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絡まった地下の関係〜水と炎の予言〜

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マァーラー2作目の小説、期待をお聴かせ下さい!

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投稿 by Murre Tue Apr 26, 2022 7:18 pm

第17章 後半
 僕は急に止まり、ブラックストーンが走り込んで来るだろうと目星をつけた場所に降りれるよう、跳び上がった。戦士は止まらず、走り過ぎた。はっと思い、急いで伸びた後ろ脚を引っ掻いた。
 「良かった。きちんと臨機応変に出来ていた。次はどうだ?」
 言うと同時にブラックストーンは僕の頭上を飛び超越え、僕の後ろに着地した。足を払われ、仰向けになった。あっと思ったが遅かった。
 「腹を出してはいけない」
 中断したブラックストーンを真上に飛ばすように押し、どうにか立ち上がった。
 「はい」
 次は失態しないぞ、と思っていると、ウォーターテイルがブラックストーンに言った。
 「ブレイズポーとウォーターポーを戦わせましょう」
 副長は頷き、僕とウォーターポーは窪地の真ん中で向かい合った。睨み合いながら、そろそろと円を描くように動く。
 先に痺れを切らしたのはウォーターポーだった。ウォーターポーの爪の出されていない足が目付近を目掛けて飛んできた。ブラックストーンがやっていたように首を屈め、地面に立つのを支えている後ろ脚まで滑り込み、払う!
 ウォーターポーは倒れたがさっきの僕を観察していたらしく、立ち上がる前に後ろ足で、僕の方向回転させた前足を蹴った。足の片方に当たり、左足に重心がかかり、バランスが崩れた。立ち上がったウォーターポーに脇腹を押され、砂が体に擦れた。腹に触れそうになった水色に前足を振り払った。
 立ち上がると、ブラックストーンが空を見上げた。
 「二匹とも、よくやった。少なくとも今日の訓練は身についていたな。」
 「丘でウサギを獲りましょ!」
 ウォーターテイルが丘の方に鼻を向け、四匹で動き出した。
 今夜は大集会だ。ハンドライフは恩を何で返すのだろうか?
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投稿 by Murre Fri Apr 29, 2022 5:42 pm

第18章 前半
 ホウル族はいつも通り三匹で、オリジナリーリターンライフは二番目に到着したマウンテン族を見るなり、低く唸った。
 ああ、早くウォーター族とウェザー族は来ないかしら。
 島に着いてもマウンテン族は何もしなかった。族長から、今日は何も話さず、何もするなとの命令が出ていたからだ。猫達はハンドライフとブラックストーンの方を見たり、足をそわそわ動かしたり、周りをきょろきょろしたりと、不安げな様子だった。
 「ウォーター族だ」
 ブレイズポーは島の左側を見、揺れた葦の間から出て来たウォーターライフを見守った。草の擦れる音が大きくなったかと思うと、ミントライフも姿を現し、驚いた。ウェザー族族長は見るからに痩せていて、足元はおぼつかなかった。よろけた族長を、傍らにいたワールドブリッジが支えた。スカイブレイクは?と思うと一番後ろから俯いて歩いてきた。
 ハンドライフは全部族が落ち着くのを待つと、少しでもルナクランに近づこうと、ルナツリーを一番に登った。オリジナリーリターンライフ、ウォーターライフと続き、ミントライフは躊躇った。副長の塊の傍に行き、少し高い根の部分に座った。葉の陰から見えたホウル族族長の目が光ったように見えた。
 「これから、大集会を始めます。ウォーター族は異常なしです。そして、喜ばしいことに新たな戦士が二匹誕生しました。ドルフィンペルト(イルカ毛皮)とストリームストライプ(小川縞)です」
 ウォーター族の視線が集まった二匹は、ちらっと目配せすると、会釈した。そういえば、二匹には妹がいた気がする。うろ覚えだが。
 ウォーターライフが木の上の二匹の族長に尻尾を振り、二匹とも首を振ったので、ミントライフが立ち上がった。肋骨は浮き出ているが、威厳を失ってはいなかった。
 「ウェザー族にも、何も悪いことはありません。今日は来ていませんが、スウィートキットとペイルキットが見習いになりました。報告は異常です」
 ミントライフはゆっくり腰を下ろした。
 マウンテンライフが枝の上で立ち上がり、白い毛が月光に照らされた。
 「マウンテン族はティンを保護すると決定した。そして、彼女はマウンテン族の忠誠に示し、マウンテン族を救ってくれた。彼女が話した内容は、まず、こうだ。ホウル族は、地下に張り巡らされたトンネルを使用し、全部族の情報を聞き取っていた」
 ホウル族、マウンテン族以外は、ハンドライフの言葉を理解できず、固まった。ミントライフがよろけた。
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投稿 by Murre Sun May 01, 2022 3:21 pm

第18章 後半
 「ウォーター族の秘密は、全て筒抜けだったの?」
ウォーターライフが青ざめた顔で、身を縮ませる。ハンドライフは頷いた。
「しかしこのように、全部族には、大集会で討論すべき秘密があった。では、ウォーター族から発表してもいいかい?」
「マウンテン族に何の権利があるんだ!」
ウォーター族の雄の戦士が、大きな声で言った。ウォーターライフは制するような目で見た後、ハンドライフに告げた。
「他の部族にも、不利な情報が隠されているのなら。」
「獲物が不足し、湖が凍ってしまう冬、ウォーター族は青葉の季節の<二本足>の家で獲物を調達していたのだ」
水色の族長は、一歩枝の細い方へ退くと、渋々認めた。
「ええ、そうよ。しかし、<二本足>から直接餌をもらってないのよ」
「そうだな」
必死の反論に、白黒の族長は頷いた。しかし、話は終わらなかった。
「そして、マウンテン族には彼女の子供がいる。ウォーターポーだ」
一番に反応したのは、私の事を妹だと思っていた、指導者だった。ウォーターテイルは私とウィーターライフの顔を交互に窺い、酷く傷ついたような顔をし、目を伏せた。隣のアイランドスパイダーが小さく声をかけ、シーサイドポーは尻尾二本分彼女らと離れた。
「ウォーターライフは戦士の掟を破っている!なぜなら、ウォーターポーの父はスカイブレイクなのだ!」
それまで、いらいらと傍観していたオリジナリーリターンライフが、尻尾を膨らませ、立ち上がった。目は、恥を何倍にしてでも返してやる、という憎悪の色をしていた。
張の本人、スカイブレイクは、相変わらず列後方に居、他の猫に囲まれていたため表情は読み取れなかった。
「オリジナリーリターンライフ、そうだが、まず俺の話を聞いてくれ。ミントライフ、次はウェザー族の話をするよ」
ホウル族族長は鋭く唸り、ウェザー族族長は弱々しく鳴いた。
「ウェザー族の縄張り内には、空き家があり、そこにウィートフィールドという雄猫が暮している。彼は、枯れ葉の季節、ウェザー族の縄張り内の獲物が足りなくなったら、太ったネズミを分けてくれるそうだ。そして、どうしても足りないときは、近くの<二本足>に餌をもらいに行く、と」
弱った族長の代わりに、ワールドブリッジが怒った。
「なぜマウンテン族は部族の秘密をべらべらと話すんだ!」
「ホウル族に借りた恩を返すためだよ」
意味の読めない発言に、島は再び静かになった。今や全ての猫が耳をルナツリーに傾けている。
「マウンテン族の秘密を話そう」
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投稿 by Murre Mon May 02, 2022 4:48 pm

