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Memory of Flower[完結]

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Memory of Flower[完結] - Page 6 Empty Re: Memory of Flower[完結]

投稿 by アイルステラ Wed Apr 08, 2020 9:24 am

【第30章】3

普段時間をかける食後の毛繕いの時間もそこそこに、3匹はネージュムーンを先頭に再び歩いていた。頭上からは美しく囀る小鳥の声が聞こえる。木々の隙間から差し込む初夏の日差しは地面をまだらに照らしている。

「不思議な花って歌によると、満月以外の夜には咲かないってことなのかな...?」

フルールスリートは辺りの音に耳を傾けながら尋ねる。


♪星の雫の落ちる場所

永遠に枯れないその花は

誰に知られることも無く

満月の夜に花開く


クォーツの歌っていた歌の歌詞を思い返すと、まるで普段は咲いていないかのようだ。

「クォーツは満月の夜に、って言っていたけど、フィーユはそんなこと言ってなかったよね...どっちが正しいのか分からないけど。」

ネージュムーンも記憶を辿りながら答えた。ムーンルキスも後ろから口を出す。

「そもそも、夜にしか咲かない花ってことも考えられるな。」

「私は不思議な力がどんなものかも気になるのよね!宇宙から来た力、なんて、想像もつかないわ!」

「僕はフィーユのお母さんが会ったっていう、花に力を与えた猫に会ってみたいな。まだ生きてるってことも全然考えられるから!」

楽しそうに話すフルールスリートとネージュムーンを、ムーンルキスは冷静に諫める。

「まずは不思議な花を見つけることが先決だ。水辺を見つければいいはずなんだが───」

「聞こえた!!!水の音だ!」

今回も一番早く気付いたのはネージュムーンだった。兄の言葉を遮ってしまったネージュムーンは、はっとして、申し訳なさそうにした。興奮した時のネージュムーンの癖をよく分かっているムーンルキスは、気にするな、と苦笑する。ネージュムーンは頷くと、水音に向かって足を速める。

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投稿 by アイルステラ Thu Apr 09, 2020 8:08 am

【第30章】4

水音に近付くにつれ、さらさらと聞こえてくる音がはっきりとしてきた。木立の先は開けているのか、木々の幹の間からは白い光が漏れ出している。ネージュムーンが一足先に開けた空き地へと踏み出す。

昼の光が踊るその空き地には、小さな池があった。一番奥の岩と岩の隙間から湧き出した清水が池へと流れ込んでいる。日に照らされてきらきらと輝いている水は綺麗に澄んでいて、水底の小石も光って見える。

「ここかな?」

ネージュムーンが期待を込めて尋ねた。まるでその言葉に応えるかのように、池の周囲に生えている草が優しく揺れる。

「かもしれないな。」

ムーンルキスがゆっくり頷き、フルールスリートを振り返る。しかし、フルールスリートは辺りを不安そうに眺めていて、何も言わない。ネージュムーンが不思議そうにフルールスリートを見るが、フルールスリートは気付いていないようだ。

「今朝は早かったから、月が昇るまでここで休もう。」

ムーンルキスはそっと言い、毛繕いを始めた。ネージュムーンは何か問いたげにフルールスリートを見るが、ムーンルキスが傍に来るように小さく合図すると、兄の隣に腰を下ろした。

フルールスリートは池の周りを落ち着きなく歩き回り、草の香りを嗅いでいる。その様子をちらっと見てから、ネージュムーンはどうかしたの、と首を傾げる。

「フルールスリートの名前の意味知ってるか?」

この言葉にネージュムーンは一瞬目をぱちくりさせる。ムーンルキスの前置き無しで本題に入る話し方には慣れているつもりだったが、それにしても唐突だ。そう思いながら、ネージュムーンはいつも通り兄に答える。

