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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~

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投稿 by ジェードウィング Sat Oct 21, 2023 7:00 pm

第六十二章
「あ、あなたが特別な猫の四匹目?シンバズロアも?ファイヤペルトのことはわかっていたけれど…」
みんなの視線がジェードフロストにあつまり、毛が逆立つ。
「どういうことだ?説明してくれ、チャコールフェザー、ジェードフロスト」
ライジングスターまで混乱している。
チャコールフェザーがたちあがり、話し始めた。
「今日半月の集会に行ったときにわかったんです。スター族のファイヤスターという方が教えてくださって…兄さんにそっくりでした」
チャコールフェザーはファイヤペルトに目を向けた。
「最初の三匹の力が失われつつあるというのはどういうことなの?」
副長のスプリングストームが大きな声でたずねる。
「言葉通りの意味です、スプリングストーム。どうしてかわからないんですけど、スカイウィングとジェードウィングの信じる力が弱くなってきているとか何とかで…」
そばでペタルムーンが身をこわばらせるのを感じた。
「そういえば、僕はよく予知夢を見る。昨日も、タイガーリリーが狩りの途中にイバラの茂みに突っ込む夢を見たんだけど、現実になったよ」
みんながファイヤペルトのほうを見た。
シンバズロアはうなずき、言った。
「言われてみると、僕はけがをしたことがない」
「僕は、ほかの猫の心の中をのぞくことができるし、夢にも入り込める」
みんなが毛を逆立てている。
「どうして…どうして早く言ってくれなかったの?」
ジェードフロストは三匹にたずねた。
「ありえないと思ったんだよ。自分たちが特別とは思わなかった」
チャコールフェザーがそう言うと、シンバズロアとファイヤペルトもうなずいた。
「でも今日わかった。ファイヤスターも、ようやくわかったと言っていたよ」
ライジングスターがジェードフロストのほうを見ていった。
「俺はお前が特別な猫であることは知っていたぞ、ジェードフロスト。お前は寝ている間に現実の世界に行くことができ、そしてほかのものを連れ込むこともできる」
しばらく沈黙の時間が続いた。
みんながそわそわと身動きをし、長老たちが小さな声で話し合うのも聞こえた。
シンバズロアとファイヤペルトは身を縮め、何か言われるのではないかと心配しているようだ。
ふいに、サンペルトが言った。
「特別な猫がいて、問題があるでしょうか?むしろ好都合じゃありませんか?ダークヴァレイの襲撃のときに素晴らしい力を持つ猫が現れたんですよ?」
その一声に賛成する声が広まっていき、やがて新しい特別な猫をたたえる歓声へと変わっていった。
「シンバズロア、しっかり戦ってくれよ!」
「チャコーフェザーは一人前の看護猫よ!」
「ジェードフロスト、ファイヤペルト、すごいわ!」
ライジングスターはあたたかいまなざしで一族の猫たちを見回し、ジェードウィングは自分の子供たちに駆け寄ってわき腹を押し付けた。
クリムソンハートもあるいてきて、「しっかりやってくれよ」と声をかけた。
身を縮めていたファイヤペルトとシンバズロアは力を抜いて胸を張った。
チャコールフェザーは座り、あたりを見回している。
ああ、よかった!
サンダーフォレストも歩いてきた。
「すごいよ、ジェードフロスト!僕まで誇らしくなる」
そう言いながらジェードフロストの顔中をなめ始めた。
ジェードフロストがのどを鳴らしていると、しばらくしてライジングスターが言った。
「もうほかに何もないな?あと、チャコールフェザーは避難場所のことを言ってくれたんだな?よし、解散!」
その声を聞くなり空き地にいた猫たちは散り散りになった。
ふいに誰かのしっぽが背中をかすった。
ライジングスターだ。
「ちょっと来てくれ」
ライジングスターは族長部屋のほうへ歩いて行った。
中に入ると、ライジングスターはさっそく話し出した。
「大事な話だ、ジェードフロスト。今からほかの部族のキャンプにいって族長たちと話し合うことがある。ついてきてくれ」
ジェードフロストは目を見開いた。
「どうしてスプリングストームじゃなくて私なんですか?」
「お前が特別な力を持つ猫だからだ。ほかの部族でも顔が知れている」
「でも    
「いいからついてきてくれ!前にほかの部族の族長をお前が夢に呼び込んだのを覚えているだろう?信用されているはずだ」
その言葉に納得し、「わかりました」と返事をした。
族長部屋を出ると、スプリングストームに声をかけられた。
「もう行くのね」
「はい。スプリングストームもお気をつけて」
そういったとき、イバラのトンネルの前からライジングスターの呼ぶ声がした。
「では、行ってきます」

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投稿 by ジェードウィング Sun Oct 22, 2023 1:57 pm

第六十三章
ジェードフロストはライジングスターといっしょにグラス族の境界線に座っていた。
パトロール隊を待ってなわばりに入ることを許可してもらうのだ。
ああ、早く来ないかしら。
ジェードフロストたちはだいぶ前からずっとパトロール隊を待っていて、もう足がしびれてきていた。
そのとき!
グラス族側にある茂みがかさかさと音を立て、パトロール隊が出てきた。
パトロール隊は、副長のグレースパーク、ラセットクロー、そしてそのもと弟子のリヴァーフロー、そして小柄な見習いが一匹だ。
見習いが歯をむいて言った。
「境界線で何をしているんだ?」
それを、グレースパークがたしなめる。
「やめろ、リードポー!相手はフォレスト族の族長とジェードフロストだぞ!ジェードフロストがいなければ今の俺たちはいないんだ!」
「すみません」
リードポーは仏頂面で謝った。
「すまない、ライジングスター、ジェードフロスト。きっと反省していると思うから、許してやってくれ」
そう言いながらグレースパークはリードポーをにらむ。
「でも、どうしてこんなところにいるんだ?グラス族のなわばりに何か用か?」
「ああ、そうなんだ。襲撃のことについておたくの族長と話したい」
グレースパークの目がきらりと光った。
「わかった。ついてきてくれ」
そう言ってしっぽで招くようなしぐさをした。
ライジングスターはたちあがり、礼儀正しく頭を下げた。
「ありがとう。感謝するよ、グレースパーク」
グレースパークはうなずき、ライジングスターは境界線を越えた。
ジェードフロストも後に続き、ライジングスターの後ろに並んだ。
先頭ははグレースパーク、しんがりにラセットクローをつけ、グレースパークは歩き出した。
歩き出すとリードポーが横に来て、「少しでもおかしな行動をしたら噛みつくからな!」といった。
「やれるものならやってみなさい!」とかえすと、リードポーはうなって後ろに下がった。
しばらく無言で歩いた。
みんな黙り込み、聞こえるのは木々のたてるさわさわという音と足音だけになった。
ふいにグレースパークが立ち止まり、ジェードフロストはあやうくライジングスターにぶつかるところだった。
「ここがキャンプだ。入ったら族長部屋に案内するよ」
「どうもありがとう」
ライジングスターが礼を言うと、リードポーは鼻を鳴らした。
それを見たリヴァーフローはしっぽでリードポーの耳をはじいた。
補強されたトゲだらけのイバラのトンネルを抜けると、そこにはフォレスト族とは全く違うキャンプがあった。
岩壁に囲まれてはおらず、木でぐるりと囲まれた広い空き地にやわらかい草が生えている。
部屋はイバラの壁でできていて、壊すのは簡単ではなさそうだ。
空き地の四方からいろんな声が聞こえてくる。
「なんだ!このコケはぬれてるじゃないか!さっきの見習いを見つけたら叱ってやらんといかんな!」
あそこは長老部屋ね。
あっちのほうからは、母猫が子猫をあやす声が聞こえてくる。
キャンプの見た目は違っても、様子は一緒なのね。
「おい、何をじろじろ見ているんだ?」
リードポーが敵意に満ちた声で言った。
「見ているだけよ!」
リードポーはどうだかという風に鼻を鳴らしてから見習い部屋であろう部屋に入っていった。
「族長部屋はこっちだ」
グレースパークの案内する声が聞こえた。
ライジングスターが歩き出したので、ジェードフロストも続いた。
族長部屋はすごく太い木のウロにあって、中はとても広かった。
入り口にはコケのカーテンがかかっている。
中に入ると、ゴールデンスターは寝床に座って食事をしていた。
入ってきた三匹に気が付くと体を起こし、何事かという風にグレースパークに目を向けた。
「ゴールデンスター、食事中に申し訳ない。話があってきたんだ。襲撃のことについて」
ゴールデンスターは納得した表情になり、「わがキャンプへようこそ」と歓迎の言葉を述べた。
ライジングスターはうなずき、話し出した。
「襲撃は大集会の前の日にあるだろう?つまり、明日の真夜中だ。そこで、今日のうちに大集会をしようと思って」
思いがけない提案に、ジェードフロストは目を真ん丸にした。
こんな話は聞いていなかった。
「ど、どういうことだ?」
ゴールデンスターも混乱しているようだ。
「避難場所についてや戦法について話し合いたいんだ。いつも通りの大集会に連れていく戦士や見習いを連れてきてくれないか?」
答えに困っているゴールデンスターに、グレースパークが助言をする。
「いいんじゃないか?あらかじめ打ち合わせをしておいたほうがいい」
グレースパークのその言葉に賛成したのか、ゴールデンスターはうなずいた。
「わが部族は大集会に参加することにするよ」
ライジングスターもほっとしたように目を輝かせた。
「ありがとう。では、また大集会で」
そう言うとライジングスターは立ち上がり、族長部屋から出た。
「まわるのはあと二つの部族ですね」
ジェードフロストが声をかけると、ライジングスターは満足そうな顔でうなずいた。
「さあ、行こう。夕方までにほかの部族のキャンプを回り終えたい」
「わかりました」
早くまわらなきゃ。
日が暮れてしまったら、もう部族は集まることができなくなってしまう。

ジェードウィング
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投稿 by ジェードウィング Tue Oct 24, 2023 7:16 pm

第六十四章
「おい、そこで何をしているんだ?」
サンド族との境界線に座っていると、パトロール隊に声をかけられた。
「あなた方が来るのを待っていたんだよ。トゥリクルスターに話がある。さっきグラス族にも行ってきた」
パトロール隊には、スカイクロー、ホワイトブリーズ、それからその新しい弟子のミノウポーがいる。
そして驚いたことに、パトロール隊を率いているのは裏切り者のクレセントクローだった。
クレセントクローは鼻を鳴らし、言った。
「じゃあ、グラス族のやつらはバカだったんだな。こんなやつらをなわばりに入れるなんて」
そう言われてむっとしたジェードフロストは、あごをクイッとあげ、胸を張っていった。
「『襲撃のこと』についての話よ!」
ジェードフロストはクレセントクローが裏切り者だと知っているので、「襲撃のこと」という言葉をゆっくり強調していった。
クレセントクローがキッとこちらをにらみつけた。
まるで知っているのかと問いただすような目つきだ。
ライジングスターは少し困ったような顔をしてジェードフロストのほうを見たが、何も言わなかった。
「あら、そうなの?いいんじゃない、案内して?」
パトロール隊のなかで一番年長の戦士、ホワイトブリーズが言った。
ジェードフロストはホワイトブリーズに感謝のまなざしを送った。
「そうですね」
クレセントクローは、ジェードフロストに目を据えたまま先輩の戦士に同意した。
「ついてこい」
クレセントクローがしっぽを大きく一振りして歩き出したので、ライジングスターも立ち上がって歩き出した。
みんなしばらく黙って歩いていたが、スカイクローが口を開いた。
「そういえば、トゥリクルスターはジェードフロストに感謝しているようだぞ。お前のおかげで襲撃の日時が分かったと」
ジェードフロストは体が火照るのを感じながら、「ありがとうございます」と礼を言った。
もうしばらく歩くと、ふいにクレセントクローが立ち止まった。
「ここが俺たちのキャンプの入り口だ。いいか?変な行動をしたらたとえ族長でも許さないからな」
そういってライジングスターをにらんだ。
「わかってるよ、クレセントクロー。案内してくれてありがとう。それと、私たちは話に来ただけだ」
クレセントクローは鼻を鳴らし、イバラで囲まれた狭い穴の中に入っていった。
ライジングスターとジェードフロストも続いてくぐり、顔を上げた。
そこに広がっている光景は、やはりグラス族やフォレスト族のキャンプとは全く違う様子だった。
サンド族のキャンプは砂地で、ところどころ緑の草が生えている。
キャンプは背の高い草や低木で囲まれていて、ところどころイバラで間を詰めてある。
「族長部屋はこっちです。案内させていただいていいでしょうか?」
ホワイトブリーズの弟子、ミノウポーが遠慮がちに言った。
「もちろんだ。ありがとう」
ライジングスターがそう返事をすると、ミノウポーは目を輝かせて、「こっちです!」と歩き出した。
キャンプ内の傾斜した地面から突き出した大きな岩は、きっと一族の集会で使うのだろう。
ミノウポーはコケのカーテンをくぐり、その岩の下にある広そうな穴の中に入っていった。
中は広く、羽とシダを敷き詰めたやわらかそうな寝床とあたたかい獲物があった。
「やあ、ライジングスター、ジェードフロスト!」
トゥリクルスターは部屋の真ん中に座り、「さっきホワイトブリーズに聞いたよ」と言った。
それを聞いたライジングスターはさっそく話し出した。
「そうか。なら話は早いな。明日の真夜中の襲撃のことなんだが、今日のうちに大集会をしようと思うんだ」
さすがのトゥリクルスターも、この提案には驚いたようだ。
「大集会を?満月じゃないのにか?」
「ああ。だって、戦法や避難場所の確認をしないと。ダークヴァレイに勝つためだ」
トゥリクルスターはしばらく考えていたが、ようやく心を決めたようだ。
「わが部族は参加するよ。君の言うとおりだ、ライジングスター」
ライジングスターもうなずき、「ありがとう」と感謝の気持ちを表した。
「では、また大集会で」
そう挨拶して部屋を出ると、クレセントクローが待っていた。
クレセントクローは族長部屋から出てきた二匹を見つけるなりライジングスターではなくジェードフロストのほうへ歩いてきた。
そして、耳元でこう言った。
「おい、襲撃のことをみんなにばらしたのはお前だな?」
「ええ、そうよ!」
ジェードフロストは勝ち誇った声で言い、「あなたたちは負けるわ!計画がもれている時点でもう負けよ!」と付け足した。
どう返されるかと身構えていると、驚いたことにクレセントクローは…笑っている!
クレセントクローは、ジェードフロストにとって不可解な笑いを顔に浮かべたまま、押し殺した声でジェードフロストに言った。
「よし、いいだろう。お前の両親の次に殺すのは、お前に決めたぞ」