第19章 前半
マウンテン族は、これからどうなるんだ?
 ハンドライフは、大集会でヤギ族の事、<二本足>の事、ホウル族の助けの事を話した。しかし、まだホウル族に礼となる物は差し出していない。族長の事だから、ホウル族に、どうぞと縄張りを譲るのではないかと内心冷や冷やしてしまう。
 僕の予想は、見事に外れた。
 「ということで、全部族、秘密にしておきたいことが公になった。いっそ、他部族それらを認め合い、余計な戦いを無くさないか?」
 「余計な揉め事を起こしたのは、マウンテン族だろう」
 ダークフロムオゥベイパースンが、ぼそっと言うのが聞こえた。ハンドライフは無視した。
 「ウォーター族は同意する。もう、戦いで一族を減らしたくない」
 ウォーターライフは、スプラッシュヘルプと目を合わせ、それから目を上げた。
 「ウェザー族も、いいだろう。認める」
 ワールドブリッジの言葉に、スカイブレイクは口を開きかけたが、ミントライフを見つめ、尻尾を数回振った。ミントライフの目は、閉じられている。
 「ホウル族も認める。ハンドライフ、用事がすんだのなら、早く、次に進めてくれ」
 オリジナリーリターンライフの低い唸り声に、月を見ると、真夜中はもうとっくに過ぎていた。
 「マウンテン族も、秘密を認める」
 賛成の声がぼそぼそと上がり、直ぐに収まった。
 ハンドライフの橙色の目が、輝いた。
 「これから、命名式を行う」
 「そんなの、前代未聞だ!」
 ダークフロムオゥベイパースンが木の反対側から異議を申す。
 「これは、全部族の族長で同意したの」
 怒りがふつふつと、一つずつの目にくっきり表れている黄色の目が、ホウル族副長に向けられた。
 ホウル族は、この中で一番怒っている。
 副長が座ると、あの黄色の目は僕とウォーターポーに向けられ、体が硬直したように感じた。直ぐに金縛りは解けたが、ウォーターポーの方を見ると、僕と同じように困惑と興奮の入り混じった目をしていた。
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投稿 by Murre Tue May 03, 2022 1:18 pm

第19章 後半
促されるがままに、ルナツリーの太い根元に行くと、ワールドブリッジがミントライフを少し脇によけた。ミントライフの目は僅かに開き、閉じた。
 痛いぐらいの視線が肌に突き刺さり、飛んできた方を見ると、ウォーターポーを困った顔で、穴が開くほど見つめているウォーターライフが居た。自分の血縁者ではないが、心がずきずきと痛んだ。
「ルナクランの皆様、私、ハンドライフはあなた方が定めた崇高な戦士の掟を理解すべく、日々訓練を続けてまいりましたマウンテン族の見習い二匹を、戦士に推薦いたします」
島の沈黙は鉛だ。
「ウォーターポー、おまえは今からウォーターペルト【水毛皮】をいう名になる。両親の気高さと、お前の探求心を讃えて」
ウォーターペルトは一礼し、族長の代わりにルナツリーの鼻づらを押しつけた。視界の端に微笑んでいるスカイブレイクの姿が見え、心からウォーター族族長を愛しているんだな、と思った。
「ブレイズポー、お前は今からブレイズストーム【炎の嵐】という名になる。鋭い観察力と、賢い判断を讃えて」
「ウォーターペルト、ブレイズストーム!」
戦士名をコールする声は一回ずつしか言われなかったが、全部族に認められたと感じ、急に注目が体にぐさぐさと刺さり、熱で体が火照った。
「戻りましょ、ブレイズストーム」
ウォーターペルトと、再びもといた場所へ戻った。
「これでー」
「ハンドライフ!」
ウォーターライフの終わりの宣言を、オリジナリーリターンライフが遮った。腰は高い。
「ホウル族が貸した戦士の労力を、形として返してくれ」
ハンドライフの目は、海よりも穏やかだ。
「分かっているよ。ウォーターライフ、もう少し時間を頂くよ」
水色の族長が承知したのを見ると、ハンドライフは深呼吸した。
「ホウル族は知っての通り、オリジナリーリターンライフによって独裁が行われている。そこで、マウンテン族は、一族の平和を望む者に族長が交代すべきだと進言する」
「なによそれ!ハンドライフは私を侮辱した!」
オリジナリーリターンライフの叫びに、賛成する者はいなかった。
ダークフロムオゥベイパースンの影が月明りを受けて、淡い黄色に縁どられた。
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投稿 by Murre Wed May 04, 2022 3:47 pm

第20章 前半
 血飛沫がぽたぽたと雫になって重力に従った。ダークフロムオゥベイパースンの爪は、オリジナリーリターンライフの目を潰し、失明させたかと思われたが、族長もさるもの、瞬時に躱し、次の一手に備えた。
 「ダークフロムオゥベイパースン!」
 「俺が族長になる!」
 腹の底が震えるような唸る声を搔き消したのは、ダークフロムオゥベイパースンの勝利の希望に胸を張った声だった。オリジナリーリターンライフは目を泳がせ、隙を突かれた。
 「うがっ」
 血が口から溢れ、ダークフロムオゥベイパースンの鼻づらにまともに当たったが、着地した黒猫も足取りがおぼつかない。よく見ると、右前脚の関節付近がざっくりと切れ、筋の端が見えた。奥に見える白い物は骨だと理解し、尻尾が二倍に膨らんだ。
 「残念だが、お前に私は殺せない」
 大量の血を吐きながら、目を鋭くして足を踏ん張る。ダークフロムオゥベイパースンは、だらんと垂れた脚を持ち上げると嚙み千切り、放った。ウォーター族の猫がざざざっと退いた。
 決闘に合図はなかった。
 二匹同時に跳び上がり、オリジナリーリターンライフは、高度の出なかったダークフロムオゥベイパースンの喉を、先程と同じようにすぱっと切ったが、ダークフロムオゥベイパースンは残った左脚でもう一度、下から族長の首を縦に切り裂いた。
 猫の悲鳴と夜明けの静寂が混ざりあう中、どさっと落ちてきた二匹の猫は、衝撃に更に体を痛めた。
 「オリジ、ナリー、リ、ターン、ラ、イフ…」
 「お前は勝てなかった…」「俺が族長だ…」
 切れ切れとした声に血の溢れる音が加わり、最期、二匹の放った言葉は誰に耳にも届かなかった。
 ランプセイヴが決闘の終了の合図として、二匹の脈を診る。
 「オリジナリーリターンライフ、ダークフロムオゥベイパースンは、亡くなりました」
 相打ち、をいう結果に誰も声を出さなかった。
 ただ、激しく酷な物だった地位争いの結果に目を逸らした。
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絡まった地下の関係〜水と炎の予言〜 - Page 3 Empty Re: 絡まった地下の関係〜水と炎の予言〜