「考えたこともなかったけど...スリートはみぞれだよね?」

「ああ。そして、フルールは花だ。」

ムーンルキスの言おうとしていることを察したネージュムーンは、驚きで目を見開いた。

「ムーンルキスはフルールスリートの能力が花に関係することだと思ってるの?」

声を抑えてネージュムーンは尋ねる。

「あくまで可能性だ。だけど、産まれた時に能力はわかるんだ。フルールスリートの親が能力に因んだ名前をつけていても不思議ではない。」

ネージュムーンはムーンルキスの深い青色の瞳を見つめた。いつもは冷静で落ち着いているムーンルキスだが、今、瞳の中には希望と期待の色が浮かんでいる。自分の瞳もそうなっているんだろうな、とネージュムーンは思いながら微笑んだ。

「きっと、今夜わかるよ。」

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投稿 by アイルステラ Thu Apr 09, 2020 8:09 am

【第30章】5

太陽の最後の光が空から消えた。空は徐々に濃い闇へと染まっている。恐らく月はもう昇り始めているはずだが、窪地の縁に遮られてまだ見ることはできていない。

ネージュムーンは池に到着して以来、ほとんど口を開かなくなっているフルールスリートを心配そうに見つめている。ムーンルキスはフルールスリートの能力と記憶について考えていた。

もしもフルールスリートの能力が本当に花に関係していることならば、今夜見ることができるかもしれない不思議な力を持った花の力。その力で能力、更には記憶まで取り戻せる可能性がある。そうなったらどんなに良いか、と思うが、ムーンルキスはあまり期待を持ちすぎないように、と自分を諌めた。

その時、辺りが僅かに明るくなった。顔を上げると、月が窪地の縁から顔を出したのがわかった。風が優しく吹き抜け、池の水面にさざ波を作り出す。その風の吹いた先を見ると、いつのまにあったのか、つぼみの付いた花が揺れていた。

フルールスリートが、まるで引き寄せられるかのようにそのつぼみに近付く。一言でも発したら溶けてしまいそうなその空気を消さないように、ムーンルキスとネージュムーンは静かにその様子を見守る。フルールスリートの鼻がつぼみに触れた瞬間、花びらがゆっくりと開いた。

フルールスリートは目を見開いて固まった。辺りには、初めて嗅ぐ心地の良い香りがほのかに漂っている。動きを止めたフルールスリートに困惑したように、ネージュムーンはムーンルキスを振り返る。

ムーンルキスは息を詰めてフルールスリートを見守る。動いているのは、風がに吹かれて揺れる白い花だけだ。ふいにフルールスリートの目に光が宿った。そして、もう一度花の香りを嗅ぐと、ネージュムーンとムーンルキスを振り返る。

「私はフルールスリート...アステル族の王家の娘...!」

そう言い切ったフルールスリートの瞳には、今まで兄弟が見たことがないほど強い光が浮かんでいる。

「フルールスリート...」

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投稿 by アイルステラ Fri Apr 10, 2020 11:26 am

【第30章】6

ネージュムーンは少し泣きそうな顔でフルールスリートに微笑みかけた。ムーンルキスは本当に嬉しそうにフルールスリートを見つめている。

「ありがとう、ネージュムーン、ムーンルキス。」

フルールスリートが涙で潤んだ目で必死に笑顔を作って笑いかけた。それでも耐え切れずに、俯いた瞳から涙が零れ落ちた。どうすればいいのか分からず、まごつくネージュムーンにムーンルキスは少し待つように合図する。

「大丈夫だ。落ち着くまで好きなだけ泣けばいい。」

「ごめんなさい...嬉しくて...でも怖くて...」

フルールスリートは頭を振って涙を払う。

「でも、もう大丈夫。」

そう言って、深呼吸をした。

「フルールスリート。本当によかったね。」

ネージュムーンがそう言い、フルールスリートに嬉しそうに近付く。

「ようやく全てを思い出せました。」

そっと頭を下げたフルールスリートにムーンルキスが尋ねようとする。

「能力は───」

「<花の使い>です。」

「そうか。」

ムーンルキスは嬉しそうに目を細め、やはりな、と小さく呟いた。フルールスリートは薄い紫色で縁取られた白い花に近付く。

「この花が不思議な力を持った花だったのですね。私を闇の中から連れ出してくださり、ありがとうございます。」

フルールスリートはそう言い、目を閉じて辺り一面に花が咲き乱れる草原を想像する。不意に足下の地面からほっとするような温かさを感じてゆっくり目を開くと、池の周囲は薄桃色の花畑に変化していた。

