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雪の結晶[完結]

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投稿 by ペタルドロップ Wed Aug 21, 2019 7:22 am

~クリアポー~

次の相手を探していると、クリアポーは横から体当たりを食らった。
 
反応する暇もなく、クリアポーがその猫にキャンプの端へと追い込まれた。
 
茂みの裏まで追い込まれると、ようやくその猫はクリアポーを解放した。敵なのか味方なのか見当がつかず、微かな恐怖を抱きながらもその猫を見上げる。

だが、その姿は見慣れたはずの雄猫だった。夜だけ会っているせいか、日の光に当たるといつもと違って見えた。
 
「なーんだ!トードフットじゃ────」
 
安心して思わず大声で言ってしまうと、クリアポーはトードフットにしっぽで口をふさがれた。

そうだ、今は戦いの最中だったんだった。二匹はお互い敵同士だ。
 
「......二匹でしゃべっているのを聞かれたら終わりだ。静かに話そう」トードフットが慎重に切り出した。「どうしよう。この状態はまずいぞ」
 
クリアポーは座り直す。「私......、あなたとは戦えない」
 
「俺もだ。それはできない」
 
「でも、これじゃ......部族を裏切ることになってしまうわ」
 
「どうすればいいんだ......。それに、この戦いを起こす引き金になったのは俺達なんだ......」
 
「そうよ......。私たち、大変なことをしてしまったんだわ」
 
二匹の間に気まずい雰囲気が流れる。
 
クリアポーはその空気に耐えられなくなって、トードフットに聞いた。「......あと数匹の猫がシャドウ族のなわばりに侵入したって、本当なの?」
 
「あぁ、嘘じゃない。それが謎なんだ。そう、サンダー族二匹のにおいだ。君の他に」
トードフットはこれまでになく神妙な顔をして、クリアポーに尋ねる。「......もしかして、心当たりあったりしないか?」

トードフットが突飛な質問をするものなので、クリアポーは冗談よねとも言いたげに返した。「そんな、あるわけないじゃないの!私にはわかるはずもないわ」
 
だがそう言い切ったはいいものの、思い当たる節が浮かんだことに嘘をつくことはできなかった。「もしや......」
 
クリアポーははっと気づき、戦場と化した空き地の方を見回した。
 
しかし、そこにはいるはずの猫たちがいなかった。
 
「何を探してるんだい?」クリアポーの様子を見て、トードフットが不思議そうに聞いた。
 
「......いないの」
 
「え、なんて言った?」
 
「......あの猫たちがいないの!」クリアポーは叫んだ。「さっきまではいたのに......」
 
「クリアポー、誰のことを言ってるんだ?よくわからないんだが......」
 
「あのね、もしかしたら────」
 
 
「助けて!」
 
 
話始めようとしたクリアポーは、口を動かすのをやめた。今の声......。
 
何度も聞いたことのある、友だちの声......。
それは、メモリーポーの助けを呼ぶ声だった。
 
「メモリーポーだわ!」
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投稿 by アイルステラ Thu Aug 22, 2019 10:49 am

~メモリーポー~

「......後悔するのはそっちのほうだ!」

ブラックスターの声で戦いが始まった。ファイヤスターが戦いを止めようと大きな鳴き声を上げるが、誰も聞いていない。シャドウ族の猫達が一斉に、サンダー族の猫達に飛びかかる。

メモリーポーは横から強い衝撃を受け、一瞬ふらついたが、しっかりと足を踏ん張り、相手と向かい合った。メモリーポーに飛びかかってきたのは、メモリーポーより小柄な雄の見習いだった。

再び攻撃を仕掛けてきた見習いを、メモリーポーは余裕を持ってかわし、隙をついて地面に押さえ込んだ。メモリーポーはまだ小さな見習いを傷付けることをためらい、喉を押さえて激しく唸ってみせた。それでも、その見習いは抵抗して、後ろ脚でメモリーポーの腹を引っ掻こうとする。

その時、メモリーポーは横から強く突き飛ばされ、地面を転がった。体を振って立ち上がると、目の前にいたのはアップルファーだった。

「アップルファー...」

思わず呟いた言葉はアップルファーに聞こえたらしく、雌猫は目を細くした。



「メモリーポー、私達はお互い違う部族の猫よ!仲良くできるのは大集会の時だけ!!!」

アップルファーはそう言いながらメモリーポーに飛びかかる。メモリーポーはすんでのところでアップルファーをかわすが、バランスを崩してしまう。アップルファーはメモリーポーに体制を整える暇を与えず、メモリーポーの上に飛び乗り、歯をむき出して唸った。

「そんなことも分かってないなら生きていけないわよ、メモリーポー!指導者はあなたに一体どんなことを教えたのかしら?」

メモリーポーはその言葉に怒りを覚えた。

「そんなことない!!!レインウィスカーは立派な指導者よ!!!」

メモリーポーは全身の力を振り絞ってアップルファーをはね飛ばす。そして、急いで立ち上がったアップルファーに向かって駆け出し、思い切り体当たりする。アップルファーは少しよろけたが、足を踏ん張って立っている。

2匹の雌猫は睨み合う。その時、ハニーポーとポピーポーが走って来て、2匹同時にアップルファーに体当たりした。アップルファーは砂埃を舞い上げながら地面に倒れ込む。ぱっと立ち上がったアップルファーだったが、3対1ではさすがに勝ち目がないと思ったのか、唸りながら戦う猫の群れの中に消えていった。

「ありがとう、ハニーポー、ポピーポー!」

2匹はメモリーポーに答えるように、さっとしっぽを振ると、長老部屋の前で戦っている病気のソーンクローを助けに走って行った。

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投稿 by アイルステラ Fri Aug 23, 2019 11:09 am

~メモリーポー~

メモリーポーは辺りを見回す。副長のブランブルクローは保育部屋の前で戦っている。ブランブルクローの弟子のベリーポーも、肩から血を流しながらも敵の戦士のしっぽに噛み付いている。

保育部屋の中からはライオンキット達の怯えた鳴き声と、それをなだめているのだろうデイジーの声が聞こえてくる。ブランブルクローの連れ合いで、ライオンキット達の母猫のスクワーレルフライトは、スネークテイルと空き地の真ん中で取っ組みあっている。

看護部屋の前では、病気のバーチフォールが歯をむき出して周囲の猫を威嚇していた。看護部屋の中のホワイトウィングは、まだグリーンコフがひどく、大きく咳き込んでいる。しかし、シャドウ族の猫達も病気をもらいたくはないのか、看護部屋にはあまり近付かなかった。