投稿 by Murre Thu May 05, 2022 4:09 pm

スカイブレイク
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投稿 by Murre Thu May 05, 2022 7:55 pm

第20章 後半
「ホウル族に、恩は返した」
正直、ハンドライフの発言は俄には信じられなかった。あんなに強かった二匹の猫が同時に命を落とし、その結果を招いたのは、族長、彼自身だというのに。
まだショックで固まる大集会の静寂を破ったのは、植物が集団に擦られ、踏まれ、道の作られる音だった。
「ハンドライフ、仕事はしましたよ」
突如、ホウル族側からテインが現れ、後ろから全員と思われるホウル族の猫が、ぞろぞろと会場に現れた。
「ハンドライフ、自由にしすぎよ」
ウォーターライフが驚きの展開に、首謀者に注意した。
「ホウル族の皆、戦いは見ていただろう。君たちの望んでいた平和がやっと君たちホウル族のもとへやって来た。これは、全部族で喜ぶべきだろう」
ウォーターライフを無視したハンドライフの言葉も無視された。が、気にせずに続ける。
「俺はルナクランの猫ではないからまだ決められないが、族長を選ぶべきじゃないかな?」
「そんなの、言われなくても分かってる!」
クロウリブズインウェストが、二匹の血に足を拭いながら歯を剝きだした。
「そうだな」
ハンドライフは頷いた。ルナクランはそれが合図だと思ったのだろう。
満月が雲に覆われ、月光の面積が狭くなった。数匹の長老は不吉だと喚いたが、その光はルナクランからのお告げだった。
スポットライトの円に入っていたのは、ゼイファイトだった。
 



何かを飛ばしたかのように短くなった。
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投稿 by Murre Fri May 06, 2022 5:07 pm

第21章
 「この猫がルナクランに認められた!」
 年を考えると、到底出ないだろう甲高い声を発したのは、目が剥くくらい見開いたミントライフだ。傍らにいたワールドブリッジが毛を逆立て、三毛の雄猫を注視する。
 「そうです。これは、ルナクラン様からのお告げです」
 ランプセイヴが全部族を見渡し、他三部族の看護猫の反応を窺う。
 「そうね」
 グリーンハートが頷き、リヴァーサイドとエヴリスィングドクターも賛成した。
 「ゼイファイト、ゼイファイト!」
 ホウル族が喜ぶ声が次第に大きくなった。そう、他部族も新たなホウル族族長の誕生を祝ったのだ。
 「良かったね」
 ウォーターペルトが朝日の帯に目を細めながら、僕を小突いてきた。
 「そうだな」
 僕は再びゼイファイトを見る。僕の父さん。僕の父さんは、立派な族長になるだろう。
 ゼイファイトの山吹色の目が、こちらを向いた。誇り高くそれらは輝くと、明るくなり始めた灰色の空に向かって口を開いた。
 「今夜、九生を授かりに、再来する!」
 大集会はお開きになった。
 
 キャンプに、大集会の話はあれよあれよという間に広まり、話に尾鰭が付き始めた。
 ハンドライフがナイトスカイロックに飛び乗り、集会を宣言した。
 「幾つか決定事項がある」
 ハンドライフの橙色の目はキャンプの入り口を透かした。
 「はい、こんにちは」
 日の昇り始めである明け方、上目遣いでティンが入ってきた。数匹の猫はテインに唸ったが、本人は気にせず集団の端に座った。
 「ティンには、選択権がある。ホウル族へ戻るか、マウンテン族に残るか」
 澄んだ青い目が初めて陰り、枝分かれした尻尾は激しく地を掠った。隣に座っていたラットペルトが尻尾三本分彼女と離れた。
 「ハンドライフ、私を解雇してください。私は、少なからずマウンテン族の弱みを、オリジナリーリターンライフの漏らしてしまいました。どうか、お許しください」
 涙が頬を伝い、それは土を濡らした。ハンドライフは岩を降りた。
 「それ以上に、山では力を借りた。君には、選択権があるんだよ」
 潤んだ目が族長の燃える炎を見つめ、目を逸らした。
 「一つだけ、お願いしても、よろしいですか?」
 白黒の尻尾が、錫より暗い足の先を撫でた。
 「ウィートフィールドの小屋に、住みたいのです」
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投稿 by Murre Sat May 07, 2022 3:52 pm

第22章 前半
 「ティン!」
 「こんにちは、ウォーターペルト。また弟子を持ったのね」
 「そう。オリビンポー【橄欖石足】よ」
 少し疲れたようだったティンの顔がぱっと輝いた。「こんにちは」とオリビンポーが小さく言った。
 「ブレイズストーム呼んでくるわね」
 「いいわ、私も行く。族長に話があるの」
 ウィートフィールドの小屋からはるばるやって来たティンは、深刻そうに顔を曇らせた。
 「ウェザー族に襲われませんでした?」
 歩きながらオリビンポーがティンに尋ねた。愛おしそうな顔をしたティンは、とても幸せそうでもある。
 「ええ。ウェザー族の縄張り内に、私達の家があるからね」
 一年と数か月前、ティンは居るべき場所―ウィートフィールドの居る、ウェザー族の縄張り内の小屋―に行き、時々マウンテン族を訪ねる、という体制を採り始めた。私も、ブレイズストームも年長戦士の仲間入りをし、二番目の弟子を持った。この子達ももうすぐ戦士にしてやれそうだ。
 「ティン!いらっしゃい」
 亡くなったグリーンハートの後を継いだシャイニングスノウが、長老の一員となったオークウィングの、来訪者の知らせに、一番に顔を出した。シーサイドアイ【海岸目】が保育部屋から顔を出し、引っ込めた。
 「ようこそ、ティン」
 「ハンドライフ、重大なの」
 やや焦りぎみの声に何かを察した族長は、ティン、シャイニングスノウと共にスタールームに入った。
 ティンの尻尾が消えると同時に戦士部屋から顔を突き出したのは、フェザーポー【羽足】を弟子にもらったブレイズストームだった。
 「何かあったのか?」
 寝ぼけた声を出したブレイズストームに呆れ、オリビンポーはぐるりと目を回した。
 「ティンが来たのよ」
 「そうか!」
 琥珀色の目が純粋に輝き、私はこの猫と共に育ったんだと、改めて感じる。
 「けど、なんだか心配事がありそうよ」
 一族は元通りに活動し始め、青葉の季節の始まりに差し掛かった太陽がキャンプを温めた。午前のパトロール隊が戻り、ブラックストーンがカメットテイル【彗星尾】に声を掛けた。副長はその足で空き地の中心に立ち、午後の狩猟部隊を指示し始めた。名を呼ばれた者達は、グルーミングを済ませると、タイガの森へ足を向けた。
 「ブラックストーン!」
 ハンドライフが副長の名を呼んだが、ブラックストーンは既に森に出掛けていた。
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投稿 by Murre Sun May 08, 2022 3:06 pm