ジェードウィング
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投稿 by ジェードウィング Wed Oct 25, 2023 5:30 pm

第六十五章
「ああ、ライジングスターか!」
その声の主は、キャンプまで行って会おうと思っていたクロウスターだ。
「クロウスター!話があったんだ。キャンプを訪ねようと思っていたのだがな」
ライジングスターは、もうすぐ夕方になる赤い空を見上げた。
その色は、まるで血のようだ。
『よし、いいだろう。お前の両親の次に殺すのは、お前に決めたぞ』
ジェードフロストはクレセントクローの恐ろしい言葉を思い出し、身震いをした。
なんて恐ろしいの!
だがジェードフロストは頭を振り、ライジングスターとクロウスターの話し合いに集中した。
「…撃は明日の真夜中だから、今日大集会をしようと思うんだが、どう思う?」
クロウスターはちょっと首をかしげ、それから言った。
「部族は休戦の決まりを守れるだろうか?」
ライジングスターもクロウスターをじっと見つめ、言った。
「危機が迫ってきているということが分かっているのなら、守るだろう」
二匹はしばらく黙り込み、ようやく口を開いたのはクロウスターだ。
「わかった。俺の部族も参加させていただくよ」
ライジングスターは礼儀正しく頭を下げ、「ありがとう」と礼を言った後、スターモスを囲む木々のほうへ歩いて行った。
ジェードフロストとライジングスターは大きくぐるっとスターモスをよけ、自分たちのなわばりに入った。
「よかったですね、夕方までに終わって」
ジェードフロストが声をかけると、ライジングスターが答えた。
「ああ、よかったよ。ついてきてくれてありがとう」
ジェードフロストはライジングスターに頭を下げた。
「よし!早く帰って大集会の用意をしなければ!」
そう言ってライジングスターは下生えに飛び込んだ。

キャンプに帰ると、空き地にはもう猫たちが集まり、族長がグレートルートに飛び乗り話し出すのを待っていた。
ライジングスターがグレートルートに駆け寄って飛び乗り、呼びかけた。
「みんな、集会を始める!今日、きゅうきょ大集会が行われることになった。明日の真夜中に襲撃があるからだ!連れていくものを発表する。呼ばれたものは大集会に行く準備をするように!」
みんなが目を輝かせ、連れて行ってくれというように身を乗り出した。
「連れていくものはチャコールフェザーはもちろん、それからスプリングストーム、アイスブラッサム、アージャーウィング、ブラックストーム、スパロウペルト以外の戦士全員だ!」
みんなが驚き目を真ん丸にした。
「母猫以外の三匹にはキャンプを守ってもらう!以上、解散!腹ごしらえをしておけよ!」
その言葉を最後に、集会はお開きになった。
アイスブラッサムの子供二匹が保育部屋からちょこちょこ出てきて、「みんな、大集会に行くの?」とかん高い声で聞いた。
二匹の後から母親のアイスブラッサムが出てきて、「ええ、そうよ。あなたたちはキャンプを守って」と言い、子供たちを保育部屋に返した。

「さあ、出発だ!みんな、イバラのトンネル前に並べ!」
ライジングスターの召集がかかり、五匹を除いた全員の戦士がイバラのトンネルの前に並んだ。
さあ、部族が団結する瞬間を見に、出発だ。
部族は団結して戦うのね。
私たちはダークヴァレイに打ち勝ち、部族猫たちにとって安全な森を守り抜く。
私は命を懸けて部族を守る。
それが、特別な猫の   いいえ、部族猫の役目だと思うから     

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投稿 by ジェードウィング Thu Oct 26, 2023 8:16 pm

第六十六章
「ジェードフロスト!」
スターモスについてはじめに声をかけてくれたのは、列の後ろのほうにいたサンダーフォレストだ。
「ジェードフロスト、無理してないか?最近働きづめだよ」
ジェードフロストは、サンダーフォレストの優しさや愛情に胸があたたかくなった。
「大丈夫よ。一族を…いいえ、部族を守るためなら私は命だって捨てる」
その答えにサンダーフォレストは優しくうなずき、ジェードフロストのわき腹に鼻を触れた。
そして一度ジェードフロストを振り返った後、ラーク族の猫のほうに駆けて行った。
少し離れたところから、母が歩いてきて言った。
「サンダーフォレスト、あなたにやけに優しいわね。それに、最近一緒にいることが多いところを見ると…?」
ジェードウィングはいたずらっぽく目を輝かせた。
ジェードフロストは起こったふりをしてうなり、母に飛び乗った。
母はやさしくジェードフロストの鼻づらをたたき、愛情を込めた目で見つめた。
「ジェードフロスト、私はあなたの母親になれてすごく誇らしいわ」
「お母さん…」
母の言葉に、思わず涙をさそわれた。
ジェードウィングはしっぽでジェードフロストのわき腹をなで、「心配しなさんな」と小声で言った。
母と鼻を触れ合わせてから離れた後、サンド族の集団が到着した。
クレセントクローがいないところを見ると、トゥリクルスターにキャンプを守ってくれと言われたのだろう。
あの猫は恐ろしい。
『よし、いいだろう。お前の両親の次に殺すのは、お前に決めたぞ』
「お母さん!」
去っていく母に大声で呼びかけた。
「クレセントクローに…クレセントクローに気を付けて!」
母は悲しそうに目を輝かせ、うなずいた。
「みんな揃ったな?では、臨時の大集会を始める!」
いきなりの開会だったので、みんな急いでその場に座った。
ジェードフロストが座ったときサンダーフォレストがとなりにいて、安心した。
「みんな、今日は戦法や避難場所について話し合う!まず、戦法だ!」
ライジングスターが後ろに下がり、クロウスターが出てきた。
「きっと数の多いダークヴァレイは四つの部族を一気に襲撃してくるだろう。よって、提案するのだが…我々族長四匹で考えた」
そこで一度言葉を切ったクロウスターは、部族猫たちを見下ろした。
空き地中の猫たちはどんな戦法なのかと目を輝かせて待っている。
「各部族から三匹ずつほかの部族のキャンプに派遣することにしないか?」
空き地から抗議の声と賛成の声が半分半分くらいで上がった。
ライジングスターがしっぽを上げて黙らせた後、ゴールデンスターが話し出した。
「異議があるものは、理由を言ってみろ」
サンド族のソーンウィスカーが立ち上がった。
「発言していいでしょうか、ゴールデンスター?」
ゴールデンスターがうなずくと、ソーンウィスカーが話し出した。
「たしかに我々は団結して戦います。ですが、それとこれとは少し違うんじゃないでしょうか?」
その言葉を、ラーク族のスノウスワロウが継いだ。
「そうですよ!獲物や寝場所は?ほかの部族の猫たちと寝るなんて、嫌です!」
反対派の猫は歓声を上げたが、賛成派の猫は驚きと怒りの混じった声を上げた。
「じゃあ、何が正解だというんだ?お前たちにもっといい案があるというのか?」
トゥリクルスターの威厳のある物言いにひるんだのか、反対派だった猫たちは確かにそうだとそわそわと身動きを始め、最初に話したあの二匹も「すみません」と小声で謝った。
「もう、異議を唱える者はいないな」
満足げにくぼ地を見回しながらライジングスターが言った。
「では、明日の昼までには三匹ずつ派遣すること。次は避難場所についてだ。ジェードフロスト、たのめるかい?」
いきなり言われたものなので驚いたが、みんなの役に立てるならとうなずき、族長の横に飛び乗った。
「フォレスト族のキャンプの中に〈大地のうなり〉によってできた〈とがり石の洞窟〉という場所があります。地上より暖かくて、スターモスほど広いです。コケや羽も敷き詰めてあってやわらかく、そこなら母猫も長老も子猫も安心して身を隠せると思います」
たくさんの猫たちがほっと吐息をもらしたのが聞こえて、ジェードフロストも安心した。
ジェードフロストは大きな岩から飛び降り、元の場所に戻った。
「ありがとう、ジェードフロスト。明日の昼にはいかせてもらうよ」
クロウスターが礼を言った。
ジェードフロストも族長たちに頭を下げ、腰を下ろした。
「よし、みんな。戦法や避難場所についてはわかったな。明日は団結して戦うぞ。一人もこぼれ落ちるな!ダークヴァレイを打ち負かし、また平和な森を守り続けようじゃないか!」

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Fri Oct 27, 2023 5:25 pm

第六十七章
「みんな、空き地に集まれ!派遣する戦士と、ほかの部族の猫たちを避難場所に案内する猫を決める!」
キャンプを出ようとしていたジェードフロストは、キャンプの真ん中に戻って座った。
ほかの猫たちも部屋から出てきて仲のいい猫たちのそばに座っていく。
誰かがジェードフロストのとなりに座ったので、見てみるとサンダーフォレストがいた。
もう片側にも誰かが座った。
また見てみると、サンダーフォレストのことを嫉妬するような目で見つめるファイヤペルトがいた。
ファイヤペルトはジェードフロストに体をぴったり押し付けるように座り、サンダーフォレストに向かって勝ち誇ったようなまなざしを送った。
「ファイヤペルト、ほら族長が話すわ!前を向きなさい」
ジェードフロストがやんわり注意をすると、ファイヤペルトはうなずいて前を向いた。
みんなが座って落ち着くと、ライジングスターが話し出した。
「よし、まず派遣する戦士を決めよう」
そう言って考えるような表情になった。
「まず、グラス族にはサンペルト、ミスティスカイ、ホーククローだ。いいか、三匹とも?」
ライジングスターが同意を求めると、ホーククローが立ち上がって目を輝かせ、「もちろんです!」と叫んだ。
ライジングスターは満足げにうなずき、続けた。
「では、サンド族にはタイガーリリー、スラッシュウィンド、フォレストアイ」
ライジングスターが呼ぶと、タイガーリリーとスラッシュウィンドは目を輝かせて見つめ合った。
若葉の季節には子猫ができてるかも。
ジェードフロストは思わずほほえんだ。
「ラーク族にはスペックルバーク、クラウドウィング、ペタルムーン」
その名前が呼ばれた瞬間、シルヴァークローとジェードウィングがペタルムーンを見た。
その目には憎しみがこめられ、悲しみや怒りも混じっていた。
身を縮めるペタルムーンとそれを見つめる二匹を見て、ジェードフロストは胸が痛くなった。
ああ、この問題は私には解決できないかも!
「では次に、案内役の猫を決める!これはもう決まっているぞ!」
みんなが族長を見上げた。
「もちろん、ジェードフロスト!それからファイヤペルトだ」
空き地からどっと賛成の声が上がり、ジェードフロストは誇らしい気持ちになった。
「頼むぞ、ジェードフロスト!」
「しっかり案内してやれ、ファイヤペルト!」
そんな声がおさまっていくと、再びライジングスターが話し始めた。
「そして、今日の夜は見張り番を置く。異変があったら知らせる役目だ。これは…」
「ちょっと待ってください!」
ジェードフロストは失礼とはわかっていながら族長の言葉をさえぎった。
族長やほかのみんなは、驚いた様子でこちらを見ている。
「さえぎってすみません、ライジングスター。ですが、それについてはもっといい案があります」
ジェードフロストが続けていいかというようにちらっとライジングスターを見ると、ライジングスターは、続けろ、というようにしっぽを上げた。
「みなさん、私の特別な力は知っていますよね?夢で現実の世界に行けると。きっと、ダークヴァレイが動き出したらジェイフェザーが教えてくださると思います。私を信じてくださるのなら、見張りと同じような役目をこの私にさせてください」
ライジングスターが首をかしげた。
「どうしてそうしようと思ったんだい?」
ジェードフロストは大きく息を吸ってから答えた。
「みんな襲撃の時間になるまではしっかり寝たほうがいいです。そして、部族のなわばりからダークヴァレイのなわばりはだいぶ離れていますから、やつらがこっちに向かっている間にほかの部族の猫たちに伝えることができます。伝令の係が一匹ほしいです」
ライジングスターがジェードフロストの答えに満足した様子でうなずいた。
「わかった。では、伝令はジェードフロストとリリーウィングにしよう。両方足が速いからな」
ライジングスターがそう言うと、リリーウィングが頭を下げた。
「もうほかに何もないな?では、解散!夜までにとれるだけの獲物をとってこい。体力をつけておかなくては」
ライジングスターのその言葉で集会は解散になった。
よし、狩りに行こうっと。
ヴァイオレットプールを連れて行こうかしら?
そんなことを考えていると、近くに副長の姿を見つけた。
「スプリングストーム!」
呼びかけるとスプリングストームは振り返り、「どうしたの?」と優しくたずねてくれた。
「狩りに行きたいんですけど、ヴァイオレットプールとほか何匹かををかりても?」
「ええ、いいわよ。頼むわね」
スプリングストームの同意を得たジェードフロストは、昼まで狩りをすることにした。
ジェードフロストは戦士部屋に首を突っ込み、呼びかけた。
「ヴァイオレットプール?」
「はい」
すぐに声が帰ってきた。
ヴァイオレットプールは自分の寝床に座っている。
「狩りに行かない?」
「はい!行きたいです!」
ヴァイオレットプールは元気よく答え、立ち上がって伸びをした。
戦士部屋を出た二匹は、狩りに行く猫を集めることにした。
空き地を歩いていると、うろうろと歩き回る母の姿が目に入った。
「お母さん!」
ジェードウィングが振り返った。
「一緒に狩りに行かない?」
「ええ、もちろん!」
ジェードウィングがこちらに駆けてきた。
「ほかに行く猫は?」
「今のところはヴァイオレットプールと私、それからお母さんだけ。いけそうな猫を探しているの」
ジェードウィングは納得したような表情になり、言った。
「なら、ラセットウィンドをさそうといいわ。きっとやることがないから」
「ひどい言いようですね、ジェードウィング!」
声の主は、今探そうとしていたラセットウィンドだ。
「ああ、いたいた。探しに行こうって話していたの」
「はい、聞こえました。ジェードウィングの言うとおり、僕は仕事がありませんから」
そう言ってラセットウィンドはいたずらっぽく目を輝かせてジェードウィングを見た。
「じゃあ、行きましょう」
ジェードフロストたち狩猟部隊は連れ立ってイバラのトンネルをくぐった。
こんな風に狩りに行けるなんて。
まるで今、部族が危機におちいっているっていうのが嘘みたいに。