フルールスリートは満ち足りた気持ちになり、夜空に浮かぶ月を見上げた。月は今できたばかりの美しい草原を銀色っぽく染めている。ありがとう、と心の中でもう一度囁くと、草原の中で一際輝いている白い花が応えるかのように花弁を揺らした。

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投稿 by アイルステラ Fri Apr 10, 2020 11:26 am

【第30章】7

「ネージュムーン。ムーンルキス。」

フルールスリートが振り返ると、目の前が突然美しい草原に変わり、驚いている2匹がいた。フルールスリートは、ふふっと笑うと、しっぽで軽く花に触れた。その動きと共に桃色の花びらが宙へと舞い上がる。

「ネージュムーン、ムーンルキス。これが私の能力です。私は、あなた方のおかげで記憶を取り戻すことができました。それに、一緒に旅をするのはとても楽しかった。」

フルールスリートは花びらの渦の中で微笑んでみせた。その表情に涙はもうない。

「本当にありがとう。」

月の光が優しく3匹を照らしていた。

「僕達もフルールスリートと旅ができてすごく楽しかった。」

「ああ。だから、戻ろう。フルールスリートの故郷に。」

その言葉にフルールスリートは目を丸くする。

「いいの...?」

思わず漏れた言葉に、兄弟は力強く頷き返す。不意に香り立った爽やかな香りに、フルールスリートは目を瞬かせた。それと同時に再び薄桃色の花弁が3匹の周りで美しく舞い始める。

「やっぱりネージュムーンみたいに良い香りは私には作れないわ。それに、ムーンルキスみたいに綺麗に花びらも操れない。」

フルールスリートは笑いを堪えて言った。

「でも、3匹でいれば、こんなに綺麗な景色になるだろ?」

ムーンルキスの言葉にネージュムーンが笑顔で頷く。夜の草原が美しく彩られた。

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投稿 by アイルステラ Sat Apr 11, 2020 12:13 pm

【第31章】1

フルールスリートは夜の森の中を歩いていた。これは夢なのだと頭のどこか冷静な部分で考える。

以前の夢は真っ暗だったが、今の空は星々が散りばめられ、フルールスリートの歩く先を月が優しく照らしている。木立と開けた空き地の境に立ったフルールスリートは、月明かりに浮かび上がる一輪の白い花を見つけて微笑んだ。

不思議な力を持つ花に近付こうと空き地に足を踏み出しかけたフルールスリートは、突然その動きをピタリと止める。花の傍にいる一匹の猫の姿に気付いたからだ。その猫の後ろ姿にネージュムーンでもムーンルキスでもない、とフルールスリートは思い、首を傾げて問い掛けた。

「誰ですか?」

その声に驚いたように振り返った濃い青色の雄猫は、フルールスリートに気付くと、悲しげに微笑みかけた。

「フルールスリート様。もうお忘れですか?」

その表情、声、香り、全てが取り戻したばかりの記憶の中の猫と一致した。

「アクアステラ!」

喜びで目を輝かせながら、フルールスリートは木立から飛び出す。駆け寄ってきたフルールスリートを、アクアステラは優しく受け止めてくれた。2匹は互いに頭を擦りつけ合う。フルールスリートの目から一筋の涙が零れ落ちた。

「会いたかった...」

フルールスリートは呟き、アクアステラはフルールスリートの涙をそっと舐めた。

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投稿 by アイルステラ Sat Apr 11, 2020 12:13 pm