第22章 後半
銃声が数発立て続けにどん、どん、どん!と鳴り、森が変に静まり返った直後、長い雌の叫び声が空を破った。
「ブレイズストーム、ウォーターペルト、ヴァルケイドレインジ、行け!」
私達はハリエニシダの茂みを抜け、ウェザー族との境界線に向かった。まだ晴れた空に一筋、青白い煙が立ち上っているからだ。
「来るな!」
ブラックストーンの苦しそうな声に、私達は止まった。元指導者の姿を見て、ブレイズストームは小さく唸った。
ブラックストーンの濃灰色の体にはべっとりとした血が付き、それが流れ出ている所は、向こう側の幹が見えるくらい貫通していた。持ちこたえていたのが不思議なくらい血の水溜りができ、ついに副長は脚を折った。
倒れた副長の後ろには、首が鉄の輪に噛まれて食い込んでいるアイスファーの赤い姿があり、下を鳴らす音と共に<二本足>が立ち去って行った。
「あああああっ!!」
ブレイズストームはブラックストーンを揺さぶり、走り、アイスファーを苦しめる鉄の罠に歯を立てた。
「<二本足>のせいだ…」
傍には震えて弟子をかばうようにして蹲っていたクレーターストリーム【火口の流れ】と、弟子のレボリューションポー【革命足】が居て、舌を噛みながら一部始終を話した。ヴァルケイドレインジは、シャイニングスノウを呼びに走ったが、看護猫がクモの巣を大量にまいて到着した。
「ブラックスト-ンも、アイスファーも、助かるよな?」
なすすべもなく、ただ周りを彷徨うブレイズストームは、シャイニングスノウに何度も問うた。ペルシャ猫は視線を落として首を振った。
アイスファーの首を絞めていた鉄は、棒を掘り起こすことによって緩み、亡骸をキャンプまで運ぶことが出来た。ブラックストーンは、心臓を撃ち抜かれていた。
「ブラックストーン、アイスファー…」
ハンドライフが副長の死にショックを受け、戦士を失ったことに心を痛めた。
通夜は全員が最後まで残り、真夜中になった。
長老のデンジャラスクローが、連れ合いを失ったダブルテイルに寄り添いながらそっと促した。
「月が、昇ったよ」
泣き腫らした族長は力無くナイトスカイロックに登り、ルナクランに呼び掛けた。
「ブラックストーンとアイスファーの遺体の前で発表する…。ブレイズストームを副長に任命する」
近しい猫を二匹同時に失った新しい副長は、呻き、耳を塞いだ。
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投稿 by Murre Fri May 13, 2022 5:48 pm

第23章
少し寝たら気は楽になった。なにせ、シャイニングスノウが「数時間でも寝て、明け方、夜明けのパトロールを指名するのよ」なんて促すからだ。大切な猫の通夜、最後まで参加できなかった。
長老達によって運ばれた、亡骸のあった場所には、強い死臭のみが残り、ブラックストーンの川の小石のにおいと、アイスファーの嗅ぎ慣れた安心するにおいは、もうどこにも残っていなかった。
「アイランドスパイダー、夜明けのパトロールを率いてください。ラットペルト、朝の狩りに行ってきてくれますか」
二匹の戦士は快く頷き、哀悼の目を僕に投げた。
ひと眠りしたかった。
今晩は浅い眠りしかやって来てくれず、気持ちの整理が全く追いついていなかった。
準備の整ったに二つの部隊を、族長は引き止め、全ての猫を早朝に起こした。フェザーポーとオリビンポーがくっついて出てきた。
「昨日、集会が出来なかったから、もう全員知っているが、忠告する。これは昨日、ティンが教えてくれたのだ」
誰もがハンドライフの言葉の続きを理解していた。
「<二本足>が侵入している。理由はウェザー族のゴッドエンペラーの命を狙っているからだと、ティンが言っていた。<二本足>は、俺達の境界線を知らないから、ウォーター族以外の三部族全ての縄張りに昨日のような罠を設置し、時々銃を持って森にやってくると」
シャイニングスノウが、ルナクランからのお告げが降りなかったことを恥じるように目を下げた。
「必ず戦士三匹以上、見習いは戦士と共に行動しろ。長老、母猫、子猫はキャンプから出てはならない」
アイランドスパイダーがスターフライト【飛ぶ星】を呼び、緊張した面持ちで三匹になった夜明けのパトロール隊を率いた。
遠くで銃声が聞こえたような気がした。
 
「体調、どう?」
心配そうな藍色の目に覗き込まれ、顔から火が出た。
「あ、うん。ケシの実が効いたよ」
本当だった。集会の後、シャイニングスノウがケシの実をウォーターペルトに持たせてくれた。そっと起き上がると、イバラの隙間からオレンジ色の斜陽が数本まばらに差し込んだ。
「フェザーポーは私とリフレッシュテイルで訓練場まで連れて行った。勿論、ベリーフラワーも居たわ」
ウォーターペルトは慌てて付け足した。
「ありがとう」
「いえ」
ぎくしゃくと単調な会話が終わり、数秒沈黙が流れた。無事だったアイランドスパイダーが寝返りを打った。
「ブレイズストーム、リス取っときましたよ」
狩猟部隊に加わっていたハッピーパールの子のアッシュレパード【灰の豹】が戦士部屋の入り口を塞いだ。
「ちょっと、どけてよ」
可笑しく目を輝かせたウォーターペルトが「じゃ、食べてね」と言って若い戦士と共に戦士部屋を出た。なんだか、言葉で言い表せない感情がじわじわ沸き上がった。
リスを目の前にし、少し感情を落ち着ける。
あと三回寝たら、副長として初めての大集会だ。ゼイファイトライフは、どう反応するだろう?母さんが亡くなったこと、どう反応するだろう?僕の立派な姿、見せないと。
自然とリスに、爪が立っていた。
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投稿 by Murre Sat May 14, 2022 12:59 pm