ソーレルテイルはまだグリーンコフが治り切っていないにも関わらず、シンダーポーを思い切り引っ掻いた雄の戦士を、怒りの表情で追いかけている。

辺りを見回していたメモリーポーは、あることに気付いて背中に寒気が走った。ファイヤスターがいないのだ。敵の部族の族長、ブラックスターは、ダストペルトとヘーゼルポーを相手に戦っている。

副長のラシットファーは、今クラウドテイルと共に狩りから戻って来たブライトハートと睨み合っている。クラウドテイルとブライトハートは、戦いが始まる前狩りに出かけていて、シャドウ族が攻めてきた瞬間はキャンプにいなかったのだ。

必死にキャンプを見回すメモリーポーだが、ファイヤスターの炎色の毛は見つけられない。更に悪いことに、クリアポーの姿も見えない。

メモリーポーは目の端にちらっと映った灰色の影に、反応する。一瞬だったが、ファイヤスターの部屋に誰かのしっぽが消えていったように見えたのだ。戦っている猫達の間を急いですり抜け、メモリーポーは族長の部屋に続く崩れた岩山を駆け上がる。

息を切らせながら飛び込んだメモリーポーの目に映ったのは、メモリーポーの直前に部屋に入ったのであろうアッシュファーが、背を向けているファイヤスターの後ろに忍び寄る姿だった。ファイヤスターは直前に何かの気配を察したのか、後ろを振り返るが、次の瞬間、アッシュファーの後脚に思い切り蹴られた。

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投稿 by アイルステラ Sat Aug 24, 2019 8:56 am

~メモリーポー~

「ファイヤスター!!!」

メモリーポーの声もむなしく、ファイヤスターは宙を舞い、頭から岩壁に突っ込む。地面にどさりと落ちたファイヤスターはぴくりとも動かない。そして、ファイヤスターと話していた様子のスパイダーレッグが、目をきらりと光らせてメモリーポーを見た。アッシュファーも冷たい光を目にたたえ、姿勢を低くしてメモリーポーを見つめる。

メモリーポーは怒りのあまり、我を忘れて目の前にいたアッシュファーに飛びかかる。しかし、相手は年長の戦士だ。メモリーポーはあっという間に押さえ込まれてしまった。

「アッシュファー!どういうことですか!?」

メモリーポーはアッシュファーに胸を押さえられながらも抵抗し、問い詰める。メモリーポーの後ろ足が何度もアッシュファーの腹をかすったが、アッシュファーは表情ひとつ変えない。

「俺が族長だったら、サンダー族をもっといい部族にできるはずさ。飼い猫やら浮浪猫やらの寄せ集めの雑多な集団じゃない、最強の部族に!そのためには、ファイヤスターが邪魔だ───」

メモリーポーは大きく息を呑む。

「───というのは表向きの理由さ。」

アッシュファーはそう言い、メモリーポーの耳に口を近付け、小さな声で囁きかける。

「理由が知りたいか?」

その冷たい声にメモリーポーは身体を震わせる。

「知りたくもないわ!」



メモリーポーを見下ろすアッシュファーは何かに気付いたように、きらっと目を光らせた。

「お前はあいつの妹か...つまり、お前も族長と一緒に殺した方が、スクワーレルフライトは悲しむということだな。」

アッシュファーは、聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で呟いた。

「私達を殺す...?一体何を言っているんですか...?私達が何かしましたか!?」

「いいや。」

メモリーポーの怯えと怒りの混じった声に、アッシュファーは短く返す。そんなアッシュファーの瞳は、メモリーポーには理解できない深い色を浮かべていた。

「ファイヤスターは最高の族長よ...あなたなんかに負けるはずがないわ!」

メモリーポーは怯えているのを隠すかのように言ったが、声が震えているのが自分でも分かった。

「それはどうかな。今その最高の族長さんは、床にのびて気絶していますが?」

アッシュファーはそう言いながら、メモリーポーの頬を前足で殴った。メモリーポーは思わず目をつぶる。血が流れるのを感じたが、アッシュファーの前足はメモリーポーをしっかりと押さえつけたままだ。

「スパイダーレッグ、今のうちだ。ファイヤスターにとどめをさせ。」

アッシュファーの無機質な声が岩壁に反響する。しかし、アッシュファーの言葉に反し、スパイダーレッグはなかなか動こうとしない。そして、後ろめたそうに地面に横たわっている族長を見つめる。

「何をしている!!!早くしろ!!!」

アッシュファーにとって、このスパイダーレッグの行動は予想外だったらしく、声に怒りの色が出る。一瞬アッシュファーの注意がそれた隙に、メモリーポーはなんとかアッシュファーの下から這い出し、大きく助けを求める声を上げた。

アッシュファーが慌ててメモリーポーに飛びかかる。そして、鼻面に噛み付き、地面に引きずり倒した。メモリーポーは大きな悲鳴をあげる。

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投稿 by アイルステラ Sun Aug 25, 2019 9:21 am

~メモリーポー~

その時、入口から入ってくる光が何かに遮られ、部屋の中がふっと暗くなった。息を切らしているクリアポーだ。クリアポーはためらうことなくアッシュファーに飛びかかり、メモリーポーの上から引きずり下ろす。しかし、アッシュファーもすぐに反撃し、クリアポーの首をくわえて頭を大きく振る。

次の瞬間、目にも止まらぬスピードで雄猫がアッシュファーに体当たりし、あっという間に地面に押さえつけた。その雄猫はメモリーポーがほとんど見かけたことのないシャドウ族の猫だ。クリアポーもさっと起き上がり、雄猫と一緒にアッシュファーを押さえつける。

メモリーポーはその様子を驚いて見ていたが、はっとして体を起こすと部屋の隅にいるスパイダーレッグの方へと走って行く。けれど、スパイダーレッグはただ立ち尽くしているだけで、ファイヤスターは無事だった。メモリーポーは安堵のため息をついた。そして、威嚇をしながら、スパイダーレッグと向かい合う。

「先輩も、一体どういうことですか?どうしてこんなことを?」

怒りを押し殺し、問いかけるが、スパイダーレッグは何も答えず、居心地悪そうに地面を前足で引っ掻く。シャドウ族の雄猫とクリアポーに押さえつけられているアッシュファーは、まだ抵抗して低く唸り、2匹を引っ掻こうと暴れ続ける。



「う...ん...?」

気絶していたファイヤスターがようやく意識を取り戻す。メモリーポーはスパイダーレッグから目を離さないようにしながら、ファイヤスターに近付く。

「ファイヤスター...?大丈夫ですか?」

「メモリーポーか...アッシュファーは!?」

ファイヤスターが急に目を見開き、岩壁にぶつけた頭の痛みを感じたのか顔をしかめる。

「あそこです。クリアポーと...シャドウ族の雄猫が...」

「クリアポー?なぜここにいるんだ?スパイダーレッグの話だと...」

そう言いかけて口をつぐむ。そして、部屋の外から響いてくるシャドウ族とサンダー族の争う声にさっと耳を立てる。ファイヤスターは押さえつけられているアッシュファーと部屋の隅で小さくなっているスパイダーレッグを一瞥すると、立ち上がる。思わずふらついたファイヤスターをメモリーポーは急いで支えた。

