ハンドライフ、お前は嘘を言われたんだ!」
 「オリジナリーリターンライフは、君達にどんな親切をした?」
 ホウル族副長は黙った。他の猫も唸るのを止めた。
 「ダークフロムオゥベイパースン、ゼイファイト、クロウリブズインウェスト、その他ホウル族の皆様…。どうか、私達に力をお貸しください。この通りです。」
 ウォーターポー、ブレイズポーが爪を引っ込め、ウォーターポーは頭を下げた。ブレイズポーは炎のように燃え上がる琥珀色の目で、三毛の雄猫を見つめた。信頼を得るかのように。
 「マウンテン族、目的は<二本足>排除!」
 俺の雄たけびに岩場やヤギ族の影に隠れていたリフレッシュテイル、デンジャラスクロー、アイランドスパイダー、シーサイドポー、クレーターポー、アイスファーが飛び出し、第一陣として<二本足>の小屋を襲った。ホウル族は怯み、ただ見つめている。
 「全員の力を合わせれば、オリジナリーリターンライフの態度は、変えられる。」
 俺の囁きに、ホウル族副長は恨めしそうに思いながらも、ホウル族に向けて尻尾を振った。
 「ホウル族、ルナクランは俺達を見守っている!」
 叫び声が山の奥にまでこだました。
 
今回長め
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投稿 by Murre Thu Apr 07, 2022 3:31 pm

第15章 後半
 <二本足>は僕達の攻撃に驚いた。マウンテン族は縛られた毛の群れを囲っていた木の柵を壊しにかかり、ロングファーをヤギ族へ、と解放した。ヤギ族の長が山の高いところから降りてきて、解放された仲間を導いた。
 「ブレイズポー、行くわよ!」
 ウォーターポーの掛け声に小さく唸り声で返してから、ホウル族のゼイファイトと並んで<二本足>が出払った小屋に駆け入る。
 <二本足>の残っていた変な形の靴、というものを払い、一段高くなった廊下を走り抜け、<二本足>の座るふかふかの物や、<二本足>が寝れる幅の、木の上に乗った布をびりびりに引き裂き、マーキングする。
 もう、山には来るなということだ!山はマウンテン族の縄張りだ!
 ウォーターポーとゼイファイトも<二本足>の家をめちゃめちゃにし、満足げに頷く。
 あとは、二人いた<二本足>を山の麓まで追い、もう来るなと、恐ろしい顔で唸ってやるだけだ。
 外に出ると草や岩には<二本足>の血が付いていたが、部族猫は無傷なようだ。
 <二本足>は怪物に乗ろうとしたが、クロウリブズインウェストやヴァルケイドレインジが怪物の脚をつついたり、嚙みついたりして一つ、穴をあけた。<二本足>はわーわー喚きたて、怪物をぶるんと震わせて、ガタガタの登山道を逃げるように降りて行った。
 「もう来るな!」
 ハンドライフが先頭で唸り、怪物の去っていく姿を見つめた。
 「ハンドライフ、ホウル族の縄張りに来い。オリジナリーリターンライフの暴走を
止めるんだろう?」
 襲撃に失敗したダークフロムオゥベイパースンが、案内しろと尻尾を振る。
 「ありがとう。この恩は必ず返す。そう、オリジナリーリターンライフにも伝えよう。」
 ヤギ族を捕らえては自らの物にして、いた<二本足>はを追い出し、ついにマウンテン族ンは平和が訪れた。
 ウォーターポーと僕の考えた策はホウル族の苦しんでいた心を掴み、信頼を数分だけでも得られた。
 しかし、まだひと悶着ありそうだ。
 オリジナリーリターンライフにどう恩を返そう?
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投稿 by Murre Sun Apr 10, 2022 2:26 pm

第16章 前半
 島を囲む葦をかき分け、穴掘―ホウル族の縄張りを見る。向こうの陸にはランプセイヴがクモの巣を太く脚に巻き、横にマリーゴールドやらを置き、治療セットを十分に携えていた。
 「ダークフロムオゥベイパースン!」
 そう叫んだ看護猫は、誰も掠り傷も追っていない状態に目を丸くし、隣にマウンテン族もいることに、口をあんぐりと開けた。
 「ハンドライフ、ブラックストーン。オリジナリーリターンライフ達に説明してくれ。」
 ホウル族の副長に指示に、ハンドライフが穏やかに返す。
 「ウォーターポーとブレイズポーも一緒に行っていいかい?ダークフロムオゥベイパースン。この策を提案したのはこの子達だし、一度ホウル族の縄張りに行ったこともあるし。」
 「ぜひ!」
 黒い副長が答えるより早くランプセイヴが答え、はっと下を向く。副長は群青色の目を私達に向けて頷いた。尻尾を振り、ホウル族の戦士に命令する。ホウル族の戦士らは川を渡り始め、私達も続いた。
 「オリジナリーリターンライフ。」
 「勝っただろうな?」
 ぎろりと光を放つような目が暗闇から現れ、思わず体をこわばらせる。ホウル族族長の目には、いつもどきりとさせられる。
 「オリジナリーリターンライフ。」
 「不法侵入だぞ!」
 ハンドライフの声にすぐさま反応し、歯をむき出して威嚇してきた。ダークフロムオゥベイパースンがすかさず駆け寄り、耳打ちする。族長には、それで十分だった。にやりと笑った牙は暗い中目立つ。
 「そうかい、ハンドライフ。私には何を恩として返していただけるのかな?」
 「次の大集会まで、待っていてくれ。必ず、族長として、一族が喜ぶ恩を返す。なんせ、戦ったのは、君ではなく戦士達なのだからな。」
 ハンドライフは怯みもせず、淡々と答えた。オリジナリーリターンライフの目つきが厳しくなる。
 「やる気?」
 灰黒ぶちの族長は毛を逆立て、戦闘態勢をとった。
 「やめてください、族長!ここで争ってもマウンテン族の縄張りは手に入りませんよ!」
 ランプセイヴが駆け寄り、族長を諭し始めた。私達はただの傍観者だ。
 「ウォーターポーとブレイズポー!」
 右の通路を見ると、あの気さくな三毛猫が居た。前見た時と異なり、すらりと瘦身だ。
 「ティンは、元気?」
 小声で話され、内容に顔を曇らせる。ティンはとても痩せていた。
 「元気そうだよ。今、マウンテン族のキャンプにいる。」
 ブレイズポーがお愛想よく話し、フォールメイプルラッグに質問を返す。
 「もしかして、お子さん生まれた?」
 「そうよ。スプラウトキット(芽子猫)とオークキット(オーク子猫)、アウルキット(フクロウ子猫)よ。あ、じゃあね。お乳をあげないと。」
 オリジナリーリターンライフに睨まれているのを確認すると、母猫は通路を引き返した。「おめでとう。」という暇も無かった。
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投稿 by Murre Sat Apr 23, 2022 8:34 pm