第24章 前半
しんがりを務めていた僕は、全体の最後に島に上陸することとなった。水は周りの熱を受け取ることなく、ただ、冷たい。僕はウォーター族のスプラッシュヘルプ、ホウル族のクロウリブズインウェスト、ウェザー族のゼリーフィッシュポイズンの居るルナツリーの根元に向かう。興味津々の三対の目は、僕からハンドライフに移された。
「これから、大集会を始める」
ハンドライフの発言に、ウェザー族族長のワールドライフ【世界の命】が頷いた。
「マウンテン族では、ティンの忠告を受け取る前に、ブラックストーンが撃ち抜かれ、アイスファーが罠にかかって命を落とした」
島には、哀悼の声と沈黙が混ざり合った月光が落とされた。銀色の光はゆっくりと粉を散らし、月の海は速度の遅い回転により形を変えている。自分達はここに居るよ、と地上の者に知らせているのかもしれない。
「そこで、ブレイズストームが副長になった」
ブレイズストーム!と声を上げてくれたのは、僕の最初の弟子のアイヴィーテンドゥリル【蔦の蔓】だった。ちらと目を上げると、ゼイファイトライフがまだ、アイスファーの死に打ちひしがれているのが見えた。
声が止むと、ハンドライフが一言、付け加えた。
「罠の対処法が有ったら、知らせてほしい」
ハンドライフの影が小さくなるのと同時に、ワールドライフの影が枝から伸びた。
「知っての通り、ゴッドエンペラーが狙われている。狙われていることがわかったわけは、<二本足>の家から飛んできた、文字がびっしりと詰め込まれている薄っぺらい幅広の紙の中に、狙われているゴッドエンペラーの姿を映したものが、貼り付けられていたからだ」
ゼリーフィッシュポイズンがずっと前足の下に置いてあったくしゃくしゃの皮を、良く見えるように掲げる。
「ウェザー族縄張り内ではしょっちゅう銃声がし、罠も至る所に仕掛けられている。また、ゴッドエンペラーはウィートフィールド達の家に避難している」
ワールドライフはハンドライフに共感だと頷くと、脚を動かしながら説明した。
「罠の口に、枝をーできるだけ長いのーを仕掛ければ、口が閉じる」
続いてウォーターライフが立ち上がり、嬉しそうに口を開いた。
「スカイブレイクを、我が一族に迎え入れることにしました」
言われてウェザー族の塊を見ると、確かにスカイブレイクの空色の体は見当たらない。
「このことは一族の多数が受け入れてくれました。そしてー」
ウォーター族長が一瞬言葉を切った時に、スネークスワンプが隣のリヴァースウィムに耳打ちしたのが見え、少数派の気持ちが垣間見えた。
「ウォーターペルトも歓迎します」
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投稿 by Murre Sun May 15, 2022 2:29 pm

第24章 後半
突如行われた指名に、ウォーターペルトは首の毛を逆立たせ、僅かに爪を立てた。その爪は段々と伸び、軟らかい地面に爪が吸い込まれるように消えていく。
「個人的な話は、後でしてください」
ウォーターペルトは目に迷いを浮かべながら、きっぱりと言った。ウォーターライフは少しショックのように目を泳がせたかと思うと、ごめんなさいと頭を下げた。
「そうねーウォーター族は、以上です」
最後に慣れた素振りでゼイファイトライフが立ち上がり、報告をつらつらと重ねた。
「イノセントレジスタンス【罪の無い抵抗】とアゼイリャシュラブ【ツツジの低木】が戦士になり、この大集会に来ている」
片目が濁っている雄猫と、淡い桃色の目をした雌猫がちょこんと礼をし、ゼイファイトライフに注目が戻った。
「ホウル族では、罠は一つしか見られなかった。これで、大集会を終わろう」
ゼイファイトライフの、月まで呼びかけるような穏やかな声で、再び異なる部族間の会話が始まった。月は猫の背中を優しく照らし、いつものように沈んでいく。
ホウル族とウェザー族の塊が多い方向の葦が割れ、ウィートフィールドだと誰もが認識した。小麦色の目に秘められている濃い焦げ茶の瞳孔は、満月のみの暗さなのに、ぐっと細くなっている。
雄猫はルナツリーから降りてきて部族間の交流を眺めている族長と、その傍に居る僕達を見つけると、驚く猫の群れを肩で押し分けながら進んできた。
「ウィートフィールド」
良くない予想が当たったのだろう。ウェザー族の看護猫のマウンテンスノウメルト【山の雪解け水】が、シャイニングスノウやリヴァーサイド、ランプセイヴに一言かけ、場を離れてきた。
「マウンテンスノウメルト、君にならお告げは降りただろう」
若い雄猫は首を振った。
「ワールドライフ、ゴッドエンペラーは連れ去られました」
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投稿 by Murre Mon May 16, 2022 5:04 pm

第25章 前半
「ハンドライフ、お帰りなさい」
見張りをしていたリフレッシュテイルが、尻尾を激しく振り動かし一族を迎えた。
「ブレイズストーム、シャイニングスノウ」
大集会に参加した一族は、ハリエニシダの茂みを抜けると一目散に駆け出し、部屋で丸まったり、キャンプに残った者達に情報を伝えたりした。
「族長」
僕の言葉に、首を振った。シャイニングスノウも首を垂れる。
「ウェザー族は、戦士を失った。辛いだろう」
「でも、ウィートフィールドは、”殺された”ではなく、”連れ去られた”と言っていましたね」
看護猫の、鍛え抜かれた目が、暗い部屋内できらりと光った。
「あまり言いたくないのですが、疑ってみたら、と思います」
ハンドライフは何を思い出したのか、低く呻いた。ウィートフィールドを噓つきだと疑いたくない理由があるのだろうか。
「ハンドライフ」
妙に震えた声が、苔のカーテンにいくらか吸収され、更に細くなった。ハンドライフは僕とシャイニングスノウに頷きかけた。
「お入り」
ウォーターペルトとすれ違い、心臓がきゅると鳴った。馬鹿な。僕は他の猫といい関係を持っている幼馴染に恋をしているわけがない。
耳や頭に当たる苔のひやりとした感触に、先程の水のような冷たさを思い返し、ウォーターペルトの心配そうな目が脳裏に浮かんだ。
ぶるぶると頭を振る。僕は副長だ。今、たかが猫一匹のために神経を向けられるほど暇ではない。明日、夜明けのパトロールは誰に率いてもらおうと考えながら毛づくろいしたら、どうしても睡魔に勝てず、脳の思考が止まった。
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投稿 by Murre Tue May 17, 2022 5:03 pm

第25章 後半
「ブレイズストーム」
耳をぱしと叩かれ、跳び起きる。もしかして、一日寝過ごしてしまったか?
離れようとしない瞼を無理やり引きはがすと、三毛の顔に緑白色の目が付いていた。
「やあ、リフレッシュテイル。もしかして、僕、パトロールの指名遅れましたか?」
「いえ、そうじゃないのよ。ただ…今日、山に狩りに行かないかと思って」
リフレッシュテイルのまごついた誘いの背景に深い黒いものを感じ、右前脚をそうっと引っ込めた。
「ごめんなさい。僕、夜明けのパトロールを率いようと思ってたんです」
リフレッシュテイルは少し目を陰らせると、頷いた。
「そうね、あなたも仕事があるわね。ありがとう、頑張って」
リフレッシュテイルの白と茶、黒の尻尾はイバラの囲いをするりと抜けた。
ハンドライフに山の方に狩りに行ってもらおうと考えていたのにとっさに言えなく、失敗した、と反省した。背中をさっと低め、直ぐに日の良く差した空き地に飛び出した。
 