「まだ戦い続いているんだろ?急いで止めなければ...」

ファイヤスターはそう呟くと、アッシュファーを押さえつけているシャドウ族の雄猫に軽く頷きかけると、部屋から出て、崩れた岩の1番上に立つ。そして、長く大きな鳴き声を上げる。その声はキャンプを囲む岩壁に反響し、大きく響いた。猫達は思わず動きを止める。

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投稿 by アイルステラ Mon Aug 26, 2019 12:11 pm

~メモリーポー~

「ファイヤスター、なんの真似だ?負けを認めるのか?」

ブラックスターは目を細くしながら言うと、ファイヤスターに向かって歩き出す。メモリーポーはファイヤスターの後ろに下がる。

「すまない、ブラックスター。だが、少しだけ話を聞いてくれないか?」

ブラックスターは一瞬迷ったが、ファイヤスターのただならぬ様子を感じたのか、頷いた。

「よかろう。だが───」

「トードフット?なんでそんな所にいるの?」

シャドウ族の一匹が思わず声をあげた。雌猫は、言葉を遮られたブラックスターに厳しい視線を向けられ、申し訳なさそうに地面を見つめる。しかし、その言葉を聞いた猫達も、トードフットに気が付くと、いぶかしげな顔をした。

トードフットは、アッシュファー、クリアポーとともにメモリーポーの隣に立っている。トードフット、クリアポーに挟まれているアッシュファーは、冷たい視線で猫達を眺め回している。3匹の後ろには、しっぽを垂れているスパイダーレッグがいた。

ファイヤスターがトードフットに軽く頷きかけ、二つの部族に向き直る。そして、1歩前に踏み出し、しっかりとした声で語りだした。

「トードフットは、俺を助けてくれたんだ。」

「それはどういうことだ?敵の族長を攻撃せず、味方を攻撃したということか?」

ブラックスターがさっと首の毛を逆立てて問い掛ける。ファイヤスターはその言葉を打ち消すかのように、しっぽをさっと振った。

「いや、俺がアッシュファーに襲われた時だ。」

その短い言葉が猫達の間にじわじわと広がっていく。



静まり返ったキャンプにファイヤスターの言葉が響く。

「俺は、戦いの最中、スパイダーレッグから、クリアポーがいなくなり、サンダー族を裏切ったと聞いた。」

メモリーポーが思わず声をあげそうになったのを察したのか、ファイヤスターがちらっと後ろを振り返り、メモリーポーを見た。その瞳を見て、メモリーポーは口をつぐむ。

「戦っている猫達の中を見回したが、俺にはクリアポーは見つけられなかった。さらにその時、スパイダーレッグからこの戦いの原因はクリアポーであると言われた。スパイダーレッグが詳しいことは族長の部屋で話したい、と言ったため、俺達は族長の部屋へ向かった。」

サンダー族とシャドウ族の猫達は、クリアポーをジロジロと眺める。メモリーポーは、クリアポーが小さく身体を震わせ目を伏せたのを感じた。

「しかし、俺が部屋に入った時、後ろから入ってきたアッシュファーに気絶させられてしまった。」

その言葉に、サンダー族の猫達は戸惑った。ザワつく猫達に静かにするように合図し、ファイヤスターは淡々と言葉を続ける。

「俺が目を覚ました時には、アッシュファーは、クリアポーと、このシャドウ族のトードフットが押さえつけてくれていた。」

何匹かの猫達の表情は和らいだが、まだ大部分の猫達は疑わしげな目でクリアポー達を見ている。そして、仲間だと思っていた戦士、アッシュファーの行動に、驚きと混乱を隠せずにいた。

「クリアポーが自分を信じてもらうためにこの戦いを起こしたんじゃないのか?」

メモリーポーは全身の毛が逆立つのを感じた。

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投稿 by ペタルドロップ Tue Aug 27, 2019 10:17 am

~クリアポー~
 
外ではまだ戦いが続いていた。族長とメモリーポーに続いてハイロックに出てきたクリアポーは、アッシュファーを逃がさないようトードフットと両脇に立つ。
 
一番最初に外に出たファイヤスターは、戦いを止めようと大きな声を上げた。くぼ地中に響き渡ったその威厳ある鳴き声で、みんなの動きは止まった。
 
相手の顔を殴るすんでのところで手を止めているものもいれば、敵に押し倒されたまま耳だけをピクピク動かすものもいる中、ブラックスターは目を細くした。
 
「ファイヤスター、なんの真似だ?負けを認めるのか?」
 

 
......そもそも、夜に私とトードフットが会っていなければこんな戦いなんて起きなかったはず。
 
今思えば、私は戦いが起きるのを阻止できたかもしれなかった。最近はあの二匹を監視するのを怠ってしまっていたので、何をしようとしているのか見抜けなかった。
 
メモリーポーも危険な目に合わせることはなかった。メモリーポーをハニーフラワーと同じ目に遭わせられない。
 

私がもっと注意深ければ......。
 
ファイヤスターの動く口を見ながら、クリアポーは一匹、歯を食いしばる。
 
 

「────クリアポーがいなくなり、サンダー族を裏切ったと聞いた」
 
ファイヤスターの話し声で思考が遮られた。クリアポーはここで自分がみんなの話を聞いていなかったことに気がつく。
 
「戦っている猫たちの中を見回したが、俺にはクリアポーは見つけられなかった。さらにそのとき、スパイダーレッグからこの戦いの原因はクリアポーであると言われた」
 
クリアポーは目を見開き、思わず後ろにいるスパイダーレッグに目をやった。二匹は私を......。
 
「スパイダーレッグが詳しいことは族長の部屋で話したい、と言ったため、俺たちは族長の部屋へ向かった」
 
下にいる猫たちのギロりとした視線に耐えられなくなり、視線を落とす。実質スパイダーレッグの言ったことは正しいのだ。
 
「しかし、俺が部屋に入った時、後ろから入ってきたアッシュファーに気絶させられてしまった」
 
そういうことだったのか。初め、族長部屋に入ったとき、なんでアッシュファーたちがいるのか、クリアポーはよく分からなかった。
 
でも、私の裏切りのことを話す前にファイヤスターを気絶させたのなら、アッシュファーたちは私たちの秘密を本当は知らなかったのだろう。
クリアポーはいけないとは思いながらもそっと胸をなで下ろす。
 