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Sat Oct 28, 2023 7:27 pm

第六十八章
「よし、全員獲物は食べたな?しっかり休んでおけ!それから、リリーウィング!ジェードフロストに起こされたらすぐに行け!」
ライジングスターが指示を出し終えると、猫たちは自分の寝床に入っていった。
もうほかの部族の派遣戦士や避難する猫も到着し、無事合流した。
ああ、こんなの、眠れるわけがないわ!
そう思ってから気が付いた。
ダークヴァレイの動きを調べなきゃいけないんだから、眠れないわけがないわ!
ジェードフロストは、足が空回りするほど急いで寝床に飛び込んだ。
ジェードフロストのあまりの速さに周りの猫は驚き、目を真ん丸にした。
さあ、早く寝なくちゃ!
ジェードフロストはしっかり目をつむり、ゆっくりと呼吸を始めた。
何度息を吸い、そして吐いただろう。
ジェードフロストが目を開けると、そこはやはり、ダークヴァレイだった。
「全員用意はいいか?もうすぐ出発するが、ついてこれないというやつは今俺が殺してやる」
みんなひるむことなくジャギッドクローを見上げた。
「いいだろう」
ジャギッドクローは満足した様子でうなずいた。
「スパッターブラッド!こいつらの調子はどうだ?」
奥からすらりとした、赤い目の黒いオス猫が出てきた。
「申し分ないよ、ジャギッドクロー。みんなのどを狙うことができている」
スパッターブラッドはにこりとも笑うことなく、冷たい目で仲間を見回した。
まるで、そんなわけないよな?と脅すような目つきだ。
「本番でもうまくやれ。まあ、へまをするような猫に育てた覚えはないがな」
ジャギッドクローも猫たちを見下ろし、威厳のある声で言った。
「その通りだ」
スパッターブラッドはうなずき、後ろに下がった。
「さあ、出発だ!部族の森を俺たちのものにする!クレセントクローたちとは現地集合だ!」
ジャギッドクローがそういったとき誰かの息が耳にかかり、ジェードフロストははっとした。
「ジェイフェザー!」
ジェイフェザーはうなずき、「行ってこい!部族を救え!」といった。
ジェードフロストもうなずき、夢から覚めた。    というより、ダークヴァレイから戻ってきた。
あそこにいたのは事実なのだから。
「リリーウィング!」
ジェードフロストはリリーウィングをゆすり、起こした。
「ダークヴァレイが動き出したわ!あなたはサンド族に行って!私はラーク族とグラス族に行く。終わったらオークフロクに!」
リリーウィングはうなずき、戦士部屋から飛び出した。
ジェードフロストも後を追い、ライジングスターに言ってくると伝えてからイバラのトンネルを抜けた。
はやく、はやく!
ジェードフロストはとにかく全力で走った。
しばらく走った。
オークフロクを通り抜け、小川のそばを通り、やっとグラス族との境界線に着いた。
ジェードフロストは大きく息を吸ってから境界線を飛び越え、グラス族のなわばりに入った。
ジェードフロストはキャンプに向かった。
どれだけ走ったかわからない。
もうダークヴァレイの猫たちがそこまで来ているかもしれない!
そう思ったとき、前に来たグラス族のキャンプの入り口を見つけた。
ジェードフロストはイバラのトンネルの中に飛び込み、すばやく這って進んだ。
やっと抜けた!
「おい、何してるんだ?」
顔を上げるとそこにいたのは…
「リードポー!ダークヴァレイが動き出したから伝えに来たの!」
リードポーは顔をしかめた。
どうして?
「僕は戦士になったんだ!リードウィスカーズ。それが、僕の戦士名だ」
「わかったわ、リードウィスカーズ!とにかく、みんなに知らせて戦闘態勢に入って!」
リードウィスカーズはうなずき、走って族長部屋に向かった。
その途中振り返って、ジェードフロストと目を合わせずに「ありがとう」と言った。

グラス族のなわばりを出て、次はラーク族のなわばりに入った。
どうしよう!
この部族のキャンプは知らない!
ジェードフロストは焦りながらも直感で探すことにした。
どのくらいの時間迷っているのだろう?
ダークヴァレイは今どこ     
あった!
ジェードフロストは、やっとラーク族のキャンプを見つけた。
ハリエニシダのトンネルを抜け、最後にかかった柳のカーテンをくぐった。
なんて広いの!
そのキャンプには豊富に水があり、あそこにある湖には魚がたくさんいそうだ。
そんな思いを振り払い、ジェードフロストはどれが誰の部屋かわからないので大声で叫んだ。
「ダークヴァレイが動き出しました!お告げがありました!」
四方八方の部屋部屋からたくさんの猫たちがドッと出てきた。
みんな不安そうに目を輝かせ、あたりを見回している。
族長部屋と思われる場所から族長も出てきた。
「ジェードフロスト!ダークヴァレイが動き出したって?」
「ええ、そうなんです、クロウスター!」
「よくキャンプを見つけたな!」
「はい、だいぶ迷いましたが、直感で見つけることができました」
ジェードフロストは一式答え終え、クロウスターやラーク族のみんなに向き直った。
「戦闘態勢に入ってください!」
ラーク族に派遣戦士としてきている三匹が出てきた。
クラウドウィング、スペックルバーク、ペタルムーンだ。
ペタルムーンは若干気まずそうな顔をしている。
スペックルバークが口を開いた。
「始まるんだな?」
「ええ」
ジェードフロストは大きな声で力強く言った。
「伝えることは伝えました!みなさん、協力して戦ってください!部族を守るためにも」
空き地から歓声が上がると、ジェードフロストはにっこりとほほ笑んでからキャンプを出た。
さあ、戻らなきゃ。
私の一族のもとに。
しっかり守り抜き、幸せにする。
それがきっと、私の役目。

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Sun Oct 29, 2023 9:51 am

第六十九章
ジェードフロストはリリーウィングといっしょに全力でイバラのトンネルを抜けた。
キャンプに入ると、クリムソンハートの声が聞こえた。
「ジェードフロスト、リリーウィング、よくやってくれた!自分の位置につけ!」
ジェードフロストはうなずき、サンダーフォレストとファイヤペルトの間に入った。
ライジングスターとクリムソンハートは並んで先頭に立っている。
ふいに、ジェードウィングが言った。
「来るわ!もうすぐそこに!」
みんなが驚いてジェードウィングのほうを見た。
ジェードウィングは悲しそうに目を輝かせながら言った。
「力が薄れても、今ならまだわかるの。さあ、みんな前を向いて!」
ジェードウィングが言い終えたその時、ダークヴァレイの黒猫たちがドッと入ってきた。
大きい!
ダークヴァレイの猫たちは体が大きく、数は一族の猫より少し少ないくらいだ。
黒猫がとびかかってきた。
ジェードフロストは大きく飛び、黒猫をよけた。
ホーククローと黒猫が後ろで取っ組み合いながら転がっていく。
ジェードウィングが黒猫のわき腹を大きくひっかき、後ろに飛びのいた。
後ろからメスの黒猫が向かってきている。
ジェードフロストは機転を利かせ、後ろ足を突き出した。
それが見事メス猫の片目に命中し、メス猫は悲鳴を上げながら逃げていった。
また最初のオス猫がとびかかってくる。
ジェードフロストはよけようとしたが間に合わず、頬を引っかかれた。
ジェードフロストが頭を振ると、飛び散った血で地面に赤いしみができる。
ジェードフロストは怒りに満ちた声で大きく鳴き、オス猫にとびかかった。
オス猫がよけようとしたが、そんなことは誰でもすると分かっていたジェードフロストは地面に片手をついてからもう一度飛び上がった。
さすがにこれは予想できなかった黒猫は、足が空回りするほど急いで逃げようとしたが、間に合わなかった。
ジェードフロストは黒猫の背中に飛び乗り、後ろ足で背中をひっかいた。
そして首に歯を食い込ませ、これ以上深くは噛みつけないというほどの力でかみついた。
オス猫は、しばらくは体を大きくゆすり耐えていたが、とうとう限界が来たようだ。
オス猫は苦痛の叫び声をあげ、ジェードフロストから身を振りほどいて逃げていった。
ジェードフロストは息を切らし、ほかに困っている猫はいないか周りを見回した。
シャイニングウィングがおさえ込まれているのが目に入った。
ジェードフロストは全力でシャイニングウィングのもとに向かい、オス猫のわき腹に頭突きをくらわした。
不意を突かれたその猫は…ダークだ!
ジェードフロストは怒りに燃えた目でダークに吐き捨てるように言った。
「またあんたなの?さっさと殺してやる!」
ダークは目を真ん丸にしている。
「お前…あの時しとめたと思っていたのに!」
ジェードフロストはダークが言い終える前にとびかかった。
だがダークは簡単にジェードフロストのことを払いのけ、また向き直った。
「弱いやつから順に死んでいくんだ!お前は俺が殺してやる!」
ダークがとびかかってきた。
ジェードフロストはとっさにかがみ、ダークをよけた。
斜め後ろからほかの敵がやってきたが、シャイニングウィングが歯を向いてとびかかっている。
ジェードフロストはダークの一瞬のすきを見つけて後ろに回り、しっぽに深くかみついた。
ダークが怒りと苦痛の叫びをあげる。
ダークのかぎづめが耳に当たり、裂けてしまうのを感じた。
それでもジェードフロストは食らいついたままで放さない。
だが、とうとうダークに首筋をかまれ、しっぽ三本分ほど遠くに飛ばされた。
ジェードフロストが立ち上がる暇もなくダークが走ってきておさえ込まれ、ジェードフロストは必死でもがいた。
ダークの大きく振りかぶった前足がすごい速さで頭に向かって降りてくる。
もうだめだ!
そう思った瞬間、誰かがダークとジェードフロストの間に割って入った。
…ファイヤペルトだ!
ファイヤペルトはダークの前足にかみつき、大きく揺さぶった。
そしてふいに放し、後ろに回って背中に飛び乗った。
「お前がヘザーリーフを殺した!今度は僕がお前を殺してやる!」
そう言ってファイヤペルトはダークの背中をひっかいたあと後ろに向かって小さく飛び、腹の下に潜り込んでのどを攻めた。
ファイヤペルトの鋭いかぎづめがダークののどに当たった。
血が少しずつ流れていき、ファイヤペルトの顔を赤く染める。
ファイヤペルトはもう一度のどに向かって前足を突き出したが、ジェードフロストがとめた。
「ファイヤペルト!戦士はやむを得ない時以外敵を殺してはいけない!そいつはもう十分苦しんでいるわ!」
ファイヤペルトもようやくそのことに気が付き、ダークの腹の下から這い出た。
ダークはうなろうとしたがゴロゴロという血の音しかならず、血を流しながら逃げていった。
「ファイヤペルト、ありがとう」
ファイヤペルトはうなずき、また戦う猫たちの中に飛び込んでいった。
ふいに、空き地の端に以上に小さな猫が見えた。
子猫…それもアイスブラッサムの娘のリーフキットだ!
ジェードフロストは急いでリーフキットのところへ走り、聞いた。
「どうしたの?〈とがり石の洞窟〉にいなくちゃいけないじゃないの!」
リーフキットはおびえ切っている。
「助けて!アージャーウィングのお産が始まりそうなんです!」