【第31章】2

辺りがふっと暗くなったのを感じたフルールスリートが、アクアステラの胸からそっと顔を上げる。

「月が沈みました。もうすぐ夜は終わります。」

思わず口を開きかけたフルールスリートの口を、アクアステラがしっぽで遮り、悲しそうに首を振る。

「フルールスリート様。待っています。」

東の空が白み始め、アクアステラの姿が薄れてきた。

「待ってください!アクアステラ!!!待ってるとはどういう意味ですか?」

その言葉と共に、朝日が白い花を照らし出す。
フルールスリートに微笑みかけ、アクアステラの姿は見えなくなった。



フルールスリートは朝日が昇り始めたことを敏感に感じ取り、そっと目を開けた。まだ薄暗い中で目に入るのは、自分の能力で昨夜作り出した薄桃色の花畑だ。期待していたわけではないが、草原の中央で輝く白い花の隣にアクアステラの姿はない。

小さく溜め息つき、フルールスリートは身体を起こして白い花に近付く。そして、花の隣に腰を下ろすと、ゆっくり毛繕いを始めた。僅かにアクアステラの香りが毛についているように感じる。

窪地の縁から朝日が差し込んだ瞬間、不思議な力を持つ白い花がゆっくりと花びらを閉じた。あまりにも自然なその様子に、フルールスリートは思わず見とれていた。昇ったばかりの朝日が池を金色に染める。

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投稿 by アイルステラ Sun Apr 12, 2020 12:12 pm

【 第31章】3

ムーンルキスは欠伸をしながら目を開ける。立ち上がり、大きく伸びをしながら何気なく隣を見ると、フルールスリートがいなかった。ムーンルキスは一瞬驚いて動きを止めたが、辺りをさっと見回し、フルールスリートの姿を探す。

目に届く範囲にいないことに焦りを感じながらも、ムーンルキスはまだ眠っているネージュムーンを鼻でつつく。眠そうな表情で見上げてくるネージュムーンに、フルールスリートがいないことを手短に伝えると、ネージュムーンは慌てて立ち上がった。

「いつからいない?」

「俺もさっき起きたところだ。」

ネージュムーンはさっと辺りを嗅ぐと、こっち、といいながら足早に進み始めた。ムーンルキスは弟の邪魔をしないように、一歩下がって着いて行く。ネージュムーンは池の傍で急停止すると、地面の匂いを丹念に嗅ぐ。

「ここで少し立ち止まって...」

ネージュムーンはそう呟いて、辺りを一周した。ムーンルキスは少し辺りを見回し、ふと思い付いた。

「ここは、昨日不思議な花があった場所じゃないか...?」

今はフルールスリートが作り出した薄桃色の花しかないが、確かにこの場所に、昨夜は不思議な力を持つ咲いていたはずだ。

「日が昇ると消えるのか。」

ムーンルキスは首を傾げて言った。不思議な力を持っているからとはいえ、昨日あったものがなくなると、不思議な感じがする。

「昨日僕らが来た方向に行ったみたい。」

ネージュムーンがさっと顔を上げ、来た方向をしっぽで指し示す。ムーンルキスは頷き、気を引き締め直した。ネージュムーンが再び先導して歩きだし、木立の中へ入って行く。

ムーンルキスは最後にもう一度だけ空き地を振り返る。風に吹かれた草原がそっと波打った。ムーンルキスは踵を返すと、弟の後を追いかけた。

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投稿 by アイルステラ Sun Apr 12, 2020 12:12 pm

【 第31章】4

いくらか歩いたところで、ネージュムーンが立ち止まった。周囲は背が高く、幹の太い立派な木が立ち並んでいる。その内の一本の木の下で、ネージュムーンは苛立たしげに耳を動かす。

「匂いが消えた。」

ネージュムーンは顔を顰めて言うと、ムーンルキスを見る。その言葉を聞いたムーンルキスは頭を働かせて、どうするべきかを考える。その時、ネージュムーンが鼻をピクっと動かすと、唐突に上を見上げた。その動きにつられて、ムーンルキスも上を見上げると、高い枝の上にフルールスリートがいるのが見えた。

ムーンルキスは安堵したが、それと共に苛立ちが込み上げてきた。勝手に消えてどれだけ心配したことだろうか。ムーンルキスが文句を言おうと口を開きかけたが、ネージュムーンがさっと遮った。

「ムーンルキス、ちょっと待って。多分、フルールスリート泣いてる...」

ネージュムーンはそう呟くと、木の幹に飛び付き、身軽に登って行った。ムーンルキスは一瞬行くべきか迷ったが、こういう時はネージュムーンに任せた方がいいと考え直し、木の下で待つことにした。