「俺が目を覚ました時には、アッシュファーは、クリアポーと、このシャドウ族のトードフットが押さえつけてくれていた」
 
ファイヤスターの話が終わると、一族が一斉にわめきだし、その声がだんだんけたたましくなっていった。
 
「クリアポーが自分を信じてもらうためにこの戦いを起こしたんじゃないのか?」
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投稿 by ペタルドロップ Wed Aug 28, 2019 9:58 am

~クリアポー~

「クリアポーが自分を信じてもらうためにこの戦いを起こしたんじゃないのか?」

動揺してざわめく猫たちの中から、一際大きな声が上がった。
 
クリアポーは何も言わなかった。言い返せなかった。
 
だがそれに対して、メモリーポーは毛を逆立て、ファイヤスターの隣に立った。
 
「私の親友がそんなことするはずがないでしょ!第一そんなことしてクリアポーのなんの得になるのよ!!!」
 
クリアポーは勇敢に言ってのけたメモリーポーを、真っ向から見れなかった。メモリーポー、ごめんね。
 
ファイヤスターはしっぽを激しく振る娘を、前足で後ろに押し戻す。「メモリーポー!落ち着け」
 
話を聞いていたブラックスターは口を挟む。「問題なのはそこじゃない!何度も言うが、俺たちのなわばりにおたくの猫が侵入したんだ!一体お前は何がしたいんだ?」
 
混乱した様子で問いかけられても、ファイヤスターは冷静だった。
 
「俺は、自分の部族の猫にシャドウ族のなわばりを乗っ取るようなことをさせた覚えはない。ただ、サンダー族の誰かがなわばりに侵入していたのならば、そこは申し訳なかった」
 
ファイヤスターはシャドウ族に対して丁寧に陳謝すると、顎で後ろをしゃくる。「なわばりに侵入することも、この戦いを起こさせたことも、すべてこいつが仕組んだことだったんだ」
 
ここからはこいつが説明するだろう、とファイヤスターが前を開けると、騒ぎがしんと静まる。
 
そして、クリアポーとトードフットはアッシュファーを解放し、前へ出て行かせた。
 
下から怒りと嫌悪の視線を浴びて、前に押し出されたアッシュファーは、無表情のまま、しばらく言葉を発さなかった。だが、何かの拍子に自虐的に笑い始めた。
 
驚きで目を丸くする猫たちに向かって、アッシュファーは話す。
 
「そうだ。俺がすべて仕組んだことだ。サンダー族は飼い猫や弱い猫を受け入れる、落ちぶれた部族。きっと、他の部族からもそう思われているだろう。そんな部族にいて、俺たちは恥ずかしくないのか......?」
 
唖然として声の上がらない猫たちを一瞥すると、アッシュファーはさらに続けた。
 
「だから、こんな族長なんかに率いられるよりこの俺が族長になって、一族をまた一から作り直した方がいいと思った。そして、族長になるにはまずこのファイヤスターにいなくなってもらう必要があった」
 
ここまで一気に言い切ったアッシュファーは、猫の集団の一点を憎々しげに見る。
 
「俺はもうこんなサンダー族にいたいとは思わない。こちらからおさらばだ」
 
 
「そうさせてもらうよアッシュファー」後ろでアッシュファーの話を聞いていたファイヤスターは、前へ進み出る。
 
「お前を今日、この部族から追放する。この湖の周りの領域からもだ。絶対に戻ってくるな」
 
目に怒りと失望の色を浮かべ、ファイヤスターは追放を命じた。「俺はお前をそういう風に育てた覚えはない。サンダー族の恥だ!今すぐ出ていけ!‪明日の朝‬、部族のなわばりにいたら......どうなるかわかっているな?」
 
アッシュファーは腐った獲物の肉を吐き出すように、言葉を吐き捨てた。「サンダー族なんて、滅べばいい」
 
そのまま彼はハイレッジから降り、出入口であるトンネルに向かい始めた。
 
 
「兄さん!」
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投稿 by ペタルドロップ Thu Aug 29, 2019 10:13 am

~クリアポー~

「兄さん!」
 
だが、アッシュファーはその一声で振り返る。妹のファーンクラウドだ。
 
「どうして......!」保育部屋の前に立っているファーンクラウドは、今にも泣き出しそうだった。
 
「ファーンクラウド......」アッシュファーの強気な表情が少し影る。
 
だが、一瞬もしないうちに前の表情に戻り、踵を返してイバラのカーテンに消えていった。
 
 
静まり返ったキャンプの中、ファーンクラウドのすすり泣く声だけが聞こえた。
 
最初に声を上げたのは、ファイヤスターだった。
 
「......以後このようなことが起きないようにしていく。今回のことは申し訳なかった、ブラックスター」
 
ブラックスターはさっきのイライラした表情とは裏腹に、納得したように頷いた。「今後またこのような事態になったら、ただでは済まないからな」
 
帰るぞ、と一声鳴いたブラックスターを先頭に、シャドウ族の猫たちはイバラのトンネルへ向かい始めた。
 
クリアポーは、アッシュファーがいなくなり自分の隣に来たトードフットも、そのまま一緒に帰ると思った。だが、これだけはお互い話さなければならないことがあった。
 
「トードフット......」
 
トードフットも同じことを思っていたようだった。
「クリアポー......」
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投稿 by ペタルドロップ Thu Aug 29, 2019 10:15 am

~クリアポー~
 
二匹でハイレッジから慎重に下りると、怪しく思われないようにさっき二匹で話していた日陰に戻った。
 
「戦い、終わってよかったね......」シャドウ族の中で、トードフットがいないと気付かれるのが怖いため、クリアポーはできるだけ早口で話した。
 
「だな...。あのときお前がお前の友だちの声に気づいていなかったら今頃......」
 
「ううん。友だちじゃないわよ」クリアポーは耳をぴくっと動かす。「親友よ!」
 
トードフットは少し驚いたように背筋を伸ばした。「その子が喧嘩した猫だったのか。お前、仲直りできたんだな!」
 
「そうよ!」クリアポーは満面の笑みを浮かべて答えた。
 
すると、トードフットはクリアポーが今までに見たことのないような表情を浮かべた。その緑色の双眸を見たとき、クリアポーは感じた。もう、これで終わる......。
 
「幸せそうでよかった」トードフットはクリアポーの前足に自分の前足を重ねた。
 
少し間をあけると、トードフットは真剣な表情で言った。「俺たち、もう終わりにしよう」
 
そうなることはわかっていた。うまくいかないことも。
 
クリアポーは寂しかった。でも、別れなければならないのだ。湧き上がる気持ちを抑え、しっかりと目線を合わせると、クリアポーも同意した。「そうね。別れましょう」
 
トードフットは静かに前足を離した。「クリアポー......じゃあな」
 
彼はそう言うと、後ろを向いて出口へゆっくりと足を進めた。
 
クリアポーは振り返り、小声で別れの言葉を述べた。「......トードフット、さよなら」
 
その声が届いたのか、トードフットも立ち止まり振り返った。逆光で表情はよく見えない。
 
トードフットは戻ってくるとクリアポーは一瞬思ったが、その期待は泡となって消えることになる。
 
トードフットはなにかをぐっと抑えて前に向き直り、走り去った。
 
 
トードフットがいなくなってからも、クリアポーはしばらくそこに座ったままだった。
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雪の結晶[完結]                                      - Page 7 Empty Re: 雪の結晶[完結]

投稿 by ナルシスフェザー Thu Aug 29, 2019 12:15 pm

毎日投稿お疲れ様です!
今では続きを見るのが日課となってます‪w

ついに!クリアポーとトードフットが別れた?!
まぁバレたんだからそうせざるを得ないですよね
でも!クリアポーとメモリーポーが仲直りできて良かったです!