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Wed Nov 01, 2023 8:39 pm

第七十章
「あ、アージャーウィングが?」
ジェードフロストはすっかりうろたえ、必死に考えを巡らせた。
「リーフキット、よく聞いて!まず、〈とがり石の洞窟〉の中には母猫もたくさんいるでしょう?お産を手伝ってもらって!そして、コケはたくさんあるでしょうから水を含ませて持って行ってあげて。それから、木の枝も」
ジェードフロストが支持すると、リーフキットが走り出した。
「キャンプの外の入り口から入ってね!」
リーフキットが振り向き、うなずいたのを見ると、ジェードフロストは戦いに戻った。
フォレスト族はもう勝ちかけている!
そう思ったとき、ラーク族の猫    派遣されたのではない猫が入ってきて、声を張り上げた。
「森に出ろ!全てのダークヴァレイの猫がここに向かっている!部族猫もだ!」
ジェードフロストは耳を疑った。
ぜ、全部?!
全員目を真ん丸にしたが、言われた通り森に出た。
ジェードフロストはアージャーウィングは心配だったが、だからこそ全力で戦おうと思った。
森に出るとすべての部族の猫が毛を逆立てて待っていた。
「来るぞ!」
声を張り上げたのは、ゴールデンスターだ。
その声を合図としたかのようにダークヴァレイの猫がどっと流れ込んできて、部族の猫を襲った。
あれは…クレセントクロー!
「裏切り者!」
知っている声がした。
お母さんだ!
ジェードウィングは毛を逆立ててクレセントクローに激しくうなっている。
「裏切り者?どっちが裏切り者だ!」
クレセントクローも怒鳴り、ジェードウィングにとびかかった。
ジェードウィングも飛び上がり、空中でクレセントクローの腹にけりを入れた。
クレセントクローは体勢を立て直し、ジェードウィングの耳に向かって前足を突き出した。
その足は見事に命中し、ジェードウィングの耳は裂けた。
だがジェードウィングは気にもせず、またクレセントクローに向き直った。
次の瞬間、ジェードフロストは自分の目を疑った。
卑怯者!
ジェードウィングの背後からもう一匹猫が忍び寄っている。
助けなきゃ!
ジェードフロストが足を踏み出そうとしたとき、敵の黒猫が襲い掛かってきた。
どうしよう!お母さんを助けなきゃならないのに!
黒猫の隙間から見えたのは    シルヴァークロー!
シルヴァークローが助けに来てくれた!
ジェードフロストはほっとしながらも自分の敵に向き直った。
ジェードフロストは敵の顔をひっかいた。
黒猫の額から血が流れ、血が目に入る。
目が見えなくなったことで恐怖を覚えた黒猫は、悲鳴を上げながら逃げていった。
「臆病者!」
ジェードフロストは逃げていく敵に吐き捨てるように言った。
もう一度ジェードウィングのほうを見ると、シルヴァークローと並んで戦っていた。
だが、今新たに敵が駆け付けた。
副長のスパッターブラッド、そして部族のナイトシャドウ、ストーンクローだ。
ほとんどが裏切り者で構成されているじゃない!
四匹になった敵は手ごわく、二匹は傷つけられていく。
ジェードフロストは全速力で走った。
となりを走っているのは…スカイウィング!それに、ブラクンペルトも!
二匹も応援に駆け付け、四対五の戦いとなった。
だがそれでも相手は強い。
ふいに、スパッターブラッドの突き出した前足がブラクンペルトののどを捕らえ、ブラクンペルトののどから血が噴き出た。
ブラクンペルトはどさっと地面に横たわり、一度痙攣したきり動かなくなった。
スカイウィングは泣き叫び、ブラクンペルトのわき腹に鼻を押し付けた。
のどから流れる血が、スカイウィングの頬を真っ赤に染める。
スカイウィングの目は怒りに燃え、しっかりとスパッターブラッドを捉えている。
スカイウィングがすごい勢いでスパッターブラッドにとびかかった。
スパッターブラッドは後ろざまに倒れ、スカイウィングと取っ組み合いを始めた。
やっと止まったときには、スカイウィングが上になっていた。
スカイウィングはスパッターブラッドの腹を一気に裂き、殺した。
スパッターブラッドは動かなくなり、腹から血がどくどくと出ている。
こんなに強い猫が、一瞬にして死んでしまったのだ。
スカイウィングは息を切らし、目には涙が浮かんでいる。
「ブラクンペルト…」
スカイウィングはブラクンペルトのそばにばたんと横になり、言った。
「戦士のおきてを破ってしまったわ…。この戦いが終わったら私は     
スカイウィングが言い終わらないうちにクレセントクローがスカイウィングにとびかかった。
スカイウィングは抵抗もせずただじっとクレセントクローを見つめ、みんなの「逃げて」という声も聞かない。
そのとき!
白い姿がジェードフロストの横を突っ走っていった。
ペタルムーン!
ペタルムーンは目に怒りと悲しみを浮かべ、スカイウィングとクレセントクローの間に割り込んだ。
次の瞬間ペタルムーンの肩から大量に出血し、ペタルムーンも動かなくなった。
ジェードウィングもスカイウィングも震え、しばらくは何もしなかった。
ペタルムーンの肩からはどくどくと血が流れ、体の力も抜けていく。
「お、お母さん…」
ふいに、ジェードウィングが言った。
「お母さん!お母さん!」
スカイウィングとジェードウィングは嘆きながらペタルムーンに駆け寄った。
シルヴァークローも体を震わせ、ペタルムーンに歩み寄った。
「お、お母さん、ごめんなさい!お母さんは私たちにとって何が一番良かったのか考えてくれていたのよね?」
「ひどいこと言って、ほんとにごめんなさい!」
スカイウィングとジェードウィングは涙をこらえて必死に話しかけた。
「死なないで!きっとチャコールフェザーが助けてくれるわ!」
だがペタルムーンはジェードウィングのその言葉に首を振り、「ごめんね…」とため息よりも小さな声をもらした。
それきり動かなくなったペタルムーンは、一筋の涙を流し、光を失った優しい目を閉じた。

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Thu Nov 02, 2023 8:28 pm

第七十一章
「ペタルムーン!」
シルヴァークローは衝撃のあまり悲痛な声をもらし、ペタルムーンの遺体に鼻を押し付けた。
そして目を上げ、ぎろりとクレセントクローをにらんだ。
「お前のせいだ!お前のせいでペタルムーンが…」
だがクレセントクローはにこりともせず、シルヴァークローに言葉を返した。
「だが、そいつはお前を裏切ったんだろう?そいつは今俺が殺したやつの娘じゃないか」
クレセントクローはバカにしたようにスカイウィングに向けてしっぽを振った。
「だまれ!」
そう叫んだシルヴァークローはクレセントクローにとびかかり、背中に飛び乗った。
クレセントクローの背中の毛をむしり、傷から血が噴き出す。
だがクレセントクローは激しく体をゆすり、シルヴァークローを振り落とした。
シルヴァークローはペタルムーンの遺体のそばにどさっと落ちたが、顔を上げた。
「たしかに、こいつは俺に秘密を放さなかった。だが…」
シルヴァークローは言葉を切ってクレセントクローにとびかかり、のどを裂いた。
「だが、俺はこいつを愛していた!こいつといた時間は、無駄なんかじゃなかった!」
クレセントクローはうなろうとしたができず、ただのどの傷からあふれる血がブクブクと泡だっただけだった。
クレセントクローはあえぎ始め、もがいた。
ナイトシャドウとストーンクローは、クレセントクローの目がどんどん光を失っていくのを恐怖の表情で見つめている。
「助けてくれ…ナイトシャドウ…ストーン…」
そこまで言ったものの、クレセントクローは一度痙攣したきり動かなくなった。
まだクレセントクローの目には憎しみがこもり、空を見つめている。
シルヴァークローは息を切らし、クレセントクローの前に立った。
「当然の報いだ!」
シルヴァークローはそう言ってクレセントクローに向かって唸り、そして敵の二匹をぎろりと見た。
「さあ、お前たちの仲間はもう二匹も死んだぞ?」
ナイトシャドウは恐怖のあまり動けず、ストーンクローは身を縮めた。
そしてストーンクローがこういった。
「お願いだ、助けてくれ…!こいつにはつれあいもいるし、俺には大切な姉もいるんだ…!」
シルヴァークローは目に軽蔑の色を浮かべたが、ストーンクローにこう返した。
「いいだろう。ただしお前たちは部族を出ていけ!」
シルヴァークローが後ろを向く。
と、ストーンクローのほうを見ると、ストーンクローはなんと…笑っている!
「馬鹿め!」
そう言ってシルヴァークローにとびかかったが、シルヴァークローの瞬発力のほうが上だった。
もうすでにシルヴァークローはストーンクローを叩き落とし、腹を蹴り上げている。
ストーンクローがこちらに飛んできた。
ジェードフロストは機転を利かせてストーンクローのわき腹を大きく裂き、ストーンクローは悲痛の叫びをあげた。
「そのお姉さんやつれあいは、あなたたちがこんな裏切り者になっちゃってどう思うかしら?!」
今度こそストーンクローは走り出し、ナイトシャドウと連れ立ってなわばりから出ていった。
ジェードウィングはクレセントクローの死体に歩み寄り、「勝った…」とつぶやいた。
そこで、後ろから叫び声があがった。
全員が振り返り、ダークヴァレイの猫は歓声を上げた。
あそこにいるのは…ジャギッドクロー!ダークヴァレイのリーダーだ!
ジャギッドクローはあたりをぐるりと見まわし、クレセントクローとスパッターブラッドの死体に目を止めた。
「情けない…!こんな部族猫たちに!」
そう言ってジャギッドクローは岩から飛び降りた。
信じられない大きさだ。
ジェードフロストの二倍ほどもある!
あんな猫、倒せるのかしら…?
ほかのみんなはパニックになり、あの大きな生き物が猫だということもわかっていないようだった。
「なんだ、あの大きさは!」
「まるでライオンじゃないか!」
そんな声が森中から上がり、ジャギッドクローは満足げにうなずいた。
「ほう、ライオンか。それはいい!こんなにたくさんの部族猫と遊べるなんて、光栄だな!」
ジャギッドクローは歯をむき出して笑い、ジェードフロストに目を止めた。
そして目を大きく見開き、言った。
「お前か?」
な、何がよ!
「お前が毎晩〈闇の谷〉に来ていたスパイだな!あそこで感知した匂いは、すべてお前のものだ!」
ジェードフロストはジャギッドクローの強い言い方にひるんだが、震えながらもあごをクイッとあげ、返した。
「ええ、その通りよ!あんたたちダークヴァレイは今夜でおしまい!私たち部族猫が勝利するのよ!」
森から    部族猫側から歓声が上がり、ジェードフロストの体に力がみなぎるのを感じた。
そして一声鳴き、反撃再開の合図を出した。
もう、黒猫はあと二十二匹だけだ。
ほとんどが逃げるか死ぬかして、もうそれだけしかいなくなっている。
本来ならば四十匹はいるはずだ。
ジェードフロストは黒猫はほかのみんなに預けることにして、自分はジャギッドクローに向かっていった。
ジェードウィングもついてきてくれて、ファイヤペルト、シンバズロアも続いた。
この四匹なら、勝てる!
そう思い、ジェードフロストたち四匹は一気にジャギッドクローにとびかかった。
ジャギッドクローはしばらくもがき、一匹ずつはねのけていった。
強い!
ジャギッドクローはもう体勢を立て直し、ジェードウィングに集中攻撃を始めた。
次々と攻撃が当たり、ジェードウィングの体にたくさんの傷ができる。
「母さんを傷つけるな!」
シンバズロアがジャギッドクローにとびかかり、わき腹をひっかいた。
ジャギッドクローの傷口から血が噴き出し、ジャギッドクローの注意がそれた間にジェードウィングはかろうじて逃げ出した。
ふいに、子猫の声がした。
「ジェードフロスト!アージャーウィングの子が生まれました!」
リーフキットだ!
「来ちゃダメ    
言い終わらないうちにジャギッドクローがリーフキットのほうへ駆けだし、襲い掛かろうとした。
ジェードフロストのすぐそばを、白い姿が横切った。
誰?!
あれは…アージャーウィング!
アージャーウィングは全速力でリーフキットとジャギッドクローの間に入った。
ライジングスターも目を見開き、アージャーウィングとリーフキットを助けようと走り出した。
もう間に合わない!
空き地にいる全員がそう思ったとき、ジャギッドクローの前足の下から血が噴き出した。
ああ!スカイ族さま!
みんなが空き地の一点だけを緊張した様子で見守る。
よく見ると血を流しているのは…スプリングストーム!
スプリングストームはばたんと倒れ、首からすごい量の血を流している。
「スプリングストーム!」
ライジングスターが血を流すスプリングストームに駆け寄り、わき腹に鼻を押し付けた。
「ライジングスター…。これまで、ありがとうございました…。族長に副長として仕えることができて幸せでした…」
「何を言っている!チャコールフェザーに手当てをしてもらわないと!」
だがスプリングストームは首を振り、最後にこう言い残した。
「ライジングスター…愛してました…」
アージャーウィングもライジングスターも目を見開き、スプリングストームの遺体を見つけた。
「くそっ!狙いが外れちまった!」
ジャギッドクローはそう言ってジェードフロストにとびかかってきた。
あまりに急だったので対応しきれず、ジェードフロストは死を覚悟した。その時!
森全体が揺れ始め、地面にひびが入った。
「何が起きている!」
ジャギッドクローはすっかり混乱している。
〈大地のうなり〉だ!
「アース!エーテル!」
そう叫んだ瞬間稲妻が空を突き、森にあった一本の木に当たった。
その木はジャギッドクローのほうに倒れ、それをよけようとしたジャギッドクローは〈大地のうなり〉でできたひびの中に落ちていった。
一瞬の出来事だった。
あんな猫が大地と天空の力であんなにも簡単に死んでしまった。
空き地中の猫はぼうぜんとひびを見つめ、ダークヴァレイの猫は後ずさり始めた。
そして逃げ出し、「ジャギッドクローがやられた!」と叫んだ。
森から「勝った、勝った」という声が波のように広がり、やがて大きな一つの声になった。
「勝った!みんな、勝ったぞ!」
ジェードフロストは空き地を見回した。
血に染まった土や草花、そして無数の遺体    
部族は勝ち取ったものも大きかったが、失ったものもとてつもなく大きかったようだ。

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Fri Nov 03, 2023 5:19 pm

第七十二章  エピローグ 
部族は再び四つに分かれた。
それぞれの看護猫の周りに集まり、重症のものはそれぞれのキャンプに運ばれていく。
そして遺体も数匹    
軽傷で済んだ者や族長、副長たちは向き合い、ライジングスターが口を開いた。
「勝ったな」
クロウスターが顔を上げた。
「ああ、勝った」
「だが、部族は失ったものが大きかった」
ライジングスターはそう言って、スプリングストームの遺体を見つめた。
スプリングストームの目は光を失い、ただ星空を見つめている。
そばにはペタルムーンの遺体も横たわっていた。
フォレスト族は二匹で済んだが、ほかの部族はどうだったんだろう?
ジェードフロストはちらっとほかの部族の集団を見て、胸が痛くなった。
ブラクンペルト。
スカイウィングはうなだれ、ブラクンペルトのことをうつろな目でじっと見ている。
たしかに、失ったものが大きかった。
森は血に染まり、みんなが疲れたうつろな目をしている。
部族は勢いを取り戻すかしら?
そんなことを考えていると、ライジングスターの声がした。
「わが部族は親愛なる副長のスプリングストームを失った」
そう言って空を見上げ、また言った。
「まだ夜は明けていない。副長の任命式を行う!スプリングストームの遺体の前で!」
部族のみんなが目を上げた。
ジェードフロストは、今が戦いの直後であっても目を輝かせた。
でも誰が副長になるんだろう?
年長のブラックストーム?それともすごい技術を持つクリムソンハート?
ふいに、ライジングスターと目が合った。
「ジェードフロスト。お前を新しい副長に任命する。スプリングストームはお前を高く評価していた。きっと認めてくれるだろう!」
戦場だったはずの場所が、活気と歓声で満ちた。
うそ!私?
ジェードフロストは信じることができず、その場を動かなかった。
「ど、どうしてですか…?」
ライジングスターは少し微笑み、「お前のおかげだよ」といった。
ジェードフロストはとたんに誇らしくなり、前に出ていった。
「族長!私は一生忠実に仕えます。一族のみんなにも、族長にも!」
みんなが祝福の声をかけてくれて、ライジングスターもこちらにうなずきかけた。
サンダーフォレストは、黙ってジェードフロストの体に鼻を押し付けた。
ジェードフロストも何も言わずにサンダーフォレストの体に鼻を触れ、また顔を上げた。
空は白みはじめ、やがて太陽が頭を出した。
また森には朝が来た。
キャンプに帰れば副長としての新しい生活が始まる。
ああ、どうしてだろう。
こんなにもまぶしい朝は、初めてだ     