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投稿 by アイルステラ Mon Apr 13, 2020 11:06 am

【第31章】5

「フルールスリート?」

ネージュムーンがそっと呼びかけると、フルールスリートは慌てて顔を拭い、笑顔で振り返ってきた。

「ネージュムーン!来てくれたの?」

「僕もムーンルキスも、フルールスリートが勝手にいなくなって心配したんだよ?」

ムーンルキスはフルールスリートの涙を見なかったかのように振る舞った。フルールスリートの安堵の表情を見ると、やはりそうして正解だったようだ。

フルールスリートは、昨日記憶を取り戻してから言葉が急に丁寧になったかと思うと、今まで通りに戻ったりしている。その様子を見ると、まだまだ心の整理ができていないようだ。

「ごめんね。ちょっと一人で考え事したくなったの。」

ためらいがちに微笑みかけてきたフルールスリートに、ネージュムーンは笑顔で頷く。

「大丈夫だよ。戻ろう。ムーンルキスが心配でおかしくなっちゃいそうだから!」

フルールスリートはようやく小さな笑顔を見せると、ゆっくり木から降り始めた。



「ご心配お掛けしました。」

そっと頭を下げるフルールスリートにムーンルキスとネージュムーンは少し戸惑ったが、いつも通り答える。

「大丈夫だ。フルールスリートに何も無くてよかった。」

「それよりも、フルールスリートはこれからどうしたいの?」

「できれば、私は自分の住んでいた所に帰りたいです。今どうなっているかは分かりませんが...」

フルールスリートは少し声を落として俯く。ムーンルキスとネージュムーンはちらっと目を交わすと、ネージュムーンがそっと口を開いた。

「何があったか教えてくれない?もちろん、話したくないなら無理に話さなくていいけど、溜め込まない方がいいと思うんだ。」

少し顔を上げたフルールスリートの目を覗き込む。

「一人で悩まないで。僕らもいるから。」

ネージュムーンはそう言って、ね、と笑いかけた。フルールスリートは小さく頷くと、地面に座る。

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投稿 by アイルステラ Mon Apr 13, 2020 11:06 am

【第31章】6

「私はアステル族の王家の一人娘として産まれました。私達は、一族と呼ばれる集団で暮らしていて、王家の猫は一族をまとめ、導いて行く役割を担っていたのです。でも、私がまだ幼い時に、私の両親が他の一族の猫に殺されました。互いの一族は敵でしかありません。そのため、一族を導く王家の猫は常に命を狙われる存在なのです。」

フルールスリートは淡々と語っていく。その表情は固く、目に光はない。

「アステル族は私が率いていくことになったのですが、それから二年も経たない内に、他の一族が攻めてきました。その一族は恐らく領土を広げようとしていたのだと思います。領土がない一族の未来は滅亡にしか繋がりません。」

フルールスリートは小さく身震いをし、口を開くのをためらった。しかし、しっぽをぎゅっと身体に巻き付けると、覚悟を決めたように言葉を発する。

「私達は戦いましたが、相手側の圧倒的有利で、負ける寸前でした。その時、一族のみんなが私を逃がしてくれたんです...私は捕まると殺されてしまうから...」

フルールスリートは口をつぐみ、そっと顔を背けた。

「今一族の皆はどうしているか分かるのか?」

ムーンルキスの問いにフルールスリートは首を振る。

「でも、帰りたいです...」

フルールスリートが涙を堪えて声を絞り出す。

「もちろんだよ!絶対帰ろう!」

ネージュムーンが力強く言い、ムーンルキスも大きく頷いた。フルールスリートが感謝の目で兄弟を見つめる。

「フルールスリート、帰る方向分かるか?」

「この方角です。感じるんです。」

フルールスリートはそう言って、北を向く。ムーンルキスとネージュムーンは、フルールスリートの両側に並ぶ。フルールスリートの目には強い決意の色が浮かんでいた。

新緑の香りが新たな目的地を目指す3匹の背中を押しているようだった。

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投稿 by アイルステラ Tue Apr 14, 2020 9:08 am