「ハンドライフ!」
白い朝日に目を細めていた族長は、ナイトスカイロックを降りた。
「山のパトロール隊を率いてもらえませんか?ヤギ族との交流も含めて」
橙色の目に悲しみが表れ、消えた。族長は静かに言った。
「<二本足>は立ち去るのを止めただろうから、戦士三匹以上は解除してもよさそうだな」
僕も、言葉の裏に触れ、悲劇のゴッドエンペラーの後世を思う。あの猫は数回大集会で見たのみだったが、輝く金色の毛皮と、宝石のような黄金色の目をしていて、長い首周りの濃い茶の毛は、伝説の獅子を思わせた。
「それで、リフレッシュテイルとインディゴウダイポー【藍の染料足】を誘って狩りもしていただきたいです。僕はパトロール隊を率います」
ハンドライフは頷き、一つ訂正した。
「夜明けのパトロール隊は、もうウォーターテイルが率いているよ」
「ありがとうございます」
寝坊してしまったことに対し、今日は二回狩りに行こうと心に決めた。
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投稿 by Murre Fri May 20, 2022 9:01 pm

第26章 前半
短い午前中で狩りを済まし、大きなウサギと太ったリスを一気に咥えてキャンプに戻り、戦士部屋の脇の、揺れる木陰にそれらを積み上げ、再びキャンプを後にした。
丘でウサギを素早く仕留めた後、雪が急速に溶けている山に目を向けたが、三匹の下山の黒い姿はまだ見えなかった。ヤギ族に草を大量に運んでいるのだろうと、干し草の味を嫌でも思い出した後、一族に対し起こしてしまった失態を取り戻すべく、ウォーター族との境界線にマーキングしなおした。
どこかで、鳥のような尾を引く、甲高い鳴き声が響いていた。
 
「まだ戻ってない?」
クレーターストリームは僕のぴりついた声に首を縮ませ、頷いた。
「ごめん」
僕はぼそっと呟いて、同期の肩に尻尾をかけた。
「シャイニングスノウ!お産が始まった!」
シーサイドアイの連れ合いのバーンイーグル【燃えるワシ】が看護部屋に駆け込む姿がスローモーションで網膜に映された。姉の初出産にクレーターストリームは目を輝かせ、保育部屋の入り口付近に座った。
頭が長時間温められていたように、ぼわんと、朦朧としてきた。族長はまだ、お戻りになっていない。もしかしたらの最悪の事態に、黒い闇から出てきた一匹の僕が、きんきん声を耳元で響かせた。
『族長が死んだら、僕が族長だ』
当たり前のように、白い方から明るいオーラを纏ったもう一匹の僕が、黒い僕を押しのけ、囁いた。
『だめだ。助けに行かないと。族長はもう、最後の命なんだ』
でも…と本物の僕が割り込む。僕がキャンプを離れたら、一族を守る者は数名の戦士になってしまう。それに、いつ気が変わって他部族が攻めてくるかなんてことは、ルナクランにしか分からない。
「アイスファー、ブラックストーン」
僕は昨日とほぼ変わらないルナクランの縄張りを見上げ、助言を求めた。
二匹は、僕が看護猫ではないからと聞く耳も持たなかったようだ。
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投稿 by Murre Sat May 21, 2022 8:33 pm

第26章 後半
寝ずに山方向の入り口でキャンプの番をしていたが、ネズミの足音一つ聞き取れやしなかった。長年噴火により蓄積されてきた、灰の溜まり場に眠っていた汚れた灰が、若葉の季節の変わりやすい天候に身を任せ、強い風に運ばれていった。
数日前は雲一つない晴天だったのに、真夜中近くから急激に気温が下がり、風が強く吹き始めた。
ルナツリー側を見ていたムーンクリスタル【月水晶】が毛を膨らませながらラットペルトと交代した。
 
「もう、夜明け前よ」
からからと笑う声に、目が覚めた。息がかかるくらい近くにウォーターペルトが居て、夜明けの灰色を跳ね返しながら美しい藍色の目を輝かせていた。
「あ、ありがとう」
「私、夜明けのパトロール率いるわ。ブレイズストーム、最近、なんだかとても疲れているように見える。今日、族長の捜索隊を出したら、十分な睡眠を」
戦士部屋から出てきたアッシュレパードを見ると、ウォーターペルトは言葉を切った。少しでもいいからまだ話したいと感じ、ウォーターペルトに行った。「捜索隊、君も行かないか?」と。
水色の戦士は足を止めると、振り向き言った。
「ブレイズストーム、あなたが行ってどうするの。あなたは副長なのよ、キャンプを守るの」
振られた尻尾の意味も考えず立っていると、二匹が、二匹のみでタイガの森に向かうのが見えた。
悔しくなり、山に叫びたくなった。ハンドライフ、戻って来てください!と。
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投稿 by Murre Sun May 22, 2022 3:49 pm

第27章
ウォーターテイル、ヴァルケイドレインジ、アイランドスパイダー、ラットペルト、カメットテイルをハンドライフ、リフレッシュテイル、インディゴウダイポー捜索隊として送り出した。
「雪崩に気を付けて」
ヴァルケイドレインジの連れ合いであるベリーフラワーが、子供達と一緒に声を掛けた。年長の雄猫は緊張した面持ちで尻尾を振った。
「ハンドライフを、見つけて…」
ラットペルトは、族長の妹にしっかりと頷いた。
「僕はキャンプを守っている。今日は曇りだから、そんなに高温にはならないと思うけど、雪崩には十分、気を付けてくれ」
リーダーに任命したウォーターテイルはしっかと頷き、悲しくウォーターペルトの背中を見ながら言った。
「行ってきます。さあ、行きましょう、皆!」
五匹はハリエニシダの茂みを潜り、山へ続くぐしゃぐしゃの道を一歩一歩慎重に、確実に進んでいった。僕は少し見つめているとなんだか心が虚しくなって、ナイトスカイロックに登った。ここなら少しでも長く彼女らを見ていられるし、ハンドライフの命も感じられるだろうと、少しの、ほんの少しの希望を考えたからだ。
長年雨風にさらされている状態により、角が取れ、平らになった岩に爪を掛けた。もう、ハンドライフの温もりは感じられず、岩はただの静物のように、僕が乗ったことに何も反応を示さなかった。
 