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Fri Nov 03, 2023 5:38 pm

第二巻

プロローグ
「あんたなんか、私は欲しくなかったのよ!」
また、母の口癖だ。
僕には名前すらない。
僕だって、生まれたくて生まれて来たんじゃないんだ。
「ほんとに、なんてひ弱なの?枯葉の季節だと言っても、歩けるんならさっさと歩きなさい!」
できないよ!
僕はほとんど食べ物をもらってないんだから!
だが母はどんどん進んでいってしまう。
「お母さん!」
母は止まらない。
「待って!お母さん!」
もう少し早く歩けたら、もう少し食べ物があったら    
もう、あたたかいお母さんの体は目の前にあるのに。
届かない。届かない!
ふいに突き出した木の根につまずき、倒れた。
ああ、どうしよう。
もう起き上がる力もない。
母は、いつも僕に生まれた罰としてかみつく。
昨日噛まれた傷がずきずきと痛み、もう動けない。
傷だらけの子猫は力を抜き、遠ざかっていく母の足音を聞いた。
「結局、弱い猫は死ぬのよ!」
母のその声を聞いたのを最後に、もう何も聞こえなくなった。
死ぬのかな…?
子猫が最後に目を見開いて見たものは、トゲだらけのつるで編んだトンネルから出てきた四匹の猫だった。
あれは、誰だろう?

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Fri Nov 03, 2023 5:38 pm

すみません、大きく書いちゃったんですが、これは第三巻です!

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Mon Nov 06, 2023 3:44 pm

(第二巻の続きで)第七十三章
「副長!」
スプリングストームが呼ばれている。
…違う!私のことだ!
ジェードフロストが副長に任命されたのはもう一週間も前のことなのに、まだそう呼ばれるのに慣れない。
「なあに?」
振り向くとミスティスカイがいた。
「今日の狩猟部隊はどうされますか?」
ああ、そうだった。
「そうね…。ひとつはあなたが率いて。あとは…ブラックストーム!お願いできますか…?」
獲物を選んでいたブラックストームが顔を上げ、ジェードフロストに言った。
「もちろんだ。あと、ジェードフロスト!お前は副長だ。迷わず俺たちにも指示を出してくれ」
よかった!
そう、ジェードフロストは副長になっても大先輩の戦士に指示するのは悪い気がしていた。
だがブラックストームの今の一言で指示してもいいという安心が得られた。
ジェードフロストがそんなことを考えていると、もうみんなが集まってきてジェードフロストの指示を待った。
「パトロール隊はサンダーフォレストとクラウドウィングにお願いしてもいいですか?夜明けのパトロールに出ていないものを連れて行ってください」
二匹はそろってうなずき、仲間を集めだした。
「あとひとつ、私が率いる部隊にスラッシュウィンドとタイガーリリー、それからストームライトを連れて行くわ!」
言った端から仲間が集まってきて、一番年長のスラッシュウィンドが「行きましょう」と歩き出した。
四匹はジェードフロストを先頭としてイバラのトンネルを抜けた。
そこで目にしたのは…
「子猫よ!倒れてる!」
そう、子猫だ!
その猫は溶け出した雪の中につかり、半ば凍えているように見える。
「タイガーリリー、チャコールフェザーを!」
タイガーリリーはもう走り出し、弟を呼びに行った。
ジェードフロストは子猫に駆け寄り、すばやく様子を調べた。
まだ息はある。
ジェードフロストは子猫を雪から引き上げ、自分の体をくるめて子猫を温めた。
子猫の浅かった息は次第にゆっくりと深くなり、もう眠ったようだ。
ようやくチャコールフェザーが来た。
「いったい、どうしたんだ?」
チャコールフェザーは子猫を見るなり納得した表情になり、子猫を診察し始めた。
「大丈夫そうだね。危ないところだったけど、姉さんのおかげで助かったみたいだ」
ジェードフロストはほっと息をつき、「ありがとう」と弟に礼を言った。
チャコールフェザーはいえいえという風にしっぽを一振りし、子猫をくわえ上げた。
「行こう。パトロール隊はスラッシュウィンドに任せろ。いいかい?」
チャコールフェザーはスラッシュウィンドに同意を求め、スラッシュウィンドがうなずくとイバラのトンネルをくぐった。
「母親代わりの猫を探さなきゃ。この子はやせてるし、凍えて死んじゃうよ」
そう言ってスラッシュウィンドは保育部屋に入っていった。
「姉さんは族長に知らせてきてくれよ」
「わかったわ」
ジェードフロストは小走りで族長部屋のほうへ行った。
「ジェードフロストです」
「お入り」
なかから声が帰ってきた。
ジェードフロストはツタのカーテンをくぐり、族長の横に座った。
「ライジングスター、子猫がトンネルの前で倒れていたので、保護しました」
ライジングスターがいきなり立ち上がった。
「子猫?大丈夫なのか?」
族長は急いで部屋を飛び出し、保育部屋に向かった。
ジェードフロストも後から走り出し、やっと族長に追いついたのは保育部屋の中だった。
だがそこにはアージャーウィングに守られて心地よさそうに眠る子猫の姿があり、族長は安心したようだ。
「お父さん、この子どこから来たの?」
ライジングスターの娘のアッシュキットが言った。
「きっとスカイ族の方が送り込んでくださったのよ!」
今度はその姉のヘザーキット    そう、あのヘザーリーフの生まれ変わりのヘザーキットが言った。
この子猫はどうなるんだろうか?
スカイ族が送り込んでくれた子猫    か。
ヘザーキット、あなたもそうなのよ。
あなたはヘザーリーフの生まれ変わりなの。

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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Tue Nov 07, 2023 6:52 pm

七十四章
あったかい…明るい…あなたは、お母さん?
いいや、そんなわけない。
だってぼくのお母さんはもうどこかに行ってしまったから。
僕は死んだんだろうか?
きっと、死んだんだよね。
「ぼく」は目を開いた。
目に入ったのは、僕の体を覆うようにして丸まるきれいな白猫。
そして心配そうな目をした大きな黄金色の猫、それから小柄な茶色っぽい灰色の猫。
となりには翡翠色の目をした白猫がいて、僕を見つめる二匹の子猫もいる。
やっぱり、死んじゃったの?
「あなたたちは、だれですか?」
口を開いて見たが、発音がおぼつかない。
「ぼく」の体を覆っているきれいな白猫が言った。
「私たちは部族猫。あなたを助けたの」
「ぼく」は片方の前足を目の位置まで上げ、動かしてみた。
「ほんとだ…」
生きている…。
「あなたはどこから来たの?〈二本足〉の家?」
〈二本足〉?
「いいえ、違います。ぼくは…ぼくは…」
そうだ。
僕はどこから来たんだろう?
お母さんはいない。
お父さんもわからない。
きょうだいがいるかもしれない。でも知らない。
「ぼくは、誰だろう…?」
「ぼく」は悲しくなった。
自分が誰か、わからない。
今度は翡翠色の目をしたきれいな猫が話しかけてきた。
「あなたの名前は?ゆっくり思い出していけばいいわ」
ぼくの、名前。
「名前は、ありません。つけられなかったんです」
「ぼく」は心にぽっかり穴が開いてしまったかのような妙な感覚を覚えた。
ぼくは何者なんだ?
黄金色の猫と翡翠色の目をした猫は顔を見合わせ、言った。
「お前には名前がいるな。お前の母親は?」
「ぼく」は首を振った。
「あんなの、お母さんじゃない!ぼくに食べ物も与えず生まれてきた罰として噛みつくんだ!」
「ぼく」は怒り任せに言い、自分の傷だらけの体を見下ろした。
翡翠色の目をした猫と黄金色の猫がしばらく話し合い、白猫のほうが口を開いた。
「私はジェードフロスト。この一族をまとめるライジングスターに仕える副長よ」
紹介された黄金色の猫の猫が会釈をした。
あの方がライジングスターか。
「そしてこの猫は一族の看護猫のチャコールフェザー。私の弟よ」
チャコールフェザーもうなずき、「よろしくな」と声をかけてきた。
「こちらはアージャーウィング。ライジングスターのつれあいで、この二匹のお母さんよ」
ジェードフロストは「お母さん」という言葉をためらいがちに放ったが、「ぼく」は別に気にならなかった。
「あなたの名前を相談したいんだけど、どうする?自部分で決める?」
「ぼく」はしばらく考え、言った。
「ぼくの名前はブロークンにします。あの母親が帰ってきたとき、自分のせいで傷ついた「僕」だと分かるように」
ライジングスターとアージャーウィングが顔を見合わせ、ライジングスターが言った。
「ではお前はブロークンキット(壊れた子猫)という名前になる。私たちはお前を一族に迎え入れようと思う」
ブロークンキットは目を輝かせ、名前をもらったことに、そして受け入れてもらったことに感謝した。
「それにしてもブロークンキット、あなたずいぶん毛がもつれてしまっているわね」
アージャーウィングはそう言うとブロークンキットの暗い金茶色の毛をなめ始めた。
リズミカルになめられるのが気持ちよくて、うとうとしてくる。
名前をもらって暖かい部屋で歓迎されて、優しくしてもらって     
二匹の子猫もブロークンキットの周りで丸くなったのを感じた。
ブロークンキットはこんな幸せな生き方があるんだと、初めて知った。
僕は、生きている。
そして、僕の名前は、ブロークンキットだ。

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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Wed Nov 08, 2023 5:37 pm

第七十四章
ジェードフロストは、戦士部屋に差し込んだ一筋の光で目を覚ました。
どうも、外が騒がしい。
戦士部屋を出ると、空き地に一族のみんなが集まっていた。
集会かしら?
…いいえ、違う。
一部の猫がライジングスターに抗議しているようだ。
でも、どうして抗議の声が上がっているの?
目を凝らすと、空き地の真ん中にいるのは…ブロークンキット!
ブロークンキットはアージャーウィングに守られ、心配そうな、そして申し訳なさそうな目をしている。
「族長!この子猫を一族に受け入れるってどういうことですか?」
スペックルバークだ。
抗議しているものはほかに五匹。
サンペルト、ホーククロー、シャイニングウィング、フォレストアイ、そして驚いたことにラシットストライプがいる。
「どういうこと、とは?」
ライジングスターは真剣な目で返した。
「私たちに話して下さらなかったのは、どうしてですか?」
「話してどうかなったのか?」
ライジングスターの返事にシャイニングウィングは不満そうに唸り、族長を見上げた。
「その猫は飼い猫ですか?それとも、浮浪猫?」
フォレストアイが心配そうにしっぽを振った。
「わからないそうだ。だが、裕福な暮らしをしていなかったのは確かだ。食い物は与えられず、何度も母親にかみつかれた」
母猫のアイスブラッサムが驚いたように声を上げ、ブロークンキットに同情の目を向けた。
そして、ラシットストライプが口を開いた。
「その子は枯葉の季節に耐えられるのか?戦闘技術は?病気にかかったらどうする?」
「今年は耐えられたんだ。それに、まだ子猫だから戦闘技術はなくて当たり前だ。病気にかかってもほかの猫と同じように治療すればいい。ありがたいことに、我々の部族には優秀な看護猫がいるからな」
ライジングスターがちらっと看護猫のほうを見ると、チャコールフェザーが頭を下げた。
「で、逆に聞くがどうして受け入れちゃだめなんだ?」
ホーククローは驚いたように目を見開き、答えた。
「その子猫は身元もわからないんですよ?」
「ほう、ではあのまま見殺しにすればよかったというのか?」
ライジングスターの冷ややかな口調にホーククローはひるんだ。
「この子はかわいそうなの。母親に大切にしてもらえなくて、凍えそうだったのよ」
アージャーウィングはそう言ってからブロークンキットの耳をなめた。
再びスペックルバークが口を開こうとしたのをさえぎって上がったのは、シンバズロアの声。
「では、僕も出ていったほうがいいというんですか?僕は飼い猫でした!」
みんなが驚いたようにシンバズロアを見た。
ジェードフロストも驚いた。
シンバズロアはあそこまで立派な戦士になってまだそんなことを気にしていたなんて!
「いいや、そんなわけがない!お前は立派な戦士になった」
ブラックストームが声を上げた。
シンバズロアはブラックストームに頭を下げ、再び口を開く。
「ありがとうございます。では、その子はどうなんですか?」
みんなの視線がまたブロークンキットに戻った。
また非難されるのではないのかと、ブロークンキットは震えている。
「僕は飼い猫から戦士になりました。その子にだって立派な戦士になる道だってあるんじゃないでしょうか?」
ライジングスターがゆっくりうなずいた。
抗議していた六匹も若干きまり悪そうだ。
「よし、もういい!この話はおしまいだ。ブロークンキットは一族に受け入れる!それでいいな?では、解散!」
ライジングスターがその声を上げると猫たちは散り散りになり、ブロークンキットはアージャーウィングとその二匹の娘たちについて保育部屋へ向かった。
スペックルバークは小声でブロークンキットに謝り、ライジングスターにも謝ってから狩りに行った。
ああ、よかった!
これでブロークンキットは受け入れられたのね…?
ジェードフロストは小さなため息をもらした。
ふいに後ろに気配を感じた。
振り向くとそこにいたのは…
「サンダーフォレスト!」
サンダーフォレストは優しくうなずき、「ブロークンキットが受け入れられてよかったな」といった。
ジェードフロストはうなずき、サンダーフォレストのわき腹に鼻づらをうずめた。
ああ、このかぎ慣れたにおい。
こんなにも安心するものなのね…。
サンダーフォレストも黙ってジェードフロストの耳をなめた。
「ジェードフロスト、無理するなよ?」
「ええ」
ジェードフロストはサンダーフォレストの優しい声かけに返事をした。
でも、内心嘘だ。
私は「無理しない」なんてできない。
私はあなたのためなら無理でもなんでもするわ、サンダーフォレスト。