これからも無理せずに投稿頑張ってください୧(๑•̀ㅁ•́๑)૭✧
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雪の結晶[完結]                                      - Page 7 Empty Re: 雪の結晶[完結]

投稿 by ペタルドロップ Thu Aug 29, 2019 10:54 pm

*ナルシスフェザー* wrote:毎日投稿お疲れ様です!
今では続きを見るのが日課となってます‪w

ついに!クリアポーとトードフットが別れた?!
まぁバレたんだからそうせざるを得ないですよね
でも!クリアポーとメモリーポーが仲直りできて良かったです!

これからも無理せずに投稿頑張ってください୧(๑•̀ㅁ•́๑)૭✧

ナルシスフェザーs、再びコメントありがとうございます!!!

毎日来てくださっているんですね!!! 嬉しいです(涙) これからもよろしくお願いします♡


そうなんです! クリアポー、とうとうトードフットと別れてしまいました...(泣) やっぱり他部族恋愛っていうのは難しいですよね、今も昔も(笑)

言っておくと、二匹が毎晩会っていたことは公にはされていませんが、毎日サンダー族の一匹がシャドウ族のなわばりに出入りしていたことはバレています。誰が、というのがバレないといいですよね(笑)


ジェイ君ファンクラブ、動き出しましたね! 交換小説のジェイ君物語...。気にはなっているのですが......とっても楽しそうですね! 迷い中です(笑)

今朝にオンラインユーザーの記録が24人に更新されたのはご存じですか? 前よりもBBSが活気づいた?ようなのは本当に喜ばしいことですよね!

とうとう終わりが見えてきました...! 長い長い投稿ももうそろそろ終了です! 最後までお付き合いくだされば嬉しいばかりです♪
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投稿 by アイルステラ Fri Aug 30, 2019 8:54 am

*ナルシスフェザー* wrote:毎日投稿お疲れ様です!
今では続きを見るのが日課となってます‪w

ついに!クリアポーとトードフットが別れた?!
まぁバレたんだからそうせざるを得ないですよね
でも!クリアポーとメモリーポーが仲直りできて良かったです!

これからも無理せずに投稿頑張ってください୧(๑•̀ㅁ•́๑)૭✧

ナルシスフェザーさん!
もう3度もコメントして頂いていますね!
本当に嬉しいです!!!ありがとうございます♪

さて、シャドウ族との戦いが終結し、物語はもう終わりかけています。
最後の最後まで応援してくださると、とても力になります!
あと少しの間ですが、お楽しみください!!!

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雪の結晶[完結]                                      - Page 7 Empty Re: 雪の結晶[完結]

投稿 by アイルステラ Fri Aug 30, 2019 8:55 am

~メモリーポー~

シャドウ族がキャンプから出て行き、メモリーポーは大きくため息をついた。前のファイヤスターも疲れたような表情を見せている。それでも、サンダー族を見回すと、猫達に呼びかける。

「怪我をした者はリーフプールに見てもらえ。まだ動ける者はキャンプの修理を頼む。」

「スパイダーレッグはどうするの?」

誰かがが呟いた。その言葉を聞き、一族はハイレッジの上で身を縮こませたスパイダーレッグをジロジロと見る。ファイヤスターは冷ややかな目でスパイダーレッグを振り返り、問いただす。

「スパイダーレッグ。お前はアッシュファーに加担したことを認めるか?」

すすり泣いていたファーンクラウドは、祈るように息子の姿を見つめている。まるで、何かの間違いであって欲しい、と言いたげな目だ。しかし、スパイダーレッグはそんな母親から目を背け、消え入りそうな声で答える。

「はい...」

「何か弁解することは?」

ファイヤスターが淡々と続ける。

「俺は...サンダー族に忠実です...」

スパイダーレッグの声はどんどん小さくなり、最後の方はほとんど聞こえなかったが、その言葉を聞いた一族は毛を逆立て、口々に叫ぶ。

「お前はアッシュファーと同じだ!!!」

「裏切り者め!!!」

「今すぐ出て行け!!!」

ファイヤスターは怒りを湛えた目でスパイダーレッグの方へ踏み出した。

「この行動のどこが一族に忠実なんだ!?」

スパイダーレッグは耳を寝かせ、身体をぎゅっと縮めた。

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投稿 by アイルステラ Sat Aug 31, 2019 10:47 am

~メモリーポー~

「待ってください、ファイヤスター。」

メモリーポーの口から思わず言葉が飛び出した。振り返ったファイヤスターに鋭い目で睨まれ後ろに下がりたくなるのを必死で堪え、メモリーポーは口を開く。ファイヤスターやサンダー族のみんなが知らないこの事実は、言わなくてはならないことだと感じたのだ。

「確かに、スパイダーレッグはアッシュファーに協力しました。しかし、彼にはアッシュファーと違うところがあります。アッシュファーにファイヤスターを殺すように命じられても、スパイダーレッグは動きませんでした。」

その時の光景を思い返し、メモリーポーは身を震わせる。ふとクリアポーが近くにいないことに気付いたが、気にしている余裕はなかった。

「これがスパイダーレッグがサンダー族に忠実であるということではないでしょうか。」

一族は少し考えるような表情を見せる。



「私もそう思います。」

リーフプールが出血しているベリーポーの肩にクモの巣を当てるのをやめて族長を見上げる。

「スパイダーレッグは許されない間違いを犯しました。しかし、その後どのように行動したのか。そこは忘れてはならないことなのではありませんか?」

看護猫の言葉に、ファイヤスターも一族も冷静になったようだ。ファイヤスターは目を閉じて少し考える。

「スパイダーレッグにもう一度チャンスを与えてもいいと思います。」

ブライトハートが族長を見てそっと言った。ファイヤスターは目を開けてサンダー族を見回す。先程のように嫌悪に満ちた表情をしている猫は少ないようだ。あとは族長である自分の判断にかかっている。