追加で五匹の戦士が不在なおかげで、残った猫の仕事は一・五倍に増えた。しかも、困ったころにあと数日でベリーフラワーの子のフェニックスフェザー【不死鳥の羽】の初めての子供が六か月に達し、命名式が待っている。太陽が昇り沈みの繰り返しを数回終えるまでに族長には戻ってもらわないと、子猫達を見習いにしてやる長がいない。
「ブレイズストーム、オリビンポーとフェザーポーを一気に戦闘訓練してもらえないかしら?私、今日の狩猟部隊に当たってて…」
ナイトスカイロックの前で一族に指示を出し終わった僕に、ウォーターペルトがおずおずと申した。少し離れた所では、早くと催促するように前足を動かすアッシュレパードが居た。ウォーターペルトは灰色の雄猫をちらりと見ると、付け足すように言った。
「アッシュレパードが二匹で行こう、と譲らないのよ。ぜひ、フェニックスフェザーの子を彼に与えてやってほしいわ」
「ハンドライフは死んでない!」
アッシュレパードにべったりのウォーターペルトに腹が立ったわけではないが、最近のストレスを彼女にぶつけてしまった。僕の怒鳴り声に出掛ける支度をしていた他の猫達もびくっと体を固め、こちらを見た。
「ごめん、分かった。良いよ、僕が連れていく」
「ありがとう、あの…」
僕はウォーターペルトの言葉に耳を塞ぎ、二匹の姉妹見習いを呼びに行った。
後ろめたい感情が含まれた刺すような視線からすぐに解き放たれたので、ウォーターペルトとアッシュレパードはトンネルを抜けたことが目を使わなくてもわかった。
見習い部屋に顔を突っ込むと、二匹の毛はとっくに舐められ、準備は完璧だった。
「ウォーターペルトから聞いたかもしれないが、オリビンポーも一緒に訓練だ」
僕の無理矢理繕った笑顔に、見習いは気まずそうに顔を見合わせた。
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投稿 by Murre Mon May 23, 2022 4:14 pm

第28章 
あれから太陽が二回昇った。
ブレイズストームには話そうとしているはずなのに、アッシュレパードを見るとすぐ不機嫌になり、私の声に耳も傾けてくれない。もうそろそろ、一族も疲れている、と副長に申そうとしたら、山側の入り口が揺れた。ブレイズストームは、ナイトスカイロックの下でうつらうつらとしていたが、ウサギが追い付けないほどまで逃げてしまうくらいの音量だった葉の擦れる音に、はっと琥珀色の目を燃やした。
あの目の中の炎は何?
考える間もなく、やっと五匹と三匹が帰って来たのね!と気分が上がった後、一族の肩は一気に落ちた。
「あら、ごめんなさい、でも、帰って来たわ!」
スターフライトが興奮したように鼻腔を膨らませた。落胆した一族の感情も、またプラスに上がった。
「ブレイズストーム!」
一番にキャンプに飛び込んだのは、ハンドライフ、ではなくウォーターテイルだった。続けて後ろ向きのアイランドスパイダー、咥えられた小さな体、ラットペルト、カメットテイル、見慣れた黒白の体、ヴァルケイドレインジと入り、キャンプの入り口は再び狭くなった。
「ああ、インディゴウダイポー!」
ベリーフラワーが、息のために肺が上下することの無い息子の姿に、慌てて近づく。
「フェザーポー、オリビンポー、スターフライト…」
連れ合いの遺体が置かれたのを見て、ラットペルトは部隊に加わらなかった娘達を呼んだ。カメットテイルも嘆く体に寄り添い、静かに涙を流した。
クレーターストリームに呼ばれてレボリューションポーがパトロールから連れ戻され、すっかり冷めた弟の体に、愕然と立ち尽くした。
「ブレイズストーム、いや、ブレイズライフ、弔いましょう」
副長と一緒に今か今かと待っていたシャイニングスノウが、背中を丸める副長をつついて促した。
「え?ああ、そうだな。今夜、通夜をしてやろう。長老の皆が、手厚く葬ってくれる」
「リフレッシュテイルは?」
私はブレイズストームの言葉が終わるのを聞いて、元捜索隊に尋ねた。ウォーターテイルは首を振り、目を暗くした。
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投稿 by Murre Tue May 24, 2022 7:03 pm

第28章 後半
「ハンドライフとインディゴウダイポーは、峡谷の下で死んでいたの。多分、足を踏み外したんだわ。リフレッシュテイルは…タカやワシに持っていかれたのかもしれない…」
「そう…」
私を含めたマウンテン族の猫は、悲しく項垂れた。
「シャイニングスノウ、明日の夜、ルナツリーに行こう。今夜は、仕事があるから」
「はい」
看護猫は丁寧にもう一度診察し、目を涙で光らせながら死亡を宣言した。
まだ正午なのに辺りは暗く、風が外に出ている猫の毛を、四方八方に乱した。
 
私は、死んだ二匹の猫のすぐ横で声を掛け、思い出に浸る家族たちを横目に、ナイトスカイロックを見ていた。ブレイズストームはまだかしら?スタールームの苔のカーテンは、若葉の季節特有の風に激しく煽られているだけだ。シャイニングスノウが尻尾を震わせた。
「ブレイズライフ」
「僕はまだ、九生を授かっていない」
枯れた湖のような声には、恐怖と悲しみが半々に入っていた。ブレイズストームは一体何に怯えているのだろう?
「副長を任命しなくては」
「分かってる!頭で分かっても、心の整理が全く追いつかないときって、あるだろう?まだ僕は副長になったばかりだったのに。シャイニングスノウ、君もグリーンハートを亡くした時、こんな気持ちだったかい?」
看護猫は目を潤ませると、よりスタールームに近づいた。
「アイスファーも、ブラックストーンも、ハンドライフも、月からブレイズストームを見守っているんです。グリーンハートも同じです」
濃い琥珀色の目は、優しく夜空を見上げた。
「さあ、一族が待っていますよ」
ブレイズストームはスタールームを出、ナイトスカイロックの上で招集をかけた。
「副長を任命する時が来た」
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投稿 by Murre Fri Jun 10, 2022 9:21 pm

第29章 前半
出産を終えたシーサイドアイまでもが新たな副長の誕生に息を呑んだ。
「まだ近くに居るであろうハンドライフとインディゴウダイポー、リフレッシュテイルが、僕の選んだ者の名を聞き、承認してくれますように」
ラットペルトが、連れ合いの後任者の声に、ようやく顔を上げた。
「ウォーターテイル!」
元姉は、まさか!というように顔を上げた。飛び出さんばかりに開かれた目には、みるみるうちに喜びが広がった。
「私で、良ければ」
「ウォーターテイル!ウォーターテイル!」
「おめでとう!」
元指導者を一番に祝福したくて、雷よりも速く走り、倒すように飛びついた。
「ありがとう」
ウォーターテイルは脇腹を強く押しつけると、ナイトスカイロックの前まで言って一礼した。心なしか新副長からは振動が伝わってきた。
ウォーターテイルはその後数分間は「おめでとう」の声に揉みくちゃにされ、嵐が去った後の目には喜ばしい疲労が浮かんできた。それもそうだ。二、三日山に滞在し、岩や崖の上り下りをしていたのだから。
「夜明けのパトロールはムーンクリスタルが率いて。クレーターストリームとバーンイーグルも行ってくれる?」
指名された猫は頷き、数時間の仮眠を取りに部屋に入った。
「狩猟部隊は朝に決めるわね。通夜の猫もいるし…」
副長は語尾を濁すと、年下の族長を見た。ブレイズストームはもう一度ハンドライフの鼻づらに自分の鼻づらを押しつけると、ウォーターテイルに声を掛けた。
「狩猟部隊は僕が率います。捜索隊は明日、好きなだけ休んでください」
ウォーターテイルは頷き、アイランドスパイダーとヴァルケイドレインジにも明日は休みだと言った。ラットペルトとカメットテイルは通夜に付きっきりだったから、後ででもいいだろうと気遣いを存分に発揮した。
 