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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Sun Nov 12, 2023 11:11 am

第七十五章
「ブロークンキット!起きてちょうだい、食事の時間よ」
優しくつつかれ、一瞬ここはどこかと思った。
だがとなりにいるアージャーウィングのあたたかいまなざしを見て、ここは部族のキャンプだと気づいた。
「はい…」
ああ、まだ眠い。
部族はこんなに早く起きるのか。
慣れていかなきゃな。
そんなことを考えながらアージャーウィングについて保育部屋を出た。
たくさんの猫のにおいがする。
となりを猫の一団が駆けていき、すばやくイバラのトンネルを抜けた。
びっくりして目を真ん丸にしていると、アージャーウィングがそばに来て言った。
「じきにすべての猫のにおいを覚えられるわ。あれは狩猟部隊の一団。獲物をとってくるの」
「狩猟部隊。獲物をとってくる」
ブロークンキットはアージャーウィングの言葉を繰り返した。
早く全部覚えたい。
「そんなに焦りなさんな。ゆっくりなじんでいけばいいのよ」
ブロークンキットはアージャーウィングの言葉にうなずき、獲物の山に向かって歩き出した。
ブロークンキットは山からネズミを引きずり出し、アージャーウィングの本当の子供のヘザーキットとアッシュキットのいる保育部屋へ引きずっていった。
「ヘザーキット、アッシュキット、ネズミだよ!」
その言葉を聞いた二匹は頭を起こし、立ち上がった。
アッシュキットの片方の頬の毛がくしゃくしゃになっている。
「ネズミ?いい獲物を選んだわね!だってネズミは一番おいしい獲物だもの」
ヘザーキットが言った。
「あったかいうちに食べようよ」
二匹はうなずき、かがんで獲物を食べ始めた。
しばらくすると後ろからアージャーウィングがやってきて、そばでズアオアトリを食べ始めた。
四匹は獲物を食べ終え、子猫たちは保育部屋を出て日向ぼっこに向かった。
まだ雪解けの季節の空気のままで寒いが、その分太陽の光が気持ちいい。
三匹は半分埋まった平らな岩の上に寝そべった。
太陽の光を受けたブロークンキットの金茶色の毛が輝く。
ほんのりあたたかい岩の温度が気持ちよい。
寝返りを打つと、一匹の長老と鼻を突き合わせる形になった。
驚いたブロークンキットは飛び上がり、四つの足で着地した。
「おやおや、先客かい?」
ホワイトクローだ。
「あ、いまどきます。すみません」
一番年長のヘザーキットが謝り、岩の上から飛び降りた。
続いて二匹も飛び降り、三匹の長老が岩の上に寝そべった。
あの方がスポッティドウィングで、あの方が…ラシットストライプだ。
ラシットストライプは少し頭を起こし、きまり悪そうに言った。
「ブロークンキット、昨日はその…お前さんを受け入れることに反論したりしてすまなかった。お前は受け入れるべきじゃ」
ブロークンキットはその言葉に驚き、声は出なかったが頭を下げた。
そしてヘザーキットとアッシュキットについて第二の日向ぼっこの場所まで歩いた。
この場所はさっきの岩の上よりは日差しが弱いが、日陰よりは断然あたたかい。
ヘザーキットやアッシュキットと話していると、一匹の猫がこちらに向かってきた。
あれは…副長の、ジェード…フロスト?
「おはよう、ブロークンキット」
「おはようございます、ジェードフロスト」
ジェードフロストは優しく微笑み、言った。
「名前を覚えていてくれたのね。うれしいわ」
ブロークンキットは頭を下げた。
「うれしい」と言われてちょっと照れ臭くなる。
目を上げるとそこにはジェードフロストの顔があった。
ど、どうしたんだろう…?
ジェードフロストはブロークンキットの目をじっと見ている。
「あの、どうかされましたか…?」
ジェードフロストは小さく首を振り、言った。
「あなた、私とおんなじ翡翠色の目をしているわね…あなたのほうがずっと透き通ったきれいな色だけれど」
そう言いながらジェードフロストはふふっと笑う。
「ありがとうございます」
副長に褒められ、ますます照れ臭くなる。
「じゃあね」
ジェードフロストはしっぽを一振りし、向こうに歩いて行った。
アッシュキットは口をあんぐりとあけ、ヘザーキットはブロークンキットに言った。
「すごいわ、ブロークンキット!あんなきれいな猫に褒められるなんて!」
「それに、『私より透き通ったきれいな色』だって!」
アッシュキットが付け足した。
ブロークンキットはぼんやりうなずき、去っていくジェードフロストの後ろ姿を見つめた。
副長は一匹の雄猫のそばで止まり、鼻を触れ合わせた。
二匹は親し気に話し、ジェードフロストは雄猫の体にぴったりと体を押し付けたまま寝そべった。

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Mon Nov 13, 2023 4:20 pm

第七十六章
「ジェードフロスト、どうしたんだい?」
ボーっとしていると、隣にいるサンダーフォレストに呼びかけられた。
「いいえ、何にもないの!ごめんなさいね」
サンダーフォレストは首をかしげ、言った。
「最近、無理しすぎじゃないかい?ちゃんと眠れているのかい?」
確かに最近、副長の仕事で夜遅くなることが多い。
サンダーフォレストはそれを知っていて、心配してくれているの?
ジェードフロストはサンダーフォレストの優しさに胸があたたかくなり、この雄猫のことがもっと好きになった。
「そうかもしれないわ。ありがとう、サンダーフォレスト」
ジェードフロストはそう言いながらもブロークンキットのことについて考え始めた。
ブロークンキット。
あの子は自分の母親に大切にされていなかった。
そして母親が自分を見たときに自分が傷つけたブロークンキットだと分かるように名前を考えた。
それが、「壊れた子猫」。
そしてあの透き通ったガラスのような翡翠色の目。
私とあの子は関係がある…?
ジェードフロストは頭を振った。
そんなわけないじゃない!
私と血のつながった者に部族以外のものがいるはずないわ!
ジェードフロストは心の表面上ではそう思いながらも、そのことについて考え続けていた。

日が沈み、空が真っ赤になり、やがて月が上った。
今日もたくさん働いたなあ、とため息をつく。
狩り、パトロール、仕事の割り振り。
このすべてをこなしていたなんて、スプリングストームは偉大だな。
ジェードフロストは亡くなったスプリングストームをますます尊敬した。
ゆっくり歩き、明日やらなくてはならないことを再度確認し、戦士部屋に入って自分の寝床に倒れこむ。
ジェードフロストはなにも考えないうちに真っ黒な波に引きずり込まれるように眠りに落ちた。
明るく、草木が生い茂り、雪解けの季節の冷たい空気を少しも感じない。
スカイ族の狩場だ。
ジェードフロストは目を上げた。
そこにいたのは、弟にそっくりな炎の色の毛をしたたくましい雄猫だった。
「ファイヤスター」
ジェードフロストがそう呼びかけてもファイヤスターは答えず、ジェードフロストが立ち上がるのを待った。
「ついておいで」
ファイヤスターはたった一言そう短く言い、歩き出した。
ジェードフロストはファイヤスターに続き、美しい花を踏まないようよけて進んだ。
ファイヤスターは大きなオークの木を過ぎ、小川を飛び越え、ジェードフロストの知っている場所に立ち止まった。
「ここは…」
ファイヤスターはジェードフロストの顔を見てうなずいた。
「そう、お前のキャンプだ」
ジェードフロストは目を真ん丸にした。
「でも、どうしてここに?」
ジェードフロストがたずねるとファイヤスターが首を振り、「そう焦るな」と言った。
「まあ、中に入ろう」
ジェードフロストもうなずき、ファイヤスターが先に立ってイバラのトンネルを抜けた。
キャンプは眠る猫の寝息が聞こえるほか静まり返り、聞こえるのは時々鳴く鳥の声だけだ。
ファイヤスターはジェードフロストをしっぽで招き、保育部屋に入った。
中にはヘザーキット、アッシュキット、リーフキット、ウィンドキット、母猫のアイスブラッサムとアージャーウィング、そしてブロークンキットがいる。
「ここに来た理由は、この子だ」
ファイヤスターのしっぽの先が示しているのは、ブロークンキットだ。
「どういうことですか?」
ファイヤスターはおかしそうにひげを震わせ、言った。
「お前はこの子とつながりがあると考えていたんじゃないか?」
「知ってらしたんですね」
ファイヤスターはゆっくりまばたきをした。
「もちろんだ。よし、この子とお前のつながりについて話してやろう」
ジェードフロストは耳を疑った。
「私とこの子のつながり?」
「ああ、そうだ。まず、お前は俺と血がつながっているという話は前にしたな?」
ジェードフロストはうなずいた。
「俺にはきょうだいがいた。その中の一匹、フィールという猫の子孫がいるんだ。その猫は飼い猫だったし、子供たちも飼い猫だった。だが、フィールの息子のミロを飼っていた〈二本足〉は死に、ミロは浮浪猫として生きていくことになった。そしてたくさんの猫が子孫を残し、やがてブロークンキットの母親、モリーが生まれた。そしてモリーとアルフィーの間に生まれたのがこのブロークンキットなんだ」
ジェードフロストは身を乗り出した。
「でも、どうしてブロークンキットはモリーに大切にされなかったんですか?」
「この子にはきょうだいがいた。ジャスパー、フェリックス、ロジーという名のな。三匹はブロークンキットが生まれる前に生まれたんだ。だがその子たちは枯葉の季節の寒さに耐えきれず、死んだ。やぶれかぶれになったモリーはその後生まれたブロークンキットを育てる自信や気力を失い、ブロークンキットを大切にできなかったんだ。どうせ死んでしまうだろうと不安でな」
ジェードフロストの心臓がどくどくと音を立て、蚊の鳴くような声でたずねた。
「じゃあ、私とこの子は…」
「ああ、血がつながっている」
ファイヤスターは落ち着いた声で言った。
私とこの子にはつながりがあった。
しかも、血のつながりが。
私とこの子が出会ったのは、偶然ではなかったのかも。

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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Tue Nov 14, 2023 7:30 pm

第七十七章
「どうして!?どうしてなの?私の子供たちは何にも悪くないのに寒さに耐えきれなくて死んでしまうなんて!」
モリーは死んだ三匹の子猫の上にかがみこんだ。
「落ち着け、モリー。俺だって悲しいよ。だが今年は寒すぎたんだ」
アルフィーは、泣き叫ぶモリーに、そして自分に言い聞かせるように言った。
だがモリーは少しも聞いてはいない。
「ああ、先祖の皆様!この子たちをこんなに早く連れて行ってしまわれるなんて!」
モリーの目いっぱいに浮かんでいた悲しみの色は、急に憎しみの色に変わった。
「ああ!安全であたたかい寝場所があれば!もっと食べ物があったら!」
モリーの目から憎しみが消え、再び悲しみが宿った。
アルフィーもうつむき、死んだ子供たちの額をなめた。
「もう一匹には何としてでも生き延びてほしい」
アルフィーはつぶやくように言い、モリーの膨らんだお腹を見た。
「無理よ。どうせこの子も死んでしまう」
モリーは悲しみに満ちたうつろな声で言った。

そして場面が変わった。
地面には雪が積もり、アルフィーはもうずいぶんお腹が大きくなったモリーと並んで歩いている。
「大丈夫か?モリー」
モリーは返事代わりにうなり返した。
「少し休もう。そこに〈二本足〉の家の屋根がある」
モリーはうなずき、屋根の下に入った。
二匹がしばらく息を切らしていると、中から大きな〈二本足〉が出てきた。
〈二本足〉は怒鳴り散らし、アルフィーとモリーにものを投げつけ始めた。
そしてかたいものがモリーの大きな腹に当たり、モリーは悲鳴を上げた。
それを見たアルフィーは怒り狂い、雄叫びを上げながら〈二本足〉に飛びついた。
〈二本足〉はぎゃっと悲鳴を上げ、アルフィーを振り落とした。
「モリー!逃げろ!」
アルフィーは叫んだが、モリーはおびえ切った顔をしたまま動かない。
「モリー!腹の子をどうするつもりだ!」
モリーは首を振り、「ごめんなさい!ごめんなさい、アルフィー!」と叫びながら森のほうへ駆けて行った。
ごめんなさい!ごめんなさい!