「スパイダーレッグをサンダー族の猫として認める。しかし、次に不審な動きをしたらどうなるのか、よく考えておけ。」

「ありがとうございます。」

スパイダーレッグは頭を下げる。

「もう一度信頼を取り戻すのには時間がかかるだろう。だが、それもお前の行動しだいだ。」

ファイヤスターはそう言ってから、一族を振り返る。

「みんな、怪我の治療とキャンプの修理を始めてくれ。」



リーフプールが早速猫達の間を歩き回り、重傷者に看護部屋に来るように伝える。ブランブルクローは比較的怪我の少ないクラウドテイル、ブライトハート、ストームファーに狩りに行くよう言った。一族が慌ただしく動き始める。

メモリーポーが何かの視線を感じて振り返ると、スパイダーレッグが感謝を込めた視線を送ってきていた。しかし、メモリーポーはすっと顔を背ける。スパイダーレッグを弁護したのは、事実を知っているのがスパイダーレッグと自分だけだったからだ。父を襲うという計画をたてたスパイダーレッグを完全に許すことは、当分できそうになかった。

ハイレッジから飛び降りたメモリーポーは辺りを見回し、長いイバラと格闘しているマウスポーを手伝いに走って行った。

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投稿 by アイルステラ Sun Sep 01, 2019 6:44 am

~メモリーポー~

「一族のみんな!ハイレッジの前に集まれ!」

輝き始めた星がサンダー族を見守っている。冷たい空気の中にファイヤスターの声が凛と響いた。

木の下でクリアポーとグルーミングをしていたメモリーポーはファイヤスターの声に身体を起こす。クリアポーの身体にはシャドウ族の匂いが、メモリーポーの身体にはアッシュファーの匂いがついていたが、グルーミングしたことでだいぶ匂いが落ち、気分がよくなってきた。

身体を大きく振ってからクリアポーと共にハイレッジの下へ向かう。クリアポーは疲れているのか、口数が少なかった。ハイレッジの下に座り、他の猫達が集まるのを待っていたメモリーポーの目にソーレルテイルが映る。ソーレルテイルは、ブラクンファーに耳を舐められ、嬉しそうに喉をならしている。



メモリーポーとクリアポーの横にポピーポーとハニーポーが駆け寄り、隣に座った。

「さっき、リーフプールから退院してもいい、ってようやくお許しが出たらしいの!」

ハニーポーが嬉しそうに自分の母親を見ながら言う。

「よかった!!!これでブラクンファーも安心ね!」

メモリーポーが笑いながら答えると、ポピーポーがちらっと両親を見て言う。

「そうなの。おかげでさっきからずっとあの調子よ!」

「あら?ポピーポー!本当はソーレルテイルに甘えたいけど、ブラクンファーに取られちゃって、嫉妬してるの?」

メモリーポーは笑いながら前足でポピーポーをつついた。

「そ、そんなわけないでしょ!久しぶりにいっぱい話せるって思っただけで...」

「それを嫉妬って言うの!自分のお父さんに嫉妬してどうするのよ。」

そう冗談を言いながら、薬草の匂いを漂わせたシンダーポーがポピーポーとメモリーポーの間に割り込んだ。

「シンダーポーおかえり!大丈夫だった?」

ハニーポーが声をかける。

「大丈夫。引っ掻かれただけで酷くないわ。」

そこまで言ったところでファイヤスターが合図をした。一族はぴたりと静かになり、族長を見上げる。

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投稿 by アイルステラ Mon Sep 02, 2019 7:40 am

~メモリーポー~

「今日の戦いについてそれぞれ思うことがたくさんあるだろう。サンダー族に裏切り者がいたことは、恐らくほかの部族にも知られる。だが、サンダー族は強い!他の部族にサンダー族は強い部族だということをはっきり示そう!!!」

一族の歓声を、ファイヤスターがしっぽを振って静める。そして、一呼吸置いて誇らしげに口を開く。

「そこで、任命式を行う。メモリーポー、クリアポー前へ。」

メモリーポーとクリアポーは驚いて顔を見合わせる。目を見開いて唖然としている2匹をポピーポー達3匹が優しくつついた。

「ほら!行きなよ!!!」

押し出されるようにして前に出たメモリーポーとクリアポーをファイヤスターは温かい眼差しで見つめる。そして、嬉しそうに顔を輝かせている一族を見回し、語りかける。

「この2匹は今日、アッシュファーに襲われた俺を助けてくれた。2匹がいなかったら、今、俺はここに立つことができなかったかもしれない。」

そう言うと、星の輝き始めた銀河を見上げる。ファイヤスターの吐き出した白い息が、始まったばかりの枯れ葉の季節の夜空に消えていく。



「わたくし、サンダー族の族長であるファイヤスターは、ここにいる2匹の見習いを見て頂きたく先祖の戦士の皆様にお願い致します。この2匹は一生懸命訓練をし、あなたがたの定められた崇高な掟を理解するべく努力してきました。そこでこの度、わたくしはこの2匹を戦士として推薦いたします。
メモリーポー、クリアポー、お前達は自分の命を犠牲にしてでも戦士の掟を守り抜き、我が一族を弁護することを誓うか?」

「誓います。」

「誓います。」

メモリーポーははっきりと、クリアポーは落ち着いて答える。

その時、空から白い雪片がひらひらと舞い降りてきた。思わずメモリーポーは空を見上げる。それにつられるように、クリアポー、ファイヤスターも空を見上げた。一族も空を見上げ、美しい初雪に見とれている。不思議なことに、夜空に雲はなく、煌めく銀河だけが猫達の目に映った。

メモリーポーはそっと目を閉じ、体をかする雪を感じた。ゆっくりと目を開きながら前を向くと、ファイヤスターがそっと頷きかけてきた。隣のクリアポーが姿勢を正す。

「では、スター族の権限を借りて、お前達に戦士名を与えよう。メモリーポー、今この瞬間より、お前はメモリースノウ(思い出の雪)という名になる。スター族は、お前の勇気と行動力をたたえる。」

ファイヤスターは進み出て、頭を下げているメモリースノウの頭の上に鼻先を乗せる。メモリースノウは敬意を込めてファイヤスターの肩を舐めた。

「クリアポー、今この瞬間より───」

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投稿 by ペタルドロップ Tue Sep 03, 2019 7:36 am

~クリアポー~

  「わたくし、サンダー族の族長であるファイヤスターは、ここにいる二匹の見習いを見て頂きたく先祖の戦士の皆様にお願い致します。この二匹は一生懸命訓練をし、あなたがたの定められた崇高な掟を理解するべく努力してきました。
そこでこの度、わたくしはこの二匹を戦士として推薦いたします。メモリーポー、クリアポー、お前達は自分の命を犠牲にしてでも戦士の掟を守り抜き、我が一族を弁護することを誓うか?」