「二匹で狩りに行きたいんだ」
自ら見張りを申し出、星の動きを無心で見ていた私に、ブレイズストームがそっと言った。私は断ろうか一瞬迷い、目を見て返す。
「久しぶりだね」
同期の族長は、ほっとした表情で尻尾を振った。
「そうだね」
私達、ホウル族の縄張りに居た時や、戦士になる前は壁無く話せていたのに、私がアッシュレパードを受け入れるようになってからは急に隔たりが出来てしまった。
「もう行ける?」
足に<二本足>の接着剤を付けられたのかと思ってしまうくらい固まったブレイズストームの耳を弾き、族長のお耳を叩いてしまったことに、はっと手を引っ込めた。
「行けるよ」
目を反らしながらブレイズストームが言った。
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投稿 by Murre Sat Jun 11, 2022 2:14 pm

第29章 後半
「私、迷ってるの」
ブレイズストームの琥珀色の目から逃げながら、呟くように言う。数秒置いて、返事が返ってきた。
「ウォーター族のかい?」
「そう」
私はブレイズストームと同時に足を止めた。今度は、燃える琥珀色の目を逃げずに見つめる。
「私、父も母もウォーター族になったし、姉だって形だけだった」
「そうだな」
「一緒に考えてほしいの。あなただけなの。今近くに居るのは。私と同じ日に生まれたのは、シーサイドアイでも、クレーターストリームでもなく、あなたなの!」
じっと見つめていたのに、火の目からは逃げられた。ブレイズストームのしゅっとした横顔に、星の煌めきを胸の中で感じる。
「僕は、母がマウンテン族だったから、辛うじてマウンテン族にしがみ付いていられるけど、君は…」
「全くのよそ者だと言いたいのね!」
一番の同期に私の血が否定された気がして、月ほどにまで膨らんでいたきらめきが、音を立てて萎んでいく。期待していた返事が得られなかったことで、私の心の何かががらがらと崩れた。
「そう!あなたはもう族長になれたら、他の戦士の事は真摯に向き合わないのね!」
「そんなこと言ってないだろ!僕だって真剣に考えてる。誤解してるのは君だろう?」
「ブレイズストーム、あなたなら…!」
分かってたはず、なんて言えなかった。悲しかった。
アッシュレパードより、何倍も、何十倍も好きなブレイズストームは、どこか私を見てくれない遠くまで行ってしまった。
「この部族に、私の血縁者はいないのよ!」
目の前がぼやけ、私の弾いた尻尾がどこに当たったかもわからない。
ただただ、マウンテン族を去りたかった。
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投稿 by Murre Sun Jun 12, 2022 8:20 pm

第30章 前半
俺は数歩追いかけ、止めた。ウォーターペルトは本気で悩み、俺の一言で苦しめてしまった。昔のように笑いながら話すこともできず、言い争いでウォーターペルトを出て行かせてしまった。
目の端を拭うと、肉球が湿り、それは止まることなく地面に落ちた。
「ウォーターペルト…」
彼女が消えた方向に、涙が止まってから向かう。今この瞬間、そこのヒースの茂みの陰で笑いを堪えながら俺を待っていたりしないだろうか?笑いながら俺の耳をぽんと叩いてくれないだろうか?
勿論、ヒースの茂みに美しい水色の体が香箱座りしている訳なかった。日陰は虚しく湿り、爪に細かい土が数粒入った。
くねくねと歩いていた俺は、ようやくウォータ族との境界線に辿り着いた。川は俺達の事など関係無しに、通常通りに変わらず流れている。ちょっと覗き、足を入れるとオイカワの鱗が光を散らし、その破片が目に入り、思わず足を引っ込めた。
川までもが憎らしくなり、背を向け丘に登った。青々とした弾力のある草を食んでいた野ウサギが一羽、驚き逃げて行った。朝日が丘を柔らかく照らした。
丘から見ても、葦に囲まれたウォーター族のキャンプ内の様子は確認できず、ウォーターペルトの母親似の毛皮も動いている様子もなかった。
「ウォーターペルト、ごめんよ…」
誰もいないと知っていながら、隣に居るように謝る。許しは返ってこなかった。
「ハンドライフ、俺は、どうすべきだったでしょう?」
ルナクランは見えない。ハンドライフの体も、感じられない。
「夜、何か申してくださいね」
今日九生を授かり、族長名を頂くことに光など感じられなかった。ただ、心に空いた穴に、丘の風が吹き抜けるだけだった。
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投稿 by Murre Mon Jun 13, 2022 8:10 pm

第30章 後半
キャンプに戻ると、アッシュレパードが一番に駆け出てきて、首を伸ばし後ろを見た。水色の雌猫が居ないことに少し目を細め、俺に聞いた。
「ウォーターペルトは、後で来ますか?」
「ウォーターペルトは、来ないよ」
俺は首を振り、咥えたウサギを穴に落とした。獲物置き場には昼前だが山のように積まれている命奪われた動物が、次第に冷めていく姿があった。
埋めておいたツグミなどを取りに戻ろうと、もう一度入り口に向かう。アッシュレパードが「族長」と俺を再び引き留めた。
「ウォーターペルトはもしかして…」
「後で言うよ。君は兄妹とグルーミングしてたらどうだ?」
半ば唸り声で返し、若い戦士はたじろぎ、尻尾を巻いた。ちょこんと頭を下げて、戦士部屋に戻るのを横目で見て、ハリエニシダの茂みを潜った。日光が俺を恥じるように降り注いできた。
 
一日はあっという間だった。分厚い雲の下、太陽が日没の準備を始めた頃、俺はシャイニングスノウを呼びに行った。ペルシャ猫はネズミの胆汁のにおいをさせながら近づいてきた。
「ごめんなさい。ルナツリーの手前で洗いますから」
俺は頷き、先立ってキャンプを出た。見張りをしていたクレーターストリームが頷いた。
 
ルナツリーは大集会の時と違い、冷たく、静まり返っていた。月、と思い空を見上げると、どんより垂れ込める灰色の雲に覆われているだけで空が成り立っていた。
「時間になったら、お教えします」
シャイニングスノウは目を閉じ、俺に見えない何かを待ち始めた。すぐ登れるよう、ルナツリーの一番高く盛り上がった根に右足を置き、木の生命を感じる。
どく、どく、どく…木の脈が永遠と続く…どく、どく、どく…
「今です!」
シャイニングスノウの目がかっと見開かれ、目には空に出ていない月の影がさっと映った。
俺は木に爪を立て、一歩一歩慎重に上る。いずれはこれに慣れてしまうのか…と考えながら緊張を嚙み締める。木の、できる限りの頂上に着き、枝の先の方へ進む。看護猫が突然喋りはじめ、ルナクランに呼び掛けているのが頭の端で分かった。もう、神秘の領域だった。
「あっ…!」
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