しばらくすると〈二本足〉は静かになり、一度鼻を鳴らしてからばたんと音を立てて自分のキャンプの中に入っていった。
「ア、アルフィー?」
呼びかけても返事がない。
「アルフィー?どうかしたの?」
これにも、返事がない。
モリーは恐る恐る〈二本足〉の家に近づいていき、目を凝らした。
そこで目にしたのは…
「アルフィー!ああ、アルフィー!」
アルフィーは血を流し、じっと横たわっている。
「アルフィー!返事をして!ごめんなさい!本当にごめんなさい!あなたをおいて逃げるべきじゃなかったわ…ああ、アルフィー目を開けて!」
どれだけ呼びかけても返事がない。
「アルフィー…」
モリーの涙がアルフィーの頬にぽたりと落ちた。
すると、これまで返事のなかったアルフィーの目が薄く開き、モリーはほんの少しの希望に目を輝かせた。
「アルフィー!」
「モ、モリー…」
「アルフィー、しゃべっちゃだめ!誰か…誰かほかに猫はいないの?」
アルフィーは小さくゆっくり首を振り、言った。
「もう俺が助かることはないよ、モリー…。一緒に行ってやれなくて、すまない…」
アルフィーがぜいぜいと息をし始めた。
「アルフィー!」
モリーは必死に呼びかけた。
「アルフィー、頑張って!きっと助かるわ!誰か…誰か助けて!アルフィー!」
アルフィーの目に涙が浮かんだ。
「すまなかった、モリー。愛してるよ…腹の子を大切…」
アルフィーは言いかけたが言い終えることはできず、目はみるみる光を失っていった。
モリーは立ち尽くした。
アルフィーは、死んでしまった…?
少し前に大切な子供たちをなくし、愛するつれあいのアルフィーまで失った。
「アルフィー…。あなたがいなくなって私はどうすればいいというの?私はもう、独りぼっちよ」
モリーが独り言のようにそう言うと、急に腹が痛くなった。
腹の子が生まれるのだ!
モリーはしばらくの間一人で苦しみ、叫び、血を流した。
やがて生まれた子猫の毛の色は、アルフィーとそっくりな金茶色だった     

ああ、またこの夢か。
生まれてきてから何度この夢を見ただろう。
でも、何度見てもこの夢の意味は分からない。
僕にはきょうだいもいないし、父親も知らない。
僕は母さんに大切にされていなかったし、名前までなかった。
たまに、もしかしてこれは本当の話なのかもしれないと思ってしまうが、こんな母は見たことがないし、きっとただの想像だ。
ブロークンキットは住み慣れてきた保育部屋で頭を起こし、毛づくろいを始めた。
アルフィーの金茶色の毛の色が目によみがえる。
アルフィー…?
ぼくの、お父さん…?
そこで気が付いた。
そんなはずないのに、この部屋にジェードフロストと知らない雄猫のにおいがついている。
どうしてだろう。
それに、においはまだ新しい。
その時、母と副長のすらりとした姿やガラスのような瞳が重なった。
もしかすると、アルフィーは本当に僕のお父さんで、母はジェードフロストと関係があるのかもしれない。

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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Wed Nov 15, 2023 6:59 pm

第七十八章
「ロジー!フェリックス!ジャスパー!…ああ、アルフィー!私はこの子を連れてどう生きていけばいいというの?もう何もわからない!」
最後にモリーの声が頭の中に響き、ブロークンキットは目覚めた。
ブロークンキットはあえぎ、毛もぐしょぬれだ。
またあの夢!
あの夢を見るのがだいぶ頻繁になってきた。
どうも、落ち着かない。
ロジー?フェリックス?ジャスパー?
誰なんだ?僕にはわからない!
母の取り乱した様子。
アルフィーが〈二本足〉と勇敢に戦う様子。
全てを失って一人で苦しむ母。
全てがブロークンキットの頭の中にまとわりつき、離れない。
誰?誰?!
「僕は…僕は…」
ブロークンキットは頭の中を必死に整理しようとしたが、途中であきらめた。
「僕は誰なんだ?」


「ジェードフロスト!」
副長が呼ばれている。
「ジェードフロスト、こっちに来て一緒に獲物を食べないか?」
ブロークンキットの目が反射的に声のしたほうへ向いた。
「ええ、もちろん!」
あの方は…サンダーフォレスト?
ああ、そうだ。
あの淡い黄金色のたくましい戦士は、サンダーフォレスト。
サンダーフォレストはジェードフロストの体にしっぽを回し、一緒に獲物を食べ始めた。
二匹は親し気に話し、グルーミングをしている。
ブロークンキットはなぜだかため息をついた。
そしてブロークンキットは獲物置き場に向かい、ネズミを三匹引きずり出したあとサンダーフォレストに軽く会釈して保育部屋に戻った。
保育部屋に戻ると子猫も母猫もみんながもう起き上がり、毛づくろいをしていた。
「あら、ブロークンキット!姿が見えないと思っていたら、朝食を取りに行っていたのね?」
アージャーウィングが優しくたずねてきた。
「はい。みんなの分もあります」
母猫たちはうれしそうにのどを鳴らし、みんなで分け合って食べた。
「ねえ、アイスブラッサム?その子たちもうそろそろ見習いになれるんじゃない?」
「ええ、そうなの!今、見習いがいないでしょ?ちょうどいいわよね!」
母猫二匹はうれしそうに話している。
食事が終わると子猫たちは取っ組み合いを始め、ヘザーキットがブロークンキットの上に乗っかってきた。
ブロークンキットは後ろ足でヘザーキットを押し返し、自分も中に入った。
ふいにリーフキットがドスンと上に落ちてきた。
リーフキットは急いでそこをどき、心配そうに言った。
「ごめん、ブロークンキット!…つぶしちゃった?」
ブロークンキットは起き上がって体を振った。
「君の体重じゃ、まだノミでもつぶれないよ!」
そう言って起こったふりをしてリーフキットにとびかかった。
「みんな、優秀な戦士になりそうね」
アイスブラッサムがのどを鳴らした。
………ん?何だろう?
やけに外が騒がしい気がする。
ブロークンキットは走って外に出た。
後ろでアージャーウィングが止める声が聞こえたが、見ずにはいられなかった。
ジェードフロストが困ったように雌猫と話している。
「どうしましょう?」
みんなが動揺し、そわそわと身動きをしている。
「どうしたんですか?」
ジェードフロストは、ブロークンキットを見るともっと困った表情になった。
だから、どうしたっていうんだ?
「どうしたんですか?」
ブロークンキットは繰り返した。
副長が答えないのでブロークンキットは前に飛び出した。
「ブロークンキット!待って!」
ジェードフロストが呼び止めるが、ブロークンキットは止まるはずがない。
イバラのトンネルの前に立っていたのは、ブロークンキットが嫌というほど知っている雌猫だった。
雌猫が口を開いた。
「ああ、あなたなの…?あなたが私の………レオなの…?」

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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Thu Nov 16, 2023 9:06 pm

第七十九章
「…レオ?レオ?」
か、母さん…?
「レオ!何か言って!」
母さんだ。間違いない。
……いや、違う。
僕の母さんはアージャーウィングだ!
この猫じゃない!
「僕に話しかけるな!お前なんか母さんじゃない!」
雌猫はびくっと身を引いた。
「レオ…」
瞳が悲し気に輝く。
「僕はレオじゃない!ぼくの名前はブロークンキットだ!ぼくの母さんはアージャーウィングだ!」
ブロークンキットは雌猫をにらんだままあとずさった。
「お前は僕を『壊した』!僕は戦士になる!みんなに大切にされるこの場所で!」
雌猫の表情が陰った。
「レ…いいえ、ブロークンキット?私はあなたにひどいことをした。これでもかというほど傷つけて    
「そんなこと僕が一番わかってる!言わなくたって!」
ブロークンキットはモリーの言葉をさえぎった。
「なんでここに来たんだよ!僕なんかいらないんじゃなかったのか?」
ブロークンキットの冷たい口調に、見ている全員が驚いたようだ。
「それは…」
「理由なんて、聞きたくもない!」
ブロークンキットは爪を出し、牙をむいた。
「僕はもうお前のところになんか戻らない!」
「ブロークンキット!聞いてちょうだい!」
モリーの言葉に、ブロークンキットは鼻を鳴らした。
「ふん、言うのは簡単だよ」
モリーはたじろいだが、口を開いた。
「ブロークンキット。さっき言ったとおり、私はあなたにひどいことをしたわ。とても反省している」
ブロークンキットモリーと目を合わせない。
「あなたに話したいことがある。きょうだいと、父親について」
ブロークンキットははっと顔を上げた。
怒っていたことなんか忘れている。
「それって、ロジー?それに、フェリックスとジャスパー…それから…アルフィーのこと?」
モリーは驚いたように目を見開いた。
当たっているようだが、この猫の口から話を聞きたい。
どういうわけか説明してもらおうじゃないか。
「その通りよ、ブロークンキット。あなたには兄姉がいた。父親はアルフィーよ。アルフィーは、あなたとそっくりな金茶色の毛をしていた」
モリーはそう言ってブロークンキットをじっと見つめた。
「早く話してよ」
モリーはうなずき、話し続けた。
「私は枯葉の季節の寒さで子供たちを三匹失った。そのあと、つれあいまで失って一人であなたを育てた」
「しってるよ」
ブロークンキットが口をはさんだ。
「私は…私はあなたを育てるのが不安だった。これであっているのか。あなたはどう考えているのか。あなたが…どうなるのか。とにかく何もかもが不安だった。私は閉じ込められたの。〈二本足〉の檻に閉じ込められた飼い猫のように、不安の中に!私はやぶれかぶれになってきてしまったの!あなたが邪魔だったんではない。あなたを憎んではいなかった!私はあなたを愛していた!」
モリーは涙声になっている。
「私はあなたといると悪いイメージばかりが浮かんできた。あなたから離れればその思いが解消されると思った。だからあなたが死んでから私もどうにかして死のうと思った!」
部族猫の何匹かが息をのんだ。
「でも…でも違った…!」
モリーの目から涙が零れ落ちた。
「私はあなたが心配でしようがなかった。だからにおいをたどった。死ぬ思いで…。あなたのことを心配せずにはいられなかった…!」
おどろいた。
信じられなかった。
嘘だと思った。
モリーの本心を初めて知った。
この猫が…
こんなにも若い母が、ここまで追い詰められていたということを初めて知った。
あなたは…あなたは…
「ごめん、お母さん……」

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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Sat Nov 18, 2023 7:09 pm

第八十章
「ブロークンキット…」
彼がモリーを「母さん」と呼んだ。
理解してあげられたのね…?
「ああ、ブロークンキット!」
モリーは目いっぱいに涙を浮かべ、ブロークンキットに駆け寄った。
「母さん、ごめんね。ぼくは母さんの気持ちを理解してあげられなかったんだ」
モリーは首を振った。
「いいえ…いいえブロークンキット!私が悪いの!私の不安をあなたにぶつけてしまうなんて!」
モリーはブロークンキットの顔中を夢中でなめた。
そして口を開く。
「ねえ、ブロークンキット?」
「ん?」
「私と…私と一緒に来ない?」
空き地にいる猫全員が息をのんだ。
しばらくの間、沈黙が続いた。
そしてついに口を開いたのは、ブロークンキット。
「母さん…ごめん!もちろん、僕がいるのがここでなかったら母さんについていく。でも…でも僕はもう部族猫だ。部族からは離れられない。戦士にならずには…いられない」
ブロークンキットの顔がすまなそうに陰った。
モリーは少し傷ついた表情になったが、すぐにその表情は消えた。
「そうよね…ここはもうあなたの居場所だもの。ここにいる方たちがいいと言ってくださるのなら、もちろんここにいて…。私はもうあなたを苦しめたくはない。あなたに…幸せになってほしい!」
モリーの声が詰まる。
「あの…この子はここにいても?」
若い母猫がたずねてきたので、ジェードフロストは力強い声で答えた。
「もちろんです。絶対に、ブロークンキットを苦しめはしません」
モリーが力なく笑った。
「ありがとう…」
すると、群れの後ろのほうががやがやとしていることに気が付いた。
次の瞬間、群れを押し分けてチャコールフェザーを従えたライジングスターが前に出てきた。
「アージャーウィングに聞いて驚いたよ。ブロークンキットの母親だって?」
ライジングスターがモリーをしげしげと見た。
「ここまでの旅はきっと長かっただろう。今日は休んでいったらどうだ?」
チャコールフェザーがたずねる。
ライジングスターも賛成するようにしっぽを振った。
「ええ、そうするべきよ!」
アージャーウィングが言葉を添える。
モリーはありがたそうな、安心した表情になり、「ありがとうございます」と礼を言った。
ライジングスターはいえいえとしっぽを振り、「ぜひ部族の生活を見て行ってくれ」といった。
モリーが頭を下げた。
「ここでは、狩りをして獲物をとるんですか?」
「ああ、そうだが」
「なら、お役に立てるかもしれないわ!」
モリーが目を輝かせる。
「狩りをしたことがあるの?」とジェードフロストがたずねると、モリーは自信たっぷりに答えた。
「私たちは自分の食べ物は自分で得なくちゃならなかったから。自信はあるわ」
数匹は「ほんとかな」というように首をかしげたが、また数匹は感心するように目を輝かせた。
「では、今から出す狩猟部隊に参加してみるかい?」
ライジングスターがたずねた。
「いいんですか?できるなら参加してみたいわ」
ライジングスターは、どうする?という風にジェードフロストに目をやった。
「いいんじゃないでしょうか?ブラックストームに率いてもらえば、うまくまとめてもらえるんじゃないでしょうか?」
ライジングスターが満足げにうなずいた。
「ブラックストーム、それでいいか?」
「もちろんです」
ブラックストームは冷静に答えた。
「ああ、そうだ!その前に」
みんなが族長を見た。
これから何が起こるのだろう?
「見習いの命名式を行いたいのだが?」
空き地から賛成の声がドッと上がった。
「急だが、見習いはたくさんいたほうがいい。いろいろあってアイスブラッサムの子たちの命名式が延び延びになっていた。アージャーウィングの子たちとブロークンキットの命名式と一緒に行う」
「えっ!困ります、ライジングスター!先に伝えてくださらないと…ああ、リーフキット、なんて姿をしているの!」
アイスブラッサムが自分の子供の毛を急いでなめまわした。
続いてホワイトキットをなめようとかがんだアイスブラッサムをかわし、ホワイトキットは急いで自分の毛をなめた。
「みっともないよ!僕はもう見習いになるんだから!」
それをみたアージャーウィングはのどを鳴らした。
ああ、見習いが五匹も増える!
よかった…!
ジェードフロストはほっとため息をもらした。
「よし、さっそく始めよう!」
ライジングスターがグレートルートに飛び乗った。
モリーは不思議そうに見上げている。
「今から見習いの命名式を始める!リーフキット、ホワイトキット、ヘザーキット、アッシュキット、ブロークンキット、前へ来い!」
呼ばれた五匹が短い脚を必死に運んで前へ出た。

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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Sat Nov 18, 2023 8:58 pm