【第32章】1

フルールスリートは息を切らせながら走っていた。もう辺りは見慣れた景色に変わっている。季節がいくつも過ぎ去っていたが、アステル族の縄張りだったこの場所は、アステル族がいなくなった今もほとんど変わっていない。

後ろからはムーンルキスとネージュムーンが追い掛けてくる足音が聞こえてきている。西日をきらきらと反射する湖の岸を走り、フルールスリートはアステル族が暮らしていた空き地へと向かう。

自分自身の荒い呼吸を聞きながら、フルールスリートは空き地を囲む茂みの中を突き進んだ。



茂みを抜けると、懐かしい景色が広がった。アステル族が昔から暮らしていた空き地は、今も変わらずそこにある。しかし、あの激しい戦いの後何ヶ月も経っているにも関わらず、未だ恐怖や怯えのツンとした匂いが感じられる。

母猫と子猫が使っていた茨の茂みも、フルールスリートが使っていた岩壁にある穴も、何もかもが変わらないが、しんと静まり返った空き地はフルールスリートに心細さを感じさせた。

フルールスリートは、ためらいがちに空き地を一周するが、アステル族の気配は全く感じられない。ガサガサと茂みを掻き分ける音と共に、ネージュムーンとムーンルキスが空き地に入ってきた。フルールスリートの暗い表情を見た兄弟は、そっと慰めるように鳴いた。

「誰もいないわ...残されたのは私だけのようですね。」

フルールスリートはそう言って、空き地の端にあるこんもりとした茂みに近付く。そっとその香りを嗅いでいたフルールスリートは、突然何かを感じたかのようにはっと顔を上げた。

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投稿 by アイルステラ Tue Apr 14, 2020 9:08 am

【第32章】2

耳をぴんと立て、何かを必死に聞き取ろうとしている様子のフルールスリートに、ネージュムーンは首を傾げる。そして、フルールスリートの邪魔をしないように小声でムーンルキスに話し掛けた。

「ムーンルキスには何か聞こえる?」

「いいや。全く何も。」

ムーンルキスも小声でそう答えた時、フルールスリートがさっと走り出した。兄弟も慌てて追い掛ける。



あの戦いの最中に隠れていた茂みに近付いた時、アクアステラの微かな声が聞こえた気がした。フルールスリートは、はっと顔を上げ、聞こえてくる方向を必死で聞き取ろうとする。あの日、アクアステラが走って行った方向から懐かしい香りを感じ、フルールスリートは走り出した。

───この香りはあの時アクアステラに渡した花の香りだ。

フルールスリートは、薮を掻き分け、倒木を飛び越える。ざっと立ち止まったフルールスリートの前に現れたのは、木漏れ日に照らされる岩だった。そして、その岩陰にそっと守られるように、あの花が咲いている。

フルールスリートは震える足で木漏れ日の下に踏み出す。薄い青色で縁取られた白い花は、まるでフルールスリートを呼び寄せるかのようにそっと揺れる。

「この花...不思議な花に似ているわ...」

そう呟きながら香りを吸い込んだフルールスリートの鼻に、白い花が触れた。その瞬間、周囲が眩い光に包まれる。

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投稿 by アイルステラ Wed Apr 15, 2020 12:09 pm

【第32章】3

思わず目を閉じ、伏せていたフルールスリートはそっと目を開ける。目の前の猫の姿に一瞬驚くが、ネージュムーンかムーンルキスかと思い、逆光で黒く染まっている姿を見上げた。しかし、すぐにどちらでもないと気付く。フルールスリートは、スラリとした雄猫の姿に思わず自分の目を疑った。

「アクアステラ...?」

しかし、走って来たのか、息を切らせている濃い青色の雄猫は、耳を動かすことさえしなかった。何かを切なげに見つめているアクアステラの様子に、その視線を辿ると、フルールスリートの真後ろの岩陰で揺れている白い花を見つめていた。