第16章 後半
 「お疲れさま!」
 真っ先に声をかけてくれたのは、アイスファーだった。私は気まずくなって少し身を引く。ブレイズポーは喉を鳴らし少しだけグルーミングした。
 妬心がみるみる湧き上がってきた。
 ブレイズポーは少なくとも母親は同じ部族だ。しかし、私の母はウォーター族、父はウェザー族で、その秘密は彼女らとティン、ブレイズポーくらいしか知らない。すぐそばに両親が居るフライトポーやカメットポーが隣を通り過ぎ、後からキャンプに入ったハンドライフに声をかけた。
 「はい、これ。」
 姉がハタネズミを持って来た。
 「ありがとう」
 擦り寄って感謝し、べたべたするブレイズポー親子横目に二、三口で平らげた。胃腸が動き出し、血液が下半身に集中的に集まるようになると、眠気が襲って来た。今日一日は飛ぶように過ぎてゆき、いつのまにか、気の短くなった太陽が体を半分、地平線の下に隠していた。
 今日は留守―キャンプの防衛のフライトポーとカメットポーが見習いの仕事をしてくれただろう。私達は<二本足>を倒したし、ホウル族の縄張りに行った。
 そう!<二本足>を倒す作戦は私とブレイズポーが考えたのだ。
 襲ってきたホウル族を利用し、前と後ろを挟み山まで連れていく。そして、ロングファーを捕らえていた、金具が打ち付けられた柵を壊し、<二本足>を小屋から追い出した。
 苔の上で毛づくろいをし、冷たい寝床に横になった。睡魔が私の尻尾の先に触れた時、ようやくブレイズポーが部屋に入ってきた音がした。
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投稿 by Murre Mon Apr 25, 2022 8:06 pm

第17章 前半
「ぱりぱりー!」
 ウォーターポーは完全に凍ったイチョウの葉やモミジの葉を蹴散らした。
 「それ、もう何回もやっただろう。」
 枯れ葉の季節がやって来て、もうそろそろ雪の降りそうな冷え込みになってきた。僕達はまだ雪というものを触ったことがない。クレーターポーは食べられる水だと言っていた。
 「戦士は、はしゃいで獲物を逃がすようなことはしない。」
 丘の手前で待っていた僕とウォーターポーに、ブラックストーンが声をかけた。彼の後ろに見えるヤギ族の縄張りが含まれる山は完全に白くなっている。
 「今日、雪が降りそうね。」
 ウォーターテイルがキャンプの汚い色になってしまったシダをくぐった時、ウォーターポーが急に駆け出した。彼女の視線の先には一足早く白くなったウサギが敵に気付き、逃げている所だった。
 数分後、血を滴らせてウォーターポーがドヤ顔をしてきた。
 「ウォーターポーはウサギを長老に届ける仕事ができたから、戦闘訓練は私とブラックストーン、ブレイズポーで行いましょう。」
 ウォーターテイルが可笑しそうにウォーターポーの肩を叩いた。ウォーターポーの顔は青ざめ、ウサギを急いで地面に埋めた。
 「今日の大集会、いけるかなぁ」
 「行けるよ。僕達だから」
 丘を越えながら訓練場の窪地へ行く。ウォーター族の縄張りに近い訓練場はがらんとしていた。僕とウォーターポーはそれぞれの指導者と訓練を始めた。
 不意に足を払われ、顎から地面に滑り込み、背中を押さえられる。
 「攻撃は不意にも来るんだぞ」
 戦士の目はさすが副長、鋭かった。
 「もう一度、お願いします」
 構えたブラックストーンの脚を見て、突っ走る。足を払うと見せかけ、顔にパンチを食らわす。と思ったら黒猫はひょいと屈み、再び足を払われた。
 「俺が思いつかないようなこと、やってみろ。頭は考えるために付いている。」
 少し間隔を開け、まじまじとブラックストーンを見る。正面を向いていると脚や顔面しか攻められないから、回り込み、いきなり跳んで背中に乗ってみようか…。
 考えているうちに黒猫が走って来たから、横腹を目指すように走る。ブラックストーンも狙われているのに気付き、スピードを上げた。
 そうだ!
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