たった今、クリアポーとメモリーポー二匹の任命式が始まった。

ここで訓練は終わり。自分たちに指導者はいなくなり、代わりに後輩たちを指導し、一族を養っていく立場となる。

「誓います」

「誓います」

二匹はそれぞれの思いを噛みしめながら答えた。

その時、ひらひらと雪が空を舞った。銀河のかかる曇りのない空を舞い落ちる、雪の結晶。それは、とても美しい眺めだった。

スター族がこれから見習いになる二匹を祝ってくれているようだ。

クリアポーは湧き上がってくる喜びと重くのしかかる責任を体全体で感じながら、メモリーポーに続いて空を見上げていた。


「では、スター族の権限を借りて、お前たちに戦士名を与えよう。メモリーポー、今この瞬間より、お前はメモリースノウ(思い出の雪)という名になる。スター族は、お前の勇気と行動力をたたえる」

族長はメモリースノウの頭の上に鼻面を乗せると、今度はクリアポーの方を向き直る。

「クリアポー、今この瞬間より、お前はクリアフラワー(透明な花)という名になる。スター族は、お前の根性と狩猟能力をたたえる」

ファイヤスターはそこまで言い終えると、メモリースノウのときと同様にクリアフラワーの頭の上に鼻面を乗せる。

するとそのとき、ファイヤスターはクリアフラワーにだけ聞こえる声で呟いた。「お告げの猫は、お前たちだった。サンダー族を救ってくれてありがとう。信じなくてすまなかったな」

“お告げの猫”?その意味は分からなかったが、気にしないことにした。
クリアフラワーは感謝の気持ちを込めて喉を鳴らす。


「メモリースノウ!クリアフラワー!メモリスノウ!クリアフラワー!」

スクワーレルフライトが呼ぶとみんなは一斉に、クリアフラワーたちの新しい戦士名を呼び始めた。

クリアフラワーは、自分の名前を大きく呼んでくれるようになったことを嬉しく思った。もうこれからは誰も、私を“浮浪猫”とは咎めないのだろう。

おめでとう。

クリアフラワーは一瞬耳をぴくっとさせた。この声援の中に、一際大きいハニーフラワーの声が聞こえたような気がしたのだ。

メモリースノウもかすかに体を揺らしていた。

クリアフラワーは空を見上げ、空に強く光る星を見つけると、優しく微笑んだ。
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投稿 by アイルステラ Wed Sep 04, 2019 7:38 am

~メモリースノウ~

メモリースノウはふわふわした尾をそっと身体に巻き付ける。とうとう戦士になったのだ、という実感がまだあまり湧かない。今夜は寝ずの番をすることになっているメモリーポーは、一族のいなくなった空き地を見回す。耳を澄ませると、一族の仲間達が立てる穏やかな寝息が聞こえてくる。

メモリースノウは目を閉じ、今までお世話になってきた猫達を思い浮かべる。自分を産んでくれたサンドストーム、育ててくれたハニーフラワー、指導をしてくれたレインウィスカー、見守ってくれるファイヤスター、そして自分と共に育ち、一緒に戦士となった親友。

今まで守られてばかりのメモリースノウだったが、これからは仲間達を守る戦士として、一族を支えていくのだ。ふと気配を感じたメモリースノウは、視線を送ってきていた隣の親友と視線を交わし、互いに微笑んだ。

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投稿 by ペタルドロップ Wed Sep 04, 2019 7:40 am

~クリアフラワー~

空き地からは、みんなの寝息しか聞こえなくなった。

先祖から代々伝わるしきたりに従って、新しく戦士になったものは夜明けまで無言で座って寝ずの番をしなければならない。みんなが眠っている間、二匹だけでキャンプの番をするのだ。

見習いになってから、本当にいろんなことがあった。

初めて友だちができて、初めて大好きな猫が亡くなっちゃって、初めて本気で喧嘩して、初めて好きな猫ができて......。

クリアフラワーは、胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。
煌めく銀河を見上げ、ゆっくりと瞼を閉じる。

きっと、母親が自分のことを捨てなかったら、ここのサンダー族にもいなかったし、こんなにいい猫たちにも巡り逢えなかっただろう。

クリアフラワーは隣で目を閉じ、想いをめぐらせている親友を見た。メモリースノウの茶色の毛は月の光を浴びて銀色に輝いている。

これからもメモリースノウと一緒に、この一族に精一杯尽くし、貢献していくのだろう。いい戦士になれるように、努力するのは当たり前だ。

見習いは卒業したが、それは戦士になってからも変わらない。

ふとした瞬間にメモリースノウが閉じていた目を開け、クリアフラワーと視線を交えた。

そして、二匹はどちらからともなく微笑みを浮かべるのだった。




夜の透き通った空には、コマドリのさえずりだけが響き渡っていた────
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投稿 by アイルステラ Thu Sep 05, 2019 7:45 am

~エピローグ~

「待ってよレインキット!!!」

「アイルキット遅いぞ!!!」

居心地のいい保育部屋から2匹の子猫が飛び出して行く。

「うわっっっ!?」

「レインキット、気をつけないと。」

何かにぶつかって転んだらしいレインキットの声と、優しく注意するクリアフラワーの声が聞こえてくる。活発なレインキットのことだから、クリアフラワーにぶつかってしまったのだろう。

「ごめんなさい!」

「お兄ちゃんまたやっちゃったね!!!」

「またってなんだよ!」

嬉しそうに言う妹に、レインキットは兄としての威厳を保とうとしているのか、精一杯落ち着いた声を出している。



楽しそうに話す声を聞いていると、保育部屋に雌猫が入ってきた。

「クリアフラワー!!!」

そう言って、メモリースノウは親友に頭を擦り付ける。お返しにとクリアフラワーはメモリースノウの耳を舐めた。

「最近、レインキットはどんどん活発になってるわね!」

「そうなの。さっきもぶつかったでしょ?何回言って聞かせても、夢中になると周りが見えなくなるのよ。」

メモリースノウは困ったように微笑む。

「子猫は元気なのが一番よ。」

お腹に抱いた自分の子猫達を幸せそうに眺めながらファーンクラウドは言う。

「この子達が走り回れるようになるのが楽しみだわ。」

そう呟いて、ファーンクラウドは眠っている子猫に頬擦りした。メモリースノウも自分のお腹に顔をくっつけて折り重なるようにして眠っている2匹の子猫をそっと舐める。クリアフラワーもその2匹を愛おしげに見つめている。