それは、フルールスリートが咲かせ、アクアステラの耳の後ろに差した花で、薄い青色で縁取られている。アクアステラの耳の後ろに花がないのを見て、フルールスリートは白い花はアクアステラが地面に差したのだと理解する。

「アクアステラ?」

フルールスリートは戸惑った。アクアステラはまるでフルールスリートが見えていないかのように振舞っている。フルールスリートの声さえも全く聞こえていないようだ。

アクアステラは不意に周囲を見回し、顔を強ばらせた。その様子につられて辺りを見回したフルールスリートも、敵意の匂いに満ちた数匹の猫が周囲から近付いて来ているのを感じた。アクアステラは白い花にゆっくりと歩み寄る。

「フルールスリート様が咲かせた花と、私の能力なら上手くいく気がします。この花に私の思いを残すことができるならば、私はこの世界に大切な思い出を遺しておきたい。」

アクアステラは花に囁きかけ、前足でそっと触れる。フルールスリートには、一瞬花がきらりと光ったように見えた。

アクアステラの言葉の意味を必死に考えていたフルールスリートは、はっと気付いた。アクアステラの言葉通りならば、これはアクアステラが花に残した記憶であり、思い出であるということだ。

「ということは...これは過去の出来事だというの...?」

フルールスリートが震える声で呟いたが、もちろんアクアステラには聞こえていないようだ。

「もしも...もしもフルールスリート様が再びこの地に帰って来た時、この花とこの思い出がフルールスリート様の生きる力になることを祈っています。」

アクアステラはそう言って、前足を花から離した。
徐々に辺りの景色が透明になっていく。

「アクアステラ!!!待ってください!!!」

駆け寄ろうとするが、脚が動かない。フルールスリートは焦るが、何も出来なかった。
その時、周囲の景色と共に消えかけているアクアステラが空を見上げた。

「もう少し...あと少しでいいから...一緒に生きていたかった...」

そう呟いたアクアステラの目から一筋の涙が零れ落ちる。

「アクアステラ...!」

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投稿 by アイルステラ Wed Apr 15, 2020 12:09 pm

【第32章】4

再び周囲が眩い光に包まれ、フルールスリートが目を開いた時にはアクアステラの姿はなかった。フルールスリートがもう一度会いたい、と小さな希望を胸に花に触れると、アクアステラとの思い出が脳裏を駆け巡る。

幼い頃、森の中で狩りの方法を教わった。

両親を失ったフルールスリートの一番の理解者であり、アステル族を導くフルールスリートを支えてくれたアクアステラ。

最後に湖に反射した夕日のオレンジ色の光が輝いた。

しかし、アクアステラの声はもう聞こえない。
フルールスリートは全身を震わせる。

「私を残してどこにも行かない、と約束したのに...」

あの時───アクアステラの能力を知った時───と同じ様に、アクアステラはフルールスリートの大切な記憶を思い出として伝えてくれた。
涙が止めどなく溢れる。


ネージュムーンとムーンルキスが音も無く背後の茂みから出て来るのを感じた。

フルールスリートは白い花をそっと自分の耳の後ろに差し、自分を待ってくれている2匹の元へと向かった。



Fin.

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投稿 by アイルステラ Wed Apr 15, 2020 12:10 pm

【終わりに】

   “Memory of Flower” はこれで完結です。最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!



ちなみに、

~登場猫~

主人公 フルールスリート  みぞれ花
使い  アクアステラ    水星
兄   ネージュムーン   雪月
弟   ムーンルキス    月光


アステル族の猫
   フェネストラ          窓
   グレイスシエル      優雅な空


その他
  クォーツ                  石英

母   フィーユ                  葉
兄   フドル                      雷
弟   プリュイ                  雨
妹   ジェルム                  新芽


特別出演
  ローズミスト         バラの霧



~族~

アステル        雪
ブリューム    霜




となっています。

ちなみに、ローズミストは私の2匹目のウォーリアーズ仲間です♪
今後は、アイルステラ、ペタルドロップ、ローズミストの3匹でウォーリアーズファンとして楽しんでいくつもりです!!!

Memory of Flower[完結] - Page 6 20180710

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