第八十一章
やっとだ!
待ちに待ったこの時。
僕はやっと見習いになれる…!
「まず、リーフキット」
呼ばれたリーフキットが前に出る。
「お前は今この瞬間から戦士名を獲得するまでの間、リーフポーという名前になる。お前の指導者はサンダーフォレストだ」
リーフポーが目を輝かせた。
「頑張れよ」
族長がリーフキットの頭をなめると、リーフポーはお返しに族長の肩をなめた。
そして後ろに下がり、新しく指導者になったサンダーフォレストと鼻を触れ合わせた。
「よろしくな」
サンダーフォレストのあいさつに、リーフポーははにかんで返した。
「よ、よろしくお願いします!」
二匹が群れの真ん中に戻った。
「次に、ホワイトキット」
ホワイトキットは顎を上げ、堂々と歩いているように見えるが、近くにいると震えているのが分かる。
「ホワイトキット。お前は今この瞬間から戦士名を獲得するまでの間ホワイトポーという名前になる。お前の指導者はジェードフロストだ。お前の毛は白くて獲物に気づかれやすいから、同じ白い毛をした者に狩りや戦いの仕方を教われ」
ライジングスターがホワイトポーの頭をなめると、ホワイトポーはお返しに族長の肩の毛をなめる。
そしてホワイトポーはジェードフロストに駆け寄り、琥珀色の目をキラキラと輝かせて鼻を触れ合わせた。
ジェードフロストは慣れた様子で弟子に声をかけた。
「よろしくね」
「一生懸命頑張ります!よろしくお願いします!」
それを見届けたライジングスターが一度息をついた。
「あと三匹か…。多いな」
ライジングスターはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「あと三匹はまた今度にしようかな?」
それを聞いたヘザーキットとアッシュキットが絶望したような表情になったのを見て、みんな笑い転げた。
ライジングスターも楽しそうに笑い、「うそだよ」と二匹を安心させた。
もう、モリーも笑顔だ。
あったかいなあ、この場所は。
ブロークンキットは改めてうれしくなった。
「やらない訳ないじゃないか。ヘザーキット、おいで」
そう言われたヘザーキットはほっと目を輝かせ、族長のもとへ走った。
「ヘザーキット。お前は今この瞬間から戦士名を獲得するまでの間ヘザーポーという名前になる。お前の指導者はファイヤペルトだ」
空き地から「初弟子おめでとう」という祝福の声が上がった。
「ファイヤペルトは、若いが素晴らしい戦士だ。きっとお前のことも素晴らしい戦士に育て上げてくれるよ」
ヘザーポーはファイヤペルトと鼻を触れ合わせた。
「お互い初めてだな。頑張ろうな」
「はい!お願いします!」
ヘザーポーが顔をパッと輝かせた。
「よし、二匹とも頑張れよ。次にアッシュキット!」
アッシュキットはつまずきながら走って前に出た。
「アッシュキット、お前は今この瞬間から戦士名を獲得するまでの間アッシュポーという名前になる。お前の指導者はミスティスカイだ。彼女も素晴らしい戦士だ。そして、ファイヤペルトと同じく弟子を持つのは初めて。頑張ってついて行けよ!」
族長がアッシュポーの頭をなめ、アッシュポーはお返しに肩をなめた。
そしてふりかえり、ミスティスカイと鼻を触れ合わせた。
「いっしょにがんばりましょ!」
ミスティスカイはやる気に満ちた元気いっぱいの声で言った。
「はい!」
アッシュポーも負けずに元気のいい声で返した。
「よし、次で最後だな?」
ぼ、僕の番だ…!
ブロークンキットはとたんに緊張してきた。
本当の母さんも見てる。
アージャーウィングも見てる。
みんなが見てる。
心臓がバクバクと音を立て、ブロークンキットは大きく息を吸った。
「ブロークンキット」
ああ!もうすぐだ!
「お前は今この瞬間から戦士名を獲得するまでの間ブロークンポーという名前になる。お前の指導者は…」
誰だろう?誰かな?
「シンバズロアだ!」
一瞬の沈黙ののち、大歓声が上がった。
やったあ!
あんな熟練した強くてかっこいい戦士に指導してもらえるなんて!
シンバズロアが歩み出てきた。
そこでふと思った。
僕を気に入ってもらえるかな?
ブロークンポーは心配になった。
前に立った雄の戦士はライオンのように気高そうで、話しかけるに話しかけられない。
だが、自分に向けられたシンバズロアのあたたかいまなざしを見て、ほっと安堵のため息をもらした。
「俺も初弟子だ、ブロークンポー!お互い教え合うことがたくさんあると思うが、よろしくな!」
シンバズロアが明るく話しかけてきて、思わずはにかむ。
「よ、よろしくお願いします!頑張ります!」
シンバズロアは力強くうなずいた。
太陽の光に、シンバズロアの黄金色の毛が輝く。
今日からこの猫と訓練をするんだ!
そう思うとわくわくが止まらなくなった。
「全員命名し終わったな?解散!ブラックストームは狩猟部隊を率いてくれ!モリー、たのむぞ!」
ブラックストームとモリーはうなずいた。
「今日は何をするんですか?」
ブロークンポーは待ちきれずにシンバズロアに聞いた。
「そうだな…よし、ファイヤペルト!」
弟子と話していたファイヤペルトが顔を上げた。
「なんだ、シンバズロア?」
「一緒に境界線のパトロールに行かないか?弟子を連れて!」
ファイヤペルトはちらっとヘザーポーを見やり、「ああ、行こう!こいつらも早く境界線を覚えたほうがいいからな!」と答えた。
シンバズロアは目を輝かせ、ブロークンポーに「じゃあ、そういうことで」と言った。
ブロークンポーも目を輝かせ、「もう行くんですか?」とたずねた。
「ああ、お前やファイヤペルト、ヘザーポーが準備できているならな」
ファイヤペルトとヘザーポーがうなずき、ブロークンポーが最後にうなずいた。
「よし、行こう!」
四匹は連れ立ってイバラのトンネルを抜け、空気のひんやりとした森へ出た。
さあ、冒険の始まりだ。
まだ出たことのないキャンプの外へ、足を踏み出す。
やわらかい土が肉球に触れ、思わず足を引っ込めた。
四匹は森に飛び込み、境界線へと向かった。
ああ、楽しみでたまらない。
僕はきっと部族で一番立派な戦士になって見せる!


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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Mon Nov 20, 2023 7:45 pm

第八十三章
やわらかい日差し。
若葉の季節の新しい空気。
植物の新芽のにおい。
そばを通ったのは、口いっぱいに薬草をくわえたチャコールフェザーだ。
「チャコールフェザー、今年はたくさん薬草がとれそうかい?」
チャコールフェザーがこちらに目を向け、うれしそうにファイヤペルトに返した。
「ああ、そうだな!イヌハッカもどんどん成長しているよ!」
そう言って弟はもう一度薬草をくわえなおし、看護部屋へ歩いて行った。
ファイヤペルトはため息をついた。
弟子をとってもう一週間か…
ヘザーポーもだいぶ力がついてきた。
あの子はすばしこく、狩りも戦いもこの上なく成長が早い。
「ファイヤペルト!」
弟子について考えていると、ヘザーポーがやってきた。
「今日は何をするんですか?」
目はキラキラと輝いている。
「うーん、そうだな…よし、狩りへ行こう。ジェードフロストとホワイトポーを誘うのはどうだい?」
すでに輝いていたヘザーポーの瞳が、いっそう明るく輝いた。
「本当ですか?呼んでこようっと!」
ヘザーポーはぴょんぴょん跳ねながら見習い部屋へ向かった。
ヘザーポーが見習い部屋に頭を突っ込み、もう一度抜け出してからすぐホワイトポーが出てきた。
ホワイトポーはヘザーポーと二、三言かわし、すぐに戦士部屋に向かった。
ジェードフロストを呼んでくるのだろう。
ヘザーポーがまたぴょんぴょん跳ねながら帰ってきた。
「伝えてきました!」
「ああ、分かったわかった。いいからウサギみたいにぴょんぴょん跳ねるのをやめろ」
ファイヤペルトはいたずらっぽく目を輝かせて言った。
しばらくするとホワイトポーとジェードフロストがやってきた。
「狩りに行くの?どこへ行く?オークフロク?小川のそばでもいいわね…」
ジェードフロストは来るなり元気に話し出した。
「そうだな…今日はあたたかいから、小川のそばにたくさん獲物が集まるんじゃないかな?」
ジェードフロストは満足したようにうなずいた。
「そうね。じゃ、行きましょ!」
ジェードフロストの言葉を合図に、四匹はイバラのトンネルを抜けた。
四匹はしばらく走った。
一番足の短いヘザーポーが少し遅れてくると、ファイヤペルトはそっとつついて早く走るよう促した。
ずいぶん体が温まってきた。
だいぶ走ったし、もう着くかな。
そう思った瞬間、四匹の猫の足音に紛れて小川のせせらぎが聞こえてきた。
ジェードフロストが立ち止まったので、みんなも立ち止まった。
「着いたわ。さあ、獲物を探しましょう」
そう言って、ジェードフロストはホワイトポーとヘザーポーに問いかけた。
「何か獲物のにおいはする?」
二匹はあたりのにおいをかいだ。
少し間が空き、少し年上のホワイトポーが口を開いた。
「リス」
ヘザーポーも顔を上げた。
「ええ、リス!もちろん私はわかっていたわ。だってこの辺りにはたくさんリスが     
「ああ、わかっているよ。そうだな、リスがいる」
ファイヤペルトはおかしそうにひげを震わせ、弟子の口をしっぽでふさいだ。
「私が先に捕る!」
ヘザーポーはファイヤペルトのしっぽを振りほどき、走り出した。
「気をつけろよ!あまり遠くに行くな!」
ファイヤペルトは後ろから叫び、歩いてついて行った。
そこでふと思いだした。
あっちの方向には確か…
「ヘザーポー…?」
ヘザーポーのはしゃぐ声しか聞こえない。
「ヘザーポー、止まれ!」
        何が起こったのだろう?
決して良いことではない。
遅かった?
間に合わなかった?
ファイヤペルトの立っている地面がぐらりと揺れたかのように感じた。
自分に聞こえるのは、三匹の猫の悲鳴だけ。
ヘザーポーの悲鳴は、遠くなっていく。
ジェードフロストとホワイトポーが驚きの混じった悲鳴を上げている。
やがて、鈍い音とともに悲鳴が止まった。

ジェードウィング
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Road of love ~それぞれの恋の道~ 第七章~ - Page 4 Empty Road of love ~それぞれの恋の道~

投稿 by ジェードウィング Wed Nov 22, 2023 6:38 pm

第八十四章
な…何が起こったんだ…?
「ヘザーポー?」
ジェードフロストが蚊の鳴くような声で言った。
「あの子はどうなっちゃったの?」
ファイヤペルトは首を振った。
「わからない」
ファイヤペルトは恐る恐るヘザーポーの落ちた場所に近づいた。
やっぱり。
もしかしてとは思っていたが、そこは前にジャギッドクローを飲み込んだ地面の裂けめだった。
その裂け目は、猫が一匹落ちるくらいの大きさは十分ある。
あの子はこの中に落ちたんだ…!
ファイヤペルトは地面がぐらりと揺れるような感覚を覚えた。
どうしよう…
ファイヤペルトは、とにかく呼びかけてみることにした。
「ヘザーポー?大丈夫か?返事ができるなら、何か言ってくれ」
しばらく待った。
すると、かすかなうなり声が帰ってきた。
「生きているわ…!」
ジェードフロストが少しの希望に目を輝かせた。
「助かるかもしれませんよ!」
ホワイトポーが真剣なまなざしでファイヤペルトを見つめた。
ファイヤペルトはうなずき、そして首をかしげた。
「どうしたら助けられるだろう?」
「そうね…」
ジェードフロストはあたりを見回した。
「太いつるがあったらいいんだけど…」
この辺りにはないようだ。
「どのぐらい深いかわかりませんね。中は真っ暗かも。なにも見えないかもしれませんよ」
ホワイトポーが不安そうに言った。
「確かに、そうだな。どのくらいの深さかわかればいいんだが…」
ファイヤペルトは割れ目を覗き込み、話しかけた。
「ヘザーポー?」
うなり声のような声が返ってきた。
「…なんですか…?」
「どこかけがをしたのか?中は真っ暗か?」
しばらくし、また声が返ってきた。
「真っ暗です。あと、足が動きません。……右足です」
ジェードフロストの身がこわばった。
足が動かない…か。
「だいぶ深いの?」
「はい」
ジェードフロストの質問に答えるヘザーポーの声は、少し苦しそうだ。
「ヘザーポー、待っててくれ!きっとファイヤペルトが助けてくれるよ!僕も手伝うから、君も頑張って!」
ホワイトポーがヘザーポーを励ました。
ファイヤペルトが助ける…か。
どうしよう?どうしたらいいんだろう?
ほかの戦士ならどうするだろう?
     ほかの戦士!
そう、それだ!
どうして考え付かなかったんだろう?
「ホワイトポー、急いで戦士を呼んで来い。多いほうがいい…できれば族長にも伝えてくれ」
ホワイトポーはうなずいた。
「見習いたちはどうしますか?」
ファイヤペルトは考えた。
「うーん、じゃあ…見習いも呼んできてくれ。励ましてくれるだろうからな。だが、きっと詳細は族長がご判断してくださるだろう」
ホワイトポーはちらっと振り返り、小声で「行ってくるよ。待っててね」といった。
ジェードフロストは割れ目のふちにかがみこみ、こう言った。
「すぐにホワイトポーが助けを呼んできてくれるわ!もう少しだけ頑張って       
その瞬間!
ジェードフロストが立っていた裂け目のふちが崩れ、ジェードフロストは悲鳴を上げながら落ちていった。
ホワイトポーは自分の指導者が落ちていくのを恐怖を浮かべた真ん丸な瞳で見ている。
「助けて!」
「姉さん!」
そしてまた、猫が地面に打ち付けられる音と、見習いが驚いたように悲鳴を上げるのが聞こえた。

ジェードウィング
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