クリアフラワーは、子猫が4匹も産まれたメモリースノウの子育てを度々手伝いに来てくれている。いつも落ち着いている兄のロビンキットも、小さな妹のミルキーキットも、今はよく眠っている。

「外の空気を吸いに行ったら?少しの間なら、私がこの子達を見ているわ。」

クリアフラワーの申し出にメモリースノウは少しためらったが、感謝を込めてそっと鳴き、身体を起こした。

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雪の結晶[完結]                                      - Page 7 Empty Re: 雪の結晶[完結]

投稿 by アイルステラ Thu Sep 05, 2019 7:46 am

メモリースノウは、保育部屋から出るなり身を切るような寒さに身体を震わせる。キャンプの入口から、小さなハタネズミとトガリネズミをくわえたシンダーポーを先頭に、クラウドテイルとストームファーが帰って来た。狩猟部隊は運んできた獲物を獲物置き場に落とす。

保育部屋の中から聞こえた声にメモリースノウは振り返ると、ミルキーキットとロビンキットが出てくる。クリアフラワーも後ろから出て来た。

「ロビンキット、ミルキーキット、目が覚めたのね。」

「うん。」

ロビンキットが答え、ミルキーキットは小さく欠伸をしながら頷く。その時、2匹が起きてきたのを見つけたアイルキットとレインキットが跳ねて来た。

「ミルキーキット!ロビンキット!一緒に遊ぼ!!!」

「うん!!!」

ミルキーキットは嬉しそうに返事をすると、早速走り出す。

「あ、待って!!!ミルキーキット早いよ!」

慌てて追いかけるアイルキットと逃げるミルキーキットは、短い足を精一杯伸ばして追いかけっこをしている。

その2匹の様子を眺めていたロビンキットの後ろからレインキットがそっと忍び寄る。腰を振り、さっと飛び掛かったレインキットをロビンキットはかわす。悔しそうにしているレインキットは、得意気なロビンキットにもう一度飛び掛かる。今度はかわせなかったロビンキットは、レインキットに体当たりされて地面を転がった。



  メモリースノウは隣に腰を下ろしたクリアフラワーに話しかける。

「今日寒くない?昨日は少し暖かかったのに、また枯れ葉の季節に戻ってしまったみたい...」

不服そうに言うメモリースノウにクリアフラワーは身を寄せ、メモリースノウを温めながら答える。

「そろそろ若葉の季節が来るわ。あと少しよ。」

2匹の前で、とうとうアイルキットに追いつかれたミルキーキットが押し倒される。ミルキーキットはアイルキットの下から這い出すと、身体を振って拗ねたような表情を見せた。今度はミルキーキットがアイルキットを追いかけ始める。

少し離れたところでは、レインキットとロビンキットが取っ組みあっている。そんな2匹を優しい表情で眺めていたクリアフラワーが呟く。

「レインキットって、レインウィスカーに本当にそっくりよね。これから大きくなるのが楽しみだわ。」

「そうなの。あの子時々、レインウィスカーそっくりな表情をすることがあって...やっぱり息子なのね、って思うの。」

メモリースノウは切なげに、そして愛おしげに話す。子供達の顔を見ることができなかったレインウィスカーの分も、メモリースノウはたくさんの愛情を注いで育てているつもりだ。




今日も空には光り輝く星が出るだろう。


例え星が出ていない時でも、メモリースノウにはレインウィスカーが見守ってくれているのを感じる。

















若葉の季節はもうすぐそこだ。


最終編集者 アイルステラ [ Mon Jun 01, 2020 9:26 pm ], 編集回数 1 回

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雪の結晶[完結]                                      - Page 7 Empty Re: 雪の結晶[完結]

投稿 by アイルステラ Thu Sep 05, 2019 7:47 am

〈終わりに〉

読んでくださった皆様!ありがとうございました!!!

〝雪の結晶〟はついに完結です!!!
お楽しみ頂けたでしょうか?

この小説の評価を、上の投票にて募集しています。
今後、より良い小説を書くためにも、皆様の意見が知りたいため、是非投票お願いします!





ちなみに〝雪の結晶〟の場面設定は2期と3期の間となっています。

それは、レインウィスカーとモウルポーが亡くなった、ということが3-1の始めにひっそりと載っていたからです。(皆様はお気付きになりましたか?)

2匹が叔父と甥の関係だと気付いた瞬間に、私はどうしてもこの部分が書きたくなってしまいました!笑

本家に忠実に描きたかったため、2匹の死因は本家と揃えてあります。

(個人的にはソーレルテイルがとてもかわいそうで...ソーレルテイルは、ウォーリアーズの中でも特に親族に不幸が多い猫のような気がします...兄弟や子供が多いからでしょうか...)

もともと登場する回数が少なかった猫のキャラクター設定を自由に決められる、ということも私がレインウィスカーを指導者に選んだ理由の1つです。

ちなみに、メモリースノウのスノウは、レインウィンスカーのレインを元にしているわけではなく、たまたまです笑





さて、色々書いていまいましたが、初めての小説を書いてはっきりと言えることは、小説は難しい!!!ということです笑笑

けれど、ストーリーを考えるのはとても楽しく 、そして閲覧数が1つ増えた時の喜びは、とても大きかったです!

ペタルドロップと話し合った膨大な時間が、こうして1つの作品として形になったことに、とても達成感を感じています!!!

ペタルドロップ本当にありがとう♪

これからもよろしくね!!!

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雪の結晶[完結]                                      - Page 7 Empty Re: 雪の結晶[完結]

投稿 by ウィステリアフロスト Thu Sep 05, 2019 3:16 pm

ついに完結しましたね!毎日楽しみにしていた雪の結晶が終わってしまい、これから寂しくなりそうです😞
メモリースノウの子供たちの成長が楽しみです!レインキット達の話もあったらいいな・・・

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雪の結晶[完結]                                      - Page 7 Empty Re: 雪の結晶[完結]

投稿 by ナルシスフェザー Thu Sep 05, 2019 3:28 pm

まず、

完 結 お め で と う ご ざ い ま す !
🎊 🎊 🎊 🎊

毎日更新お疲れ様でした!
お二人共文才が溢れ出すような文章でした!
カップルは消滅してしまいましたが、このような素敵な完結となり良かったです!
本当に毎日の楽しみであった「雪の結晶」!最高でした!楽しませてくれてありがとうございました!(*^^*)
もうメモリースノウとクリアフラワーのファンになってしまいました(笑)
そこでメモリースノウとクリアフラワーの絵を描きたいのですが、よろしいでしょうか?
ダメだったら遠慮なくどうぞ!

凄く長文になってしまいましたが改めて

完結おめでとうございます!🎊
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雪の結晶[完結]                                      - Page 7 Empty Re: 雪の結晶[完結]

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